【成り代わり】鉄血のナントカ【異世界転生?】 作:くずみ@ぼっち字書き。
躰が落ちていく。
重力を味方につけ、推進を最大にして。表皮を燃やしながら真っ直ぐに宿敵のもとへ。
幾億のムーブが『アレヲ斃セ』と咆えて、支配を奪おうとする。
――……ふっざけんな。
支配されるのは好きじゃ無いんだ。むしろオマエが従えよバルバトス‼
痙攣する全身を叱咤。
眼をかっぴらく。センサーが地上を捉えている。
モビルアーマーと、ウジャウジャいるプルーマ。
それから、苦戦してるMS――残骸もあるけど――昭宏、昌宏、デルマは…良かったまだ無事だ‼
それから採掘場の縁に一機のMW――ってボスぅ!?? 何やっちゃってんの‼ 危ないだろ引っ込んでて‼!
ムーブの支配を奪い返す――シールドをMWの前へ。
機体の落下は止めない。このまま突っ込むのが最大の攻撃になる。
モビルアーマーが察知して頭上に注意を向けるけど、遅い――メイスをその背に付き立てる。
その瞬間、物凄い衝撃が来た。
チカチカ明滅する意識に、大きく歪んだ装甲が映し出されてた。
へしゃげたモビルアーマーが、それでもまだウゴウゴしてる。
あれ、一瞬とんでた?
いまだに痙攣する躰が、酸素を求めて喘ぐ。
――神経遮断を実行しろってことだろ? そうすりゃ表面上の負荷は減る。
だけど、やなこった。リミッターは解除するけど、そっちはお断り。
焼け尽きそうな圧に耐えてれば。
〈いくぜ、流、星、ごーッ!!〉
ふは。シノか。笑かしてくれるよ、ホント。なにその掛け声。
落下の衝撃。飛来する岩礫に、覚醒めろと殴られてるみたい。
〈昭弘さん、昌弘、デルマ、避けろ!〉
ああ。アストンも来たね。
〈三日月! 動きなさい‼〉
ジュリエッタ、大丈夫、すぐに動くよ。
〈戦場で停止するなど愚の骨頂! 動け三日月‼〉
はいよ、Daddy、わかってるって。
〈“ミカ”!!〉
それから、ボスの――“オルガ”の声が、
〈おい、どうなってんだ“ミカ”!〉
必死に呼んでるのが聞こえた。
「――……だーいじょーぶ」
口蓋に張り付いた舌を、引き剥がすようにして答える。
「ちょっと止まってただけ」
とてつもなく重たくってさ。
「――結構ハードだよねぇ……」
予想はしてたけど、想像以上。オリジナルの三日月は、これを凌いだのかと思えば、もう呆れるやら尊敬するやら。
――なんて奴だ。
おれは、お前と同じには、とても戦える気がしない。
〈……やれるか〉
“オルガ”の揺れる声に、息だけで嗤う。
「やるよ」
おれは“おれ”の遣り方で、ね。
だから退いてて。そこにいたら、おれが暴れられないでしょ。
センサーの端で、ボスが退避するのを見届ける。
「……さあ、行くよ。バルバトス!」
皆んながプルーマを潰してくれてるけど、根源はコイツだからね。
足下のモビルアーマーがジリジリと身を起こす。
ブレードメイスを引き抜いて跳躍。寸前まで機体があった場所を、超硬ワイヤーブレードが薙いだ。
「“ハシュマル”――天使には見えないね」
どっちかってーと、鶏とか翅蟲。
AIには挑発は効かなそうだけど、これだけヘイトを稼いだんだ。ハシュマルは真っ直ぐにバルバトスに突っ込んでくる。
暴風雨みたいに打ち付けられる弾丸を辛くも抜け――た、先にまたワイヤーブレードとか、イヤな連携だなオイ。
サブシスが予測してた軌道で助かった。
とは言え、やっぱり以前のままだったら凌げなかったね、今の。
反射が格段に上がってる――ありえない程の速度で動ける。
それに出力も段違い――振り回される生身が千切れそうなほど、機体を思い切りブン回せる。
だけど、プルーマが――。
センサー直結のシステムから弾道を計算。飛び出してくるプルーマの装甲の隙間に機関砲を撃ち込んで動きを止める――けど、すぐに次が――ホントにコイツら邪魔!
ハシュマルのワイヤーブレードを避けつつコイツらも相手にするなんて、勘弁して頂きたい。
――と。
〈こっちは任せろ!〉
流星号が、雪崩込んでくるプルーマの前に盾みたいに立ち塞がった。
シノ! お前カッコいいな‼
〈俺達で潰す!〉
アストンも‼
男前すぎるだろ、お前ら。
迫りくるハシュマルの爪を躱して機体を穿つ――ちょっと浅い。ブレードメイスの柄が、バルバトスの出力にギシリと軋んだ――拙いな。想定外。さっき打擲したときに傷んだのか。
チンタラやってらんないか。
機体を浮かせた瞬間、
「…っぐッ」
ワイヤーブレードに弾き飛ばされる。
――やば!
メイスソードが手を離れた。
衝撃と轟音。採掘場の縁に機体がめり込む――ハシュマルが、数十トンの重圧と共に乗り上げようと――
〈三日月ィ‼?〉
シノ、来るんじゃないよ!
「『まだだ。まだ終わらんよ』」
彗星様、力を貸して――潰される寸前に回避、さらに前進するハシュマルから回避、を、繰り返して。
センサーの範囲を広げる――逃げ場どこだよソコか⁉ たった十数cmの隙間を残して全速で抜ける――先に、畜生! やっぱり来るかよワイヤーブレード‼
冷や汗が吹き出す。どのムーブを選択しても大ダメージは免れ無――…え?
寸前で割り込んできた機体に眼を瞠る。
純白の――“バエル”⁉
マクギリスの操る巨大なバスターソードが、ワイヤーブレードをギリギリで弾く。
「チョコ素敵ー‼」
〈馬鹿言ってないでさっさと立て直せ! 長くは保たんぞ‼〉
続く巨大な鉤爪は、これも巨大なバトルアックスが押し返した。レギンレイズ・ヴィダール――Daddyの機体だ。
「りょーかい、Daddy!」
徒手空拳だけど、やるともさ。
バルバトスの蹄みたいな爪先で、ハシュマルの口部発射口を蹴り潰しながら上に飛び乗る。
〈使いなさい、三日月!〉
ジュリエッタが、バエルのそれと良く似たバスターソードを投げてよこす。
石動のかな――どーでもイイけど有り難し!
「避けてジュリエッタ!」
モビルアーマーの砲撃が向く。
〈これしき――〉
駄目だジュリエッタ、その弾丸は装甲を潰してくるんだ!
「ガエリオ!」
〈任せろ!〉
キマリスが翔ぶように駆け、レギンレイズを――お姫様抱っこぉ⁉
「ふは!」
初めて見たよMSのお姫様抱っこ!
ジュリエッタの罵り声がする。からかってやりたいけど、そんな暇は無いからね。
バエルを狙うワイヤーソードを切り飛ばし、そのまま軌道を操り鉤爪にぶち当てる。
その隙にマクギリスもヴィダールも、ハシュマルから距離を取った。
さぁて、ハシュマル。一騎討ちといこうじゃないか。
ここらでリミット解除の真骨頂を見せてやるよ。
たったこれだけの戦闘でも、お前のムーブはそれなりに掴んだ。
計算済の軌道に更に予測値を叩き込み、ムーブをオートに。コードの優先順位を変え、分断したムーブフレームに選択ムーブを突っ込みまくれば。
〈何だその動きは⁉〉
Daddyの驚愕の声。
〈人間、か…⁉〉
失礼だなマクギリス。
なんて、ぶん回されて生命の危機が、ガガ――振り回されるペットボトルの気分、全身の血液が一瞬ごとに、ニニ、流れを変える。
保てよおれの意識! ここで止まるわけには行かないんだ‼
彗星様、彗星様、力を貸してくれ。
名台詞、なんだっけ――すこぶる格好良くて笑かしてくれるやつ。
暗いよ――世界が遠く感じられて、必死で操縦桿を握り締める。
大丈夫、眼の前のハシュマルは、けっこう けずられ て ぼろぼ ろになっ てきてる し あと も う ちょっ と
すい せいさ ま
「『kore
de re kishi ga kawa ru』」
そん な せりふ いっ て たよね
〈三日月‼〉
〈このバカ野郎‼!〉
あすと ん と しの ?
なん でそん なこえで よぶの
さ?
「『watashini hi zawaz u
ke 』」
――……
「『神よ‼』」
不意にクリアになった視界に、剥がれた装甲の隙間、内部機関が映る。
――ここだ!
罅割れたバスターソードを渾身の力で突き通せば、凄まじい不協和音――機関が軋む音が、断末魔みたいに。
空に鉤爪を差し伸ばすみたいな、飛べない翅で羽ばたくみたいな、ひどく不自然な姿勢で、ハシュマルが停止した。
不格好なオブジェみたい。
皆が息を飲んで見つめる中、
〈――……やったのか?〉
誰かの声が。
一拍の間をおいて、ハシュマルが傾ぎ、斃れていく。
地響きを立てて、巨体は火星の土に没んだ――勢いで、機体が割れる。
破片がバラバラと飛び散って、わりと壮絶な感じ。
――おお。凄え。
真っ二つだよ。これ、流石にもう再生しないよねぇ。スキャンしても、エイハブリアクターの反応ないし。
プルーマも沈黙してるし。
静寂が場に満ちて――それから。
〈勝った!!!!〉
叫びが――これはシノかな。
「ん。勝った」
そのあとは、もう、雄叫びが湧き上がりまくって、頭の中にわんわん響く――うお、おれも割れそうだから加減して。
「……空が青いわー」
見上げた火星の空は見事に晴れ渡っていて、地上の惨状など知らぬ素振り。
吸い込まれそうな色だよね、ホント。
とても眠いな、と、…
――空だった。
「……え?」
上も下も――ウユニ塩湖?
足下の空に波紋が。でも、水じゃないよね? 足の指濡れないしって、なんで裸足――。
「うぇえ??? どこよここ⁉?」
すごく静か。誰もいな――くない、唐突にざわめきに包まれる。
「なんで囲まれてんのおれ⁉?」
なにこのホラー。
『………、………………!』
『……! ―――、………!! ……‼‼』
『…! …? …』
『――!』
『………、…………。…、……』
『――…! …………⁉ …』
沢山の人間が口々になにかを言ってくるけど、なにも聴き取れないし、顔も見えない。
なんでどっちを見ても逆光で眩しいの、光源どこさ??
でも、不思議と悪い感じはしない。罵られてるとかじゃなさそう。
伸ばされる手が頭をなでたり、背を叩いたり。
歓迎――ねぎらい?
あ。いまのジェスチャー分かったぞ! それ『ちっちゃいな』だろオイ‼
怒って中指立てれば、一斉に笑う気配。
だからお前ら何なんだよ!?
癇癪を起せば、不意に体が持ち上げられた。
「なんで俵担ぎ⁉」
お姫様抱っこは更にごめんだけど、これもどうよ。子供扱いどころか荷物扱い!
わあわあ騒いでも、一同は気にする様子もなく、笑いながら空の海を進んでいく――どこまで行くの?
「あれ?」
遠くに見えるの、ガンダム・フレーム?
見たことのあるのは、バルバトス、バエル、キマリス、グシオンに、フラウロスか……他にもいっぱい。
空の涯に佇んで。あ、フラウロスが手を振ってくれる――なんだろ、振り返れば、さらにブンブンと。
え? 乗ってんのシノじゃないよね?? なんだこのノリの良さ。
ちょっとバルバトス、なんで頭を振ってんのさ。
って、あれ? おれを抱えて運んでんのもバルバトス?
変なの。
――――……そうか、夢だ。
ストンと腑に落ちる。なら良いや。じきに覚めるし。
クタリと力を抜けば、抱えてるバルバトスが笑う――振動が伝わる。こっちのバルバトスは人間か。
そういや体温があるよーな。金属じゃないし。パイロットスーツ? みんなMS乗りっぽい。
まあ夢だしね。
なんだか晴れ晴れしいような行軍は、どんどんどんどん進んで行き、やがて唐突に足を止めた。
「……なに?」
空に穴が空いている。
ポッカリと暗くて、まるで宇宙みたいにチカチカ瞬く無数の光が――いやいやいやいや‼
ちょっとまてお前らそのムーブなんだ!!?
投げ落とすのか⁉ 投げ落とすつもりだなこの野郎!!!⁉
やめろ、墜落死する予定はないんだおれ!
「――ッ‼ ふぎゃああああ”!!!」
しがみついても抗っても。
ポイ、と。えらく気軽に放り出され、一瞬の浮遊感の後、とんでもない落下感が――。
テメエら覚えてろ!!!
叫んだ視線の先、最後にやっと見えたのは、全然知らない奴らの、忌々しいくらいイイ笑顔――。
ガクンと落ちる感覚に慄いて、目を開く。
眠りから唐突に醒めたときの、あの感じ。
スッキリしてるよーな、体の芯が重たいような――今さっきまで見てたはずの夢は既に遠くて、あやふやな空の風景に誰かの声と、笑い顔が……もう、思い出せないけど。
ふっ、と、息を吐いて、まだコックピットの中に居ることに気がついた。
ハシュマルが割れたのを見たあと、そのまま意識を手放してたらしい。まぁ、物凄く眠かったから仕方ないよね。寝不足だったし。
「――っ⁉ 起きた‼」
――ふおッ⁉?
すぐ側で叫ばれて、めさめさビックリしたんだけどヲイ、心臓跳ねたぞ。
「三日月ぃ‼」
柔らかい体が飛びついてくる――アトラ?
「三日月さんッ‼」
こっちの固いのはライドか。
「起きた⁉ ホントだ‼」
エルダーとエンビが、狭いコックピットにぎゅうぎゅう入って来ようとしてる。ヒルメは挟まってるし。トロア、押すのやめてやれよ。
声を出そうとしたけど、出たのはひび割れた咳だけだった。
「三日月、お水、お水飲める!?」
アトラが慌ただしくストローを口元に差し出すのを、有り難く吸う。ん。甘露!
染み渡るわー水分。
グビグビと飲み干して、やっと人心地が。ふーっと、息を吐く。取り敢えず、阿頼耶識を解除しよう。
システムから離した身を起こそうとすれば、
「無理しないで!」
アトラが涙ぐんで止めようとする。
「三日月さん、いま息してないみたいだったんだぞ!」
ライドがグリグリと頭を押し付けてくる。
なんだと――え、おれ、無呼吸症候群だったり? やべえ。
「ドクター呼んできた! そこどいて――って、起きてるぅ!?」
掻き分けるようにしてコックピットを覗き込んだデルマが固まった。
なんかよくわかんないけど、皆に心配をかけたよーな?
「おはよう、三日月君」
――君付けは新しいな、なんて見返す先には、鉄華団専属のお医者さんが、うっそりと目を細めて覗き込んできてた。
なんだろう、あれに似てるんだよこのヒト――Dr.キリコ。両目あるけど。髪長くないけど。顔が。目付きが。
――つまり、恐い。
「死んじゃいそうにはとても見えないね。元気そうだ」
「…無呼吸症候群の疑いが…」
正直に申告してみる。
「そうか、切り刻んで検査しようか?」
「『だが断る!』」
なんでこのヒト専属Dr.に雇ったんだ“オルガ”‼
「冗談はさておいて、医務室に移って貰おうかな。ここじゃ診察も儘ならないからね」
目がマジだったろう!
行かないよ、と答えたのに、皆に押されるようにして医務室のベッドに突っ込まれた。
「もう少しここで安静にしておいで」
「3分くらい?」
「醒めない眠りへようこそ」
――ッ、ちょっとまてその注射器なんだ真顔で寄ってくんな‼
プスッと。
「「「「「ぎゃ――――!」」」」」
チビ共含むおれの絶叫が響き渡った。
――まあ、ビタミン剤かナニかだったみたいだけどさ。
結局、おれもチビ共もライドもアトラもデルマも、あとから来たシノもアストンも、みんな元気でワイワイするから、休むどころじゃなかったけど。
幾度か繰り返された注意のあと、Dr.キリコ(仮)は、深呼吸みたいな溜め息を落とし、こめかみの青筋をヒクヒクさせながら、「俺の健康のために出ていけ」と静かに言った。
手には今度こそヤベェ色の薬液で満たされた注射器があった。
みんなダッシュで逃げ出した。
いやホントにさぁ‼ “オルガ”、なんでこの男が鉄華団専属医師なんだよ⁉?
皆でわあわあ騒ぎながら、食堂で飯をかっ込んだ。
起きたばっかりのおれには、例によってアトラがミルク粥を作ってくれた。
それから、フワフワしたオムレツみたいなやつ。
鉄華団が大きくなって、厨房で働く人も増えたけど、やっぱりアトラの飯が一番だと思う。
満ち足りた腹をさすりながら、寛ぐ。なんだか日常だ。
とても数時間前にモビルアーマーと戦ってたなんて思えなくなるね。
寝ている間にイサリビも戻って来ていて――スキップジャック級に迫るって、どんだけ飛ばしたんだよユージン――鉄華団火星本部には、事後処理で走り回っているらしい“オルガ”やビスケたんたちを除いで、主だったメンバーが揃っていた。
「お前、いきなり寝るとかなんだよ!」
シノにどつかれる。
「あれはない」
アストンも仏頂面だ。
「バルバトスからの通信が途絶えたときは、流石に焦ったんだぞ」
ダンテが鼻を鳴らす。
昭宏が苦笑いしながら、「それなのに、えらく平和そうな寝顔だったもんなぁ」と宣い、クランクが溜め息を落とす。
ごめんよ、だってホントに眠たかったんだ。思い切りシェイクされた後だったしさぁ。そもそも寝不足だったし。むしろ気絶してたんじゃね?
ってことを視線にこめて肩をすくめてみせる。
「口で言え」
アインから手刀を食らった。
イテテ。おまえ、最近ますます仁王に似てきたな。
アトラはニコニコしながら、なにかと世話を焼いてくれる。
ライドは最近飲めるようになったらしい――でもミルクが入ってる――コーヒーをふうふうしながら啜ってる。
ユージンのコーヒーはブラックだけど、イサリビをかっ飛ばしてきた疲れが抜けてないんだろう、ちょっと半眼になってるし。
昌弘とデルマは、ビトーとペドロを巻き込んで火星ヤシルーレット――デルマ悶絶。
チビ共はまだ興奮気味に、タカキ相手にモビルアーマーとバルバトス含むMSの群れが、どんなに暴れてたかって、身振り手振りで話してる。
ふーっと息を吐く。
――良かった。
無理した甲斐があったね。
唇の端っこが持ち上がる。この日常を守るためなら、どんな無理だって無茶だって、何度だってやってやるよ。
そんな風に思いながらノタノタしてたら、急に食堂の入り口あたりが騒がしくなった。
振り返れば。
「三日月!」
よく通る声だね。
ジュリエッタが、ヴィダールと並んでこちらに向かって来るところだった。
ジュリエッタの声に驚いたのか、それともヴィダールの鉄仮面が怖かったのか、アトラが腕にしがみついてくる。
大丈夫、獲って喰われたりはしない――蝶々だったら喰われるかも知れんが。
早足で辿り着くなり、ジュリエッタは、アトラがくっついてるのとは反対の腕を取って、ぐいーっと引っ張ってきた。
「三日月、ついてきなさい」
ふぉう。なに、なんなの?
「そこの娘、手を放しなさい!」
「あなた誰ですか⁉ 三日月をどうする気⁉?」
アトラも負けじとぐいーっと引っ張り返すから、大岡裁きAgainである。
皆はあんぐりと口を開け、唐突に始まったこの騒ぎを眺めている。
助けろよとヴィダールに視線を向ければ――なに傍観してんのさDaddy。あんた、ちょっと楽しんでるだろこの状況。
ジロリと睨みあげれば肩を竦める素振りで。
「寛ぎ中にすまんな。事後処理の会議に、三日月を連れていきたい」
周りの皆に伝えたあと、おれに向かって顎をしゃくった。
拒否権は無さそう――仕方ないね。
しがみつくアトラをポンポンと宥めて、そっと手を放させる。
「帰ったらジャガイモのポタージュが食べたいな、おれ」
リクエストしてみれば、アトラは瞳をウルウルさせながら頷いた。
「……わかった。早く帰ってきてね」
「ん。じゃあ行ってくる」
皆にヒラヒラと手を振れば、「おう」と返された。
「やらかすんじゃないぞ」
クランクが釘を刺してくるけど、事後で何をやらかせるというのか――アインもユージンも、アストンまで、そんな『心配です』みたいな顔で送り出さないでくれないかな。
昌宏たち、やらかす前提での賭をやめろ。
ダンテやシノ含む他の仲間たちはニヤニヤしてくるし。
「三日月さん、いってらっしゃい!」
ん、行ってくるよライドとチビ共。おれの癒やしはお前たちだね。
席を立てば、ヴィダールとジュリエッタに挟まれる――え、何この感じ、連行?
引っ立てられるようにして車に押し込まれ、向かう先は採掘場の辺りらしい。
後部座席でも左右を挟まれて、気分は搬送される容疑者みたいな?
危機察知アンテナがチリチリとヤバい気配を察知して、今すぐ裸足で逃げ出せと、おれの直感が叫んでる。
「……ねえ、Daddy」
「なんだ?」
正体を隠す気がカケラもないらしいヴィダールが、鉄仮面を向けてくる。もう取りなよソレ。意味無いでしょ。
「事後処理会議って言ってたけど、本当に事後処理?」
「ああ、事後処理だ」
「それは採掘場の件について?」
――違うよね。採掘場の件についてだけなら、おれまで引っ張り出されることは無いだろう。
じっと見上げる先、案の定、Daddyは答えずに前方に視線を戻した。
「ものすんごく面倒くさいことになる予感しかしないんだけど!」
「相変わらず聡いな」
ちょっとDaddy、頭ポンポンで宥められると思うなよ!
ジュリエッタが悔しそうな顔を向けてくるけど、こんなぞんざいなポンポンが羨ましいのか⁉
逃げ場を探すけど、ロックは万全だし車は急にスピードを上げるし、ドライバー席との間には頑丈な仕切りがあるし。
ちょっと待てホントに護送車なのかコレ⁉
やっぱり逃亡防止じゃないか!
「『良い子』にしてろ。ご褒美が貰えるぞ」
「嬉しいご褒美かどうかわからないよね!」
バタバタしていれば、
「おとなしく座っていなさい!」
横からジュリエッタが押さえつけに来るから、さらに車内は騒然となる。
「ヘルプ! だれかヘールプ‼」
叫び虚しく、車は一路、火星の大地を進んで行った。