※先天性女体化※卑劣様スレより 今日も木の葉は平和です 作:匿名希望@ななし
卑劣様が先天性女体化しています。
また、作中登場しませんがイズナ生存ルートを念頭に書いています。
穏やかな夜だった。
鈍い金色に光る月は良く肥えた小望月。満月にほど近いそれに照らされて、まばらに広がる雲が空より一段濃い闇色を見せていた。
ときは六月、かすかに夏の気配を帯び始めた生ぬるい風がふわりと漂うと、およそこの静寂に似つかわしくない血なまぐさい匂いがマダラの鼻腔をくすぐった。
うちは一族の領地からマダラの脚で駆けて半刻ほどのその山は、5日前まで彼らと千手一族による戦場となっていた。
情報の宝庫である忍の死体は勝ち戦だろうと負け戦だろうと生き残った者が極力持ち帰る、それが駄目なら泣く泣く火遁で燃やすなり爆破なりしてしまうのが普通である。更に疫病の発生を防ぐため、停戦次第速やかに血痕等は地面を掘り返して土中に埋めてしまう。だから5日も経ったのならそうそう匂いが残っているものでもないのだが、それでもマダラは確かに血の残り香をかいだ気がしている。
激しい戦いだった。無論勢力の拮抗している千手との戦いは常に白熱するのだが、今回は特に酷かった。
千手の当主である千手仏間が死に、うちは当主でありマダラの父でもあるうちはタジマがその最期の足掻きの自爆攻撃に巻き込まれて瀕死の重傷を負った。
それまでもお互いの損耗はあまりに激しく、内心密かに停戦のきっかけを望む者がいたことも知っていた。それが両当主の脱落によるものだったのだから、今頃はその望みを口に出さなかったことについて胸を撫でおろしているかもしれない。
停戦協定自体は雇い主である大名たちの仕事である。戦の結果が思わしくなかった件についての叱責は、本来ならタジマが動けぬなら長男のマダラが受けるべきだがまだ16の若造では話が通じないと舐められかねないため、タジマの従兄弟であり補佐役であった壮年の男が出向いている。
今夜マダラが単身ここを訪れたのは、父がいつも身に付けていた腕輪を紛失してしまっていたようだからだ。忍が日頃身に付けるものだから当然質素なもので、数色の紐で編んだ組み紐に瑪瑙の小さい珠が一つだけ通されたものだ。弟の内の誰かが昔父に尋ねていたが、母が武運を祈って贈ったものだという。両親の間にある思いを除けばなんの変哲もない代物だから、たとえ千手の手に渡ろうが、鹿が草と一緒に喰ってしまおうが、あるいは目ざとく見つけた猟師あたりが端金に換えようが支障の出るものではない。それでも息子としてわずかの間でも探す時間を割いてやりたいと思った。
戦後処理の終わった跡地など無人であるのが常である。戦の当事者たちにとってはもう用済みであるし、一般人ならまだ気味悪がって近付こうとしない。市井では死体から身ぐるみを剥いで食い扶持をつなぐ人間もいるが、見渡す限り死体一つ、クナイ等の売り飛ばせそうな武器の一つもないこの場を見たらさっさと諦めて帰っていく。
それでも一応は周囲に警戒しながら辺りを歩いていると、一人分のチャクラが存在することに気が付いた。戦意は感じられないが、念のため気配を殺してそちらに向かう。樹上に上がってせめて木々の葉擦れの音に紛れて移動しようとしたが、静かな月夜では至難の業だ。だが、別に気付かれたなら気付かれたで構わないという思いもある。
すでに一族随一の忍となったマダラを単体でどうこうできるのは自分の知る限りでは柱間くらいのものだったが、この気配は少なくとも奴のものではない。だったら仮に戦闘になったところでどうにでもなる。
そう、驕りと紙一重の自信で距離を詰めると、気配のほうから良く通る声が掛けられた。
「今は停戦中だ。ここへ何をしに来たかは知らないが、戦うためではないだろう。お互い血なまぐさいことは無しにしないか」
「……扉間、か」
扉間が優れた感知能力の持ち主であることは今までの戦闘でマダラも知っていた。一族の者が奇襲を掛けようとしたものの、とうに気が付いていた扉間により逆に罠にかけられ返り討ちに遭うという事例が何度かあった。マダラが気配に気付いていた頃にはとうに扉間のほうはこうして待ち受けていたに違いない。
マダラはそれを少々癪に感じながらも扉間の視界に降り立つ。
姿勢よく立つ扉間の姿は、寛いでいるとまではいかないが戦闘態勢とはほど遠い。
特徴的な白い髪と肌が夜闇に浮き上がるようで、これだけ目立っては夜の戦場はさぞかし不便だろうと思った。よく陽に灼けた肌と真っ黒な髪を持つ柱間とは見事に対照的だから、おかげで全く柱間への感傷を思い起さずに済んだ。
扉間は賢しい。こうして相対してしまった以上実力で勝るマダラに勝負を仕掛けるようなことはすまい。そしてマダラのほうも、速度に優れる扉間が逃げに徹した場合に仕留めきる厄介さを知っていた。停戦協定を破るリスクを犯してまで手を出そうとは思えなかった。
お互い当主の直系であり多くの同胞を屠ってきた因縁を持つ相手だ。もしこれが普段の状況だったら攻撃を仕掛けるとまではいかないが、下手に関わって無駄に殺意を抑える羽目になるのを避けるためにもさっさとその場を離れてしまおうと思っただろう。
だが、そのときのマダラは大きく一つ息を吸って吐き出すと少しばかり扉間との距離を詰めて適当な木の幹にもたれかかった。
「なんだ、千手の次男坊は血も涙もないような合理主義者だと一族の者が言っていたが。そんなお前がまさか感傷にでも浸りにきたのか?」
「……ここ数日、兄者は忙しかった。俺がいるとどうしても兄として振舞うからな、少し一人の時間を持ったほうがいいだろうと外の用事を口実に出てきたんだ」
それでよりによって父の死んだ場所へ足を向けるのだから、やっぱり感傷なんじゃないのか。そう思いながら横目で扉間の顔を見るといつもの鋭い眼光はやや精彩を欠いて倦んだような雰囲気を漂わせている。きっと自分も似たようなものだろう、とマダラは思う。
一族の当主の子として生まれ、期待と重圧を受け、もはや父を頼るばかりではいけなくなった。一人前の忍として戦場に出て、マダラに至っては元服も済ませた「大人」であるが、まだまだ多感で精神的に揺れ動きやすい十代半ばの年頃だった。今この時はお互いに少しばかり、疲れていた。
「葬式は済んだのか?」
「……」
マダラの問いに扉間は内々の話をよりによってこの男に話したものかと躊躇う素振りを見せたが、どうせいずれ知れることだと思い直す。
「昨日な。同時に当主交代の儀も済ませてあるから今は兄者が千手の長だ」
「あの甘ちゃんが当主じゃあ一族の者も苦労するだろうな。次の戦では覚悟しておけよ」
「貴様の兄者像は仲良く川辺で水切りしていた頃で止まっているらしいな。せいぜいそうやって侮っておけばいい」
「ハッ、兄貴と違ってずいぶん生意気な小僧だ。弟の躾まで甘いとは恐れ入った」
お互いこうして肩を並べる妙を誤魔化すかのような応酬をしながら、マダラは横目で扉間の姿を改めて観察した。
戦場ではよくよく見る暇がないというか、マダラにとっては敵か味方かの区別さえつけばよかったのであまり意識して見たことがなかったのだ。さすがに当主の直系だから優先的に仕留める対象であるが、その白い髪は他の千手にはない特徴であり、本人もおよそ隠す気がないため顔貌まで覚えずとも見分けがついたというのも大きい。
いつもつけている甲冑と半首がない扉間は、ずいぶんと頼りない体をしているように思えた。イズナはここ一年ほどで随分と背が伸び、煩わしがっていた声変わりも終えている。背の伸びが落ち着いたので、じきに筋肉も追いついてやがて大人の男になっていくだろう。
だが、そう歳が変わらないと思っていた扉間は全体的に細身の体つきをしており、未だに子供のような澄んだ高めの声をしていた。こういうのは個人差があるのは当然ではあるが、こんな子供に一族の者が数多屠られているのが信じがたい心地だった。
「……今朝、兄者がうちはに対して書状を送った」
マダラからやや距離を開けた木の幹に体を預けて腕を組み、扉間がそう言った。お互い横並びの状態だが、こちらには視線をくれず正面を見据えている。
「当主として最初の書状になるが、前から決めていた文をなぞるかのように淀みなく書いていたぞ。……同盟の申し入れだ」
もしやと予測していたこととはいえ、莫迦か、という思いを禁じ得ない。
先の戦は千手仏間の死によって終わった。父も瀕死の重傷を負ったとはいえ戦の勝敗はうちはの辛勝というところだろう。
「……負けた側からの同盟の申し入れなど受ける道理があるか?」
「直前の情勢がどうであろうと、兄者は必ず当主になって一番先にうちはへの同盟の申し入れをしただろう」
「傘下に入るというなら考えてやらんでもない」
眉間に皺を寄せて扉間がマダラに顔を向ける。頼りない体つきや繊細そうな肌の色に反して、その瞳は強い光を放っていた。
「世界にあるのは千手とうちはだけではない。隷属や族滅以外にも道はあると、千手とうちはの同盟をもって他族に示したいのだ、兄者は」
「何世代にもわたって同胞を殺し殺されてきた仲なんだ、決定的な勝敗が見えねばお互いに納得すまい」
「千手とうちはの力は拮抗している。先は負けて今度は勝って、それを延々と繰り返し続けるのか?子供たちにまで犠牲を強いながら!」
「なら、その均衡を打ち破れるまで強くなるだけだ」
「っ…」
マダラの言葉を聞くと、扉間はその顔をまじまじと見て、それから俯いた。
「……兄者は貴様のことを、同じ夢を共有する同志だと言っていた。今もそう思っているだろう。忍たちが一族の垣根を取り払って協力できる時代を作れると、無益な争いを避け、子供が子供らしく生きられる未来を創れると。千手の自分とうちはの貴様が同じ時代に生まれたのは、きっとそれを世の中に示すためなのだと、俺に語って聞かせたものだ」
扉間は顔を上げ、先ほどまでの感情の高ぶりは抑えた無感情な目でマダラを見据えた。
「なのに貴様は、結局これまでの当主と何も変わらないことを言うようになったんだな」
その一瞬、マダラの理性はふつりと途切れた。
気が付けば利き腕を思い切り振りぬいて扉間の頬を殴っていた。存外に軽い手応えとともに吹っ飛んだ体が起き上がる前に胸倉を掴んで上体を無理やり起こす。
「お前にっ…お前になにが分かる!!当主というものが、一族の思いを背負うというのがどういうものか!!」
幼い時分、自分より更に幼い弟たちが死ぬのが悲しかった。戦が終わるたびに見知った顔が欠けていくのが辛かった。
傭兵として雇われる立場上、戦の理由に是非をつける術もないが、それでもくだらない戦だと思ったことが何度もあった。
乱立する忍たちがまとまることができたなら大名同士もみだりに争うことができなくなりくだらぬ戦が減ると夢想した。
それでも、将来当主となる自分を考えると現実に直面せざるを得なかった。
今まで流した血の量が、過去から現代にわたって積み重ねられた屍の数が一族を縛り付けていた。
積年の恨みが、安易に同盟を結ぶことを許さない。
親兄弟を、伴侶を、我が子を殺された同胞たちにこれまでのことは水に流して明日からは手を取り合おうなどどうして言えようか。
だとすると、うちはがどこよりも強くなるしかないと考えを改めた。他族を打ち破り、滅し、あるいは配下に加え。うちはを盟主として忍たちを統率することこそが唯一の方法だと。
なのに、知った風な口を利く扉間に途方もない怒りが湧いた。
「お前には分からない、イズナにも分からない!!当主というのがどういうものか!!」
一度堰切った言葉は止まらなかった。
「柱間だけだ、俺の気持ちが分かるのは!あいつも近いうちに気付くだろうよ、当主というのがどういう意味か!そのときお前が兄貴にも同じことを言えるのか見物だな…!!」
こんな大声で叫ぶのは何年ぶりだろう、あるいは生まれて初めてかもしれない。一山駆けても涼しい顔をしているマダラが、はぁはぁとしばし息を整える。
存分に大声をあげたことで幾分冷静になった頭で、そろそろ離してやるべきかと扉間の着物を掴んだままの左手に手を落として、固まった。
「……は?」
葬式を終えたとはいえ実父が死んですぐだからだろう、黒一色の着物の胸元がマダラによって無理に掴み上げられたことで大きくはだけて素肌に巻かれたサラシが見えていた。
いや、サラシはいい。別にうちの一族にもしている奴はいる。気合が入るだとか、雀の涙程度の防御力を期待してだとか。
だが普通は腹部に巻くものだろう。そう、男なら。
なぜ、扉間は胸部に巻いているのか。
それにこの膨らみはけして筋肉ではありえない。これはまるで……
「……なんだ、気付いてなかったのか」
マダラによって強引に上体を起こされたままで、薄く笑みを象った唇がそう紡いだ。
いい加減バレてるだろうと思っていたんだがな。
扉間はそう言って自らの腕で体を起こすとマダラの拳をそっと外して立ち上がり、はだけた着物を整えた。
「私は当主じゃないし男にもなれんが、だから兄者と分かり合えないと思ったことはない」
静かな夜によく通るその声は、やはりイズナと比べるべくもなく高い。
「貴様と兄者が友だったのは、立場が同じだからじゃない。散々一緒に夢を語り合ったからだろう?」
「…何が言いたい」
「同盟が無理だというなら何故無理なのかを兄者と話し合ってみろ。兄者は言葉を惜しまん。……ああ、そうだ」
そう言って立ち去りかけた扉間はふと思い出したようにマダラに向けて何かを放る。反射的に受け止め、手の中の物を見て目を見開く。
それは、千切れて端が焼け焦げた組み紐だった。一粒だけ通された瑪瑙の珠が月明かりを反射している。
「父の左手が握っていたものだ。その紐の編み方は千手には覚えがないからおそらくタジマ殿のものだろう?父の墓前に戦利品として供えるのも、適当に打ち捨てるのもなんだかしっくりこなくて、こっそりここに戻しに来たんだ」
確かに返したぞ、と言い置いて今度こそ扉間はその場から走り去った。急速に遠のく気配がついに感知できなくなり、それでもしばらく風に吹かれてからようようマダラも屋敷へ向かって踵を返した。
夢を叶えたくば同胞に、柱間に言葉を尽くせと言いたいのか。あいつも存外甘いことを言う。マダラは皮肉気な笑みを浮かべる。
理屈で人が動くなら苦労はないのだ。
この世を動かしたいなら言葉では足らぬ、もっと奥の奥……そう、腑を見せるくらいでなくば。
明日にでも届く、千手当主からうちは当主へと送られる書状。それを開封するのはマダラの役目だった。
今朝ほど、とうとう父は死んだ。爆破により内臓がやられており水も喉を通らぬ有様だったから、これで苦しみから解放されたのだと正直安堵さえした。
荼毘に付す前に腕輪が戻ってよかったと、そこは素直に感謝した。
遠からず父の葬儀が行われ、自分も柱間同様正式に当主の座に就くだろう。
当主として初めての仕事は、柱間からの書状を破り捨てることだ。
俺たちはまだ腑を見せ合ってはいないのだから。
イズナ「扉間が女?知ってたよ?兄さんは本当に柱間しか眼中にないんだね」
マダラ「……」