【成り代わり】鉄血のナントカ【異世界転生?】 作:くずみ@ぼっち字書き。
名瀬・タービンから連絡があったのは、蒔苗の爺を送り届けるために、“三日月”たちが地球に向かって出航した、その二月ほど後のことだった。
〈何やら、怪しいものを掘り出しちまったみたいでな〉
モニターの中の名瀬は、そう云って苦笑した。
〈ひとつは古いMS、もうひとつは、マシンなのは確かだが、正体が何とも……黒くて変なかたちの、地球の虫に似たヤツなんだが〉
プルーマだ、とぴんときた。
原作では鉄華団が掘り起こしたあれを、こちらでは名瀬が掘り返したのか。
「名瀬さん、あんた、ギャラルホルンには届けましたか」
訊いてみると、名瀬は首を振った。
〈いや、まだだ。ギャラルホルンに届けると、工事を中断して調査、ってことになるだろう。それがどうにも面倒でな〉
「面倒でも、届けて下さいよ! 後で、痛くもねぇ肚を探られたかないでしょう? それから、そいつが出たってことは、近くに本体も埋まってる。下手したら、大惨事になりますよ!」
〈大袈裟な……〉
名瀬は肩をすくめるが、冗談じゃない、このまま工事を進めて、“三日月”たちの留守の間にMA――ハシュマルが目を醒ませば、原作以上の惨事になりかねない。
〈って云うか、“本体”ってのはどう云うことだ? あの、虫みたいなのの本体か?〉
「そうですよ!!」
食い気味に云うと、少し引かれた気配があった。
「あの本体は、MAだ――あんただって知ってるでしょうが、厄祭戦の元になったアレですよ!」
〈正気か? 厄祭戦からは、もう三百年以上経ってるんだぞ〉
「その、三百年以上前の骨董品が、充分以上に動くってことを、あんたもよくわかってるでしょう」
バルバトスをはじめとするガンダムフレームは、そのMAと戦うために作られたMSなのだから。
そう云ってやると、名瀬は沈黙した。
「とにかく! 早いとこギャラルホルンに連絡を入れてください。こっちからもファリド准将に連絡しますが、あんたがきちんと火星支部に通報することに意味があるんですよ」
〈……わかったよ〉
と云いながら、肩をすくめる。どこまで本気にしているかはわからないが、とりあえず連絡はしてくれるか。
「それから! その虫みたいなのには、絶対にエイハブリアクターを近づけないで下さいよ! そいつがエイハブリアクターに反応して、本体が覚醒めないともかぎらないんですから!」
〈神経質だな〉
「冗談ごとじゃあないんです。あんたはそれで、あたりの農園やら、クリュセまで焼け野原にしたいんですか」
そう云うと、名瀬もさすがに真顔になった。
〈そんなにか〉
「そんなにですよ」
そうでなければ、こんなにくどくど云うものか。
「今、うちはパイロットやれる連中がほとんど出払ってるんだ。とてもじゃないが、鉄華団だけでどうこうできるもんじゃねぇ。――あんたがギャラルホルンに届けを出してくれれば、こっちも手の打ちようが出てくるんですよ」
蒔苗の爺のお供で、“三日月”、ユージン、シノ、アイン、クランク、アストンが地球行きのメンバーの中にいる。昭弘と、元ブルワーズ組のデルマや昌弘あたりは居残り組だが、ハシュマルは、それで片付けられるようなものではない。
〈……わかった〉
名瀬は、今度こそ真剣な面持ちで頷いた。
〈ギャラルホルンにはうちから届けを出す。現場は、どうしたらいい?〉
「とりあえず、規制線でも張っといて下さい。ギャラルホルンには、俺からも連絡を入れます」
〈頼んだ〉
そう云うと、通信は終了した。
火星支部の新江・プロトには名瀬から連絡が入るだろうから、こちらはマクギリスだ。
マクギリス・ファリドは、“夜明けの地平線団”の一件の後で、准将に昇進した。ガエリオやカルタもそうで、特にカルタは、地球外縁軌道統制統合艦隊の活躍もあって、位階の昇進以上に評価が上がっているようだ。
〈やぁ、オルガ・イツカ。今日はどうしたのかね〉
准将の制服――二期でのアレ――に身を包んだマクギリスは、にこやかだった。どうやら、ギャラルホルン内の地歩固めは、順調に進んでいるらしい。
そんなところにこんな案件を持ちこむのは、大変に申し訳ないのだが。
「……すんません、ファリド准将。厄介ごとです」
〈厄介ごと?〉
「えぇ――知人が、クリュセに近い土地で、ハーフメタルの採掘場を経営することになったようなんですが、そこから怪しげなものが出て来ましてね」
〈怪しげなものとは、随分もってまわった云い方だな?〉
「まぁ、ちょっと信じたくないものなんでね――“プルーマ”と云って、何かわかりますか」
と云うと、マクギリスは目を見開いた。
〈プルーマ? それは、まさか……〉
やはり知っていたか。まぁ、アグニカ・カイエルのフリークが、その単語を目にしたことがないとは云うまいが。
「一緒にMS――多分ガンダムフレーム、も出たようです。そのまま掘り進めると、本体が出てくる可能性が高い」
〈MAがか――まさか、稼働すると云うことは……〉
「わかりません。だが、ガンダムフレームが、三百年の時を経ても動くんだ、可能性はあります」
もちろん、動くのはわかっている。原作でそうだったように、簡単にプランテーションひとつを焼き尽くす可能性も。
〈……現場は〉
「頼んで、封鎖してもらってます。もちろん、MSは近づけないようにと云い含めて、ギャラルホルン火星支部に、届け出るようにとも」
〈助かる。早急に視察に出る。案内を頼む〉
「もちろんだ。――それと、頼みがあるんだが」
〈何だ〉
「アリアンロッド艦隊にも連絡を入れて、あちらからも視察要員を出させて欲しい」
〈何故〉
「連絡を入れないと、変に勘繰って、MSで乗りつけてこられそうな気がしまして」
主に、イオク・クジャンなどが。
〈……あぁ〉
と、納得顔で頷かれる。それもどうなのだ、イオク・クジャン。ジャスレイ・ドノミコルスとの通信の件と云い、軍人向いてないんじゃないのか。
「とりあえず、イレギュラーは勘弁してもらいたいんで、そう云うことでお願いします。もしも本当にMAが埋まってるんなら、破壊する方法なんかも考えねぇと」
〈埋め戻す、と云うわけにはいかないのかね〉
「ハーフメタルの採掘場にしようってんです、埋め戻して石碑なんぞ立てたところで、三十年も経てば、忘れて掘り返す輩が出てくるでしょうよ」
元のアレで、津波や洪水の被害を示した石碑を、やがて誰も見向きもしなくなったように。そうして、何かの被害が出てから改めて、過去の記録を紐解いたりするわけだが、それとてもすぐに忘れ去られるものなのだ。そうして、また歴史は繰り返す。人間と云うのは、学ばない生きものなのだ。
つまり、ハシュマルを見なかったことにして埋め戻しても、いずれ、何代か後の採掘場の主がまた掘り返し、かつ何もわからぬままに引き上げて起動させてしまい、甚大な被害を出す、と云う未来が待ち受けているだけだろうと思う。
それくらいなら、他にMAが見つかっていないのだし、この一機を何とか破壊して、後の患いを除いておきたい。
「それに、これを退治すれば、ギャラルホルンの存在意義はまだ維持される。ラスタル・エリオンがやったみたいな、敵をでっち上げるみたいなことは、当分やらなくて済むでしょう?」
恐らく、厄祭戦直後の原・ギャラルホルンは、自らがとどめを刺しそこねたMAの機体名とその“封印”の地を、記録に残したに違いない――被災した人びとが、災害の詳細を記録に残したように。
それを精査すれば、まだ完全に破壊されてはいないMAが、どこにどれだけあるのかがわかるはずだ。
開発によって、それらの“厄災”が覚醒めるより先に、一体一体探し出して破壊する、それをギャラルホルンの正当な仕事にすれば良いのだ。ギャラルホルンのような組織でなければ難しい仕事であるし、元々厄祭戦でMAと戦ったものたちが立ち上げたことを考えれば、設立当初の趣旨に沿った仕事であると云える。
そのためにも、今回はギャラルホルン総掛かりでハシュマルをしとめ、それを大いに喧伝すれば良いのだ。そうすれば、ギャラルホルンの存在意義を疑うものなどいなくなる。これこそ、ギャラルホルンの正しい有り様だろうと思うのだが。
〈……なるほど、確かにな〉
マクギリスは頷いた。
〈良かろう、そのために、今回のことが巧く運ぶなら、それが良い契機になる。ラスタル・エリオンにも、急いで連絡を入れよう〉
「あ、その時に」
それならばとつけ加える。
「ラスタル・エリオンに、イオク・クジャンの動向に気をつけて欲しい、って云っといて戴けませんかね。どうも、ハーフメタル採掘場の主の敵と、イオク・クジャンが繋がってるみたいで……いろいろ心配なんですよ」
〈どう云うことかね〉
「採掘場の主は、名瀬・タービンと云って、テイワズの輸送部門を統括してる御仁なんですが、その人と仲の悪いジャスレイ・ドノミコルスってのが、どうやらクジャン家と繋がりがあるようなんですよ」
JPTトラストって商社ご存知ですか、と問うと、名前だけはと返答がある。
「そこのトップです。まぁ、そいつはアレとして、イオク・クジャンが――何をやらかすか知れた人物じゃないってことですし」
〈……よく知っているな〉
苦笑される。
「できれば一生知りたくなかったですよ。――とにかく、そこに暴走されると、面倒なことになるでしょう。だから、アリアンロッド艦隊司令殿には、是非とも鎖をつけて、しっかり繋いでおいて戴きたいわけなんですよ」
〈わかった、伝えよう〉
「宜しくお願いします」
この話を聞けば、ラスタル・エリオンは多少なりとも手を打ってくれるだろうか。正直、イオクのようなタイプがこれまでにやらかしていない、などと云うことはあり得ないだろうから、多少の頭痛を堪えつつ、対策を講じてくれる――と思いたいのだが。
〈とりあえず、私とガエリオ、石動も加えて、そちらに出向くことにしよう。ラスタル・エリオンにもその旨を伝えて、然るべき人物を出してくれるよう云っておく。御自ら出てくるとは思われないが、信用のおける腹心を出してくるだろうな〉
「そうしてくれると助かります……」
〈君の方はどうするのかね。三日月・オーガスは、地球に向かっているのではないのか?〉
「そこは、蒔苗氏を送り届けたら、最速で戻ってくるように伝えてあります」
地球で遊びたい連中もあるかも知れないが、それをやられたら、連中が帰って来たときには、鉄華団本部どころか、クリュセも消滅しているかも知れないのだ。
幸いにと云うべきか、連絡を入れた時には、既に地上に降下していた――そうでなければ、即座に連絡などつかなかったろう、大気圏突入中は、通信なども一切使えない――ので、早々に帰って来れるはずだ。
「遅くとも一月後には、こちらに帰って来られるはずです」
〈……それまで、イオク・クジャンがもたもたしていてくれることを祈るしかないな〉
そうであってくれればありがたいのだが。
「まったくです」
溜息も深くなろうと云うものだ。
〈アリアンロッド艦隊から返答があり次第、すぐに連絡を入れよう。新江・プロトにもよくよく云い含めておく。その、採掘場の主にも、その旨伝えておいてくれ〉
「わかりました」
頷くと、微笑みが返って、通信は切れた。
とりあえず、名瀬にもう一度連絡を入れて、MAだけでなく、ギャラルホルン――と云うよりも、イオク・クジャンに気をつけるように伝えてなくてはならない。
採掘場の警備にMSを使って欲しくはないが、イオク・クジャンを止めるためなら、仕方がないか。正直、奴を止められないことの方が、あのあたりでMSで哨戒されるよりもなお悪い結果を導きそうだ。
溜息が止まらない。
もう一度深く溜息をつくと、名瀬・タービンに連絡するために、回線を呼び出した。
〈悪い知らせだ〉
マクギリスから連絡があったのは、わずか二日後のことだった。
〈ラスタル・エリオンから連絡があった。イオク・クジャンが、火星に向かったようだ。クジャン家累代の家臣たちを率いて出たようだな。ラスタルが、珍しく怒髪天を衝いていたぞ。どうやら、御大自らお出ましになるようだ。途中で、君のところのMSとパイロットを拾っていくと云っていた〉
「へ、へぇ……」
ラスタル・エリオン本人がご出座となれば、スキップジャック級戦艦と云うことになる。あれは全長800mだそうだから、ガンダムフレームだろうがグレイズだろうが艦載できるだろうし、多分推進力も大きいだろう。セブンスターズの各家専用艦はハーフビーク級――全長300m――だそうだから、うまくすれば、火星にほぼ同時に到着できるかも知れない。
〈イオク・クジャンも愚かだな……迂闊であるが故に昇進できないものを、何やら違うように取って、このような愚挙に出たのだろう。それとも、誰やらから何かを吹きこまれたか――あれに、MAの何たるかがわかっているとは思われない。今回ばかりは、ラスタルが間に合ってくれるよう願っているが〉
「俺もです」
原作でも、七星勲章とやらを取るのだと息巻いて先走ったのだったが、今回も似たようなことがあったに違いない。
「とにかく、そう云うことなら、うちから哨戒のためにMSを出しておきます。採掘場の主にも通告して、そちらからも人を――迅速にご連絡戴き感謝しますと、エリオン公にはお伝え下さい」
と云うと、マクギリスがくすりと笑った。
〈ラスタルが、厭な顔をするのが目に見えるようだな。――われわれもすぐに向かう。でき得る限り、イオクを止めていてくれ〉
「わかりました。では」
通信を切り、すぐさま名瀬に連絡を入れる。
「名瀬さん、悪い知らせだ、ギャラルホルンの馬鹿が、採掘場に向かっている。手柄に逸った阿呆で、悪いことにジャスレイ・ドノミコルスと繋がってたようだ」
〈ジャスレイだとぉ!?〉
名瀬は叫び、頭を掻き毟った。
〈あの野郎、やっぱり、採掘場の利権を俺に盗られたと思ってやがったな――しかも、ギャラルホルンだと!?〉
「あぁ。今、そいつの上司が、怒髪天を衝いて追っかけてきてるが――多分、奴の方が到着が早い。うちからも、昭弘たちを出すが、そっちからもMSを出してくれ」
〈昭弘って、あのいかついのだろう。ちっちぇえのは――って、そうか、お前ら、アーブラウの蒔苗東護ノ介の護衛をやったんだったな。……そっちはどうなんだ〉
「アリアンロッド艦隊の司令が、MSごと回収して、こっちに向かってくれるようだ。巧くすりゃ、途中で追いつくかも知れねぇが……最悪の事態を想定するしかない。うちとタービンズが、最後の防波堤、ってとこだ。それを押し通られたら、大惨事になる可能性が高いぞ」
モニターの向こうで、名瀬が身震いした。
〈冗談じゃねぇ、そんなことになったら、ハーフメタルの採掘どころじゃねぇぞ〉
「だから、ギャラルホルンに救援を求めたんだよ。――あぁ、プルーマのあんまり近くでMSに暴れられると、反応して、本体が起動するかも知れねぇ。難しいとは思うが、やり合うなら、なるべくプルーマから離れたところで頼む」
〈無茶苦茶云い出すな! ……あぁ、わかった、うちの連中に、そう伝えとく〉
「しょうがねぇだろう、俺としても、最悪の予想が当たっちまったところなんだよ!」
〈確かに最悪だな……ジャスレイの奴め――それに、イオク・クジャンか、憶えておく〉
最後は、ドスの利いた声だった。
「ジャスレイ・ドノミコルスについては、そっちで始末をつけてくれ。……とりあえず、昭弘と昌弘、デルマを出す。イオク・クジャンを迎え撃ってくれ」
〈おう〉
短く応えると、名瀬は通信を切った。
さて、ではこちらも動かなくてはなるまい。
内線で、事務室を呼び出す。
「昭弘は」
〈今は、多分新人をしごいてるよ〉
ビスケットがそう答えた。
「そうか。――悪いが、ダンジにでも代わらせて、俺のところに来るように云ってくれ。昌弘と、デルマも一緒にな」
〈……何かあったの〉
声を潜めた問い。
「こないだ云ったろ、名瀬さんとこの採掘場の件だ。どうも、ヤバいことになりそうだ」
〈そんな――三日月もシノもいないのに?〉
「アリアンロッド艦隊のが、ミカやシノたちだけ拾って、大至急で来てくれるらしいが――最悪の事態も想定される。とりあえず、打てる手は何でも打っておくさ」
〈……至急、昭弘に伝えるよ〉
「頼む」
そうして、実際に昭弘が社長室のドアを叩いたのは、それから五分も経たぬうちだった。
「オルガ、呼んだと聞いたが」
その後ろには、昌弘とデルマの姿もある。
「……来たな」
「ビスケットさんは、出撃だって云ってましたけど」
と、昌弘が、兄によく似た顔を緊張させて云った。
「三日月さんがいない間は、俺たちが頑張るんだって約束しましたからね。相手はどこです?」
デルマは、いっそ高揚しているように、まなざしをきらめかせている。
「残念ながら、あんまりいい相手じゃねぇ……と云うよりも、考えられるうちで最悪の敵だ。――厄祭戦の遺物が復活する」
「厄祭戦、って……」
「まさか、MAか!?」
ビスケットとマクギリスの会話を聞いたことがあったのだろう、昭弘は即座に反応した。
元ブルワーズの二人はわからぬようだが、それでも、昭弘の様子に、これは只ごとではないと感じたようだった。
「あぁ。正確には、まだプルーマと、ガンダムフレームらしきMSが発掘された段階だが……プルーマがいるなら、本体もどこかに埋まっている。しかも悪いことに、功を焦るギャラルホルンの馬鹿が、採掘場に向かっているそうでな」
「それを、俺たちで止めろと云うことだな」
昭弘の問いに、頷く。
「ギャラルホルンには連絡を取って、そいつの上司も大慌てで追いかけてるが、追いつけるかは微妙だ。ついでに地球に寄って、ミカやシノたちを、MSごと拾ってきてくれるそうだからな。――とにかく、俺たちは俺たちで、できることをやらなきゃならねぇ。できるなら、MAを起動させることなしに、その馬鹿を追い返したいが……最悪起動を許したら、とにかく被害を最小限に食い止めることだけ考える」
「策はあるのか」
「俺の小細工でどうこうできるような、生易しい相手じゃねぇ。一応、ナノミラーチャフは持っていくが……」
ナノミラーチャフは、エイハブウェーブを反射して、MSや戦艦の数が増えたようにレーダーを錯覚させる、謂わば煙幕のようなものだ。原作では、確か地球外縁軌道統制統合艦隊との戦いの折に用いられたようだが、もちろんこちらでは戦闘などなかったので、それがそのまま残っていたのだ。
MAが、いくら自律的に動いて索敵し、感知したものを殲滅するのだと云っても、そこは各種レーダーと人工知能の集合体、対レーダー兵器は多少は有効であるに違いない――尤も、学習能力も高い人工知能のようだから、それで誤魔化せるのは僅かな時間でしかないのだろうが。
「とにかくやるしかねぇ。下手したら、クリュセどころか、火星全部が焦土になる」
「それは……」
昭弘が言葉を失い、昌宏やデルマも息を呑む。
「まぁ、名瀬さんとこのタービンズからも人が出る。あちらもパイロットとして鳴らした人ばかりだからな、力にはなってくれるだろうが――MA相手じゃ、気休めにしかならねぇ。ミカたちと、ギャラルホルンが来るまで持ちこたえるぞ」
「……まさかとは思うが、お前も出るつもりじゃないだろうな、オルガ?」
昭弘が、疑念に満ちた声で云う。
それに、苦笑するしかなかった。
「流石に、MSで出る自信はねぇよ。だが、俺が本部で安穏としてるわけにもいかねぇだろ」
名瀬やギャラルホルンの手前もある、昭宏たちだけ出して、自分は安全な場所でふんぞり返る、などと云うわけにはいかないし、そうしたくもなかった。
「何の役に立つかはわからねぇが、俺ももちろん行くさ」
と云うと、昭弘が渋い顔をした。
「むしろ、お前は安全なところにいてくれた方がいいんだがな」
「だから、そう云うわけにはいかねぇんだって」
名瀬の手前も、ギャラルホルンとのかね合いもある。ラスタル・エリオン本人が来るかも知れないのに、こちらがパイロットのみと云うわけにはいかない。
それに、こう云う時に、現場から離れているのは性にも合わなかった。
「怪しくて悪いが、指揮は俺が執る。タービンズと協力して戦ってくれ。――最悪、相手は殺っちまっても仕方ねぇ」
MAの脅威に較べれば、セブンスターズの一家の後継を殺すくらい、何と云うこともない――例えその後に、何らかの刑を受けることになったとしても。
「……わかった」
昭弘か頷き、昌弘とデルマもそれに倣う。
「俺たちで、その阿呆を全力で止める。――すぐに出るか?」
「あぁ、そうしてくれ」
飛び出していく三人の背を見送り、自分もジャケットを引っかけて、事務室に飛びこむ。
「ビスケット、昭弘たちと出てくる。留守は任せた。……誰か、MWを動かせる奴が欲しいんだが」
「出てくるって、オルガ……まさか、前線に出るつもり!?」
ビスケットが、驚愕もあらわに叫ぶ。
「状況的に、俺が出ねぇわけにゃいかねぇんだよ。……で、誰をよこしてくれるんだ?」
重ねて問うと、暫の沈黙の後、答えが返った。
「ベテランはほとんど出払ってるからね。――新人だけど、ハッシュ・ミディって云うコを出すよ」
「ハッシュ?」
それは、原作で三日月にまとわりついていた若者だ。
何やらいろいろ鬱屈を抱えたタイプだったのは憶えていたから、ハッシュが入社してきた時に、MW部門でもSP部門でもなく、農業部門に突っこんだのだ。“三日月”は、本家よりももっと面倒くさがりで、かつハッシュが子どもでもなかったから、接触を回避させたかったと云うこともある。まぁ、そもそも“三日月”はついこの間まで“狩り”に行っていたわけだから、接点など持ちようがなかったのだが。
「そう。名前憶えてたの? 農業用MWばっかりだけど、かなりの腕前だよ。警備部門でもいいかなって思うくらい」
事情を一切知らないビスケットが云うのだから、その腕前は信じていいか。
「――わかった、それじゃあ、ハッシュ・ミディをよこしてくれ。ファリド准将に知らせてるから大丈夫だと思うが、もしもミカから、採掘場の場所を訊かれたら、座標を教えて、直接降ってこいって云ってやれ」
云うと、ビスケットは、微苦笑とともに頷いた。
「わかった。――気をつけてね。僕は、三日月に殺されるのはごめんだよ」
「わかってるって」
笑ってその背を叩いてやると、ジャケットの裾を翻して部屋を出た。
ハッシュ・ミディは、憶えていたとおりのモブ顔だった。
「ハッシュ・ミディか。任務の内容は把握しているな?」
「……ぅす。タービンズの運営するハーフメタル採掘場で、そこを狙ってくるMSを撃退する」
正確に把握しているのは結構だが、今どきの若者らしいそのもの云いは戴けない。
「……ハッシュ、最初だから注意だけにしておくが、上司や顧客にその返答はNGだ。上司も顧客も友だちじゃねぇんだ、返事はきちんと“はい”や“いいえ”、“です”“ます”で返せ。お前の教育もだが、会社の質も疑われる」
「……はい」
やや不満そうだが、きちんと反応するところは見こみがある。
「よし。……任務は、そうだな、そのとおりだ。但し続きがある。その採掘場には、厄祭戦の時に人間を殺戮しまくったMAが埋まっていて、その阿呆がMSで大暴れすると、そいつが地下から甦るかも知れねぇ、ってことだ」
云うと、ハッシュはごくりと唾を呑んだ。
「それって、つまり……?」
「つまり、下手をすると、俺たちは死ぬし、その上火星が焦土になるかも知れねぇ、ってことだ」
ハッシュの目が、うろうろと彷徨う。告げられた言葉を、どう捉えていいかわからない、と云うかのようだ。
まぁそうだろうなと思う。
農業部門にいたわけだから、これまでの業務中に見てきた光景は、若者の意気ごみを凋ませるくらいのどかなものだったはずだ。
それがいきなり、生きるの死ぬの、挙句に火星が焦土になるのと云われて、すぐに受け止められる人間はそうはいないだろう。例え、戦場に出たいと熱望していたとしても、だ。
もしも、これでハッシュが、MSでイオク・クジャンたちと戦えと云われたのだとしたら、もっと高揚して、武者震いでもしていただろう。
だが、ハッシュが乗るのはMSではなくMWで、“敵”であるMAは、火星の若者にとっては、御伽噺の中にしかいない、大袈裟な怪物でしかないのだろう。困惑が先行したとて仕方ないことだった。
「……俺は、MSに乗せてもらえないんですか」
「普通のMSで、どうこうできるようなモンじゃねぇ」
イオク・クジャンの部下たちは、そこそこに手練であるらしい。それを食い止めるのも中々に難だろうが、もっと危ないのは、そうしてMS同士で争っているうちに、ハシュマル本体が覚醒めてしまうことだ。
そうなったら、歴戦のパイロットと雖も、逃げ切れるかどうかすら怪しいのだ。
農業用MWをどれだけ巧く操れたとしても、そんなもので生き残れるとは思われない。
まぁ、実際自分だって、原作を見たと云うだけで、遭遇したことがあるわけではなかったから、危機感に関して云えば、ハッシュとは五十歩百歩と云うところだったのだが。
だがそれでも、農業プラントが消滅したのを“見た”のだ、少しは実感が伴っているのではないかと思う。
「まぁ、俺たちは、タービンズの名瀬さんと、少し後方にいることになる。昭弘たちが、巧く阿呆どもを止めてくれればいいが――万が一の時には、全力で逃げるんだ」
それでハシュマルが逃してくれるかどうかは怪しかったが。
ハッシュは、真剣な顔でこくりと頷いた。
「それじゃあ行くぞ。昭弘たちは、もう出てる。そう遅れるわけにゃいかねぇ」
イオク・クジャンが襲来しつつある以上、採掘場の警戒が最優先事項になる。
昭弘たちは先に行かせたから、イオクが最短で来たとしても、少なくとも採掘場が無人で、荒らし放題、と云うことはなくなるはずだ。
だが、
――多分、奴らは、レギンレイズとかで来るんだろうな……
グレイズの後継機と云うか、アリアンロッド艦隊で新たに開発されたレギンレイズフレームは、グレイズよりもフレームの強度を活かした機体だと云うことだが、そのあたりはよくわからない。
但し、ジュリエッタ・ジュリスの搭乗機であるレギンレイズジュリアは、最終回あたりでバルバトスと互角以上の戦いをやってのけたそうだから、パイロットによっては、ガンダムフレーム以上の強さを発揮できるのだろう――イオク・クジャンに、その力量があるとは思われなかったが。
――名瀬さんに、フラウロスを借りられたら良かったな……
とは思ったが、原作だとシノの乗った機体に誰を乗せるか、と云う問題もある。それに、三百年以上地中に埋まっていた機体は、改修しなくては巧くは動くまい。今回は、ギャラルホルンの全面的なバックアップもあるのだし、ガンダムフレーム三機――ガエリオがくるなら、キマリスも来るだろう――とグレイズ、ランドマン・ロディ改、それにフレック・グレイズとレギンレイズで、物量作戦でやるしかない。
MWが採掘場に到着すると、名瀬は既にその場にいた。横にいるのは、確か整備士も兼任する“ハンマーヘッド”のクルー、エーコ・タービンのはずだ。
採掘場近くに佇むMSは六機、うち半分は見慣れた鉄華団のものだから、残り三機に、ラフタ・フランクランド、アジー・グルミン、そしてアミダ・アルカが搭乗しているのだろう。
「……名瀬さん」
「おう、来てくれたのか。助かるぜ、兄弟」
「ギャラルホルンも、流石に拙いと思ってるさ。アリアンロッド艦隊と、監査局からもMSが来る」
「アリアンロッド艦隊はわかるが、監査局?」
「監査局のトップとその副官がセブンスターズだ。ガンダムフレームが一機来る」
「なるほど、お前んとこのちっちぇえのと合わせて、ガンダムフレームか三機か」
「あぁ」
ガンダムフレームは、元々が対MA戦用に開発された機体だと云うことだったから、いるだけでも士気が上がるだろう。実際には、阿頼耶識対応のガンダムフレームには、対MAのリミッターがかかっていて、“三日月”はわからないが、昭弘は動けなくなる公算が高いのだが。
だがまぁ、ジュリエッタ・ジュリスがレギンレイズジュリアで出てくれるのなら、その穴も多少は埋められるのではないか。
と、テント――仮設の作戦本部――にいた女が、声を上げた。
「オルガ・イツカ、通信が入ってるわ。相手は、ギャラルホルン火星支部、新江・プロト」
名前は知らないが、確かに画面で見た記憶のある、その女が、相手の名を告げた。
「……ありがとうございます」
礼を云って、通信機の前に立つと、モニターのないそれから声がした。
〈オルガ・イツカか〉
「はい。新江三佐、何か?」
〈ファリド准将から伝言だ。君たちのところのパイロットは、MSとともに回収した。最大速度で向かっているが、残念ながら、追いつくことは難しいだろう。……ファリド准将は、何やらMSを調達できたので、急いで追いかけるそうだ。……持ちこたえられそうか?〉
名瀬が通報しているので、新江はもちろん、この採掘場にMAが埋まっていることを知っている。
「わかりませんが、やるしかねぇでしょう」
そう云うと、新江はわずかに沈黙した。
〈……手助けできると云えないのが心苦しいが――万が一の時に備え、市民を避難させるよう、シャトルや船舶の手配は進めている。……その手前で、無事に鎮圧できることを祈っているぞ〉
「ありがとうございます」
簡単なやり取りで、通信は切れた。
「――何だって?」
名瀬が訊いてくる。
「うちの連中は、無事に回収されたらしいです。ただ、やはり阿呆どもの方が先行しているらしく、火星航路で取り押さえるのは難しそうだと」
「〜っ、クソ!!」
名瀬は云い、採掘場を守るように立つMSたちに呼びかけた。
「だとよ、アミダ、アジー、ラフタ! 準備はいいか!」
〈当然だよ!〉
〈もちろんだ〉
〈任せてダーリン♡〉
力強い返答だ。
「昭弘、昌弘、デルマ、お前らはどうだ?」
〈愚問だ〉
〈やれます!〉
〈任して下さい!〉
負けじと返る声。
「……いい返事だ」
これで、無事にイオク・クジャンたちを撃退することができればいいのだが。
じりじりしながら待つこと三日。
遂に、イオク・クジャンたちのMS隊が、ハーフメタル採掘場に現れた。
もちろん、ギャラルホルンの正規ルートや、“方舟”からの民間ルートを使ったわけでないのは明白だ。
多分、大気圏突入用のシールドか何かを使って、直接宇宙から降りてきたのだろう。MSはどれも、その時の熱で煤けているように見えた。
レギンレイズが七機――そのうち一機はダークカーキとイエローのカラーリング、あれがイオク・クジャン機か。
それから、アリアンロッド艦隊所属らしきグレイズが十機。小隊くらいの規模か。
――ラスタル・エリオンは、間に合わなかったな……
まぁ、それも当然だ。ラスタルの戦艦は、“三日月”たちを回収してからやってくるのだ。同時か、それより早く到着するなど、甘い見方でしかない。
この上は、いかにハシュマルを刺激することなく、イオクたちを退かせるかにかかっているのだが。
イオク機は、まさかこちらがMSで待ち受けていたとは思わなかったのか、一瞬、逡巡する気配を見せた。
――って云うか、レギンレイズで襲撃とか。
アリアンロッド艦隊のものだと喧伝しているようなものではないか。
「下がれ! ここには厄祭戦の遺物が埋まってる! MSのエイハブリアクターで刺激しないでもらおうか!!」
名瀬が叫ぶ。
〈こちらは、アリアンロッド艦隊麾下、イオク・クジャン以下六名! MAを破壊するために来た! そこを退け!!〉
「……阿呆が!!」
思わず吐き捨てる。
そんなに簡単に破壊できるようなら、見つけた段階で内々に処分してしまえるだろうし、そもそも破壊したからと云って、七星勲章を授与されるわけもない。
この男は、本当に何もわかっていないのだ。
「ギャラルホルン火星支部に通告し、現在、処分方法を検討してもらっている最中だ、お引き取り願おうか!」
名瀬は、まだ礼儀に則って呼びかけている。
が、逸るイオクが耳を貸すはずもない。
〈だからこそ、われわれが破壊してやろうと云うのだ! いいからそこを退け!!〉
「阿呆が!!」
救いようのない阿呆とは、このことに違いない。
「昭弘、昌弘、デルマ、あいつらを止めろ!」
最早、実力行使で止めるしかない。
〈〈〈おう!!〉〉〉
「あまり長引くと、地中のMAが反応して起動する可能性もある。手早くな!」
〈わかっている!〉
グシオンリベイクやランドマン・ロディ改が動き出す向こうで、タービンズの百里や百錬も動きはじめる。
〈おお、そこにあるのがプルーマか!〉
と、イオク機のカメラが、掘り出されたプルーマを捉えたようだった。
レギンレイズが脚を踏み出す。武器を取るでもない、よもや、このまま踏み潰そうと云う気か。
「止めろ、昭弘!」
グシオンリベイクが応えて動く。それに、まわりのレギンレイズ――緑にダークグレーの――が反応する。
〈無礼な! わが行く手を遮ろうと云うのか!〉
〈てめぇに好き勝手させるわけにはいかないんだ!〉
イオク機とグシオンリベイクが揉み合うのに、他のレギンレイズが割りこもうとした。
〈イオク様に何をする!〉
タービンズ組のMSにはグレイズが取りつき、採掘場の警備を邪魔している。
「イオク・クジャン!」
ヘッドセットに叫ぶ。
「あんたの上司がご立腹だぜ! 今、あんたを追っかけてこっちに向かってる! 俺たちにも、あんたを止めろと連絡がきた――おとなしくここから離れてもらおうか!」
〈何と、ラスタル様が……〉
イオク機が動きを止める。
その隙に、グシオンリベイクがMSを羽交い締めにしようとするが、レギンレイズ三機がかりで引き剥がされてしまう。
〈……いや! これもクジャン家の、引いてはアリアンロッド艦隊のため!〉
そう云いながら、イオクのレギンレイズは、ガンダムフレームと、その横に置かれているプルーマに近づいて行った。
〈これは……ガンダムフレームか? ……そしてこちらが〉
くるりとプルーマに向き直ったレギンレイズは、その脚を上げた。
「止めろーッ!!」
踏み潰すつもりだ、とわかり、そう叫ぶ。
が、その時には、レギンレイズの脚は、プルーマの上に落ちていた。
〈はは、小さい、小さいな!!〉
何度も何度も蹴りつけて、イオク機はブレードを引き抜いた。
〈とどめだ〉
「止せ!!」
叫ぶ。
「それはMAじゃない、本体は別にある! そいつを刺激して、本体を覚醒めさせるな!!」
〈本体?〉
イオク機が、芝居がかったそぶりでこちらを向いた。
〈本体だと? そんなものはないだろう。口から出任せを云うのも、大概にするのだな!〉
「……馬鹿め!!」
MSに乗れないことが、これほど悔しかったことはない。MWでも、自分で巧く動かせたなら、あの間に割って入ることもできるのに。
いや。
「ハッシュ!」
〈は、はい!〉
「MWを動かせ。あいつの前に!」
〈えっ〉
「いいからやれ! さもないと、厄祭戦の悪夢が甦るぞ!」
〈は、はいッ!〉
MWが動き出す。間に合うか、それとも。
だが。
〈喰らえ!!〉
イオク機の動きが速かった。
ブレードが、プルーマの背に突き刺さる――否、弾かれて、折れた刃先が飛んだ。
「うわぁ!!」
後ろの方で、名瀬が叫ぶのが聞こえた。
次の瞬間。
プルーマの目にあたる部分が、赤く輝き。
そして地下から、地震のような鳴動が起こった。
〈な、何だ!?〉
イオクが狼狽えたように叫んだ。
それに応えるより早く、地中から閃光が迸った!