Muv-Luv Alternative ~Free sky~   作:WH_Sino

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第二話

 上空から滑走路へと着地し、仮設基地から出ていくトラックを横目に関節をロックする。

 

「今からしばらくの休憩だ。各自、整備兵と話して次に備えろ。弾薬と推進剤の補給だけは忘れるなよ」

『『『了解!』』』

 

 部下へと指示を出し終え、俺も“右腕が捥げた”F-18Eの管制ユニットから身体を出す。

 右翼からの来たBETAとの戦闘を終え、次に備えていた俺達の元に司令部とは別の場所から指示があり、こうして仮設基地へと戻ってきたのだ。恐らく、俺達が戦っていた場所は既に最前線となっていて前線構築のために一時的に兵力を戻したのだろう。ただ、司令部とは別の場所からその指示が飛んできたという事は、予想通り司令部は既に崩壊したらしい。

 管制ユニットから降り、数時間ぶりに地面に足を付けた俺と入れ替わるようにウチの部隊所属の整備兵達がF-18Eへと群がっていく。

 

「こりゃまた派手にやってくれたな……」

「おやっさん」

 

 そんな整備兵を眺めていると、背後から白い髭が特徴的な中年の男性が話しかけてくる。

 俺の部隊で整備班長を務めてくれているベアード・アレックスだ。愛称はおやっさん。なんやかんやで長い付き合いだが、彼の事は詳しく知らない。ただ、整備兵全員に慕われており噂では最新鋭試作機の整備を担当していた事もあるとかなんとか。

 

「足の関節はガタガタ。腕に至っては片腕捥げてると来たもんだ。跳躍ユニットはノズル部分が焦げついてやがる……おまえさん、毎度毎度よくもまぁここまでボロボロに出来るな?」

「誉め言葉か?」

「どこをどう聞いたらそうなる!?」

「悪いとは思ってるよ」

「はぁ……本当にそう思ってるならもう少し機体を労わってほしいもんだな」

 

 コレも聞いた話だが、おやっさんは長年整備兵をやっているからか見ただけである程度の状況はわかるらしい。凄いを通り越して最早キモいの領域だと笑っていた整備兵は後日おやっさんに絞られていた。

 ちなみに右腕だが、74式近接戦闘長刀を振った時に捥げた。

 通常、関節の耐久が規定値よりもオーバーしたら自動的に手放すはずなんだが手放すのと同時に右腕の肘から先が74式近接戦闘長刀と一緒にブーメランのように飛んで行ったのだ。アレには前線という事も忘れて笑ってしまった。まぁ、使えない腕がブラブラと付いているよりも外れてくれた方がいいから結果オーライだろう。

 

「で、次の出撃までに直るか?」

「ったく……足の関節は簡易整備で誤魔化す事は出来るだろうな。左腕の関節はバラすしかないが……こうなる事は予想出来てたしな。既に予備パーツを準備してある。ただ、右腕がな……」

 

 俺のF-18Eに張り付いていた整備兵の一人が持ってきた報告書らしき紙を読みながらおやっさんは頭を掻きつつ説明してくれる。

 

「最悪、右腕は無くてもいいさ。片腕がない状況の戦場なんて今までも何回もあったしな」

「お前さんの場合は片足が吹っ飛んだまま戦った事もあったよな」

「あぁ! アレはマジで死んだと思ったな!」

「笑いごとじゃねぇ! 予備機を使えって言ったのに新兵に渡したのを今でも俺は覚えてるからな!」

 

 あの時は仕方なかった。俺達全員で出撃しなければ全滅していただろうし、新兵を不安が残る機体に乗せて出撃させるなんて論外だった。

 それに、F-4とかに乗るくらいなら片足がない使い慣れている機体に乗った方が実力を十分に発揮できると判断したんだ。一応松葉杖代わりの棒は付いてたし……まぁ、おやっさんにはこっぴどく怒られたけどな。

 

「俺は死なないからいいんだよ」

「はぁ……お前さんは結果的に生き残ってるからその自信が慢心だって言えないのが悔しいぜ……で、右腕だったな? ありゃ、肩から変えなきゃどうやっても無理だ。だが、不完全な機体で出撃させるってのは俺の整備兵としてのポリシーが許さねぇ。だから、どうにかしてやるよ」

「なら、安心だな。ちなみに次の出撃時間とかは入ってきてるか?」

「あぁ、ソレならコレだ」

 

 そう言って手に持っていたボードを俺に押し付けて来る。その動作に力が無駄に入っていたのは機体を壊した事に対するせめてもの怒りなんだろう。

 整備兵には整備兵の衛士には衛士の戦場があるという事をおやっさんは理解している。故に、壊した事に対する怒りなどを俺に直接向けて来る事はない。まぁ、実戦に限るが。

 

「そうか……ココも放棄するのか」

「ああ。そのせいでコッチもドタバタしてる」

「道理でココから出ていくトラックの数が多いと思ったよ。で、次の任務はこの基地から撤退する仲間の護衛か」

 

 渡された指令書を読みつつ、前線で入ってこなかった現状を把握していく。

 やはり、俺達の前で戦っていた第一線担当部隊は壊滅したらしい。人類側の損耗率は74%で民間人退避率は67%か……。

 

「残った民間人は?」

「……出来るだけ現地軍が回収する事になってる。だが、さっきまで前線で戦ってたお前さんならわかるだろ?」

「まぁ、な……」

「仕方ないとはわかっていても、嫌なことだ」

 

 おやっさんはそれだけ言い残してF-18Eへと歩いて行く。

 そんな後ろ姿を眺めながら管制ユニットを降りる際に羽織っていたフライトジャケットのポケットから煙草とライターを取り出す。煙草を咥え、火をつけて一服。

 

「この瞬間が一番生きてるって感じがするな……死んだら煙草も吸えないし」

 

 紫煙を吐き出しながら俺も仮設テントへと足を向ける。

 ここに居たとしても衛士である俺に出来る事など無いし、何よりも整備兵達の邪魔になってしまうからだ。

 整備兵には整備兵の戦場がある、そういうことだ。

 

 

 仮説テント出入口に設置されている灰皿に吸い殻を放り込んでから中に入ると、そこには副長が両手でマグカップを持ってパイプ椅子に座っていた。

 

「よぉ」

「……! 隊長!」

「あぁ、そのままでいいよ。休憩時間なんだからしっかり身体を休めてくれ」

「あ、はい」

 

 立ちあがって敬礼をしようとした副長――アメリア・ウィンスレット少尉を制しつつ向かいに置いてあったパイプ椅子に腰かける。

 軋む音を立てながら座った俺の前にマグカップが置かれた。見上げてみればいつの間にか立ちあがったアメリアが俺の分も紅茶を淹れてくれたらしい。

 

「あぁ、すまん」

「いえ、私が好きでやっている事なので」

 

 そうニコリと笑ってアメリアは向かいのパイプ椅子に座りなおした。

 アメリアともこの部隊が設立されてからの付き合いだからそれなりな長さになる。最初は新兵に毛が生えた程度だったが、今では準エースと言われるレベルまで上がったんだから大したものだ。

 長いブロンドヘアを流しながらマグカップを傾ける彼女は絵になっており、ここが前線でなくどこかの街ならば絵描きが筆を取るだろう。ほんと、なんで衛士なんてやってんだろ?

 ちなみに、前に一度だけ聞いたのだがイギリス出身で年齢は17歳。元々はオペレーター志望だったがある時に衛士学校に入ったらしい。何故衛士学校に入ったのかは聞いていないが、いつかは聞いてみたいとも思う。

 そんな事を考えながらアメリアを凝視していたからか、彼女は小さく首を傾げた。

 

「あの……私の顔に何か付いてますか?」

「あぁ、いや、そういうわけじゃないんだが……」

「あっ、そういえば隊長は珈琲派でしたね……すいません、癖で紅茶を……」

「あぁいや! ソレとも違うから大丈夫だ!」

 

 一気に紅茶を口の中に流し込む。

 予想よりも熱かった紅茶は口内を光線級ばりに焼いたが、そんなものは些細な事だ。

 

「そんな一気に飲んだら口を火傷しますよ……?」

 

 残念ながら俺の口内はもう火傷している……。

 

「そんな事より、他の奴らが見えないが?」

「二人なら仮眠室で睡眠を取ると言ってましたよ? 次の出撃がいつになるかわからなかったので一応止めはしたのですが……」

「なるほど。まぁ、あいつらなら大丈夫だろ。ちなみに、次の出撃は予定では四時間後だ」

「任務内容を聞いてもよろしいでしょうか?」

「問題ない。俺達の任務はココを脱出する人員及び物資の護衛だ。目的地は近場の港だな」

「道中の補給等はありますか?」

「距離が距離だから無いって事はあり得ないだろうが、進行速度を考えると恐らく最低限になるだろうな」

「では、弾薬は多めの方がいいですね」

 

 アメリアのポジションは強襲掃討(ガン・スイーパー)だ。アメリカ人の癖に射撃があまり得意ではない俺とは違って百発百中とまでは行かないがかなりの射撃精度を誇る彼女には合っている。ちなみに俺は強襲前衛(ストライク・バンガード)だ。突撃前衛(ストーム・バンガード)でもよかったんだが、92式多目的追加装甲の代わりに74式近接戦闘長刀を持って行こうとしたら整備兵に泣いて辞めてくれと言われたから強襲前衛装備になった。

 余談だが『そんなに長刀が好きならF-4Jの手配でもしてやろうか?』とおやっさんに言われたが、アレは機体が重すぎるから辞退した。橋頭保確保が主な任務となる俺達にとって速度とは命であり、何よりも俺の衛士適正は機動力にガン振りしているからだ。

 

「長刀を両手に持って突っ込めたらもっと殲滅力が上がると思うんだけどなぁ……」

「隊長……その発言を整備兵達に聞かれたら“また”泣かれますよ……?」

 

 おっと、心の声がどうやら出てしまっていたようだ。

 

「隊長は戦闘中とそうでない時とでギャップが激しいですよね」

「そうかぁ……? 俺としては変わらないつもりなんだけどな」

「知らぬは本人ばかりなり、という言葉があります」

「アメリアは物知りだな……ちなみにどこの言葉だ?」

「日本ですね」

「あそこは難しい言葉が多いな……」

 

 アメリアはしょっちゅう難しい言葉を使う。一体、どこで覚えて来るのかと聞いたら趣味の読書で学んでいると言っていた。

 俺も本は読むが技術書等が多いため、そういった言葉を覚える機会などない。

 

「あっ、そういえば新しいのを淹れていませんでしたね。次は珈琲にしますか?」

「ん? あぁ……いや、紅茶で頼む」

「――! わかりました!」

「そんな張り切らんでも……聞いてないな」

 

 席を立ったアメリアが俺の前に置かれたマグカップを持って近くに設置されている紅茶やら珈琲やらが置いてある台へと向かう。彼女は紅茶に並々ならぬ拘りがあるらしい。まぁ、そのお陰で合成とは思えない程に美味しい紅茶が飲めるわけだが。

 はてさて、鼻歌交じりに紅茶を淹れているアメリアの背中を見ながら今後の事を考える。

 俺の部隊で残っているのは全部でたった五機のみ。流石に護衛任務は俺達の部隊だけって事はないだろうが、恐らくどこも同じような感じだろう。そういえば、帝国陸軍(インペリアル・アーミー)の援軍も居ると聞いているが戦場では会わなかったな……ただ、ここに帰ってくる途中で見て来た戦術機の残骸に見た事がない“白い機体”を数機見た。

 いや、そもそも帝国陸軍に白い機体なんてあったか……? パッと見た感じはF-4Jのようだったが明らかに違う。だが、あのゴテゴテとした感じは間違いなく第一世代機だった……帝国陸軍の新型だったのか?

 

「また何か考え事ですか?」

「ん……」

 

 目の前にマグカップが置かれるのと同時に声が掛かる。

 そうだ。アメリアにも確認してみよう。

 

「ここに帰ってくるまでに戦術機の残骸を見たよな」

「そう、ですね……少なくとも15機は見たと思います」

 

 あぁ、考え事に集中してて忘れてた。アメリアは人の死に結構敏感なタイプだったな……。

 だが、ここで言葉を切るのもアメリアに失礼だし全部言ってしまおう。

 

「その中に白い機体があったのは確認したか?」

「はい。肩に日の丸がペイントされていた事からも帝国陸軍機でしたね」

「ソレなんだが、帝国陸軍にあんな形状で白い機体なんてあったか?」

「――! 言われてみると、記憶にないですね……」

「だよな……残骸を持ち帰れればよかったんだが」

「仕方ありません。いつBETAがこちらに来るかもわからない状況で骨は拾ってあげられませんから……」

「そう、だな」

 

 そういう意味で言ったわけではないんだが、わざわざ訂正する必要もないか。

 骨を拾ってやりたかったという気持ちも無いわけではないしな。

 

「ま、考えても仕方ない事か」

「そうですね。ところで、隊長」

「ん? ……げっ」

 

 紅茶を一口飲んで顔を上げると、そこには笑顔なのに激怒しているとわかるオーラを出しているアメリアの姿があった。

 

「私が言いたい事、わかりますよね?」

「え、えー……」

「隊長の戦い方は二か月の間ですが嫌と言う程理解しています。で・す・が! アレだけ一人で突出するのは辞めてくださいと言いましたよね!?」

「いや、ほら、アレが俺にとってベストな戦い方というか……」

「だとしてもです! 一人だけ突出してBETAを誘引するなんて常識外れもいいところなんですよ!?」

「えぇ……? 案外、どこもやってるんじゃないか?」

「隊長みたいな変態が他にいるわけないじゃないですか!」

「変態って……いや、いつもみんなに言われるけどさ……俺はそこまで変態的な事をやってないと思うんだよ」

「知らぬは本人ばかりなり、ですね……」

「あ、さっき聞いた言葉だな。日本の言葉らしいぞ」

「茶化さないでください! 隊長、戦術機の最小戦闘単位は二機(エレメント)なんですよ!?」

「へぇ……初めて知ったわ」

「絶対に嘘ですよね……というよりも、私たちが誤射したらどうするんですか?」

 

 確かに、俺の戦い方は誤射の可能性を著しく高めているだろう。そもそも、対BETA戦術として一機だけ突出するなんていうのは通常あり得ないのも理解している。

 だが――。

 

「お前たちに誤射されて死んでも恨みはしないさ。それに、俺の行動で少しでも部隊が生き残る可能性ってのが生まれるなら俺は喜んでやる」

「隊長……」

 

 そう、少しでも部隊員が生き残る可能性が上がるのであれば誤射など怖くない。

 自分が死ぬ事よりも仲間が死ぬことの方が何百倍も怖いのだ。誰かの死に際を看取るなんてのは戦場において日常茶飯事だが、それでも少ない方がいいに決まっている。

 

「隊長の気持ちは理解しているつもりです……ですが、隊長が死んでしまったら私は――」

 

 アメリアが最後まで言葉を発する前に至る所に設置されているスピーカーから腹に響くような警報が鳴り響く。

 

「「――!!」」

『総員、第二種戦闘配置。衛士は速やかに戦術機に搭乗し、指示を待て。繰り返す。総員、第二種戦闘配置――』

「アメリア!」

「はい!」

 

 警報が聞こえた瞬間、俺とアメリアは戦術機が待機している滑走路へと走り出していた。走りながら周りを見てみれば、他の連中も全力で走って持ち場へと向かっている。

 滑走路へとたどり着くと、そこではおやっさんが整備兵に大声で指示を出していた。

 

「おやっさん!」

「来たか! 他の奴らはもう搭乗してる! 嬢ちゃん(アメリア)も早く乗れ!」

「はい!」

 

 アメリアと一瞬だけアイコンタクトをし、それぞれの戦術機へと向かう。

 俺のF-18Eは右腕が付いてなかった。

 

「間に合わなかったか」

「お前らが帰ってきてからまだ1時間とちょっとしか経ってねぇからな……安心しろ、ギリギリまで粘ってやる」

「そこは自分の命を優先してほしいけどな……」

 

 そんな言葉を交わしながらも膝立ちで待機しているF-18Eへと乗り込む。

 主機を入れ、回って来た指示書に目を通しているとアメリア含む三機のF-18Eが俺を囲むように展開する。どうやら、こっちの整備が終わるまで時間を稼ぐつもりのようだ。

 

「アメリアには“また”負担を掛けるな」

「そう思うならたまには大人しく戦ってやったらどうだ? 嬢ちゃんだって繰り上げで副長なんてやってるんだしな」

「考えておくよ」

 

 指示書をおやっさんに渡しながら自分の部隊へと通信を繋ぐ。

 

「各機、周辺警戒をしつつ聞け。どうやら、ここから遠くない場所で数体の戦車級が発見されたらしい。その個体は全て殲滅済みだが他にも漏れて来たヤツが居るかもしれない。故に警戒を怠るな。見つけ次第、殲滅しろ」

『『『了解!』』』

02(アメリア)、見ての通り俺はすぐには動けない。その間の指揮は任せた」

『了解!』

 

 コレでひとまずは大丈夫だろう。

 こちらからの通信を切り、レーダーを睨みつけながら管制ユニット付近で作業しているおやっさんに声を掛ける。

 

「終わるまでにあとどれくらい掛かる?」

「少なく見積もっても30分って所だな。幸い、足の関節は終わってるから右腕をくっつけて調整するだけだ」

「調整はしなくていい。とりあえず動けば後はこっちでどうにかする」

「……わかった」

 

 苦々しい顔で頷くおやっさんには申し訳なく思うが、こっちも自分が戦えないから仲間が死にましたってのだけは勘弁したい。

 それからしばらく無言でレーダーを見ていると、格納庫から一台のトラックが走ってきた。右腕は既に取り付け作業を開始しているし、アレは一体……?

 

「02、ウチの部隊に補給品が届く予定はあったか?」

『いえ。最初に支給された物以外に追加で届く予定はありません』

「となると、アレは“厄介ごと”か……?」

 

 アメリアに確認を取っていると、走ってきたトラックは丁度俺が乗るF-18Eの隣に止まった。

 運転席側のドアが開き、中からは人の良さそうな若い男性が降りて来た。ただ、服装が何故かスーツでありこの戦場には似つかわしくない。と言うよりも、完全に浮いている。

 

「どうも、こんにちは。ブラッド・エーカー大尉ですね?」

 

 スーツ姿の男性はゆっくりと管制ユニットの方へと歩いてきてそう言った。

 好感が持てる所は整備兵の邪魔にならないように少し離れた位置から声を掛けて来た所だろうか。いや、てか、第二種戦闘配置の命令が出てるんだぞ? 言ってしまえば、ここは既に前線だ。そんな中を悠々と歩いてくるなよ……。

 

「ああ、間違いなく俺がブラッド・エーカーだが……アンタは?」

「これはこれは、失礼しました。私、とある戦術機メーカーの営業マンです。ワケあって企業名と名前は言えませんが」

「そりゃ、怪しい事で……」

 

 思わず口から本音が出てしまったが、男は気にした様子もなくクスクスと笑った。

 

「それで? 戦術機メーカーの営業マンが俺に何か用か?」

 

 管制ユニットから身を乗り出し、チラリと横を見てみればアメリアが乗るF-18Eが先程よりもこちらに近づいているのが見えた。

 恐らく、俺と一緒で目の前に居る男が怪しいと思ったのだろう。何か不審な動きがあればすぐさま対処するという意思が伝わって来ている。

 

「ブラッド・エーカー大尉は生まれがアメリカでありながら近接戦闘が得意とか」

「どこから聞いてきたやら……まぁ、間違ってないが」

「そんな大尉に是非とも使って頂きたい武器があるのです」

 

 そう言って男が片手を上げると、乗って来たトラックの荷台が重い音を立ててゆっくりと解放される。

 

「長刀……?」

 

 中から姿を現したのは一振りの長刀……見た目は74式近接戦闘長刀に似ているが刀身に“反り”がない。柄から剣先まで真っ直ぐだ。

 

「――! コイツは……」

「おやっさん……?」

「なんでコイツがココに……いや、待て。という事は、アンタもしかして……」

「ふふ……」

 

 荷台から出て来た長刀を見たおやっさんは何やら呟いてから男を見た。

 その目は明らかに『信じられない』と語っており、見られた男は小さく微笑むだけだった。

 これらの事から察するに、どうやらおやっさんはあの長刀について何か知っているようだ。

 

「おやっさん、アレを知ってるのか?」

「あ、あぁ……アレは――」

「おっと、ベアード・アレックスさんその先は言ってはいけませんよ。我々としてもそちらの部隊としても凄腕の整備兵が居なくなってしまうのは嫌でしょう?」

「……そういう事だ。ブラッド、すまねぇ」

「いや……大丈夫だ」

 

 どうやら、予想通り“面倒事”に巻き込まれたみたいだ。

 長刀を見て、男を見て――最後に苦い虫を嚙み潰したような表情のおやっさんを見た。

 

「――俺は、ソレを使って実戦の情報を取ればいいんだな?」

 

 気付いた時には声を発していた。

 別に、俺が断る分には大きな問題にはならなかったのかもしれない。だけど、何となく断るべきではないと感じた。男が何者かはわからないが、背後はデカイと思ったからだ。

 

「話が早くて助かります」

「わかった。収集したデータはどうすればいい?」

「ベアード・アレックスに渡してください。彼ならば“どこに送ればいいか”知っていると思うので」

「わかった」

 

 短く返事をすると、男は「では、お願いしますね」と言ってその場を去っていった。どことなく、存在感がないヤツだった。

 例えるならば、街中ですれ違ったとしても絶対に気付かないような稀薄な空気。営業マンというのは絶対に嘘だろう。

 

「すまねぇな……」

「おやっさんのせいじゃないだろ。俺としても、使える武器が増える事に文句はない」

「……」

 

 アメリアに対して右手を振ると、彼女が乗るF-18Eは定位置にゆっくりと戻っていく。

 話している間もレーダーに目を向けていたが、BETAが侵入してくる気配は無さそうだ。

 

「大尉、一回主機を落としてもらってもいいですか?」

 

 整備兵の一人がこちらの話が終わったタイミングを見計らったように声を掛けてくる。ソレに答えるように主機を落とすと近くに止まっていた重機が動き始めF-18Eに取り付けられようとしている右腕の調整を始める。

 チラリと見てみればおやっさんは整備兵に指示を飛ばしていた。

 

(戦術機メーカー……あの顔つきからして恐らくアメリカだろうな……だとすると、コイツは次期戦術機に搭載される予定の武装か?)

 

 管制ユニットのシートに深く座りながら考えてみると、意外と合ってそうな気がした。

 それにしても……アメリカが長刀を導入するとはな……近接戦闘なんて正気じゃないとか言ってる奴らなのに一体何があったのか。

 

「ま、そこは俺が気にする所じゃないか。所詮は一介の衛士だしな」

 

 戦場には余計な思考を放棄し、作業が終わるまでレーダーを睨みつける。

 時折入ってくる通信にはどのエリアも異常なしと入ってきている。ただ、BETAの行動を予測する事は不可能だから油断なんて出来ない。

 

「大尉! 作業、終わりました!」

「了解した」

 

 時間にして45分後、右腕の取り付け作業が終了した。この間、BETAが来なかったのは幸運と言っていいだろう。

 シートに座りなおし、腹に力を入れる。

 脳内でスイッチを切り替え、スッと正面を見た。

 

「主機、機動開始……ハッチ閉鎖」

 

 低い唸り声のような音と共にF-18Eに命が宿る。ハッチが閉まり、先程まで見えていた景色が微かな光に照らされたコックピット内へと変わる。

 

「システムチェックスタート……完了。デバイスチェックスタート……完了。マシンコンデション、確認」

 

 網膜投影に表示される情報が増えていく。

 関節系は整備兵達が頑張ってくれたお陰で問題無さそうだった。

 

「OS、起動。強化装備接続、パーソナルデータのフィードバック開始――コンプリート」

 

 起動手順を踏んでいく。

 もしも、ここで何かしらの不具合が出た場合は早急に対処しなくてはならない。いや、状況によってはそのまま出る事だってある。

 まぁ、そのあとにおやっさんとアメリアに怒られるまでがテンプレだが……一応、俺って上官なんだけど。いや、かたっ苦しいのが嫌いだからそういう雰囲気でやってきたのは俺だけどさ。

 

「FCS起動、兵装自動登録開始」

 

 どうやら、あの男が持ってきた長刀は既に整備兵によって背部マウントに装着されていた。

 兵装自動登録時に見えた名称は“XCIWS-2B”となっていた。

 記憶をひっくり返してみても、やっぱり聞いた事がない武器だった。

 

「跳躍ユニットマネージャ接続開始……成功。HQ設定、各データリンクスタート」

 

 視界が広がった。

 戦術機が見ている物が網膜投影によって俺の目に映し出される。愛機であるF-18Eと一心同体になったんだといつも感じさせられる。

 

「ブートシークエンス、コンプリート……おやっさん!」

『了解! 野郎共!!』

『『『了解!』』』

 

 おやっさんの声に整備兵達は一斉に俺が乗るF-18Eから離れていく。

 その速度は徒歩、重機、トラック関係なしに機敏な物だった。

 

「出るぞ!」

『生きて帰ってこい!』

 

 サムズアップをするおやっさんに見えないだろうけどコックピット内でサムズアップを返してからF-18Eを立ち上がらせた。

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