去年まで地方で走ってたorz
ま、まあこの小説の馬には何も関係ないですから!!
世代が違いますからぁ!!許してぇ!!
異次元の逃亡者、日本総大将、日本近代競馬の結晶など、どこを見てもサンデーサイレンス産駒だらけの時期を少し過ぎ、ほぼ全ての血統にサンデーサイレンスの文字が躍るようになった'10年の春。
日本競馬界はサンデーサイレンスの大成功によってより多くの海外産馬を取込み、より優れた競走馬の生産に精を出していた。
「産まれたか?」
あるひとつの馬房の前を、数人の男たちが取り囲んでいた。
スーツ姿の男がその集団に声をかけると、内側から一人が顔を出し、そして苦い表情でかぶりを振った。
「まだか……」
「予定より長引いています」
「長引いているも何も、もう日が昇ってきたぞ……」
通常、北半球において馬という生き物は日没後の出産が大半を占める。ほとんどの仔馬が暗いうちに生まれてくるのだ。この馬房の牝馬も例にもれず、日付が回ってから数刻が経っていたとはいえ、まだ暗いうちに産気づいたのだ。だが、如何せん時間がかかりすぎている。
このままでは生まれてくる仔だけでなく母体にも少なくないダメージが入ってしまうことは明白であった。
そのことを理解できていないものはこの場に一人もいないため、全員の表情に隠し切れない焦りの色が浮かんでいる。
「頼む。どうか母子ともに無事であってくれ……」
スーツ姿の男が祈るような表情で呟いた。
――その瞬間であった。
「あっ!」
「んぇ!? 出た! 出てる出てる!」
産気づいてからかなりの時間が経過していたが、仔馬の足が見えたのだ。
ようやくだ、と一安心すると同時に、ここまで長い時間をかけてしまっている牝馬の出産に気を抜くわけにはいかない。
男たちはアレを持ってこいだの、それをどかせだのと、怒鳴り散らすような荒い言葉で声を掛け合いながらも、その場を離れることはしなかった。
新たな生命の誕生の瞬間を見届けるために。ひいては――
――皇帝、ターフの演出家の孫にして、帝王の仔を見守るために。
§
THE LEGEND
2014年、凱旋門賞。
誰もが夢を見た。誰もが希望を見た。
ロンシャン競馬場のホームストレッチに踊る、その尾花栗毛の馬体に。
――史上初、日本調教馬による凱旋門賞制覇。
グランシャリオ。
これが、絶対ということだ。
§
輝くステージの中央に、一人のウマ娘が立っていた。
俗に尾花栗毛と呼ばれる美しいセミロングの金髪に、前髪には美しい一筋の流星。
パフォーマンスが終わり、伏せられた顔に浮かべられた表情は笑顔か、それとも感動の涙か。
「「「アンコール!アンコール!」」」
地鳴りのように鳴り響く観衆の声に応えるように、そのウマ娘はゆっくりと顔を上げた。
その顔には"不敵"の二文字が似合いすぎる笑顔を浮かべられていた。いろいろと台無しである。しかし、観客は盛り上がっている。
なぜなら、この不敵な笑みこそが彼女の魅力であるのだから。
「ホントに欲しがりさんだなぁ……んじゃ、もういっちょぶちかますぜぇ!!」
男勝りな口調から放たれる良く通るハスキーボイス。
その瞬間、先ほどを上回る歓声が上がり、それと同時に会場のボルテージも一気に最高潮まで上り詰める。
彼女の名前は、グランシャリオ。
人々は彼女を"北斗七星"、または――
――"聖帝"と呼んだ。