【成り代わり】鉄血のナントカ【異世界転生?】 作:くずみ@ぼっち字書き。
気がつけば狭い機械の箱の中で、ロボットに襲われているとか。
ナニソレなんだ夢かーーって。
「ーぉゔッ!?」
神経という神経が全て無理やり引っ張り出されているような、強烈な感覚に変な声が漏れた。
苦しいナニコレ夢じゃない!??
脊髄が何かに繋がれているーー直接何かを吸い上げられると同時に叩き込まれるこの感じ。
頭の中がスパークしてる。
吐きそう。
「あ"がぁ"ぁ"」
なんだこれ。
体が勝手に動いて、機械の箱を動かしている。
知らないはずの操作を、息をするのと同じくらい当たり前に、脊髄からのムーブに従わされて。
ーー箱じゃない。
無理矢理に理解させられる。脳に流れ込む情報量に回路が焼き切れそう。
コレはMWーー眼の前のアレと同じだ。
戦っているーー戦わされてるのか。なんで?
混乱の極み。
何もわからないーーけど、猛烈に腹がたった。
ーー支配してくんじゃないよ!
たかがシステムのくせに、おれにムーブを命じんな。
脊髄から流れ込むフィードバックを拒絶すれば、とんでもない負荷が。
手足がめちゃくちゃに震える。鼻の下に熱く滑る感覚ーー喉に逆流する生臭い鉄の臭い。
コントロールを失った機体が軋みを上げている。
〈“ミカヅキ”!? どうした!!?〉
誰かが叫ぶ声がする。
誰が誰を呼んでるの。
どこかで聞いたような名前ではあるけど。
「うるさいよ!」
スベテを明け渡して動けば楽になるんだろう。
ムーブもそう言っている。
だけどイヤだ。
ぜっったいにイヤだ。
まるで砂嵐みたいにノイズのかかった視界の中で、相対するMAが戸惑うような動きを見せる。
だけど、斜め後ろからもう一体が、
〈遊んでんのかぁ!? “ミカヅキ”〉
突っ込んでくるーー速い!
攻撃回避を命じてくるアラートーー流れ込む複数のムーブの選択肢ーーを、全部無視ーー逆に突っ込む。
ーーあ、できた。
フィードバックが逆流する。
こちらの動きがトレースされ、アップされる感覚。
なるほど、ムーブの追加か。
ノイズが晴れていく
これなら動ける。
脊髄の向こうに、まだ体が続いてるイメージ。この機体は自分の身体だ。自分の身体は自分で動かす。
でも、やっぱり吐きそう。
さっきより格段に楽だけどさ。
システムがサポートにまわるーー最初からそーしとけよ。
毒づきながらも一瞬で肉薄すれば、慌てたような回避動作ーーさせるかよ。
思い切りよく下から衝き上げる。
酷い音を立てながら、後から来た方のMWが派手に転がった。
そのまま。ムーブはまだ切らない。
押しつぶすように乗り上げて、照準は元からいたMWに。
〈‘ミカヅキ’?!〉
悲鳴のような怒号が上がってる。
バイバイ、誰だか知らない人たち。
躊躇うことなくトリガーを引けば、眼の前のMWは無残な蜂の巣にーーならなかった。
ーーあれ? なんで??
結論から言えば訓練というか模擬戦というか。
そりゃ実弾装備されてないよねー。
そもそも民間の警備組織“CGS”の、宇宙ネズミで構成された下っ端の‘“参番組‘”って。
うわぁ、それ知ってる。
鉄血のオルフェンズでしょ。アニメの。
あの衝撃の全滅エンドの。
で、ミカヅキって呼ばれてたの、おれ。
三日月・オーガスーーあら素敵主役じゃんーーなんて言うとでも思ったか!?
ふっざけんな。冗談じゃないね。
半身犠牲にしてボロボロでバルバトスに這い寄るなんてしてたまるか。
逃げてやる。
泥舟に乗るなんてごめんだね。
……でも、そしたら子供らが殺されるのか。
なんかそれもムカムカするけど、でも、あんなことになるのはいやなんだ。
どうしようボス?
ーーあれ?
一気に血が下る。
そうだよ、ボスどこだよ!?
なんでいないの!?
いっつも一緒だったじゃん!!
おれだけじゃなんにもできないよ!??
心臓が壊れそうにバクバクしてるのに、手足が冷たくて震えがくる。
変な汗が吹き出して、奥歯がガチガチ鳴ってる。
箱の中で覚醒したときより、もっと酷いーーこれは恐怖?
あんまり感じたことないから、よく分からないけど、ヤバイよボス。
おれ、危機的状況っぽいよ?
コックピットの外から、上背のある男ーー青年二人がのぞきこんでくる。
「“ミカヅキ”、大丈夫か?」
「どうした? なんかおかしいぞお前。頭でもぶつけたのか?」
どちらも短髪。
チャラく見えるほうが、多分、シノ。
眉が太くて厳ついほうが昭弘だと思うけど。
それどころじゃないんだーーだってボスがいない。ボスがいないんだ。
伸ばされる手を叩き落とす。
「さわんないで」
びっくりしたような、怒ったような、傷ついたような。
でもゴメン、気遣う余裕なんて無いんだ。
「ボスはどこ?」
答えろ。答えてよ。どこにるの。
「”ボス”? はぁ? 誰だよそれ?」
「よくわからんが、お前のボスはオルガだろう?」
シノの答えに絶望しかけるーーけど、昭弘の言葉ですこしだけ光が見えた。
「”オルガ”はどこ?」
二人は顔を見合わせるーー困惑した風情。
”ミカヅキ”がおかしくなったとか何とか話し合ってるけど。
どうでも良いよ。答えろよ。じゃないとーー殺しちゃうよ?
「あそこだーーいつものとこな」
シノの指差す先。
コックピットから身を乗り出せば、遠く、豆粒みたいな人影が2つ見えた。
飛び出す。
背後で二人が喚いてるーー知ったことか。
きっとボスはあそこだーーそうじゃなきゃだめだ。
必死に近づいていく。
踏みなれない赤い大地ーー砂と岩の砂漠。
乾きすぎた大気。
強烈な光が、地面に濃い影を描いている。
だんだんと近くなる人影はひどく背が高くて、ボスとはぜんぜん違う形だったけれど、その動作には見覚えがあった。
全部、ボスの癖だーーおれが見間違うはず無いし。
バクバク鳴っていた心音が静かになる。震えが止まって、余裕が戻ってくる。
「ボス」
いつもと同じに呼びかければ、振り向いたボスの唇の端っこが、キュッと、少しだけ上がった。
顔は違うけど、印象は変わらない。
ボスの方も、おれが”ミカヅキ”じゃないってすぐに気づいたようだった。
良かった。気づいてくれなきゃ拗ねて鯖折りかますとこだったよ。
「おう」
ちょっとだけ気が抜けたような声。
ボスも緊張してたんだーー安心した? おれが来て。
「なんか、阿頼耶識ついてんね」
大変だったんだよ、さっき。いきなりコックピットで目を覚ましてさ。戦ってるし。ボスはいないしーーいまはいるからいいけど。
「だな」
なんだか複雑そうな表情ーーああ、ボス、こーゆーのとは、大概、相性悪いもんね。
繋いでも、多分、ぜんぜん使えないと思う。
その分、おれが使うから心配しないでよ。
システムの解析はまだだけど、それなりになんとかなりそうだし。
阿頼耶識があれば、まあ、どこでも稼いで生きてけるよね、この世界ーーって。
「あとは、例の“お嬢さん”がいつ来るかだな」
ーー……うわぁ。
その一言でわかっちゃった。
ーーやる気だ。
ボスは”オルガ”として鉄華団を率いる気だ。
“革命の乙女”クーデリア・藍那・バーンスタインを抱き込めば、鉄華団を成立させられるーー元の物語の通りに。
おれは、さっきまで逃げることを考えてた。
ボスを見つけたから、ボスをつれてどう逃げるのかを考えてた。
だけど、ボスが決めたんなら、おれもそう動く。それが決定事項。
「……だね」
もしもそれで、本家の”ミカヅキ”みたいに動けなくなるんだとしても、散っていくんだとしても、それでもいいよ。
ーーまあ、極力そうならないように努めるけどさ。
ボスはなんにも心配しなくていいーーあ、嘘。気にして優しくしてくれたらいい。
それなのに。
「……誑すなよ」
心配するとこソコ!?
そりゃ美人だけど、未成年の発達不十分なお子様をどうこうするとか無いからね!
こちとら育ちきった豊満なお胸さま派ですがなにか。
「おれのせいじゃないよ〜」
そもそもあれは、本家のせい。
「うるせぇ、女好き」
「……“お嬢さん”って、誰?」
割り込む声。
あれーーそう言えばもう一つ人影があったっけ。ボスだけ見てたから忘れてたよ。
目を向ければ、丸っこいフォルムーービスケたん、確か、前にボスがそう呼んでた。
「ん……まぁ、すぐにわかるさ」
曖昧な言い方ーーだけど、ボスの頭の中では、もう計画は始まってるんだろう。万華鏡みたいに変わる状況を、いつも一人で読み解いて指示を出してたんだからーーずっと。
「……ミカ」
それはおれの名前じゃないけどーーボスがそう呼ぶんなら。
「はいよ」
「ブチかますぞ」
「おう」
オーダーをどうぞ。お望みのままに、どこまででも疾走ってやるよ。
「ミカ」
「はいよ」
ボスに呼ばれて顔を上げる。
ーー本当に背が高い。もとから身長差はあったけど、これ、40cmくらい軽くあるんじゃない?
「作戦指揮は任せた」
「うん、そうだと思ってた」
ボスは戦闘向きじゃないしね。そっちは昔からおれの役目。
「オルガ!」
ビスケたんが叫ぶ。
「三日月にそんなことできるわけないだろ! 全滅したらどうするの!」
うるさいよビスケたん。そんなことさせないし。だってボスの兵隊だもの、大事にしなきゃね。
「いや〜、俺も最近は、全然作戦立ててねぇからなぁ」
そうそう。そうなるように、ずっと頑張ってきたんだし。
ボスが常勝不敗であるために、どんな手だって使ってきた。おかげでおれの悪名は鰻登りだったけど。
ああ、あれは前の世かーーでも、今生だって、いろいろやらかしてきたしね。経験は豊富。それは大きなアドバンテージだ。
「ま、コイツに任せときゃ大丈夫だ。“三日月・オーガス”よりはうまくやれる」
ーー素敵! さすがボス! もっと褒めて!
「何云ってるの、三日月は三日月だろ」
「……う〜ん、まぁなぁーーま、俺は得意分野に徹しておくさ。攻撃は、ミカに任せた」
ボスの大きな手が、ひらりと中空に線を引くーーそして遠くを見据える目。
千里眼みたいに、いま、ボスは未来を構想してる。
あの、気に食わないエンディングを回避して、その先に行き着くための道を拓くために。
「ボス、何かワルイこと考えてるね」
綺麗事ばっかりじゃない。
流れる血も少なくないんだろうーーでも、ワクワクするね。
いつか見た、あの動乱のあとの、物足りないくらい平和な景色をまた見せてよ。
「……“オルガ”って呼べよ」
ーーノリノリかよ。
呼びにくいんだよ。何年、何十年、もしかしたら何百年、そう呼び続けてきたと思ってんの。
「……頑張る」
一応ね、頑張ってみてみなくもないっつーか。
「頑張る頑張らねぇじゃねぇ、やれ!」
「うぇ〜い」
つか、おれ、三日月らしくしなきゃなんないのかなーー面倒くさ!
「じゃあ“オルガ”、おれ、阿頼耶識に慣れるのに、MWに触る時間が欲しいんだけど」
システムについては、なんとなくしかまだ把握できていない。
自分の命をーーボスの命をかけなきゃならないものなんだから、しっかりと使いこなせるよう練度を上げておくべきだ。
「まだ“最初”じゃねぇ、何日かは暇があるだろ」
ほんとにね、目覚めたその日がスタートとかだったら、下手を打てば命が無かったかも。運が良かった。
「早いとこバルバトスに乗りたいな」
どうあっても乗りこなさなくてはーー本家よりもーーあんな風に命を削ることなく、ボスの描く未来の先まで、一緒に行かなくちゃ。
そう、約束したーーもう、覚えてないくらい、遠い昔に。
「わかってる」
ボスが頷く。
「……ビスケット」
「……なに」
「頼みがあるんだが」
オルガの真似っ子でボスが頼めば、ビスケたんは困ったような顔をして、それでも頷きを返してた。
それから三日後のこと。
例の“お嬢様”こと、クーデリア・藍那・バーンスタインが、CGSにやって来ることになった。
“オルガ”を呼んでこいと言われ、動力室まで迎えに行く。
ボスはうたた寝をしていて、その様はいつか見た画面の中のそれによく似ていた。
「“オルガ”、マルバが呼んでるって」
「……来たか」
鋼みたいな光が、ボスの目の中に踊る。
「遂に、だね」
「あぁ」
一緒にバルバトスを見上げる。
整備はもう済んでいると聞いたーー最強のMS。おれを喰うかもしれない悪魔。
ーー喰われてやる気はないけど。
“三日月・オーガス”、お前を尊敬してるーーまだ子供でしかなかったお前が、全てを擲って“オルガ”の為に戦ったこと。
おれもボスの為にコイツを駆るよ。そのためにいま打てる手はすべて打った。
「いってらっしゃい」
「おう」
小声で送り出せば、頷きがかえる。
ボスが踵をかえすのを見送るーーマルバのところへは、ビスケたんが一緒だ。
おれはここで、戦いが始まるのを、もっと練度を上げて待つとするよ。
こっそりとタブレットを操って、“三日月”には読めないはずの資料を読みこむーー阿頼耶識の。
ホントにクソみたいなシステムだけどーーこの専門用語ばっかりの資料を読み解くにも役に立ってくれたから、まあ、良しとしよう。
「はじめまして、クーデリア・藍那・バーンスタインです」
キラキラ光を振りまくような、そんな少女だった。
火星代表首相のお嬢様。豊かな金の髪。意志の強そうな眼はリラの花の紫を思わせた。
「宜しく」
ボスが丁寧に頭を下げるーーでも、なんか偉そう。横にいるマルバなんかよりずっと。
ビスケットとユージン、シノは緊張してるようで、その差が余計にボスを特別に見せていた。
ユージンが慌てて頭を下げて、
「どーもッス! あの……」
「てめぇら、挨拶もまともにできねぇのか!」
ほら、マルバの叱責が。
わざわざ無礼を論うけど、眼の前の“お嬢様”達は、お前が礼儀を教えてないんだってこと、とうに気がついてるのにね。
ボスがあからさまに顔を顰めてるーー見咎められるよ?
でも分かる。サクッと殺っちゃいたい。
おれたちを罵ったり、お嬢様に追従したりするマルバを見ててもムカつく一方だから、キレイなお嬢様を一心に見る。
キラキラしたリラの花の眼もこっちを見ていて、見つめ合うことしばし、
「あなた! お名前は?」
花が咲くような微笑みとは、こんな顔のことを言うのかなってくらいの乙女の笑顔だった。
なんか浄化されそうで一瞬たじろぐ。
「……“三日月・オーガス”」
「三日月、ここを案内してもらえますか」
ーーって、お嬢様には決定事項だったようで、返事をする前に、そう決まってしまう。
押しが強い。まあ、そうじゃなきゃ“革命の乙女”なんかやってらんないか。
ボスに視線を投げる。
――いいの?
頷きがかえるけど、なんか言いたげな顔。だから未成年に手を出すとか、そーゆー外道はおれしないからね!
肩をすくめて、お嬢様に向き直る。
「……こっち」
促せば、足取りも軽くついてくる。
荒くれ者の多い男所帯だ。万一にも怖い思いをさせないように、当たり障りのないあたりーーとりあえず、参番組の狭いエリア内を案内していく。
いるのは子供ばかり。
綺麗な少女を見て、みな、あんぐりと口を開けているーー閉じろよ。
もっと他も見たいと我儘を言うことなく、お嬢様は大人しい。
ちらりと目を向ければ、少しだけ曇った表情。
「……どうしたの?」
小汚過ぎてひいちゃった?
「私のせいで、あなた達を危険な目にあわせるのね」
返ってきた言葉は、むしろ自分を責めるものだった。
「あ、ごめんなさい。こんなことを言ってたら、三日月は困ってしまうわね」
強気に見えるリラの花の眼の奥に、壊れそうな光がーーああ、この少女は怖いのだ。
怖いけど、自身の思い描く未来のために、必死で立ってるんだろう。その姿が、いつか見たボスのまだ小さかった姿に重なった。
驚かさないようにそっと手を伸ばして、少女の整えられた指の先を取った。
「クーデリアのことを、“オルガ”がすごいって褒めてた。火星にいるやつならきっと一度は思って、だけど思うだけに留めるしかないような、そんな道に踏み出した女だって」
ゆっくりと告げる言葉に、お嬢様の目が潤んでいくーーだけど、涙は零れない。
「“オルガ”が踏み出した道も遠いけど、クーデリアの道も同じだって。遠くてもーー多分、その道の先でなら、おれ達は笑っていられるんだろうな」
ーー動けよこの表情筋。死に過ぎだろう表情筋。
こんなに必死になって笑顔作るとか無いしーー笑顔になってる? 唇の端っこがピルピルしそう。
多分だめだなーーお嬢様は目を見開いたまま固まってるし。
仕方がない。表情筋は諦めよう。
手にとったきれいな指先に、触れるか触れないかのキス。
お姫様に騎士がするみたいに。
「大丈夫。クーデリアはおれ達で護るよ」
顔を上げれば、お嬢様はふるふる震えながら片手で顔を覆っていた。
でも、隠れてない側の頬も耳も真っ赤だ。手の指まで薄紅がのぼってて。
ーーあれ? もしかしてやらかした??
無言で佇むことしばし。
不意に轟音とともに大地が揺れた。
ーー来た。
爆撃だ。
よろめいたクーデリアを、しっかりと支える。
「三日月! 来たよ!!」
廊下の向こうから物凄い勢いで走ってくるビスケたんが見えるーーって、転がりそうだなオイ。
「お嬢様はこっちで保護する!」
「はいよ。ーークーデリア、名残惜しいけど、また後でね」
安心させるために、腕の中の身体をそっと抱きしめてから放せば、少女の青褪めた頬にまた朱の色が戻った。
ビスケたんと一緒に来た侍女ーーフミタン・アドモスの眼差しが凍るようで怖いけど素敵。
良いね。着痩せするタイプと見た。クールで寡黙な女って、実はストライク。秘密があるのもミステリアス。
ーーって、そんな場合じゃなかったわ。
ドンドンバンバン地面が揺れてる。
「おれ行くよ」
予め知らされているビスケたんが、顔を引き締めて頷く。
「気をつけて!」
心配そうなビスケたんの声。
それに背中越しに手を振って駆け出すーー格納庫へ向かって。途中で行き合う子供らには避難を叫ぶ。
すぐにはバルバトスを動かせない。
一軍に邪魔されないように、奴らが十分に離れるまで、MWだけで持ちこたえさせなくてはならない。
脳内に、基地の周りの地形が明確に浮かび上がるーー疾駆するMWのイメージ。
阿頼耶識の影響か、以前よりこのあたりの処理能力は少し上がっているようだ。
コックピットに飛び込み、阿頼耶識に接続するーー当初からは格段に低くなった負荷に小さく笑うーー多分、表情は変わってないんだろうけど。
一拍おいて、格納庫が賑やかになってきた。やっと来たかよお前たち。
〈“三日月”、なんなんだよこれ!?〉
「うるさいよシノ。さっさと乗って。皆もはやく」
言い終わるやいなや、次弾がきた。
大盤振る舞いだな。その資金ちょっとこっちに回せよ。
「敵襲! 出撃する!!」
叫べば、反射的に皆がMWに飛び乗る。
わざと煽るように飛び出せば、案の定、いい感じにシノが釣れた。
「シノとおれで突っ込んで数を減らす! 明宏達はサポートに回って! ライドは牽制! 経験の浅いやつは撹乱ーー無理はしなくていい、すぐに流れが変わる」
〈なんでお前が指示出してんだよ!〉
「いいから敵潰してよーー来た」
砲弾の雨を抜ければ、敵機の群れ。
先制して撃ち抜けば、シューティングゲーム並みにヒットした。
ーーふぅん。ギャラルホルンにしては練度が低いな。新兵か、寄せ集めか。
数が多いから気は抜けないけど。
動きの速いのから潰していくーースムーズだけど、平坦な動きーー読みやすい。ホラ、嵌めるのも簡単。
地形を活かして、僅かな間隙に追い込めば、すかさず明宏達が狙い撃つ。
うん。いい連携。
「シノ、前に出過ぎ。少し下がって」
〈だからなんでお前が!〉
シノが喚くけど、丁度、ボスの声が。
〈よーし、いいぞお前ら! その調子で、だが押し過ぎずにやれ! 攻撃のタイミングはミカに任せた!〉
〈マジかよオルガ!〉
シノの悲鳴。
〈三日月じゃ、全体の指揮なんか取れねぇだろ! 何考えてんだ!〉
「シノ、うるさい」
ちゃんと指揮してるじゃないーー味方を減らすことなく、敵を翻弄してやってる。
まだ数じゃ負けてるけど、これだけ損傷与えてるんだ。あちらの指揮官は気が気じゃないだろうさ。
ともあれ、
「“オルガ”が云うんだから、そのとおりにすればいいでしょ」
言い捨てれば、シノの怒気が膨れ上がった。
〈三日月、てめぇ!〉
〈あー、もめんな、って、もめる余裕があって結構だな〉
呆れたようなボスの声を聞き流し、はいよ、立て続けにニ機撃破。
シノのほうも危なげ無い動きーーそのへんは心配してない。
阿頼耶識で空間把握の範囲を広げるーーこれ、センサー直結だよね。けっこう便利。
ーー一軍か離れてく。そろそろかな。
逃げ出したカスどもに仕掛けた花火が炸裂するのは。
〈――ミカ!〉
ほら来た。
〈下がって、機体を乗り換えろ。皆は防御だ! こんなところで死ぬんじゃねぇぞ!〉
〈〈〈おう!!〉〉〉
ボスの指示で、急旋回ーー瞬間無防備になるけど、シノが回り込んで追撃を牽制。
明宏の連射で道がひらく。
ーー待ってて。すぐ戻るから。
最大限のスピードで格納庫に飛びこめば、整備班の面々が、こぞって叫びたてている。
「出るよ!」
「おう。全部済んでいる! やってやれ!!」
もんどりをうつように、バルバトスのコックピットに収まる。こんな時じゃ無きゃもっと感慨もあるんだろうけどさ。
阿頼耶識に繋げばーーっ……
なーー痛…、重…た……、…く…意識飛…そ…
ノイ……だーー…視…ーー……押…潰…じ…報量ーー、……のムーブ…ーーこん…の、MWのイン…ーフ…スで捌ける…ずな…、……ー…………
ーーうは。一瞬飛んだわ。
頭の中で鐘がガランガラン鳴ってるみたいだ。
流れる鼻血を拭う。
喉に回って窒息しそう。やばい。
――はは、は。
笑いがこみ上げる。
これはヒドイーーフザケてないと全部持ってかれるーーああ、だけど分かった。
阿頼耶識ーーこいつは元々ガンダム・フレームの為のシステムなんだな。
この劣化版のピアスでもそれが実感できる。
まるで亡霊の怨嗟のように吹き上がるムーブは、過去の戦士たちの歪な結晶だ。
〈敵ヲ倒セ〉と、ただその為だけの存在に成り果てた奴らのーーそうなるためだけの代物。
ーー斃してやるとも。
でも、それはおれのやり方で、だ。
ーー働けよサポート!
リミットは切ってない。処理をサブシステムに流せばーーやっと、自前の脳の処理で追いつく。
〈三日月!! 三日月、大丈夫か!? おい!!〉
ーー時間にしてほんの数分だろうに。
それでも外野はやかましいーーあらやだ心配かけちゃったーーとか。
「……平気。ちょっと重かっただけ。行けるよ」
気力で声を整えれば、回線から“おやっさん”の長い吐息が聞こえた。
それとほぼ同時にボスの声が。
〈ミカ!〉
〈――はいよ〉
〈来たぞ、ブチかませ!〉
〈わかった〉
起動する。人型な分、MWよりしっくりくる。
バトンみたいにメイスをくるりーーうん、行ける、やれる。
さ、いっちょ暴れてみるか。
飛ぶように加速するーーむしろコレ飛翔に近いわ。
いい感じ。ムーブを追加しながら、さらに飛び出す。前方にグレイズ。
地上をチラ見すればーーお。みんな、だいたい無事、かな。
「ッ…、“オルガ”」
危ないーーボスって呼ぶとこだった。
「やっていいんだよね?」
〈おう。だが、殺すなよ!〉
理解はしてるけど、それってものすごく難しいオーダー。
初めて乗るMSーーガンダム・フレームで、手加減しろって言うんだから。
「……頑張る」
〈頑張るとかじゃねぇ、やれって云ってんだろ!〉
大音量に、ハウリングが起こる。
「……うるさいなぁ」
意識をメイスに集中するーー長物の扱いは割と得意なんだよね。
今生でもーー前の世では、それこそ命がけで磨いてきた技のキレ、とくと見るがいいさ。
〈な、何だ貴様!〉
これがオーリスかなーーおれの獲物。
「――三日月・オーガス、ガンダムバルバトス、行くよ」
名乗りとほぼ同時の踏み込み。
叩き潰さないように。それでも十分な強さで、コックピットの脇に、メイスの先を突き入れる。
劈くような打撃音。抜ける衝撃。
いい確度で入ったーーグレイズの停止を確認。
ーーよっしゃ一撃!
〈やった!〉
この声はライドかな。
〈殺してねぇだろうな?〉
潰してないーーけど、あえて聞かれると不安。
「大丈夫だと思うけど――ちょっと待って?」
バルバトスのコックピットを出て、グレイズに飛びつく。
ハッチの開け方はーーああ、資料にあったな。たしか、こう。
開いた空間に顔を突っこんでみれば、物凄い形相で泡を吹いてる男がひとりーー息はしてる。
「……うん、生きてる」
〈良くやった、ミカ!〉
〈オーリス!〉
さて、残るグレイズはニ機。
呆然とでもしてたのか、今更騒いでも、もう遅いよ。
バルバトスに跳び戻って、さて。
「やるの? それなら、コイツは殺すよ」
メイスの先で、グレイズの中身を指してみる。うん。一瞬でプチっと潰せるね。
〈卑怯な!!〉
ーーうわぁ。青臭い。戦場で何言っちゃってんのこの子。
〈卑怯も何もあるかよ。それじゃあ、小娘ひとりのために、ギャラルホルンがMWの中隊と、MS三機で民間警備会社を攻撃すんのは、卑怯じゃないとでも云うつもりか?〉
対するボスは、正論っぽく煽り立ててる。
〈くっ……!〉
これに反論すらできないとか、青すぎるーー絶対チェリーだコイツ。
〈とりあえず、MWごと撤退してもらおうか。交渉は、それからだ〉
ボスが突きつける要求に、
〈……わかった〉
苦しそうな声が返った。
〈クランク二尉!〉
チェリー君が叫んでいる。
〈確かに、われわれのやり方が卑怯だった。――MWを引けば、交渉の余地はあると云うことだな?〉
〈俺たちの方はな〉
〈わかった〉
二機のグレイズが撤収を始める。
同時に、MWの波も引く。
ホントかよ?
このオーリスって、そんなに人質としての価値あるの? ーーコイツ見捨てりゃいくらでも手の打ちようがあったろうに。
もしくは、ニ機もいるんだから、起死回生をかけ、一機をこっちに割いて、残る一機でボスを攻めるとか。
そうさせないように、めっさ気を張ってたんだけどーームーブの用意も万端で。
あ、いやいや、引いてくれんなら大歓迎だけどね。
ーー正直、ちょっと疲れたし。
気を抜くとグッタリしそう。でも、休んでる余裕なんて無いんだろう。
遠く、明るくなった空の下、砂塵を巻き上げて、逃げ出していた一軍の屑どもが戻ってくる。
なんの呵責もなく、子供らを弾除けにしやがったクソ野郎どもが。
ああ。メガ・バズーカ・ランチャーとか欲しいなぁ。
アイツラに向けてぶっ放したら、さぞかしスッキリするだろうに。
ホントはこのまま駆け出して、バルバトスで一匹残らず潰してやりたいーー奴らは、この後、きっとボスを傷つけるから。
ーーだけど、ボスの計画が、それを許さない。
奥歯が、ギチギチと嫌な音で鳴ってる。
生々しい憎しみとか怒りとか、肚の底にいつもいるケダモノが、グルグル唸りをあげている。
ーーボス。これはもう物語じゃ無いんだ。
アニメで観てた他人事じゃなくて、すべてがリアルに降りかかる。
痛いのも苦しいのも、悲しいのも、生死さえもが、本当に襲ってくるーー全部、生身で受け止めなきゃならない。
どこで生きたって大変だったけどーーここも、結構ハードそうだよ?
コックピットで、膝を抱えて丸くなる。
容赦なく差す朝日が、赤い大地を染めていく。
これから、また長い一日が始まるーーそして、ずっと続いていくんだ。
臆病なおれは、いつだってどこでだって、少しだけ、それが怖いよ。