ネオン   作:アメイジング長なす

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完璧な趣味。お茶でも飲みながら気軽にどうぞ。


大規模侵攻──1

 二月某日。

 

(ゲート)発生、(ゲート)発生大規模な(ゲート)の発生が確認されました」

 三門市で、大規模侵攻が始まった。

 

「まずいな⋯⋯」

 暗黒が支配する空の下で迅悠一はそう呟いた。

 

 未来予知ができる彼が見た未来は──防衛失敗のシナリオばかり。

 街の住人の大量虐殺される未来や、隊員がいなくなっていく未来。

 自分が暗躍しても、それは変わらず。

 むしろ日に日に酷くなりつつある。

 

「考えたくもないけど⋯⋯コレはそういうことかな?」

 しかしわかったこともある。

 ここ数日の予知と、今日のこの予知で迅はあることを確信した。

 


 

「まずは小手調べってことですね? ハイレイン隊長」

 時を同じくして、アフトクラトルの遠征艇にて、アフトクラトルの精鋭達が喋っていた。

「ああ。おまえの言うには、玄界の兵もなかなかやるようだからな」

「それはそれは⋯⋯楽しみですな」

 ハイレインの言葉に、老兵が心からそう言う。

 

「しかし、お前ほどのヤツがそう言うとはな⋯⋯期待してもいいのか?」

「問題ないよ、ランバネイン。きみも楽しく戦える(飛べる)と思う」

 精鋭達の中でも大柄な兵士、ランバネインの質問にそう答える。

 

「ケッ⋯⋯たかだか雑魚トリガーを使う猿どもだろ? おまえの目も腐ったか?」

「エネドラ、口を慎め。一応はソイツも上官だ」

 態度が悪いエネドラを注意する、最年少のヒュース。

 

「確かにエネドラは少しおもしろくないかもしれないけど⋯⋯それにしても一応ってなにさ」

「ヒュースは照れてるのよ。あなたが有能過ぎて」

 一応という言葉に反応をするが、ミラがフォローをする。

 

「違いますっ。オレはソイツよりも有能です」

「ハッハッハ!」

 少し早口で間違えを訂正するヒュースにランバネインが笑う。

 

 

「やることはわかるな?」

「もちろん。ボクが隊長のサポートをして、我々のトリガーと大量のトリオン兵で目的を達成する」

 精鋭達が目を正す。

「今回もおまえを頼りにするぞ──ネオン」

 

「任せてください、隊長」

 ネオンと呼ばれたその兵士は冷たい笑顔を作った。

 

 ◇

 

 ネオンという兵士は齢16歳でまだ若い。だが、それに見合わないほどの、異常な、数々の戦果をあげてきた。

 そして──アフトクラトルにいるサイドエフェクトを持つ兵士の中でも、特異なサイドエフェクトを持つ兵士でもある。

 

 そんなネオンとヒュースが初めて出会ったのは、エリン家でのこと。

 ヒュースがエリン家に拾われて、初めて屋敷に入った時、その子は隅に隠れていた。

「ネオン! 新しい友達だよ」

 当主に言われてしぶしぶ出てきたその子は、大きな分厚い本を抱きかかえていた。

 

「ここで暮らすことになったヒュースだ、よろしく」

「⋯⋯ネオン。よろしく」

 ヒュースの第一印象は『よくわからなくて、脆い』だった。

 ネオンの髪は長い。それに容姿と声も相まって、性別の区別がわからない。

 そして⋯⋯やはりどこか脆そうだ。

 腕を握ればパラパラと塵になりそうで、一人にすると危なそうな子供。それともうひとつ、どこかが決定的に欠け落ちている──それがヒュースの見たネオンに対する最初の感想。

 

「ん? ネオン、もう読み終わったのか?」

「⋯⋯うん、やっぱり本はすぐに終わっちゃう」

 ネオンが当主にそう返答する。

「そうかぁ。やっぱり本は簡単かぁ」

 当主は何故か頭をかかえる。

「⋯⋯ごめんなさい」

「謝る必要ないよ。これは私が悪いって言うか、君がスゴすぎるだけだな」

 ヒュースは理解が追いつかない。

 ──こいつに何が才能があるのですか? 

 

「ヒュース、説明しておくよ。ネオンはね、未来が見えるんだよ」

 ──未来? 

「そ、この子はケシキって表現してる。

 だからだろうね、この子が本を恐ろしいスピードで読み終えるのは」

 なるほど、とヒュースは納得する。

 ──コイツに『脆い』と感じるのはそのせいか。

 おそらく、この屋敷に来る大人の未来をずっと見てきたんだろう。

 見えたのは言うまでもない。

 だから、オレにはコイツの心が欠けているように見えるのだ。

 

「私は今から仕事をするから、ネオンとヒュースは遊んでいいよっていうか、遊びなさい。めいいっぱい遊び倒せるのは今のうちだけだからね」

 そう言って自室に向かう当主を見送った後、オレはネオンに一つ質問をした。

「オレの未来は見えるか?」

「⋯⋯戦ってる」

 ⋯⋯まあ、そうだろう。というか、そのためにオレはここに来たんだから。

「それ以外で──」

「明後日」

 コイツが矢継ぎ早にそう言った。

 

「明後日、ヴィザさんがここに来る」

 ヴィザ翁が⋯⋯? 

「たぶん剣の稽古だと思う」

「⋯⋯おまえもするのか?」

 小さくて、腕を掴めば粉々になりそうなコイツも、木刀とはいえ剣を持って稽古をするのか、とオレは疑問に思った。

 

「⋯⋯わたしは槍だけど、ヴィザさんに見てもらう。ここら辺に槍を使う人はいないから」

 たしかにここら辺の兵士はほとんど剣か銃だ。槍を使う兵士はアフト全域でも少数人、ならば剣の達人に見てもらうのも一つの手だ。

「しかし槍か⋯⋯なぜ槍なんだ?」

「ヴィザさんに槍を勧められたから」

「ヴィザ翁に?」

 剣よりも槍の素質があったのか? 

 ⋯⋯わからない、けど何か考えがあるのだろう。

 わからないことはこれから理解すればいい。

 

 ◇

 

「おい、ヒュース」

 コツ、と頭に柔らかい衝撃が届く。

「小難しいことはボクが考えるから、キミは考え込むな」

「⋯⋯うるさい」

 長いつきあいだからか、コイツはオレが考えていることがわかっている気がする──いや、未来で見たのか、オレがこうなることを。

 まあいい。いつも通り任務をこなして、いつも通り帰ろう。

 

「ネオン」

 ハイレイン隊長がネオンを呼ぶ。

「出番だ。現在ラービットを排除している兵士を殲滅しろ」

「? ボクが前線で戦うなんて、珍しいですね」

 たいていネオンは隠密行動に徹して、敵を視認して見えた未来をオレたちに伝えていた。

 なぜ、この襲撃でコイツを前線に出す⋯⋯? 

 

「おまえが言っていた未来を踏まえて考えてみた。

 やはり一番に邪魔なのは戦闘員、とくにラービットを排除しているヤツらだ。

 おまえはソイツらを殲滅して、当初の目的を果たしやすくさせる。いいな?」

「わかりました。後ほどラービットは二匹ほど使っても?」

「許可する」

「ありがとうございます。では」

 艇にゲートが開く。

 

「ヒュース」

 ネオンがゲートに入る直前、突然、オレの名前が呼ばれた。

「なんだ」

「キミの働きで未来は大きく変わるから、頑張りなよ」

 そう言い残して、アイツはゲートの先に消えていった。

「⋯⋯あたりまえのことを、わざわざ言うな」

 呟きは独白のようで、霧のように霧散した。

 

 √

 

「ここは、ハズレかな」

 どうやらここは商店街らしい。ボクらが攻めてくる前は、活気があったんだろうけど、避難したのか活気がない。

 すまないとは思うけど、コッチもコッチの事情があるんだ。赦してくれ。

 

「さてと、働きますか」

 ボクは仕事に取り掛かった。

 

 ◇

 

 トリオン体で寒さを感じることはない。

 寒さが理由で任務を遂行できなくなるのを防ぐためだ。

 だから。今、彼らが感じている寒さは、冷ややかな殺意からの寒さだろう。

 

「こんにちは、玄界の戦士のみなさん。調子はどうですか?」

 風間隊の彼らの前に現れたその近界民は、まるでお隣さんと話すようにそう言った。

『角が黒色ってことは』

『黒トリガーってことだ。気を抜くなよ』

『わかってますって』

 風間隊は内線で話し合う。

 

「ボクはあんまり前線に立つタイプじゃないんだけど、根暗な上官に命令されてここに来たんですよ」

 その上官に聞かれたら叱られそうなことを言いながら、悠長に喋りかける。

「って、何か言ってくださいよ。これじゃ一人で喋ってるただの変人になってしまうじゃないですかっ」

『菊地原、何か聞き取れればすぐに報告しろ』

『はいはい、わかってますけど、こいつ全然仕掛けて来ませんよ』

 

 一人で喋ってるのに飽きたのか、ため息をつきながら、ネオンはようやく武器を構えた。

 それに反応して風間達も武器を握りしめる。

 ネオンが構えたのは何の変哲もないただの剣に見える。

「三人なら⋯⋯三分以内には片付けたいなぁ」

『来ます』

 菊地原がそう言った瞬間、その通りにネオンは間合いを詰めてきた。

 

 風間は振り下ろされる剣をスコーピオンで弾き起動を逸らす。

 そして、隙だらけとなった横腹に、菊地原と歌川が攻撃しようとした瞬間、ありえない出来事が起きた。

「⋯⋯!?」

 剣が二人のスコーピオンを切り落とし、目の前の近界民は宙に飛び、回転しながら鞭のようにその剣を振り回して攻撃した。

 バックステップで致命傷は避けたが、それでも菊地原は右腕を、歌川は左腕を切り落とされた。

 

『あの剣、蛇腹剣のようですね』

『ああ、そしてあの蛇腹剣は他に能力もあるな』

『防御よりなんですかね』

『俺達の目的をコイツの能力を明らかにすること、可能ならばここで排除することに変更するぞ』

『『了解』』

 

 ネオンは内線での会話が終わったらしい風間隊をじっと見て言った。

「凄いですね。じゃあ、もう少しスピードを上げますよっ⋯⋯!」

 再び間合いを詰めるネオン。

 しかし、今度のネオンは驚きながら、だ。

 一番小柄の戦士がネオンよりも早く、間合いを詰めてきていた。

 そして残り二人は自分の背後に回っている。

(連携プレー凄いな)

 

 背後に回った戦士の1人は、先程の剣を二本をまとめたような剣をネオンに向かって直線上に放つ。

 そして目の前の戦士は一本を自分に向かって投げ、もう片方の剣での追撃の準備をしている。

 背後に回った方のもう一人の方は、もう一人の方と同様の剣を、鞭のようにしならせながら、下から振り上げる。

 並の相手ならば、ここでチェックメイトだ。

 だが相手は黒トリガー──ここで終わる訳がない。

 

 ネオンは目の前の投擲してきた剣を弾き、背後の二本と目の前の剣を、恐るべき速さで伸びた蛇腹剣が切り落とす。

 風間達にはここで誤算が生じた。

 ネオンは身体を宙で回転させながら、背後の髪が短い方の首を蹴った(切り落とした)

 

「!!」

 驚きは誰のものか、今更わからない。

 ──だが、それはここに不要。

 ここに必要とされるものは実力だけなのだから。

 

 回転した身体で蛇腹剣を、竜巻のように振る。

 敵の二人はシールドを二枚使うが関係ない。

 

 ────そのケシキは、もう見てる。

 

 さらに刀身が伸びる蛇腹剣──しかし、この黒トリガーの能力は刀身が伸びていくだけではない。

 

 ──見えた。

 

 風間の防御をすり抜けて、その剣はトリオン供給器官を突き刺した。

「なっ──」

 驚愕する風間を他所にネオンの目は、菊地原を捉えた。

 風間はこれから行われる現実を想像し、最後の抵抗としてスコーピオンを投げた。

「でしょうね」

 しかしネオンはそれも見ている。

 投擲のスコーピオンを弾き、足の裏から伸ばしているもう一方を地面ごと切る。

 

緊急脱出(ベイルアウト)

 残すは菊地原一人。

 しかし、そこで読み逃したのか、予定が狂った。

 当然背中に衝撃が走った。

 ネオンは飛び上がって後ろを確認した。

 

「菊地原先輩っ、早く逃げてください!」

「俺たちが相手だ、近界民!!」

 ネオンが知ることはないであろう彼らは茶野隊。

 

「猛者が来たのかと思ったのに、少しガッカリですね」

 ネオンは容赦なくその剣を横薙ぎ一閃。

 シールドを使用しても、意味がない。

 ネオンがそれを見た時点で、勝敗は決まっている。

 

『菊地原、すぐに撤退しろ』

 不意に、風間から連絡が届いた。

 菊地原は目の前の敵と今後の戦況を踏まえて、その指示に大人しく従った。

 

「チッ⋯⋯やっぱり透明相手にはできないか」

 ネオンの呟きは空に消えた。

 

 

 ──未来の分岐点まであと46分5秒

 

 

 

 

 




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