【成り代わり】鉄血のナントカ【異世界転生?】   作:くずみ@ぼっち字書き。

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【成り代わり】鉄血のナントカ 17【異世界転生?】

 

 

 

「馬鹿野郎!!」

 そう、叫ぶしかなかった。

 誰に? イオク・クジャンにか、MWを止めてしまったハッシュにか、あるいは間に合わなかったラスタル・エリオンにか。

 否、多分、イオク・クジャンを阻止できなかった自分自身にと云うのが、一番正しい矛先だっただろう。

 地中から迸った閃光――もう明白だ、MAは、ハシュマルは覚醒めてしまった。

 そして、まだ“三日月”はいない。多分、ガンダムフレームは役に立たない。タービンズのMSも、厄祭戦の恐怖には敵わない。ここにあるすべてのMSとすべての人間を抹殺し、“殺戮の天使”は、火星を再び焼き尽くすのか――

「名瀬さん! ギャラルホルンに、アーレスの新江三佐に連絡してくれ!」

 せめてもと、呼びかける。

「MAが覚醒めちまった……早く、このあたりから人間を避難させてくれって!!」

 名瀬から返答はなかったが、バタバタとテントの中に駆けこんだからには、そのとおりにしてくれるのだろうと思う。

〈オ、オルガ……何が……〉

 昭弘の呆然とした声が届く。まさかの事態に、うまく呑みこみかねているようだ。

「MAだ!」

 吐き捨てる。

「あの馬鹿が、プルーマを刺激して、遂に本体を覚醒めさせちまった……地下からくるぞ、退避しろ!!」

 叫んだ瞬間。

 先刻とは較べものにならないほどの鳴動が、赤い大地を揺るがした。

 そして、

〈うわあぁぁぁ!?〉

〈な、何だ!!?〉

 グレイズやレギンレイズのパイロットたちの叫びが聞こえたかと思うと、大地が割れた。

 絶叫の響く中、大地の破れ目から、機械の鈎爪が伸びてくる。

「ハシュマル!!」

 そうして、その巨大な本体が、ゆっくりと地中から姿を現した。

 白と赤のカラーリング、長い脚と大きな鈎爪、広がる両翼は、天使と云うより鳥類を思わせる。しかも、馴染んだ鳥、鶴だ。

 見た目が鶴と云うと、戦闘力はそう高くもなさそうに思えるが、その実は異常な強度を誇る個体であることは、原作でよくわかっている。

 メカデザイン担当が、“プルーマを内部で生み出すのは困難だと思われるので、別ユニットと接続して生産しているのだろう”と云っていたが――既にハシュマル本体とともに地中から這い出すプルーマの数は、イオクたちやこちらのMSの数を超えている。これ以上の製造が不可能だったとしても、対応に苦慮する数だった。

 と、ハシュマルの片脚が上がり、手近のグレイズを踏みつける。そのまま、頭部からビームが発せられ――次に見た時には、グレイズはもう原型を留めてはいなかった。

〈な……〉

 イオク・クジャンの、狼狽し切った声が聞こえる。

〈何だあれは!!〉

 ――馬鹿か!!

「あれがMAだよ、馬鹿野郎!!」

 本当に、まったく想像すらできなかったのか。

 ハシュマルの足下からは、プルーマもぞろぞろと這い出してくる。“プルーマ”とは“翼”の意味だそうだが、こうして見ると、木造家屋に救うシロアリの類――プルーマは黒いが――か、あるいは異形の蟹のようにしか見えなくなる。生理的な嫌悪感を抱かせる姿だ。

 プルーマは小さいが、並のMS以上のパワーを持つと云う。それが、ざっと見たところでも二十機以上いるようだ。

 昭弘たちも、タービンズのパイロットたちも、イオク・クジャン配下のギャラルホルン士官たちも、並以上のパイロットではあるだろうが、果たして、かのプルーマをすべて潰すことができるかと云うと、怪しいだろう。

 その上プルーマは、本体が沈黙しない限り、機能が完全に停止することはないと云うことなので、ハシュマルを沈黙させない限り、完全停止は難しい。

「とりあえず、プルーマを潰せ! 昭弘は、本体には近づき過ぎるなよ!!」

〈〈〈おう!!〉〉〉

 応えは威勢が良かったものの、その勢いどおりにことが運ぶわけもない。

〈くそぉ、意外に硬いぞこいつら!〉

〈関節部分……ブレードが入らねぇ!〉

〈うわ、うわあぁ!!〉

「どうした!」

 昭弘たちや、まして女たちの声でもない。が、気になって問うと、

〈グレイズが一機やられた……〉

 昭弘の、詰まったような声が答えた。

〈マニピュレータで、コクピットを一撃だ……多分、パイロットごと串刺しにされただろう……〉

 誰かの、吐き捨てるような吐息が耳を打った。

「だが、止まったらやられる――とにかく潰せ!」

 こうなっては、指揮も何もあったものではない。

 後ろを振り返り、テントの名瀬たちにも叫ぶ。

「名瀬さん! ここはヤバい! あんたは嫁さんたちを連れて、撤収しろ!!」

〈お前はどうするんだ!!〉

 機材を撤収する女たちの横で、名瀬が叫び返してくる。

「ギャラルホルンの手前もある、俺はまだ残ります!」

〈死ぬ気か!!〉

「死にませんよ!」

 まだ、死ぬはずがない。

 ハシュマルは“三日月”が倒す。それをこの目で見るまでは。

「そうだろ、ミカァ!!」

 叫んで振り仰いだ空に、一点の光。

 降ってくる、それは、隕石でも宇宙船でもなく。

 炎をまき散らす――

「……来るぞ!!」

 次の瞬間、星が爆発した。

 そんなようにも思える轟音、地響き、そして爆風。生きているのが不思議なほど。

 いや、それでも、こちらに当たった風は、まだ少なかっただろう――何故なら、“爆心”とこちらの間に、巨大なシールドが突き立っていたのだから。

「無事か、名瀬さん!!」

〈……何とかな……〉

 よれよれした声だったが、それでもどうやら生きてはいるようだ。少なくとも、瀕死の重傷ではないらしい。

 シールドの蔭からよく見れば、レギンレイズやグレイズなども、あの爆風で弾き飛ばされてしまったらしい。壊れてこそいないものの、あちらこちらに腕やら脚やらが見える――砂礫の山の間から。

「昭弘、昌弘、デルマ、無事か!!」

〈……間一髪な〉

〈生きてます……〉

〈半分埋まりました……〉

 返答があるなら大丈夫だろう。

 ハッシュは、完全に竦んでしまっているようだが、それでも無事だ。MWに、石飛礫による傷もついてはいるが、動かなくはない。その程度。

「ハッシュ、動かせるか」

 声をかけるが、返答はない。声すら出せないようだ。

 仕方ない。

 MWを降りて、シールドの近くへ。

 その先に見えたのは、

「――バルバトス……!」

 見慣れた白のMSが、メイスを大地に突き立てるように立っている。“大地”、否、ハシュマルにだ。

「ミカ……!」

 まさか、成層圏から落下する、そのままの勢いで打擲したわけではあるまいが、それに近い速度と力が加えられたのは間違いない。

 ハシュマルは、大きくそのボディを曲げられていた。

 完全停止ではないが、ボディがあれだけ曲がっては、機動力だけは削がれただろう。

 と、生きているプルーマが、MAに近づいていく。

 はっとした。確かハシュマルは、ボディのダメージをプルーマに修復させることによって、無限に再生するのではなかったか。

「昭弘、昌弘、デルマ! プルーマを潰せ! MAが再生する!!」

〈お、おう!〉

 意味はわからない様子ながら、グシオンリベイクとランドマン・ロディ改が動き出す。

 その会話を耳にしたのだろう、百里と百錬、レギンレイズやグレイズたちも、プルーマを潰すために動き出した。

 それを確認して、MWに戻る。

「ハッシュ!」

 まだ呆然としているその頬を、かるく叩く。

 と、ぱちぱちと瞬きして、まなざしがやっとこちらを向いた。

「ハッシュ、逃げるぞ。退避だ――わかるか?」

「あ……は、はい」

「次もくる。ここは危ない」

「……はい!」

 頷いて、MWに乗ると、すぐさまそれは動き出す。

 もしかしたら、ハッシュは“次”を“次のMA”と考えたかもしてないが、そうではない。

 空を仰ぐと、また流星が見えた。

 二つ、四つ、否、もっと。

 あれは――

〈いくぜ、流、星、ごーッ!!〉

「シノ!!」

 ピンクのグレイズが、落ちながら、その加速のままにプルーマの上へ。

 さしもの硬度を誇るプルーマも、成層圏からの落下エネルギーには勝てなかったようだ。いくつかが、潰されて爆発する。

〈シノ!!〉

 昭弘が叫ぶ。

 続いて、

〈昭弘さん、昌弘、デルマ、避けろ!〉

 オルトロスも、プルーマの上へ。

 それから、レギンレイズが二機、ガンダムキマリス、そして白い――あれはまさか、ガンダムバエルなのか?

 赤い砂煙が次々に上がり、グレイズやレギンレイズが跳ね飛ばされる。

 見る間に、プルーマの数は1/5ほどに減らされた。

「ミカ!!」

 バルバトスに呼びかける。

 まさか、ハシュマルにメイスを突き立てた状態で、ガンダムフレームのリミッターがかかって動けない、とか云うことなのか。

「おい、どうなってんだミカ!」

〈……だいじょうぶ〉

 ゆっくりとした声が応える。

〈ちょっと止まってただけ。――結構ハードだよね……〉

 と云うのは、バルバトスの負荷が、と云うことだろう。

「……やれるか」

〈やるよ〉

 返答は、簡潔だった。

「よし!」

 それならば、この場は任せた。

「昭弘、昌弘、デルマは後退! 名瀬さんたちの撤退を掩護! シノとアストンは、ミカの掩護だ! ――ハッシュ、動かせるな?」

「……はい!」

〈――俺は、留まらなくて良いのか〉

 昭弘が、やや不満そうな声で云う。

 が、ガンダムフレームは、MAと相対した時に、リミッターがかかって機能を停止してしまうはずだ。

 “三日月”は、どうにかしてそのリミッターを解除したようだが、昭弘にその芸当は難しいだろう。

 グシオンリベイクが停止してしまえば、MAがやりたい放題することになる――それは、パイロットの死を意味する。

 それくらいなら、はじめからMAの影響を受けにくい位置まで後退して、そこで掩護してくれた方が、こちらとしても安心なのだ。できるパイロットを、みすみす失うような差配をするのは、愚の骨頂だ。

「MA相手じゃあ、ガンダムフレームは、チューニングしないと止まっちまうんだよ。戦場でMSが停止したら、死ぬしかねぇ。俺は、ここでお前を失うつもりはねぇんだ」

〈――わかった〉

 そう応えた声は、まだ不満を滲ませてはいたが、それでも、了承はしてくれたようだ。

 グシオンリベイクは、ランドマン・ロディ改を伴って、名瀬の退路を守るように動いた。

「――よし、俺たちも退くぞ!」

 ハッシュに云うと、MWも動き出した。

 しかし、

 ――バエルが来るとは……

 ガンダムバエルは、マクギリスの偏愛するアグニカ・カイエルの乗機だったはずだ。確か、ヴィーンゴールヴの地下に封印されているとされていたような気がする。

 例え動かせる場所にあったとしても、バエルはそのシステムが、阿頼耶識を持つものにしか対応しない――つまり、普通のギャラルホルン士官たちには動かせない機体になっているのだ。

 それを動かしたとなると、パイロットは一人しか考えられない。

 ――マクギリス……

 いつの間にか、阿頼耶識の手術を受けていたと云うのか。

 確かにかれは、バエルに乗るのだと云っていたが、人体改造を忌避するギャラルホルンにあって、そんなことをすればどんな批難を受けることか――

 ――否。

 それでもマクギリスは、どうしてもバエルに乗りたかったのだろう。

 それならば、こちらはそれを掩護するのみ、だ。ギャラルホルンそのものを、MAと戦う組織へと変革する。

〈――おい、オルガ・イツカ! 俺は一体、どうすりゃいいんだ!〉

 名瀬の、珍しくも狼狽した声が響く。

「とりあえず、あんたんとこの連中も下げろ!」

 後は、うちとギャラルホルンに任せろ、と云うと、名瀬ではなく、当のパイロットたちから不満の声が上がった。

〈あたしらに、逃げろってのかい?〉

〈そりゃ、聞き捨てならないね!〉

〈舐めてんの!?〉

「MS相手なら、あんたらに下がれとなんざ云わねぇさ」

 だが、相手は厄祭戦の魔物なのだ。

「それに、あんたらの真の敵は、MAじゃねぇだろ? それを倒さずに、こんなところで死ねねぇだろうが」

 イオク・クジャンを焚きつけた、“諸悪の根源”を抛って、ここで消耗することが本意なわけではあるまい。

 女たちは、一瞬黙りこんだが――やがて、舌打ちひとつが聞こえると、百錬が方向転換した。

〈ボウヤに云われるのは癪だが、正論だね。……行くよ、あたしたちの敵は、ここにはいない〉

 アミダ・アルカの声に、百里たちも方向を変える。

「……納得してくれたようで、何よりだ」

 ほっと息をつく。

〈あぁ。――確かに、あの野郎をぶっ飛ばすまでは、死ぬに死ねねぇな。この落とし前は、きっちりつけてやる〉

 しかしまぁ、こちらとしては、これで様々なことに道筋がついたわけだから、悪いことばかりでもなかったのだが。

 ――まぁ、感謝してやる謂れは、欠片もねぇがな。

 鉄華団本隊のほとんどが出払っている時を狙って、ことを起こされたのだ、恨むのは筋違いではあるまい。

 とは云え、これで名瀬も、ジャスレイ・ドノミコルスを排除する大義名分を得たわけだから、マイナスばかりでもないだろう。こちらも、プラスだとは云いたくないにせよ。

 念のため、逃げるのは農業プラントとは反対の、鉄華団本部方面にする。機動力のない農家の人びとと違って、鉄華団の面々ならば、MWでもトラックでも、逃げるための“足”には事欠かないからだ。

 1、2kmも退避しただろうか。

 小高い丘の上で止まって後ろを振り返ると、MSの一群が、MA相手に戦う姿が、砂煙の向こうに見えた。

 

 

 

「……凄ぇモンだな」

 下の方から、名瀬の声がした。

「……名瀬さん」

「あれが、厄祭戦の遺物か……知らずに掘り返してたら、確かに大惨事だったぜ」

 正直助かった、と云われるが、あまり実感はない。

 今回は、あまりにも後手後手に回った印象しかないからだ。

「もうちょっと、巧くやれたんじゃないかって、思わなくもないんですがね……」

 云いながら、MWを降り、名瀬の隣りに立つ。

 ダンテから情報を巧く吸い上げることができていれば――だが、いずれにしてもギャラルホルンを待ってのMA討伐になったはずだから、こちらのタイミングがどうと云う話でもなかったか。

 そう呟くと、背中をばしんと叩かれた。

「馬鹿云うな。ギャラルホルンに届けないで奴らが来ていたら、こんな騒ぎじゃ済まなかったはずだ。お前がクドく云ってくれたからだぜ」

 そのあたりは、何とも云い難かった。

 ギャラルホルンに通報しなければ、イオク・クジャンが動かなかった可能性もあるからだ。

 だが、名瀬はどのみち、テイワズ本体には報告を上げなければならなかっただろうし、そうなればジャスレイ・ドノミコルスの耳にも入って、イオクに伝わる、と云う可能性の方がより高そうだったから、結果は同じか。

「とにかく、これが終わったら、俺は歳星に行って、“親父”に今回の件を注進するつもりだ。あの野郎、俺が黙って引き下がると思うなよ……」

 最後は、独り言のようだった。

 なるほど、こう云うところが、“テイワズ一の武闘派”と云われる所以か。どうも、女子どもを甘やかしているところしか見ていない――それは、こちらでも原作でもだ――ので、名瀬のこう云う顔は、ほとんど初めて見る。

「……殺るんですか」

 ジャスレイ・ドノミコルスを。

 云うと、にやりとした笑いが返ってきた。

「“親父”の手前もある、即とはいかねぇさ。だがまぁ、釘は刺すし、“親父”にしても、お咎めなしにはしねぇだろうよ」

 ハーフメタル採掘場が原因で火星が焼野原になれば、テイワズ本体にも追及の声が上がるだろうからな、と云う。

 確かに、テイワズ系列の採掘場から現れたMAが、火星の都市やプラントを破壊したとなれば、責任の追及は免れまい。その場合、名瀬は死んでいた可能性が高いから、そうなればテイワズ本体、つまりはマクマード・バリストンの責任となるだろうことは、想像に難くなかった。

 まぁ、しかしこれは、結局は他処の内部抗争なのだ。こちらとしては、それに少々力を貸しただけのことで、その先は名瀬やテイワズ本体で処理してもらうべき事柄なのだ。

「まぁ、頑張って下さいよ」

 テイワズで処理してもらうべき問題ではあるのだが、ジャスレイ・ドノミコルスの性格からして、こちらに飛び火しないとは云い切れなかった。原作で見た限りでも、ジャスレイは、名瀬とアミダ・アルカを殺した後にも、ラフタ・フランクランドを殺したりした男だ。結局は“オルガ・イツカ”――と、その意を受けた鉄華団――に殺されたのだが。

 つまり、放置すれば、このラインでも、こちら側――鉄華団に飛び火する可能性は十二分にあった。

 まぁ、今回の件で、イオク・クジャンは処分があるだろう――降格か謹慎か――から、ギャラルホルンを使っての小細工はできないだろう。そのことが、救いと云えば救いだった。

 と、名瀬がじっとこちらを見つめてきた。

「……何ですか」

「お前、今からでもテイワズの傘下に入らねぇか。そうなりゃ、俺としても心強いし、“親父”も喜ぶと思うんだが」

「だから、ヤクザもんの抗争に巻きこまれたくないって云ったでしょうが」

 聞かねぇ人だな、とぼやいてやれば、喉を鳴らすような笑いが返った。

「だがな、お前がセブンスターズのファリド家やボードウィン家、イシュー家と繋がってるってのは、今や誰でも知ってることなんだ。それでその歳となりゃ、軽く懐柔できると踏んで近づいてくる輩は、この先増えると思うぜ? そんな時に、テイワズの傘下に入ってるってのは、いい隠れ蓑になると思うんだがなぁ」

「……あんたが、この後のごたごたを片付けて、正式にテイワズを継いだ後なら、考えてみてもいいですよ」

 少なくとも、ジャスレイ・ドノミコルスの件に、完全に片がついてからならば。

「おいおい、そりゃどんだけ先の話だよ」

 名瀬は、呆れたような声を出したが――テイワズ傘下云々は、それこそ今の体制が一新されない限り、こちらにとってはいつまでもリスクだらけの案件でしかないのだ。

「云ってるでしょう、ガキの集団なんだ、危ない橋は渡りたくねぇんですよ」

「だが、お前らは、もうそう云うところへ足を踏み出しちまったんだぞ」

 と、名瀬が指し示す先で、人間のそれではない動きでMAに一撃を入れるガンダムフレーム――バルバトスの姿があった。

 今までの、格闘技めいた動きや、人間の脳からはじき出された動きでもなく、敢えて云うならマシンの、マシンによる、四肢をばらばらにしたような、あり得ない動き。

「バルバトス――あれは、お前んとこのちっせぇのだろう? MAを斃せるヤツがいると知れたら……どうなるかなんて、お前にゃ云うまでもねぇことだよな?」

「……あぁ」

 鉄華団の抱える“力”は、この先脅威になる――それはわかる。それこそ“昔”もそうだった。

 だが、中途半端な力は殲滅の対象になるが、“強さ”を大きく超え、世界の脅威になるほどの力は、逆に取りこもうと云う輩に狙われることも、またよくわかっている。

 つまり、名瀬はテイワズのために、この鉄華団と云う突出した力を自分の下に取りこみたいのだ。いずれ、自分がテイワズを獲る時の手駒としての意味もこめて。

 しかし、

「――テイワズに、俺たちを飼わせるつもりはねぇよ」

 売りつけるなら、もっと大きなところに、効果的に売りつける。

「テイワズでは不服だってぇのか」

「デカいったって、テイワズは一民間企業じゃねぇか」

 どうせ売りつけるなら、世界を支配するほどの力がいい。そう、それこそギャラルホルンとか。

「俺が跪くなら、宇宙の王くらいじゃねぇとな」

「大口叩くじゃねぇか」

 名瀬は嗤った。

「それなら何か、あのセブンスターズの坊っちゃんは、お前が跪くに相応しい相手だってぇのか」

「宇宙の王、とまではいかなくとも、加担してやりてぇ相手ではあるな」

 原作を見ていた時には、そこまでマクギリスに肩入れしていたわけではなかったが――こちらでギャラルホルンに近づくために、あの男に接触してみると、意外に可愛いところがあると云うか、まぁ“歳下”だと実感したと云うか。

「……悔しいぜ、俺も、あの坊っちゃんに負けねぇ気でいるんだがな」

「そこらへんは、若さの問題かな」

 名瀬は、もう守るものがあり、武闘派と云われながらも、やや守勢に入っている部分はあると思う。

 別に、守勢に入った人間が嫌いなわけではない――それはそれで、可愛く見えるところはある――が、自分の上に戴いても良いかどうかとなると、話は違ってくる。

「無謀さを買ってるってわけじゃあないが、あんたじゃ世界は変わらないからな」

 圏外圏の人間の、あるいはヒューマンデブリたちの、人権を守るには、テイワズでは駄目なのだ。

 あのラスタル・エリオンのつける道筋を変えるには、ギャラルホルンの中の人間でなくてはならない――その段で、名瀬は候補からは外れている。もちろん、テイワズを今支配しているマクマード・バリストンにしても、同じことだ。

「蒔苗の爺さんにもできなかった、地球と圏外圏の不平等是正と、ヒューマンデブリの解放のためには、テイワズじゃ不足なんだよ。四大経済圏の上に立てる可能性があるのは、ギャラルホルンくらいだろ」

 原作のように、マクギリスが革命軍を起てるわけではない以上、ギャラルホルンに加担したところで、すべてがまるく収まるわけではないのはわかっている。

 だがそれでも、何もしないよりは大分ましなことは確かだし、原作のように、鉄華団が弾圧されないのなら、少なくとも悪いこととは云えないのだと思うのだ。

「お前は、圏外圏の王にでもなろうってのか」

「王になんかなれやしねぇだろ。むしろ、“圏外圏の”って云うんなら、俺たちは“剣”だな」

 地球と、ギャラルホルンと、不平等と戦うための剣。

「政治向きのことは、あのお嬢さんに任せるさ。“革命の乙女”は、立派な“王”になってくれるだろうぜ」

 “圏外圏の象徴”と云う意味においても。

「……お前の方が、よっぽど政治向きだと思うがな」

 名瀬がそう云った時、地響きが大地を揺るがした。

 顔を向ければ、激しく上がる砂煙の中で、立ち尽くすバルバトスと、二つに分かたれたハシュマルの、地に伏せた姿が目に入った。

 

 

 

 ハッシュにMWを動かさせ、戦場に立ち戻る。もちろん、昭弘たちや名瀬、タービンズのMSも一緒にだ。

 辿りついてみると、そこにはシノとアストン、それからギャラルホルンの面々が居並んでいた。長い黒髪の若者――イオク・クジャンは、手錠をかけられて坐りこんでいる。まぁ、MA復活の発端になったのはこの男なのだから、拘束されるのは当然だろう。

「やぁ、オルガ・イツカ」

 爽やかな笑顔を向けてきたのは、マクギリス・ファリド。

 いつものセブンスターズの制服に身を包んでいる――“オルガ・イツカ”のように半裸ではない。バエルが動いていたのを見ていなければ、背中に“ヒゲ”を探しもしなかっただろうくらい、いつもと変わらぬ風情だった。

「――ファリド准将、バエルにのっていたのはあんたですか?」

 確か、ガンダムバエルは、阿頼耶識なしには乗れない機体だとあったはずだが。

 問いかけると、マクギリスは良い笑顔で頷いた。

「そうだ。大急ぎで施術してもらってな。火星まで三週間、何とか間に合って良かったよ」

「何やってんだ、あんた!」

 ギャラルホルンは、阿頼耶識のような人体改造を忌避しているはずだ。それなのに、准将と云う立場でそんな施術――内部から反発でもされたらどうすると云うのか。

 マクギリスは、片眉を上げた。

「君が云ったのだ、“ギャラルホルンは、MAを狩る組織になれば良い”と」

「……あ?」

 思わず間抜けな声を上げてしまう。

「MAと戦った象徴と云えば、アグニカ・カイエルの搭乗したガンダムバエルだ。かつてのギャラルホルン復活の、象徴となるべきは、このバエル――それに乗るために阿頼耶識が必要なら、施術を受けるべきだと思ったのだ」

「聞きやしないんだよ、マクギリスは」

 と、こちらは多分阿頼耶識手術を受けてはいないガエリオが苦笑する。

「だがまぁ、確かに阿頼耶識システムは凄い――マクギリスは、元より優秀なパイロットだったが、今回はやはり動きが違った。お前のところのクソガキと云い、やはりMA相手では、阿頼耶識なしには厳しいのかね」

 あのクソガキは、七星勲章ものだな、と肩をすくめる。

「――オルガ!」

 と、向こうから駆け寄ってきたのはシノ、とアストンだ。

「……ミカはどうした」

「それが……」

「三日月さん、返事がなくて」

 二人とも、息を切らせ、肩を大きく上下させている。

「……まさか」

 中でどうにかなっているとか、そう云うことは――

 慌ててバルバトスに駆け寄り、グシオンリベイクの手も借りて、何とかコクピットに手を伸ばす。

 開けて中を覗きこむと、

「……寝てる」

 口を半開きにして、すぴすぴと平和な音を立てて。

「だ、大丈夫なのか」

 昭弘も、グシオンリベイクのコクピットを開けて覗き見るが、一目見るなり黙りこんだ。

「……寝てるな」

「あぁ、平和な顔してやがる」

 寝こける“三日月”の頬を、ぺちぺちと叩く。

「おい、起きろミカ。寝るなら、せめてケーブル外してからにしろ」

 と云うが、起きる様子はまったくない。

 仕方がない。

「どうする、オルガ」

「グシオンリベイクで、バルバトスを引きずって行けるか?」

「あぁ、それは平気だが……三日月はどうする」

「そのまんまにしときゃ、寝苦しくて目が醒めるだろ。それか、腹が減って目を醒ますかだ。どうせケーブルが外せなきゃどうにもならねぇんだ、放っとけ」

「……わかった」

 そう云って、昭弘は、グシオンリベイクの手を地上に下ろしてくれた。

 マクギリスたちのところに戻ると、アリアンロッド組のパイロットが、MSから降りたところだった。

「お前が、鉄華団の団長ですか」

 突慳貪な声の少女が、例のジュリエッタ・ジュリスだろう。背筋をぴんと伸ばして、まっすぐにこちらに歩いてくる。亜麻色の髪と大きな深い色の瞳、スレンダーな、少年じみたシルエットの少女だ。

 そして、その後ろからやってくる、仮面を被ったガタイの良い男。

「……ヴィダール、にしては、横幅……」

 横幅が広い。

 と云うか、そもそもヴィダールはガエリオ・ボードウィンだったはずだから、そこにガエリオ本人がいる段で、これは別の人間だと云うことになる。

 このラインで、“ヴィダール”になれる人間と云えば――

「……ガラン・モッサか」

 小さく呟いたが、ジュリエッタの耳には入ったようだった。

「何ですかそれは! 髭のおじさまは、そんな名前ではありません!」

 ――じゃあ、何て名前なんだよ……

 とは思ったが、もちろん口に出すほど馬鹿ではない。それに、確かに“ガラン・モッサ”の名前は、ラスタル・エリオンなどには伝えていなかったようだったのだから。

「と、云うか、お前はおじさまのことを知っているのですか? 今、“ヴィダール”と云いましたね?」

「違ったか?」

「いいえ。……ですがお前は、今の今まで火星に釘付けで、われわれのことも今見知ったはずですね? それでどうして、おじさまのことを知っているのです?」

「……聞きたいのか、お嬢ちゃん?」

 面倒になって、そう切り返すと、少女はかっとなったようだった。

「馬鹿にしているのですか!」

 ――うーん、純粋培養。

 クーデリアとは別の意味で。

「なぁ、“ヴィダール”さんよ、こんなにわかり易くて大丈夫なのか?」

 仮面の男に問いかけると、微苦笑する気配があった。

「お前に較べれば、誰でも、先走りがちに思われるのも仕方あるまい」

「……そうくるか」

 その返答は、ほとんど“面識がある”と白状しているも同然なのだが――まぁ、武士の情だ、黙っておいてやろう。

「あー……まぁ、とりあえず助かった。そこの阿呆に関しちゃ、云いたいことはいろいろあるが……」

「イオク・クジャンに関しては、セブンスターズ会議で審問にかけられることになるな」

 そう云ったのは、マクギリスだった。

「イオク・クジャンは、エリオン公の制止を振り切って出撃し、結果、MAを目醒めさせた――われわれや鉄華団の諸君が間に合ったから良かったものの、下手をすれば、厄祭戦再び、ともなりかねないところだったのだ。その処分は厳正に行われなければなるまい」

 厳しい声。

 まぁ、今回の件に関しては、甘い処遇では困るので、マクギリスの気の済むように――多分、降格だか左遷だかはされるのだろう――すればいいと思う。

 向こうの方で、石動とアリアンロッド艦隊の士官とに両側を固められたイオク・クジャンは、がっくりと項垂れている。まぁ、自業自得だ。

 マクギリスは、名瀬に向き直った。

「名瀬・タービンと云われたか、迅速な通報とご協力に感謝する」

「いや、こっちこそ、お蔭で大惨事にならずに済んだ。感謝するよ」

「われわれで現場検証をしたいので、まだしばらく採掘場は稼働できないが、問題はないか?」

「あぁ、本稼働前だったんで、問題はない。――あのデカブツは、引き取ってもらえるんだろう?」

 と、ハシュマルを指す。

 本来なら、屑鉄か何かとして売り払うところだろうが、何しろものがものだ。市場に流通させるにもいろいろ面倒そうだし、ここで引き取りたいとごねるより、ギャラルホルンに引き取らせた方が楽だと踏んだのだろう。名瀬は、あっさりとそう云った。

 マクギリスは微笑んだ。

「サンプルが必要だったのだ、ありがたい。――それでは、調書を取らせて戴きたいので、あちらに」

 と見ると、いつの間にやら、火星支部の制服を着た男たちがやってきていた。

 名瀬は軽く頷いて、踵を返した。すれ違いざまに、こちらの肩を叩いていく。

「またな」

「……あぁ」

 短い別れの言葉。

 そして、名瀬は去っていった。

 さて、お次はこちらの番か。

「――いいかな、オルガ・イツカ?」

 マクギリスが微笑む。

 つまりはアレだ、毎度お馴染みの事後処理と云う代もの。

 今回は、アリアンロッド艦隊も巻きこんでいるので、この間の“夜明けの地平線団”の一件よりも長くかかるのだろうか。

 ――蒔苗の爺さんの件のアレコレもあるって云うのによ……

 行きが海賊騒ぎで、送る途中でMA騒ぎとは、蒔苗の爺さんは、どれだけトラブルを引き寄せる質なのか。

 とは云え、すっぽかすわけにはいかないのはわかっている。多少は報奨金も出るのだろうし。

 見れば、ガエリオや石動、ヴィダールまでもがこちらを見ている。この面子で事後処理会議とは、どんな展開になるのやら。

 ――まさかとは思うが、七星勲章とか……まさかな。

 いくら何でも、それはあるまい。

「……宜しくどうぞ」

 苦笑にひとつ頭を振って、マクギリスの先導に足を踏み出した。

 

 

 

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