気ままに投稿していくので、温かい目で見守ってくれると嬉しいです
――俺、御影蓮二はあの時のレースのことを、今でも覚えている。
スカイが初めてG1、ホープフルステークスに出た時のこと。競技場の周りは寒々とした風に包まれていたが、レースを見に来た人々たちもこれから走るであろうウマ娘たちを祝福しているようであった。
最初にホープフルステークスに出ようと言ったのはスカイだった。G3で入賞を続けていたこともあり、俺も喜んで賛成した。
「まぁまぁ、そんな不安な顔しないでよ。私は絶対に勝ちますから!」
控室で分かりやすく不安そうにしていた俺を、スカイは見透かしたように笑いかける。揶揄うような、それでいて自信に満ち溢れた。その姿は、まるで満を辞して蛹から抜け出し、飛び始めた蝶のようだった。
「じゃあ、行ってきますね。もし勝てたら、何かお願い、聞いてくださいね?」
「お、おう……お手柔らかにな?」
「はい!任せてください!」
スカイからは、これからG1を走ることへの不安など微塵も感じさせなかった。それどころか、俺すらも勝って当然のように考えさせられてしまうほど自信に満ち溢れた姿である。そして、俺に背中を向けたままレース場へと歩き始めたのだった。
そして、遂にレースが始まった。出だしは好調。他の逃げウマ娘を全く寄せ付けないスピードとパワーで戦闘に躍り出しつつも、しっかりとスタミナは残す堅実な戦い方。
「頑張れスカイ!いいペースだぞ!」
観客席からの俺の声が届いたのかどうかは分からなかったが、ほんの少しスカイの頬が緩んだように感じた。
その走りは中盤にも続いた。団子状になった後のウマ娘たちと違い、悠々と走り続ける。観客席から見ていた俺からも順調なことが分かった。
正直に告白するとこの時、俺はスカイの勝利を確信していた。ここから先はG3でも見てきたスカイの勝ちパターンである。だからこそ、この時の俺の頭は勝ったスカイに何をしてあげようかで一杯一杯になっていた。
――だが、俺がスカイの苦悩に気づかなかったように、蛹から出たばかりの蝶に外の世界は甘くはなかった。
徐々に、スカイの表情が歪み始める。前だけに向いていた意識は後ろに向くことが多くなり、呼吸も崩れていく。そして、遂に自身のスタミナを考えずに全速力で走り始めた。
今思えば、彼女はきっと恐れていたのだ。後ろから迫り、自分を先頭から引きずり下ろそうとするウマ娘たちを。G2やG3では味わうことが出来なかった、この感覚を。
そこから先は悲惨なものだった。スタミナが切れたスカイは後続に追いつかれ、団子の中に飲み込まれていく。当然、そのまま抜け出すことができるわけもなく、ゴールした時には悲惨にも最下位であった。
レース場から出てきたスカイは、明らかに普段とは違う様子だった。足取りは歪み、ひたすらに下を向いてこちらへと向かってくる。その表情は、とても直視できるものではなかった。何かに怯えているような、それでいて後悔しているような、とても言い表せないようなものだった。
「トレーナーさん……私もう、無理かもしれません……」
彼女の本気の弱音を聞いたのは、これが最初だった。その日からである、彼女が練習に出なくなったのは。