How To Happy End   作:ニガッキ

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「面白いことになってるね」

「ッボス!」

 

九井と望月はほとんど同時に立ち上がった。一旦事務所に引き返してそこでモニターを見ていたのだが、内容が内容ゆえ神経をこれでもかと尖らせていたためである。

 

「三途はまったく、どこで嗅ぎ回ってたのか。驚いたよ、本当」

「……ボス、三途に本名教えてたのか」

「アァ昔ポロッとね。詰めが甘かったな」

 

珍しいことに望月がボヤいた。そんなに意外だったのだろうか。いや、まあそうだろうな。10余年来の主従関係の中でボスがたった一度も漏らさなかった情報を、同僚が持ってるとは思わなんだ。

 

「ズリぃ」

「不可抗力ってやつサ。あンときはまだ全然信用されてなかったんだ。覚えてるとは思ってなかったけどなァ。あれ以来一回も呼ばれたことはなかったし」

「それはそうだろうよ。オレだってそうするさ」

 

九井はパサついた髪を利き手で掻き上げると後頭部の辺りでぐわッと頭皮ごと鷲掴んだ。そのまま上下にガシガシと髪を振り回すと、眉間に皺を寄せて大きなため息を一つ吐いた。

 

「いいか?オレたちはずっとアンタの特別になりてェんだ。他のヤツらが知らねェようなこと知ってたらそりゃ黙って取っておくに決まってる。少しでも他のヤツらとアンタを遠ざけておきたいからな」

「健気だな」

「わかってんならもうちっとオレたちの情緒を気遣ってくれや。今オレは驚きと歓喜と三途への怒りと嘲りとで交感神経が刺激されて途方もないんだ。さらに諦念も加える気か?」

「まだ頑張れるだろ、ノルアドレナリン」

「いっそ殺せ……」

 

とうとう両手で顔を覆ってソファに座り込んだ九井はいつになく興奮状態にあった。いつも血色の悪い目の下の辺りがほんのり色付いて、健康的な色気を醸し出した。

 

「どうする気だ?ここまで来たら放っておくのは無理だろう」

「おれに接触する気なら多少痛めつけて追い返すけど。辿り着けるならね」

「痛めつけるだけじゃ足りないだろ、アイツはしぶとい上にしつこいぞ」

「殺すわけにもいかんだろ」

「なんでだ?」

 

望月は至極当然のように首を傾げた。梵天は殺しも脅しもその他後ろ暗いことの何でもやっている

ので今更何を躊躇うのか、もっともな疑問である。

 

「そうじゃねェと終わんないだろ」

 

もういい加減、未来を歩きたいだろう。花垣は純粋にそう思うわけだ。花垣武道の半生を己はよくよく知っている。愛する女を救いたい一心で歯を食いしばって立ち上がる様はただひたすらにまっすぐで純で、誰もが痺れるような折れない1本の信念があった。

それを見て知って、己は思わず笑い出してしまうくらいに応援したくなったのだ。もう関わるつもりはなかったのに、そこまで本気なら仕方ないなと重たい腰を上げたのである。

だからこそこれが最善であると信じて疑わないし、関わりのありそうなヤツらを殺すわけにもいかないのだ。

 

しかしそれを伝えることも出来ないので花垣はただ黙する。仏の笑みをたたえるのである。

 

「その顔は反則じゃねぇの。なンにも聞けなくなるだろ」

「Exactly」

「IQ上げんな」

 

バカ丸出しで鼻白んだ九井に、望月は「どういう意味?」と言いづらそうに尋ねている。ワル語録とスラングなら一問一答で右に出る者はいない望月も、高等教育のラスボス・英語には弱いのである。九井は意味を解した上で反射神経で返事をしていることを望月はきちんとわかっていた。

 

「なンにも聞くなッてよ。いつも通りさ」

「そうか」

「少なくとも梵天にとっちゃ些事だ。おれの素性も、三途の生死もな。わかるだろ」

「……アァ、そうともボス」

「生きてても死んでてもどっちでもいいなら、殺す必要もないだろう。ほっとけよ」

「結局三途の出方次第だな」

「ま、そらそうな」

 

当然というように鷹揚に頷く花垣を、九井と望月は何とも言えない気持ちで見つめた。一体いつまでおあずけをくらうのだろう。約束なんてされていないが忠誠を捧げばいつかは、と思わないでもないのだに。まあそれすらもこの男の魅力の一つになってしまうのだから詮方ないのである。

 

……

 

乾青宗は静かに目を見開いた。S・SMOTORSで働き始めて初めての出来事が起こったからだ。いや、あの決別以来のことである。

 

「ココ…」

「……」

「久しぶりだな、どうしたんだ?」

「イヌピー、佐野真一郎はいるか?」

「え、あぁ、あっいや今出てる……」

「そうか。ここで待ってもいいか?」

「あぁ…」

 

乾は作業道具を置いてボトルクレートを逆さにして椅子替わりに出してやる。九井はそれに短く礼を言って乾の方を向いて座った。

 

乾は九井が非常に焦っていることが手に取るようにわかっていた。そしてまたしばらく見ぬ間にずいぶんやつれた。元から無茶をするきらいのある男だったが、さらにそれが顕著になったのだろうか。別々の道を歩むと言った手前それを妨げる真似など無粋だが、昔から無理を押し通すこの男を止めようとする存在は数える程だった。せめて体調を気遣うくらいは許されるだろうと乾は寝板の上に胡座をかいて口を開いた。

 

「大丈夫か?」

「大丈夫そうに見えるか?」

 

九井はぶっきらぼうにそう言ったっきり、開いて揺すっていた膝すらも止め、重ね合わせて無機物に模した。乾は意外な成り行きに憮然として鈍くまぶたを閉じては開く。

 

「見えないけど……」

 

咄嗟にそうは言ったものの後に続く言葉を考えあぐねて口を噤もうとした乾は、九井が少しだけ聞く耳を持った反応を示したのを見逃さなかった。目が合っただけの話だが、己は間違いでこの男と目が合うことはないと知っているので。

 

「ちょっと愉しそう…?」

 

とうとうピクリともしなくなった九井を見て、乾は冷えた工具を手の中で転がした。アプローチを間違えたかもしれない。けれどもさらに言い募っては動かなくなったこの男をさらに追い詰めてしまうにちがいない。乾は善意で目を合わすのを止めて、手慰みにバイクをいじった。

2人の間に二、三度ゆるんだ風が吹いたあと、乾の背中にコツンと咳みたいな笑い声が一つぶつかった。

 

「ハッ!アァ……そうさ、愉しいよ」

 

ほとんど吐き捨てるようにちぐはぐにそう言い放って、噛みしめるようにくしゃりと笑う。その顔があんまりに苦しげなもんで言わなきゃ良かったかしらとチロチロ揺れる白色を見た。自分もまた、臆病なのだ。乾のよく知る頃は艶のある黒髪だったそれも、随分傷んでしまっているようだった。知らぬ間のその移り変わりを知りはしないが面影を残す髪型だけがかつての九井の部分なのだろう。

……そこに入れ墨を見つけてしまってはもう、あの頃の九井などどこにもいないのかもしれない。ずいぶん時間は経ったし、乾自身ですら変わっていった。そうせざるを得なかったこともある。乾ですらそうなのだからもっとシビアな世界にいて九井が変わらないなんてハズがない。生き抜いていくための、根本的な変化を九井はきっと受け入れられているのだろう。それはきっと乾と九井の2人にとって悪いようにはならないのだ。前進と自立を是とする場合には。

 

「オレを捨てたこと、後悔させてやる」

 

ふつふつと煮詰めた怒りを静かに顕にしながら一つ一つはっきり発音していくのを尖った喉仏の上下で聞いた。九井は相当頭にきているのだろう。

 

「オマエを捨てるだなんてずいぶん景気がいいな」

「全くだ。とんだ皮肉じゃねェかクソっ」

「ソイツはシンプルだったのか?」

「まさか!何一つだってわかりゃしなかったよ。あんなに熱烈に誘い出したくせして、別れ際に次の約束の一つも取り付けてくれやしない」

「良かったじゃねェか」

「……約束なんてするもんじゃねェッてのは言われたぜ。その通りだとは思ったけどな」

 

果たせなかった大きな約束があってから九井が出来もしない約束を好まなくなったのを乾は良く理解している。そりゃあ慎重にもなろう。約束が破られるたびに人生を狂わすほど愛しい人がチラつくのだ。早々に参るに決まっている。

 

言葉を発しかけて止まったみたいな不安定な沈黙が落ちて、存在を確かめ合うようにまっすぐ互いを見つめた。

ジッ、と言葉を探していた九井が少しだけ息を吸ってから照れたときのように目を逸らした。

 

「イヌピー、あのさ……」

「ン?なんだぁ客か?」

「真一郎くん」

 

パッと乾の顔がほぐれる。それにつられて九井もふらりと振り返った。己の待ち人の顔を拝んでやろうと無警戒の動作だった。

 

「ハ、ボス……?」

 

九井は驚きで息を止めた。何の因果か佐野真一郎は我が敬愛すべきボスと瓜二つだったためである。

 

……

 

花垣は海を背に煙草を蒸かす男に向かって言葉を投げた。

 

「どうも助かりました」

「まァ……」

 

軽く目を見張り、まるで信じていない声を出す男に苦笑する。携帯灰皿を尻のポケットから取り出して男の胸前に差し出してやる。男はそれにキャバ嬢の爪ほどの長さを得た灰を落とした。ふんわりしたやさしい手つきだった。

 

「本当です。あなたが動いてくれるかは賭けでしたから」

「抜かせ……アイツから切り始めたのは最初から俺を巻き込む腹積もりだったからだろ」

「動いてくれるかなっていう目論みがあったことは否めませんね…」

「ふてぶてしくなったね、オマエ。もうちょっとかわいかったろ」

「そんなことありませんよ。おれはずっとあなたがたには頭が上がらないのに」

 

本当に長い間、花垣はこの男たちを尊敬している。この人たちがいなければ、という場面が古い過去何度もあったのだ。それを明かすことは決してしないけれど。

 

「でしょう?『軍神』明司武臣さん」

「……オマエだんだん、アイツに似てきたな」

「……そうでしょうね」

 

潮風で錆びた白い柵に身を預ける。花垣とてそれは身に染みて感じていたことだった。それゆえにらしくもなく焦っているのである。早くケリをつけなくては。ハッピーエンドに異分子なんていらないのだ。

 

「だから急がなくてはいけないんです。本当ならあなたも巻き込むべきじゃなかった」

「冷てェこと言うなよ。共犯だろーが」

 

明司がパッケージを揺らして煙草を勧める。花垣はそれを首を振って断った。意外そうに明司の眉が上がり「吸わないの」と尋ねられる。

 

「えぇ、マア。お恥ずかしい話、タバコもピアスもしないと決めていて」

「それはまたどうしてよ」

「今は借りてる身なモンで」

 

明司は鼻で冷えた空気を吸って口から煙を吐いた。肺活量に比例してのびた煙がどぐろを巻く。プカプカ浮かぶ煙を吹き飛ばしたりつついたりして遊んでから、明司はもう一度煙草に口付けた。

 

「わかんねぇな」

「…そうでしょうね」

「秘密主義は苦労が多いぜ?」

「語るに落とそうったってそうはいきませんよ」

「随分ガードが堅いな」

「充分痛い目を見てますから。それにおれは亡霊みたいなもんで、秘密と言ってもそう多くはないんです」

「亡霊ねェ……。どうにかなんねェモンかね」

 

困ったふうに顎をなぞる明司を花垣は首を傾げて見つめた。その仕草に気が付いて、明司はハラリと薄っぺらく笑う。

 

「そう考える癖がなおらないうちはオマエはずっとすれ違ったまんまさ」

「いったい誰と?」

「オマエ自身以外の全員さ。もちろん俺を含めてナ」

「それは……困りますね?」

「なんでちょっと自信なさげなの」

「いやァ、すれ違ったままの方が都合がいいかと思ったモンで」

「まア、後悔したいンならなんも言わねェよ」

 

最後に長くフゥゥと白い煙を細く吐いて明司は煙草の先を潰した。助かったと携帯灰皿を返された花垣は真意の読めない瞳でゆるりと頭を揺らす。

 

「あなたと会うのもこれで最後にします」

 

トン、乾いた地面に落ちた言葉をまじまじと見つめて明司は眉間を揉みほぐした。シワが寄っているわけでもないのでほとんど癖なのだろう。

――いつもそうだ。こういうヤツらは好きなだけ自分の都合で人を振り回してそうして突然突き放す。こっちの気も知らないで。

 

「それを決めるのはオマエじゃねンじゃねェの」

「おれですよ。おれが決めたら誰がなンと言おうとそうするんです」

 

不遜にもそう言い放つ姿は不思議と気持ちの良いもので拍子抜けしてしまう。だから嫌なのだ。結局最後はいつもコイツらの思い通りで。いくら頭を回そうと最後に笑うのはコイツらで、それでも誰も泣かないから何も言えなくなッちまう。

 

「アンタにだっているだろう。心に決めたひと」

「……一人とは限らねェさ」

「いいや一人さ。アンタはそういう男だ」

「オマエがそれを言うの。なンにもわかってないだろ」

「わかるよ」

 

砕けた口調、真っ直ぐな眼差し、纏う空気がひたすら明司をジワジワ恍惚とさせた。なンにもわかっちゃいないよ、オマエ。こんなに己を惹き付けておいてハイサヨナラなんてまかり通るわけがないだろ。すべてを預けた男の生き様を背負って、酸いも甘いも噛み分けた顔した泥中の蓮が、掃き溜めの鶴が、なんのしがらみもなく泥を被るのをどうして放っておくだろう。

どうせ汚れるなら己の爪痕がいい。できるだけ消えないものを、強く深く抉るように、己以外の誰も埋めることが出来ないように。そうして深く暗い奈落の底で一人寂しく蹲るこの男を地上の縁から、こちらもまた、一人きりで眺め続けるのだ。同じ墓穴には入れないから、せめてそれくらいは。

 

「長生きしたいなら、うっちゃっといてくれ」

「それは無理な話だな」

 

明司は笑って目を伏せる。

無理な話だ。この男の墓穴を埋めるのは他でもない俺だのに。そうでなきゃ許せない。こんなにも鮮やかな夢を魅せておいて、その舞台に引き上げておいて、幕引きさえも携わらせないなんて横暴、黙って見てるだけでいると思うか。

 

「なァ?五代目」

 

……

 

許せない。三途の真っ白い肌は憤怒に染まり、青色の血管を浮き立たせた。現在進行形で三途の八つ当たりの標的にされている武道からしてみればその怒りはたまったものじゃなかった。

 

「あの……そろそろ、離して…」

「喋ったらコロス」

「ヒィ、」

 

武道はかれこれ一時間半、三途にひたすら爪を磨かれていた。右手、左手で終わりかと思いきや、突然「脱げ」と言われて身構えればポポーイと靴下を脱がされ両足の爪も磨き始めた三途に武道は終始怯えて従順に爪を差し出していたわけである。爪がなくなるかと思った。お陰様で見事にピカピカにされた自身の爪を見つめながら武道はしょっぱい気持ちになる。

今まで三途のストレスのはけ口にされることに甘んじてきたのは純粋に兄の安否が気になることもあるが、何より三途が酷く不安定なことが気がかりだったからだ。万次郎の話を聞く限り三途は万次郎に近しい人物らしいし、そもそも花垣武道という男はお人好しのきらいがある。「いい未来」の存続のためという口実を得て、イヤイヤと口では言いつつ世話を焼いてきたツケが回ってきただけではあるが、さすがの武道も三途の厄介オタク加減に手を焼いているのである。

 

「三途くん、そろそろ時間だよ!約束は守ろ?」

「……」

「ヒ、ヒナァ〜」

 

がしかしいつの世でも女は強し。橘もとい花垣日向はあらゆる男を黙らせる笑みで三途の手網を握っている。日向の言い分としては「ヒナがダメって言ったらタケミチくんにもダメって言われちゃうでしょ?」らしいが武道にはよくわからなかった。

 

三途がここまで無心に武道の爪を磨いていたのにはもちろん理由がある。突然の解雇宣言から三ヶ月、叩いても叩いてもホコリは出ず、がらんどうのオフィスの扉を蹴破る日々が続いていたからだ。

記憶にある取引現場も空アジトも片っ端から当たってみたが、とうとう今日の現場ですべてを回りきり、まったく足跡をつかめないことを突き付けられてしまったのである。

三途は居候している新婚花垣夫婦の新居でクイックルワイパーのごとくジタバタと床を這いずり回ったあと、悔し涙に下唇をギュウウと噛み締め勤務先のレンタルショップから帰宅した武道を捕まえて今の今まで爪磨きに勤しんでいたのだ。

 

「絶対に協力者がいる。組織の外にだ。チクショウめ!オレのボスだぞ近づくんじゃねェ!!」

「三途くん、夜だから静かにしよっか」

「……」

「兄貴は……。その人は何してる人なの」

「テメェ…」

 

兄と言い淀んだ武道に三途は息の詰まるような静かな目を向けた。おかしな話だが、時間が経てば経つほど武道は自身の兄の存在を疑うようになっていた。それを三途は憐れむような観察するような、恐れるような目で見詰めるのだ。本能にも満たない、小さな小さな勘が次は己の番であると告げているから。

 

「知る必要はねェ。マイキーが許さねェからな」

「本当にマイキーくんが好きなんですね」

「好きとか、そんな次元じゃねェよ」

 

どちらかと言えば信仰に近い。祭り上げて神格化してそしてすべての恩寵を独り占めする。それを本気で夢見ていたし実際にそういった類のからかいを梵天では受けてきていた。その度に三途のピストルは火を吹いていたのだが。

 

「同じくらい、好きでいてくれるの?兄貴、のこと」

「同じかって言われるとそうじゃねェ……別モンだよ。まったく違うぜ」

 

余命を宣告された患者のように儚く笑って穏やかに話をする三途はキラキラしていた。武道は珍しさに目を瞬いて、日向はキャアと小さくこぼして頬に手を添えた。

 

「神さまみてェなモンだけどよ、引きずり下ろしてやるんだよ、オレァ。神聖なままで手放してなんかやらねェ。羽をもいででも手に入れてやる……」

 

ぎらりと劣情を滾らせた瞳は武道を射抜いてその先を見ていた。絶対、絶対にこのままで終わってたまるか。どこまででも追い回して地の果てだとしても探し当ててやる。その執着を日向はニッコリ笑ってこう名付けた。

 

「ステキ。恋してるのね」

 

ぽかんと締まらない顔の男どもを見て日向はやさしく笑いかける。

 

「だってそうでしょう?死んでも手を放さないって、一緒にいたいって思うんでしょ?そばにいたくて、いてほしくて、その人の綺麗じゃないところまで愛おしくて仕方ないんでしょう」

 

日向は「ほら、恋じゃない!」と諭すように手を叩きそのあと武道の方を向いて「ネ」と首を傾げた。それがあんまりにもウツクシかったので武道はなんにも考えずに「ウン」と言った。

そして当事者の三途はといえば。

 

「は……。オレが、ボスに…恋……?」

 

ド派手な髪色に劣らぬほど顔を真っ赤に染め、俯いて正座をした足の上に手をついて汗をかいていた。そのただならぬ様子に武道は慌ててそばによって背を摩ってやる。三途はよくフラッシュバックを起こして暴れ出すので、いつも介抱に回る武道は慣れた手つきだった。けれど此度はなんてことなく、ただ恋を自覚してドギマギしているだけである。恋する乙女の日向にはよくわかっていた。

 

「大丈夫ですか?」

「大丈夫なわけあるか!!」

 

覗き込んで安否を尋ねる武道を押し退けながら三途は元気よく叫んだ。これはいけない。名付けられてしまっては逃げ場がない。認めるしかなくなってしまう。全然大丈夫じゃない。恋をしているだなんてボスに知られたら。

 

「二度と会えなくなるだろうが!!!」

 

ボスは嫌いなのだ。ボスを暴こうとするすべてが。そんなことを知られてしまったら、殺し(会い)に来てもくれなくなってしまうだろ。

 

「それはさ、恋してなくてもじゃない。だって追い出されちゃったんでしょ?」

「ウッ」

「でもそんなの悲しすぎるもの。ね、お願い三途くん。私たちも協力したいの、お義兄さんについてキチンと教えてくれる?」

 

三途はキラキラしい日向の瞳に射抜かれて居心地悪そうにたじろいだ。その時点で決着は着いていることを三途自身がよく知っていた。どこでもそうだ、目力に揺らいだ方が押し負ける。三途の目力に叶う人間はそういないが、こと表社会の純粋な人間のかがやいた瞳に関しては三途はめっぽう弱かった。誰だってそうだろう。罪悪やら疚しさやらを勝手に感じて後ろめたくなるに決まっている。こんな目で見つめられてしまったなら。

 

「誰にも言うなよ、命が惜しけりゃな……」

 

 

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