【成り代わり】鉄血のナントカ【異世界転生?】   作:くずみ@ぼっち字書き。

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【成り代わり】鉄血のナントカ 8【異世界転生?】

 

 

 

 幸いにと云うべきか、最初に襲撃してきたマン・ロディの中身が、昭弘の弟・昌弘、“三日月”ご執心のアストン、それからデルマ、ビトーと、原作で名前の出た四人だった。

 他のマン・ロディ――全部で十機だった――を回収し、使えそうな三機にタカキ、ライド、ヤマギを乗せて送り出した後、医務室にその顔を確かめにいく。

「おう、オルガ」

 医務室に入ると、シノが片手を挙げて呼びかけてき、船医は手を止めぬままに、かるく頭を下げてきた。

 ブルワーズの子どもたちは、全員がそこにいた。いずれも、頭や腕に包帯を巻いている。医療用ポットに入るほどには、怪我は酷くなかったようだ。

 だが、ブルワーズでは大したものも食べられなかった――まぁ、それはCGS時代のこちらも同じことだったが――ようで、皆、かなり痩せている。骨、筋肉、皮、以上と云う感じだ。アフリカの飢餓の子どもよりましに見えるのは、とにもかくにも筋肉のお蔭だろう。

 だが、飢餓状態よりまし、と云うのは、貧困家庭などでない限りは虐待に等しい。この子どもたちが、ブルワーズでまともな扱いをされていなかったと云うのは、想像に難くなかった。

「おう、シノ。揃ってるようだな」

 云うと、十対の瞳がじっとこちらを見た。警戒と負けん気と、奥底に怯えのひそむまなざし。

「――鉄華団団長のオルガ・イツカだ。お前らをブルワーズから接収した、ってことになるか」

 それに、口を開いたのはアストンだった。

「……俺たちを、どうするつもりだ」

 ――おお、警戒心ばりばりだな。

 なるほど、やはりブルワーズのヒューマンデブリは、この子を中心にまとまっているのか。

「とりあえずは、怪我の治療だな。……ブルワーズはもうじき壊滅する。ブルック・カバヤンも、クダル・カデルもいなくなる。船とMSはこっちがもらうが――お前らは、希望次第だな」

「希望?」

 聞いたこともない言葉だ、とでも云うかのようだった。

「希望って何だ。ヒューマンデブリには、そんなものありゃしねぇよ!」

「そのことだが」

 ひらりと手を振って。

「カバヤンがいなくなりゃ、お前らは自由の身になる。どうするかは自分で決めろ。どこか他処へ行くか、ここに留まってうちに入るか」

「……何だよそれ」

 食いしばった歯の間から、軋る声がこぼれた。

「俺たちはヒューマンデブリだ、自由なんて、そんなもん知らねぇよ! モノみたいに使われて、野垂れ死ぬだけの話だろ!」

「俺たちが接収した後、お前らの身分を元に戻す。うちの連中は既にそうだ。だから、お前らはじきにヒューマンデブリじゃなくなるんだ。その後のことは、自分で選べと云ってるんだ」

 辛抱強く繰り返すと、子どもたちは互いに顔を見合わせて、ぱちぱち目を瞬いた。

 が、それで警戒心が薄れたと云うわけではもちろんなく、単に困惑が過ぎて、言葉が出てこなくなっただけのようだ。

 さて困った、話が続かない。

 はじめからさくさく話が進むとは思っていなかったが、これはなかなか骨だなと思う。野良犬とか、野猫を手懐けようとしているような気分だ――つまり、取っかかりがない。

 ――どーすっかなぁ……

 確かに、こちらはヒューマンデブリだったことはないから、その絶望感なんかはわからない。それなら、元ヒューマンデブリ組に任せるべきなのだろうが、昭弘は、実の弟がいるだけ逆に拙い気もしないでもない。まぁ、大概兄弟と云うのは、いろいろ拗らせがちなものだからだ。そもそも昭弘は、今はブルワーズの母船狩りの最中で、船内にはいないのだし。

「――チャドは手ぇ空いてるか」

 艦内通信でブリッジに問いかけると、

〈空いてはないけど、空けるようにはできるぜ〉

 と返ってきた。

 しかも本人ではなくて、ダンテがだ。

 そう云えば、こいつも元ヒューマンデブリだったなと思うが、どうも子どもの相手をさせたいとは思えない。何しろこいつと“三日月”は、例の通信機的なものを使って、“良からぬ上映会”をしようとした疑惑がある。

 それくらいなら、人当たりも良いし、子どもの扱いも――ダンテよりは――慣れている、チャドに任せた方が間違いないだろう。

 が。

「おい、本当に大丈夫なのか?」

 あまりにも軽いもの云いに、不安になって思わず問うと、

〈問題ねぇよ。例のガキどもだろ。チャドが間違いねぇもんな。医務室か?〉

 ユージンが引き取って云い、ほっとする。ブリッジのことで、ユージンが云うなら間違いない。

「あぁ」

〈んじゃあ、そっちにやる〉

「頼む」

「……チャドが来んのか」

 シノが云う。

「あぁ。俺より話しやすいだろ」

「違いねぇ」

 と笑われると、流石にむっとする。強面なのはわかっているが、それを指摘されて気持ち良いわけでもない。

「拗ねんな、オルガ。ガキかよ」

「拗ねてねぇよ」

「またまたぁ」

 含み笑う声。

 と、ドアが開いて、チャドがひょっこり姿を現した。

「お、来たな」

 シノが云って、ふらりと医務室を出ていこうとする。

「行くのか」

「おう。白兵戦用にな。――チャド、ここは任せた」

「ああ。気をつけてな」

「行ってこい」

 拳を挙げてそれに応え、シノは今度こそ出ていった。

「――アイツ、母船に行くのか」

 アストンが、低く云う。

「あぁ。……別に、殲滅しようなんて思ってねぇから、安心しろ」

 子どもの心配を先回りして云ってやると、驚いたように目を見開く。

「まだいるんだろ、お前らの仲間が」

「……別に、仲間なんかじゃない」

 ふいと横を向く、その唇が尖っている。

 ――顔が、口を裏切ってるな。

 とは云え、指摘すると依怙地になるのは目に見えている。

 ここはおとなしく、チャドと交代だ。

「すまないな、うちの団長、強面で。俺はチャド・チャダーン、鉄華団の、元ヒューマンデブリだ」

「“元”?」

 子どもたちが、興味を引かれた顔をする。

 チャドはにこりと笑った。

「そう、“元”だ。俺たちの組織が、CGSって云うのから鉄華団に変わった時に、俺たちはヒューマンデブリじゃなくなったんだ」

 そうして、これまでのあらましを語り出すのを、子どもたちは表面上は関心なさそうに、その実は食い入るように、耳を傾けていた。あれだ、“耳がダンボ”と云うやつだ。

 少し、脈が出てきたな、と思う。チャドが、不幸そうでない――少なくとも飢え窶れても、荒んだ目をしてもいないからだろう。同じ境遇のはずの人間が、安楽そうに暮らしていると云うのは、気になるものに違いない。

 だが、

「――そうそう、お前、昌弘だっけ、お前の兄貴も、俺たちと一緒にいるぜ」

 とチャドが云った途端、空気が変わった――昌弘を中心にして。

「兄さんは……兄さんだけ、いい思いしてたのかよ!」

 ――来たよ。

 ヒューマンデブリには、そもそも家族がないものも多い。だからチャドも、昌弘の抱くだろう屈託を想像できなかったのだろう。

 だが、幼いコロニ生き別れ、“必ず迎えにいくから”と云われた、その言葉だけを頼りに生きてきたのだろう昌弘にとっては、その兄が、目の前のチャドのまとう空気から想定されるような、安楽な生活を送っていたのかと、裏切られたような気分になったのに違いなかった。

「えっ、えっ」

 チャドは、昌弘の突然の激昂に、狼狽えることしかできずにいる。

「――それは違う」

 昌弘の肩を押さえて云う。

「チャドが云ったろ、鉄華団ができたから、ヒューマンデブリじゃなくなったって。昭弘だって、ついこないだまでは、お前とそう変わらない状況だったんだ」

「そ、そうだよ」

 チャドが慌てて同意する。

「俺たちは運が良かったんだ。何とか生き延びて、そうしてるうちに、オルガが鉄華団を立ち上げた。そうでなきゃ、俺たちだって、CGSの一軍の弾除けにされて死んでたさ!」

「……そう、なのか?」

 アストンが、考え深いまなざしで見つめてくる。

 聞く気になったな、と思う。

 チャドがこくこくと頷くのを見、またまなざしがこちらを向く。

 ――よし。

 そこで大きく頷いてみせる。

「そうだ。俺たちとしちゃ、昌弘、お前がブルワーズにいるって聞いて、それでここまで出てきたのさ。こんなことは、ほんの少し前なら考えもできなかった。俺だって、ヒューマンデブリじゃないってだけで、弾除け以外の何ものでもないのは、昭弘なんかと同じだったからな」

 ヒューマンデブリとそうでないものの違いなんて、参番組ではジャケットに赤いラインがあるかどうかくらいだった。

 もちろん、昭弘たちも、最初は非−ヒューマンデブリと親しく交わるつもりなんてなかっただろう。

 だが、“オルガ・イツカ”――原作の“オルガ”が声をかけ続けたことで、CGSがなくなった後、ヒューマンデブリたちはこちらに味方しても良いと考えるようになったのだと思う。

「だから、お前たちに訊くんだ。俺たちは、ブルワーズをぶっ壊す。ブルワーズがなくなったら、お前たちをヒューマンデブリじゃなくすつもりでいる。――そうなったら、お前たちはどうしたい?」

「――わからねぇ……」

 アストンは俯いた――昌弘、デルマ、他の子どもたちも皆。

「まぁ、それはゆっくり考えろ。それより……お前たちに頼みがある」

 アストンが、はっとしたように顔を上げた。

「頼み、って」

「俺たちは、ブルワーズの母船に攻撃をかける。あっちは死にもの狂いで戦ってくるだろう。そのままやれば、どっちにも犠牲が山ほど出る。――それを、どうにかしたいんだ。お前たち、船に残ってる他のヒューマンデブリに、投降するよう呼びかけてくれねぇか」

「……そうやって、投降したところを殺すのか」

 薄暗い声。相当裏切られてきたのだとわかる。

「馬鹿云うな。殺すんなら、ブルック・カバヤンだろ」

 肩をすくめる。

「カバヤンは殺りてぇが、それ以外は、投降してくるなら殺しちまいたかぁねぇんだ。特に、お前たちみたいな子どもはな。だから、うちの連中を見かけたら、それに投降するように、お前たちが呼びかけて欲しい」

「……それで、お前らに何の得があるんだよ」

 デルマが、拗ねたような口調で云う。

「あるさ。戦らなきゃならねぇ相手が減る」

「それだけかよ」

「それだけっていうがな、結構大きいんだぜ。戦らなきゃならねぇ相手が半分になりゃ、その分うちの犠牲も減るんだ」

 はっとしたような表情が返った。

「単純計算でも、そうだろう? ブルワーズに、ヒューマンデブリ以外のヤツは、どんだけいる?」

「――多分、三分の一もいない」

 呟くように云ったのは、昌弘だった。

「三分の一以下か! じゃあ、残り三分の二だな。お前たちが仲間を説得してくれりゃ、それだけの連中が、うちのと戦り合わずに済むんだ」

「……その後は」

 アストンが呟いた。

「あ?」

「その後は、俺らのこと、どうするつもりだ」

「だから云ったろ、どうしたいか云えって。ヒューマンデブリじゃなくなるから、まぁ、別のところで働くとかな。あぁ、もちろんうちに来てくれてもいい」

 給料はそんなに出せねぇけどな、と云って笑うと、チャドもつられたように笑う。

「まぁ、元から給料は安いもんなぁ」

「マルバが持ち逃げしなきゃ、もうちっと出せたんだろうがな」

「そこはしょうがないよ」

 俺たちに給料が出るようになるなんて思わなかったしな、と云う。

 子どもたちが、互いの表情を探り合っているのがわかった。心が動きつつある。

 ――いけるか。

 と思ったところで、通信がきた。“三日月”からだ。

〈――“オルガ”、どう? 艦内の子供らに呼びかけできそう?〉

 敢えてオープンでそれを聞く。

 相手の声がひどく若いことに、子どもたちは一様に驚いた様子を見せた。

「あー……」

 一拍おいて、子どもたちに訊ねる。

「どうだ、お前たち、やってくれねぇか?」

 アストンが、皆の顔を見回した。子どもたちは、もう肚の据わった顔つきになっている。

 そして、

「……わかった。やってみる」

 代表して、アストンが頷いた。

「よし! ――ミカ! いけるぞ!」

 云うと、“三日月”からも少しばかり嬉しそうな声が返った。

〈ありがとう。良かった。じゃあ、タイミングは伝えるから、そんときは大声でお願い〉

「おう。……じゃあ、とりあえず腹拵えしようぜ」

 どうせ、艦内なら通信なんかどうとでもできる。腹が減っては何とやら、だ。食えるうちに食っておかないと、この後は、下手をすればずっと話し続けることになるだろうから。

「じゃあ、俺は戻りますね」

「おう、煩わせたな」

 子どもたちに手を振って、チャドがブリッジに戻ってゆく。

「――あんたはいいのか」

 アストンが、じっと見つめてくるのに、ひょいと肩をすくめる。

「船内で、俺が一番暇なんだよ」

 何しろ、ユージンは“イサリビ”の操縦が、ダンテは通信のあれこれが、チャドはレーダーを確認する仕事が、それぞれにある。仕事らしい仕事がないのは、実は団長一人だけなのだ。

「まぁ、うちの飯は旨いぜ。厨房係が優秀でな」

 にやりと笑って云ってやれば、子どもたちは顔を見合わせて、のろのろとだが後ろをついてきた。

 

 

 

 食堂に移動すると、アトラがひょこりと“耳”を跳ねさせた。

「あれ、団長さん」

 あたり前だが、他に人の姿はない。整備担当のヤマギまでが、海賊退治に出ているからだ。

 若いと云うよりも幼い顔立ちのアトラに、子どもたちは狼狽えたようだった――まぁ、それもそうか。海賊には、昔から拐われた姫君か、商売女と相場が決まっている。アトラのような少女――下手をすれば幼女――など、あまり目にする機会はないだろう。それに、ここは武装船の厨房なのだし。

「おう、アトラ」

「……その子たちは?」

「ブルワーズのだ。これから仕事なんで、その前に何か食わせてやってくれねぇか」

「は、はい、ありあわせしかないけど……コーンブレッドのサンドイッチとかでいいですか?」

「……大丈夫か?」

 問いかけると、アストンが皆の顔をぐるっと見回し、やがてこくりと頷いた。

「それで頼む」

「はぁい。団長さんは? 何か要ります?」

「あー……飲みモンだけ」

「ちゃんと食べてます? 最近選り好みしてるって、三日月が云ってましたよ?」

 ――あの野郎!

 たかがプチトマトくらいで、煩いことを! そもそも、トマトは好きな方なのだ――ただ、プチトマトと、妙に甘くてぐずぐずな、スーパーなんかのトマトが嫌いなだけで。

「……ちゃんと食ってる」

 原作の“オルガ・イツカ”とは違って。

 驚いたことに、割合普通に食べる方だったのに、“オルガ・イツカ”になってから、食べる量が減ったのだ。まぁ、“オルガ・イツカ”ほど、メンタルで食事量が変わるわけではない――その辺の図太さも、年の功だ――から、いきなり窶れることはないのだが。

「大体、アトラの比較対象はミカだろ。あいつは、ひとの三倍食うんだぜ」

 こちらも、成人男性としては、それなりの量を食べていると思うのだが――って、“オルガ・イツカ”は一応まだ未成年だったか。

「どーだか。シノさんとかライドとかも、もっと食べてますよ?」

 アトラの言葉はすげないものだった。肩をすくめ、子どもたちににこりと笑いかける。

「新しく入るの? 団長さんみたいに選り好みしないで、たくさん食べて大きくなってね!」

 そう云って差し出された食事に、子どもたちは面食らった顔をした。

 子どもたちがかたまって食事するのを、ドリンク片手に見守る。

 はじめはおずおずと口に含んでいた子どもたちも、一口咀嚼するなり、目を輝かせて食べだした。がつがつと音がしそうな食べっぷりだった。

「おかわりあるよー」

 にこにこしながら云うアトラに、こくこくと頷いている。

 と、

「お〜う、オルガじゃねぇか。何やってんだ」

 云いながら入ってきたのは、トドだった。

「おう、トド」

「おめぇ、団長がこんなとこにいていいのかよ。……って、そいつらが?」

「あぁ、ブルワーズのだ」

「……そいつは?」

 ぴたりと食べるのを止めて、アストンが問う。他の子どもたちも、胡乱なまなざしだ。

「こいつはトド・ミルコネン、鉄華団の、まぁ諜報担当の片割れだな」

「ご挨拶だなぁ、俺サマが鉄華団の命運を握ってるったって、過言じゃねぇってのに」

「お前も暇なんだろ」

「“お前も”って、暇なのかよおめぇ!」

「ユージンやチャドに較べりゃあな」

 とか何とか云っていると、艦内放送で、ユージンの声が響き渡った。

〈これから、ブルワーズの船に体当たりをしかける! どいつもこいつも、怪我しねぇように、しっかり掴まってろよーッ!!〉

 マジか、じゃなくて、そうだった!

 剛構造の“イサリビ”で、相手の土手っ腹に突っこむ、って――このタイミングか!

〈いっくぜ――ッ!!〉

 船体が、エイハブリアクターの急速な出力上昇に、唸りを上げる。急加速に、トレイやドリンクボトルが浮き上がる。それを必死に掴む子どもたち、を、さらにこちらが掴まえる。トドも、テーブルにしがみつきながら、子どもの一人を掴まえている。

 デブリ帯を、最高速度で突き抜ける、その最中に、船体にデブリがぶつかるのがわかる。

「きゃあぁッ!!」

「大丈夫かアトラ!」

 厨房から上がる悲鳴に声をかける。

 調理器具なんかは固定されているし、今出してくれたのもサンドイッチだったから、危険なものは飛んでいないだろうが、それにしても。

「だ、大丈夫ですっ! ちょっと浮いちゃったんで!」

 厨房のハッチからひらひらと手が振られる。

「気をつけろ、じきに衝撃がくるぞ」

「え、は、はいっ!」

 元の席に辿りついた子どもらが、慌てて掴まる場所を探すのに、トドと二人で緊急用のシートを引きずり出してやる。

 ベルトで身体を固定し、自分たちも何とか席についたところで、

〈沈めやぁッ!!〉

 ユージンの叫びとともに、ひときわ激しい衝撃がきた。ベルトに身体がくいこむ感覚。

 それから身体が跳ね上がり、揺さぶられて、また後ろに叩きつけられる。これは酷い、交通事故なんて目じゃない衝撃だ。阿頼耶識のピアスがシートに引っかかって、結構な痛みを感じる。

 子どもたちはどうかと見回せば、やはり首の後ろあたりを押さえて悶絶したりしている――後々、障害が出ないといいのだが。後でもう一度、船医に見てもらう方が良いかも知れない。

〈ッしゃあッ!!〉

 雄叫びが聞こえる、と云うことは、作戦はうまくいったのだろう――ただひたすら危険でしかなったが。

 この世界では、こう云う戦艦による体当たりは有りなのだと、作戦を立てた“三日月”は云っていた。

 だが、有りだとしても、

「――有りでも、この作戦はどうなんだよ……」

 ちょっと、ここにはいない“三日月”に、文句の言葉がこぼれる。

 重力がない、空気がほぼない――星間ガスなんてものは、地上で作られる真空状態よりなお希薄なのだ――状態では、摩擦抵抗による減速なんて、ほんのわずかしかない。つまり、正真正銘最高速度でドカン! なのだ。音速ジェットで突っこむようなものだ。下手をしたら、本当に死んでいる。

「――お嬢さんたちは大丈夫なんだろうな……」

 うまくしても、ベルトの圧で痣だらけになっているのじゃないか。

「あ、大丈夫ですっ、フミタンが、作戦聞いて、クッション入れまくります、って云ってました!」

 アトラの報告に、安堵する。

 海賊退治ができたとしても、依頼人が無事でなければ台無しなのだ。

「おい、こっちの被害は!」

 ブリッジに繋げてそう怒鳴ると、

〈凹みもねぇぜ! あっちは大破だがな!〉

 勝ち誇ったようにユージンが叫ぶ。

 それは良かった――良かった、のか? 大破させたら拙いんじゃないのか、宇宙で船は沈まないとしても。

 だがまぁ、とりあえずその辺は措くとして、

「おうおう、そいつは良かった。良かったがなぁ、お嬢さんも子どもらもいるんだ、ちっと心の準備はさせろよ!」

〈そう云うのがてめぇの仕事だろうが! ブリッジにいねぇてめぇが悪い!〉

 何だか嬉しそうに云われる――意味がわからない。普通は、誰がどうだろうと、安全確認のために声はかけるだろうが。

 ぶつぶつ文句を云いながら、子どもたちのベルトを外してやると、ちょっと青い顔ながら、もうしゃんと立っていた。

 と、スピーカーにノイズが入って、

〈――ええと、うん。……“オルガ”、みんな無事?〉

 “三日月”の声が云った。

「なんとかな!」

 本当に“何とか”な! ユージン、いや、やっぱりこの作戦にGOを出した“三日月”だ。

 帰ってきたら、憶えてろ。

〈呼びかけいける? 要点は、投降してってのと、できればクズどもから身を守ってて欲しいっての〉

「わかったーーどうだ? やれそうか?」

 訊ねると、アストンは顎を引いて、大きくひとつ頷いた。

「よし、じゃあコイツだ」

 そう云って、インカムをぽんと抛ってやると、それは過たずにアストンの掌に落ちた。

「……これ」

「それに喋れば、うちの連中が細工して、ブルワーズの船ん中に声が流れる。――お前たちだって、たとえ仲間だって思ってなくても、一緒に戦ったヤツらを、死なせたかねぇだろ?」

 知ってるヤツが死ぬのは、気持ちのいいモンじゃねぇよな、と云うと、アストンはしばらく黙りこんでいた。

 が、きっと眦をつり上げると、インカムのマイクに向かって叫びを上げた。

「ブルワーズのヒューマンデブリたち、俺だ、アストンだ!」

 その声は、ブルワーズに、ブルック・カバヤンに対する反撃の砲火であり、ヒューマンデブリによる鬨の声となって、あちらとこちらの船に、高く響きわたった。

「いいかみんな、身を守れ、ブルワーズから逃げろ、鉄華団に味方しろ――解放の時は今だ!!」

 

 

 

 戦闘は、思ったよりも長引いた。

 アストンたちの声は、ヒューマンデブリの少年たちには大変な威力だったらしい。

 といっても、もちろんすぐに誰もかれもが投降したわけではない。こちらに捕まったアストンたちが、脅されて投降勧告の言葉を云わされているのではないか、と疑われるところだし、そもそもが弾とカラーボムの飛び交う“戦場”だ。投降しようにも、鉄華団の人間になかなか近づけないと云うこともあっただろう。

 それでも、ほとんどの子どもたちが、その言葉に応えて投降しようとしてくれた――残念ながら、すべての子どもを保護することはできなかったのだが。

 子どもたちはともかく、大人どもがまったく投降する気がなく――当然のことだ――、あまつさえ、投降しようとする子どもを盾に、こちらに戦いを挑んできたものもあった。

 ブルワーズの長、ブルック・カバヤンも、その卑劣な大人のひとりだったようだ。

 だがカバヤンは、子どもを人質に、逃げ出そうとしたところを、“三日月”に射殺された――ブルワーズの長としてではなく、その辺の三下と同じ、ただの“卑怯な大人”として。

 カバヤンが死んだ後は、割合に早かった。子どもたちが投降し、元々人数のいなかった大人だけでは抵抗しきれなかったと云うこともあるのだろう。

 原作では数日を要した戦いは、ほぼ一日で終結することになったのだ。

 生き残った二十人ほどの大人たちを、ブルワーズの母船の船倉にひとまず閉じこめ、子どもたち――こちらは、全部で三十人ほどいた――を“イサリビ”に収容する。

 その間、はじめに収容した十人のうち三人――アストン、デルマ、そして昌弘――は、こちらの後をついて回ってきた。

 ブルワーズのヒューマンデブリのリーダー的な存在として、この後自分たちを託す先として、鉄華団のことを見極めたいと考えているのだろうか。あるいは、自分たちの仲間を殺した“大人”――そう年齢は離れていないはずだが――の隙を窺っているのだろうか。表情の乏しい少年からは、その感情の流れを読み取ることは難しかった。

 “イサリビ”で突っこんだ方の船は、大破して、沈没こそしなかったものの、このまま中古船として売り払うのは難しそうだったから、まぁリアクターはそれで売るとして、後も分解して、部品として売れない分は屑鉄として処分するしかないだろう。

 もう一方――“三日月”たちの攻撃した方の船は、カラーボムで極彩色にされてはいたものの、破損の程度は軽微で、このまま運行するのも差し支えないとのことだった。

 とりあえず、グシオンとマン・ロディを無事な方の船に収容し直し、整備士とおやっさん、ヤマギで改修してもらう。特にグシオンは、ブルワーズ戦の理由の三分の一くらいを占めるものだったから、感慨も大きい。ついでに、バルバトス、グレイズと触ってきたおやっさんたちの整備知識も、グシオンとマン・ロディを触ることでさらに拡充されただろうから、そう云う意味でも嬉しい話だ。

 ついでにブルック・カバヤンは、結構な財産を隠し持っていた――そのあたりは、やけに鼻の利くトドが、金庫の場所を探りあてて教えてくれた。

 中身は金塊やら宝石やらギャラー紙幣の束やらの山で、換金すれば相当な額になるだろうと思われた。

「俺にもちっとはよこせよな」

 などと云ってきたが、それがやれるかどうかは、マクギリスやカルタ・イシューの判断にかかっている。

 とりあえず、

「これがウチのものになったらな」

 とは釘を刺しておいたが、納得したものかどうか。

 考えてみれば、ブルワーズを倒した後のもろもろについては、特に取り決めをしたわけでもなかった――向こうとしては、鉄華団単独でどこまでやれるか、半信半疑だった部分もあっただろうし、こちらはこちらで、犠牲者がどれだけ出るか不安だったのもある。

 が、蓋を開けてみれば、こちらの犠牲はほぼなく――無論、負傷者は相当数出たが――、上々と云っても良い結果だっただろうとは思う。ブルワーズのヒューマンデブリの子どもたちを、すべて生きたまま回収することはできなかったが。

「団長さん」

 声に振り返れば、クーデリアとフミタンが、揃ってやってくるところだった。

 見たところでは、特に怪我などはなさそうだったが、実のところはどうなのだろう。

「お嬢さん。荒っぽい作戦で申し訳なかった。怪我はないか?」

「大丈夫です、私もフミタンも。――それで、あの、ブルワーズの方々は」

「方々って云うほど上等な連中じゃない。とりあえず大人たちは、ギャラルホルンの、地球外縁軌道統制統合艦隊に引き渡す」

「では……子どもたちは」

 なるほど、心配はそこか。

「とりあえず、一旦うちで引き受けて、本人たちに希望があれば、それに沿うようにしてやりたいと思ってる」

 そう答えると、ほっとした表情になった。

「そうですか……団長さんのことですから間違いはないとは思っていましたが、安心しました」

「とりあえず、ファリド特務三佐たちとの話し合いのノルマはクリアしたからな、これであんたを地球に下ろせる」

「――あの……その件なのですが」

 云い難そうに、クーデリアは切り出してきた。

「実は、行き先を、アーブラウに直接ではなく、一度オセアニア連邦にして欲しいのです」

「ミレニアム島だろ、わかってる」

 そう切り返すと、驚いたように目を見開かれた。

「ど、どうして……」

「どうして? あんたの後ろ盾のひとりが、アーブラウ元代表の蒔苗東護ノ介だってのは知ってる。その爺さんは、今は汚職か何かで飛ばされて、そのミレニアム島とやらにいるんだろう?」

「……あなたは、何でもご存知なのですね」

 クーデリアは、複雑な顔で微笑んだ。

「そうです、私の後ろ盾になって下さっているおひとりが、その蒔苗東護ノ介氏なのです。私は、アーブラウ議会で、火星のアーブラウ領の経済的独立について話すつもりなのですが、そのためには、私に賛同して下さる蒔苗氏の一派と共闘しなくてはなりません。ところが現在、アーブラウ議会は、蒔苗氏の政敵であるアンリ・フリュウの一派が牛耳っていると聞き及びます。私は、自分のためにも、蒔苗氏をアーブラウ議会のあるエドモントンまで送り届けなくてはならないのです」

「……わかってたからいいけどな、お嬢さん、そう云う情報は、小出しにしてもらっちゃ困る。こちらにも予定ってモンがあるし、オセアニア連邦からエドモントンってことになると、地球に下りてからのルートや手段なんかも変わってくる。細かく云えねぇのは仕方ないとしても、今度からは、大まかにでも話をしといてくれ」

 多分、この忠告は、クーデリアの今後に役に立つものだと思う。例のあれだ、ビジネス誌なんかによく載っている“報連相”と云うやつだ。

 まぁ、こっちもできているとは云い難いが、これくらい大きなことになると、それでは困ってしまうだろう――このまま政治家を目指すにしても、原作のように会社を立ち上げるにしても。

「……申し訳ありません、以後気をつけます。――わかっていたとおっしゃいましたか?」

 紫の瞳が、ぱっと上がってこちらを見た。

「まぁな。俺は耳が早いんだ――今のところな。……とにかく、ブルワーズの件に片がついたら、ミレニアム島へ行く。その前に……」

 ちらりと、アストンたちを見やる。

「ブルワーズの子どもらの、葬式をしてやりてぇんですよ」

 そう云うと、クーデリアは首を傾げた。

「お葬式、ですか」

「あぁ。あいつらが、ブルワーズでなくなる前に、仲間をきちんと弔わせてやりてぇ。そうすることで、生きてる側も救われるモンだからな」

「そう、ですね……」

 頷いたところを確認して、切り出す。

「それで、そん時に、ちょっとお嬢さんに頼みがあるんだが……」

 そう云うと、少女は顔を上げて、まっすぐこちらを見つめてきた。

「何でしょう。私にできることでしたら、何なりと!」

 ――おいおい、安請け合いして大丈夫か?

 とは思ったけれど、前向きに考えてくれるのはありがたかった。

「実はな……」

 と云って囁いた提案に、少女は目を燦めかせ、すぐに頷いた。

「いいですね、すばらしいことです。是非ともお手伝いさせて下さい!」

 

 

 

 子どもたちの葬送は、海でやるのと同じ――つまりは原作と同じかたちで行うことにした。

 ブルワーズの母艦の格納庫で、コンテナに子どもたちの遺体を横たえて、その隙間に様々なものを詰める。“普通”は花で埋めるものなのだろうけれど、ここは宇宙空間だし、そもそも雨の少ない火星では、花は贅沢品だ。その代わりに、アトラやクーデリア、フミタンたちに頼んで作ってもらった布の花を一本ずつ持たせ、隙間にはアトラが焼いた菓子を詰めこんだ。

 それに何かを感じたのだろう年少組が、何やらガラクタめいたものを入れていく。玩具だろうか、よく用途がわからないものを、それでもひどく大切そうに。

 ひとりに一つ、棺が用意できないのは申し訳ないが、それでも何とか体裁は整ったと思う。

 皆、ノーマルスーツ――『鉄オル』世界では、宇宙服のことをどう呼んでいただろうか?――に身を包み、ヘルメットのバイザーだけを上げている。

 やがて、参列者――鉄華団のほぼ全員と、ブルワーズの子どもたち――の中から、クーデリアが進み出た。

「――あなた方は、勇敢に戦いました。ブルワーズの、ヒューマンデブリと呼ばれた子どもたち」

 澄んだ声が、格納庫の中に響きわたる。

「あなた方は、人としての尊厳を奪われ、売られ、買われ――それでもその場に踏み留まり、あなた方は戦いました。宇宙の闇を、戦いを、死を怖れず、誰よりも勇敢に。……今、あなた方は、安らぎの中にある」

 クーデリアに頼んだのは、死んだ子どもたちへの手向けの言葉だった。

 宗教らしい宗教のない火星では、葬儀と云っても、何という儀式があるわけではないようだ。だからせめて、“革命の乙女”に司祭や僧侶のように、死者を送る言葉をかけてもらおうと思ったのだ。

 ――良い考えとは思いますが……その、本当に私などで良いのですか?

 請け負ったくせに、クーデリアは尻ごみするような様子を見せた。

 ――あんたが良いんだ、あんたのために、この子らも戦ったようなモンだろ。なら、あんたの言葉で送ってやるのが最高の手向けになる。どうせなら、あんたがこの子らの姉か親族だったみたいに送ってやってくれ。……身寄りのないのがほとんどだからな。

 ――わ、私は一人っ子で……歳の近い親族もいないのですが……

 ――別に親族じゃなくたって構わねぇ。あんたが学校に行ってた時の、近しい下級生とか、そう云うのに向けるような感じでいいんだ。……その時だけでも、この子らの縁者になってやってくれ。

 ――……わかりました。

 クーデリアは頷くと、それから一晩かけて、ブルワーズの子どもたちを送る言葉を考えてくれたのだった。

「――あなた方の力で、私たちは生き残り、仲間たちとともにあります。……あなた方の働きを、神々がみそなわしますように。あなた方の大いなる眠りが、幸いなものでありますように。私たちの祈りが、あなた方の眠りを守りますように」

 ブルワーズの、生きている子どもたちが、鼻をすすり上げた。

「――“棺”の蓋を閉じるぞ」

 鉄の扉に手をかけて云うと、

「待って」

 と“三日月”が云った。その手には、馬鹿でかい金属の塊がある。

「これも入れて」

 そう云ってそのガラクタを床に置くと、ネジ――よく見るとネジ巻きだ――をごりごりと回す。

 やがて、

「――……あれ、これは」

 何かが金属を弾く音、やや拙い、けれど聴き馴染んだメロディーが流れ出した。やさしい旋律、夜の夢に誘うような――と思うのは、多分、これをよく聴いたのが夜であることが多かったからだろう。

「――“星に願いを”か」

 元の世界のアニメーションの名曲。夢の国から帰る時、よくこの曲が流れていた――駅までの道でも、シャトルバスの中ででも。

 そう云えば、

 ――オルゴール作ろうと思うんだけど、どんな曲がいい?

 そう訊いてきたのは“三日月”だった。

 別に、今日この時のために作ったわけではなかったはずだが、結果的には、良い選曲になったと云えるだろう。云い出した当の本人は、広い音階を作るのが面倒だったのか、“キラキラ星じゃ駄目?”などと訊いてきたものだが。

「……やさしい曲ですね」

 クーデリアが微笑む。

「初めて聴くメロディーです。何と云う曲なのですか?」

「“星に願いを”だ」

「題名も素敵……かれらが、気に入ってくれるといいですね」

「……あぁ」

 このオルゴールをコンテナに入れたとしても、いずれ中の空気が抜けてしまえば、ほぼ真空の中では音が鳴り響くことはないだろう。その鳴らない音色すらも供物となって、かれらのための子守唄になるのだろうか。

 オルゴールは、昭弘とシノがそっとコンテナの中に入れた。

「バイザーを下ろせ! “棺”を送り出すぞ!」

 叫んでバイザーを下ろし、格納庫の出口を開ける。外へ――宇宙へと繋がる出口を。

 ライドの操るMWが、コンテナをそっと押し出すと、それは慣性のままに滑ってゆき、やがて船の外へと流れていった。

〈黙禱!〉

 俯いて頭を垂れた先の宇宙に、氷の華が咲く。

 氷の花火だ――原作でも葬送に使われたあれが、ブルワーズの子どもたちの葬礼を美しく彩る。ヤマギが打ち上げてくれたのだろうと了解して、きらきらと輝く氷の華を見つめていると、くいとノーマルスーツの腕を引かれた。

 見下ろせば、バイザーの中から覗くのは、昌弘の顔。

「どうした」

 顔を近づけ、トミノ曰くの“お肌の触れ合い通信”で問いかけると、

〈……アイツら、どこにいくのかな〉

 そう返ってきた。

 どこ、と云うのが、具体的な場所のことでないのはわかる。

 どう答えたものかと考えていると、

〈――ねぇ、生まれ変わりってあると思う?〉

「あぁ、ある」

 これには、自信を持って答えられる。

「死んでも、ひとはまた生まれてくる――今すぐにじゃなくて、人によっちゃ、随分間があくこともあるって聞いたな。だから、お前が年寄りになってから死んでも、また次の人生では、あいつらと同じくらいの歳で逢うことになるかも知れない」

 あるいは、かれらと巡り逢わないままに、次の人生を終えるのかも。

 “昔”ともに生き、元の人生では終に巡り逢わず、この世界にも当然いないものたちを思い浮かべる。あるいは、対立する陣営だったにも拘らず、妙に馬が合って、密かに親交を深めたあの頓狂な男を。

 あの仲間たちの手があれば、この生き残りゲームはかなり楽だったのだろうとは思う。監察だったあの男や、勘定方だったあの男などがあれば。

 だがまぁ、今生で出逢わなくても、また違う人生ではきっと出逢うのだ――そうしてずっとやってきた。そう、ちょっと前に流行っていた歌のように、“一万年と二千年前”とまではいかないが。

 だから、

「だから、あいつらにはいずれ会えると思って、お前は、お前自身の人生を、精いっぱい生き抜け」

 今を生きることは、次の世でも必ず身についた力になるはずだから。

 そう云って、ヘルメットの上に、ぽんと手を置く。

 そうして初めて、今の会話が“お肌の触れ合い通信”ではなくなっていたことに気づく。

 アストンとデルマ、その他のブルワーズの子どもたちの目が、じっとこちらを見つめていた。

 その真摯なまなざしに、どうこの話を締めたものかと、若干頭を捻る。

 ――まぁいいさ、所詮、俺は俺だ。

 “オルガ・イツカ”にはなり切れない、あの純粋さは、もう自分にはない。

 それならそれで。

「……ま、どうやって生きるかは、これからはお前らの望み次第だ。でも、まだそれが見つからないって云うんなら――何だったら、俺たちと一緒に生きてみねぇか」

 子どもたちの顔を見回すと、考えるような顔つきになっていた。

 ――いい傾向だ。

 考えて、自分自身の望みを知って。

 そうやって広い世界に羽ばたいていくその前の、ひとときのとまり木にでも鉄華団がなればいい。

 原作では助からなかったものたちも、中には随分増えてきた。かれらの未来も、きっと同じだ。その踏み台、むしろ踏切板にでも、鉄華団がなれれば、それで。

 昌弘と、それからアストンが、こちらの腕を強く握ってきた。

 そして。

〈――俺たちは、まだ望みなんてわからない。だけど、あんたは、それがあるかも知れないってことを、俺たちに教えてくれた〉

 だから、とアストンが云う。

〈それを見つけるためにも、オルガ・イツカ、俺たちはあんたに従う〉

 かれら自身の望みを見出すために。

 ――……一歩前進だ。

「――よし、それじゃあ宜しく頼むぜ」

 笑って云うと、子どもたちからは大きな頷きがひとつ、一斉に返ってきた。

 

 

 

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