王子隊へのお膳立て回となった日から2日後、俺は街に出て散歩に出ていた。
・・・嘘じゃないよ?帰れなくなったわけじゃないんです、ただ知らないところに着いてしまっただけで・・・。
ほら、ボーダー本部ってここからでも見えるくらいにはでかいし、いざとなればそこに向かって直進すればいいだけで・・・。
いやしかし、2時間くらい歩いてるはずなのに一向に着かないんだな・・・これが。
あ、はいごめんなさい、嘘吐きましたどうも迷子です、助けて下さい。
・・・?おっと着信だ、あれ?アヤからだ。
「はいはいもしもし」
「お疲れ様です、先輩。急に申し訳ないんですが今から嵐山隊の隊室に来れたりしませんか?」
「ん?何かあったの?」
「以前お話させていただ事なんですが・・・今、仕事が重なってて書類仕事まで手が回らなくて・・・。手伝っていただけないでしょうか!!」
あーなるほどね、うんうんなるほど。
「手伝うって言った手前、何とかしてあげたいのは山々なのですが・・・」
「何かご都合が悪かったりしましたか?」
「いえ、ただの迷子です。寧ろ俺を助けてください」
「また1人で出歩いたんですか!?」
アヤの声が一段と大きくなる、ごめんね懲りない先輩で。
「ふむ、さっきから本部に向かって真っ直ぐ歩いてるはずが・・・何故か辿り着けないんだよね。忍田さんにお願いして誰か派遣してくれない?」
「わ、分かりました。場所を教えてください」
「・・・えーっとね・・・・・・近くにあるのは和菓子屋だね」
「和菓子屋?もしかして【鹿のや】ですか?」
「いや、違うねぇ。・・・【夢見堂】って店、俺も初めて見たわ」
「【夢見堂】・・・ですか?聞いたことないお店ですね」
「他には特にお店はないかな」
「分かりました、すぐ向かってもらいます」
「はーい、お願いしまーす」
電話が切れ、そのまま携帯をポケットにしまう。
「っと、そうだ」
俺は再びポケットから携帯を取りだし店の写真を撮る。
「これでよし、せっかくだから何か買ってこ」
改めて携帯をしまい、店の中に入る。
「ほぅ・・・思ったより色々売ってんね」
俺は嵐山隊への差し入れに栗饅頭を2箱、迎えに来てくれる人の為に大福を1箱購入しようとレジへ持っていく。
そこでようやく気づいた、あれ?俺以外誰もいなくない・・・と。
辺りを探してみるも客は愚か店員すらおらず、なんだか不穏である。
するとレジのテーブルに何かあればお呼びください、と書かれた書置きがありその上にベルが置いてあった。
俺はそれを鳴らす、カーンと音が鳴り響くが誰も来ない。
もう一度ならそうと、再び手をかける。
「・・・いらっしゃい」
「ピャァアアアア!?!?」
急に背後から声がかかり、俺は過去一高く大きい叫び声を上げた。
「・・・おやおや。驚かせちまったねぇ・・・」
振り返ると小柄なお婆さんがそこに立っていた、俺は男の割に身長が高くない。その俺の半分くらいの背丈であった。
「フォッフォッフォッ・・・すまんねぇ、久方ぶりの客じゃから少し驚かせみたくなってのぉ・・・」
まだ心臓がバクバクと鳴っている、本当に寿命が縮む思いだった。
「・・・い、一体いつからそこに・・・」
俺は実家の道場で幼い頃から父に指導されてきた。
その中に気配を探る技術もあり、俺は離れた人の気配を全て察知することが出来る。
その俺が感じ取れなかったのだ・・・このお婆さん見た目以上に相当な強者だ。
「・・・種も仕掛けも秘密じゃ、まぁそんなものはありはせんがのぉ」
お婆さんは3つの箱を手に持ちレジの方へと歩いていく。
・・・ん?3つの箱?
「あれ!?俺の持ってた箱が!?」
「・・・注意力散漫じゃて、まだまだ青いの・・・小童」
マジで何者なんだ、このお婆さん・・・!!
「・・・全部で3341円じゃ・・・払えるかの?」
「・・・5000円でいい?」
「・・・それじゃあ1659円のお釣りじゃ、無くすんじゃないぞ」
「そこまで子どもじゃないんだけど・・・」
俺はお婆さんからお釣りと菓子を受け取る。
「・・・気をつけて帰るんじゃぞ小童」
「・・・はーい、また来ますねー・・・」
「・・・フォッフォッフォッ、素直な童は好きじゃぞワシは。・・・まぁ二度と此処には来れぬがの」
「ん?何か言った?」
「・・・なんでもないわい」
こうして俺は店を出てボーダー本部へ向けて歩いた。
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数分歩いて俺は大事なことに気づいた。
「あれ?これ店から離れたの不味かった?」
アヤには電話で【夢見堂】の存在しか伝えていない、つまりお迎えが来るのは【夢見堂】付近になるわけだ。
俺が離れてしまったのでお迎えは【夢見堂】に行っても俺がいないことになって・・・。
「戻りたくても戻れないしな」
俺は方向音痴の迷子野郎、行きたいと思ったところにたどり着けるわけが無い・・・知らないところは特に。
「仕方ない、電話で今の位置を・・・あれ?」
俺は携帯を取り出してふと、疑問に思った。
「俺、電源切ったっけ?」
起動してみると普通に着いたし充電も半分以上残ってる、自然に消えるわけが無い。
携帯が着き、画面を開くと何十件もの電話が鬼のようにかかっていた。
アヤを始め、嵐山隊の皆や他の隊の子たち、更には忍田さんからも電話がかかってきてた。
俺はアヤに向けて電話をかける、すると数秒もせず繋がった。
「覡先輩!?やっと繋がりました!!今どこにいるんですか!!」
電話越しでわかる、すごい怒ってはる。
「ごめんごめん、電話の電源切れててさ。消した覚えはないんだけどね」
「・・・それで、今どこにいるんですか?」
電話越しでも分かるムスッとした声を聞き苦笑いしながら俺は辺りを見渡した。
すると見覚えのある看板が視界に移る。
「・・・ええっとねぇ、お!東さんや二宮さんたちがよく来てる焼肉屋さんが近くにある」
めっちゃ知ってるとこじゃんラッキー、と思ってると綾からの返事が無い、どうしたんだろうか?
「あれ?アヤ、どうしたの」
「先程は【夢見堂】というお店にいらっしゃるとの事でしたが」
あぁなるほどそういう事か。
「いやーさっきまでいたんだけどね、店入って色々あったから忘れちゃってたんだ。ブラブラと歩いてたら気づいてね、それで電話かけたとこ」
「・・・・・・」
あれ、返事が無い。
これ、もしかして相当怒ってはります?
「・・・分かりました、今迎えの方にお伝えしておくので
「え?いや、流石にここからなら帰れるし、いいよ別に」
「何かおっしゃいました?」
「なんでもありません!!指示通りここで待機しますマム!!」
お婆さんとは別ベクトルでアヤの声が超怖かった。
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そのご指示通り待っていると車が近づいてくる、フロントガラス越しに見えるその姿は我が師【忍田真史】さんだ。
遠目でもわかる、あれは相当キレてるぞ・・・俺死んだかもしれない・・・。
不本意ながら“死神”と呼ばれる俺をここまで怯えさせれる忍田さんは“魔王”と呼ぶに相応しいだろう・・・・・・。
地獄への運搬車が俺の目の前に止まり、中から鬼の形相の魔王が現れた。
俺は逃げも隠れもせず静かに正座をする。
「覡・・・」
「はい・・・」
「嵐山隊の業務を手伝った後、反省文を提出するように・・・」
「了解しました・・・」
魔王には逆らわない、物事を穏便に済ませるための最善の選択である。
その後俺は本部へと連れられ色んな方にお叱りを受けたあと、お土産を渡した後嵐山隊へ加勢に向かった。
書類整理を進めていると、ふとアヤが口を開く。
「そう言えば覡先輩、先程仰ってた【夢見堂】の事なんですが・・・」
「ん?【夢見堂】がどうかした?」
「いえ、先程先輩に店の名前を聞いたあと場所を調べたのですが一件も情報が出なくてですね」
「・・・え、嘘・・・?」
「ホントです、ですから所在がわからなかったので何度も電話をかけたのですが・・・」
「・・・あ、すいませんでした」
しかし、調べても出てこない店か・・・。
「味は美味いし話題になってもおかしくないと思うんだがな・・・」
「ジュンもそう思う?」
「何か写真とかとってないんですか?」
藍にそう聞かれ、写真を撮ったことを思い出し携帯を開く。
フォルダから写真を探すが【夢見堂】の写真は無く1枚だけ真っ白に染まった画像があった。
「・・・おかしいなぁ、写真が撮れてない?」
「ブレてる訳でもなく、真っ白なのは少し奇妙ですね」
「トッキーもそう思う?・・・個人的にはもう1つおかしい点が」
「何がおかしいんだ?」
「アヤにもサラッと言ったんだけど俺店に入る前に電源切った覚えないんだよね・・・、でも実際は電源切れてるし・・・。普段から電源とか着るようにしてたら無意識でやったかもしれないけど、普段から電源切ったりしないし・・・」
「ふむ・・・それは確かに・・・」
「覡先輩が方向音痴でなければもう一度その店に行けたかもしれないですけど・・・」
「方向音痴でごめんなさい・・・」
それは言わないで・・・木虎。
「まぁ別に問題があるわけじゃないですし、もういいんじゃないっすか?」
「そっかァ・・・あのお婆さんにもう1回会ってみたかったなぁ」
「確か・・・覡の気配探知にも引っかからない、荷物をいつの間にか取っていた凄腕の御仁・・・だったか・・・」
「超怖かったよ、悲鳴あげちゃったもん」
『聞いてみたかった(です)』
「おい?」
その後、仕事を終え反省文を終え、一日が終わった次の日更に奇妙なことが起きた。
俺も俺が話した皆も店の名前は忘れていた、白塗りの写真もお土産の菓子のゴミも姿が無かった。
そして次第に・・・・・・