【成り代わり】鉄血のナントカ【異世界転生?】   作:くずみ@ぼっち字書き。

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一方その時"三日月"は 8

 

 

 

 yo ho yo ho a pirates life for me.

 We pillage plunder, We riflr, and loot.

 Drink up me'ear-ties yo ho !

 

 気分はパイレーツ・オブ・カリビアン。

 ブリッジ急襲――自分がかまされる気分はどうだい、カバと不愉快な仲間たちよ?

 ブルワーズの艦は2隻だ。

 1隻は空母仕様、2隻目が戦闘仕様の装甲艦。 

 もうマン・ロディは打ち止めなのか、出てくるMSは居なかった。

 原作では、1隻は名瀬のハンマーヘッドに突っ込まれてデブリ帯にふっ飛ばされてたけど、今回はイサリビしかない。

 ユージンの操船技術だけが頼みの綱だ。

 それから、あんな白兵戦も御免だ――陸戦隊の突入による鉄華団の被害は甚大だったし。

 ブルワーズの子供たちも殆どが助からなかった。

 じゃあ、どうやるのか。

「――“オルガ”、どう? 艦内の子供らに呼びかけできそう?」

 既に救出済の子供らから、まだ敵艦内にいる子供らに向けて。

 突入の際に、弾除けやら死兵やらにされないように、艦の中のクソどもから離れてくれれば良いけど、難しそうだから、できるだけ投降してくれって。

 まあね、そう簡単に行くとは思わんけどさ。

 でも、やるとやらないとで、相手方の士気は大きく変わるよね。

〈あー……どうだ、お前たち、やってくれねぇか?〉

 お、いま説得中だったか。

 しばらく待てば。

〈……わかった。やってみる〉

 これは、助けた子供の声か。

〈よし! ――ミカ! いけるぞ!〉

 “オルガ”が嬉しそうな声を出す。

 子供の犠牲を減らせるとすれば、そりゃ嬉しくもなるだろう。

 おれも嬉しい。

「ありがと! じゃあ、タイミングは伝えるから、そんときは大声でお願い」

 呼びかけは突入寸前で。

 まずは、イサリビに1艘潰して貰わなきゃ――頼むよユージン。

 デブリ帯を最速で突き抜けて敵艦に突っ込むなんて、とても正気の沙汰じゃないけど、この世界では『有り』なんだとか。

「ユージン、聞こえてる?」

〈ああ。そろそろか?〉

「うん。最短ルート送った。これ以上引っ張ると逃げられそうだから、一発かまして1艘デブリ帯に突っ込ませてやって――あ、中の子供だけは回収予定だから爆散とかやめてね」

〈おう 爆散させなきゃいーんだろーが〉

 ――あ、コイツ、絶対にいま、ニヤッて笑った。

 1拍おいて。

〈これから、ブルワーズの船に体当たりをしかける! どいつもこいつも、怪我しねぇように、しっかり掴まってろよーッ!!〉

 ――テンションたっか!

 ユージンの腕なら、あのデプリ帯でも間をおかず超えてこれるだろう。

 そして、いよいよおれ達は残る艦に乗り込んでいく。

「シノと愉快な仲間たち、『そんな装備で大丈夫か』、例のブツはちゃんと持ってる?」

 突撃隊に呼びかければ、

〈『一番いい装備で頼む』だっけか? 忘れてねえよ……マジでヒデーの作りやがったよな!〉

 ちょっとゲンナリしたような、それでいて面白がるようなシノの返事。

 そうとも。死ぬ気で手作りしたんだよ。例えばカラフル催涙スプレー(火炎放射器サイズ/無重力、低重力でも対応)とか、同じくカラフル催涙砲とか爆裂弾とかとか。

 スプラ☓ゥーン的なアレ。

 生身なら悶絶して転げ回るし、スペーススーツ着てても視界ゼロにできる。

 定着力が凄くて、いちど浴びたら飛散しないので、跳ね返りによる2次汚染の心配は極少ない。

 敵をタコ殴りし放題、とまでは行かないけど、大幅に制限できる筈。

 実際に、製造中に誤って炸裂させたときには、七転八倒した。まったく無力化された挙げ句に、お花畑が遠くに見えた――いや、その後ちゃんと復活するんだけど。

 新しく来た船医に、もの凄く叱られた。

 格納庫の片隅に障害物で迷路作ってリアルスプ☓トゥーン(危険なので催涙効果ナシで)したときにも、絶大な効果を発揮してたし。

 陸戦部隊よりチビ共がいい働きしてて、微妙に複雑だったけど。

 おやっさんとヤマギと助っ人の整備士のオバサマに、もの凄く叱られた。

 後片付けの際には、例の掃除ロボットに、もの凄く罵られた――あいつ、製造者を何だと思ってんだろうね。

「おれも合流する。突入はそれまで待って」

「『はいよ』」

 む。おれの口癖真似すんじゃないよ、シノ。

 

 

 

 物凄いスピードで、イサリビが突っ込んでくる。

〈沈めやぁッ!!〉

 ユージンの叫び。

 装甲艦のやや下方のどてっ腹に、ドッカーンっと。

 眼の前の光景に顎が落ちた。

 ポカンと、さぞかし間抜け面をさらしてるだろーとは思うけどさぁ!

 うわぁあああ。

 いや、沈めちゃダメなんだよ、あれ、動かなくする からいいのか?? あれ???

 装甲艦による体当たり――うん、物凄い迫力。

 ちょっとうまく言葉が出てこない。

 いや、びっくりしてる場合じゃ無いんだよ、おれ。衝撃から立ち直れ、おれ。

「ええと、うん。……“オルガ”、みんな無事?」

 ユージン、思ってたより100倍ひどく突っ込んでて心配。

〈なんとかな!〉

 “オルガ”の返事はちょっとヤケクソっぽい。

 あれ、なんだろう。背中がゾクッとした――変なの。

 まあいいや。

「呼びかけいける? 要点は、投降してってのと、できればクズどもから身を守ってて欲しいっての」

〈わかった――どうだ、やれそうか?〉

 後半は子供らにだろう、耳を澄ましていれば、口々に了承の声が。

 暫くして流れ出した、祈るように、叫ぶように子供ら艦に残る仲間たちに呼びかけ始める。

 さあ、行こう。

「――合流する。おれたちも突っ込むよ!」

〈〈〈〈〈〈了解!!〉〉〉〉〉

 バルバトスで出来るだけ武装艦の砲台にダメージ入れて、取り敢えず着艦。

 次々着艦するグレイズ――あ、シノ、クランクと交代したのか、と、アインに昭弘――と、MW複数台と……マン・ロディ? 誰が乗ってんの??

 疑問はそのまま口に出てたらしい。

〈オレだよ、三日月さん。オレとタカキとヤマギさん〉

 お。ライドの声だ。

「ヤマギも乗り込むの?」

 ――大丈夫なのか、非戦闘要員。シノが心配でついてきちゃった?

〈洗浄部隊だよ。あの碌でもないカラーボム使うんでしょ?〉

 ああ。そっちか――つか、碌でもない言うなよ。傑作だぞ。

 さて。

「行くぜ野郎ども!」

〈〈〈〈〈おう!!〉〉〉〉

 突入は出来る限りのスピードで。

 当然、敵も迎え撃ってくるわけだから、ここで最大火力を注ぎ込む。

 ここではカラフル催涙爆弾じゃなくて、スタングレネードを投擲。

 轟音と閃光。少しのスモーク。

 場に混乱が満ち、敵の統率が乱れる――案外脆いね。

 少年兵が多い辺りにはネットランチャーを発射。

 ――フフフ。これ、低重力で網がきれいに広がるようにするのに物凄い苦労した。

 怒号を上げるおっさん達には容赦なく実弾を大盤振る舞い。

 子供ら盾にして出てくんじゃねぇよ。

 後ろから銃突きつけて戦えって――ヒューマンデブリ達が呼びかけに応じて投降するのを許さない感じ。

 わかってたけど、ホント胸くそ。

 当然ながら子供らの士気は低い。

 ガリガリにせて汚れて傷だらけ――忠誠も思慕もなく、ただ暴力と恫喝だけで従わされてもね。

 さらに仲間からの投降の呼び掛けもあって、きっと混乱してるんだろう。

 暗い目の中に、縋るような光が見え隠れしている。

 さて、ここからカラフル催涙の出番。グレネードだと死傷の危険があるからね。

 さあ、野郎どもマスクの準備は万端か――って、最初からスペーススーツだけどさ。

 スプレー噴射は、艦内消化器並みの勢いがある。

 催涙砲は言うに及ばず。

 できるだけ避けてはいるけど、ほとんどが生身のヒューマンデブリ達には、哀れなほどによく効いた。

 子どもたちが絶叫して転げ回るし、蹲る。

 味方からは鬼畜生を見る目を向けられる。

 罪悪感が半端なくて、イヤな汗がダラダラ流れた。

 ――ごめん! でも大丈夫! ちゃんと治るから! おれも経験済みだから!!

「洗浄部隊! 子供らを頼む!!」

 叫べば、

「ごめんね! うちの悪魔がひどいことして!」

「今助けてやるからな! 恨むなら三日月さんだぞ!!」

 洗浄中和剤を担いたヤマギ率いる一群が子供らに向かう――お前らちょっとヒドイ。

 文句言う暇はないけど。

「追撃いくよ!!」

「「「おう!」」」

 攻撃部隊はさらなる打撃を。

 スペーススーツのゲスな大人達に対しては、遠慮も容赦も慈悲もない。

 視界塞いだら後は蜂の巣。

 視界ゼロに慌ててヘルメットを取るバカもいるけど、いい餌食。さあ、地獄を見るがいい。

 近接戦闘では、アクス、ナイフ、金属棒、何でも使う。

 全部背負ってきた。

 片っ端から敵を潰していく。

「バケモノが!!」

 うん。今も昔もよく言われてた――だからなに?

 一人でも多く敵を無力化しなきゃ、仲間と子供らが攻撃されるんだ。

 敵味方双方から向けられる怖れも厭悪も、何もかも、全部、誇りに。

 脅すゲス共が減れば、子供らは次々に武器をおろして投降してくる――のを、回収。

 頼むよタカキ。お前が適任。

 曲がり角にはカラーボムを放る。低重力でも天井床壁くまなく染まるから、そこに居るだけで無力化できる。

 ザマミロ。

 昭弘が悪鬼の形相で無双している――弟を虐げられて、よっぽど腹に据えかねてんだろう。

 そりゃそうだ。コイツらのゲスっぷりを目にすれば、皆殺しにしたってまだ足りない。

 シノの暴れっぷりも半端ない。

 向かう先で、敵が逃げるようになる――向かってくるのは子供ばかりで、すぐに投降してくれるから有り難い。

 一部で頑なに抵抗する子たちがいたから、無力化したあとで事情を聞いたら、戦わないとは仲間を殺すとか、そんな圧力をかけやがったとか。

 うん。

 取り敢えず、そいつ殺してくるよ。

 みんなの目が一斉に座った。

 

 

 

「Hi jack! ゴキゲンどーよ?」

 ブリッジに踏み込めば、

「動くな! コイツらをここでバラすぞ!!」

 子供の頭に銃口を突きつけた固太りのオッサンが怒鳴っている。

 人相悪いな!

 側には何人も子供たちが盾にされて並んでいる。

 ヒューマンデブリである子供を盾に使うだけじゃなくて、人質にするって、そこまでクズか。

「お前ら、コイツら助けたいんだろ!?」

 口からツバ飛ばしながら、ぎゃあぎゃあ喚いて。

「てめぇらどこまで汚ねぇんだ!」

 シノが顔を歪めて叫ぶ。

 効果があると察してか、男が下卑た笑みを浮かべた。

「さあ、そこを退け――ヘッ、こんな奴らが盾になるなんて驚きだぜ!」

 さあどけ、と腕を振った一瞬、銃口が子供の頭から離れる。

「Bye!」

 その隙を見逃すと思うの。

 全弾ぶち込めば、ギョロリと白目を向いて倒れた。

 呆気ない。

 崩折れる子供をシノが抱きとめる。

「大丈夫か!?」

「……う、うん」

 震える声でそう答えるのに、安堵した。

 さあ、残るはカバか。

 カートリッジを交換。まだ弾はあるよ。

「カバはどこ?」

 子供に問いかければ、目を真ん丸に見開いて、キョトンとした顔。

「え? ここのアタマってカバじゃないの?」

「……カバヤンのこと?」

 ――『カバやん』なんて、愛称で呼ばれてたの? 何それ。

 首を傾げてみる。

 みんなが変な顔で俺を見てる――え、なんで?

 コドモが足元を指差す。

 ――え? これ?

「ブルック・カバヤン」

 えーと。うん。もう片付けてたみたい。インカムから報告。

「……“オルガ”。カバ狩った」

〈仕留めたか! 良くやった、“ミカ”!〉

 そのことは、直ぐに全艦に通信で伝えられて、ブルワーズの残党はとうとうすべてが投降した。

 これをもって、ブルワーズ掃討戦は幕を下ろした。

 これから後始末があるけどね。

 

 

 

 2艘とも艦は分捕る。ヒューマンデブリは勿論、積荷とMSも。

 海賊どもは、あとで纏めてギャラルホルンに引き渡すとか――報奨金出ると良いな。

 分捕ったは良いけど、ユージンが突っ込んだ艦はデプリ帯から引っ張り出すのは大変そうだし、乗り込んだ方の艦は、もの凄くカラフルかつ刺激的になってて、早急に洗浄が必要――まあ、もともと当初のイサリビより不衛生だから、どのみち掃除必須なんだけどさ。

 量産しておいた掃除ロボットを投入したら、いきなり初号機に電解水射出されて追い回された。

 『汚物は消毒ry』って、おれそんなプログラムしてないんだけど――ホントにあいつ製造者をなんだと以下略。

 トドはお宝を探しに行った。

 ダンテとおれは通信機器や回路にあらかた目星をつけて、譲ってもらおうと交渉中。

 あとは、ブルワーズの生き残りのクズ共も動員して――勿論、監視付きで――艦内の片づけだ。

 転がるゲス共を袋詰めしていく、過程で、ゲス共だけじゃ無いことに気づかされて、滅入っていく。

 ――まあ、そうだよね。

 分かってたはずのことなんだけど、さ。

 ブルワーズ艦の格納庫に立ち尽くす。

 みな、まだ後始末に追われてるんだろう、ここにはあまり人がいなくて、しんと静まる空気が、肺を締めてくるようで息苦しい。

 被害は少なかったけど、皆無じゃなかった。

 みんな、悔しがってた。

 鉄華団の突撃隊からは怪我人が結構出たし――だけど、死ぬほどの怪我じゃ無かったことが幸い。

 ブルワーズのヒューマンデブリ達については、残念ながら助けられなかった子供たちが複数人いた。

 流れ弾に当たったり、投降しようとして、クズに後ろから撃たれたり、見せしめにされてたり。

 横たえられた小さな袋を見ると――無力感がね。こう。

 被害は最小に抑えても、ゼロにはできなかった。

 助けたくて、でも、取り零した。

 この先も、きっとそんなコトはあるんだろう。

 ドルトでだってそうたった。

 いつだって思い知らされる。何度でも、どこでも――ここでも。

 割り切ってる――なんて、嘘だ。いつになったらホントに割り切れるようになるんだか。

 “オルガ”がここにいなくて良かった。こんな情けない姿なんか、あんまり見せたくないし。

 だったら、ここから離れればいいってのはわかってるけど、瘡蓋つつくのを止められないみたいに、痛さから目を逸らすことが出来ずにいる。

 お前は弱いと、全部から責められてる気がして――。

 ここはとても寒い。

 だからだ。体が震えるのは、そのせいだ。

 苛立ちに叫びそうになったけど、後ろから小さな足音がしたから、仕方なく飲み下す。

 放っておいてくれないかな――いま、かなり気がたってるんだ。

 願いも虚しく、足音はすぐ横まで来て、止まった。

 戸惑うような気配。仕方なく目を向ければ、初めて見る顔がそこにあった。

「……おまえ、あの白いMSに乗ってたやつだろ?」

 向き直る先には、ブルワーズのヒューマンデブリだろう少年が1人――ライドと同じくらいかな。

――誰だろう? アストンじゃないのは確か。頬に傷がないし。

 頭に包帯を巻いてる――怪我させた恨み言かな。

「誰?」

 首を傾げただけなのに、怯えたように子供の視線が泳いだ。

 仕方ないなぁ。

「おれ。バルバトスに乗ってた。“三日月”」

 名乗る――単語の羅列みたいになったけど、通じたみたい。

 子供は顔を上げて、視線を合わせてくれた。

「俺、ペドロ。マン・ロディに乗ってた」

「うん。よろしく、ペドロ」

 右手を差し出せば、びっくりした顔で見られた。

 駄目か――まだ敵だと思われてんのか――泣いていいかな? 涙でないけど。

「お前もヒューマンデブリなのか?」

「違うけど。なんで?」

 沈黙が返る。

 えーと、この差し出した手はどーすりゃいいの?

 じっとしていれば、すごくゆっくりとペドロの手が持ち上がって、おっかなびっくり、差し出した手を握ってきた。

 あ。温かい。

 ――こいつ、生きてるんだ。

「……良かった。生きてて」

 溜息みたいな声が落ちた。

 ペドロはまたびっくりしたみたいな顔をして、それからムズムズと口元を動かしてから、頷いた。

「うん。ビトーも生きてた。アストンもデルマも昌宏も」

「ともだち?」

「――仲間だよ」

「そっか」

 頷く。ペドロが、掴んだ手にもう一方の手も添えて、ギュっと力を込めてきた。

「お前、震えてるのか?」

「ここ、寒い」

「……そりゃな」

 チラリと、横たわる元仲間だった――袋に入れられた彼らを見て。

「なんでここに?」

 また視線を戻されて、言葉に詰まる。

 ――なんでだろう? 

 よくわからないけど、いつもわからないんだけど。

「……生きてれば良かった」

 そんなことだけ、ただ思うんだ。

 ペドロはまたムズムズと口元を動かして、それから、ポロポロ涙を零した。

 ――ちょ!?

 ギョッとする。空いてる片手で拭いても拭いても、涙はまだ零れてくるから、途方に暮れる。

「――ペドロ!?」

 鋭い声がして振り向けば、もう一人、少年が駆け寄ってくる。

「てめえ、ペドロに何しやがった!」

 痩せた顔の中で、ギョロリとした目が目立っていた。前髪の一部がトサカみたいに色が違う。

「違う! ビトー、違うんだ!」

 ペドロが首を振る。

 ああ、この子供がビトーか。

「コイツ〈鉄華団の悪魔〉だろ!」

「そうだけど違う! コイツ、俺達が生きてて良かったって! アイツらが生きてりゃ良かったって…」

 ビトーが面食らったような顔で、こっちを見た。

「…………へぇ?」

「ビトー?」

 覗き込んで呼びかければ、

「なんだよ」

 胡乱げな返事。

「おれ、“三日月”」

「知ってる。聞いた。白いMSのパイロットで、ブルック・カバヤンとクダル・カデルをやったヤツだって」

「アイツらは敵だ――嫌いだし」

「うん」

「ビトーもマン・ロディに乗ってた?」

「お前らに真っ先にツブされた」

 うわ。あの一番最初にグシャっていったアレか。

「手加減しやがって――おかげで生きてた」

「俺は投げ飛ばされた」

 と、ペドロ。

「だから、カデルに潰されなかった」

 ああ、あのとき、おれに突っ込んできたの、君だったのか。

 ジッと見ていれば、手を引かれた。

「行こう――なあ、俺達は生きてる」

「うん」

 この場に貼り付けられてたみたいな足が、引っ張られて床から剥がれていく。

 温かい手。生きてる人間の力が、おれを動かす。

 一度だけ振り返って、また前を向く。

 もっと力が欲しい。

 もっともっと。強くなりたい。本物のバケモノみたいに。

 きっと、おれは、こうやって永遠に欲しがり続けるんだろう。

 でも、今は――お前らが生きてて良かったって、抱きしめたいくらい、そう思ってる。

 

 

 

 ペドロとビトーを連れてイサリビに戻れば、うお、人口密度が上がってる。

 あちこちから視線が向けられて、なんか居心地悪い。

 コソコソ喋るのやめて――いまメンタル弱ってるからさ、って。

「あれが〈鉄華団の悪魔〉だって」

「え? 意外と小さいな」

 ――ごめん。やっぱりコソコソ喋ってて。

 小さくて悪かったね! そして悪魔じゃねえよ、せめて小悪魔(♡)って呼んでよ。

 ブルワーズの子供らが移されてきたのか――うちのチビ共より小さいのはいなさそうだな、って見てたら。

「三日月さん、おかえり!」

 お、噂をすればヒルメ。

「たーだーいーまー」

 ガシッと掴んで持ち上げる。あれ、おまえ前より重たくなったね。

 ぎゃーと、悲鳴だか歓声だかをあげるのに頬摺り。ヒゲが生えてりゃジョリジョリしてやったのに。残念。

「なんだよ、元気じゃん!」

 ポカポカしてくるから下ろす。おまえ、それ意外と痛いんだからな。

「ライドが心配してた。みんなも」

 お。心配かけちゃったか。おれも未熟だねぇ。

「コイツラは?」

「ペドロとビトー。仲間になった」

「ふぅん。オレ、ヒルメ。よろしくな!」

 屈託なくヒルメが名乗り、手を伸ばす。

 ペドロとビトーは、なぜかおれを見てから、お互いに顔を見合わせて、それから交互にヒルメの手を握った。

 ヒルメはニシャリと笑った。

 うん。仲良くなれそうで、何より。

「先にダンテのとこに行ってて。ペドロとビトーも一緒に。おれ、そろそろ“オルガ”のとこに行かないと」

 けっこうな時間、ぼんやりしちゃってたみたいだからさ。

 “オルガ”はブリッジにいた。

 なにやらユージンに文句を言ってるみたいだけど、ユージンはどこ吹く風――いつもと反対の光景。

 むしろ、してやったりって感じかな、ユージンが。

 近づいていけば、二人の横に小柄な影が3つ。

 覗き込めば――あ、知ってる顔だ。

 頬に傷。汚れた顔の中で、翠の吊り目が猫みたいにキラキラしてる。

 ――アストンだ!

 隣りにいるのは、昌宏とデルマか。

 なんだ、みんな可愛い顔してんな。

 ジッと見つめれば、3人とも、人慣れない猫みたいに警戒心を隠さない視線を向けてくる。

 見つめ合うことしばし。

「あー。何だお前ら。野良猫同士の遭遇みたいなことになってんぞ」

 って、呆れたような声が。

 なんだよユージン。おれまでひと括りかよ。

 と。

「“ミカ”ぁ!」

 “オルガ”に首根っこ掴まれそうになって、慌ててしゃがんで避ける。

 ――え? ナニ!?

「逃げんなコラ!」

 イヤだ逃げるよ! その手はなんだ!?

 その手のムーブは逆毛だろう! 逆毛に撫でるつもりだろう!!

 フシャーと毛を逆立てて、ユージンの背に回る。

「おまえ、あの作戦なんだよ! 艦で艦に突っ込むって下手したら双方大破だぞ!」

「ココじゃ常套。反対しなかった。加減はユージンの判断。結果的にみんな無事」

 取り敢えず思いつく弁明を。

「アトラに食事選り好みするとか言いつけやがって!」

 ――え、それもか。

「『プチトマト嫌いだから入れないでやって』って言っただけ」

 選り好みするなんて言ってない。

 ユージンとアストンと昌弘とデルマを盾に逃げ回る。

「やめろお前ら、ンなことしてる場合かよ!」

 ユージンが怒鳴り、やっと“オルガ”が止まる。

 ふう、やれやれ。危ないところだった。

 汗を拭うムーブ。大仰に溜め息を落としてみれば、真ん丸に見開かれた目が3対、こっちを見ていた。

「――おれ、“三日月”」

 遅くなったけど、自己紹介。

「あ、ああ。俺はアストン。こっちは昌弘と、デルマだ」

「よろしく」

 手を伸ばせば、やはりしげしげと眺めてから、仲間内で目を見交わし、更に“オルガ”を見上げた。

 ――?

 なに、握手に“オルガ”の許可がいるの?

 つられてジッと“オルガ”を見上げれば、困ったように苦笑いされた。

「頓狂なヤツだが、そう悪くもないぞ」

 なにその紹介――もっとマシなのにしてよ。

「そうだな。碌でもないが悪い奴じゃない」

 ユージン、お前もか!

 プンスコするぞヲイ、と、二人を睨みあげてた隙に、ふと手が握られて視線を戻す。

「お前――あの白いMSのパイロットか」

 アストンだった。翠の目の奥に、興味の気配が見え隠れ。

「そう。もしかして、あのもの凄く早いマン・ロディはアストン?」

「――吹っ切れなかったのは初めてだ」

 拗ねたような声。

「おれも。逃げられるかもって焦ったの初めて」

 正直に言う。

「グシオンに乗ってたのがアストンじゃなくて助かった」

 もしあれがアストンだったら、すごい苦戦を強いられてたかも知れない。

「ほう。そんなにか?」

 “オルガ”が聞いてくるのに大きく頷く。

「うん。アインも手を焼いてた」

「マジでか、凄えな!」

 ユージンの率直な賛辞に、アストンの目が泳ぐ――照れてんのかな。可愛いな。

 そっと手が放されるから、今度は。

「デルマ?」

 下がり眉。ちょっと仏頂面にも見えるけど、これは緊張してるのか。

 半端に伸ばされた手を、こっちから掴む。

「ミカヅキ?」

「うん。さっき、ペドロとビトーにもあった。仲間って言ってた」

「アイツらは?」

「うちのチビ共と一緒にこの艦の格納庫に居る。おれの秘密兵器が置いてある。見る?」

「見る!」

「おい!」

 なんだよユージン、交流の邪魔すんなよ。

「まだなんか碌でもないモン創ってんのか!?」

「アストンも昌弘も見に来なよ」

 昌弘に近づいて、そっと耳元で。

「兄貴に悪戯すんなら手伝うよ」

 囁きかければ、物凄い勢いで振り向かれた。

「無視すんな!」

 ユージンが喚いている。

「その前に、やることがあるだろう」

 “オルガ”がため息をつく。

「お弔い?」

「そうだ」

 ――そっか。あの子たち、ちゃんと弔って貰えるんだ。

 少しだけホッとする。

「じゃあ、アトラに菓子とか頼んでみる」

「花も用意できるか?」

「――布のなら」

 本モノは無理だけど、シーツとかで作ることは出来るよ。

「じゃあそれで。できれば人数分作ってやれ」

「りょーかい」

 みんなにも手伝ってもらおう。

 

 

 

 ひと晩かけて、いろいろ用意した。

 シーツは備品をあさって、未使用のものを見つけた。

 真っ白い布を裂いて、コサージュみたいな花を幾つも拵えてみる。

 人数分揃えるには、さほど時間はかからなかったけど、それだけじゃ寂しいから、もっとたくさん。

 焼き菓子を作りおえたアトラも手伝ってくれたし、手先の器用なダンテもタカキもチビ共も、ちまちまと手作業に勤しんでくれた。

 クーデリアとフミタンの作った花は、繊細で綺麗だった。

 昭弘が作った花は不格好だけど温かい感じがしたし、シノの拵えたそれは、派手で、でもどこか寂しい感じがした。

 ビスケたんの花はお手本みたいに綺麗だった。

 同じ作り方のはずなのに、みんなそれぞれ、どこかそれらしい感じで違ってた。

 そして、その花はいま、ブルワーズの子供たちを飾っている。

 焼き菓子も持たせた。

「……これもあげていい?」

 チビ共が掲げたのは、一緒に作ったトランプと双六、それから金属片で作ってやったMSもどきだった。

「うん。持たせてやれ」

 頷けば、宝物をしまうように、大事そうにコンテナに詰めていく。

 それからクーデリアが進み出て、まるで司祭みたいに、子供らを見送る言葉を唱えた。

 真摯で、優しくて、そっと寄り添うような声で告げられるそれは、胸の底に染み込んでいくようだった。

 この子達は、ひととして悼まれているんだと、心からそう思える。

 あちこちから鼻をすする音や、啜り泣きが聞こえた。

「――“棺”の蓋を閉じるぞ」

 “オルガ”が告げる。

「待って」

 まだ、あげたいものがあるんだよ。

「これも入れて」

 繊細なものは作れなくて、ゴタゴタと無骨で、見てくれはガラクタじみた金属の重い箱になっちゃったけど。

 よっこらせと抱えて運び、床に下ろす。ネジをゴリゴリ回してはなせば、仕掛けが動き出して、音色を奏でる。

 オルゴール――音程が少しだけ歪だけど。

「――……あれ、これは――『星に願いを』か」

 吐息みたいに“オルガ”が囁いた。

 この世界では、誰も聞いたことがないだろうけど。

 

 When you wish upon a star

 makes no difference who you are

 Anything your heart desires

 Will come to you

 

 口ずさむ。

 別にこの日のために作った訳じゃなくて、ホントはチビ共への子守唄がわりに考えてたんだけど、良いよね。

「……いい曲だな」

 絞り出すような声は、近づいてきた昭弘のものだった。

「よく眠れそうだ」

 目の橋が少しだけ赤いシノが、小さく笑った。

「まあ、調子っばずれだけど、聞けなくはねえやな」

 鼻を啜り上げながら悪態ついても格好つかないよ、トド。

 俺がヨロヨロ持ってきたそれを、昭弘とシノが、そっと抱えあげてコンテナの中へと運んでいく。

 準備が整えば、コンテナのトビラが閉ざされた。

 皆が、見送るために一列に並んだ。

 ビスケたんは、ギュっと唇を噛んでいた。

 アトラはと言えば、傍でずっとポロポロ涙を零している。泣きすぎてか、もう顔が真っ赤になっていた。

 ブルワーズから解放された子供たちは、グスグスしながらも、その様子をどこか不思議そうに眺めていた――まだ、感情が追いついてないのかもしれない。

 だとすれば、育つのはこれからだね。

「バイザーを下ろせ! “棺”を送り出すぞ!」

 “オルガ”の指示で、皆がバイザーを下ろした。

 減圧――そして真空になるや、重力も完全に切られた。

 漂いそうになったアトラを引き止めながら、格納庫の扉が宇宙に向けて開かれていくのを見る。

 ライドの駆るMWが、コンテナをそっと押し出していく。

〈黙禱!〉

 目を閉じて祈る。

 その眠りの安らかなこと。

 それから、またいつかどこかで、今度こそ幸多い一生を送れるといいね、って。

 そして目を開いた瞬間に、宇宙に大輪の銀の花が咲いた。

 圧倒されるほど美しくて、そしてどこかで寂しくて、でも優しい花だった。

 ――ヤマギか。

 ホントにキレイだね。

 すぐに消えてしまうのが惜しくて、その光の粒が一つ残らず消えるまで、瞬きもせずに見つめ続けた。

 

 

 

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