『異世界召喚術アカデミー』、通称『ガチャアカ』にようこそ! 作:あきしょう
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ソシャゲの主人公というものは、自力で敵と戦ったりしないのがほとんどだ。では何をするのかというと、大抵はチームをまとめたり率いたりするリーダー的存在として活躍する。またゲームにのストーリーによっては、今まで全く戦いとは無縁に生きていた主人公が、突然戦いに巻き込まれ、なぜか指揮を任されるという導入で始まるものもあったりするわけなのだが…。普通に考えればおかしいだろう。
なぜ経験のない素人に自分たちの指揮を任せるのか。さらになぜ突然素人が初対面の相手の指揮ができるのか。
まあこれはゲームの話だ。膨大な数のソシャゲ一つ一つに凝った設定を考えてなどいられないのかもしれないし、そもそもゲームの話にリアリティーを追求するというのも野暮なのだろう。
しかし現実では人を指揮するというのは簡単ではない。もし現実でゲームのようにいきなり指揮を任せられるようなことがあっても、できるものはほとんどいないだろう。そんなことを素人が簡単にできるのならば、軍学校など存在意義がない。
そしてその理屈は、異世界でも同じである。
『異世界召喚術アカデミー』は文字通り学校であり、昨今勘違いされがちだが、ただガチャを引くためだけの場所ではない。生徒が召喚した『スレイブ』を効率的に運用できるよう、教師により指導が日々なされている。
とはいえ『スレイブ』とは個性が強いものばかりであり、彼らへの指示もまた画一的なものでは到底収まらない。故に座学では限界がある。
その問題を解決するため、『ガチャアカ』では常にクエストと呼ばれる実地訓練が受けられるようになっている。
※
さて、前回の召喚からあまり時間を経っていないが、今回はクエストを受けるために喚ばれたあなた。
しょっちゅう召喚されるあなたであったが、別に彼女が契約している『スレイブ』はあなた一人というわけではない。あなたの主人は現在あなた以外にも2人の『スレイブ』と契約しており、どちらもあなたとは比べものにならないほど強かったりする。あなた一人では受けられるクエストは限られてしまうが、彼女たちのどちらかでもいれば、あなたの時よりもはるかに高位のクエストを受けられ依頼料も跳ね上がるだろう。
にもかかわらずそうしないのには理由があり、あなたはその理由が知っている。
呼ばないのではない。呼べないのだ。
というのも召喚術師たちは何の代償もなく『スレイブ』を召喚できるわけではない。『スレイブ』が召喚術師の召喚に必ず応じなければならない義務を負っているように、召喚術師もまた召喚するたびに必ずコストを支払わなければならないという義務がある。
そのコストとは、要は金だ。
召喚術師が支払った金は一部は召喚を司る神に奉納され、残りが『スレイブ』の手元に残るという仕組みだ。
かかるコストはランクが低ければ低いほど、同ランクでも弱ければ弱いほど安い傾向だ。そしてそれがあなたがしょっちゅう呼ばれる理由でもある。つまりあなたはほかの『スレイブ』と比べて弱いが、それゆえ安上がりで使い勝手がいいともいえるのだ。
ちなみにあなたを召喚するのに召喚術師が消費するコストは一回につき300ゴールド、日本円に換算すると3万円だ。そのうち3割が中抜きされるため7割があなたの手元に残る。つまりあなたは日給2万1千円で働いていることになる。
一般的になかなか高給なように思えるが、自分より年下の少女にこき使われ、時に命をとして戦わされてこの値段。これを割りがいいと考えるか悪いと考えるかはあなた次第である。
さて、『ガチャアカ』のエントランスを抜けると、そこには階を貫く広大な吹き抜け空間が広がっている。
何度もここに足を踏み入れたことがあるあなたであったが、その度にまるでこの場所だけ世界が切り取られているような錯覚を覚える。
目に映るのは絶えずホールを行き交うアカデミーの制服を身に着けたアカデミーの学生と、それに従う多種多様な『スレイブ』たち。忙しそうに書類を持って駆け回る職員。
学生はそろって同じ制服を着ているにも関わらず表情は一人ひとりまるで違う。自分の未来を信じて疑っていないもの、明らかに自暴自棄になっているもの、目が濁り「次こそは…次こそは…」とぶつぶつ独り言をつぶやいているもの。
そしてそれに従う『スレイブ』も個性という面では決して負けてない。彼らはそれぞれこの世界ともあなたの世界とも異なる世界から召喚され、文字通り世界が違う存在だった。4メートルを超える巨人や天使のような羽を生やして飛んでいるもの、さらに全身触手で化け物としかよべないものまで様々だ。
しかし何より圧巻されるのは中央に設置された巨大なクエストボードだろう。そのクエストボードはあまりにも高く、見上げても一番上が見えないほどで、にもかかわらずそのボードは世界中から集まってきた数えきれないほどの依頼表により所せましと埋め着くされていた。
しかしそんな胸躍る光景に感慨も何もなく、ずかずかとホールを横断しあなたの主人はそんなクエストボードの前で、一枚一枚依頼表を確認しながらため息交じりに言う。
「・・・ろくな依頼がないな。簡単で安いか、高いがその分難しいのしかないぞ。」
それって普通のことなのでは、とあなたは思った。
あなたもバイトを探しているとき思ったが、給料が高いということはそれだけ大変か特殊な技術がいるということだ。簡単で給料が高いなんてものは幻想だ。逆に大変で安いというのはいくらでもあったりするのが悲しい現実である。
「仕方ない。今回も簡単そうな依頼を複数受けて、それでカバーするか…。はあ、金が欲しい。金があればこんな面倒くさいこと考えずに済むのに…」
クエストボードをにらみながらぶつぶつとつぶやいていたあなたの主人であったが、ふいそれが止まり、いきなりあなたの背中の後ろに飛び込んでくる。その様は恐ろしいものから隠れようとする怖がりな子供のようであり、実際にそれそのものである。
実はあなたの主人は人見知りの内弁慶で、特に初対面の相手とはまともに話せず顔を合わせることすら困難だ。
先ほどまであなたの主人がいた場所のすぐ隣に、あなた方と同じくクエストを選びに来たのだろう一人の少年が立っていた。これでは少年が立ち去るまでクエスト探しは中断せざるを得ない。
自分の主人に背中にしがみつかれ動けないあなたは、何となく近寄ってきた少年を見る。
随分幼い容姿をしている。いや実際幼いのだろう。あなたの主人と同じくらいかもしれない。
アカデミーの入学に年齢の上限はあるが下限はない。試験など形だけのもので、入学金さえ払えばだれでも入れる。
茶色の短い髪。まだ汚れ一つないぴかぴかの制服。幼い容姿にやや頼りない表情。しかし周囲に臆することは決してなく、むしろ自信をみなぎらせている横顔。
あなたはその学生の顔に見覚えがあった。しかしどこで見たのかなかなか思い出せない。そこで彼の後ろに立つ凛々しい女性を見て思い出す。そう、彼は召喚の儀で最初にSSRを召喚した新入生であった。
そしてそこで少年たちがあなたの視線を感じたのか、顔をあなたの方に向け視線が交わる。ここで何も言わないのは不自然なのであなたは簡単な挨拶をした。
「ああ、これはご丁寧に。僕はクルト。クルト・オーバードル。そして彼女が僕の『スレイブ』、いいえ、パートナーのシアさんです。こちらこそよろしくお願いします」
「シアです。あなたと同じ『スレイブ』ということになっています。ええ、どうぞよろしくお願いします。あなたは確か私が召喚されたときに近くにいましたよね。」
やはり彼女は武闘家か何かなのだろう。何か武道をやっているもの特有の礼儀正しい挨拶が返される。
しかしどうやら『スレイブ』の方は召喚の間で見学していたあなたの顔を覚えていたらし い。もしかしたらあの短い時間で部屋にいたすべての人間の顔を覚えたのかもしれない。しかし『SSR』ならそれくらいできても不思議ではない。
「……あの、そちらのお連れの方は大丈夫ですか? 何か僕が失礼なことでも?」
クルト少年はいつの間にかあなた背中にしがみついて隠れているあなたの主人が気になるらしい。
気にしなくてもいい、とあなたは答えた。なけなしの情けで知らない人に急に近づいてこられて驚いただけだからと真実は話さなかった。そしてこの話題をそらすため、クエストを受ける気なのかと尋ねた。
「あ、はい。そうなんですよ。初めてだから簡単な依頼がいいと思うんですけど…。うーーーん。どうしようかな…。」
じっくりと依頼表を眺めどれにしようか悩んでいた少年だったが、『スレイブ』の女性の方が膨大な数の依頼表を軽く一瞥し、特に悩むことなく一枚の依頼表をとる。
「クルトさん。この依頼にしましょう!」
「…え? これ? でもこれは…」
クルト少年が依頼表を呼んでやや躊躇する。
それもそのはずそれはあなたの主人が受けようとしたランクよりもはるかに高いランクの依頼であり、決してクエスト未経験の召喚術師が受けるものではなかったからだ。
「心配なのはわかりますが大丈夫です。むしろ私にはこのくらいでないと物足りないぐらいです」
「うーーん、君がそこまで言うなら…。分かったよ!」
ただクエストはアカデミーの生徒ならだれでも受けられ、特に制限もない。極端な話をすれば今日入学したルーキーも最高難易度のクエストを受けることも可能だ。何ら規則には問題がない。しかし高ランクの『スレイブ』を召喚した新人召喚術師が調子に乗って高ランクの依頼を受け、死亡するというのは結構よく聞く話らしい。
あなたは教師でもお節介な人間ではないが、さすがにこのまま何も言わずに死なれでもしたら寝覚めが悪い。
あなたは尋ねた。本当にその依頼を受けるつもりなのかと。
「え? あ…はい。彼女もこう言っているし…。彼女、こう見えて言い出したら聞かないんですよ」
お節介承知で言うが、さすがに段階を挟んだ方がいいのではないだろうか。
「ご心配ありがとうございます。でも大丈夫です!」
新人召喚術師の少年が自身たっぷりに言う。
「俺は自分の『スレイブ』、いやパートナーを信頼しています。彼女が大丈夫だというなら僕はそれを信じます! それに早くたくさんの高ランクのクエストを受けて、この世界の役に立ちたいんです!」
そこまで言われてはあなたもこれ以上言うことはない。
教師も職員もアドバイスはするが、最終的にどんな依頼を受けるのかは召喚術師本人で、無理やり止めることはできない。それで死んだら自己責任というわけだ。
クルト少年たちが依頼表を持ってクエスト受注の手続きをしに受付に行くのを、あなたは何となく姿が見えなくなるまで目で追い続けた。
※
クルト少年の姿が見えなくなるのと同時にあなたの背中からひょっこり出てきてあなたの主人がつぶやく。
「ふん、あいつ死ぬな。」
あっけらかんと普通にひどいことを言うあなたの主人。本当に人が近くにいない時だけは元気である。なおあなたはあくまで『スレイブ』であり、彼女の中では人としてカウントされていない。
しかしさすがに死ぬというのは言い過ぎなのではないだろうか。
確かに彼が選んだのは自分のレベルに見合わない高難易度のクエストである。しかし彼には『SSR』の『スレイブ』がいるのだ。彼女がいればそこまで無謀な選択というわけではないのではとあなた思った。
「別に高ランクのクエストを選んだことは大した問題じゃない。それをあいつ自身が考えて選んだんならな。あいつは自分の『スレイブ』の言うことを何も考えずホイホイ聞いていただけだ。自分でしっかりと考えていたわけじゃない」
確かにそういわれてみれば少年は最初はもっと簡単なクエストを受けようとしていたが、自分の『スレイブ』に言われてすぐにその意見を引っ込めた。『スレイブ』の意志を尊重すると言えば聞こえはいいが、何も考えず強い人間の意見に迎合したとも言えなくもない。
「ボクなら、『スレイブ』に主導権は握らせない。召喚術師の方針に従えないなら、ムチでも飴でもなんでもいいから手段を問わずに従わすべきだし、それができならそもそも召喚するべきじゃない。頑張って新しい『スレイブ』を召喚するべきだな。勘違いしている奴らも多いが召喚術師の仕事は召喚することじゃない。命令することだ」
見た目はかわいらしい少女なのに、見た目と発言にギャップがあり過ぎる。一体彼女はどこでここまですれてしまったのだろう。少なくとも半年前出会ったときからこんな感じだったので、もしかしたら元々の性格がこれなのかもしれない。
まあ彼女が言っていることは正しいとはあなたも思う。
しかし彼はまだ幼いのだ。あなたの主人と違ってすれているわけでもない。これから『スレイブ』と一緒に学んでいけばいいのではないのだろうか。
「じっくり覚えるか……。いいことを教えてやろう」
あなたの主人が意地悪くにやりと笑う。
あなたはその顔を見てとても嫌な予感がした。
「初めての召喚が『SSR』だった召喚術師の一年生存率は……10パーセントだ。じっくり覚える時間があればいいな」
教訓。
いいことを教えてやろうと言われたら、それは絶対にいいことではない。