【成り代わり】鉄血のナントカ【異世界転生?】   作:くずみ@ぼっち字書き。

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一方その時"三日月"は 7

 

 

 

「そうだ囮作戦」

 閃いたわおれ――と、口に出したのは昼飯時で、向かいの席の“オルガ”が胡乱な視線を向けてきた。

 ――ひどい。ブルワーズ狩るために、あれこれ作戦考えてんのにね。

「生け捕ろう」

 トウモロコシ粉から作られた薄焼きパンに齧りつく。あれこれ具材が挟まれたそれは、最近のお気に入り。

 もっぎゅもっぎゅと咀嚼しながら、さらに脳内で作戦を錬る。

「MW……は、シノかな。グレイズにアイン。遭遇ポイントを絞り込めりゃ…あ、卵も入ってる…いやいっそヒヨコはおびき出しゃいいのか。そーすっと……うん。このソース旨っ――えーとそしたら昭弘を……あー、でもなー」

 1つ目を食い切って、2つ目――は、具材違うのか。凝ってるな、アトラ。

「あ、具材変えるのアリか、うん。あ、でも戦力足りるか?」

 ゴクン、と、飲み込んで。

「取り敢えず、鬼ごっこしよう」

 うん。方向は決めた。

「“オルガ”、ちょっと」

「……まぁた禄でもねぇこと考えついた面してんなぁ」

 いつものポレンタをスプーンで掬いながら、“オルガ”が片目を眇めた。

「そうでもない。ブルワーズ呼ぼうよ。ここに餌がいるって」

 伝えれば、ふーっ、と、返ってきたのは溜息。

「護りきれるんだろうな」

「それ聞いちゃう?」

 守りきれなきゃ“未来”は来ない。

 守るしか無い――いつだって崖っぷちみたいなルートしか選べない。

「“オルガ”だって考えたでしょ。デブリ帯広すぎだし」

「まぁな――チャドから流させるかな」

「だね。もう他から流れてる気がするけど……それ食わないの?」

 皿の上に残ったミニトマトを見つめる。

 “オルガ”は肩をすくめた。

 器用にスプーンで掬い取ったミニトマトは、そのまま前に突き出される――おれの口の前に。

 パクリと食らいつき。

 ――ちょっとすっぱい。

 でも、好き嫌いは良くないよ、“オルガ”。

「なんでそう思った?」

「チョコが“ブルワーズ”名指ししてる。なんか掴んでるんだろ、アライグマの動向とか、金満のなんかとか。で、好意と悪意が半分ずつ。“オルガ”、なんか突付いたでしょ?」

「あ?」

「チョコのこと虐めたね?」

「人聞きの悪い事言うなよ」

 そっぽ向いてるとこ見るに、なんか言ったかしたっぽい。

 原作知識とは別に、事前に情報くれたことは、とても有り難い。

 好意は、“ブルワーズ”の名を出すことで注意を喚起させること。

 援軍がないあたりに少なからずの作為を感じる――よく捉えれば試練だけどさ。

 悪意はこれで共倒れしても構わないってとこか。

 6割くらいの好意――ってことは、マクギリスにしては破格の対応ではある訳だ。

「気をつけて――好意と殺意は簡単に並び立つよ。sai cosa intendo, mio te?」

「やめろ」

「pазбирам」

「それもやめろ」

「りょーかい」

 青白い顔で“オルガ”が仰け反っている。

 そんなにどん引かないで頂きたい――はるか昔のハナシじゃないか。

 ともあれ、いまは何を置いてもブルワーズだ。

「おれの考え聞いてくれる?」

「言ってみろよ」

 身を乗り出してくる“オルガ”と目を合わせて。

 さて、ここからは長い話になるので、深呼吸。

 じゃあ、始めるね。

「ブルワーズの海賊被害を調べてみた。馬鹿の一つ覚えみたいにブリッジ急襲。だけど確かに効果的。とんでもなく重い装甲でつっこんでくるマン・ロディが10機以上にガンダム・フレーム1機――イサリビの装甲なんて紙だね紙」

 防ぐのは至難の業だ。

 まともに襲われたんじゃ勝ち目は薄い――って辺りを“オルガ”に訴える。

 おれが八面六臂の活躍見せたって、間に合わない。アメコミ・ヒーローじゃないんだよ。

「搦め手で行こう。まずはフェイクの情報を流す」

真偽を正さずには置けないようなね。

 幸いにもネタはある

 そもそも、ここにはグレイズが3体もある。正真正銘、ギャラルホルン火星支部所属のMS――普通は民間企業で持てるもんじゃない。

「鉄華団のバックにはギャラルホルンの一角が控えてる――全くの嘘じゃないし。それから、タービンズの名瀬と“オルガ”が懇意にしてること――これも奴が兄弟って呼んだんだから嘘じゃないよ」

 じっと“オルガ”を見つめれば、すごく嫌そうな顔をした。

「お前、本当に悪知恵だけは回るよな」

 失礼な。でも、作戦自体に反対はしないでしょ?

「――それで?」

 溜息を付きつつも、“オルガ”は、先を促してくる。

 おれは内心でニンマリとする。

 つまり、仕損じたら面倒だぞ、と、相手を慎重にさせるところから始めるわけだ。

 脳筋なら迷わんかも知れんけど、狡賢いブルワーズのこと、そこで少しだけ考えるはず。

 急襲をかけるべきかどうか情報を欲しがる筈。

だとしたら――。

「斥候がでる。そいつをおれたちは生け捕りにする」

 偵察に出たマン・ロディが帰還しなければ、奴らはどう思うだろうね。

 いま、表情筋が働いてれば、おれはかなり悪辣な顔をしてるんだろう――働かないから無表情だけど。

「具体的には?」

「囮をまこうと思う――MW。危険な役だけど、シノならやれる。おれとアインと――できればクランク貸して。あとは昭弘。グレイズ3機とバルバトスでマン・ロディを捕獲する。多分、2、3機は取れる――それをこっちで貰えれば、イサリビの盾ができるし、相手の火力減るでしょ」

 “オルガ”は黙って聞いている。

 でも、どんどん眉間の峡谷が激しくなるのは何で?

 これ、火星で“オルガ”がやったこととあんまり変わらんよ? MS分捕れ作戦。

「マン・ロディもグシオンも短期戦闘向きだ。重すぎて長くは動けない――だからぶん回す。最終決戦は鬼ごっこだね。ユージンがイサリビを振り回して、その間におれがグシオンをやる。詳しく聞く?」

「――……いや。任せる。後で作戦会議するから、そのときに皆にも聞かせてやれよ……」

「りょーかい」

 で、なんで溜息をつくのさ? “オルガ”。

 

 

 

 ――って事で、恒例メンバーによる作戦会議である。

 ブルワーズはおびき出す方向で。

「――ブルワーズが襲撃してきた時の、具体的な作戦に移ろう。ミカ、案があるんだろ?」

 あるともさ。

 でも。喋るのがちょっと面倒くさい。“オルガ”が話してくれたらいーのにね。

「『これからシナリオをお話しいたします』」

 その一言だけで、皆が顔を顰める。

 一生懸命に話してんのに、なんで、おれ嫌われてんの? 泣くぞ――涙出ないけど。

「ちょっと待て、三日月。お前また碌でもないこと思いついたな?」

 ユージン、ヒドイ。“オルガ”とおんなじような事言うなよ。

 だいたい、碌でもないこと、そんなに沢山はしてないよ、おれ。may be.

「3割ホントの嘘をつく」

「つまり、7割嘘なんだね……」

 ビスケたんも突っ込んでくる。

 でも、気にしないで続けるからね。

「『鉄華団のバックにはギャラルホルンの一部勢力がついており、イサリビにはギャラルホルンの士官が乗っています。また、団長の“オルガ”は、タービンズの名瀬と懇意にしており、どちらとも密に連絡を取り合って居るようです。』」

 ギャラルホルンとタービンズについては、先に“オルガ”に語ったとおり。

 密な通信については、この空域に入ってから結構な頻度で火星支部の新井さん宛にクランクから意味深な――実は意味のない――報告をあげている。最終的にはチョコ宛。多分、こっちの意図に気づいてるだろう――制止が無いところを見るに、黙認されてるっぽい。

 そして、名瀬・タービンに対しては、ブーツの写真を送りつけ――10秒かからずに返事が来た。

 如何にも高価そうな革靴の写真で、ぐぬぬってなってたら、奥さんからも通信が来た。

 旦那が大人気なくてゴメンねって謝罪と、あんたもオイタやめなってお叱りだった。

 しょんぼりして謝ったら、チビ共がわらわら来て、ヨシヨシしてくれるのに笑ってしまった――当社比だけどシゴトしたよ表情筋。

 モニタの向こうで奥さんも笑ってて、チラと映った名瀬はバツが悪そうな顔をしていた。

 ――って、話がそれたけど、ブルワーズが通信傍受してるんなら、このあたりもね、信憑性マシマシでしょ。

 ふふふ。実はたくらんでたんだよ。ずっと。

 “オルガ”が海賊狩りを言い出したあたりからね。

「クーデリアの情報は、今トドが流しに行ったけど、実はその前から、おれとダンテで少しずつニセ情報流してた」

 皆の目が一斉にダンテに向き、ヤツは両手を上げる。

「『三日月に強制されてやりました』」

 なんだよ、ノリノリだったくせに。ダンテも変なセリフ覚えたな。

「で、実際の作戦――これはようやく形になった」

 ふぅ、と息を吐き。

「『C'mon Team Shooting Stars!!』」

 インカムに唱えれば、ブリッジの扉が開き、チームメンバーが乱入してきて、ハイタッチ。

 シノ、昭弘、アイン、タカキ、ライド、ヤマギ――そして、横にダンテとおれが並ぶ。

 ちなみに〈Shooting Stars〉の命名はシノだ。〈流星号と愉快な仲間たち〉ってコトらしい。

 今さっき結成されたホヤホヤのチームである。

 かなりの危険をともなう作戦だって説明したのに、みんな二つ返事で乗ってきた。

「このメンバーとクランクで、〈囮作戦〉をやる。囮役はシノで。おれ達は、おびき寄せた斥候を捕獲する。皆はサポートよろしく――こんときに分捕ったマン・ロディは、本襲撃の際の盾に使いたい」

 目配せすれば、ダンテがコンソールに近付いて、モニタに航路図を映し出す。

 加えて引かれたいくつかのラインが、イサリビの航路と観測されたブルワーズの動き、バツ印が囮作戦ポイント――二重丸が予測した本襲撃のポイントだ。

 念の為、囮作戦が失敗した場合の逃走経路も用意してある。

 簡単な説明だけど、皆、食い入るようにモニタを見ている。

「……食いついてくるか?」

 と、ユージン。

「食いつかざるを得ないトコまで来てるはず」

 で、作戦の細かいトコ話すから聞いてね、と、大きく深呼吸。

 さて、いっぱい喋りますか。

 

 

 

 ――割愛。

 喋り過ぎて疲れた。食堂のテーブルに懐きながら、クーデリアの白い手でアタマを撫でて貰いつつ、アトラに甘いものをねだる。

 フミタンの眼差しは相変わらずクールだけど、ほんのちょっとだけ微笑みかけて貰えることも――もの凄くたまに。

 ああ。女の子って良い。癒やされる。

 反対に、こういうときの“オルガ”の眼差しはいつだってブリザード。『俺は修羅場は見たくねえ』って、何を言ってるのかよく分からないよ。

 シノには背中をどつかれるし――やめろ、そのへんはヒゲがあるだろ。

 ライドやタカキは作戦の予習?――に余念がなく。エルガー達居残り組は不貞腐れ――流石に最年少組は参加させらねぇよ。

 ビスケたんは“オルガ”の隣で渋い顔。

 クランクとアインは、少し離れた席で寛いでる様子。

 結構な数の面々が食堂に居た。

 ユージンやダンテ、チャド達はブリッジか――おやっさんとヤマギは格納庫かな。後で差し入れしてやろう。

 そんな風にグダグタしてたら、昭弘が、やけに思いつめた眼差しでこぶしを握っていた。

「昌弘が――ブルワーズに弟が居るかも知れないって…」

 本当か、と続く言葉は、消え入りそうに小さかった。

 でかい図体を少し縮めるようにして俯いた昭弘は、どこか寄る辺無げに見えた。

 ――“オルガ”?

 視線で尋ねれば、首を振られた

「ユージンから聞いたか?」

「ああ」

 “オルガ”の問に、昭弘が頷く。

 あー。きっと悩むだろうから、ぎりぎりまで知らせるつもりは無かったんだけど。

 できれは、劇的な再会でも演出してやりたかったな。

 だけど、早く知らせてやりたいって、ユージンの気持ちも分からなくはない。

「昌弘は、ヒューマン・デブリとして俺とは別々に売り飛ばされた。迎えに行くって言ったのによ、いつの間にかどうせもう死んでると勝手に思い込んでた」

 それは懺悔だったろう。

 表情の抜け落ちた昭弘の頬は乾いていたけど、泣いているように見えた。

「俺よ、最近楽しかったんだ。お前らと鉄華団を立ち上げて一緒に戦って仲間のために……とか言ってよ。MSの特訓とか――お前らとハチャメチャやるのも楽しかった。楽しかったから俺がゴミだってことを忘れてた。ヒューマン・デブリが楽しくっていいわけがねぇ。だから罰が当たったんだ」

 ――罰って何? ヒューマンデブリって何?

 ここにいるお前は、ただの昭弘じゃないか。

 イラッとする。

「『そっか。俺たちのせいで昭弘に罰が当たっちゃったんだ』」

「あっいや、そういうわけじゃなくて」

 慌てても遅い。

「『鉄華団が楽しかったのが原因ってことは、団長の“オルガ”に責任があるよねぇ』 どーすんの?」

「おれかよ」

 “オルガ”が呆れた声で答える。

 つか、原作の流れ忘れてんの? ここ、ホントは“オルガ”のセリフじゃないか。

「あ、いや違う俺が言いてぇのはッ!」

「『責任は全部おれたちが取ってやるよ、おとーとのことも含めてね。』だろ? みんな?」

「何を言って……」

「そうだねぇ、鉄華団が原因ってことなら、じゃあ、責任の取り方をみんなで考えようか」

 と、ビスケたん。

「ったく何をごちゃごちゃ言ってるかと思えば! まずは弟を奪還すりゃ良いんだろ? 俺達はファミリーだ。昭弘の弟なら、俺達で助けんのが筋ってもんだ」

 シノはシンプルで良いね。

「そのとおりだ」

 “オルガ”が重々しく答える。

「俺達で、昭弘の弟を取り返す――他の連中も開放する。ブルワーズは狩るぞ!」

「「「「おう!」」」

 良かった。多少面子が足りなかったけど、昭弘の顔色はだいぶマシになった。

「ついでにブルワーズのお宝も分捕るぞ!」

「“ミカ”ぁ…」

「ほんっと、そういうとこだからね、三日月!」

 “オルガ”とビスケたんの突っ込みに、皆が一斉に吹き出した。

 

 

 

 ――4機とはね。

 作戦が決行されて、マン・ロディの急襲を受けた。

 偵察っていうより、襲撃や捕獲も兼ねての判断なんだろう。

 多分、そう遠くないとこにグシオンも控えてるはず。

 これは、手早くやらないと。

 流石に名の知れた海賊。そう単純には獲らせてはくれないみたい。

 襲ってきた複数のマン・ロディから逃げ回っているMW版流星号――ピンクが鮮やか――に乗ったシノの操縦は、素晴らしいの一言に尽きる。

 MSに比してパワーも性能も遥かに劣るはずのMWで、追手を鮮やかに翻弄――凄いなシノ。

 他のメンバーじゃここまでは行かない。

 信じてたけど。

 囮作戦は今のところ上手く行ってる。

 数回繰り返してアインと昭弘が乗ったグレイズ2機と、囮役シノとタカキ、ヤマギの乗ったMWの一群で哨戒行動を行ってみれば、センサーの誤差を疑うほどの程度で、エイハブウエーブを拾った。

 かかった、と判断して、途中でシノの流星号だけにイサリビに戻るような行動を取らせれば。

 ――ビンゴ!

 ある程度、本隊とシノの距離が空いたところで、それは来た。

 装甲で膨れ上がった異相のMS。

 マン・ロディ――実際に見ると、やっぱり重たそう。当たるのはキッツイな。

 これよりドスコイのか、グシオン。やな感じ。

「出るよ」

〈油断するなよ――すぐにアインが合流する〉

 グシオンの追撃の可能性も考えて、ヤマギとタカキは、昭弘とアインのグレイズで護りながらイサリビに帰還させた。

 アインはその後、とんぼ返りでこちらに戻ってくる予定。

 途中ポイントで待機していたおれとクランクとで、シノの救援に向かう。

 バルバトスで突っ込むのに合わせて、クランクのグレイズがピッタリ付いてくる。

「――シノ、退避して!」

「おう、任せたぜ!」

 マン・ロディ1機の手が流星号にかかる寸前で、メイスで払う。

 ――重い、けど、いける!

 体制を崩したところで、すかさずクランク機が、ドゴンとコックピットの横に長剣で打撃を――って!?

「クランク! コックピットに打撃禁止!! 脆すぎる!!」

ひしゃげ方が酷すぎる。思ってたよりずっと脆い――生きてる!? ねえ、生きてる!!?

 イヤな汗が吹き出す――この子は誰だ? 昌弘だったら、アストンだったら、デルマかも知れない。

 その誰でもなくても――きっと子供だ。

 確認したいけど、次が来る。

 仲間の損傷とか、一切関知しないで機械みたいに向かってくる――これが、ヒューマン・デブリか。

 戦いに慣れてる。動きも早いし連携も取れてる、けど、生き残ることを前提にした動きじゃないね、これ。

〈潰すな、潰すなよ! ――“ミカ”、回収してくれ!〉

 イサリビから“オルガ”が叫んでくる。

 頭部を90mmサブマシンガンと共にメイスで叩き潰す――硬ったい、こっちにダメージきそう――でも、よし。こいつも停止。

 ゴメンね手荒で。

 センサーを広げれば、クランクとアインが苦戦して――る、程ではないか。

 クランクが、ハンマーチョッパーを振り回すマン・ロディを上手く誘導。

 編隊を崩して、個々に当たらせてる――1体が連携を戻そうとしてるみたいだけど。

 うん、いい動きだ。そいつにアインが手を焼いてる。

 どちらにしても、グレイズに引っ張られて限界まで機動性を高められているマン・ロディの推進力は、そんなに長くは持たない――だけど、それを待ってる時間はもう無い。

「回収する」

〈まだ止めてないぞ!〉

 アインが怒鳴る。

「いま止める」

 急接近――気づいたマン・ロディが軌道修正を図る。

 うわ、この子ホントに素早いな。重装甲なのに、吹っ切られそうになるよ。

 必死に追いすがり、最大限加減――これも動きが早くて至難の業――してコックピットの横に打撃――これでも、へしゃげる。

 どうなってんの。重装甲のハズだろ、マン・ロディ。なんでひとが乗ってるとこだけこんなに脆いんだよ。

 エイハブ・リアクターのあたりなんて、どんだけ叩いてもへしゃげないのに。

 スカートアーマーに手を突っ込んで、手榴弾を拝借。

 イライラする。

 クランク機と相対してるマン・ロディが逃げようとするその先に、奪った手榴弾を撒いて阻む。

 爆発に動きを止めたマン・ロディは、クランク機とアイン機の双方から打撃を受けて停止した。

「撤収」

 その瞬間、限界まで広げてたセンサーが、別のエイハブ・リアクターの反応を拾った。

 ほら、来やがったよグシオン。

 と、うわぁ。

 追加でマン・ロディ――また3機も。なによこんなに要らんのに。

「そいつら回収して戻って」

 言い置いて飛び出す。

〈三日月! どこへ行く!?〉

〈おい! 三日月!!〉

 通信からはクランクとアインが怒鳴るような声で名前を呼んでるけど、いまは答えてる余裕はないんだ。

「“オルガ”、聞こえてる?」

〈おう! 来やがったか!〉

「来た。グシオンとそのお仲間さん。時間稼ぐ。作戦Cに移行――全速で退避。そっちに別働隊行くよ」

 ――先に4機潰したし、さらに3機追加できたから、イサリビに向かう機体は多くなさそうだけど、1機でも艦に取り付かれると厄介この上ないからね。

 すでにシノと昭弘は帰還させたし、クランクとアインは怒鳴りながらも、アンカーで4体の獲物を引っ張って帰還中。

 イサリビの守りはなんとかなるだろう。

 囮作戦は、半分だけ成功ってとこか。大幅に敵の戦力削げた分、まあ悪くはないね。

 グシオンがこっちに来たことは、ホントに僥倖――おれは命がけになったけど。

 大方、おれを片付けてからにしようって思ったんだろうけどさ。

 イサリビには向かわせないよ。

 さて。

 マン・ロディと異なり、グシオンの装甲はどこもかしこも硬そうだった。

 グシオンに乗ってるのは、グダるなんとかっていう、変態くさいなんかだったはず。

〈残念、まだ終わりじゃないのよ~!〉

 なんだかオネエみたいな喋り方――そういやこんなんだったっけ。

〈ったく、あのガキどもは何やってたんだ――お前の相手は俺がしてやるよ〉

 逃亡防止のつもりか、マン・ロディが手榴弾を機雷みたいにばら撒いてくれる――そのサービス凄く要らない。いや、おれもさっき似たようなことやったけどさ。

 取り敢えず、おまえ嫌いってのをアビるために、バルバトスで中指を立ててみた。

〈このクダル・カデル様とグシオンをなめるんじゃないよ~!〉

 グダるグダるが吠えてきた。

 うん、侮辱のサインって時を超えるかも。

 いきなり推進吹かして突っ込んでくるのを華麗に避ける。気分はマタドール。赤い布持ってくればよかった。

 近くのデブリが邪魔だったのか、グシオンハンマーが唸り、木っ端微塵に粉砕する。

 通信から高笑いが聞こえる。

〈お前もこうなるの! ぐっちょんぐっちょんにしてやるよ!!〉

 ――御免こうむる。

「『当たらなければどうということはない』」

〈――“ミカぁ”!〉

 “オルガ”から突っ込みが入った。

 いや、言ってみたいセリフじゃないか。名言多いからな、赤い彗星。

 避けながらメイスでガンゴン殴りつけてみるけど。

〈無駄〜!〉

 うん。無駄に硬いね。

 凹むけど、中まで届いてないみたい。

 なるほど。こいつ、グシオンの防御力に慢心して、回避行動はそれほど上手くないのか。

 あとパワー頼みだから、攻撃も早いけど大振り。

 90mmサブマシンガン付いてるはずなのに撃ってこないし。

 バスターアンカーとか、グシオンチョッパーとかどうしたの、飾りか?

 前評判では腕の良いパイロットって聞いてたけど、そこまでじゃない。

 コレだったら、さっきのマン・ロディの中に、もっといい動きしてたのが1体いたよ。

 あの子がグシオンに乗ってたら、ちょっと危なかったかもね。

〈チョロチョロうざったらしいのよ! 当たれ! 当たれよ!!〉

「やなこった」

 更に避け続ければ、ガス欠を案じ出してか。

〈お前ら何してんだ! 役立たず共が!! さっさとコイツに取り付いて動き止めろよ!!〉

 それは、まわりのマン・ロディに言ってんのか。

くっついて一緒にハンマーで潰されろと。

 言われるままに捨て身で飛びついてくるマン・ロディを、背負投げムーブで他の個体にぶつけて弾く。

 あとは赤い彗星っぽい蹴り技で。

 マン・ロディ、大人しく引っ込んでなよ――いい子だから。

「おいクズ、お前が相手すんじゃねえのかよ?」

 もの凄く低い声が出た。うん、おれ、すごく怒ってる。さっきからずっと、どんどん、ちょっと天元突破中。

 と、通信から、

〈三日月! マン・ロディは引き受けた!〉

 アインか。

〈頼む。手榴弾に気をつけて〉

 その辺で、機雷みたいなトラップになってるから。

 戻ってきたグレイズに、軽く手を振って応える。3機いるけど、よろしくね。

 これから、おれはこのクズ野郎をぶった斬るから。

 メイスは背中に背負い、ブレードに持ちかえる。クランクのよりも刃が薄くて、見た目は華奢にさえ見えるかもだが、これ、スッゴイんだぞ。

 ずっと欲しかったけど、うちに新しい整備士が来るまで実現できなかった――途中までは、おやっさんとヤマギとおれとで頑張ってたけどさ。

 “三日月”専用の――“おれ”専用の武器。

 かつて、どこまでも馴染んでた、もはや“おれ”の一部みたいだった“それ”と酷似した、ブレード。

〈“ミカ”〉

「なに」

〈遠慮しねぇでぶちかませ。ブルック・カバヤンとクダル・カデルはやっちまって構わねぇ――禍根は残すな〉

「はいよ」

 最初からそのつもり。

〈そんな薄っぺらいブレードでどうしようっての〉

 嘲笑っていられるのも今のうちだ。

 一気に距離を詰めて、装甲の隙間にほら、簡単に突き通る。

〈――なんだ!? なにがっ!?〉

 ナノラミネートアーマーが塗装されてるのは、装甲材だけだし。

 切れ味――鋭さに特化させたブレードは、ちょっと日本刀に似てるかな。

 ザクザク突ける。

〈装甲の隙間を狙ってんのか!? 何なんだよこいつはよぉ!〉

 グダるグダるが何か叫んでる。

〈ふざけんなよおい! お前楽しんでるだろう? 人殺しをよぉ!〉

「別に楽しくない」

 ――敵だから殺すだけ。楽しんでたらきりがない。

 逃げ回っても、もう遅い――コックピットへの隙間は。

「ここか」

〈やめ!!!! やめてくれ――お前がシねよア“ア“ア“ア“ア“ア“ァ〉

 ブレードを突き入れれば、プツンと絶叫が止んだ。

「“オルガ”、グシオンの停止を確認した」

〈よぉし、お前ら! このまま一気に、ブルワーズの母船に攻めこむぞ!〉

 “オルガ”の叫びに、皆の雄叫びのような応えも。

 一山越えたけど。

「……さっきの、マン・ロディのパイロット達は?」

〈ああ。大丈夫だ。みんな生きてるって聞いた〉

 答えたのはアインだった。

「そっか」

 よかった。生きてて良かった。

 グシオンが止まったら、一緒に来てたマン・ロディの動きも止まった――破損してるわけじゃなくて、放心でもしてるのか。

 通信からは、戸惑うような幼い声が、無意味に飛び交って消えてった。

 グレイズの誘導に、いまは素直に従うマン・ロディを見ながら、ふーっと、大きく息を吐いた。

 残るは、なんとかカバか。

「Shooting Stars――作戦D開始」

 ――何でもいい。猟るだけだ。

 

 

 

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