――12月の後半のことであった――
「なぁ、スカイを見なかったか⁉︎」
「え、ええと……寮から出たのは見ましたけど……」
息を切らしながら、寮から出てきたばかりのスペシャルウィークに話しかける。俺の切羽詰まった様子に少し驚いたようだったが、思案したのち返してくれた。
「ありがとう。見つけたら俺のところまで来るように言っといてくれないか?」
「もしかして、またサボり……ですか?」
「その通り。昨日からずっと見てないんだ。電話にも出てくれないし……」
コートからスマホを取り出し、連絡が来てないか確認する。しかし、結果はもちろん0件であった。
「分かりました。見つけたときに連絡したいので、スマホの番号教えてもらってもいいですか?」
そういうと、スペシャルウィークはバッグの中からスマホを取り出し、操作し始めた。こちらも連絡用のアプリを開くと、QRコードを読み取るためのカメラを起動した。
「あぁ、ありがとう」
「セイちゃん……大丈夫ですかね」
スマホを操作しながらスペシャルウィークが話しかけてくる。その顔はどこか不安げな様子だった。
「……まぁ、いつものことだから、多分大丈夫だろ」
「そうですか……」
そんな話をしているうちに連絡先の交換が終わる。スマホをしまうと、再び目星をつけた場所に向かうため深呼吸をした。
「そういうことだから……頼んだぞ」
「……はい」
最後まで落ち込んだ様子だったが、どうやら伝わったようだ。次は体育倉庫に向かおう、そう考えながら走り出した。
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「セイちゃん、入りますよ」
ベッドの上で三角座りをしていると、寮の部屋のドアの外から名前を呼ばれる。一瞬、普通に返事をしようと思い口を開きかけたが、自分はサボっている身だと思い出して後ろめたくなってきた。結局、出来たのは返事がわりに軽くドアを叩くことだけだったが、どうやら伝わったようでドアが開けられた。
「はぁ……御影さんには寮から出たのを見た、って嘘ついちゃったよ……」
「ははっ、ごめんね〜。そこまでさせちゃって」
会話はスペちゃんのため息から始まった。どうやら自分は寮から出たと嘘をついてくれたらしい。
「ねぇ、セイちゃん」
「ん?どしたの、急にかしこまって」
スペちゃんは目の高さを私に合わせると、真剣そうな顔をした。こんな顔を見たのはレース前くらいだろう。こちらの気持ちが見透かされそうな気がして、慌てて窓の外に目を逸らした。
「本当に、いつも通りサボってるだけなんだよね?」
――本当にスペちゃんは勘がいい。トレーナーさんに嘘をついてくれたのも、きっと何か理由があってのことだと思ってくれたのだろう。
だけど、それだけは言うわけにはいかなかった。バレない程度に息を吸い込み、普段通りの笑顔を作る。
「そうだよ。いつもどーり、サボってるだけだよ」
平静を保ちながら、見透かされないように喋る。目を逸らしているせいでスペちゃんの表情はよくわからないが、きっと私のことを訝しんでいるだろう。
だが、納得してくれたわけではないだろうが理解はしてくれたらしい。スペちゃんは再び立ち上がると、部屋から出るためにドアの方へと向かい出した。
「最後に、1つだけいい?」
「ん?どうしたの」
「御影さん、心配してたからさ。連絡だけでもしてあげて欲しいなって……」
そんなこと、自分でもわかってますよ。
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「ここにもいないか。はぁ……」
体育倉庫も探したが、どうやらいないようだ。コートについた埃を払いながらため息を吐く。ここにいないなら、もういそう場所に目星はない。
「スカイ……どこに行ったんだよ」
そうぼやいていると、ポケットの中のスマホが震える。取り出すと着信が来ていた。その画面を見て思わず顔がひきつる。母親からだった。本当は出たくないが、仕方なく電話を取る。
「もしもし、元気にしていますか?」
「……はい、今日はどうしましたか?」
電話越しに厳かな声が伝わってくる。昔から聞いてきた声だったが、未だに慣れそうにはない。そんなこちらの様子を知ってか知らずか、母親は言葉を続ける。
「単刀直入に言います。貴方の担当した娘が走ったこの前のレース、どうやら勝てなかったようですね」
どうやら知っていたらしい。いや、自分の息子が担当したウマ娘の結果だ。知っていて当然だろう。
「……すいませんでした。私の力不足です」
「そうですか。次は御影家の名に恥じないレースを期待していますよ。」
「――はい、もちろんです」
その声を最後に電話は切られた。それと同時に緊張の糸が切れる。
「はぁ、どうしろってんだよ……」
いくら焦っても、ため息しか漏れてこなかった。