Muv-Luv Alternative ~Free sky~   作:WH_Sino

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第三話

 F-18Eの管制ユニットの中でレーダーを睨みつけていると、司令部から通信が入った。

 

『HQより“エンリル”01へ。只今を持って作戦を開始する。今から仮設基地を出るトラックに追従し指定された港まで迎え』

「エンリル01了解」

 

 通信と共に送られてきた座標位置を確認し、仮設基地から出る最後のトラックを視認する。

 

「これより作戦を開始する。事前に通達されていた通り、前は別の部隊が守ってくれるらしい。俺達は最後尾――つまり、殿だ。決して楽な立ち位置じゃないという事を自覚して任務に臨め」

『『『了解!』』』

「よし、行くぞ」

 

 トラックの左右後ろを囲むようにF-18Eが展開し、トラックの速度に合わせるように移動を開始する。

 俺の立ち位置は最後尾だ。コレには理由があり、俺自身の戦い方が“お一人様専用”という事があり2:2で分かれる左右にはあまり向かないからだ。まぁ……誰かと連携を取る戦い方も出来るが自身の能力を全て使うのであれば一人の方がいいだろう。それに、俺の機動についてこられるヤツはどうしても限られてくる。

 そんなこんなでレーダーを見つつ撤退を開始し始め、ちょこちょこ出て来るBETAをアメリア含む部隊員が排除するの何回か眺めているとようやく道を1/5ほど進んだ地点に到着する。

 戦術機単体であれば早く着く距離でも、トラックに合わせるとなるとどうしても時間が掛かってしまう。

 

『いやぁ、あなたの部隊は連携・個人の力量共に素晴らしいですね』

「秘匿通信……? トラックからか。てか、その声まさか――」

 

 急に繋げられた秘匿回線から聞き覚えのある声が聞こえて来た。

 まさかと思いつつ繋げると【SOUND ONLY】と表示された画面が映り、そこからどこか楽しそうな男性の声が聞こえて来た。

 

『先程ぶりです、ブラッド・エーカー大尉』

「ああ……まさか、護衛対象がアンタだったとはな」

『私も驚きました。偶然とはあるものですね』

 

 その声はまさしく、俺が乗るF-18Eの背部兵装担架に付いている見た事がない形状の長刀を渡してきてデータ取りをしろと脅してきたスーツ姿が印象的な男のものだった。

 偶然とか言っているが、確実にコイツが何かしら手を回したのだろう。

 

『それよりも、貴方は戦わないのですか?』

「俺の戦い方は燃費が悪いんでね……それに、戦う回数が少ない方がそっちとしては安心できるんじゃないか?」

『それはそうなのですが、“色々と噂が多い”貴方の戦い方を直に見てみたくてですね』

 

 色々と噂が多い――ソレは、いつ頃から出て来たものかはわからないが、俺の戦術機機動が他と違う事で変態やら変人やらの称号を始め『アイツはレーザーを全て避ける』『アイツはBETAの群れに単騎で放り込まれても死なない』『アイツは大破した戦術機でBETA師団を相手に出来る』などなどの噂が多い事を言っているのだろう。

 流石に大破した戦術機で師団は無理だろ……レーザーは避けれるけど。

 

「ご期待に沿えなくてすまないな」

 

 皮肉をたっぷりと込めて言うと、男は何が面白いのかクツクツと笑い声を漏らした。

 

『いえいえ、道はまだ長いですからどこかで見る事も出来るでしょう』

「あんた……生きて帰りたくないのか?」

 

 おっと、思わず本音が出てしまった。

 だが、この戦場をどこか楽しんでいそうな声色の男性に俺はどこか違和感を感じてしまう。まるで、自分が死ぬことを厭わないような……自分は絶対に死なないと確信しているような感じだ。

 

『まさか! 私だって生きて帰りたいですよ。とても大切な物を運んでいますしね』

 

 男の言葉でチラリとトラックを見てみれば、俺の元に長刀を運んできたトラックとは別の物だった。

 荷台部分の幅が広く、縦に長い。まるで、戦術機ならすっぽりと一機くらい入りそうな――いや、コレは戦術機輸送トラックじゃねぇか。

 

「そうか……」

『おや? 深く聞いてこないんですね』

「俺は軍人だからな……面倒事には首を突っ込まないようにしてるんだ」

 

 気にならないわけではないが、間違いなく答えは返ってこないだろうし何よりも聞いたら最後戻れなくなりそうだ。

 

『素晴らしい……貴方はどうやら素直な人のようだ。とても私も“この子”もとても好感が持てますよ』

「この子……? あぁ、いや、忘れてくれ」

 

 思わず口から洩れてしまった疑問を慌てて取り消す。

 無いとは思うが、コレでもしも答えられてしまったら大変だ。

 

『隊長』

 

 男と会話していると、そこにアメリアからの通信が入る。

 

「どうした?」

『地点Bをたった今通過しました。前方部隊からの通信によるとBETAの奇襲が多くなっているそうです』

 

 言われて辺りを見渡してみると確かにBETAの死骸が多くなっている事に気付いた。

 どうやら、男と会話をしていたせいで注意力が散漫になっていたようだ。コレでは隊長失格だ。

 

「了解した。一応、こっちでもレーダーを見張っておくが全員今まで以上に油断せずに行くぞ」

『『『了解』』』

 

 どこの口が言うのかと思いつつ指示を出し、頭を振って集中しなおす。

 俺の注意力散漫なせいで味方が死ぬなどあってはいけない。

 

『それと、隊長』

「ん……?」

 

 レーダーを睨みつけていると、アメリアがどこか遠慮がちに声を掛けてくる。

 他にも何かあったのか……?

 

『遭遇するBETAは出来るだけ私たちで対処しますので、あまり前に出ないようにお願いします』

「は……?」

『隊長の機体は万全ではないですし、何よりも光州作戦が始まってから誰よりも前で戦ってきました。流石に疲れが溜まっているのでは、と……』

「……そんな事は気にしなくていい。俺の事よりも自分の心配をしておけ」

『……っ、申し訳ありません、出過ぎた発言をしました。アメリア少尉、任務に戻ります』

 

 そう言ってアメリアは通信を切った。

 心配してくれるのは嬉しいが、それでアメリアが死んだら意味がないだろう。そんな思いがつい出てしまって強く言ってしまったが俺の本音だから受け入れてもらおう。

 

『いい副隊長ですね』

 

 アメリアとのやり取りでもやもやした物が胸に残ってしまい眉間に皺が寄っている俺に男がそんな事を言ってくる。

 コイツ、通信切って無かったのか……てか、さりげなくこっちの通信を盗み聞きしやがった。

 

「自慢の副長なんでね。それよりも、通信切るぞ」

『ええ。これからの道中もお願いしますね。まぁ、心配はいらないと思いますけど』

 

 その言葉を最後に俺は通信を切った。

 どうにも、この男と話していると調子を乱される気がしてならなかった。

 

 

 アレから頻度が増えたBETAを倒しつつも俺達は港へと向かって進んでいた。

 ちなみに、今のところ俺は一回も戦っていない。というのも、遭遇する回数が増えたと言っても本当に少数のBETAがちょこちょこ出て来るだけであり近接戦特化の俺が出る前にアメリア達の突撃砲によって始末されてしまうからだ。

 一見順調そうに見える行軍だが、アメリア達の残弾も気になる。

 

「そろそろ、俺も――」

 

 警報が管制ユニット内に鳴り響く。

 レーダーを見てみれば、背後から迫ってくるBETA群が表示されていた。

 

『隊長!』

「お前たちはそのまま行け! 後ろのは俺が始末する」

 

 言うが早いか俺は機体を反転させ、背後から迫ってくるBETAへと向き合う。

 戦車級20に要撃級3で構成された少数のBETAだ。コッチは一回も戦っていない事で推進剤と弾薬は残っているから余裕だろう。

 その場に右手で保持していた長刀を突き刺してからF-18Eを飛び上がらせ、戦車級へと36mmを乱射する。数は少ないが纏まっていた事もあってある程度処理する事が出来た。そのまま着地し、要撃級にも36mmを叩きこみ1体撃破する。

 

「――」

 

 跳躍ユニットを一瞬だけ吹かす事でF-18Eをターンさせ、流れで要撃級の背後を取り36mmで倒す。

 

「あと1……」

 

 直感で要撃級が背後で腕を振りかぶっているのがわかる。

 膝に付いているナイフシースから短刀を引き抜き、右手で振り向くのと同時に投擲しようとし――

 

「……!」

 

 ――右腕の反応が鈍った事で咄嗟に跳躍ユニットを吹かして移動し要撃級の腕を避けてから36mmで処理する。

 鈍った……というよりも入力してから動きだすまでに遅延があった。ソレは0.5秒ほどの遅延だったが感覚とズレるのは間違いなく、もしもあそこで投擲したとしても外していた可能性が高いだろう。そうすれば振り下ろされた腕で俺がダメージを受けるのは勿論のこと、最悪飛んで行ったナイフがトラックかアメリア達に当たる可能性もあった。

 最初から避けてから36mmで始末すれば良かったんだろうが、長らく前線で戦っていた弊害か推進剤をケチる癖があるための行動だったが今回は悪い方へ転びかけた。

 

「なんだ……? 突貫でくっつけたからか……?」

 

 何となく嫌な感じだ。背後から死神に見つめられているような薄ら寒い雰囲気を感じつつも残った戦車級を処理し、地面に突き刺した長刀を回収しつつトラックへと合流した。

 ちなみに、長刀を置いていったのは振れる回数に制限があるためだ。出来るだけ使うのは後にしたいし、振れないのであればただの重りでしかない。

 

『お疲れ様です』

「ああ……」

『どうかしましたか?』

「いや、何でもない。それよりも前を行ってるやつらの言うよりもBETAの奇襲が多くなってきてる。こっからは俺がトラックの直掩(ちょくえん)に入る。残りは散開しつつBETAの対処に当たれ。抜けて来た奴らは俺が対処するから無理はするな」

『了解!』

 

 合流し、アメリアに今後の指示を出してから主脚移動へと切り替えてトラックの隣へと着く。

 ふと、視線――先ほどの死神とは違うものを感じてトラックの方を見てみれば、スモークガラスの向こう側からだった。スーツの男は恐らく運転席に乗っているだろうから、助手席側に乗っている“誰か”の視線に居心地の悪さを感じる。まるで、俺の内心を全て見透かしているような視線に思わず主脚移動の速度を落としてしまうくらいだ。

 

『気に入られたみたいですね』

「……俺、通信は切ったよな? ナチュラルに繋げてこないでくれ」

『おや? そうでしたっけ? 私の方は“ずっと”繋がっていましたよ』

 

 コイツ、何をどうやったのかわからないが俺たちの通信を傍受していたらしい。

 

「そもそも、こうやって喋ってる事自体マズイんじゃないのか? ログが残るぞ」

『そこら辺はご安心ください。私たちの会話はログに残らないようになっていますよ』

「……深くは聞かないでおく。知ってしまったら戻れなくなりそうだ」

 

 肩を竦めて言った言葉に男は何が楽しいのかクツクツと笑う。

 その態度に少しだけイラッとしたが、コイツとの付き合いもこの任務中だけだと思う事でどうにか表に出さずに済んだ。

 

『隊長、地点Cの通過を確認しました』

「ああ、コッチでも確認した。コレでようやく折り返しか」

 

 予定よりは少しだけ遅いが、ここまでは順調と言っていいくらいには進めている。コレは俺達の前を別部隊が進んでくれているというのもあるが、トラックの進行速度が予想よりも早い事が大きいだろう。なにせ、男が運転するトラックは俺達がBETAと戦っている間も決してスピードを落とさずに進んで行っているのだ。俺達を信頼しているからか……もしくは、死ぬのが怖くないネジが外れたヤツなんだろう。

 

『そういえば、あなたが乗る機体の右腕は大丈夫なんですか?』

「なんのことだ?」

『ふふ、誤魔化しても無駄ですよ。先程の戦闘で貴方は最後の要撃級を倒す際に右腕でナイフを投擲しようとして辞めた。理由は色々と予想する事は出来ますが、あの動作はとても洗礼されている物でした。つまり、ソレだけあなたがこれまでの戦いであの動作をしその実戦データがパーソナルデータに蓄積されているということです。ですが、そんな行動をあなたは途中でやめた』

「ナイフが惜しくなっただけかもしれないし、何だったら途中で気が変わったのかもしれない」

『面白い事を言いますね。あなたの経歴は全て読ませて頂いていますが……どの戦場も酷いものでした。そんな現場叩き上げ大尉であるあなたがナイフ一本を惜しむ? ましてや、自分の判断を途中で切り替えた? あり得ませんね。そんな事をしている衛士は早死にします』

 

 淡々と――それでいて、どこか楽しそうに男は語る。

 これらの理由からお前が乗ってる戦術機は右腕がおかしいんじゃないか、と。気分は裁判長に詰められる罪人だ。

 

「参った。降参だ。確かに、あんたが言う通り右腕の調子がおかしい。だが、戦えない程じゃないし、そんな事を一々気にしていたら戦ってられない。つまり、何が言いたいかというと……あんたの事はきちんと港に送り届けるから安心してくれ」

『その点に関しては心配していませんよ。あなたは絶対に私を送り届けてくれるでしょう。いえ、私だけなく部隊の仲間も――おや?』

 

 男が言葉を途中で区切ったのを不審に思ったのも束の間、視界に表示されている震度計が異常な数値を叩きだし始めた。

 なんだ……? 地震? いや、コレはそんな生易しいものじゃない……。

 

「――全機、退避!!」

 

 勘だった。

 何となく、そう指示しなければならないという本能に従って出た言葉だったが部隊員が全機その場から飛び退いた瞬間に地面が爆ぜた事でソレは正しかったと実感する。

 

『た、隊長……』

「ああ……わかってる」

 

 普段は冷静沈着なアメリアの声が震えている。

 それもそのはずだ。突如として俺達を囲むように地中からBETAが這い出て来たのだから。

 

「コレは……絶体絶命ってやつだな……」

 

 操縦桿を握りなおしながら、俺は一人呟いた。

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