Muv-Luv Alternative ~Free sky~   作:WH_Sino

5 / 5
第四話

 地響きと突撃砲が織り成す音をBGMに目の前に居る要撃級へと長刀を突き刺す。ソレと同時に左手は保持耐久限界と達し長刀を自動的に手放す。

 

「大人しく死んでろ!!」

 

 長刀が刺さっても尚、動こうとする要撃級に対して刺さっている長刀の柄を蹴って押し込む事でトドメを差す。

 

「クソッ、一回の量は多くないがこうも継続的に来られると面倒だな……!」

 

 悪態を吐きつつもアラートに従って機体を左へとステップさせ、今まさに飛びつこうとしていた戦車級を避ける。

 俺達は絶賛、地面から出て来たBETAと戦闘しつつ港へと移動していた。護衛対象のトラックには俺以外の全員を付かせ、こっちは単騎で殿を務めている。

 

『隊長!』

「――!」

 

 アメリアの言葉で咄嗟に機体を大きく動かす。

 管制ユニット内にうるさいくらいのレーザー照射警告が鳴り響く。その数秒後には俺が立っていた場所に一本の光が通過し、この暗い地上を眩しいくらいに照らす。

 

「報告!」

『全機無事です!』

「インターバル中に出来るだけ射線を切れる場所まで移動しろ!」

『了解! 隊長は!?」

「こっちはどうにかする! 急げ!!」

『……っ! 了解!』

 

 光線級の照射インターバルは12秒ある。その間に俺は周りのBETA共を適度に減らし、機体を動かせるだけの隙間を作り出す必要がある。

 

「邪魔だってんだよ!」

 

 兵装担架から取り出した突撃砲を撃ちながら出来るだけ障害物を視界に入れつつ移動する。

 3……2……1……レーザー照射警告。

 

「ぐぅっ……」

 

 機体が自動的にレーザーを避けようと縦横無尽に動き始める。この機能は便利ではあるがこうもBETAに囲まれていると厄介な代物だ。

 せめて、この動きを途中で止める事が出来ればいいんだが……。

 

『隊長、こちらは地点Eを通過しました! 早く合流を……!』

 

 地点E――つまり、もう少しで港に着く程の距離だ。BETAの奇襲があったとは言えどうにかそこまで辿り着く事が出来た。

 ちなみに、俺は地点Dを少し過ぎた辺りであり合流するには全速力で移動したとしてもそこそこの時間が掛かるだろう。

 

「いや……」

 

 チラリと機体ステータスを見てみれば、どうやらレーザーが掠ったらしく右側の跳躍ユニットに異常が出ていた。今はまだ動いてくれているが、いつどこで動かなくなるかわからない。

 

(死に場所は自分で決める物、か……)

 

 ふと、昔一緒の部隊になったヤツが言っていた事を思い出した。自由という物と無縁のこの前線で衛士に与えられている自由は死に場所だと事あるごとに言っていた。

 なるほど、今ならその意味がわかる。

 

「俺は今から光線級を狩りに行く。このまま残しておいたらお前たちが港に入ったとしても、そっちに被害が出る可能性がある」

『……!? でしたら、私たちも!』

「“アメリア・ウィンスレット少尉”」

『――!』

 

 滅多に呼ばれないフルネームで呼ばれた事でアメリアの表情が強張る。その表情に思わず苦笑が漏れてしまった。

 アメリアも俺も……他の部隊員も全員理解している事がある。それは、俺がフルネームで呼ぶときは有無も言わせず命令をするという事だ。

 

「他の部隊員にも命令する。決して振り返らずにトラックを護衛して港へと急げ」

『たい……ちょう……』

 

 機体を反転させ、光線級のマーカーが表示されている方向へと向ける。36mmと120mmはまだ残っている。長刀も一振りあるし問題なく処理できる。

 あとは機体がもってくれるのを祈るばかりだ。

 

「アメリア、一つだけ頼みがあるんだ」

『何でしょうか……』

「俺の所持品に小さい木の箱がある。ソレを個人的に回収しておいてくれ」

 

 本来、衛士の遺品は軍に回収され家族の元に送られたりするがあの木箱だけはアメリアに持っていて欲しかった。

 

『了解しました……ご武運を』

「そっちもな」

 

 俯き、表情が見えないアメリアに敬礼をして通信を切る。

 

「さて、と……」

 

 今一度操縦桿を握りなおし、大きく深呼吸してから前を見据える。ゆっくりしている時間はない。こうしている間にも間引いていた死骸の穴を埋めるようにBETAが迫ってきているのだ。

 

「最後まで頼むぞ、相棒」

 

 俺の呟きに答えるようにF-18Eは跳躍ユニットを唸らせ――その場から跳びあがった。

 

 

 光線級は想定よりも多かった。というよりも、俺が到着したのと同じタイミングで穴から重光線級が三体出てきていた。もう少し判断が遅かったら間違いなくあの重光線級は港に居る輸送艦を狙撃していただろう。

 

「うおおおおおおおッ!!」

 

 ありったけの勇気を振り絞って光線級が固まっている場所へと“上空から”奇襲を仕掛ける。

 大きな瞳が俺を見つめ、管制ユニット内にレーザー照射警告が鳴り響く。自動的に地面へと急降下しようとする機体に無理矢理コマンドを入れる事でソレを辞めさせる。

 通常、そんな事をすれば10回に9回は指示がぶつかり合ってフリーズする荒業だが、今回は運がよかったらしく正常に動いてくれた。

 自由落下の勢いを殺さないようにしながらも跳躍ユニットを細かく吹かし、レーザーを避ける。

 

「……ッ!!」

 

 レーザーを避けながらも息を止め、36mmを乱射しながら光線級を仕留めていく。ついでに120mmも撃ち込み地面を爆ぜさせながら着弾したソレは光線級を多く巻き込んでくれる。

 着地の衝撃――両足が一気にレッドゾーンまで行くが無視し、弾が切れた突撃砲を投げつけ、数体の光線級を処理。

 右手に持った長刀を振り払い、更に処理――残り9体。

 跳躍ユニットを点火させ、がむしゃらに長刀を振り回す事で6体処理する。

 

「――!」

 

 レーザー照射警告。回避……いや、突っ込む。

 機体を捻りながら跳躍ユニットを最大に使って残っている重光線級へと突っ込む。レーザーが機体の表面を焦がすが、ソレすらも無視して重光線級へと長刀を突き立てる。暴れる身体に抱き着くようにして長刀を保持。まるでロデオだ。

 

「あと二体!!」

 

 沈黙した重光線級から離れずに左手でナイフを抜き、近くに居た光線級へと投擲――ヒット。光線級はバーベキューの串に刺された肉のようになり地面へと縫い付けられる。

 

「あと一体!」

 

 最後の重光線級へと地面を削るように機体が進む。左腕は先程の投擲で耐久限界を迎えて使い物にならない。

 兵装担架からXCIWS-2Bを抜き、振り下ろそうとした所で右腕の動きが止まった。

 

「なっ――」

 

 更に最悪な事は続き、小さな爆発音と衝撃が管制ユニットを震わせる。見てみれば右側の跳躍ユニットが爆発し、両足と左側の跳躍ユニットも巻き込まれて吹っ飛んでいた。

 管制ユニット内でシェイクされながら地面を転がる。

 

「あぁ……」

 

 警報が鳴り響く管制ユニット。頭のどこかをぶつけたのか視界の一部は赤く染まっており、視界が歪んでよく見えない。

 機体ステータスは真っ赤でもう動く事は出来ないと物語っている。

 

「終わり、か……」

 

 無様に地面を転がったF-18Eに戦車級を始めとするBETAが向かってきているのが見えた時に俺は人生の終わりを感じた。

 不思議と怖くはない。ただ、後悔だけが心にあった。残していってしまう部隊員。今まで俺に託して死んでいった戦友達を最後まで連れて行ってあげられなかった事。アメリアに俺が背負ってきた物を背負わせてしまう事。その他様々な事に後悔が絶えない。

 

「こんな事なら……もっと、色々とやっておくべきだったな」

 

 思えば、ずっと戦う事しかしてこなかった。

 昔、戦友が『彼女の一人や二人作っておけ』と言っていたが、確かにそういう経験もしておいた方がよかったかもしれない。そうすれば、後悔が減る事もあっただろう。

 

「ま、考えても後の祭りか……」

 

 もうすぐそこまで来た戦車級をどこか他人事のようにぼんやりと見つめる。

 どうせ、ここから出来る事など無いのだ。S-11でも積んでいれば思いっきり叩いて自爆してやったのに残念だ、と思うくらいか。先程まで渦巻いていた後悔も既に消えていた。

 そんな全てを諦めた時だった――目の前に迫っていたBETAが爆ぜた。

 

「なん……?」

 

 全ては一瞬だった。

 俺に向かってきていたBETAも仕留め損ねた重光線級も全てが物言わぬ肉片と化したのだ。そして、数秒後に黒い戦術機が降って来た。

 見たことがないフォルムの機体。全身は黒にカラーリングされており、ライトグリーンに発光する機体細部のみが暗い世界に輪郭を浮かび上がらせている。どこか角張っているが精錬されたフォルムの戦術機はゆっくりとこちらに振り向いて近づいて来る。

 

「なんだ、お前は……」

 

 無様に転がったF-18Eの元に膝を着いた黒い戦術機……そのツインアイがこちらをジッと見つめる。

 もしかしたら何か通信を送ってきているかもしれないが、生憎とこっちの電子機器はメインカメラを除いて全壊している。

 不審に思っていると、網膜投影に文字と数字の羅列が流れ始める。そして、視界の端に表示される【Feedback data is being transferred....】の文字。

 

「何を……やっている……?」

 

 俺が乗るF-18Eが勝手に何かをしているのだけは理解できた。

 ソレが何なのかはわからないが、長年連れ添って来た相棒が身辺整理をしている気がしてならなかった。

 

「おい、待て……待ってくれ」

 

 痛む身体を動かし、コンソールパネルを呼び出そうとするが全てのアクセスが拒否される。

 やがて、視界一杯に【Good Luck】と表示され、管制ユニットの前面が吹き飛んだ。冷たい風が流れ込み視界が網膜投影から自分の目に切り替わる。

 

「何なんだよ……」

 

 管制ユニットが開いたその先には、黒い戦術機が自らの管制ユニットを解放し右手を橋のようにして俺を見つめていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。