【成り代わり】鉄血のナントカ【異世界転生?】   作:くずみ@ぼっち字書き。

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【成り代わり】鉄血のナントカ 14【異世界転生?】

 

 

 

 “夜明けの地平線団”からのミサイルは、“イサリビ”近くのデブリに当たったようだった。

 真空の中、それは無音で爆散し、船体を礫が激しく叩いた。

「蒔苗の爺には、誰がついてる!」

「タカキだ!」

 いきなりの戦闘は予期していなかっただろう爺のことを訊ねると、チャドからそんな返答があった。

 なるほど、やさしげなタカキは、向こうで蒔苗のお気に入りだったか。よくわかったチャドの差配に、胸を撫で下ろす。この戦闘の最中に、“話が違う”などと怒鳴りこまれては堪らない。

 完全な艦隊間戦――しかし、こちらはたった二隻、“艦隊”とは呼べるまい――は初めてだが、まぁ敵は海賊、ルウム戦役ほど大掛かりではないだけまし、と云えるのかどうか。

「とにかくデカいMSだ! 雑魚は蹴散らせ!」

 ユージンが、“イサリビ”を操りながら叫ぶ。

 アニメじゃ砲撃のビームが宇宙空間を飛び交っていたが、ビーム砲はもちろん目視できるものじゃない。

 威嚇するようなミサイル、MSが飛び回るが、それすらも豆粒のようなものだ。慣性とGで振り回される身体と、飛散した何かが船体を叩いて揺さぶるのが、体感できる戦闘らしさだった。

「“カガリビ”被弾!」

「程度は!」

「……応急でどうにかなると云ってる!」

「グラズヘイム1に通信は!」

「入れた!」

 ダンテが応える。

「後方から、MSの機影! 味方機だ。数は二十一!」

 レーダーを確認すれば、うち一機は確かにガンダムフレームだ。つまりキマリス、味方に間違いない。

 が、

「後方八時方向から、さらに十五機! 識別コードなし!」

「砲撃――敵機に命中! 通信あり、味方すると云ってる!」

「――来たな」

 ――ガラン・モッサ。

 急速に近づいてくるMSの一群。その中に、一機だけ、シルエットの異なるものがある。

 多分、あれがゲイレール、ガラン・モッサの乗機だろう。

 ――味方なんか、するわけねぇだろ。

 お前の“主”は、ラスタル・エリオンじゃないか。

 その機影を睨みながら、声を張り上げる。

「気をつけろ、新手が来た! ファリド一佐たちの援軍到着まで、何としてでも踏み止まれ!」

〈〈〈「「「おう!!」」」〉〉〉

「ロディフレームのどれかに、ミカが乗ってる。ねぇとは思うが、誤爆は避けたい。尻尾を出すまでは、騙されたふりでもしとけよ!」

〈りょーかい!〉

 ランドマン・ロディ改のライドが、明るく答える。本当に大丈夫か、ガラン・モッサは歴戦の猛者なのだが。

「ドック、バルバトスをいつでも出せるようにしといてくれ」

〈了解〉

 ヤマギの声が響く。

 見れば、アインのグレイズ、ライドとイーサンのランドマン・ロディ改が、ガラン・モッサたちの一群に近づいてゆく。

〈近すぎる。少し下がってくれ〉

 アインが、そう呼びかけるが、ガラン・モッサたちは応えなかった。

 ――化けの皮剥がすのが、早過ぎねぇか?

 そのまま突っこんでくる、偽装が雑過ぎやしないか。

〈ゾルタン〉

 傍受された声。これがガラン・モッサの声か。アニメの記憶はすっかりないが、まぁまぁ好い男振りじゃないか。

 だが、それで敵が味方になるわけじゃない。

 ガラン・モッサは、動きの良いアイン機を潰しておくべきだと判断したようだ。

 ロディフレームと、自らもMSを駆って、グレイズを追い回す。

〈アインさん!〉

 と、ライドが叫び、ランドマン・ロディ改で突っこんでいく。

 ――無謀だ!

 案の定、ゲイレールに蹴り飛ばされ、体勢が崩れたところを、シールドアックスに狙われる。

〈――三日月さんッ!〉

 悲痛な声が、“三日月”を呼んだ。

 次の瞬間、ロディフレームの一機が、ライフルの銃爪を引いた。

 撃ち抜かれたスラスターのパーツが飛散する。

 だが、狙撃されたのは、ライドのランドマン・ロディ改ではなかった。

 ゲイレールがバランスを崩したところで、“敵”のロディフレームが、ライドのランドマン・ロディ改を引き剥がす。

 シールドアックスが宙を斬った。

「――あれ……」

 ビスケットが、呻くように云う。

「まさかあれ、三日月か!?」

 ユージンの声は、皆の思いを代弁していた。

 ライド機を背に庇い、ロディフレームがさらにライフルを撃つが、ガラン・モッサは回避。

 だが、“味方”に狙撃された――しかも、初弾は命中――ことに、さしものガラン・モッサも動揺は隠せなかったようだ。

〈ゾルタン!?〉

 狼狽える声。

 それに応えて返されたのは、

〈『撃っちゃうんだなぁ、これがぁ!』〉

 ――その科白かよ!!

 “ゾルタン・アッカネン”――その“迷言”そのままに。

 ガラン・モッサとその隊を、ライフルが狙い撃つ。

 味方だったはずの人間の“裏切り”に、先刻まで的確にこちらを追いつめつつあったMSたちが、浮足立つのがわかる。

 ライドが、信じられない様子で問いかける。

〈ほ……ほんとうに三日月さん!?〉

〈ん。おれ〉

 いつもの“三日月”の声。だが。

 ――……じゃねぇよ、ホント、馬鹿じゃねぇのか!!

 まさかと思うが、先刻の科白を使うために、“ゾルタン・アッカネン”を名乗ったとか云うんじゃないだろうな!?

 しかも、続けて、

〈『鉄華団よ、わたしは帰ってきた!!』〉

 通信全開での叫び。

 思い出した。

「ミカぁ!!!」

 その科白も宇宙世紀だ――例の、ジャンニとか云うのに持たせていたID、そう、“アナベル・ガトー”の科白。

 ――ホント、馬鹿じゃねぇのか!!!

 と、胸中で叫んだと思ったら、どうやら口から出ていたらしい。

 ブリッジの中に、笑いが沸き起こった。

「もぉ〜、オルガってば!」

「素直になれよ!」

「嬉しいくせに〜!」

 って、嬉しかない、いや、嬉しくなくはないが、手放しで喜ぶようなもんでもない。

「ふざけんな、帰ってきたんなら、きりきり働け!!」

〈……うぇへぇ〜〉

 その返答に、また笑いが上がる。

 戦闘中なのに、だが、いい調子だ。

 圧されていた気分が変わる。“勝てる”と、根拠もないのに皆が感じはじめている。

 この“風”を、掴み損ねてはならない。

「てめぇら!」

 ここぞとばかりに声を張り上げる。

「鉄華団は揃った! 俺たちはやれる! そいつを、海賊どもに見せつけてやれ!!」

〈〈〈「「「おう!!!!!」」」〉〉〉

 士気が上がっている。

 それが、通信からも感じられる。

〈三日月ィィィッ、早く手伝いやがれ‼〉

〈……三日月、あとで、な〉

〈土産あるんだろうな、三日月ィ?〉

〈三日月さんおかえりなさい!!!!〉

 あちこちから、“三日月”の帰還を喜ぶ声がする。

 ――いい感じだ。

 数で劣るのは変わらない、それでも、桁違いの士気に、攻撃力が上がったようにすら感じる。

 向こうでは、“三日月”機が、ゲイレールと戦っていた。

 シールドアックスの斬撃を、ブーストハンマーが捌く。ライフルを使わせないためだろう、接近戦は、がっちりとしたゲイレールの方が有利だ。

 アイン機が加勢を試みるが、手を出しかねているようだ。

〈それが本当のお前か〉

〈そ。“三日月・オーガス”。鉄華団遊撃隊長〉

 ガラン・モッサの冷たいくらいの声と、“三日月”の応える声。

 “三日月”に焦りは感じられないが、ロディフレームでは、いずれゲイレールにやられる――破損の程度はともかくとして――のは確実だった。

「――昭弘!」

 “イサリビ”の防御をしている昭弘に、叫ぶ。

〈何だ〉

「ファリド一佐たちが来る。一旦外れて、バルバトスを持ち出してくれ」

〈三日月にか〉

「そうだ」

 マクギリスが戦闘宙域に入っている。これで、“イサリビ”の方は、多少余裕ができるだろう。

 今のうちにバルバトスを出して、可能ならば“三日月”が乗り換える。そうでなくとも、バルバトスには例のブレードが装備されているから、接近戦でそれが使えるなら、ロディフレームでもまだましな戦いができるのではないか。

〈了解〉

 昭弘は云って、グシオンリベイクを旋回させた。

「ヤマギ!」

 ドックに呼びかける。

〈団長、何か?〉

 ヤマギの冷静な声が返る。

「ミカが帰ってきた。バルバトスを出す。整備は万全か?」

〈当然です。――三日月さんが、こっちに?〉

「いや、今は敵とやり合ってる。あれのブレードが使えるんじゃねぇかと思ってな。グシオンリベイクが持ってく。出せるな?」

〈了解。……もちろんですよ〉

 かすかな笑みの気配を残して、ヤマギは通信を切った。

「よし! てめぇら、ミカがやり合ってる! ゲイレールだけに専念できるよう、他のロディフレームを撃ち落せ!」

〈〈〈おう!!〉〉〉

「ユージン、あの辺に、牽制のミサイルをぶちこめるか?」

「あぁん? 俺様を誰だと思ってんだ、よッ!!」

 云いざま、ミサイルが発射される。ガラン・モッサ配下だろう、ロディフレームたちの真ん中に。

 閃光、爆発。少なくとも一機は仕留められたようだ。

 と、ガラン・モッサの声が聞こえた。

〈良い腕だ〉

 不思議なくらいに、やさしげな響きだった。

 ガラン・モッサのその声音に、“三日月”はどこまで相手の懐にもぐりこんでいたのだろうと思う。

 弟子の成長を喜ぶ師のような、子の出来に目を細める父のような声。

 裏切られてなお、こんな声が出せる、ガラン・モッサは確かに懐の深い男だったのだ。

 ゲイレールとロディフレームは、未だ接近戦を繰り広げている。

 シールドアックスの斬撃を、ロディフレームのブーストハンマーが受け止める――否、受け止め切れず、先端のスラスターが破損した。

「危ない!!」

 ビスケットの声。

 だが、二機はなおも戦い続ける。

 ほとんど肉弾戦のような斬りつけ合い。

 だが、出力差は覆せず、シールドアックスがロディフレームの肩に食いこむ。

 ロディフレームはブーストハンマーを投げ捨て、武器を、シールドから展開したアックスに持ち替えた。

 そのまま、ゲイレールの頭部へ振り下ろす――かすめただけに見えたが、センサーでも破壊したのか。ゲイレールの動きが一瞬止まったように見えた。

 が、やはり大したダメージにはならなかったようだ。

 と、笑い声が響く――くつくつと、大笑ではない、聞きようによっては、愉快そうにも聞こえる笑いだった。

 だが、もちろん愉快であろうはずはない。

〈……残念だ〉

 と云った声は、ひどく静かだった。

 ガラン・モッサの表情が、ありありと脳裏に浮かぶ。きっと、笑いも怒りも何もない、すべてが削ぎ落とされた顔をしているんだろう――そう、何かを、例えば己の死を、決意したものが浮かべるような。

 まだ負けたわけではないだろうに――だが、ガラン・モッサの手のものたちと、鉄華団とを較べれば、士気の高さと頭数で、こちらが勝っているのは明白だった。

 それ故の覚悟なのか。

 と、

〈……自爆コードなら変更済だよ〉

 “三日月”の声が、静かに云った。

〈――馬鹿な、どうやって!?〉

〈阿頼耶識はシステムに介入できる――しようと思えば、ムーブやコードの書き換えも〉

 なるほど、そう云えば以前、そんなことを云っていたような気がする。こちらは阿頼耶識がほぼ使えないので、軽く聞き流していたが――バルバトスに新しいムーブを教えこんだように、ロディフレームのシステムを書き換えたと云うことか。

〈ありえない!〉

 ガラン・モッサは、激しく叫び、多分何かを操作したのだろう。

 だが、“三日月”の干渉によって、ガラン・モッサのコマンドは果たされず。

〈クソガキめが!〉

 吐き捨てると、再び戦闘に入ろうとした。

〈三日月!!〉

 そこに響く、昭弘の声。

〈バルバトスだ! 乗り換えられるか!?〉

〈待ってた〉

 “三日月”の声とともに、ロディフレームがゲイレールに取りついて、その四肢で拘束する。

〈〈――ッ!?〉〉

 これは本当に、MSによる肉弾戦、と云うか格闘技だな。見たことはないが、Gガンダムを思い出す。あれは、格闘系ガンダムとか云われていた気がするが。

〈何やってんだ三日月⁉〉

 昭弘の声に答えるように、ロディフレームのハッチが開いた。

〈コレよろしく。中身はおれのだから、絶対に誰にも渡さないで。爆発物がある。解除方法はおれのコックピットから見て〉

 と云って、どうやらバルバトスに乗りこめたようだ。

〈『三日月、行きまーす‼』〉

 なんてふざけた科白とともに、バルバトスのスラスターが点火される。

「ミカ!!」

 思わず怒鳴るが、笑い声が返ってきただけだった。

 本当に帰ってきたのだな、と改めて感じていると、

「オルガ!」

 チャドが叫ぶ。

「何だ!」

「戦線がのび過ぎてる! シノとダンジが突出し過ぎてるんだ!」

「……あいつら!」

 腕に自信のあるシノはともかくとして、ダンジはシノに引きずられて突出してしまったのだろう。

「ミカ!!」

〈……なに〉

「シノとダンジが突出してる。シノはともかく、ダンジがヤバい。――いけるか」

〈りょーかい〉

 と云ったかと思うと、ひょいとシノたちのいる宙域まで飛翔する。

 そして、

〈喰らえ旋風脚!〉

 などと云いながら、ガルム・ロディを回し蹴りで蹴り飛ばす。それに巻きこまれて、さらに何機かが飛んでいった。

〈おせーんだよ三日月!〉

〈なんすか三日月さんその技⁉〉

 シノとダンジが叫んでいる――お前ら、ちょっとは反省しろ。

〈間に合ったんだ。文句言うな――って、ダンジ、実は余裕?〉

〈んなわけないッス!〉

〈ダンジ、イチニのサンで、全力で後方へ戻れ。あとはおれたちで止める。な、シノ?〉

 いい判断だ。ダンジの錬度では、この先の敵はキツいだろう。戻して、“イサリビ”や“カガリビ”の防衛に当たらせた方が、本人のためでもある。

〈おう。タイミング間違えんなよダンジ!〉

〈はい‼〉

〈イチニ〜の、サン!!!〉

 メイスソードをバットのように構えて、ガルム・ロディにフルスイングした。

〈ホームラン‼〉

 確かにジャストミートだが。

〈何だかわかんねぇけどヒデェ‼!〉

 いやもう。

「……正気か」

 どうも、大概ハイになっているようだ。悪ふざけにもほどがある。

 そのノリでか、“三日月”は、全方位に叫んだ。

〈夜明けの地平線団のヒューマンデブリたちに告ぐ!〉

 回線全開だ。きっと、アリアンロッド艦隊にだって響いただろう。

〈今すぐ戦闘を止めろ! お前たちはもうすぐ開放される。おれが、サンドバックなんたらをヤるからだ‼〉

「“サンドバル・ロイター”だ‼」

 “夜明けの地平線団”の首領の名を、思いっきり間違えている。

 何だ、その間違い! サンドバル・ロイターをサンドバッグにしたいのか。その気持ちはわからぬでもないが。

 しかし、“三日月”は悪びれなかった。

〈悪党の名前なんてどうだっていいでしょ――取り敢えず、ソイツをヤるから、これ以上の戦闘は無駄だよ。だから選べ〉

 云いざま、突っこんできたガルム・ロディの頭部を、メイスソードで叩き潰す。

〈クズ野郎に縛られたまま死ぬか、生きて抗うか、二つに一つだ。水無月・オリエは選んだ。ヤツは抗って死んだけど、おれをここに呼んだ〉

 さらに、襲いかかるMSを潰していく。

〈ジャンニ、居るんだろ? お前からも言ってやれ‼〉

「……団長!」

 チャドが、こちらを振り返る。

 ジャンニと云うのは、例の“ラジオ”を持ってきた男だ。

「……あいつを、ブリッジに」

 云うと、チャドは頷き、ややしばらくして、背の高い男を連れて戻ってきた。

「――お前が、元“夜明けの地平線団”のジャンニか」

 男は、少しきょろきょろとしていたが、声をかけると、しっかりとこちらを見据えてきた。

「そうだ。あんたは」

「俺は鉄華団団長、オルガ・イツカだ。ミカが世話になったな」

「あんたが……」

 男は目を見開き、やがて、唇の端を歪めるように笑った。

「あんたが、あいつの本当の主人なのか」

 その云い方は、元ヒューマンデブリらしいな、と思った。

「主人なんぞじゃねぇよ。ま、紐をつけてんのは確かだがな」

「――ガラン・モッサにも絆されなかったのは、あんたがいたからか」

「あいつに首輪をつけられんのは、そういねぇさ。――それよりも、お前に頼みがある。“夜明けの地平線団”のヒューマンデブリたちに、お前から呼びかけてくれ」

 云うと、今度こそ驚いた顔になった。

「あんたは、本当にヒューマンデブリを解放できると思っているのか?」

 苦笑がこぼれる。おいおい、鉄華団にそれを頼みに来たんじゃなかったのか。

「この戦いで、俺たちが勝てればな。そのためにも、お前が向こうの連中に呼びかける必要があるんだ」

 さぁ、と云って、ジャンニの背を押す。

「お前の仲間たちに呼びかけてくれ。お前の言葉が、俺たちに勝機をもたらし、お前の仲間たちに解放のチャンスを与えるんだ」

 男は、ちらりとこちらを見、やがて決意したように、大きく息を吸いこんだ。

「皆、俺だ、ジャンニだ」

 ゆっくりと話し出す。

「水無月が云ってたように、鉄華団を連れてきた。だが、それだけで俺たちが解放されるわけじゃない。解放されるためには、俺たち自身が立ち上がらなきゃならない」

 モニターの中を睨みつける。その目が見据えるのは、“夜明けの地平線団”のヒューマンデブリたちか、あるいはサンドバル・ロイターか。

「今こそ解放の時だ! 武器を取って立ち上がれ! そして、“夜明けの地平線団”をぶっ壊せ!!」

 その言葉に対して、応える声が上がったわけではなかった。

 だが、戦闘宙域のMSの一部が動きを鈍らせ、あるいは戦闘そのものを止めたものすらあった。

「……よし!」

 狼狽えたように見えるMSの動きに、拳を握る。

 あとは、こちらが大将首を獲るだけだ。

「今だ! 一気にやれ! 無抵抗のヤツには構うな、敵はサンドバル・ロイター!!」

〈〈〈「「「おう!!」」」〉〉〉

 花のロゴの入ったMSたちが、宇宙を一気に駆け抜ける。

 その様を見ていた男が、こちらを振り返った。

「なぁ、頼みがある。俺を、MSで出してくれないか」

「あー……」

「敵のヒューマンデブリだった奴は、信用できないか?」

「いや……」

 そう云う話ではない。

「すまねぇが、今、うちのMSは全部出払っててな。お前を乗せてやれるマシンがねぇんだ」

「……は?」

「うちは弱小でな。悪いが、ここで戦況を見てもらうしかできねぇんだ」

 うちは海賊じゃなくて、警備会社なんだよ、と云うと、ジャンニは呆気にとられた顔になった。

「まぁ、坐って待っとけって。警備会社だが、皆、MSの腕はなかなかのもんだからよ!」

 ユージンが云う。

 ビスケットも頷いて、

「そうそう。三日月の腕を信じてよ」

「まぁ、あの頓狂なのはどうかと思うけどね」

 とチャド。

 ジャンニは、当惑った様子だったが、それでもゆるゆると頷いて、ビスケットの引き出した補助シートに腰を落ち着けた。

 

 

 

 ややあって、

〈……オルガ〉

 昭弘から通信が入った。

「おう」

〈三日月の手土産だ。――爆発物がある。“イサリビ”に仕掛けるつもりだったと、三日月が云っていた〉

「ほぅ。そいつは、“夜明けの地平線団”にでも使ってやれ」

〈了解。MSはドックに入れるぞ〉

「わかった。すぐに向かう。――ユージン」

「おう」

「捕虜の尋問に行ってくる。何かあったら、頼んだ」

「任せろ」

 拳が上がるのに合わせてやって、ブリッジを出る。

 ノーマルスーツに身を包んでドックに辿りつくと、昭弘がゲイレールのコクピットから、捕虜を引き出しているところだった。

〈――オルガ〉

 こちらに気がついた昭弘が云う。

「おう」

〈捕虜は拘束した。武器も取り上げてある〉

「そうか。そいつは引き取る。お前は、戻って、ミカやシノに加勢してやってくれ」

〈おう〉

 後ろ手に拘束された捕虜をこちらによこすと、昭弘は再びグシオンリベイクのコクピットに戻り、星闇の中に滑り出て行った。

 捕虜を連れて行こうとすると、いつの間にやら、チャドが一緒についてきた。

「ブリッジはいいのか?」

〈団長を、一人で捕虜と接見させるわけにはいかないだろ〉

 後で三日月に睨まれる、などと云う。

 “三日月”の名に、捕虜の眉がぴくりと動いたが、それ以上の反応はなく、おとなしく連行されている。

 “三日月”のように、下着一枚で留置、と云うわけにはいくまいが、さてどうしたものかと思いながら、とりあえずは艦長室へ。あまり使っていないので、仮にガラン・モッサが暴れたとしても、武器になるようなものもない、と云う理由からの措置だ。

 ガラン・モッサを来客用の椅子に坐らせると、チャドが入口の傍に立つ。敢えて武器を手にしないのは、万が一の時に奪われないためだろう。

「……さて」

 どんな話をしたものだか。

「ガラン・モッサ、だな? 初めてお目にかかる。鉄華団団長、オルガ・イツカだ。うちのミカが、世話になったな」

「ガラン・モッサだ。……なるほど、“鉄華団の悪魔”と云うのがいるとは聞いていたが――あのゾルタンが、そうだったとはな」

 ブラウンの髭熊だ。目尻の下がった顔は、整えればギャラルホルンの士官と云っても信じられるだろう。恰幅も良く、あの青い制服姿がさぞや映えるだろう。実際、この男は、ラスタル・エリオンと士官学校の同期だったか。

「小さいから、そうは見えないだろう?」

 本人曰く“小悪魔(♡)”だそうだが。

「油断した。“水無月・オリエ”だと思っていたが、似た名前でも、鉄華団だったとは」

「あいつは頓狂だからな」

 それに、鉄華団はまだまだ小さい。名前は知れても、顔までは世間に流布してはいないに違いない。

「ミカは、あんたを自分のものだとか云ったようだが、当然そう云うわけにはいかない、のはわかってるな?」

 云うと、ガラン・モッサは、片頬を歪ませた。

「捕虜の命運など、知れたものだ」

「……あんたは、どうなると思ってるんだ」

「ギャラルホルンに引き渡すのだろう? 今なら、地球外縁軌道統制統合艦隊も来ているしな」

「カルタ・イシューやマクギリス・ファリドには渡さない」

 そう答えると、ガラン・モッサは目を見開いた。

「何を考えている。この場合、ギャラルホルンに引き渡すのが常道ではないか」

「あんたをギャラルホルンに引き渡したとして、まともな取り調べがされるとは思われねぇんだが」

 そう云ってやると、相手はぐっと黙りこんだ。

「多分、横槍が入って、あんたの身柄はアリアンロッド艦隊に引き渡され、しばらく経って俺たちが問い合わせると、あんたは事故で死んだとか云われるんだろうな」

「……お前は、自分が何を云っているのか、わかっているのか」

「あぁ、もちろんだ」

 つまり、ガラン・モッサがアリアンロッド艦隊の、もっと云えばラスタル・エリオンの手のもので、引き渡せば、あれやこれやあって、最終的には死んだことにされておしまい、と云っているのだ。

 あるいはマクギリスに引き渡せば、まぁ普通に“尋問”――多分拷問まがいの――を受け、そのうち独房で、この男の自殺体が見つかる、と云う寸法なのだろうと思う。そちらはまぁ、あまり後味の良い話ではない。

「まぁ、ギャラルホルンに引き渡さないわけじゃねぇよ。単に、ラスタル・エリオンに引き渡さす、ってだけのことだ」

「……何故」

「何故? あんたこそが、よくよくわかってると思うがな」

 肩をすくめてやる。

「云わなきゃわからねぇほど愚鈍じゃねぇだろ。あんたを引き渡すのは、メッセンジャー代わりでもあるんだ。ミカが、全部掴んでるんだよ。あいつが持ってたラジオ、憶えてるか?」

 ガラン・モッサは、今度こそ驚愕をあらわにした。

 とは云え、声を上げたわけではない。ただ、目を見開いて、こちらを凝視しただけだ。

 だが、それだけの表情が、何よりも雄弁に、男の胸中を物語っていた。

「あんたのやってたことと、あんたのバックにいたのが誰かってこと、知れたらものすごくヤバいよなぁ? その証拠を俺たちが握ってるんだって、あんたの後ろについてる奴に伝えて欲しいんだよ」

「厭だ、と云ったら……」

「この状態で、選択肢があると思うのか?」

 沈黙。

「……あんたが、ラスタル・エリオンとごく親しいってのは知っている。本名は知らないが――どうせ、いいとこの出なんだろ」

 少なくとも、鉄華団の連中に較べれば。

「もちろん、あんたの過去はもう葬られてるだろうから、そこを突っこむことはできないだろう。だが、少なくとも今回の件については、あんたとラスタルの間のやり取りなんかが、こちらの手の中にあるんだ。これが公になれば、さしものラスタル・エリオンも無傷じゃいられないだろ」

「……お前は、何が望みだ」

 ガラン・モッサは、軋る歯の間から、それだけを絞り出した。

「簡単だ、ラスタル・エリオンが“火遊び”を止めること」

 足を組み、椅子の背に反り返るようにして、指先を合わせる。我ながら、悪役のようだと思う。

「自作自演で“暴動”を起こさせたり、燻る火種を育てて火事にするのを止めろ、ってことだ。ギャラルホルンの必要性を、過剰に演出するなってことだ、簡単だろ」

 ラスタル・エリオンにとってはわからないが。

「……俺などが云って、聞き入れられると思うのか」

 往生際悪く、男は云う。

「聞くだろ、親友の言葉なら」

 云ってやれば、ガラン・モッサは、今度こそがくりと肩を落とした。

「“鉄華団の悪魔”ってのは、本当はお前のことではないのか」

 ――失礼な。

 片目を眇めて、男を見やる。

「俺は、別に悪魔じゃない。俺は、俺の希望を云ってるだけだ」

「他の選択肢を選べない状態でな。そう云うのをするのが、悪魔と云う奴じゃないか」

「そうだったかな」

 聖書の悪魔なら、“楽園の蛇”も含めて、単なる“誘惑者”でしかなかったはずだが。

「だがまぁ、俺は間違いなく人間だよ。世の中に、人間より恐ろしいものなんてないんだぜ」

 楽園追放も、きっかけは蛇でも、踏み出したのはアダムとイヴだった。蛇が引きずりこんだわけじゃない、ふたりが自ら堕ちていったのだ。

 そしてそれから、人間の犯してきた罪の数々は、筆舌に尽くしがたいほどだ。元のアレで云えば、第二次世界大戦然り、この世界で云えば、三百年前の厄祭戦然り。

「それなら、お前はこの上なく人間的だと云うことだな」

「そこは否定できねぇな」

 聖人君子でないことだけは確かだから。いや、ドイツの心理学者、エルンスト・クレッチマーの云うようによれば、君主的人間とは、仏革命の立役者、ロベスピエールのような人間だそうだから、“君主”である可能性はゼロではないか。

 ともあれ、

「ラスタル・エリオンに連絡する」

「どうするつもりだ」

「お前を引き取って戴くのさ」

 そうして、ついでに釘を刺す。

「あんたは、ラスタル・エリオン直通の回線を知ってるんだろう?」

 そう云うと、男は、諦めたように溜息をつき、コードをすらすらと諳んじた。

 その回線を繋ぐと、

〈……誰だ〉

 壮年の男の声が返ってきた。画像はない。

 下っ端ではない声の響き、これがラスタル・エリオンか。

「鉄華団団長、オルガ・イツカ」

 短く答えると、ややしばらくの沈黙があった。

〈……それは、今“夜明けの地平線団”に襲撃されていると云う警備会社のことか〉

「確かに、“夜明けの地平線団”とはやり合ってる。但し、もうじきカタがつくがな。地球外縁軌道統制統合艦隊の応援もある、アリアンロッド艦隊には退いて戴きましょうか」

 云うと、鼻先で笑う気配があった。

〈このあたりは、われわれの管轄ではないが、地球外縁軌道統制統合艦隊の管轄でもないはずだ。出てきてやったものを、お前が追い返すと?〉

「もちろん、ただでとは云いませんよ」

〈どう云うことだ〉

「あんたの旧友を捕虜にしている。それをお引渡ししよう」

〈……何の話かな〉

 空とぼけるが、やや間があき過ぎた。動揺しているとわかるほどに。

「ガラン・モッサと名乗る、髭クマだよ。あんたとの通信記録も、こちらでは押さえてる。この捕虜を引き渡してやるから、あんたは月に帰れ」

〈そんな男は知らんよ〉

 なるほど、その時々の偽名を、ガラン・モッサはラスタルに告げてはいなかったと云うことか。

 互いの保身のためとは云え、これはなかなか徹底している。

「ここで、画像通信にしてくれりゃ、俺の云う“ガラン・モッサ”が誰なのか、あんたにもわかるだろうぜ」

 名前は変えても、声と顔は変えていないはずだ。IDさえ変えてしまえば、他人になりすますことが可能なのは、宇宙世紀の昔から立証済――まぁしかし、“クワトロ・バジーナ”が本当は誰であるのかなど、かつての味方、そして敵にもバレバレだったわけだが――なので、本人であると云う証拠として、身体的特徴を残しておいた、と云うのは、わからぬではなかったが。

 それでも、ラスタルは動揺を見せなかった。

 ――そうかい。

 だがまぁ、

「あんたは空とぼけても、あんたんとこのあのお嬢ちゃんは違うだろ」

 そう云うと、はじめて向こうの気配に動揺が出た。

〈何を……〉

「ジュリエッタ・ジュリスだったか、この男が拾って、あんたの傍につけたんだよな? 確か、あのお嬢ちゃんは、この男に恩義を感じてたはずだ。この男が、俺の手許にあると知ったら、あのお嬢ちゃんはどうするかな?」

 我ながら悪役じみた言動だが、相手の譲歩を引き出すには、これくらいの揺さぶりは必要だ。

 ――これは、“悪魔”と云われても仕方ないか。

 しかしこれは、子どもだと思って舐めてかかってきた、この男たちが悪いのだ。恨むなら、己のリサーチ不足を恨むがいい。

 まぁ実際、ジュリエッタ・ジュリスは、ガラン・モッサがこちらにいるとわかれば、ラスタルの指示も無視して突っこんでくる可能性はあった。ことこの男やラスタルに関しては、例のイオク・クジャンを嗤うことはできないだろう。

「さぁ、どうする? この男を回収して、おとなしく引き下がるか――あるいは、このまま割りこんできて、監査局のファリド一佐にこの男とデータを引き渡されて、セブンスターズの中でつるし上げを食うか」

 いくらラスタル・エリオンがアリアンロッド艦隊の司令で、現在のセブンスターズ内で一、二を争う実力の主だとしても、否、だからこそ、そのやり方に異を唱えたがるものはあるだろう。まぁ、例えそのやり口が真っ当なものだったとしても、ケチをつけるものはあるのだろうが。つまり、ある種の権威になるとは、そう云うことなのだ。

 ややしばらくの沈黙の後、ラスタル・エリオンは口を開いた。

〈……回収すると云って、どうするつもりだ〉

 よし、折れてきた。

「あんたがその気なら、この男をコンテナにでも詰めて、うちのMSで途中まで運ばせよう。そこで、あんたの方のMSに引き渡す。……そうだな、それこそ、例のお嬢ちゃんがいいんじゃないのか。それなら、あんたの方も、秘密裡にやれるだろう?」

〈……お前は、本当に悪魔のようだな〉

 ラスタルは、旧友と同じようなことを口にした。

「そりゃどーも。――それで? 結局あんたは、こっちの案を容れるのか、突っ撥ねるのか」

〈……受け容れよう〉

 遂に、ラスタルは云った。諦念を強く滲ませた声だった。

〈誤算だったな、まさか、二十歳にもならない子どもが、これほどまでとは〉

 それはそうだ。

 実際には、確かに未成年とは云い難い、と云うか、下手をしたら、この二人と歳が変わらないくらいなのかも知れないのだから。

「悪いな、その辺のガキどもと違って、人生経験が豊富でね」

 ここでの年齢の、倍以上に。

〈今でそれなら、末恐ろしいことだ〉

 そうだろうとも。

「アリアンロッド艦隊と、こちらのちょうど中間点でいいな? こちらはガンダムフレームを出す。妙な真似しやがったら、容赦なく撃つぞ」

〈心しよう〉

「それじゃあ、これからすぐに出す」

〈こちらもだ〉

 そうして、通信は切れた。

「……本当に、末恐ろしいな」

 一言も口をきかなかったガラン・モッサは、大きく息を吐き出して、そう云った。

「ガキどもだけで、世間を渡っていかなきゃならねぇんだ、用心には用心を重ねねぇとな」

 と肩をすくめるが、ガラン・モッサはともかく、チャドは苦笑するばかりだった。

 それをじろりと見て――しかし、それこそ肩をすくめられただけだった――、昭弘に連絡を入れる。

「昭弘、そっちはどうだ」

 呼びかけると、すぐに返答があった。

〈三日月とシノ、アストンが、サンドバル・ロイターを狩りにいっている。こちらは、ファリド一佐の加勢もあって、問題ない。――何かあるのか?〉

「捕虜の引き渡しを、お前に頼みたいんだが」

〈……それは〉

 少しばかりの間。

〈三日月が後で何て云うか――あいつは、自分のものだから手を出すな、って云ってたぞ〉

「背に腹は代えられねぇんだ、あいつの我儘につき合えるか」

 それに、長く留め置いても、徒に鉄華団の内部を分断させるばかりなのは明白なことだ。それくらいのことができるからこそ、原作では、簡単に地球支部の内部に食いこむことができたのだし。

〈――三日月に何か云われたら、お前の差配だと云うぞ〉

「構わねぇよ」

 怖いのはむしろ、マクギリスが後で知った時の方だ。

 マクギリスはきっと、ラスタル・エリオンを失脚させる手段として、ガラン・モッサを欲するだろうが――今、ラスタルを失脚させては、マクギリスが“上”にのぼり詰めるのにプラスにはならない。

 ラスタルを失脚させるにしても、もっと相応しいところ――それこそ、ギャラルホルン改革の途中で、旧態依然たる老人の象徴としてでも切り捨てなくては、逆にマクギリスの陰謀を疑われるだけだ。物事には、順序があるのだ。

「……本当に、俺を引き渡すのだな」

「二言はねぇよ」

 ここできちんと果たしておかなくては、今後にも差し障る。

「ま、あんたからも、あんまり無茶苦茶やるなって云ってやってくれ。ドルトのアレなんぞは、やり過ぎだろう」

 そう云ってやると、ガラン・モッサは、やや神妙な顔で頷いた。

「それは知らんが、伝えてはおく」

「……なるほど、地球では、そう云う情報を仕入れたりはしなかったのか」

 まぁ、傭兵隊を率いてあちこち転戦していたのなら、圏外圏の情報に疎くなるか。

 否定はしなかったのを、勝手に了承と取って、立ち上がる。

「それじゃあ、来てもらおうか」

 促すと、案外素直についてくる。

「コンテナとか云っていたが、本気か」

「本気って云うか、まぁ毎度のことだな」

 大リスの時もそうだったのだし。

「縞パン一丁で放り出さないだけ、マシな方だと思うがな」

「待て、お前たちの捕虜の扱いは、一体どうなっている」

「相手は選んでる」

 クランクやアインは、ごくまともな扱いだった。

「コンテナなのは、MSでやり取りするからだ。別に、ノーマルスーツを剥ぎ取って入れるわけじゃねぇ」

「ノーマルスーツ?」

 おや、この云い方は、やはり通じないのか。

「あー……気密服、って云やぁいいのか。まぁとにかく、真空で爆散させるつもりはねぇから安心しろ」

「……何を安心すればいいのかわからんな」

 そう云う頭に、ヘルメットを被せてやる。

「まぁ、昭弘は、ミカより扱いは丁寧なはずだぞ。無意味にコンテナを揺さぶったりもしねぇしな」

「俺の見ていた“ゾルタン・アッカネン”は、とことん作りものだったと云うことか」

 苦笑。

「あんたの見たあいつがどんなんだったかは知らねぇが、俺たちの知ってるのとは別だってのは、確かだな」

 バイザーを下ろして、減圧室から格納庫へ出る。

 そこには、整備員の姿はなく、古いコンテナだけが置かれていた。チャドが、整備員を下げてくれたのだろう。

 感謝しながら、ガラン・モッサをコンテナの中に入れる。

「――次に会う時は、少なくとも敵じゃないことを祈るぜ」

〈まったくだ〉

 コンテナの蓋を閉じる。

「昭弘!」

〈おう〉

「“積荷”はいける。お前はどうだ!」

〈こっちもいける。……こいつを、アリアンロッド艦隊のMSに渡せばいいんだな?〉

 グシオンリベイクの手が、コンテナを掴み上げる。

「そうだ。座標は入っているな? くれぐれも、ファリド一佐には見つかるなよ」

〈気をつけよう〉

 そう云うや、グシオンリベイクは、宇宙へと飛び出していった。

 ノーマルスーツを脱ぎ捨て、ブリッジに戻る。

「戦況はどうだ」

 ユージンに問うと、

「おう、いいカンジだぜ。今、三日月がサンドバル・ロイターを獲った」

「シノとアストンも、相手のエース級のを獲ったみたいだよ」

 ビスケットが添えてくる。

「ほぅ、やってくれたな。――向こうのヒューマンデブリはどうなってる?」

「流石に艦内のことまではわからないけど、MSに限って云えば、戦闘を止めてるみたいだね。うちも、負傷者は結構出てるけど、今のところ死者はなし。上々じゃない?」

 まったくもってそのとおりだ。

「それじゃあ、向こうに降伏勧告をするか」

 それで終わらなければ、MSで船をぶっ壊すことになるが。

 敵のMSが逃亡を計りつつあるのを目におさめながら、レーダー画面を確認すると、アリアンロッド艦隊が、ゆっくりとこの宙域を離れていくのが確認できた。

 やがて、“夜明けの地平線団”の艦艇から、停戦信号が打ち上げられた。

 戦闘は、事実上終結したのだ。

 

 

 

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