【成り代わり】鉄血のナントカ【異世界転生?】   作:くずみ@ぼっち字書き。

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一方その時"三日月"は 14

 

 

 

 戦場は広域に展開していた。

 夜明けの地平線団の規模は、宇宙海賊の中では最大級だ。

 その総力をもって獲物に襲いかかる様は、まさに圧巻。

 そして、その脅威に一歩も引かずに対峙する鉄華団の胆力は称賛に値する。

 火力では大きく劣るが、陣や連携は練れていて、付け入る隙をなかなか与えない。

 海賊どもは予想外に手を焼かされている様子だった。

 前方にイサリビ。背後から近づいていく。

「散開して。引っ付かれてたら狙撃の邪魔だよ」

 言い捨てれば、通信から返る舌打ち。

 このところ、ガラン・モッサから特別扱いを受けてるおれは、ほかの隊員からはやっかみの対象だ。

 機体スレスレに寄せてから離れるとか、くだらない嫌がらせもなんのその。

 まずは、夜明けの地平線団のMSの、装甲の無いセンサーやスラスターを狙う。

 イサリビに近づくのに邪魔になるし、援軍を装うカモフラージュにもなる。

 なるべく装備の良いヤツから。指揮機を狙うのは常套でしょ。

 ――ほら、一機目。

 動き回る相手の小さな的に絞って実弾を撃ち込むなんて、普通なら至難の業だけど、センサーとシステムに直結している阿頼耶識が、それを可能にしてる――これが、バルバトスより出力に劣るロディ・フレームで培ったおれの戦い方。

 まあ、みんな驚いてたから、自慢して良い特技だと思ってる。

 ――二機目命中。次はあれかな…はい三機目、四機目も。よし!

 センサーから得られるはずの情報を失った機体は狼狽えて隙ができるし、スラスターが破損した機体は姿勢制御に失敗して従来の動きが取れなくなる。

 そこを叩かれれば、為す術もない。

〈ゾルタン、もっと撃てよ!〉

〈お前の熱い“キス”をかましてやれ!〉

 通信からは囃し立てる声と、口笛が――皆、楽な狩りに浮かれてんだろう。所詮、ならず者の集まりだ。獲物を嬲るのが好きな下衆共だし。

〈雑魚に構うな〉

 これはガラン・モッサ。

〈思ったより救援が早い。急げ〉

「これは…地球外縁の?」

 センサーには、さらに後方からくるMSの一群を捉えている――ギャラルホルン所属機だ。

 地球外縁軌道統制統合艦隊の実働部隊と、なんか混ざってるな。

「“Daddy”、ガンダム・フレームがいる」

〈接近させると面倒だ。一気に行くぞ〉

 ちんたらやってる暇はないってわけだ。

 ガラン・モッサに従い推進を最大にして一気に距離を詰める――ついてこられない隊員は置き去りに。

 センサー直結の視界には、すぐそこに、イサリビの偉容があった。

 息が詰まるような感覚を味わう。

 “ゾルタン・アッカネン”の薄皮一枚のしたまで、“おれ”が急浮上している。

 表情筋が固まってくのが分かる――反して、封じていたなにもかもが開放されていく。

〈作戦開始だ〉

 笑みさえ潜ませた声で、ガラン・モッサが告げた。

「Yes “Daddy”」

 いつもと変わらない返事に、いつもと違う響きが混じりそうになる。

 まだだ――まだ、おれは“ゾルタン・アッカネン”。あと、ほんの少しの間は。

 作戦は、救援を装って艦体に取り付き、爆弾を仕掛けると言うもの。

 イサリビごと蒔苗のジイさんを始末するのが狙い。

 ガラン・モッサが、イサリビの通信士に向けて応援に来た旨を告げている。

 ふてぶてしいほど、自信に満ちた声を、皆はどう聞いてるんだろう。

 ――ラジオは届いたよね?

 情報が届いてないと、“ゾルタン・アッカネン”の自爆フラグが立つんだけど――いや、阻止するけどさ。ちょっとドキドキするよね。ガラン・モッサと心中なんてゴメンだし。 

 弾をリロードし、更に狙撃。

 また数体のガルム・ロディが姿勢制御に失敗して流れて行く。

 救援の体を取りながらも、艦に近づき過ぎるこちらを警戒して、鉄華団のMWが数体で警告信号をよこした。

 それから、グレイズが一機とランドマン・ロディ改――元のランドマン・ロディよりちょっとスリム――がニ機。

〈近すぎる。少し下がってくれ〉

 グレイズから、懐かしい声が――アイン。相変わらず素っ気ない物言いだね。

 当然、ガラン・モッサがそれに応じることはない。傭兵達も。

 艦に爆発物を取り付けて爆破させりゃ、あとは海賊共のいい餌食だ。雑なようでもスピード勝負は悪い手じゃない。

 さらに速度を上げて突っ込むこちらに、MWは狼狽える様子を見せたけど、アイン率いるMS組は即時に防衛に転じた。

〈ゾルタン〉

 ガラン・モッサに促され、狙撃体制。

 さて。

 誰から撃とうか?

 ガラン・モッサの傭兵団のMSはおれを入れて十五機――対する鉄華団のMSは三機。

 MWじゃ太刀打ちできないから、この際、数に入らない。

 ガラン・モッサはまずグレイズ――アインを獲物に選んだようだった。

 ランドマン・ロディ改とMWを牽制しつつ、複数機で囲んで追い回す。

 確かに、ロディ・フレームよりもグレイズの方が残しておくとより邪魔になるし。

 と、そこで果敢にも――と言うより無謀にもランドマン・ロディ改が一機、グレイズの援護に突っ込んでくる。

 ゲイレールはその胴部分を蹴り飛ばして、シールドアックスを振り上げた。

 瞬間、無防備になったランドマン・ロディ改から、

〈――三日月さんッ!〉

 悲鳴のような声が、“おれ”を呼んだ。

 バラバラになったピースが、すべて、その刹那に元通りに嵌め込まれたような感覚だった。

 ――ライドだ!

 引き金をひく。スラスターを撃ち抜く。

 ゲイレールがバランスを崩す――その隙にランドマン・ロディ改を引き離す。

 シールドアックスが空を薙ぐ。

 全ては、一瞬の事だった。

 ――“うちの子”に何してくれんのさ!

 ライドを背に庇って、さらに撃ち抜く――けど、これは回避される。

 流石に簡単にはいきそうにないね。

〈ゾルタン!?〉

 初めて聴くよ。ガラン・モッサ、お前のそんなに狼狽えた声。

 だけど、それはもうおれの名前じゃない――だって、おれ、“三日月”だし。

「『撃っちゃうんだなぁ、これがぁ!』」

 ガラン・モッサと、その傭兵達を。

 言葉通り、傭兵達のMSのセンサーやスラスターを次々撃ち抜いていけば、裏切り者とかなんとか、口汚い罵り文句が来たけれど、どうでも良いよ。

 今度はお前らが獲物になる番だ。

 隙を逃さず、ほら、アインが仕留めに行く。

 そしてついに、キマリス含む援軍が。

〈待たせたな!〉

 視界の先で、ガエリオ・ボードウィン操るグングニールが敵対するMSを真っ二つに裂いた――おっかない。

 これで、イサリビの護りはひとまず安心――ってほど万全じゃないけど、まあ。

〈ほ…ほんとうに三日月さん!?〉

「ん。おれ」

 あれ、さっき呼んだのは、おれに気づいてたってわけじゃないのか。

 そっか、ライド、お前、どれだか分からないおれを、それでも信じて呼んでくれたのか。

 ちょっと胸熱なんだけど、それ。

「『鉄華団よ、わたしは帰ってきた!!』」

 通信全開で叫ぶ。

 只今帰還!! 帰ってきたぜ!!!

 次の瞬間、イサリビから大音量の音声通信が来た。

〈“ミカぁ”!!〉

 うわぁ。“オルガ”、ほとんど怒鳴り声じゃないかな、それ。

〈ホント、馬鹿じゃねぇのか!!!〉

 ちょ、ヒドイ!

 久々のカワイイおふざけじゃないか。テンション上がってるんだよ、分かってよ。

 だって、ふざけてないと泣きそうなんだ――涙出てこないけど。

 通信からは笑い声が聞こえた。

 ああ。みんな、そこにいるんだ。

〈もぉ〜、オルガってば!〉

 これはビスケたん。

〈素直になれよ!〉

 ユージンの声。

〈嬉しいくせに〜!〉

 チャドもいるね。

〈ふざけんな、帰ってきたんなら、きりきり働け!!〉

 “オルガ”が大爆発してる――照れ隠しにしても激しいな。

「……うぇへぇ〜」

 思わず漏れた声に、またブリッジで笑い声が――なんだ楽しそうだなオイ。早く片づけて、おれも混ざろう。

〈てめぇら!〉

 “オルガ”はまだ声を張り上げてる。

〈鉄華団は揃った! 俺たちはやれる! そいつを、海賊どもに見せつけてやれ!!〉

 〈〈〈〈〈〈〈おう!!!!!〉〉〉〉〉〉〉

 その叫びに対する呼応は、戦場の至るところから返ってきた。

〈三日月ィィィッ、早く手伝いやがれ‼〉

 はいよ。シノ、もうちょっとだけ待ってて。

〈……三日月、あとで、な〉

 クランク仁王⁉ だが断る‼

〈土産あるんだろうな、三日月ィ?〉

 お前の喜びそうな情報ならあるよ、ダンテ。

〈三日月さんおかえりなさい!!!!〉

 ただいま、チビ共‼

 三日月、三日月、三日月、と。連呼されるたび、何度でも噛みしめる、おれが“三日月”だってこと――まあ、しみじみ感じてる暇はくれないんだけどね、眼の前の髭クマ野郎が。

 シールドアックスから繰り出されるクソ重たい斬撃を、ブーストハンマーで捌く――うわ、アーム軋むわ。

 狙撃を厭って距離をとらせない。

 アインが加勢を試みてるけど、隙を見つけられないでいるみたい。

 ブンブンうるさくまだ傭兵共も飛び回ってるし。

 ゲイレールと言えば、スラスター一個破損させたくらいじゃ、その動きを鈍らせることさえ出来てない――わずかな時間稼ぎくらいにしかならなかったね。

 歴戦の猛者って、確かに。機体の性能の差もあって、凌ぐのもかなり厳しい。

〈それが本当のお前か〉

「そ。“三日月・オーガス”。鉄華団遊撃隊長」

 いまもその肩書が有効ならね。

 爆発物を持ってるのはおれとヤツだから、何をどうしたって足留めしなきゃならんわけだ。

 ガラン・モッサの目論見はすでに破綻してる。

 だけど、だからこそ尚更に。それこそ捨て身でイサリビに取り付こうとする執念は物凄い。

 おれの駆るガルム・ロディ改は、機動に特化してる筈なのに、それですらアドバンテージにならないとはね。

 どっかの時間軸で昭宏がこの男を圧せたのは、ガンダム・フレームのパワーと頑強さがあってこそだったんだろう。

 一瞬の隙をついたつもりの打撃も、コックピットを庇われて届かない――いまの、普通ならクリティカルヒットだぞオイ。

〈良い腕だ〉

 いつものように、ガラン・モッサが褒めてくる――敵にまわったおれに対しても。

 “良い子だ”とか“良い腕だ”とか、繰り返し口にしてたヤツの、不思議に嬉しそうだった顔が脳裏に浮かんだ。

 それは、良く出来た傀儡に向けたものでしかなかったろうけど、“ゾルタン・アッカネン”は、それでも嬉しかったんだ――あんたを“Daddy”なんて呼ぶくらいには。

 雨みたいな斬撃。

 ブーストハンマーがシールドアックスに押し負けて、先端のスラスターが破損した。

 威力が半減したそれじゃ攻撃を捌くなんて不可能だった。

 通信からは悲鳴が届く。イサリビの誰かか。

 ゲイレールは勢いを混して突っ込んでくる――ブーストハンマーを破棄。ショルダーのシールドで刃を受けつつ――うわ、ジョイント逝ったかも――シールドをアックスに展開。ゲイレールの頭部センサーを目掛け振り上げれば――ヒット!

 これはガラン・モッサの得意技の一つだ。シールドのアックス展開による不意打ち。

 だけど――ダメだ、浅い。

 一日の長はヤツにあるみたい。

 武器を持ち替えたおれに対し、ゲイレールが僅かばかり距離をとった。狙撃の間合いには近すぎるのが憎らしい。

 ふと、聴き慣れた笑いが聞こえた。

 喉を鳴らすような――ガラン・モッサ、なんで笑う?

 それが唐突に止み。

〈……残念だ〉

 なんの感情も感じさせない声だった。

 憤りも憎しみも虚しさも――それが、かえって潜ませた何かを伝えてくるようだった。

 ゲイレールから送られてくる信号に、おれのガルム・ロディがわずかに反応し、けれど、それだけだ。

「……自爆コードなら変更済だよ」

 おれのも、あんたのも。

 言い放てば、驚愕の気配が返った。

〈――馬鹿な、どうやって!?〉

「阿頼耶識はシステムに介入できる――しようと思えば、ムーブやコードの書き換えも」

〈ありえない!〉

 そうかもね。なんの知識も与えられずに操縦の為だけに阿頼耶識に繋がれていたら、誰もそんなことをしようなんて考えたりしないだろう。

 ブリッジからも、懐疑の声が上がってるし。

 だけど、おれは、阿頼耶識ってその為のシステムだと思ってる――クセの強いガンダム・フレームを、自分仕様にカスタマイズして、最大の戦果を上げるための。

 宇宙に出るためのチューニングの際に、ゲイレールからガルム・ロディにシステム干渉があった。それは、万一の際に、ガラン・モッサがガルム・ロディを破壊することを想定した措置だったけど、その時、おれからもゲイレールが見えた。

 本来ならゲイレールの優位性が高くて、ガルム・ロディからの逆侵入は不可能だったろう――が、生憎、おれの元の乗機はバルバトスなんだ。

 ガンダム・フレームのシステムコードは、ゲイレールのそれを上回ってたってこと。

〈クソガキめが!〉

 イサリビの直近で二機とも自爆するつもりだったんだろう――お生憎様。だから心中はゴメンだって。

 でも、こうして対峙するには、かなり分が悪い――なんとか隙をつかないと、そろそろ機体が限界にきてる。

〈三日月!!〉

 グシオンリベイク――昭弘の声。

〈バルバトスだ! 乗り換えられるか!?〉

「待ってた」

 ガタピシする機体を宥める――あとちょっと頑張って――全力推進でゲイレールに組み付く。そりゃもうガップリと。

〈〈――ッ!?〉〉

 うん。普通はやらんわな。MSで絞め技なんて。狼狽えるガラン・モッサの可動域をガッチガチに固めてやれば。

〈何やってんだ三日月⁉〉

 昭宏からも驚愕の声が。

 まあね、見ようによっちゃ『おれ諸共に敵を討て‼』って感じだけど、いやいや。心中はゴメンだって。

 ハッチを開ける。ゲイレールのハッチはおれの機体で塞いでるから、ガラン・モッサは出てこれない。

〈コレよろしく。中身はおれのだから、絶対に誰にも渡さないで。爆発物がある。艦破壊する規模だから気をつけて。解除方法はおれのコックピットから見て〉

〈ちょっと待て三日月!⁉〉

 一息に伝えて、宇宙間遊泳――バルバトスに取り付いて、コックピットに潜り込む。昭宏がなんか喚いてるけど、知らぬ。何とかして。

 うわ、バルバトス、久しぶり!

 阿頼耶識を繋げば、ロディ・フレームとは桁違いの情報量が ガガ…ァ…うお、一瞬飛んだ。

 詰まった息を吐く。

 大丈夫、“これ”がほんとのおれの身体。

「『三日月、行きまーす‼』」

 目眩を振り払って叫ぶ。

〈“ミカ”‼〉

 “オルガ”がまだ怒鳴ってる。ふはは。

 推進は最初から全開。さあ、待ってろ海賊。狙うは敵の首魁。

〈“ミカ”!!〉

 緊迫した“オルガ”の声が。

「……なに」

〈シノとダンジが突出してる。シノはともかく、ダンジがヤバい。――いけるか〉

「りょーかい」

 いま丁度向かってるところ。

 シノのことだから、どうせ、敵本隊に向かって突っ込んだんでしょ――ホラ、センサーが味方機を捉えた。

 って、アイツらあんなに突出しやがって。ほとんど敵本陣。すっかり囲まれてるじゃないか。

 ダンジを庇いながら応戦するシノの動きは賞賛ものだけど、流石に多勢に無勢で押されてる。

「喰らえ旋風脚!」

 うん、一度バルバトスでやってみたかったんだ――けっこう威力あるね!

 向かってきたガルム・ロディを蹴り飛ばしてみたら、数体が巻き込まれて飛んでった。

〈おせーんだよ三日月!〉

〈なんすか三日月さんその技⁉〉

「間に合ったんだ。文句言うな――って、ダンジ、実は余裕?」

〈んなわけないッス!〉

 ん。声が震えてる――限界かな。

「ダンジ、イチニのサンで、全力で後方へ戻れ。あとはおれたちで止める。な、シノ?」

〈おう。タイミング間違えんなよダンジ!〉

〈はい‼〉

 んじゃいくよー。

「イチニ〜の、サン!!!」

〈GO!!!〉

 メイスソードを大きく振って、指揮機らしきガルム・ロディにフルスイング。

「ホームラン‼」

〈何だかわかんねぇけどヒデェ‼!〉

 とか言いながら、シノの攻撃もなかなかエグいけどな。ふは。

 さて。ここらで一発かまさねばなるまい。約束したしね。

 大きく息を吸って。

「夜明けの地平線団のヒューマンデブリたちに告ぐ!」

 もちろん、通信は全開だ。さあ聞けよ、これが水無月・オリエの望みだ。

「今すぐ戦闘を止めろ! お前たちはもうすぐ開放される。おれが、サンドバックなんたらをヤるからだ‼」

〈“サンドバル・ロイター”だ‼〉

 うお。“オルガ”からツッコミが。

「悪党の名前なんてどうだっていいでしょ――取り敢えず、ソイツをヤるから、これ以上の戦闘は無駄だよ。だから選べ」

 お話し中に突っ込んでくる失礼なガルム・ロディの頭部は叩き潰す。

「クズ野郎に縛られたまま死ぬか、生きて抗うか、二つに一つだ。水無月・オリエは選んだ。ヤツは抗って死んだけど、おれをここに呼んだ」

 思えばおかしな縁だ。名前の響きが似てるってだけで選んだIDだったのに、あれこれ巻き込まれて、とうとうここへ辿り着いた。

 ジャンニに会って、ガラン・モッサの傭兵団に潜り込めたのだって、お前のお陰だったのかもね、水無月。

「ジャンニ、居るんだろ? お前からも言ってやれ‼」

 叫べば、程なくしてイサリビからも全回線に向けて通信が発された。

〈皆、聞こえるか? 俺だ。ジャンニだ――水無月が言っていたように、鉄華団を連れて来た〉

 夜明けの地平線団のヒューマンデブリ達に対する呼びかけ。

 ――ジャンニだ。

 それ程離れてたわけじゃないのに、何故か、その声が懐しい。

 淡々と語りかける声は、やがて激しさを増していき、

〈――夜明けの地平線団”をぶっ壊せ!!〉

 その叫びが、真空の宇宙空間に広がっていく――数体のガルム・ロディが戦闘を止め、あるいは戸惑うような動きを見せた。

〈今だ! 一気にやれ! 無抵抗のヤツには構うな、敵はサンドバル・ロイター!!〉

 “オルガ”が檄を飛ばす。

 はいよ。りよーかい。

 鉄華団すべての回線から雄叫びのような応えが上がる。

 さあ、敵の士気は挫いた。

 勝機はおれたちに傾いた。

 見ろよ――ここでも歴史の歯車が、またひとつ回るんだ。

「シノ、付いてきて。アストン、クランク、アイン、班組んで追ってきて、人員は任せる。昭弘、ライド、ダンジは艦の護り。艦のぶん回しはユージン、信じてる。ダンテは通信統制よろしく」

 言いおいて突っ込む。

 返事も待たずに――だけど、シノはピッタリとついてきてる。

 後方からも味方機が次々と。

 海賊の迎撃は激しさを増すけど、この程度はどうとでもなる。だてに傭兵団で戦ってきたわけじゃない――こんなの、なんども潜り抜けてきた。

 ガラン・モッサ、あんた、ほんとに凄い指揮官だ。

 たった二年足らずの期間で、叩き込まれたすべてが浮かび上がる。

 どう動けば良いのか、どう動かせば勝てるのか、いま、それがおれにも見えるよ。

 数に劣る敵に圧されて、海賊どもが浮足立っている。

 遅まきながら撤退しようとする気配すら――逃がしゃしないけどね。

 ほら。もう退路なんで無い。

 夜明けの地平線団を挟んで向こうの宙域には、ついに新手――アリアンロッド艦隊の反応が。

 ――来やがったよ。

 漁夫の利狙い。海賊どもが弱ったところを見計らっての参戦とは、ちょっとばかりズルいんじゃないの。

 先陣切って突っ込んできてるのは、じゃじゃ馬娘か。

 害獣め。そう旨いとこばかり持ってけると思うなよ。お前たちの出る幕なんてもう無いんだ。

「出てこい、サンドバック」

〈あんまり舐めるんじゃねぇぞ、小僧〉

 お。ドスの利いた声が。

〈“鉄華団の悪魔”だか何だか知らねえが、餓鬼が粋がったところでどうにもならねぇって事を教えてやるよ〉

 センサーが、急接近するエイハブリアクターの反応を拾った。

「ユーゴー確認」

 ようやっとお出ましかよ。

「シノ。反応は三機分だ。二機潜んでる」

〈こっちでも捉えた――これで隠れてるつもりかね〉

 馬鹿にしたみたいに鼻を鳴らす声。

「狙撃の名手の双子だ。抜かるなよ」

〈『はいよ。りょーかい』〉

 だから、おれの口真似するなっての。

〈三日月、お前はサンドバル・ロイターに専念しろ。他は俺たちで落とす〉

「アストン⁉ 早いな!」

 追ってこいとは言ったけど、もう追いつくなんて。

 これで3対3、イーブンで行けそう。

〈すぐにデルマたちも追いつく。『TAKONAGURI』にしてやれる〉

 おお、ホントだ。みんな来てる。これはイーブンどころじゃなく有利だね!

「流石! じゃあ、邪魔が入る前に狩ってくる」

 作戦名はTAKONAGURI。

 狙撃は無視して突っ込む。装甲に被弾しても弾くだけだし。センサーもリアクターも無傷。

 これなら集中砲火を浴びなきゃどうってことない――なんだ、おれの方が狙撃上手いじゃないか。後で自慢してやろっと。

「円月刀持ってるのは、アイツか」

 推進は殺さず、ソードメイスを振りかぶって斬りつける――受け流して絡め取るつもりだろうけど、わざと流される方向に加重すれば、ほら、ユーゴーは大きくバランスを崩した。

 脚部のアンカークローで捕まえにくるのも、想定内。ワイヤーを掴み取って、引き寄せて殴る。ついでにワイヤーは千切る。

 伸ばされる脚部シザーを掴んで敵艦装甲に叩きつけ、ソードメイスで右腕部分のジョイントを破壊、同様に両脚部のジョイントも潰す。

 さらに胸部をソードメイスで貫き、艦装甲に縫い止めてやれば、ユーゴーは不格好な標本みたいになった。

 ねえ、サンドバック。おれ、ガラン・モッサからMSの特性はスパルタで叩き込まれてんだよ。

 ユーゴーだって例に漏れず。

 寝る間も惜しんだ“お勉強”の成果を思い知るがいいさ‼

 通信からは〈馬鹿な〉だとか〈ありえん〉だとか〈ギャアア〉だとか、罵声と汚い悲鳴がずっと聞こえてた。

 回線繋いでるから、その情けない様子、皆んなが聞いてるんだ――勿論、ヒューマンデブリ達もね。

〈止めろ!! お前悪魔か!!?〉

「海賊に悪魔呼ばわりされたくない」

 殴る。殴る。殴る。殴る。

 さあ、唸れスタープラ☓ナ。オラオラの時間です。

 サンドバックをサンドバックに。

 ユーゴーがとうとう動かなくなったので、へしゃげた頭部をもぎり取る。確かここがコックピット。

 さて。持って帰ろうかね。

「サンドバック回収した!」

 報告すれば、皆の歓声が聞こえる――これ、鉄華団だけじゃないよね? 凄い声だ。

 海賊たちの抵抗は止んでる――逃亡は図ってるみたいだけど。

「シノ、アストン、そっちはどう?」

〈仕留めたに決まってんだろ! 大将首は譲ってやったが、こっちは譲るかよ〉

〈こっちも仕留めた〉

 さっすが‼

 艦の方も被害は軽微。あとはMS部隊だけど、主だったメンバーは無事っぽい。新入りは――ごめん、把握してないから分からない。

 それにしても、思ったより邪魔が入らなかった。

 じゃじゃ馬とかが飛び込んでくると予想してたんだけど。

 センサーの向こう側、月外縁軌道統制統合艦隊――アリアンロッド艦隊は、ただ逃げる連中だけを捕縛してる。

 いつの間にかレギンレイズは撤退してるし。

 首を傾げて、ふと思いつく。

 ――“オルガ”‼

 おれの“Daddy”、取り引きに使っちゃったね⁉

 

 

 

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