それはとある昼頃のことだった、太陽は雲に隠れ春になったのに少し寒い日がずっと続いている。
ここ三門市にもその影響は勿論あり
覡はS級隊員であり部隊を持たない、更に言えば三門市出身であるので寮住まいでも無くプライベートな空間がないのだ。
のでこういった場合には他の隊室にお邪魔して、暑さもしくは寒さから逃げているのだ。
今日彼は暖房のみならず炬燵も設置されている影浦隊にお邪魔していた、
因みに隊長である影浦雅人はランク戦に赴いておりこの部屋にはいない。
「そういえばさ前から思ってたんだけど・・・」
覡が思い出したかのように話題を振る、ユズル以外の2人はなんだなんだと覡に視線を移した。
・
・
・
「どうでもいいかも知んないけどヒカリちゃんの“仁礼”って凄い縁起いいよね」
「ホントいきなり何の話?」
興味なさげだったユズルがメンバーの話に反応し聞き返してくる、ゾエは首を傾げ、ヒカリちゃんは
「おい、いきなりなんだよ~///」
と、炬燵から出て俺の背中をバンバン叩き出す。
「いやね?南総里見八犬伝って知ってる?江戸時代後期に書かれた小説なんだけど」
3人とも首を傾げる。
「名前くらいなら・・・」
とゾエの声、2人は一切知らないようだ。
「話の内容は省くけど、話の中に仁義八行の玉っていう数珠の玉が出てくるんだけどそれが8つあってそれぞれ仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌の文字が刻まれてるのね?そのうちの2つ“仁”と“礼”がヒカリちゃんの苗字になってるからすごい縁起がいいなぁと」
話終えると暫し静寂が起きる、3人とも口を開けてこちらを凝視したままだ。
「え?それだけ?」
ユズルは中々辛辣である、仲間のことの話なら盛り上がるかなぁと思ったんだがそうでもなかったみたいだ。
・・・彼だけだが。
「おいユズル!それだけ?とはなんだ!!私の名前の凄さが知れた超いい話だったじゃねぇか!!」
「いやぁ知らなかった、ヒカリちゃん凄いねぇ」
2人は盛り上がってくれた。
「因みに“仁”は仁愛のことで他人に対する親愛の情・優しさを“礼”は宗法のことで社会の安定をもたらす守るべきものや人間のあり方として訓練されるべき規範を意味しているらしい。“仁”やあと他に“義”を美的に着飾るのが“礼”で不可分のものって書いてある」
「・・・スゲェな、アタシの名前大絶賛じゃん!!」
「そう聞くとヒカリには全く当てはまってないね、真反対も良いとこじゃない?」
「何だと!?生意気言う口はこれか~!!」
そう言ってヒカリちゃんはユズルを捕まえ両頬をつね始める。
痛い⋯と口にはするもののいつも通り少し仏頂面のユズル。
「⋯⋯やっぱり影浦隊って他の隊に比べて家族感強いよね」
「⋯今度は何の話?」
ゾエがヒカリちゃんを止めたことにより自由になったユズルがまたもつまらなさそうに聞いてきた。
「例えばボーダーの現役隊員としては最年長の冬島さんはマキと12歳離れてるけど、マキが傍から見たら部隊の主導権握ってるように見えるよね?トーマは部隊の中じゃ末っ子って感じはあるけど冬島さんとマキはそういうの当てはまんない感じがするんだよ。東さんはお父さん感あるから一見それっぽいけどメンバーが微妙、人によっては離婚して親権を得た東お父さんと子どもたちに見えなくもないのよ。でもやっぱり1番家族っぽいのは影浦隊だよねって意見結構多いんだよ?」
「あんまそーいうの意識した事ねーけどな」
「じゃあ皆的にはどう?この話知って、誰が何役ってイメージ湧く?」
そう聞くと少し考え出す面々。
「まぁ当然ユズルは末っ子だよな、年齢的にも」
「それは確かにそうなるよね」
「⋯⋯」
「まぁアタシが母親でゾエが父親、カゲは⋯兄かペットじゃねーか?」
「ヒカリが母親?⋯イメージ湧かないんだけど」
「いっつも私がお前ら世話してやってるじゃねーか!てゆーかアタシ影浦隊の紅一点だぞ!どー考えてもアタシが母親だろ!!」
「俺としてはカゲさん父親、ゾエさん母親、俺とヒカリが子どもってところじゃない?」
「アタシが子ども!?」
「ゾエさんがお母さん!?」
「カゲさんではなくない?ならゾエさんはどう思うの?」
「うーん、ゾエさん的にはカゲが子どもを怒るお母さん役でゾエさんがそれを宥めるお父さん⋯ヒカリちゃんがお姉ちゃんでユズルが弟って感じかな?」
「はぁ~!?何でアタシが子どもなんだよ!!」
2人の意見に納得がいかないのか炬燵をバンバンと叩くヒカリちゃん。
「一応賛同してくれたみんなに聞いた感じだとユズルの言ってた配役が1番投票数多かったよ、2番目にゾエの奴、ここ2つはかなり僅差だったかな。ヒカリちゃんのは⋯⋯⋯無いこともなかったよ」
「つまりめっちゃ少なかったってことじゃねーか!?」
思った以上の盛り上がりを見せた【影浦一家】の話題、その後も10分くらいこの話題が続いていた。
そして暫くすると隊室の扉が開き、彼らの隊長が帰還した。
「お、お帰りカゲ」
「やっほ、邪魔してるよ」
「あ、ナギさん!何すかあの動画!!」
恐らく以前に拡散したイヌの動画だろう、少し不機嫌そうだ。
「あらら?面白くなかった?」
「その逆ッスよ!何で現場に呼んでくれなかったんすか」
「そっちかぁ~、読んでも間に合わなかったでしょ」
「あーあれね〜、犬飼には悪いけどゾエさん笑っちゃったー」
「荒船や鋼たちも腹ぁ抱えて笑ってましたよ」
そりゃあ良かった良かった、拡散したかいがあったというものだ。
これを機にイヌは今後一切俺をからかうのをやめて欲しいね。
「?さっきからなんの話ししてんだおまえら」
「あれ?ヒカリちゃん⋯とその様子じゃユズルも見てない?カゲ・ゾエどっちか動画見せたげてよ」
「ゾエさん、犬飼に頼まれて動画消しちゃったからカゲ見せたげてよ」
「あぁいいぜ、犬飼のヤローの間抜けな姿をとくと見せてやるよ」
その後ヒカリちゃんは勿論、ユズルも例の動画で笑ったのは言うまでもなかった。
そしてコミュ強のヒカリちゃんがそれを広めるまでそう時間はかからなかった。