【成り代わり】鉄血のナントカ【異世界転生?】 作:くずみ@ぼっち字書き。
蒔苗の爺の火星訪問が、十一月と正式に決定した。
鉄華団地球支部の契約満了が九月末、それから撤収に一ヶ月程度と考えると、まぁまぁ妥当なラインだろう。
念の為、十一月以降は、総出で対応しなければならないような仕事は入れていなかったから、まぁ何とかこなしきれるのではないかと思う。爺がこちらに到着してしまえば、地球支部の面々が、本部に合流することになるのだし。
まがりなりにも“アーブラウ代表の火星公式訪問”なので、宿泊等に関しては火星代表政府の問題になるが、その警備、警護はすべて鉄華団が請け負うことになる。まぁ大仕事だった。
こう云う仕事をまとめて受けているから、同業者には不評なのだろうな、と思う――こう云うものは、一度受けると“実績がある”と見なされて、二度三度と受注がくることになるからだ。まぁ、こうやって公共事業を専門に請け負う業者が作られていくわけだ――つまりは、贈収賄の温床と云うわけである。もちろん、鉄華団はそうなる予定はないけれど。
十一月、と云っても、実際にこちらが動き出すのは、もっと早い時期になるだろう――まず、地球の静止軌道上にあるステーションまで出迎えに行かなくてはならないし、地球と火星の距離は、今はそれほど近くはないから。
フルメンバーとまではいかなくても、主力は揃えて行かなくては、万が一の時に対処できないので、現在契約している仕事についても、人員の入れ替えをする必要が出てくるに違いない。少なくとも、ユージン、シノ、昭弘は出す必要がある――“三日月”が不在だから、なおさらに――し、それ以外も、ダンテやヤマギも駆り出さなくてはならないだろう。
――とりあえず、会議かな。
このところ、大きな会議はせずにきた――もちろん、軽いミーティングは始終やっているが――ので、久々の招集である。メンバーは、ビスケット、ユージン、ダンテ、トド。
「――蒔苗の爺の件は、以前話したとおりだが、その前に現状を確認しておきたい。ダンテ、アリアンロッド艦隊の動きはどうだ」
「あー、まぁ、おとなしいもんだな。イオク・クジャンも、JPTトラストと連絡を取っちゃいるようだが、どっちにも、特に動きはねぇよ」
ダンテが、傍受したデータのレポートを見ながら、こめかみを掻く。
「タービンズからは、特に何も云ってきてないんだよね?」
ビスケットが問うのにも、
「あぁ。まぁ、あちらさんと俺らじゃ、そこまで深い繋がりもねぇからなぁ」
そう、鉄華団としても、ジャスレイ・ドノミコルスの動きをご注進、と云うほどには、名瀬・タービンと親しいわけではない。原作のように、兄弟の杯をかわしているならまだしも、いらぬことを云って、テイワズ内部に波風を立てるのは本意ではない。温厚そうに見えるが、名瀬と云う男は、テイワズ内部でも有名な武闘派だそうだから。
「俺たちが何か云って、名瀬とジャスレイの間に亀裂が入ろうもんなら、テイワズの矛先がこっちに向くからな。――まぁ、そこは引き続き、監視継続で頼む」
「おう」
「もうひとつ気になってんのが、アリウム・ギョウジャンだが――トド、そっちはどうだ」
「どうもこうも」
トドは、少し縒れたワイシャツに包まれた肩を、ひょいとすくめた。
「ノブリス・ゴルドンが殺られちまってから、奴さん、資金源を絶たれちまったみたいな感じみたいでな。アッチコッチに声をかけてるみてぇだが、なかなか厳しいらしいぜ。ただ……」
「何だ」
「気になる噂が、な。あの野郎、どうも“夜明けの地平線団”と繋ぎをつけようとしてるらしい」
「“夜明けの地平線団”……!」
「それって……!」
皆が驚愕の声を上げる。
が、それも無理はない。
“夜明けの地平線団”と云えば、最近急速に規模を拡大させている宇宙海賊だ。原作では、クーデリアに自分が恩人であり、その思想も、元は自分の教えから出たものだと云わせようとして、拒否された上での逆恨みから、ギョウジャンがクーデリアの暗殺を依頼した相手でもある。
――なるほど、このあたりは原作どおりと云うことか。
確か、“夜明けの地平線団”の方も、のし上がってきた鉄華団を目障りに思って、全面対決となったように記憶している。
だが、
「……ノブリス・ゴルドンが死んだ今となっちゃ、ギョウジャンなんざ三下以下の扱いだろ。“夜明けの地平線団”が、そうそう話を聞くもんかな」
そう、一応ノブリス・ゴルドンの後ろ盾がなくもなかった原作とは、話が違ってきている。アリウム・ギョウジャンは、あくまでも火星の権利拡大を求める活動家の一人であり、実際に地球の、アーブラウまで行って、協定を結んできたクーデリアとは格が違ってきているのだ。
加えてスポンサーをも失ったギョウジャンなどの言葉に、果たして“夜明けの地平線団”が耳を傾けるものだろうか。
「その辺はわからねえなぁ。ただ、“夜明けの地平線団”についちゃあ、ちょいと胡散臭ぇ話も聞いてる」
「何だ」
問うと、トドは、片眉をつり上げるようにした。
「連中が、うちの動向を気にしてるってよ」
「はぁ?」
確かに、鉄華団は大きくなった。ブルワーズのヒューマンデブリを取りこみ、その他にも新人を加入させ、規模だけならば一端の企業らしくなった。
だがまぁ、所詮はまだ新興の一企業に過ぎず、テイワズさえも手出しできないと云う宇宙海賊に、動向を気にされるようなものではないはずだ。
「何でうちだよ! そりゃ、お嬢さんを地球に送ってったりして、ちったぁ名は売れたろうけど――他にいろいろ気にするとこはあるだろうになぁ!」
ユージンが叫ぶ。
「……俺も同感だ。その辺は、何か情報はねぇのか」
訊ねるが、トドは首を振った。
「さぁな。噂も噂だ――だが、ある程度は信憑性はあるぜ。何しろ、云ってた奴は、実際に“方舟”で、“夜明けの地平線団”らしい奴に訊かれたって云ってたからな」
クリュセの酒場で、んなこと云ってた奴がいたんだよ、と云う。
「もしも、そいつの云ってたことが本当だとして、ギョウジャンの野郎が話を持ちかけたんなら――もしかして、もしかするかも知れねぇぞ、オルガ」
「マジかよ!」
ユージンが髪を掻きむしる。
「どーすんだ、オルガ! いくら何でも、俺らに“夜明けの地平線団”とやる戦力なんざねぇぞ!」
「……とりあえず、ファリド一佐に連絡を入れよう」
万が一の時には、応援に来てもらえるように。
正直、マクギリスよりも先に、アリアンロッド艦隊が割りこんできそうな気がする――ラスタル・エリオンは、漁夫の利を狙ってきそうなタイプだ――が、それはそれで、牽制として巧く使うとして、マクギリスや、カルタ・イシュー、地球外縁軌道統制統合艦隊に助力を求めておくのは、この場合正しいやり方だろうと思う。
“夜明けの地平線団”と鉄華団では、とにかく火力の差が歴然とし過ぎているし、そもそも現在、最大火力であるところの“三日月”がいない。バルバトスに乗れる人間が“三日月”以外にない以上、大幅な戦力減であるのは間違いないのだ。
「――向こうが、どんだけ本気でうちとやるつもりなのかわからねぇからな。用心するに越したことはねぇが、泰山鳴動して鼠一匹、ってのも御免被る。まぁ、こちらの最大配置で臨むのはもちろん、地球支部の方にも、最大の装備で上がるように指示しよう」
それでも、地上から宇宙へ上がる時には、格段に無防備にはなるのだが。
「大丈夫かなぁ……」
ビスケットは、心配そうに眉を寄せるが、
「宇宙に上がるシャトルを襲撃するのは、なかなか難しいだろ。もしも本当に“夜明けの地平線団”が襲撃してくるとしても、あっちは宇宙海賊なんだ、やるなら宇宙に出てからだろうな」
地上と宇宙とでは、MSやMWなんかの仕様も異なってくる。ブルワーズのマン・ロディを火星や地球に下ろすのに、大規模な改修が必要だったのは、記憶に新しい。
いくら“夜明けの地平線団”が大きな海賊だと云ったところで、鉄華団なんぞと云う新興企業をどうにかするためだけに、手持ちのMSを地上仕様に改修したりはしないだろう。
それくらいなら、宇宙に上がってすぐあたりを叩く方が、戦略的にも、コスト的にも正しいのではないかと思う。シャトルをミサイルで狙い撃ちしたとしても、よく云うように、射程の長いミサイルは、精密照準には対応していないのだろうし。
「まぁ、やるなら待ち伏せ、って気はするけどなぁ」
「勘かよ!」
ユージンは云うが、
「うちが目当てにしても、蒔苗の爺を人質にしてお嬢さんをどうこうするにしても、シャトルのステーションあたりで待ち伏せすれば、一網打尽じゃねぇか」
まぁ、蒔苗の爺をどうにかするとなると、アーブラウやらギャラルホルンやらが出てくるのはわかっているだろうから、クーデリアと繋がりがある鉄華団だけを狙った方が、後々しつこく追いすがられなくて楽、と云う考えもあり得るだろうし。
蒔苗東護ノ介を警護するなら、鉄華団はほぼ総出になる、と考えるなら、火星の主力を壊滅させればいい、と云うのは、おそらく正しい。
地球支部は、クランクとアインがいるとは云え、年少組が中心で、MSやMWのパイロットはやはり元年長組が圧倒的に多いのだ。ユージン、シノ、昭弘を失えば、“三日月”のいない今、鉄華団の戦力は半分以下になる。そうなれば、今のような仕事の受け方はできないから、企業としても、鉄華団はジリ貧、と云うことになるだろう。
“夜明けの地平線団”はともかく、アリウム・ギョウジャンの狙いは、そう云うところなのではないか。
「としたら、地球外縁軌道統制統合艦隊の管轄外の宙域で、待ち伏せされる可能性が高いってことだね」
ビスケットが冷静に云う。
「あぁ。地球外縁軌道統制統合艦隊もアリアンロッド艦隊も管轄してねぇ、空白地帯がヤバいだろうな。念のため、極力そう云う宙域を作らない航路を算出してくれるか」
「任せろ」
ユージンが頷いた。
「ダンテは引き続き、アリアンロッド艦隊の動向と、“夜明けの地平線団”の動きも探ってくれ。トドは……」
とっさに思い浮かばず、暫沈黙する。
「……ま、お前はいつものようにやってくれ」
「何だ、適当だな!」
文句を云われるが、この男は、自由にやらせた方が上がりが大きいのだ。
「お前の仕事を信頼してるってことだよ」
「何だよ、俺らのことは信頼してねぇってのか!?」
ダンテが云うが、そう云う問題でもないと云うか、
「……正直、お前は野放しにしたらヤバい時があると思ってる」
何しろ“三日月”とつるんでたわけだからな。そこは全然信用ならない。
「何だよそれ」
「仕方ないよ。三日月がいない今、何かやらかしそうなのは君だもの」
ビスケットが苦笑するのに、ユージンも頷いた。
「お前は有能かも知れねぇが、シノなんかとつるませとくと、何か危ねぇ感じがするよな」
「うわ〜! 信用ねぇ!!」
頭を抱えても、自分の日頃の行いを省みるべきだと思う。
トドが、ちょっと胸を張って、それから、こちらを窺うような目つきをした。
「……やれんのかよぉ、オルガ」
「やるしかねぇだろ」
即答する。
やるしかない。蒔苗の爺からの依頼は受けてしまった。トラブルの可能性があるからと云って、それを投げ出すのは、“オルガ・イツカ”ではないが“筋が通らない”。
「とにかく、想定されることはすべてやる。万が一は万が一じゃねぇ、あらゆる可能性があるってことを、肝に銘じてやるぞ」
その言葉に、強い頷きが返ってきた。
火星を出たのは、地球の暦で九月に入ったばかりの頃。
船は“イサリビ”と、ブルワーズの船をそのまま改修した“カガリビ”――どうも、語感として“ホタルビ”が好きではなかったので――の二隻で行く。
“方舟”に到着し、“イサリビ”の艦内に入ったところで、地球支部から連絡が入った。珍しく、テキストメールではなく、緊急でしか使わない、画像こみの通信である。
〈妙な奴が、“ダンテに渡せ”と云って、ラジオを持ってきたんだ。録音データがあるようだから、中身を確認しようと思ったら、“What's your radio name?”って出てきてさ〉
多分、パスワードを入れろってことだと思うんだけど、と、チャドが眉を下げながら云う。
「“ラジオネーム”……?」
ぱっと思い浮かんだのは、歌だった。
元のアレで、カラオケで二人で時々歌った歌。
――ここでおハガキを一枚 ラジオネーム“恋するウサギちゃん”
ポルノの『ミュージック・アワー』のワンフレーズ。
そして、横で聞いていたダンテも、
「それ、“恋するウサギちゃん”で入れてくれ!」
三日月がいっつも使ってるパスワードなんだよ! と叫んだ。やっぱりか。
「ちなみに、持ってきたってのは、どんな奴だ?」
と訊くと、
〈IDは“アナベル・ガトー”ってなってるが、本人は、元“夜明けの地平線団”のヒューマンデブリで、ジャンニって名前だって云ってる〉
確定だ。
“アナベル・ガトー”は、確か宇宙世紀ガンダムの、外伝的な話のキャラだったはずだ。トミノではないので、まったくよくわからないのだが――昔“三日月”から聞いた記憶があるので憶えている。何か名言があったはずだが――何だっただろうか。
とにかく、“ラジオネーム”と“アナベル・ガトー”、このふたつを組み合わせて使う人間など、この世界にはひとりしかいない。
「――確かにミカだな」
呟く横で、ダンテは食い入るように画面に見入っている。
「どうだ、ロックは解除されたか!?」
〈待て、今……〉
格闘するチャドの横合いから、アインがひょいと顔を覗かせた。
〈団長、追加情報だ。ジャンニは、“ガラン・モッサ”がどうとか云っている〉
ガラン・モッサ!
なるほど、それでは“三日月”は、遂に“狩り”の獲物を見出して、それに肉薄していると云うことか。
〈……開いた! ――これは……大変だ、ガラン・モッサとか云う傭兵と、アリアンロッド艦隊のラスタル・エリオンが、手を組んで鉄華団を……しかも、そこに“夜明けの地平線団”をぶつけるつもりらしい!〉
「なにィ!!」
「何で、アリアンロッド艦隊に俺たちが!?」
ユージンやシノが叫ぶが、ダンテはある程度予想していたものか、真剣な表情でチャドの言葉を聞いている。
「――アイン、そのジャンニってのは、ガラン・モッサのところから来たって云ったのか」
問いかけると、アインはこくりと頷いた。
〈あぁ、確かにそう云った。ガラン・モッサの傭兵隊にいたが、訳あって出されたのだと――ラジオを渡したのは、“ゾルタン・アッカネン”と名乗る少年だったそうだ〉
駄目押しだ。
ガンダムNTの敵役、ゾルタン・アッカネン。そんな名前、“三日月”しか知るはずがない。
「……撃っちまうのか、これは」
内側から、ガラン・モッサを。
とは云え、ガラン・モッサも歴戦の猛者のはずだ。いくら味方と思う相手でも、そうそう撃墜されるはずもない。
「――ダンテ」
「何だよオルガ」
「本部に連絡して、大至急、バルバトスを宇宙に上げさせるように云ってくれ」
「本気!?」
ビスケットが叫ぶが、それはもう本気、本気も本気だ。
「ミカが帰ってくる。“夜明けの地平線団”と、ガラン・モッサの傭兵隊に挟み撃ちされたんじゃ、被害を最小限に抑えるのは難しいだろう。乗り換えが可能かどうかはわからねぇが、バルバトスを用意しとくに越したことはねぇ」
実は、今回バルバトスを火星に置いていくと決断したのは、“三日月”の所在が知れなかったからなのだ。
火力としては最大のバルバトスだが、それを操れるのは“三日月”一人。原作でダンテが挑んで、鼻血を吹いて失神したのを憶えていたから、搭乗禁止令を出していたのだが――無謀な輩はあるもので、案の定シノが乗りこんで失神していた。ヤマギが必死に意識を取り戻させて事なきを得たが、それ以来、バルバトスに乗ろうなどと云う酔狂な人間はいなくなったのだ。
“三日月”と合流する予定があるならまだしも、そうでないなら、動かせないMSなど邪魔なだけだ。そう考えて、今回はバルバトスを外しての出発となったのだが――戻ってくるつもりなら、用意しないわけにはいかないだろう。
「……出航が、何日か遅れることになるぞ」
ユージンが眉を寄せるが、
「背に腹は代えられねぇだろ」
“夜明けの地平線団”、そしてガラン・モッサとやり合う――ついでに、漁夫の利狙いのアリアンロッド艦隊もかわさなくてはならない――となれば、火力はどれだけあっても足りないくらいだ。
数日の遅れなど、少しばかり速度を上げての航行で取り戻せる。が、撃沈されればそれまでなのだ。
「係留費用がかさんでも、死んじまうよりは全然ましだ。バルバトスを待つ」
「はいはい。……まぁ、念には念を、だよね」
ビスケットは苦笑して、ダンテに向かって頷いてみせた。
バルバトスがマスドライバーで打ち上げられ、“イサリビ”に収容されたのは、結局五日が過ぎたころのことだった。ねじこんだにしては、格段に早い。
と思ったら、どうやらマクギリスを通じて、新江・プロトが圧力をかけてくれたらしい。正確に云うと、鉄華団とマクギリスやガエリオたちが繋がっていることを認識している、新江の独断、つまりは忖度と云うものだったらしい。
十日ほどで済めば御の字、と思っていたところだったので、この計らいは素直に嬉しかった。
改めてMSの積み替えを行い――“イサリビ”には、MSは四機しか収容できないので――、“カガリビ”とともに“方舟”を出発したのは、それからさらに数日を経てのことだった。ほぼ十日遅れの出航である。
その間に、地球支部の方では、例のジャンニと云う男からの事情聴取が終わったようだった。
テキストを添付されたメールには、男の言葉がかなり詳細に記されていた。
それに拠れば、“三日月”は、この男と出会う直前に、手違いかどうか知らないが、男と同じ“夜明けの地平線団”のヒューマンデブリである“水無月・オリエ”のIDを使っていたようだ。そのせいでと云うわけではないようだが、男は“三日月”に拾われてから、ずっと行動をともにしていたらしい。
そうして二人でフリーの傭兵をやっていた時に、ガラン・モッサからお声がかりがあって、その傭兵団に加わることになったようだ。
だが、ジャンニと“水無月・オリエ”――かれらは元々知り合いだったようだ――が、“夜明けの地平線団”を抜け出すきっかけの部分を読んで、驚いた。そこには、“鉄華団に、自分たちを解放して欲しいと思ったから”とあったのだ。
ダンテやトドに訊いてみると、ブルワーズの一件以降、鉄華団に頼めば、ヒューマンデブリの身分から解放してくれる、と云う噂が、まことしやかに流布されているらしい。
なるほど、それを聞いては、“夜明けの地平線団”がうちを目の敵にするのもわかる。大抵の宇宙海賊は、戦力の大半を、廉価なヒューマンデブリでまかなっている。もしも本当に鉄華団が話を聞きつけて、ヒューマンデブリたちを解放したりしたなら、海賊としては、使い捨てのできる戦闘員を大量に失い、飯の食い上げともなりかねない。
トドの聞いてきた、“夜明けの地平線団”が鉄華団を探っていると云う話には、そう云う裏側があったわけだ。
「いや……解放するも何も、そもそも“夜明けの地平線団”とやり合えんのか、って話だよな……」
だかまぁ、これはいいことを聞いたのかも知れない。ブルワーズ戦ではないが、ヒューマンデブリの反乱を起こさせることが可能ならば、原作よりぐっと被害を少なく、このミッションを終わらせることができると云うことだ。
だが、ブルワーズとは違い、“夜明けの地平線団”は、艦船が十隻、構成員は二千五百。その半分以上がヒューマンデブリだったとしても、なかなか反乱を起こさせるのは難しいだろう。
多少の勝算、と云えば、ガラン・モッサが蒔苗の爺ももろともに潰したいのに対し、“夜明けの地平線団”の方は、そこを巻きこんで、ギャラルホルンに出てこられては困るのではないか、と云うその部分くらいか。多分、そこに若干のタイムラグが発生する余地がある。
「……マクギリス・ファリドとカルタ・イシューに連絡を取る」
ダンテに云う。
「蒔苗の爺を迎えるステーションの護衛と、対“夜明けの地平線団”の援軍の要請だ。マクギリスには、地球支部から、ミカのよこしたデータも流してやってくれ。カルタは、きっとグラズヘイムを動かしてくれるだろう」
と、思いたい。
データを見れば、マクギリスにはわかるはずだ。これが、ラスタル・エリオンを沈黙させる絶好の機会なのだと。
マクギリスがカルタを動かしてくれれば、こちらもそれなりには戦力アップが期待できる。
あとは、いつ“三日月”がこちらに戻ってこれるかだが。
「地球支部に、“上”に上がってすぐに、MSで出撃する準備をするよう、伝えてくれ。クランク、アイン、アストンは絶対だ。他にも、戦えそうな奴は全部出せと云ってくれ。それから、もちろんあのジャンニってのも連れて上がれってな。“夜明けの地平線団”のヒューマンデブリに呼びかけさせる。――総力戦になるぞ」
「オルガ――やれるの……?」
ビスケットが不安気に訊いてくる。
「やるしかねぇだろ!」
鉄華団は、何だかんだ、原作よりも圧倒的に、戦うことも殺すこともなく今までやってきた。
もちろん、模擬戦や何かで、練度が下がらないよう努めてはきたが、場数を踏んでいない人間が多くいる。今回は、原作におけるブルワーズ戦並に、犠牲が出る可能性があった。
それでも、もうことは動き出している。こちらが引き返したとしても、あちらから事態が追いかけてくることになるだろうくらいには。
それならば、無駄に事態の回避を狙うより、手段を講じてから当たっていった方が、被害は少なくて済むはずだ。
「やるしかねぇ。“夜明けの地平線団”は、逃げ回ったって追っかけてくる。そんならこっちも、座して死を待つなんて馬鹿々々しいことはなしだ。それに、蒔苗の爺さんを殺られて、圏外圏に戦争の種を蒔くのもな。“夜明けの地平線団”も、アリアンロッド艦隊の目論見も、どっちも退けて俺たちが勝つ!」
そんな簡単なことではないとわかっていたが、ここで大将が怖気づいては話にならない。
腹の底から声を上げ、士気を上げてやらなくては、戦う前から負けてしまいかねない。
荒々しく上げた声に、シノが賛同する。
「そうだ! 俺ら宇宙ネズミの底力、ヤツらに見せつけてやるぜ!!」
「――ヒューマンデブリを解放されたくないって云うんなら、是非ともやってやろうじゃねぇか」
昭弘も頷く。
「簡単にひと捻りでやれると思ったら、大間違いだ!」
ユージンが云い。
「……そうだね。どうせ敵認定されてるんなら、やり返してやらなきゃね」
遂に、ビスケットも頷いた。
「――よし。皆、やるってのに異存はねぇな?」
見回して云うと、ブリッジの全員が、
「「「「「おう!!!」」」」」
と応えた。
それに頷いてやって。
「それじゃあ、具体的な作戦に入るとするか」
と云うと、真剣なまなざしが集まるのがわかった。
地球の軌道に入ったのは、予定どおりの日付だった。
バルバトス積み込みのための遅れは、ほぼ解消されたことになる。どうやら、蒔苗の爺には、厭味を云われずに済みそうだ。
そう云えば、原作だと、蒔苗の爺は身体が弱っていたはずだが、火星を訪問しようと思えるほどには元気なのか――あるいは、もう現役としてはぎりぎりだと思えばこそ、この機会に火星を訪問し、それこそクーデリアに後事を託そうと考えたのか。
小耳にはさんだところによると、蒔苗の爺を筆頭とするアーブラウ議会は、遂にヒューマンデブリ廃止を目指した宣言を採択したそうだ。クーデリアのエドモントンでの演説から二年あまり、かなりのペースでものごとは動き出している。
はじめは、アフリカンユニオンとそのコロニーの平等宣言に難色を示していたSAUやオセアニア連邦も、圏外圏に広がる人権擁護を求める運動に、徐々に耳を傾けざるを得なくなっているらしい。
いずれにしても、どうやら世界は、あの少女に運命を委ねるよう、動きはじめているようだ。結構なことだ、こちらも動きやすくなる。
まぁその分、“夜明けの地平線団”のように、現時点で多くのヒューマンデブリを抱えている組織などは、反発を強めているようだったが。だからこそ、鉄華団のような弱小の組織などに、“夜明けの地平線団”のような規模の海賊が注意を向けるようになるわけだ。
――まぁ、有名税ってヤツかな。
そこまで有名でもないと思うのだが。
それでも、“夜明けの地平線団”のヒューマンデブリが、駆けこんで解放してもらいたいと考えるくらいには、鉄華団の名前は知れ渡っていると云うことだ。
確実に、アリアンロッド艦隊、そしてラスタル・エリオンには敵視されているだろうし、その配下であるイオク・クジャンは云わずもがなだろう。
それから気になっているのが、テイワズ――ジャスレイ・ドノミコルスと、その後ろにいるマクマード・バリストンである。
テイワズとは、極力近づかないようにしているとは云え、何だかんだで名瀬・タービンとはつき合いもあるような状況になっている。そこから、名瀬とジャスレイ・ドノミコルスの諍いに巻きこまれる、と云う可能性も、やはり完全には払拭できないでいた。
「……オルガ、どうかした?」
ビスケットが問いかけてくる。
「あぁ、いや……そろそろ地球かと思ったんだよ」
結局、蒔苗の爺は、ステーションではなく、カルタ・イシューのいるグラズヘイム1――何と、これは三基あるそうだ、原作には二つしか出なかったようだが――で待機することになったようだ。まぁ、“夜明けの地平線団”が出てくる可能性が高いとなれば、当然の措置だったが、とにかくギャラルホルン内に味方がいるのはありがたい。
鉄華団がグラズヘイム1に“イサリビ”をつけて回収なので、それまではガラン・モッサも手を出しにくいだろうし、ありがたいことばかりだ。
「……くるのかな、“夜明けの地平線団”は」
「来る」
残念なことに。
「だがまぁ、俺らがヒューマンデブリを解放できるって思われてんだ、その期待には、応えてぇじゃねぇか、なぁ?」
そう云うと、苦笑が返ってきた。
「まぁ、僕らは巷で云われてるみたいな、“解放者”とかそう云うのじゃないんだけどね……」
「それでも、確かにやれるのは俺らだけだ。そうだろ?」
ヒューマンデブリをまだ使っている連中にはできないし、禁止されていない以上、ギャラルホルンにもできない。
ならば、元ヒューマンデブリたちの働く鉄華団こそが、その役割には相応しいだろう。
「蒔苗の爺さんも来ることだし、これでヒューマンデブリ禁止の動きが、圏外圏にも広がってくれるといいんだがな」
地球よりも環境の厳しい圏外圏では、コスト的に低いヒューマンデブリを使い捨てると云う慣習は、まだまだ根強いものがある。
だが、元のアレでもそうだが、安い人材を使い捨てにすると云うことは、技術の継承的には問題が多い。勤めていた職場も、しばらくの短期非正規使い捨ての後、当時のベテランが少なくなってきてからそれに気づき、少なくとも短期非正規の枠を、繰り返し雇用可能な準社員に振り替えていった経緯があった。
同じ作業をするにも、単純作業と雖も練度の違いがある。それによって、作業中の事故が減り、損失が減るのであれば、雇い主側としてもそれに越したことはないだろう。そのためには、多少の人件費は必要だが――結局はそれが、企業の側にも良い循環をもたらすのだ。誰だって、人間を使い捨てる雇い主が、次に自分のクビを切らないとは、完全に信じることはできるまいから。
「その辺は、蒔苗さんの仕事でしょ」
「まぁな」
そして、おそらくはクーデリアの。
だがまぁ、元ヒューマンデブリが生き生きと働ける職場――鉄華団のような――が出てきて、それが人びとの目に触れる機会が増えれば、自然にヒューマンデブリについて考える機会も増えるだろう。一朝一夕に変革することはできなくとも、そうしてだんだんに、“ヒューマンデブリ”と云う存在の不自然さを、皆が考えるようになってくれれば良いと思う。
「でもまぁ、俺らのやってることが、その推進力になるんなら、それはそれで面白ぇじゃねぇか」
「僕らが歴史を動かすってこと?」
「その歯車をな」
――君は自分の手で、歴史の歯車を回してみたいと思わないのか?
オリジンの士官学校編『暁の蜂起』で、シャアがガルマを焚きつけるために云った言葉。
そうだ、歴史の歯車を、回せるものなら回してみたいと、男は一度くらいは思ったことがあるはずだ。女だって、ひとによっては、もちろんのこと。
名瀬の云うような“広い世界に打って出る”よりも、もっとやりがいのある“仕事”。ヒューマンデブリを解放し、ゆくゆくはその存在そのものを禁止する、そちらへ繋がる道を作ること。
もちろん、政治家でも何でもない身としては、歴史に名が残ることは考えられない。
だが、鉄華団の名がヒューマンデブリの間に広まって、それが結果的にヒューマンデブリそのものを規制、禁止することに繋がったのなら、鉄華団は歴史の歯車を回したことになるはずだ。
「兄さんみたいに……」
「そう、お前の兄さんみたいにな」
まぁ、サヴァラン・カヌーレは、実際歴史に名を残すことになるだろうけれど。
「っていうか、どっちかってぇと、ナボナ・ミンゴに近いんじゃねぇかな」
歯車そのものを回すと云うよりも、回し手を歯車の方に押し遣る役目だ。
「それはそれで凄いじゃない」
「そうだな」
まぁもちろん、実際にクーデリアが、ヒューマンデブリ禁止条約か何かを締結すれば、の話だが。
「まぁ、それもこれも、無事にこの仕事を終えられたら、って話だがな。――つまりは、“夜明けの地平線団”をどうにかしなくちゃならねぇってことだ」
「そうだね……」
そう、そしてガラン・モッサとアリアンロッド艦隊を。
カルタ・イシューに頼んで、地球外縁軌道統制統合艦隊の実動部隊の一部を、グラズヘイム1に待機させてもらっている。それから、本人の言葉を信じるなら、マクギリスとガエリオ、石動らのグループも。皆、MSで動けるものばかりと聞いている。
こちらは、シノ、昭弘、ダンジらと、昌弘など元ブルワーズのパイロットたちを含めて五十人足らず、地球支部のクランク、アイン、アストンやデルマたちを入れても、百名には届くまい。
それで、二千五百とも三千とも云われる“夜明けの地平線団”と戦うのだ。今までで、もっとも厳しい戦いになるのは明白だった。
「――アタマをとっとと取れるかどうかが、分かれ目だよな……」
トップさえ押さえてしまえば、大概の組織は動揺を避けられないから、その隙に、あのジャンニと云うのにヒューマンデブリに呼びかけさせて、内部で反乱を起こさせることができるかも知れない。
そうすれば、数で劣る鉄華団にも勝機は出てくるし、もしかしたら、ガラン・モッサやアリアンロッド艦隊が介入してくる前に、ことを終わらせられるかも知れない――流石にこれは、ほとんど不可能であろうけれど。
“三日月”がいれば、話はもう少し簡単だったのかも知れないが、生憎ガラン・モッサの部隊に潜入中では、“夜明けの地平線団”の襲撃――もう、確実にこちらがグラズヘイム1に到着する前に来ると思っている――には間に合うまい。
と云うか、間に合ってしまわれると、こちらは“夜明けの地平線団”とガラン・モッサ、二組の襲撃者を相手にしなくてはならず、それでもたついていると、今度はアリアンロッド艦隊の介入を許すことになってしまう。
いや、介入自体は悪いこととは云えないが、それでこちらを“誤爆”されたり、或いはガラン・モッサを逃したり、捕らえても回収されてしまったりしては、ラスタル・エリオンの勢力を削ぐこともできない上に、後に禍根を残すことにもなってしまう。
その上、ラスタル・エリオンは、ヒューマンデブリについては是々非々の立場だったように記憶しているから、“夜明けの地平線団”がそちらに接収されてしまえば、ヒューマンデブリたちが解放されることもなくなってしまう。ここは、是が非でも勝たねばならなかった。
広域レーダーが、その片隅に地球圏を映しはじめた。
「……そろそろだな」
緊張感が高まる。
が、機影ひとつも画面上に現れることはなく。
そのままグラズヘイム1に到着してしまった。
――これは……
帰途についた途端に襲撃されるパターンか。
まぁ確かに、蒔苗の爺を人質にとれば、アーブラウから身代金をせしめることができるだろうが――予想の中で、もっともありがたくないルートがきてしまったようだ。
「世話になるの」
と云いながら“イサリビ”に乗りこんでくる。
引き渡し側には、カルタ・イシューやマクギリス、ガエリオと石動もいる。後者はノーマルスーツ姿、と云うことは、要請どおりにパイロットとして来てくれているのだ。
内心で胸を撫で下ろす。パイロットとしても優秀なかれらがいなくては、この後生きて火星に戻ることは難しいだろう。
蒔苗の乗りこみをユージンに任せ、ギャラルホルン組にそっと近づく。
「……頼みがあるんだが」
マクギリスに云うと、小さく首をかしげられた。
「多分、地球圏を出てすぐに、俺たちは“夜明けの地平線団”に襲撃されると思う。だから、できれば少し離れたところに待機していて欲しいんだ。あっちとドンパチやってる間に、多分新手がくる」
「新手?」
「あぁ。ミカから連絡があった――そいつを巧く捕まえられりゃ、ラスタル・エリオンの尻尾か掴めるかも知れねぇ。失敗すりゃ――俺たちが、宇宙の藻屑になるがな」
「“ミカ”――三日月・オーガスか。かれは、今どこに?」
「ラスタルの尻尾にくっついてるようだ。じきに戻ってくる。そん時に、あいつの居場所がなくなってるとかにはしたくねぇんだよ」
しかも、“三日月”の目の前でなど。
「それは、確実なことなのだな」
マクギリスの云ったのは、“三日月”のことか、“夜明けの地平線団”のことか、あるいはガラン・モッサのことなのか。
だが、どれのことでも同じだ。かれらは、奴らは、確実にくる。
ゆっくりと頷くと、マクギリスは目を細めて頷き返してきた。
「わかった、君の希望に添うようにしよう。――カルタも、待機が必要だな?」
「頼む。アリアンロッド艦隊は、ラスタル・エリオンは、確実に機会を窺って、嘴を突っこめると思えば介入してくるだろう。奴に手柄を取られて、これ以上力をつけさせたくない」
「同感だ。可能な限りのバックアップをしよう。会敵したなら、即信号を出してくれ」
「あぁ、頼んだ」
マクギリスは、唇の端をかすかにつり上げ、目尻に微笑を浮かべると、ガエリオたちに向き直り、今後の指示を飛ばしはじめたようだった。
そして、ほぼ入れ違いのように、チャドとクランク、アインが近づいてくる。
「オルガ――団長」
「チャド」
眉を下げてくるチャドの肩を、ぽんと叩く。
「任務完了だな。よくやってくれた。――戻って早々だが、次の仕事も頼んだぞ」
「俺がどうこうじゃなく、皆が頑張ったからだよ。――それはともかく、この後が正念場、だろ?」
「……あぁ」
「われわれは、グレイズで出るのだな?」
アインが問いかけてくる。
「頼む。正直、あんまり小さいのは出したくないが――今回は、そうも云ってられねぇ、元ブルワーズ組にも出てもらう」
「アストンは奮い起つだろうな」
クランクが、微苦笑した。
「あぁ……だが、それであんまり突出するようじゃあ困る。ま、アストンは大丈夫だろうがな」
むしろ心配なのは、元ブルワーズよりも年少組の方だ。場数を踏んでいない分、どうしたって頭に血が上りやすいし、何かあればひどく狼狽えることにもなるだろう。
「ミカの報告のとおりなら、敵は“夜明けの地平線団”とガラン・モッサの二手があることになる。ただでさえ、“夜明けの地平線団”はうちの五倍以上人員があるんだ。小隊長クラスを効率よく潰していかねぇと、互角以上の戦いにはできねぇぞ」
「蒔苗氏を守らねばならんからな。――こちらのMSは何機だ」
「純粋にうちのってんなら、十三機だ。バルバトスが動かせれば、十四機。それから、マクギリスのところがシュヴァルベグレイズが二機にガンダムキマリス、八機がグレイズリッターだ。地球外縁軌道統制統合艦隊からは、グレイズリッターが十機」
「三日月が帰還しても、MS三十五機か……相手の三分の一か、新手も加えれば四分の一かも知れんな」
クランクは、難しい顔で腕を組んだ。
「どうする、オルガ・イツカ。何か策はあるのか」
「あるもないも」
肩をすくめるしかない。
「とにかく大将首を狙ってくしかねぇ、ってとこだな。例のガラン・モッサは、ミカに任せるさ」
あっちもこっちもと云うわけにはいかない。狙いを絞って、神経を研ぎ澄ませて、なるべく大きな“的”を討ち取らなくては。
「あんたは、チビどものフォローを頼む。シノに引きずられて、突出しちまいかねねぇからな」
云うと、クランクは、“三日月”曰くの“仁王の顔”で、唇の端をつり上げた。
「任せろ。アーブラウ防衛軍で、そう云うのには慣れた」
どうやら、アーブラウ防衛軍の新米どもに、散々手こずらされたようだ。
まぁ、それに較べれば、うちの年少組など、様々な意味でかわいいものだろう。
ただ、下手に戦えるだけに、突出し過ぎた時には、にっちもさっちもいかなくなるのは、こちらの方と云うことになるのだろうが。
本部組の配置は、グレイズ=流星号にシノ、グシオンリベイクに昭弘で、この二人が攻守の要、ライドやダンジたちは元ブルワーズ組とともにランドマン・ロディ改でフォローにあたる、と云うのが望ましいフォーメーションだが――さて、思うとおりになるかどうか。
と思う間に、レーダーに引っかかってきたものがあった。方向は二時、艦影は十。
「来たぞ、“夜明けの地平線団”だ!」
ダンテが叫ぶ。
「“カガリビ”は、皆出られるか?」
問いかけると、
〈いつでも行けるぜ!〉
シノからの応答がある。
「よし、敵は“夜明けの地平線団”だ。雑魚には構うな! 隊長格を、確実に沈めてけよ!!」
〈〈〈「「「おう!!!」」」〉〉〉
応えが返った次の瞬間、最初の“花火”が撃ち出された。