「〜〜♪」
「おっはよ〜!」
早朝、鼻歌混じりに学園に向かっていると、後ろから元気のいい声が聞こえてくる。
「あぁ、先輩ですか。おはようございます」
そこにいたのはスーツ姿に後ろ髪をポニーテールにした童顔の女性。肩には仕事用のものであろうカバンをかけている。先輩トレーナーの足立里香であった。学園に勤務し始めたころから優しくしてくれている、面倒見のいい先輩である。
「で、なんかいいことでもあったのかい?」
「急にどうしたんですか?」
「いやね?君が鼻歌を歌ってるところなんて初めて見たから。そりゃ何かあると思わない方が不思議だよ」
足立先輩がニヤニヤしながら、いかにも楽しそうに尋ねてくる。そんなに分かりやすかっただろうか。まぁ、別に話しても困るものでもない、というより、こちらも誰かと喜びを共有したかったくらいだ。
「で、何があったの」
「先輩、実はですよ?」
「うんうん……」
気になると言わんばかりにこちらに身を寄せながら耳を傾けてくる。香水の匂いだろうか、柑橘系のいい匂いがして、少しドキッとした。
少し緊張しつつも、俺は口を開く。
「ついに、担当ウマ娘が決まったんですよ!」
そう言うと足立先輩は少し考え込むように顎に手を当て、何故かほおをつねると、怪訝そうな顔をした。
「……夢でも見てるのかい?」
「なんでですか⁉︎」
全く信じられていなかった。そんなに担当ウマ娘ができないと思われていたのだろうか……。
「だってねぇ……、いつもコーヒー啜りながらぼやいてただけの君がだよ?そんな急にウマ娘と仲良くなれるなんて……」
「先輩、意外と辛辣ですね……」
「はぁ……まぁいいよ、信じてあげよう。で、誰の担当になったんだい?」
足立先輩はため息を吐いたが、どうやら信じてくれたようだ。自分の信頼の低さに泣きたくなってくる。
「セイウンスカイって娘ですよ。あの空色の髪に垂れ目の」
「セイウンスカイ……あぁ、あの子か」
「あの子かって、知ってるんですか?」
「まぁ、ある意味で有名だからね」
「待ってください。ある意味で有名ってどういう――」
「まぁ、そんなことより、だ」
不穏な発言が聞こえた気がしたが、詳しく聞こうとすると先輩の声に遮られた。
「君、どうやってセイウンスカイと仲良くなったんだい?それに、彼女の走りのどこが気に入ったんだい?」
どうやらそこが気になるようだ。だが、そう言われても……。
「別に、仲良くなんてないですよ」
「は?」
俺がそう言うと、先輩の表情が凍りついた。肩にかかっていたカバンが滑り落ちる。そんなにおかしなことを言っただろうか……。
「じゃ、じゃあ、君はなんでセイウンスカイのトレーナーになったんだい?」
「確か……グラスワンダーに断られた後でしたね。そこにスカイが出てきて言ったんですよ。『私のトレーナーになりませんか』って」
足立先輩は頭を抱え出した。まるで、「これはヤバいな……」と言っているようである。
「あ、足立先輩、一体どうしたんですか……」
「なぁ、先輩として一つだけ言っておく!」
足立先輩に尋ねたが、全く聞く様子もない。それどころか、指を一本立ててこちらに忠告するように言ってきた。
「絶対に!担当ウマ娘のことを気にかけてあげるんだぞ!」
「は、はぁ……」
まだ気になることはあったが、先輩の迫力に気圧されてそれ以上尋ねることはできなかった。
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その日の放課後、トレーナーとして初めての指導の時間が来た。トレーナー養成所を卒業できた時に買ったジャージも着て、準備万端である。
校庭の端にいると丁度、校庭に授業を終えたウマ娘たちが出てきた。そろそろスカイも出てくるだろう。
――30分後、スカイは出てきていない。きっと何か用事があったのだろう。もう少し待ってみよう。
――1時間後、スカイはまだ姿を見せなかった。何か不味い事態でも起きたのだろうか。そんなことを考えつつも、すれ違いになることを恐れてもうしばらく待つことにした。
――2時間後、流石にここまで経って来ないのはおかしい。そう考えていると、ポケットに入れていたスマホが震えた。
今日は体調悪いので練習休みます❤️
from セイウンスカイ
スマホを叩き割ろうかと思った瞬間である。