【成り代わり】鉄血のナントカ【異世界転生?】 作:くずみ@ぼっち字書き。
捨てたはずの縞パン(青)が、ブルワーズの捕虜を引き取りに来て驚愕――してたら、縞パン(青)の兄だった。
地球外縁軌道統制統合艦隊所属のコーリス・ステンジャって言うらしい。
なんでそんなにそっくりなんだよ。
あんまり驚いて「なぜ縞パン(青)がいるの!?」って叫んだら、物凄い形相で「貴様か!」って迫られた。
弟が縞パン(青)だけを履かされて返されたことに、いたくご立腹の様子だった。
どうしてあんなことをしたのだと聞かれたから、そういうお約束なのだと正直に話したのに、縞パン(青)の兄は宇宙猫みたいな顔をした。
引き渡したブルワーズの捕虜の身ぐるみも剥いでたから――これは単なる反撃防止だったんだけど――最終的に、鉄華団は捕虜はパンツ1枚で放り出すものと判断したみたい。
前身の‘’CGS‘’からの悪習と勘違いして、正しい捕虜の扱い方やらをレクチャーしてくれた。
帰り際に、クランクに苦言を呈して行ったせいで、仁王に頭を掴まれる羽目になった。
ついでに仁王の従者のアインにも、ギリギリとヘッドロックをかまされた。
ホントにみんなヒドイ。
そもそも、縞パン(青)を履かせたのは“オルガ”なのにね!
ともあれ、ブルワーズ討伐に成功したから、地球へ降りる許可は出た。
“オルガ”は意気揚々とマクギリスに連絡をとった。
ブリッジのモニターの前には、主だった面々が集められていた。
〈やぁ、鉄華団の諸君〉
機嫌の良さそうなマクギリスの横には、感心したような顔のガエリオと、いかにも真面目そうな男がいた。
なんだっけ――そうだ、石動だ。石動・カミーチェ。
「よぉ、ファリド特務三佐殿」
“オルガ”の気楽な挨拶に、慣れてるふたりは笑ったけど、石動だけは目を細めた。
不快――と、言うよりは、どの程度の距離にいるものかと図るように。
〈相変わらずだな、オルガ・イツカ〉
「どうも。――ブルワーズはやったぜ。約束どおり、地球に下ろさせてもらう。船とMSは、もらっちまっていいんでしょう?」
〈もちろんだ。あくまでも君たちは、海賊に襲われた民間警備会社だ。自力で撃退した上で、こちらに海賊たちの身柄を渡してくれたわけだからな〉
マクギリスの言葉に、ガエリオも頷く。
「ねぇ、報奨金とかないの?」
海賊退治のご褒美おくれよとねだれば、
「おいぃィィ!!」
何故かユージンが叫び、クランク仁王に頭をガシッと掴まれた。
〈相変わらずだな、クソガキ!〉
クソガキ言うな吠えリオめ。
〈おやおや。ブルワーズの資産だけでは不服かな〉
呆れたような口調だけど、目も声も笑っていた。
「それもありがたいけどさ。今回のことで、どんだけ食い扶持増えたと思ってんの? 食べ盛りの子供らがわんさかだよ」
頭を抑えられながらも、必死に訴えてみる。
「知ってるでしょ、うちビンボーなんだって。食料の現物支給でもなんでもいいから!」
――って、アダダダダダダ!
無理やり頭下げさせるの止めて仁王!
だってこの先のことを思えば、ブルワーズの資金だけで足りるとは思えない。
クーデリアを地球に連れてって、また火星に戻ったとき、きっと“オルガ”は事業の拡張を図るだろうし。
採算がとれるようになる前に潰れるわけにはいかないんだよ。
勿論、ご褒美だけで賄うつもりはないけど、あればそれだけ余裕が持てる。
「ファリド特務三佐、申し訳……」
クランクの謝罪を、マクギリスは手を振って遮った。
〈いや、構わない。一応、地球外縁軌道統制統合艦隊からは、報奨金と云うか、賞金がでるはずだ。……一応私からも、些少だが出そう〉
――よし、言質とった!
「お願い」
いやホントに切実なんだよ。
「す、すいません」
〈謝る必要はない。われわれは同盟者だ、君には権利がある〉
マクギリスはまだ笑っていて、ガエリオは肩をすくめて見せてるけど、そこまで腹を立てちゃいない様子。
問題は新顔だけど、特に吠え立ててくることはなさそう。
すごく躾けられた犬って感じ。でも、見た目ほど血統は良くないのかな。
腹の底に粗野な唸りを潜めてるみたい。
視線がかち合えば、『いてこますぞワレ!』と、その目が雄弁に語っていた。
挑発してやろうかとも思ったけど、クランク仁王に頭をつかまれててそれも儘ならない――仕方がないからおとなしくしといてやるよ。
「……とりあえず、許可が戴けたんで、俺たちは地球に下ります。当座の目的地は、オセアニア連邦、ミレニアム島」
“オルガ”が話を先にすすめる。
〈……蒔苗東護ノ介だな〉
マクギリスが薄っすらと笑った。
「あぁ。蒔苗氏を連れて、その後アーブラウに向かう。――エドモントンまで邪魔されずに行くには、どんなルートが最適だ?」
多分、その問は予期されていたんだろう。
〈太平洋を北上して、その後西岸から鉄道、と云うのが無難なルートだろうな。地上までは、カルタが送ると云っていたが、地上は厳密には、各経済圏の支配域になる。オセアニア連邦からアーブラウまでは、モンターク商会が手配するだろう〉
答えは淀みなかった。
「そいつは助かる」
〈エドモントンのギャラルホルンは、一応中立と云うことになっているが――どんなかたちででも、邪魔は入るだろう。そこは、すまないが介入できない。君たち自身の頑張りにかかっている〉
「わかってる。ご助力感謝する」
〈なに、私たちの方こそだ。これで、私も夢に一歩近づける〉
「――アグニカ・カイエルか」
また“オルガ”の原作知識がチラリ。
〈君は、何でも知っているのだな〉
マクギリスが苦笑いしている。
「そうでもねぇよ。……あんたがバエルに乗るんなら、俺たちはそれをサポートする。幸いにと云うべきか、うちのガンダムフレームは、今回の戦利品を合わせて二機になった。まぁ、厄祭戦みたいなことが再びあってもらっちゃ困るが、それでも、手伝いくらいはできるぜ」
鉄華団は役に立つぜアピールに、張り合うようにガエリオが吠える。
〈うちにも、キマリスと云うガンダムフレームがある!〉
「アグニカ・カイエル、お好きなんですか!」
ほぼ同時に、隣でビスケたんも吠えた。
うお、珍しいな。こんなに大声出すなんて。
〈君も、好きなのか〉
マクギリスの視線が、真っ直ぐにビスケたんに向かった。
「は、はい! 主だった資料は、大体読みました!」
両手をギュっと握りしめて、いつになく興奮した様子で言い募るビスケたんを見るマクギリスの瞳が、なんだかキラリと光ったように見えた。
〈それはすばらしい。落ち着いたら、一度ともに、カイエルの偉大さについて語り合いたいな〉
「は、はい、是非!」
――なんだろう。キラキラが飛び交ってるように見える。
あれだ、マイナーヲタトークができるかも知れん相手を見つけたときのときのトキメキ空間だ、これ。
そーいえば、例の装置で調べ物してるときも、アグニカ・カイエルの資料は出てこんかと突っかれたっけね。
引っ張ってきた資料がレア物だったらしく、一部でガラクタ扱いされてた装置に対して、ビスケたんの評価は爆上がりした。
そんなキラキラ空間に、こほん、と咳払いが割って入った。
〈ファリド特務三佐、そろそろお時間が〉
まあね、マクギリス、忙しいよね。
〈そうか〉
頷いてはいるけど、どこか残念そうに見えるのは気のせいかな。
〈ではな。すべてが終わったら、酒でも酌み交わそう〉
これは、“オルガ”に。
「……はい」
本来なら社交辞令だろうそれが、本気に聞こえるのは何でだろう?
えーと。うちの“オルガ”、信じられんほどアルコールには弱々だから、酒宴はちょっと無理かもよ。
バイバイと手を振れば、振り返してくれたのは、何故かガエリオだった。
――貴族野郎とかずっと思ってたけど、案外気さくなのか、吠えリオ?
何も映さなくなったモニターを見上げてそっと首を傾げた。
u-sa-gi o-ishi ka-no-ya-ma-
ko-bu-na-tu-rishi ka-no-ka-wa-
……
膝の上でエンビが涎を垂らして寝ている。
ヲイと思うが、可愛いので許す。
膝周りでは、エルガーもヒルメもトロアも、口を開けて転がっている。
子守唄は、日本語の歌が一番かも知れぬ。わからない言葉で歌われるゆっくりとした旋律は、どうにも眠気を誘うらしい。
分かる歌だと大合唱に発展しちゃって、全然寝やがらねぇからね。
チビ共はともかく、ライドにペドロにビトーまで腹を出して寝てるのはどうかと思うが――まあ、可愛いので許す。
「寝ちゃったね」
タカキが微笑んで皆にブランケットを掛けて回る――実はこれも戦利品だ。
「何度聞いても変な歌だな」
正直だな、アストン。
海賊版退治後、ドンパチやらお弔いやらを経て、チビ共は少しだけ不安定になったのか、グスグスぐずることもあったから、取り敢えず構い倒して歌って寝かしつけてみた。
元の話では、羨まけしからんことに、フミタンのお胸にふかふかさせて貰っていたコヤツらだが、道筋がどう変わったのか、こっちにお鉢が回ってきたのだ。
おれのお胸はちっともふかふかしてないのにね。
あ――そう言えば、お嬢様との接吻イベントも発生してないや。
まあ、発生させてたら“オルガ”からアイアンクローかまされそうだし、仁王も頭を握りつぶしに来そうだから、フラグ折って命拾いしたのかも。
閑話休題。
イサリビの格納庫の一角にあるタンテ・スペース――通称〈巣窟〉は、最近、ちょっと手狭になっていた。
ブルワーズから分捕った回路やモニターで、例の装置を魔改造して大型化した分は勿論、ここに集う人数が増えたことも要因やの1つだ。
もともと入り浸っているダンテと、他に用事がなければここで作業してるおれと、助っ人のライド&チビ共。
手伝ってくれるようになったペドロとビトーと、ひやかしてるだけの昌宏とデルマ。
その様子をさらに見守るタカキとアストン。
まさに、満員御礼である。
そこにシノや昭弘やユージンやアインまでがやってきた日には、
「空気が薄い」
「そこまでじゃねーだろーがな」
おれの呟きをダンテが拾う。
まぁね、天井高いからね――MSとか収納できるスペースだし。
ただ、巣窟の床面積をこれ以上広げようとすると、おやっさんとヤマギとオバサマの反撃に合うのである。
『ストップ進行赦すな増殖』をスローガンにでも掲げてるのか、圧倒的な火力で応戦され、逃げ帰ること数回。そろそろ床面積は諦めた。
「ロフト作ろう――っていうか、ここ3階分くらいは作れるよね」
「ギリで4階までいけるかもな」
ダンテと顔を見合わせて、ニンマリ笑う。
タカキとアストンのため息が聞こえたが、取り立てて文句は言われなかった。
――と、言うことで4階建てになった〈巣窟〉である。
単純に壁面にそって足場組んで床付けただけの工事現場みたいなものだけどね。
なんだか秘密基地化しつつあり、大人組の眉を潜めさせつつも、なかなかに機能している。
拡張した例の装置で、ダンテとは別の作業をしていたおれの背後に、硬い足音がひとり分。
「で、今度はどんな碌でもないことを思いついた?」
「アイン酷い」
振り向けば黒髪サラサラのイケメン野郎の渋面があった。
顔を顰めたいのはこっちだ。なんだよキューティクル自慢か。
「酷いのはお前だ。あんまり二尉を煩わせるんじゃない」
「様子を見てこいとでも言われた?」
「ああ。特務三佐殿との通信のあと、どうも〈魔窟〉にこもってると心配されている」
――いや〈巣窟〉な。〈魔窟〉ってなんだよ?
「別に悪いことしてない。どーすれば邪魔されずにエドモントンまで行けるか考えただけ」
カルタが地球まで送ってくれるそうだし、その後はモンタークが引き受けてくれるそうだから、アーブラウまでは安心だろう。
問題はその後、敵をどう欺くか。
モニターには幾つものルートが明滅している。
シミュレーションの結果だ。
ドンパチの可能性の高いものは消えて、確実性の高いものが残る。
「アインならどー見る?」
いまだギャラルホルンの士官の身分にある青年に問いかける。
「……これは、検問か」
「そ。鉄華団は地球外縁軌道統制統合艦隊――だっけ?、の、正式な許可を得て地球に降りる。それを表立って止めれば、身内での争いのネタになる」
「なるほどな。別件での嫌疑で止めざるを得ないか。エドモントンに入るところを狙われると言うわけだな」
「でっちあげででもね」
エドモントンのギャラルホルンはイズナリオ・ファリドの息がかかっている。
どうあってもクーデリアと蒔苗じーさんのエドモントン入を阻止しに来るだろう。
穏便に捕まえるなら、網にかかるのを待って絡め取りにかかるはず。
「検問を破る気か」
こちらの意図を図ろうとしてか、アインの目が細められる。
「すり抜けようかと」
武力行使は避けたい。せっかくここまで来たんだ。万が一にでもビスケたんやカルタの悲劇のフラグが立たないように。
アインかパチクリと瞬いた。
「どうやって?」
「それを今さ、いっしょーけんめーに考えてる。いくつか候補はあるけど」
「どんな?」
「もうちょい絞ってから話す。“オルガ”にはチョロっと話してあるけど」
「今話せ。いや待て、いま二尉も呼ぶ――団長とビスケットと…ユージンも呼んだほうがいいな」
「うえぇ、なんでオオゴト?」
「案があるなら話せ。全部だ――ただし皆の前で。考えるなら一緒にな」
お前だけに任せると、絶対に碌でもないことになる、って、何という信用の無さか!
抗議するけど、アインはインカムに向って手早く要件を伝えていく。
そりゃカルタが迎えに来るまで余裕はあるけどさ、皆それなりに忙しいんだから、作戦会議でもなきゃ顔ぶれが揃うなんてことは――あったよ。
と、言うか、臨時の作戦会議。
その場でおれは散々に喋らされ、みんなの突っ込みを受け、調整と修正を重ねられた案は、ようやく皆の納得するところに落ち着いた。
「作戦会議って大事だねぇ」
「ああ」
しみじみとビスケたんが呟けば、クランク仁王が重々しく頷く。
「ホントそれな。三日月に任せてたら、危うくオモシロ仮装大作戦になりかねなかったもんなぁ」
ユージンが大袈裟にため息をついた。
なんだよ、良いじゃんオモシロイの――確かにネタ作戦だったけどさ。
結局は、真面目に考えた案に修正入れたのが採用された。
「では、俺はユージンとチャドを鍛えれば良いんですね」
アインが“オルガ”に確認する。
「ああ、頼むわ」
どっか疲れたような顔と声で“オルガ”が答えて、その会議は解散となった。
「海だ」
大海原を前に、することは1つだろう。
この日のために用意した釣り竿やら諸々を手に甲板に上がった。
待ってろよ刺し身たち――だけじゃないけど。
釣り糸を垂らしていれば、アトラが傍に来てはしゃぐ。
「すごーい! 海って大きいんだね、三日月!」
「ん」
「ねぇねぇ、三日月、何してるの?」
「釣り」
「釣りって?」
「魚を獲ってる」
「さかな」
「刺身にするとうまい」
煮ても焼いても揚げてもうまいけど。
食材が気になるのか、アトラは隣にちょこんと座った。
程なくして、当たりが来る。
浮きが沈んだのを見定めて竿をクイッと引けば、糸の先に結構な重み。
うん、活きがいいね。
暴れるのをいなしながら、釣り上げる。
「きゃー!」
と、アトラが叫ぶ。チラ見するけど、怖がってはないね、楽しそうに笑ってるし。
釣果と言えば、おお、カラフル!
――イラブーチャーの仲間とかかな?
ビチビチしてるのをその場でしめる。
血抜きして捌けば、プリプリの身である。
取り敢えず一口。
おおおおおおお!!
コレだ! 刺し身だ!!
海水の塩気だけでも旨いわ――無表情でスマンが、いま絶讃感動中。
この感動は分けあいたい。
「はい」
アトラに、差し出せば、カラメル色の目が真ん丸に見開かれた。
「えっ、このまま食べるの?」
「甘いよ」
生だとハードル高いかな、と、引っ込めようとした瞬間、ままよ、とばかりにアトラがパクリと。
なんか餌付けみたいで可愛いな。
ムグムグしてから、ゴクンと――でも、首をかしげる。
「甘い、かな? 味、しないよ?」
生臭さは無いから嫌な感じはしないだろうけど、魚そのものの旨味を感じるのは難しいのかな。
「“オルガ”」
“オルガ”ならわかるはず――と、言うか分かっておくれよ。
ナイフで一切れ削いで差し出す。
「どう?」
「……甘い」
――だよね!
「何の魚だ?」
「さぁ。イラブーチャーとかじゃないの?
醤油つけたらもっと美味しいよね、ちょっと取ってこようかな」
「お前、やっぱりこのために醤油なんか買ったのかよ」
「だって、せっかく地上に来れたんだし、新鮮な魚手に入るんだから、刺身食べたいでしょ。やっぱ取ってくる」
――醤油と、あとドレッシングかな。アトラたちはその方が食べやすいだろうし。
「良ければ釣ってて」
“オルガ”に釣具一式を手渡す。
「……釣りとかできねぇぞ」
実はアウトドアが苦手な“オルガ”が、早く戻れと声をかけるのに手を振って船内にもどる。
荷物は纏めてあるからすぐにとってこれるし。
さて。醤油は一升瓶で買った。
ドレッシングはカルパッチョ用で作った。ふふふ。用意万端である。
甲板に駆け戻れば。
「持ってきた」
「……わたしっ、わたし負けませんから!」
何故かアトラが“オルガ”に宣戦布告していた。
「あれ、アトラどうしたの」
なに、釣りで勝負するの?
「三日月!」
「はいよ、もってきた」
豆皿に醤油を注ぎ、先ほど釣った魚の身を削いで浸す――食べる。
「うん、やっぱりこれだよね」
醤油うまうま。新鮮な刺し身は堪えられんわ。
「どんな?」
興味津々なアトラに差し出せば、またパクリと。
「しょっぱい! でも、何だか不思議な味……」
味を確認するかに、じっと目を閉じてもぐもぐ。
「“オルガ”も」
ほら、と差し出せば、やはりパクリと。
「ん」
しみじみと味わう風情で。
「……旨いな」
「うん。山葵があれば、もっと良かったんだけど」
難しいよね。
日本原産だし、この辺じゃ自生は無理だろう。
ないものは仕方ないとして、取り敢えずもっとたくさん釣ろう。
さっきから、チビ共も遠巻きだけど、『すっごく気になる!』って目でチラ見してくるし。
うん。皆にも食べさせてやろう。
ヒュン、と風を切って竿を振る――釣りに慣れてなさそうな魚がかかるのは早い。
釣り上げるそれらは見慣れないものが多いけど、食べれなさそうなものはいない――毒があるのは大概把握してるから、大丈夫だと思う。
アトラは相変わらずキャアキャアはしゃいでいる。
「――来たな」
不意に“オルガ”が呟いた。
顔を上げれば、波の先を見つめる横顔。
その視線の先を辿れば、緑に覆われた小さな島が、ポツンと小さく浮いているのが見えた。
あれがミレニアム島か。
あそこにいる食えないジイさんを、“オルガ”がどう料理するのか、ちょっと楽しみだね。
若造と侮るだろうジイさんが、あとで“オルガ”に容赦なく毟り取られるだろう時のことを思って、内心でニンマリとした。
島に上陸しても、蒔苗ジイさんの元まで行ける人数は限られる。
クーデリアの付き添いは侍女のフミタンと“オルガ”、それからビスケットと、押し出しが良いクランクになった。
アインはついて行きたがってたけど、人数的には仕方がない。
おれもお留守番。良い子にして待っとけなんて、いつだって良い子のおれには無用の注意さ。
「よし。キャンプだ」
満潮時にも浸らないだろう少し高い場所に、おれとシノで野営用のテントを設営。
〈巣窟〉で準備していた数々のキャンプ用品を、有志達が次々と運び込む。
小川もあったから簡易露天風呂も設置――これで潮でベタベタになっても問題無し。
サンゴ礁と熱帯雨林なんて、絶好の遊び場じゃないか。ここで遊ばずしてどこで遊ぶのだ。
チビ共はもちろん、ライドにタカキ、元ブルワーズ組も盛大に巻き込んだ。
昌宏が釣れれば当然、昭弘も付いてくるし、騒ぐのが好きなシノは言うに及ばず。
シノが来れば、口ではあれこれ言いながら、ヤマギも参戦。
頭を抱えてたユージンとアインとチャドも懐柔したし、ほとんどのメンバーの抱き込みに成功した。
「やべえな。オルガもクランクもビスケットも居ねえ。三日月野放しじゃねえか――早く帰って来いよ」
「我々には荷が重すぎます」
「まあ、楽しそうだけどね」
まだ少し離れたところで、おやっさんと船医と整備士のオバサマがボヤいてるけど、陥落は時間の問題と見た。
船に残ってるモンターク商会の人たちにも、良ければ来てと声をかけてあるしね。
「三日月さーん、こっち用意できたー!」
浜辺でライドが大きく手を降ってる。
その傍らで、重力下での稼働の確認も兼ねて降ろしたマン・ロディ――すごいスリムになってて、記憶のマン・ロディと一致しない――が、大きな網を抱えて立っている――出力は最小で。
「アストン、代わる?」
〈いや。このままいける〉
「じゃあよろしく」
――GO!
合図とともに、ブンっと、投げられた網は遠浅の波を覆うように大きく広がった。
流石だアストン。
タカキは大きく拍手してるし、チビ共の歓声は空に届きそう。
ライドはペドロやビトーと肩を組み合って囃し立ててる。
親指を立てて讃えれば、コックピットから傷がある顔が覗いて、ちょっと照れくさそうに顰められた。
「野郎ども、引くぞ!」
号令をかければ、皆が一斉に網に繋がる縄に飛びつく。
底引き網なんて代物じゃないけど、モドキでもそれなりに。
サンゴ礁の内側だから大物はいなさそうだけど、それでも魚影はあるから、少しは捕れるだろうとは思ってたけど。うん。
「こんなにどーするの!?」
アトラが悲鳴をあげる。
思ってたより遥かに大漁だった。
食べられそうなのを残してあとは放したけど、それでもさ。
「油で揚げる。あとは焼く?」
刺し身とか言ってる場合じゃ無くなった。
小さいのはまとめて素揚げ。塩と柑橘の絞り汁だけの簡単な味付けだけど、これが案外ウケた。
みんな、初めて見る生き物だっただろうに、自分で獲ってその場で食べるって、そのなんとも言えない楽しみにハマったらしい。
骨も小骨も何のそのである。
食べて波間で走り回り転げ回り水を掛け合い沈ませあい――おうふ。
鼻に塩水入ってツライ。
ゲホガホ言いながら陸に上がるのを、シノたちが指差して笑っている。
――おのれ、集中砲火浴びせやがって。
露天風呂モドキで潮を流していれば、ゾロゾロと連中も戻ってくる。
「なあ、三日月。あっちにも風呂あるよな?」
ビトーが聞いてくる。
「あっちは女風呂」
ちゃんと分けて作ったのだ。
向こうには、その辺で見繕った南国の花とかを浮かべてみた。
周囲は囲ってあるから、簡単には覗けないようになっている。
「乱入とかするなよ。今はアトラとオバサマが入ってるはずだ」
アトラは悲鳴を上げるくらいだろうが、オバサマは、きっとレンチやらを投げてくるに違いない。
凶暴なんだよあのヒト。
「しねえよ。お前じゃあるまいし」
――いや、おれもしねえよ。
手で水鉄砲を作りピシュピシュと攻撃してやれば、第2ラウンドがそこから始まる。
ギャーギャーと、なんか猿の群れみたい。いや楽しいから良いんだけど。
ちょっと離れたテーブルでは、とうとう諦めたらしいおやっさんと船医が、並んで何かを食べている。
見渡せば、タカキとアストンが海辺を散歩中。昭弘と昌弘の兄弟は、砂の上に足を投げ出して何かを話してる。
もと海賊の子供らも、一群になって駆け回ってるし。
チラホラと見えるのは、あ、モンターク商会の船員か。
隣りにいたペドロが、また口元をムニュムニュさせたあと、ポロポロと涙を零し始めた。
――今度はなに!?
ここは真水だから海水と違って沁みないだろう!
ビトーとデルマが慌てた様子で、ペドロの涙を拭っている。
「どうした?」
声をかければ、フルフルと首を振られた。
「夢かと思ったんだ。ホントはまだ宇宙にいて、起きたらカデルに殴られるのかなとか、いつゴミ屑として処理されるのかなとかさ。でも、毎日醒めなくて、みんな笑っててさ」
ヒャック、と、大きくしゃくりあげる声を、みな静まって聞いている。
「――あんまり楽しくて、どうしていいかわからなくなった」
元スペースデブリのその言葉に、シノが鼻を鳴らした。
「馬鹿だな。こんくらいで混乱してたら、三日月とは付き合えねえぞ。こいつ何するか分かんねぇからな。慣れろ」
「うぉい」
なんつー言いようだよ。
チャドも頷いてんじゃない。アイン、お前もだ。
「だよな。命を懸けて悪巧みする奴だし」
ちょっとユージン、相変わらずヒドイ。
「後始末が大変だけど」
ヤマギよ……。
「三日月さんのイタズラは宇宙一なんだぞ!」
それ、褒め言葉なのかなライドとチビ共?
ふー、と、ため息が落ちた。
「お前らが付き合ってくれるからだろ」
作戦も悪ふざけも何もかも。
ひとりだったら、こんな風には決してできない。
「これからも付き合ってくれるんだろ」
真っ直ぐ目を向ければ、逸らされる視線はひとつもなかった。
拳を天に突き上げれば、次々と皆が倣う。
腹の底から「応」と吠えて。
「このあとは、キャンプファイアーやる」
「なにそれ?」
「でかい焚き火を囲んで歌い踊る」
「――……さらに変なこと始める気だよ」
おまえら、小声でも聞こえてるからな!