【成り代わり】鉄血のナントカ【異世界転生?】 作:くずみ@ぼっち字書き。
“夜明けの地平線団”からのミサイルは、“イサリビ”近くのデブリに当たったようだった。
真空の中、それは無音で爆散し、船体を礫が激しく叩いた。
「蒔苗の爺には、誰がついてる!」
「タカキだ!」
いきなりの戦闘は予期していなかっただろう爺のことを訊ねると、チャドからそんな返答があった。
なるほど、やさしげなタカキは、向こうで蒔苗のお気に入りだったか。よくわかったチャドの差配に、胸を撫で下ろす。この戦闘の最中に、“話が違う”などと怒鳴りこまれては堪らない。
完全な艦隊間戦――しかし、こちらはたった二隻、“艦隊”とは呼べるまい――は初めてだが、まぁ敵は海賊、ルウム戦役ほど大掛かりではないだけまし、と云えるのかどうか。
「とにかくデカいMSだ! 雑魚は蹴散らせ!」
ユージンが、“イサリビ”を操りながら叫ぶ。
アニメじゃ砲撃のビームが宇宙空間を飛び交っていたが、ビーム砲はもちろん目視できるものじゃない。
威嚇するようなミサイル、MSが飛び回るが、それすらも豆粒のようなものだ。慣性とGで振り回される身体と、飛散した何かが船体を叩いて揺さぶるのが、体感できる戦闘らしさだった。
「“カガリビ”被弾!」
「程度は!」
「……応急でどうにかなると云ってる!」
「グラズヘイム1に通信は!」
「入れた!」
ダンテが応える。
「後方から、MSの機影! 味方機だ。数は二十一!」
レーダーを確認すれば、うち一機は確かにガンダムフレームだ。つまりキマリス、味方に間違いない。
が、
「後方八時方向から、さらに十五機! 識別コードなし!」
「砲撃――敵機に命中! 通信あり、味方すると云ってる!」
「――来たな」
――ガラン・モッサ。
急速に近づいてくるMSの一群。その中に、一機だけ、シルエットの異なるものがある。
多分、あれがゲイレール、ガラン・モッサの乗機だろう。
――味方なんか、するわけねぇだろ。
お前の“主”は、ラスタル・エリオンじゃないか。
その機影を睨みながら、声を張り上げる。
「気をつけろ、新手が来た! ファリド一佐たちの援軍到着まで、何としてでも踏み止まれ!」
〈〈〈「「「おう!!」」」〉〉〉
「ロディフレームのどれかに、ミカが乗ってる。ねぇとは思うが、誤爆は避けたい。尻尾を出すまでは、騙されたふりでもしとけよ!」
〈りょーかい!〉
ランドマン・ロディ改のライドが、明るく答える。本当に大丈夫か、ガラン・モッサは歴戦の猛者なのだが。
「ドック、バルバトスをいつでも出せるようにしといてくれ」
〈了解〉
ヤマギの声が響く。
見れば、アインのグレイズ、ライドとイーサンのランドマン・ロディ改が、ガラン・モッサたちの一群に近づいてゆく。
〈近すぎる。少し下がってくれ〉
アインが、そう呼びかけるが、ガラン・モッサたちは応えなかった。
――化けの皮剥がすのが、早過ぎねぇか?
そのまま突っこんでくる、偽装が雑過ぎやしないか。
〈ゾルタン〉
傍受された声。これがガラン・モッサの声か。アニメの記憶はすっかりないが、まぁまぁ好い男振りじゃないか。
だが、それで敵が味方になるわけじゃない。
ガラン・モッサは、動きの良いアイン機を潰しておくべきだと判断したようだ。
ロディフレームと、自らもMSを駆って、グレイズを追い回す。
〈アインさん!〉
と、ライドが叫び、ランドマン・ロディ改で突っこんでいく。
――無謀だ!
案の定、ゲイレールに蹴り飛ばされ、体勢が崩れたところを、シールドアックスに狙われる。
〈――三日月さんッ!〉
悲痛な声が、“三日月”を呼んだ。
次の瞬間、ロディフレームの一機が、ライフルの銃爪を引いた。
撃ち抜かれたスラスターのパーツが飛散する。
だが、狙撃されたのは、ライドのランドマン・ロディ改ではなかった。
ゲイレールがバランスを崩したところで、“敵”のロディフレームが、ライドのランドマン・ロディ改を引き剥がす。
シールドアックスが宙を斬った。
「――あれ……」
ビスケットが、呻くように云う。
「まさかあれ、三日月か!?」
ユージンの声は、皆の思いを代弁していた。
ライド機を背に庇い、ロディフレームがさらにライフルを撃つが、ガラン・モッサは回避。
だが、“味方”に狙撃された――しかも、初弾は命中――ことに、さしものガラン・モッサも動揺は隠せなかったようだ。
〈ゾルタン!?〉
狼狽える声。
それに応えて返されたのは、
〈『撃っちゃうんだなぁ、これがぁ!』〉
――その科白かよ!!
“ゾルタン・アッカネン”――その“迷言”そのままに。
ガラン・モッサとその隊を、ライフルが狙い撃つ。
味方だったはずの人間の“裏切り”に、先刻まで的確にこちらを追いつめつつあったMSたちが、浮足立つのがわかる。
ライドが、信じられない様子で問いかける。
〈ほ……ほんとうに三日月さん!?〉
〈ん。おれ〉
いつもの“三日月”の声。だが。
――……じゃねぇよ、ホント、馬鹿じゃねぇのか!!
まさかと思うが、先刻の科白を使うために、“ゾルタン・アッカネン”を名乗ったとか云うんじゃないだろうな!?
しかも、続けて、
〈『鉄華団よ、わたしは帰ってきた!!』〉
通信全開での叫び。
思い出した。
「ミカぁ!!!」
その科白も宇宙世紀だ――例の、ジャンニとか云うのに持たせていたID、そう、“アナベル・ガトー”の科白。
――ホント、馬鹿じゃねぇのか!!!
と、胸中で叫んだと思ったら、どうやら口から出ていたらしい。
ブリッジの中に、笑いが沸き起こった。
「もぉ〜、オルガってば!」
「素直になれよ!」
「嬉しいくせに〜!」
って、嬉しかない、いや、嬉しくなくはないが、手放しで喜ぶようなもんでもない。
「ふざけんな、帰ってきたんなら、きりきり働け!!」
〈……うぇへぇ〜〉
その返答に、また笑いが上がる。
戦闘中なのに、だが、いい調子だ。
圧されていた気分が変わる。“勝てる”と、根拠もないのに皆が感じはじめている。
この“風”を、掴み損ねてはならない。
「てめぇら!」
ここぞとばかりに声を張り上げる。
「鉄華団は揃った! 俺たちはやれる! そいつを、海賊どもに見せつけてやれ!!」
〈〈〈「「「おう!!!!!」」」〉〉〉
士気が上がっている。
それが、通信からも感じられる。
〈三日月ィィィッ、早く手伝いやがれ‼〉
〈……三日月、あとで、な〉
〈土産あるんだろうな、三日月ィ?〉
〈三日月さんおかえりなさい!!!!〉
あちこちから、“三日月”の帰還を喜ぶ声がする。
――いい感じだ。
数で劣るのは変わらない、それでも、桁違いの士気に、攻撃力が上がったようにすら感じる。
向こうでは、“三日月”機が、ゲイレールと戦っていた。
シールドアックスの斬撃を、ブーストハンマーが捌く。ライフルを使わせないためだろう、接近戦は、がっちりとしたゲイレールの方が有利だ。
アイン機が加勢を試みるが、手を出しかねているようだ。
〈それが本当のお前か〉
〈そ。“三日月・オーガス”。鉄華団遊撃隊長〉
ガラン・モッサの冷たいくらいの声と、“三日月”の応える声。
“三日月”に焦りは感じられないが、ロディフレームでは、いずれゲイレールにやられる――破損の程度はともかくとして――のは確実だった。
「――昭弘!」
“イサリビ”の防御をしている昭弘に、叫ぶ。
〈何だ〉
「ファリド一佐たちが来る。一旦外れて、バルバトスを持ち出してくれ」
〈三日月にか〉
「そうだ」
マクギリスが戦闘宙域に入っている。これで、“イサリビ”の方は、多少余裕ができるだろう。
今のうちにバルバトスを出して、可能ならば“三日月”が乗り換える。そうでなくとも、バルバトスには例のブレードが装備されているから、接近戦でそれが使えるなら、ロディフレームでもまだましな戦いができるのではないか。
〈了解〉
昭弘は云って、グシオンリベイクを旋回させた。
「ヤマギ!」
ドックに呼びかける。
〈団長、何か?〉
ヤマギの冷静な声が返る。
「ミカが帰ってきた。バルバトスを出す。整備は万全か?」
〈当然です。――三日月さんが、こっちに?〉
「いや、今は敵とやり合ってる。あれのブレードが使えるんじゃねぇかと思ってな。グシオンリベイクが持ってく。出せるな?」
〈了解。……もちろんですよ〉
かすかな笑みの気配を残して、ヤマギは通信を切った。
「よし! てめぇら、ミカがやり合ってる! ゲイレールだけに専念できるよう、他のロディフレームを撃ち落せ!」
〈〈〈おう!!〉〉〉
「ユージン、あの辺に、牽制のミサイルをぶちこめるか?」
「あぁん? 俺様を誰だと思ってんだ、よッ!!」
云いざま、ミサイルが発射される。ガラン・モッサ配下だろう、ロディフレームたちの真ん中に。
閃光、爆発。少なくとも一機は仕留められたようだ。
と、ガラン・モッサの声が聞こえた。
〈良い腕だ〉
不思議なくらいに、やさしげな響きだった。
ガラン・モッサのその声音に、“三日月”はどこまで相手の懐にもぐりこんでいたのだろうと思う。
弟子の成長を喜ぶ師のような、子の出来に目を細める父のような声。
裏切られてなお、こんな声が出せる、ガラン・モッサは確かに懐の深い男だったのだ。
ゲイレールとロディフレームは、未だ接近戦を繰り広げている。
シールドアックスの斬撃を、ロディフレームのブーストハンマーが受け止める――否、受け止め切れず、先端のスラスターが破損した。
「危ない!!」
ビスケットの声。
だが、二機はなおも戦い続ける。
ほとんど肉弾戦のような斬りつけ合い。
だが、出力差は覆せず、シールドアックスがロディフレームの肩に食いこむ。
ロディフレームはブーストハンマーを投げ捨て、武器を、シールドから展開したアックスに持ち替えた。
そのまま、ゲイレールの頭部へ振り下ろす――かすめただけに見えたが、センサーでも破壊したのか。ゲイレールの動きが一瞬止まったように見えた。
が、やはり大したダメージにはならなかったようだ。
と、笑い声が響く――くつくつと、大笑ではない、聞きようによっては、愉快そうにも聞こえる笑いだった。
だが、もちろん愉快であろうはずはない。
〈……残念だ〉
と云った声は、ひどく静かだった。
ガラン・モッサの表情が、ありありと脳裏に浮かぶ。きっと、笑いも怒りも何もない、すべてが削ぎ落とされた顔をしているんだろう――そう、何かを、例えば己の死を、決意したものが浮かべるような。
まだ負けたわけではないだろうに――だが、ガラン・モッサの手のものたちと、鉄華団とを較べれば、士気の高さと頭数で、こちらが勝っているのは明白だった。
それ故の覚悟なのか。
と、
〈……自爆コードなら変更済だよ〉
“三日月”の声が、静かに云った。
〈――馬鹿な、どうやって!?〉
〈阿頼耶識はシステムに介入できる――しようと思えば、ムーブやコードの書き換えも〉
なるほど、そう云えば以前、そんなことを云っていたような気がする。こちらは阿頼耶識がほぼ使えないので、軽く聞き流していたが――バルバトスに新しいムーブを教えこんだように、ロディフレームのシステムを書き換えたと云うことか。
〈ありえない!〉
ガラン・モッサは、激しく叫び、多分何かを操作したのだろう。
だが、“三日月”の干渉によって、ガラン・モッサのコマンドは果たされず。
〈クソガキめが!〉
吐き捨てると、再び戦闘に入ろうとした。
〈三日月!!〉
そこに響く、昭弘の声。
〈バルバトスだ! 乗り換えられるか!?〉
〈待ってた〉
“三日月”の声とともに、ロディフレームがゲイレールに取りついて、その四肢で拘束する。
〈〈――ッ!?〉〉
これは本当に、MSによる肉弾戦、と云うか格闘技だな。見たことはないが、Gガンダムを思い出す。あれは、格闘系ガンダムとか云われていた気がするが。
〈何やってんだ三日月⁉〉
昭弘の声に答えるように、ロディフレームのハッチが開いた。
〈コレよろしく。中身はおれのだから、絶対に誰にも渡さないで。爆発物がある。解除方法はおれのコックピットから見て〉
と云って、どうやらバルバトスに乗りこめたようだ。
〈『三日月、行きまーす‼』〉
なんてふざけた科白とともに、バルバトスのスラスターが点火される。
「ミカ!!」
思わず怒鳴るが、笑い声が返ってきただけだった。
本当に帰ってきたのだな、と改めて感じていると、
「オルガ!」
チャドが叫ぶ。
「何だ!」
「戦線がのび過ぎてる! シノとダンジが突出し過ぎてるんだ!」
「……あいつら!」
腕に自信のあるシノはともかくとして、ダンジはシノに引きずられて突出してしまったのだろう。
「ミカ!!」
〈……なに〉
「シノとダンジが突出してる。シノはともかく、ダンジがヤバい。――いけるか」
〈りょーかい〉
と云ったかと思うと、ひょいとシノたちのいる宙域まで飛翔する。
そして、
〈喰らえ旋風脚!〉
などと云いながら、ガルム・ロディを回し蹴りで蹴り飛ばす。それに巻きこまれて、さらに何機かが飛んでいった。
〈おせーんだよ三日月!〉
〈なんすか三日月さんその技⁉〉
シノとダンジが叫んでいる――お前ら、ちょっとは反省しろ。
〈間に合ったんだ。文句言うな――って、ダンジ、実は余裕?〉
〈んなわけないッス!〉
〈ダンジ、イチニのサンで、全力で後方へ戻れ。あとはおれたちで止める。な、シノ?〉
いい判断だ。ダンジの錬度では、この先の敵はキツいだろう。戻して、“イサリビ”や“カガリビ”の防衛に当たらせた方が、本人のためでもある。
〈おう。タイミング間違えんなよダンジ!〉
〈はい‼〉
〈イチニ〜の、サン!!!〉
メイスソードをバットのように構えて、ガルム・ロディにフルスイングした。
〈ホームラン‼〉
確かにジャストミートだが。
〈何だかわかんねぇけどヒデェ‼!〉
いやもう。
「……正気か」
どうも、大概ハイになっているようだ。悪ふざけにもほどがある。
そのノリでか、“三日月”は、全方位に叫んだ。
〈夜明けの地平線団のヒューマンデブリたちに告ぐ!〉
回線全開だ。きっと、アリアンロッド艦隊にだって響いただろう。
〈今すぐ戦闘を止めろ! お前たちはもうすぐ開放される。おれが、サンドバックなんたらをヤるからだ‼〉
「“サンドバル・ロイター”だ‼」
“夜明けの地平線団”の首領の名を、思いっきり間違えている。
何だ、その間違い! サンドバル・ロイターをサンドバッグにしたいのか。その気持ちはわからぬでもないが。
しかし、“三日月”は悪びれなかった。
〈悪党の名前なんてどうだっていいでしょ――取り敢えず、ソイツをヤるから、これ以上の戦闘は無駄だよ。だから選べ〉
云いざま、突っこんできたガルム・ロディの頭部を、メイスソードで叩き潰す。
〈クズ野郎に縛られたまま死ぬか、生きて抗うか、二つに一つだ。水無月・オリエは選んだ。ヤツは抗って死んだけど、おれをここに呼んだ〉
さらに、襲いかかるMSを潰していく。
〈ジャンニ、居るんだろ? お前からも言ってやれ‼〉
「……団長!」
チャドが、こちらを振り返る。
ジャンニと云うのは、例の“ラジオ”を持ってきた男だ。
「……あいつを、ブリッジに」
云うと、チャドは頷き、ややしばらくして、背の高い男を連れて戻ってきた。
「――お前が、元“夜明けの地平線団”のジャンニか」
男は、少しきょろきょろとしていたが、声をかけると、しっかりとこちらを見据えてきた。
「そうだ。あんたは」
「俺は鉄華団団長、オルガ・イツカだ。ミカが世話になったな」
「あんたが……」
男は目を見開き、やがて、唇の端を歪めるように笑った。
「あんたが、あいつの本当の主人なのか」
その云い方は、元ヒューマンデブリらしいな、と思った。
「主人なんぞじゃねぇよ。ま、紐をつけてんのは確かだがな」
「――ガラン・モッサにも絆されなかったのは、あんたがいたからか」
「あいつに首輪をつけられんのは、そういねぇさ。――それよりも、お前に頼みがある。“夜明けの地平線団”のヒューマンデブリたちに、お前から呼びかけてくれ」
云うと、今度こそ驚いた顔になった。
「あんたは、本当にヒューマンデブリを解放できると思っているのか?」
苦笑がこぼれる。おいおい、鉄華団にそれを頼みに来たんじゃなかったのか。
「この戦いで、俺たちが勝てればな。そのためにも、お前が向こうの連中に呼びかける必要があるんだ」
さぁ、と云って、ジャンニの背を押す。
「お前の仲間たちに呼びかけてくれ。お前の言葉が、俺たちに勝機をもたらし、お前の仲間たちに解放のチャンスを与えるんだ」
男は、ちらりとこちらを見、やがて決意したように、大きく息を吸いこんだ。
「皆、俺だ、ジャンニだ」
ゆっくりと話し出す。
「水無月が云ってたように、鉄華団を連れてきた。だが、それだけで俺たちが解放されるわけじゃない。解放されるためには、俺たち自身が立ち上がらなきゃならない」
モニターの中を睨みつける。その目が見据えるのは、“夜明けの地平線団”のヒューマンデブリたちか、あるいはサンドバル・ロイターか。
「今こそ解放の時だ! 武器を取って立ち上がれ! そして、“夜明けの地平線団”をぶっ壊せ!!」
その言葉に対して、応える声が上がったわけではなかった。
だが、戦闘宙域のMSの一部が動きを鈍らせ、あるいは戦闘そのものを止めたものすらあった。
「……よし!」
狼狽えたように見えるMSの動きに、拳を握る。
あとは、こちらが大将首を獲るだけだ。
「今だ! 一気にやれ! 無抵抗のヤツには構うな、敵はサンドバル・ロイター!!」
〈〈〈「「「おう!!」」」〉〉〉
花のロゴの入ったMSたちが、宇宙を一気に駆け抜ける。
その様を見ていた男が、こちらを振り返った。
「なぁ、頼みがある。俺を、MSで出してくれないか」
「あー……」
「敵のヒューマンデブリだった奴は、信用できないか?」
「いや……」
そう云う話ではない。
「すまねぇが、今、うちのMSは全部出払っててな。お前を乗せてやれるマシンがねぇんだ」
「……は?」
「うちは弱小でな。悪いが、ここで戦況を見てもらうしかできねぇんだ」
うちは海賊じゃなくて、警備会社なんだよ、と云うと、ジャンニは呆気にとられた顔になった。
「まぁ、坐って待っとけって。警備会社だが、皆、MSの腕はなかなかのもんだからよ!」
ユージンが云う。
ビスケットも頷いて、
「そうそう。三日月の腕を信じてよ」
「まぁ、あの頓狂なのはどうかと思うけどね」
とチャド。
ジャンニは、当惑った様子だったが、それでもゆるゆると頷いて、ビスケットの引き出した補助シートに腰を落ち着けた。
ややあって、
〈……オルガ〉
昭弘から通信が入った。
「おう」
〈三日月の手土産だ。――爆発物がある。“イサリビ”に仕掛けるつもりだったと、三日月が云っていた〉
「ほぅ。そいつは、“夜明けの地平線団”にでも使ってやれ」
〈了解。MSはドックに入れるぞ〉
「わかった。すぐに向かう。――ユージン」
「おう」
「捕虜の尋問に行ってくる。何かあったら、頼んだ」
「任せろ」
拳が上がるのに合わせてやって、ブリッジを出る。
ノーマルスーツに身を包んでドックに辿りつくと、昭弘がゲイレールのコクピットから、捕虜を引き出しているところだった。
〈――オルガ〉
こちらに気がついた昭弘が云う。
「おう」
〈捕虜は拘束した。武器も取り上げてある〉
「そうか。そいつは引き取る。お前は、戻って、ミカやシノに加勢してやってくれ」
〈おう〉
後ろ手に拘束された捕虜をこちらによこすと、昭弘は再びグシオンリベイクのコクピットに戻り、星闇の中に滑り出て行った。
捕虜を連れて行こうとすると、いつの間にやら、チャドが一緒についてきた。
「ブリッジはいいのか?」
〈団長を、一人で捕虜と接見させるわけにはいかないだろ〉
後で三日月に睨まれる、などと云う。
“三日月”の名に、捕虜の眉がぴくりと動いたが、それ以上の反応はなく、おとなしく連行されている。
“三日月”のように、下着一枚で留置、と云うわけにはいくまいが、さてどうしたものかと思いながら、とりあえずは艦長室へ。あまり使っていないので、仮にガラン・モッサが暴れたとしても、武器になるようなものもない、と云う理由からの措置だ。
ガラン・モッサを来客用の椅子に坐らせると、チャドが入口の傍に立つ。敢えて武器を手にしないのは、万が一の時に奪われないためだろう。
「……さて」
どんな話をしたものだか。
「ガラン・モッサ、だな? 初めてお目にかかる。鉄華団団長、オルガ・イツカだ。うちのミカが、世話になったな」
「ガラン・モッサだ。……なるほど、“鉄華団の悪魔”と云うのがいるとは聞いていたが――あのゾルタンが、そうだったとはな」
ブラウンの髭熊だ。目尻の下がった顔は、整えればギャラルホルンの士官と云っても信じられるだろう。恰幅も良く、あの青い制服姿がさぞや映えるだろう。実際、この男は、ラスタル・エリオンと士官学校の同期だったか。
「小さいから、そうは見えないだろう?」
本人曰く“小悪魔(♡)”だそうだが。
「油断した。“水無月・オリエ”だと思っていたが、似た名前でも、鉄華団だったとは」
「あいつは頓狂だからな」
それに、鉄華団はまだまだ小さい。名前は知れても、顔までは世間に流布してはいないに違いない。
「ミカは、あんたを自分のものだとか云ったようだが、当然そう云うわけにはいかない、のはわかってるな?」
云うと、ガラン・モッサは、片頬を歪ませた。
「捕虜の命運など、知れたものだ」
「……あんたは、どうなると思ってるんだ」
「ギャラルホルンに引き渡すのだろう? 今なら、地球外縁軌道統制統合艦隊も来ているしな」
「カルタ・イシューやマクギリス・ファリドには渡さない」
そう答えると、ガラン・モッサは目を見開いた。
「何を考えている。この場合、ギャラルホルンに引き渡すのが常道ではないか」
「あんたをギャラルホルンに引き渡したとして、まともな取り調べがされるとは思われねぇんだが」
そう云ってやると、相手はぐっと黙りこんだ。
「多分、横槍が入って、あんたの身柄はアリアンロッド艦隊に引き渡され、しばらく経って俺たちが問い合わせると、あんたは事故で死んだとか云われるんだろうな」
「……お前は、自分が何を云っているのか、わかっているのか」
「あぁ、もちろんだ」
つまり、ガラン・モッサがアリアンロッド艦隊の、もっと云えばラスタル・エリオンの手のもので、引き渡せば、あれやこれやあって、最終的には死んだことにされておしまい、と云っているのだ。
あるいはマクギリスに引き渡せば、まぁ普通に“尋問”――多分拷問まがいの――を受け、そのうち独房で、この男の自殺体が見つかる、と云う寸法なのだろうと思う。そちらはまぁ、あまり後味の良い話ではない。
「まぁ、ギャラルホルンに引き渡さないわけじゃねぇよ。単に、ラスタル・エリオンに引き渡さす、ってだけのことだ」
「……何故」
「何故? あんたこそが、よくよくわかってると思うがな」
肩をすくめてやる。
「云わなきゃわからねぇほど愚鈍じゃねぇだろ。あんたを引き渡すのは、メッセンジャー代わりでもあるんだ。ミカが、全部掴んでるんだよ。あいつが持ってたラジオ、憶えてるか?」
ガラン・モッサは、今度こそ驚愕をあらわにした。
とは云え、声を上げたわけではない。ただ、目を見開いて、こちらを凝視しただけだ。
だが、それだけの表情が、何よりも雄弁に、男の胸中を物語っていた。
「あんたのやってたことと、あんたのバックにいたのが誰かってこと、知れたらものすごくヤバいよなぁ? その証拠を俺たちが握ってるんだって、あんたの後ろについてる奴に伝えて欲しいんだよ」
「厭だ、と云ったら……」
「この状態で、選択肢があると思うのか?」
沈黙。
「……あんたが、ラスタル・エリオンとごく親しいってのは知っている。本名は知らないが――どうせ、いいとこの出なんだろ」
少なくとも、鉄華団の連中に較べれば。
「もちろん、あんたの過去はもう葬られてるだろうから、そこを突っこむことはできないだろう。だが、少なくとも今回の件については、あんたとラスタルの間のやり取りなんかが、こちらの手の中にあるんだ。これが公になれば、さしものラスタル・エリオンも無傷じゃいられないだろ」
「……お前は、何が望みだ」
ガラン・モッサは、軋る歯の間から、それだけを絞り出した。
「簡単だ、ラスタル・エリオンが“火遊び”を止めること」
足を組み、椅子の背に反り返るようにして、指先を合わせる。我ながら、悪役のようだと思う。
「自作自演で“暴動”を起こさせたり、燻る火種を育てて火事にするのを止めろ、ってことだ。ギャラルホルンの必要性を、過剰に演出するなってことだ、簡単だろ」
ラスタル・エリオンにとってはわからないが。
「……俺などが云って、聞き入れられると思うのか」
往生際悪く、男は云う。
「聞くだろ、親友の言葉なら」
云ってやれば、ガラン・モッサは、今度こそがくりと肩を落とした。
「“鉄華団の悪魔”ってのは、本当はお前のことではないのか」
――失礼な。
片目を眇めて、男を見やる。
「俺は、別に悪魔じゃない。俺は、俺の希望を云ってるだけだ」
「他の選択肢を選べない状態でな。そう云うのをするのが、悪魔と云う奴じゃないか」
「そうだったかな」
聖書の悪魔なら、“楽園の蛇”も含めて、単なる“誘惑者”でしかなかったはずだが。
「だがまぁ、俺は間違いなく人間だよ。世の中に、人間より恐ろしいものなんてないんだぜ」
楽園追放も、きっかけは蛇でも、踏み出したのはアダムとイヴだった。蛇が引きずりこんだわけじゃない、ふたりが自ら堕ちていったのだ。
そしてそれから、人間の犯してきた罪の数々は、筆舌に尽くしがたいほどだ。元のアレで云えば、第二次世界大戦然り、この世界で云えば、三百年前の厄祭戦然り。
「それなら、お前はこの上なく人間的だと云うことだな」
「そこは否定できねぇな」
聖人君子でないことだけは確かだから。いや、ドイツの心理学者、エルンスト・クレッチマーの云うようによれば、君主的人間とは、仏革命の立役者、ロベスピエールのような人間だそうだから、“君主”である可能性はゼロではないか。
ともあれ、
「ラスタル・エリオンに連絡する」
「どうするつもりだ」
「お前を引き取って戴くのさ」
そうして、ついでに釘を刺す。
「あんたは、ラスタル・エリオン直通の回線を知ってるんだろう?」
そう云うと、男は、諦めたように溜息をつき、コードをすらすらと諳んじた。
その回線を繋ぐと、
〈……誰だ〉
壮年の男の声が返ってきた。画像はない。
下っ端ではない声の響き、これがラスタル・エリオンか。
「鉄華団団長、オルガ・イツカ」
短く答えると、ややしばらくの沈黙があった。
〈……それは、今“夜明けの地平線団”に襲撃されていると云う警備会社のことか〉
「確かに、“夜明けの地平線団”とはやり合ってる。但し、もうじきカタがつくがな。地球外縁軌道統制統合艦隊の応援もある、アリアンロッド艦隊には退いて戴きましょうか」
云うと、鼻先で笑う気配があった。
〈このあたりは、われわれの管轄ではないが、地球外縁軌道統制統合艦隊の管轄でもないはずだ。出てきてやったものを、お前が追い返すと?〉
「もちろん、ただでとは云いませんよ」
〈どう云うことだ〉
「あんたの旧友を捕虜にしている。それをお引渡ししよう」
〈……何の話かな〉
空とぼけるが、やや間があき過ぎた。動揺しているとわかるほどに。
「ガラン・モッサと名乗る、髭クマだよ。あんたとの通信記録も、こちらでは押さえてる。この捕虜を引き渡してやるから、あんたは月に帰れ」
〈そんな男は知らんよ〉
なるほど、その時々の偽名を、ガラン・モッサはラスタルに告げてはいなかったと云うことか。
互いの保身のためとは云え、これはなかなか徹底している。
「ここで、画像通信にしてくれりゃ、俺の云う“ガラン・モッサ”が誰なのか、あんたにもわかるだろうぜ」
名前は変えても、声と顔は変えていないはずだ。IDさえ変えてしまえば、他人になりすますことが可能なのは、宇宙世紀の昔から立証済――まぁしかし、“クワトロ・バジーナ”が本当は誰であるのかなど、かつての味方、そして敵にもバレバレだったわけだが――なので、本人であると云う証拠として、身体的特徴を残しておいた、と云うのは、わからぬではなかったが。
それでも、ラスタルは動揺を見せなかった。
――そうかい。
だがまぁ、
「あんたは空とぼけても、あんたんとこのあのお嬢ちゃんは違うだろ」
そう云うと、はじめて向こうの気配に動揺が出た。
〈何を……〉
「ジュリエッタ・ジュリスだったか、この男が拾って、あんたの傍につけたんだよな? 確か、あのお嬢ちゃんは、この男に恩義を感じてたはずだ。この男が、俺の手許にあると知ったら、あのお嬢ちゃんはどうするかな?」
我ながら悪役じみた言動だが、相手の譲歩を引き出すには、これくらいの揺さぶりは必要だ。
――これは、“悪魔”と云われても仕方ないか。
しかしこれは、子どもだと思って舐めてかかってきた、この男たちが悪いのだ。恨むなら、己のリサーチ不足を恨むがいい。
まぁ実際、ジュリエッタ・ジュリスは、ガラン・モッサがこちらにいるとわかれば、ラスタルの指示も無視して突っこんでくる可能性はあった。ことこの男やラスタルに関しては、例のイオク・クジャンを嗤うことはできないだろう。
「さぁ、どうする? この男を回収して、おとなしく引き下がるか――あるいは、このまま割りこんできて、監査局のファリド一佐にこの男とデータを引き渡されて、セブンスターズの中でつるし上げを食うか」
いくらラスタル・エリオンがアリアンロッド艦隊の司令で、現在のセブンスターズ内で一、二を争う実力の主だとしても、否、だからこそ、そのやり方に異を唱えたがるものはあるだろう。まぁ、例えそのやり口が真っ当なものだったとしても、ケチをつけるものはあるのだろうが。つまり、ある種の権威になるとは、そう云うことなのだ。
ややしばらくの沈黙の後、ラスタル・エリオンは口を開いた。
〈……回収すると云って、どうするつもりだ〉
よし、折れてきた。
「あんたがその気なら、この男をコンテナにでも詰めて、うちのMSで途中まで運ばせよう。そこで、あんたの方のMSに引き渡す。……そうだな、それこそ、例のお嬢ちゃんがいいんじゃないのか。それなら、あんたの方も、秘密裡にやれるだろう?」
〈……お前は、本当に悪魔のようだな〉
ラスタルは、旧友と同じようなことを口にした。
「そりゃどーも。――それで? 結局あんたは、こっちの案を容れるのか、突っ撥ねるのか」
〈……受け容れよう〉
遂に、ラスタルは云った。諦念を強く滲ませた声だった。
〈誤算だったな、まさか、二十歳にもならない子どもが、これほどまでとは〉
それはそうだ。
実際には、確かに未成年とは云い難い、と云うか、下手をしたら、この二人と歳が変わらないくらいなのかも知れないのだから。
「悪いな、その辺のガキどもと違って、人生経験が豊富でね」
ここでの年齢の、倍以上に。
〈今でそれなら、末恐ろしいことだ〉
そうだろうとも。
「アリアンロッド艦隊と、こちらのちょうど中間点でいいな? こちらはガンダムフレームを出す。妙な真似しやがったら、容赦なく撃つぞ」
〈心しよう〉
「それじゃあ、これからすぐに出す」
〈こちらもだ〉
そうして、通信は切れた。
「……本当に、末恐ろしいな」
一言も口をきかなかったガラン・モッサは、大きく息を吐き出して、そう云った。
「ガキどもだけで、世間を渡っていかなきゃならねぇんだ、用心には用心を重ねねぇとな」
と肩をすくめるが、ガラン・モッサはともかく、チャドは苦笑するばかりだった。
それをじろりと見て――しかし、それこそ肩をすくめられただけだった――、昭弘に連絡を入れる。
「昭弘、そっちはどうだ」
呼びかけると、すぐに返答があった。
〈三日月とシノ、アストンが、サンドバル・ロイターを狩りにいっている。こちらは、ファリド一佐の加勢もあって、問題ない。――何かあるのか?〉
「捕虜の引き渡しを、お前に頼みたいんだが」
〈……それは〉
少しばかりの間。
〈三日月が後で何て云うか――あいつは、自分のものだから手を出すな、って云ってたぞ〉
「背に腹は代えられねぇんだ、あいつの我儘につき合えるか」
それに、長く留め置いても、徒に鉄華団の内部を分断させるばかりなのは明白なことだ。それくらいのことができるからこそ、原作では、簡単に地球支部の内部に食いこむことができたのだし。
〈――三日月に何か云われたら、お前の差配だと云うぞ〉
「構わねぇよ」
怖いのはむしろ、マクギリスが後で知った時の方だ。
マクギリスはきっと、ラスタル・エリオンを失脚させる手段として、ガラン・モッサを欲するだろうが――今、ラスタルを失脚させては、マクギリスが“上”にのぼり詰めるのにプラスにはならない。
ラスタルを失脚させるにしても、もっと相応しいところ――それこそ、ギャラルホルン改革の途中で、旧態依然たる老人の象徴としてでも切り捨てなくては、逆にマクギリスの陰謀を疑われるだけだ。物事には、順序があるのだ。
「……本当に、俺を引き渡すのだな」
「二言はねぇよ」
ここできちんと果たしておかなくては、今後にも差し障る。
「ま、あんたからも、あんまり無茶苦茶やるなって云ってやってくれ。ドルトのアレなんぞは、やり過ぎだろう」
そう云ってやると、ガラン・モッサは、やや神妙な顔で頷いた。
「それは知らんが、伝えてはおく」
「……なるほど、地球では、そう云う情報を仕入れたりはしなかったのか」
まぁ、傭兵隊を率いてあちこち転戦していたのなら、圏外圏の情報に疎くなるか。
否定はしなかったのを、勝手に了承と取って、立ち上がる。
「それじゃあ、来てもらおうか」
促すと、案外素直についてくる。
「コンテナとか云っていたが、本気か」
「本気って云うか、まぁ毎度のことだな」
大リスの時もそうだったのだし。
「縞パン一丁で放り出さないだけ、マシな方だと思うがな」
「待て、お前たちの捕虜の扱いは、一体どうなっている」
「相手は選んでる」
クランクやアインは、ごくまともな扱いだった。
「コンテナなのは、MSでやり取りするからだ。別に、ノーマルスーツを剥ぎ取って入れるわけじゃねぇ」
「ノーマルスーツ?」
おや、この云い方は、やはり通じないのか。
「あー……気密服、って云やぁいいのか。まぁとにかく、真空で爆散させるつもりはねぇから安心しろ」
「……何を安心すればいいのかわからんな」
そう云う頭に、ヘルメットを被せてやる。
「まぁ、昭弘は、ミカより扱いは丁寧なはずだぞ。無意味にコンテナを揺さぶったりもしねぇしな」
「俺の見ていた“ゾルタン・アッカネン”は、とことん作りものだったと云うことか」
苦笑。
「あんたの見たあいつがどんなんだったかは知らねぇが、俺たちの知ってるのとは別だってのは、確かだな」
バイザーを下ろして、減圧室から格納庫へ出る。
そこには、整備員の姿はなく、古いコンテナだけが置かれていた。チャドが、整備員を下げてくれたのだろう。
感謝しながら、ガラン・モッサをコンテナの中に入れる。
「――次に会う時は、少なくとも敵じゃないことを祈るぜ」
〈まったくだ〉
コンテナの蓋を閉じる。
「昭弘!」
〈おう〉
「“積荷”はいける。お前はどうだ!」
〈こっちもいける。……こいつを、アリアンロッド艦隊のMSに渡せばいいんだな?〉
グシオンリベイクの手が、コンテナを掴み上げる。
「そうだ。座標は入っているな? くれぐれも、ファリド一佐には見つかるなよ」
〈気をつけよう〉
そう云うや、グシオンリベイクは、宇宙へと飛び出していった。
ノーマルスーツを脱ぎ捨て、ブリッジに戻る。
「戦況はどうだ」
ユージンに問うと、
「おう、いいカンジだぜ。今、三日月がサンドバル・ロイターを獲った」
「シノとアストンも、相手のエース級のを獲ったみたいだよ」
ビスケットが添えてくる。
「ほぅ、やってくれたな。――向こうのヒューマンデブリはどうなってる?」
「流石に艦内のことまではわからないけど、MSに限って云えば、戦闘を止めてるみたいだね。うちも、負傷者は結構出てるけど、今のところ死者はなし。上々じゃない?」
まったくもってそのとおりだ。
「それじゃあ、向こうに降伏勧告をするか」
それで終わらなければ、MSで船をぶっ壊すことになるが。
敵のMSが逃亡を計りつつあるのを目におさめながら、レーダー画面を確認すると、アリアンロッド艦隊が、ゆっくりとこの宙域を離れていくのが確認できた。
やがて、“夜明けの地平線団”の艦艇から、停戦信号が打ち上げられた。
戦闘は、事実上終結したのだ。