【成り代わり】鉄血のナントカ【異世界転生?】 作:くずみ@ぼっち字書き。
――さあ、者ども踊り狂え!
ってことで、マイム・マイムである。
砂浜の真ん中あたりに組み上げたキャンプファイアーに点火し、焔が天を焦がすように巻きあがる周りで、取り敢えず踊り方を指導。
当然、音楽も用意してある。
そーいや、随分と前の話になるけど、米国のニュースが、『日本人はみんなマイム・マイムを知っている』って真面目に報道してたらしい。
イスラエルの踊りをなぜ日本人が踊れるのかってことなんだろうけど、楽しければ何でもやるのが日本人だ、気にするな――って、いまおれ火星人だけどね。ふは。
なんだかお疲れの顔で“オルガ”が帰ってきたのが、ちょっと前。
おれたちで設営したキャンプの前で、『予想してた』みたいな表情で、改めて許可を出したあとは寛いでいる様子だった。
アトラから死守した――代わりに鯛を差し出した――ヒラメの刺し身を献上すれば、うまうまと食す様子。
その後は、軌道にいるイサリビとの通信のためか、船に戻ってしまったけど。
ともあれ、マイム・マイムである。
ノリノリのチビ共は勿論、ライドにペドロにビトー、さらにデルマと昌弘――を引っ張れば昭弘も。タカキを捕まえればアストンも。シノは当然の参加、アトラが来ればクーデリアもと、人数はどんどん膨れ上がり、途中で酔っ払ったオバサマまでもが、ヤマギを引き摺ってフラフラと乱入してきた。
昭弘とシノに支えられてるけど、大丈夫かオバサマ。カックンカックンしててちょっと怖い。
mayim mayim mayim mayim
mayim be-sasson !
ぐるぐる回る円は、広がったり縮まったり。
いつの間にか、両隣はアトラとクーデリアになっていた。
少女の柔らかな手が、控えめなようでいて、けっこうガッツリと掴んでくる――まあ、そっと繋いでたら踊るときにすっぱ抜けるからね。
フミタンは、薄く微笑むだけで未参加である――お手々つなげるかと淡く期待したんだけどなぁ…。あ、氷の眼差しあざっす。
見回してみれば、どの顔も笑っている――ペドロだけまた泣き笑いだけど、あれは慣れるまで仕方ないか。辛い涙じゃなさそうだしね。
マイム・マイムが終われば、ジェンカとか。
ジャンケンに負けたら後ろにくっつくあれである。
簡単に踊れて楽しめるゲームみたいなダンス――だけど砂地ではけっこう転びそうになる――は、終いには長蛇と長蛇とのタイマン勝負。
いつの間にか参戦していたクランク仁王が最後の勝者となった。
――解せぬ。
「まだ眠りたくないよ、三日月さん」
ライドがぐずっている。唇を尖らせて。野営テントの中、ランプの火明りが大きな眼にキラキラ映っていた。
ああ。これは、祭りのあとのあの感じだ――惜しくて物寂しい。
手を伸ばして、癖のある髪をグリグリとかき混ぜてやる。
散々に踊って、騒ぎ疲れたチビ共は、糸が切れるように眠りに落ちていった。
篝火も勢いを落とし、バカ騒ぎも、もう終わりだ。
テーブルや椅子は撤収。
船室で休むものは船に戻り、この場で休むことを希望したものには、テントの寝台か、蚊帳の中に吊ったハンモックを振り分けた。
虫除けの香の匂いが、懐かしい感じ。
年少組は寝冷えを案じて全員テントに押し込んだわけだが、まだ寝ないと頑張るのが、ライドを含んで数人いた。
「まだ、もう少しだけいいだろ!」
昌弘、声を落とせ。チビ共が起きる。
――Shhh
人差し指を唇に。
「なんか寝るの勿体なくて……」
目を逸らしながら、デルマまでが。
「明日は早いぞ」
「ちゃんと起きるからさぁ」
アストンが困り顔でなだめるけど、あまり勢いはない。うん、お前も寝るの惜しい派ね。
タカキもチラチラ視線を投げてくるし。
「どーすんだ?」
ニヤニヤすんじゃないよ、シノ。
まあね、気持ちはよく分かるし。
「じゃあ、ホットオレンジジュース、1杯飲む間だけな」
囁き声でそう答えれば、声のない歓声が上がった。
ソロリソロリとテントを出てまた浜辺へ。
焚き火の残り火に鍋をかけて、オレンジジュースを温める。
これもモンタークから仕入れたものだ。
少しだけシナモンを落とせば、酸味とスパイスの混ざった香りが鼻をくすぐった。
パチパチと火の粉がはぜる音の向こうで、波の音が響く。
大騒ぎに紛れていたいろんな音が、静寂の中で戻ってきていた。
降るような星の並びは、火星で見るのとだいぶ違う。
鍋から均等にカップに注ぎ分けるのを、皆が真剣な目で見守るのに笑いそうになった――いや、おれの表情筋動かないんだけどさ。
なんでシノ、お前までそんなに真顔なの。
昭弘、お前もだ。
「あったかい」
カップを抱えてタカキが微笑む。
アストンは物珍しそうに匂いを確かめる様子。
シノがさっそく口をつけ、「アチッ」っと。
「熱いぞ」
「先に言えよ」
――いや、わかるだろ。
口をつけて。
「アチッ」
「お前もかよ三日月」
呆れた顔すんな昭弘、ついでに昌弘も。
フウフウ冷ましながら。コソコソ話しながら。
そうしている間にも焚火は火を小さくしていく。
誰かが溜め息のようなアクビをもらして、ようやく年少組は眠る気になったらしかった。
飲み終えたカップを回収すれば、今度こそおとなしくテントへと戻っていく。
そうこうしてるうちに、なぜか目尻の赤いビスケたんと、バツの悪そうな顔の“オルガ”が戻ってきた。
なに、喧嘩でもした――って訳じゃなさそうだね。ビスケたん機嫌良さそうだし。
「“オルガ”」
とりあえず手を振ってみる。ヨロヨロと近づいてくる“オルガ”は、先程よりも、もっとグッタリしていた。
なに、蒔苗じーさんの相手ってそんなに疲れるの?
「ここ、開いてる」
横になるといいよ。
言えば、のそのそとハンモックに潜り込んで、ふはーーーっと、大きく息を吐いた。
ポンポンと背中を宥めるように叩けば――あれ、もう寝てるし。
ビスケたんが小さく笑う。その顔をしげしげと眺めて。
「……泣いたの?」
目元が赤いし、鼻の頭も赤くなってる。
「妖怪じーさん、キュっと絞めといたほうが良い?」
「ちょ!? 違うよ三日月!」
首を傾げて聞いてみれば、ビスケたんは大きく手と首を振った。
「これは兄さんが――兄さんが連絡があったんだ。ねえ、三日月、ドルト・コロニーは、アフリカン・ユニオンと経済的平等の協定を結んだよ」
――え?
見返せば、ビスケたんの目がまた潤んでいく。
言葉の意味が、ジワジワと脳に滲みてくる。
ああ。あの男はやったのか。サヴァラン――ビスケットの兄貴は、生きて、本当に世界の歯車をひとつ回したのか。
「……世界を動かした」
口から言葉が転がり落ちれば、ビスケたんか大きく頷いた。
「そう。兄さんはやったんだ! お嬢さんと、鉄華団のおかげだって。オルガと、三日月、君にもくれぐれもよろしくって……」
ビスケたんが手を伸ばして、あのとき、取られなかった右手を握った。
「ありがとう。三日月、君が助けてくれたんだ。ドルトで、ずっと俺たちを守ってくれてた――ドルトだけじゃない、ブルワーズの時も、その前もずっと」
ビスケたんは一度言葉を切って、じっと視線を合わせてきた。嘘はないんだって、真っ直ぐに伝えるみたいに。
「“俺たちみんな”を――“鉄華団”を守ろうと頑張ってくれてありがとう。俺も頑張るからね!」
はにかむようにビスケたんが笑う。
なんだ可愛いなオイ。それで“オルガ”がビスケたんに何かと甘いのか。
握られた右手が暖かくて、なんだか放したくなくて、ギューッと握れば悲鳴が上がった。
「イタタ!――三日月、そういう照れ隠ししなくて良いから!」
手を奪い返したビスケたんはプリプリしてる。
ちょっと寂しくなった右手を見て、それからビスケたんに視線を移して肩をすくめた。
「どっちで休む? ハンモック? 寝台?」
「――揺れない方が良いな」
まあね。船旅、慣れないと平衡感覚が狂うよね。
「テント、まだ寝台あいてる」
「わかった――おやすみ、三日月」
「おやすみ、ビスケット」
テントへと向かう後ろ姿を見送る。
そうだね。
サヴァラン・カヌーレは生き延びて、世界の刻はひとつ進んだ。
クランクもアインも生きていて、もはや鉄華団の一員みたいだし、フミタンは、クーデリアの隣で微笑んでいる。
縞パン(青)だって、みっともないけど生きてるし。
ミレニアム島で戦闘は起きてない。
カルタは軌道上で艦隊を指揮している。
ビスケたんも無事だし、火星ではダンジたちが留守を守っている。
昌弘は昭弘に突っかかりながらも笑ってて、もと海賊の子供たちも、自分の希望と向き合おうとし始めている。
それは、“オルガ”が舵を取って、やっと辿り着いた“いま”だ。
そして、ここから“さき”が更に続いていく。
ほわほわするこころの裏側で、けれど凝った心火がジリジリと燃え続けている。
この平穏を、脅かそうとする者が居るんだ――“おれたち”を壊そうとする奴等が。
奥歯がギリリと嫌な音を立てた、
“敵”を屠らんと、走り出したがる胸の獣をそっと宥める――まだだ。いまは、まだそのときじゃない。
でも、そう遠くもない。
ひっそりと爪を研げ。咬み裂く牙を鈍らせるな。
いずれ来るその時のために、憎悪も憤怒も底の底に鎮めておけ。
「そうでしょ? “オルガ”」
眠る“オルガ”にそっと触れる。
見上げる先、降るような星の天蓋は、天界への入り口みたいにきれいだったけど、おれが立っているのは、いつだって煉獄なのかも知れないね。
ミレニアム島を出てからの船旅は順調だった。
天候にも恵まれていたし、危惧していた妨害も無かった。
イルカの群れを見たり、クジラの潮吹きを見たり。
相変わらず釣りをしたり。一度、釣った魚にサメが喰らいついて釣り上がったときには、甲板が騒然となったけど。
――うん。ちょっとびっくりした。
陸に着いてからは、列車に乗り換えての旅だ。
あれだ――『世界の車窓から』。けっこうあの番組好きだった。
頭の中にあのナレーションと音楽が流れるけど、実際にはそんな悠長なもんじゃないわさ。
客室ならともかく、貨物車両での見張りがある。MSの隣で縮こまってるわけだよ。
ロッキー越えの列車だぞ。確かに景観はスンバラシイが、体感温度は何℃になると思ってんの。
「寒い」
なんてもんじゃない――ので、着膨れる。もこもこコートに毛布、帽子に耳当に手袋にマフラー。ついでに簡易カイロも仕込む。
雪だるまのようになったおれを、ライドが面白がって突っついた――おやめよ。
「三日月さん寒がりだ!」
「そんなに寒みーかよ?」
シノがニヤニヤするけど。
「ヤマギの愛情ストーブうらやま〜」
「ばっか、ありゃあ…」
からかい返せば、モゴモゴと。
知ってんだぞ。お前が見張りに立つとき、ヤマギがお手製ストーブ持ってくって言ってたの。
『寒さが距離を縮める』だったっけか。なんかそんな感じの二人である。
ともあれ。
「寒さ舐めんな」
アストンを捕まえてコートをまくりあげる。
「なにすんだ」
「カイロ貼る」
背中にテープで貼り付ける――貼るホッカイロってホントに有り難かった。なぜこの世界に無いのか理解に苦しむ。見つけてないだけかも知れんけどさ。
「ほら、デルマも」
ペッタリと。
「シノは?」
「俺は良いや」
――ふぅん、ヤマギで暖をとるつもりか。リア爆リア爆。
ちなみにこれ、『リア充爆発しろ』の略じゃないから。『リア充爆撃する』だからね。
うん、爆弾ならいっぱいあるんだ。
「――おい、三日月、その目やめろ。絶対なんか物騒なこと考えてんだろ!」
「別にホントに爆破はしないよ」
「三日月ィイイ!?」
「昭弘もほら」
「俺も良い。鍛えてるからな!」
「……そう」
――筋肉でねじ伏せることの出来る寒さなど、たかが知れていると思い知るが良い。
素直に手を出してくるアインに、仁王の分のカイロもまとめて渡す。
さあ、見張りに立つぞ。
貨物列車の最後尾。設置したバルバトスの脚の間で、風除けしながらじっとしている。
寒いわー。
小刻みに震えて体熱をあげつつ、周囲を見る――見張りって言っても、まわりは大自然で、人工物なんてなにもない。
襲撃者は影も形もないし、客室から不審者が来ることもない。
線路が敷かれ、列車が走る他はまさに手つかずの山林で、チラホラと野生動物の姿も。
うん。豊かだな。狩猟生活で生きてけるわ。
つか、ホントに鉄華団全部引き連れて、それこそ絶海の孤島やら、陸の孤島っぽいこーゆー大自然の中に溶け込んで、村でも作って生きてけたら、“おれ”は幸せなんだろう。
だけど、その外で、火星――圏外圏では宇宙ネズミがいつまでも貧困に喘ぐし、スペースデブリ達は使い捨てられるし、永遠の害獣は変わらず争いの種を撒いて、金満野郎は際限なく肥え太る。
それを、“オルガ”が許すはずないし、“おれ”も許すつもりはない。
まあ、“敵”をそのままにして、平和な村なんて作れっこないしね。
やっぱり、奴らの喉笛は咬み裂こう。
何度でも自分自身に確認する。
つまるところ、闘争は永遠だ。
人間が一定数いて、互いに大事なものが違うだけで、そこに争いは生まれる。
オリジナルの三日月は、戦うことしか知らない自分が、戦いのない世界でどう生きれば良いのか、なんて悩んだらしいけど、大丈夫。
戦いのない世界なんて無いから。
戦い方が変わるだけ――そして、戦い方を知ってるヤツは、どんな形であれ戦ってけるんだよ。
それを知る前に、“お前”は消えてしまったけど。
感傷――なのかな、そんなものに浸っていたら。
「――ミカ」
“オルガ”が来た。見回りかな。
着膨れたおれを見て、呆れたように眉を上げた“オルガ”は比較的薄着だ――そんな装備で大丈夫かAgain。
「“オルガ”」
「異常はないか」
「ないね。順調だよ」
“オルガ”が隣に腰を下ろす。こんなところで休憩でもするつもりか。
せめてもうちっと暖かい格好で来てってば。
「“オルガ”は寒くないの」
「まぁな」
と、答える“オルガ”のジャケットに無理くりカイロを差し込む。
鬱陶しそうにしながらも外さないのは、暖かいからか――いや、外すのが面倒くさいが正解か。
「筋肉あるからな。自家発電でけっこう持つぞ」
って、また筋肉信仰か!
「……そうか、昭弘には、トレーニングしろって云やぁ良かった」
「昭弘?」
「や、寒くてぶるぶるしてたから、身体動かせって云やぁ良かったと思ってな」
「……あぁ、そっか、そうだねぇ…」
って、答えてはみるけど。
いやいや。筋肉だけでどうにかなるほど高地の冷気と風は生易しいもんじゃないんだぞ。
見張りの時間はそれなりに長い。動いた方がマシってのはあるけど、その分、体力を持ってかれる。
だから大きく動かないで、血の巡りを滞らせないように、要所要所だけ動かしておくのさ。
汗をかかないのもコツ。
ふーっと息を吐きつつ、隣の“オルガ”にもたれ掛かる。
“オルガ”も体重を掛けてくる。
ぴったりくっついて、流れていく景色を眺める。
しばらくはその儘で――あれ、なんだか、隣から悲哀みたいなものが漂ってくるんだけど、なに?
「“オルガ”?」
声をかけても返事がない。
何故だ。久びさの“ふたりっきり”タイムだというのに、何を黄昏れることがあるのか。
「――何考えてんのさ、ボス」
元の呼びかたで呼んでやれば。
「“オルガ”だって云ってんだろ」
いつものアレ――って、呼んでも反応しなかったくせに。
「うん。で、何さ?」
「……単に、自然は凄えなぁと思ったんだよ」
――切なげに何を言い出すのかとのかと思えば。
「ほんの数百年で、人間が切り拓いたはずの土地が、森や原野に戻っちまうんだからな。人間のちっぽけさを、しみじみと感じちまったのさ」
「ふぅん」
――そんなことか。
だって人類は減ったんだろ? そりゃ飲み込まれもするわ。
数でしか星に挑むことのできない生き物が、その数を減らしたら、ねえ。
減って、また増えてるんなら、またいつか減るまでは切り拓き続けるんじゃないかな。
それは多分、人間の習性みたいなもので、鳥が巣をかけるのとか、狼が群れで駆けるのとか、鹿達が山を越えてくのとかと、あんまり変わらないんだろう。
そもそも、人も鳥も鹿も狼も――象もクジラも、星よりは、みんな全然ちっちゃいから仕方がない。
その、なにが切ないというのだろうか?
「小さいか大きいかなんておれには分からないけど、何度でも切り拓くし、何度でも飲まれるよね。きっと。人間が絶えるまでさ」
流れていく線路を見る。
こんな風に、あらかじめ決まってたことみたいに、同じような道を何度だって辿るんだろう。人間は。
「そもそも相手は『星』だし。人間だけでしょ。『星』に挑むの。面白いよね。何が違うんだろう。遺伝子なんか、そんなに違わないみたいなのにね」
「――そうか?」
不思議そうに“オルガ”が瞬きする。
「うん、違わない」
もとより違いがよく分からない。
「だから、何度でも滅んで、何度でもしぶとく湧いて出るんだよ」
「……虫が湧くみたいな云い方だな」
「うーん……近いかも」
蟻とか蜂とか、社会性すら似てるしな。
「人間が本能のままに生きると、多分戦いばっかりで、絶滅しそうになると思う。だけど、ボス――“オルガ”みたいに考える人の存在が、それに歯止めをかけるんだと思う」
「そうか?」
「そうだよ。“隣人を愛しなさい”とか“憎しみ合ってはいけない”とか。――それでちょっと戦いが止んで、そこでまた人間が増えるんだ」
まるでパンドラの箱の中の希望みたいに――きっと、最期の最期で滅びを回避して、またいつかの滅びに向かうんだ。
「そりゃ、あんまり良いようにも思われねぇな」
“オルガ”が顔をしかめる。
「そう? ……心配しなくっても、人間は滅びないってこと」
「――そう云う心配はしてない」
「そう?」
だけど、“オルガ”、人間好きじゃん。
そうじゃなきゃ、その行く末を思って、怒ったり哀しんだりしないだろうから。
「……とにかく、俺たちのやらなきゃならねぇのは、目の前の仕事をこなすことだからな」
「まあね」
自分で振ってきた話なのに、諭すみたいに言わんでくれたまえ。別に良いけど。
「明日の夕方には、エドモントンの駅に着くぞ」
――やっとか。
いよいよ、あれとかこれとかお目見えか。ちょっとワクワクしてきた。
「モンターク商会は、きちんと仕事してくれてんだろうなぁ?」
「大丈夫でしょ、信用問題じゃない」
あれこれ追加で煩く注文つけてみたけど、きっちり用意してみせるって言ってたし。
「まぁな」
そんな会話をしていれば。
「三日月さん! ……あれ、団長も」
「おう、ライド」
ひょっこりとやって来たのはライドだった。
小銃を担ぐ姿は様になってるけど、やはりモコモコのジャケットの下で震えてるみたい。
「交代か」
「はい!」
“オルガ”への返事は元気だけど、鼻の頭が真っ赤じゃないか。
「じゃあ、これあげる」
毛布を巻きつけて、ついでに耳当とマフラーも。ジャケットの下には当然、カイロも突っ込んでやる。
「え、いいんですか」
どんどんモコモコを上乗せしてたら、いつもの懐っこい眼差しを向けられた。
良いともよ。
「中に入るからね。毛布だけまた後で返してよ」
毛布は備品だからな。
「……はい!」
ニコニコしちゃって、可愛いな。
「頼んだぜ、ライド。何かあったら呼び出せよ」
「はいッ!」
――張り切ってんなぁ
“オルガ”にいいトコ見せたいんだね。うん。分かる。
「任せた」
“オルガ”の大きな手が、ライドの頭に乗って、その髪をかき回す。
おやまあ。嬉しそうな顔しちゃって、妬けちゃうねぇなんて、内心でニマニマする。
さて、車内に戻ろうかね。今のうちに飯食って眠っておかないと。
“オルガ”にくっついて、車両を移動する。
お、昌弘じゃん。昭弘と交代したのか。
「どーよ?」
「兄貴、めちゃくちゃ震えてて変な生き物みたいになってた。大丈夫かな?」
笑いながらも心配してる様子。
「一応見ておく。お前は?」
「言われたとおり、ちゃんとカイロ仕込んでるし風除けも持ってきた」
「ん。無理すんなよ」
「わかってるよ!」
コートに毛布にカイロ、他諸々で着膨れてるのを確認。大事なことだし。昌宏、まだ痩せてるからね。
横で“オルガ”が過保護かと呆れるけど、こいつらにはこれで丁度良いくらいなんだ。
次の車両はタカキ――って、お前、ちょっと薄着じゃね? もこもこジャケットは着てるけど。
「タカキ、毛布は?」
「風除けあるから、そこまでは。俺、寒いの強いですよ?」
って、確かにライドよりぶるぶるしては見えないけどさ。
念の為、新しいカイロを取り出して、ジャケットの下に増量してやれば、くすぐったそうに笑い声をあげた。
「“ミカ”、おまえ何個カイロ持ってやがんだ?」
やめて“オルガ”。コートの裾捲くんないで。いっぱい持ってるに決まってるだろ。
タカキは笑うばっかりで助けてくれないし。
隣の車輌に逃げ込めば、ペドロとビトーがいた。
「なにやってんですか団長? 手伝います?」
「三日月捕まえんです? またなんかしやがったんですかソイツ」
「いやおれを助けろよ」
おまえらおれの仲間じゃないか。なんでふたりとも“オルガ”の味方なんだよ。
「だって団長だし、ねえ?」
「ああ。団長だしな」
謎の団長理論――解せぬ。
誰も味方がないのでしょんぼりしてみたら、“オルガ”が肩に手をまわしてくる。
ぬ。仲良しさんか。うん。機嫌なおった。
肩には届かないから腰に手をまわして、ぴったりくっつけば、ペドロとビトーが生ぬるい眼差しを向けてきた。
「――おまえらカイロは?」
「アストンたちから引き継いだ。あったけえなコレ」
「だろ。できるだけ風に当たんなよ」
「わかってるって!」
手を振るのに振り返して、ようやく客車へと足を踏み入れる。
先に戻ってたシノが手を上げて。
「なにぶら下がってんだ三日月」
なんだと。この仲良しっぷりにイチャモンつけやがる気かキサマ。
ニヤニヤ笑う顔に指を突きつける。
「リア爆すんぞ」
「なにか分からないけどそれやめろ。目が怖ぇんだよ」
言い合ってたら、“オルガ”がするりと離れていった。ちょっと名残惜しいな。
「“ミカ”、お前も腹になんか入れて休んでおけよ」
「はいよ。りょーかい」
背の高い後ろ姿を見送る。
そうだね、皆の様子を一通り見たら休むよ。まずは昭弘かな――変な生き物から回復してりゃ良いけど。
つらつら考えながら足をすすめる。
そーいや食堂車両のバインバインのおネエさんが、スープ取り置いてくれるって言ってたっけ。
口々に声をかけてくる仲間たちに手をあげて答えながらも、ふぁあと大きな欠伸がこぼれた。