「フッざけんなぁ!」
「まぁ……こうなると思ってたよ」
スカイがトレーニングをサボった日の夜、俺は足立先輩に連れられるままに居酒屋に来ていた。手にはビールの入ったジョッキ、足立先輩は項垂れる俺の背中を撫で続けてくれている。手の柔らかい感触が心地よい。
「それって、どういうことですかぁ……」
悪酔しているのか、自分の微妙に呂律の回らなくなった声で尋ねる。すると、先輩は困った顔で話し始めた。
「そうだな……まず前提としてだけど、なんでセイウンスカイは君をトレーナーとして選んだんだと思う?」
「え……そりゃ、俺のトレーナーとしての才能を見込んで……」
「君、意外と自信過剰だね……」
俺の言葉に、足立先輩は呆れるような表情で返す。
「それに、恐らくだけどセイウンスカイは君のことすら知らなかったと思うよ」
どういうことだ?普通は知らないトレーナーのことなんて選ばないはず……。
「じゃ、じゃあなんでスカイは俺のことを選んだんですか!」
「――君は、ウマ娘がレースに出るために必要なものを知っているかい?」
必要なもの……それは――
「トレーナー……ですか?」
「そう、その通り!」
先輩はこちらを指差しながらそう答えた。ということはセイウンスカイは――
「もしかして、レースに出たかっただけ……?」
「まぁ、そうだろうね。前にもいたんだよねぇ……。そうやって知らない同士で組んじゃった人が」
「因みに……そのコンビはどうなったんですか?」
「長くは持たなかったよね。トレーニングをしても全く噛み合わないし」
「……うわぁ」
素直に嫌な声が出た。俺たちもそうなってしまうのだろうか……。
「でもね、一番悲惨なのはトレーナーじゃなくてウマ娘の方なんだよ」
「と、言いますと……?」
「トレーナーはそれを教訓にして次から気をつければいいんだけど、ウマ娘たちはそれで自身を無くして走れなくなっちゃうこともあるからね」
もしかして、とんでもないことになってしまったのではないだろうか……。そう思い、冷や汗をかいていると、足立先輩はこちらに向き直り畏まった様子になる。そして、口を開いた。
「だからね、ちゃんとウマ娘のことを見てあげるんだよ」
その言葉は、耳に残り続けた。
――――――――――――――――――――――――――
足立先輩と飲んだ次の日の放課後、俺は再び校庭の隅にいた。周りにはトレーニング中らしいウマ娘が沢山いたが、スカイが姿を見せる気配は全くなかった。きっと、今日もサボるつもりなのだろう。
「……さて、行くか」
俺は軽く屈伸をすると、走り始めた。
最初に向かったのは、校舎裏のベンチだった。昼休みには生徒が昼食を取るようなスポットである。だが、そこにスカイの姿はなかった。
「次は……」
スマホを取り出すと、次に向かう場所を確認する。昨日のうちにスカイがいそうな場所に目星をつけておいたのだ。次は屋上か。そこまでの経路を考えながら、再び走り始めた。
――今の俺にできること、それはまずスカイを見つけることだった。いそうな場所にはアテこそあるが確証はない。それでも、何とか見つけなければならないのだ。
しばらく走り、屋上の扉の前に着く。息を整えてから扉を開けると夕日が差し込んできた。
屋上の中に入り見渡したが、スカイの姿は見当たらない。どうやらここでもないようだ。
―――さらに1時間ほど経った。既に夕日も沈みかけている。いろいろな場所を回ったが、スカイが見つかる気配は全くなかった。
「まぁ……今日はこんなもんか」
まだ終わったわけではない。明日こそ見つけてみせる。そう思いながら着替えるために校舎に戻ろうとした時だった。
「――あっ!」
「――へ?」
お互いに変な声が漏れる。校舎から出てきたスカイと鉢合わせたのであった。