ネオン   作:アメイジング長なす

2 / 4
弓場ちゃん対二宮さんのタイマンは2万回見る。
私のサイドエフェクトがそう言っている。


大規模侵攻──2

 侵攻直前の一週間前。ネオンは最後の仕上げをすると言って、部屋にこもった。

 ヒュースと主君は仮眠を取らせたり、無理やりにでもきちんとした食事をさせたのだが、この日はヒュースは本部でトリガーの調整、主君も本部で遠征艇などの点検、従者達は暇を出されているので、今屋敷にいるのはネオンのみだ。

 

 ヒュースが本部から出たのは夜の真っ只中だった。

「大丈夫ですか、ミラさん」

 ヒュースと共に屋敷まで歩いているのは、上官のミラ。

「心配いらないわ、ありがとうね」

「本来アイツが届けないといけないので、来なくてもいいんですよ?」

「でも実際私よりあの子の方が階級は上だしね、たまにはこうやって、顔を観に行くのもいいでしょう」

 

 屋敷に近づくにつれて、一つの部屋の明かりが、イヤに目に入ってくる。

 むろん、ネオンの部屋の明かりだ。

「⋯⋯アイツは今何時だと思ってるんだ」

 思わず口に出してしまったのを、ミラは軽く微笑んで、

「心配なのね」

「5日間もほぼ睡眠なしで働き続けてる奴がいたら、誰でも気になります」

「それがかつて敵国の兵士でも?」

 ミラが意地悪な顔で質問する。

 

「おそらくは⋯⋯―待ってくださいっ、アイツはかつて敵国の兵士だったのですか?」

 今度はヒュースが食い気味でミラに問う。

「ただの意地悪よ。第一、あの子が引き取られたのは八歳の頃だから、兵士として働けるはずないのよ」

 屋敷の門をくぐって、ドアの前にたどり着く。

 

 鍵を開けて、屋敷に入る。

「ネオン、ミラさんがお前に用があるから降りてこい」

 声を聞きつけたのだろうか、階段の上からドタドタと、壊滅的な足音が聞こえた。

 

「おかえり⋯⋯ヒュース────ミラさん、もおはようご⋯⋯ざいます?」

 ダメだこのバカ──とヒュースは一人思った。

「もう夜中だ。

 おまえ、昼夜逆転してるぞ」

「頑張って栄養剤だけを頼りに、計画の見直しとか、してたんです」

 ネオンはフラフラとおぼつかない足取りで、階段を下る。

 

 ヒュースはそんなネオンに何を感じたか、階段を下るネオンを制止させて、その身体を抱えた。

「え? ちょっと、待て、ヒュースっ」

「こうでもしないと、転落してたのがわからないのか!?」

 二人のやかましい声が、厳かな屋敷に響き渡る。

 

 そんな二人をミラはくすりと笑って見ている。

 ヒュースは階段を降りきると、ネオンを下ろした。

 ネオンが文句を言うが、ヒュースはだからどうした、とその文句を跳ね除けている。

「そろそろいいかしら?」

 言い合いが一段落して、ミラがネオン達に声をかけた。

「⋯⋯すみません、ミラさん──これが、新版です」

 少し息切れしながら、書類を手渡す。

 ミラがその書類を素早く、丁寧に、一枚一枚確認して、

「キチンとできてるわ、確かに受け取ったわよ」

 その言葉を最後にネオンは倒れた。

 

 その光景をヒュースは見たことがある。

 故に、その後の行動に迷いはなかった。

「すみません、オレはコイツを──」

「全部言わなくても分かるわよ。見送らなくていいから、早く運んであげなさい」

 ミラはそう言って屋敷から出た。

 そうして、家まで歩いている時に、書類に書いてあったことを思い出した。

 一つはエネドラの処分方法について。

 一つはヒュースの対処方法について。

 

 そして──自身の処分について、だ。

 

 ☆

 

「ミラさん、ラービット、お願いします」

 送られてきたラービットを引き連れて、ネオンは歩き出した。

 三分以内には終わったが、一人逃がしたのは、褒められたことではない。

 ──挽回しなくちゃ。

 

 ネオンは電柱の上に登り、トリオン体の視力を上げて、見える範囲の兵士をあらかた見た。

「⋯⋯あの髭の兵士は厄介だけど、ボクが戦っても、そこまで得をしない。トリオン兵で遠くに引き離すか。

 あと面倒くさそうなのは⋯⋯あのチームだね」

 

 そう言ってネオンはラービットを動かし始めた。

 

 ◇

 

 影浦隊と鈴鳴第一は基地南部の市民の避難援護に向かいながら、トリオン兵を掃討していた。

「──」

 堅い守りと鋭い一撃を繰り出す村上と──

「死ねっ!」

 荒れた竜巻の様なキレのある連続攻撃を繰り出す影浦は、手を組めば、それこそ、黒トリガー相手でも時間稼ぎができるだけの力がある。

 

 ────しかし、それでも、彼らにとって、ソレは天敵とも言えた。

 

 影浦は強烈な殺意を感じ、その場から飛び退く。

「どうし──」

 どうした、と言い終わる前に、村上鋼は理解した。

 先程まで影浦がいた場所は抉れている。

 影浦のスコーピオンの嵐よりも荒々しい、言い表すとならば、巨人が地面を手で抉った様な傷跡ができていた。

 

 両部隊の全員が上空を見るとそこには、今までのとは違ったラービットがいた。

「チッ⋯⋯メンドーなのにあたったな」

 影浦が恨みがましく口にする。

 

 そのラービットは送られてきた情報と全く違う、異形の姿をしていた。

 情報とは違い、足はない。代わりに鞭のような2本の剣が足になって、自重を支えている。

 腕よ鞭のような剣。

 弱点のように見えるコアは剣に巻き付かれていて、壊すのに時間がかかりそうだ。

 

 影浦はそんな姿よりも、さっきの自信に当てられた殺気に気が向いていた。

 感情受信体質──影浦が持つサイドエフェクトにして、感情を持つ生物との戦闘において、無類の強さを誇る能力だ。

 本来トリオン兵から感情を受信することはない。

 だが、この新型は感情を当ててきた。

 つまるところ──────。

 

「──チッ」

 ラービットが彼らに向かって剣を振るう。

 スコーピオンよりも荒々しい殺意を持った竜巻が彼らに放たれる。

「避けろッ!!」

 影浦が直感的にそう感じ、全員伝えた。

 

 ────ソレはもう見た。

 

 どこからかそんな声が聞こえたように思えた。

 回避した彼らを待っていたのは、待ち伏せをしていた細い蛇腹剣だった。

 

「──旋空弧月ッ!」

 村上は自身と、来馬に向けられた剣を旋空弧月で払い除ける。

 そして、

「スラスターオン!!」

 太一を生かすためにレイガストを投げ、無理矢理蛇腹剣の軌道をそらす。

 

 影浦は身体をひねらせて避けたが、それでも僅かに当たった。

 ゾエはシールドを使って一瞬剣の速度を下ろし、その隙を使って回避した。

『ユズル!』

『分かってる』

 ラービットのコアにイーグレットの狙撃が突き刺さる、が──。

 

「クソかてぇな⋯⋯」

 イーグレットは剣を貫くことはなく、弾かれた。

『アイビスで吹っ飛ばせるか?』

『近づかないと無理。距離詰めるから、それまで耐えて』

 無茶言うぜ──と内心つぶやく影浦。

 だが、同時にその台詞はお互いの信頼関係があってこそ、言葉だ。

 

「カゲ、いけるか(殺れるか)?」

「オレより弱いくせに聞いてんじゃねえよ」

 村上と影浦は笑ってみせた。

 

「来馬先輩──ここは俺達が足止めするので、先に行ってください!」

「ゾエ、おまえもいけ! 

 コイツはユズルとオレらで殺す!」

 そう言って彼らは目の前の新型に向かって行った。

「⋯⋯行こう、太一、北添くん!」

 来馬は苦虫を噛み潰したような顔をして、そう言った。

 

『俺が弾く(守る)から──』

『出来た隙に殺せばいいんだろ? コイツにはマンティス──お見舞いしてやるよ』

 

 √

 

「隊長、盤面は整えました」

 同時刻、ネオンは先程より戦況を見渡せる所で俯瞰しながら、連絡を取っていた。

『分かった。今からヴィザとヒュース、エネドラ、ランバネインを投入する』

「了解です⋯⋯今、ランバネインと話せますか?」

『分かった⋯⋯ランバネイン、ネオンから連絡だ』

『珍しいな、お前が俺に連絡をするとは!』

「いやいや、今までは伝えなくてもいい仕事をしてくれてたから、連絡しなかっただけだよ」

 一瞬だけ、ネオンの雰囲気が柔らかくなる。

 

「ランバネイン」

 ネオンはすぐに冷たい空気を纏う。

『なんだ?』

「今から君の天敵の映像を送る。彼らにあったら、無理はしないで欲しい」

『ハッハッハ! お前がそう言うとは、正に予言通りだな! 

 つまり、俺は楽しく飛べるってことなんだろう?』

「今世紀で最も美しく飛べるよ」

 そう言ってネオンは連絡を切った。

 

「正直、さっきの二人は予想以上の手練だったな⋯⋯私のラービットなら全員を止めれると思ったのに。ちゃんとケシキ見ないといけないか⋯⋯。

 さて、このラービットはどこに使おうかな?」

 

 今ラービットと戦っているのは、ヒュースと交戦中のチームと髭だけ。

 ボクが髭と戦ってもいいけど、一人だけに時間を使うのはなんだかなぁ⋯⋯。それでも、ラービットの邪魔されるのは困るから、いかないとダメだなぁ⋯⋯。

 

「はーぁ⋯⋯なんでこんなにやること多いんだろ」

 横から降り注いできた弾丸を防ぎながら、ネオンは言う。

 

 ボクがサイドエフェクトを持ってるのがバレてると仮定して、ケシキのこともバレてる可能性は? 

 ──おそらく無いだろう。この防御も迎撃機能って言われてそうだし。

 

「まあ、売られた喧嘩は買わなくちゃね」

 

 ◇

 

 ネオンの黒トリガーの名は『凶蛇(マッド)』。

 普通の蛇腹剣ではなく、最長で740メートルにも及ぶ、巨人の鞭と言っても過言ではない蛇腹剣。

 そして、もう一つ──使用者が見た攻撃を、伸ばした剣の腹で防ぐ効果がある。

 

 この黒トリガーは使用者が少ない上に、蛇腹剣としての扱いも難しい。

 ただでさえ扱いずらいが故に、防御に手が回らない。

 しかも、その他の細かい機能なども多くあるので、この黒トリガーは熟練した兵士にしか扱えないとされてきた。

 

 ────そう。ネオンが使うまでは。

 

 ネオンは自身の槍術を凶蛇(マッド)に移し、新しい蛇腹剣専用の型を作り、身体の一部にした。

 また、未来視による、数秒や数分後の攻撃をも防御する。

 ネオンは防御において、調子が良い時は、他の追随を許さない程になった。

 

 √

 

 嵐山隊は目の前の人型ネイバー──ネオンと対峙していた。

「少しお聞きしたいんですが! ここら辺のラービットって、全部倒しましたか!?」

 ネオンは屋根の上にいる彼らに聞こえるように、大きな声で質問する。

 

「俺からは言えないな! 知りたいなら──俺たちを倒してから確認してくれ!」

 馬鹿正直な、しかし当然の台詞(返し)をする。

 

『充、俺たちはクロスファイアで攻撃し続けて、援護を待つぞ。

 賢、狙撃で援護を頼む』

『了解』

『了解!』

 

 嵐山達はネオンに向かって、弾幕を展開する。

 ネオンは既に見ていたケシキに剣を伸ばし、その腹を幾度となく交差するように編み、バリケードのような自身を守る盾に展開する。

 だが、守りだけで収まるはずがなく、剣先が嵐山に向かって放たれる。

 間一髪で躱した嵐山に目もくれず、剣先は時枝に直進する。

 

「充!」

「ここは戦場です。仲間の心配よりも、まず自分の心配をしましょう」

 淡々と説教をしながら、ネオンはついでに嵐山は殺そうと、剣⋯⋯いつの間にか元の大きさに戻っていた⋯⋯を振り下ろす。

「クッ──!」

 スコーピオンと集中シールドで咄嗟に防御をして、被害を最小限に抑える。

 

『嵐山さん』

『大丈夫、かすっただけだ』

 目の前のネイバーを見据える嵐山たち。

 一方、ネオンは彼らにある思いを抱いていた。

 

「すみません、もう一つ質問──というか、確認なんですけど」

 今度は小さな声で話しかける。

「あなたの味方に──予言者的な人、いますよね?」

 唐突に言われたその言葉に、嵐山たちは一瞬、動きが固まってしまった。

「やっぱりそうですか。ですよね、そうでなければこんなに早くランバネインが攻撃を──それも『天敵』の攻撃を受けるはずがない」

 微笑をするネオン。

 同時にネオンを纏っていた雰囲気が、美しく、しかし冷酷なものに塗り替えられていく。

 

「私の仕事が多いなぁ⋯⋯こんなに働くなんて、いつぶりだろ」

 ネオンは誰にも聞こえない程小さな声で呟いた。

 そして、その顔は────今にも目に映る敵を全て、皆殺しにしようと語っている。

 

『よっしゃ今──!!』

 佐鳥が固まっているネオンの頭部にツインスナイプを放つ。

 しかし、ソレは隙ではなかった。

「「「──ッ!?」」」

 驚きは3人のもので、ネオンは高らかに笑い始めた。

 

「もういいや。さっさと全員倒して帰ろう」

 (ネオン)が笑いながら、蛇腹剣を目の前の2人に振るう。

 もはや神速とも言える速さで振られる凶蛇(マッド)は彼らを切り殺そうとして──。

 

『射』印(ボルト)──二重(ダブル)

 蛇は新たな弾幕によって叩きつけられた。

「空閑くん!」

「どもども、迅さんに言われて援護に来ました」

 目の前の白髪の彼をじっと観察するネオン。

 

 ⋯⋯この出力はおそらく黒トリガー。ということはヴィザさんには別の黒トリガーが相手をするってことか。

 ケシキを見てそう判断をする。

 

「アンタが迅さんの言ってたヤバいやつか?」

「ソレはわからない。私より強いのはゴロゴロいるからね」

 先程とはもはや別人となったネオンが、ぶっきらぼうにそう言う。

 

「申し訳ないが、君は私に勝てない」

 ⋯⋯ウソはついてない。ってことは、そう言い切れるだけの『何か』があるってことか。

 

 ──私のサイドエフェクトがそう言っている。

 

 ネオンは残虐な笑みを覗かせた。

 

 

 

 

 




誤字脱字等を発見したら、遠慮なく報告お願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。