【成り代わり】鉄血のナントカ【異世界転生?】 作:くずみ@ぼっち字書き。
そして、今は何故か、セブンスターズ会議に参加している。何を云っているかわからないと思うが、云っているこちらもわけがわからない。
場所は、火星の赤い大地の上――ハシュマル戦のあった採掘場からほど近い、仮設のテントの中だ。
仮ごしらえの会議室で、長方形に組まれた長机が目の前にある。その、所謂“お誕生日席”の真向かいの、一番出口に近いところに、“三日月”と並んで坐らされているのだ。
正面にはモニターがあり、中立と日和見――ファルク家とバクラザン家、どちらがどちらだったか――の映像が映されている。
こちらから見て右側には、上座からカルタ・イシュー、マクギリス・ファリド、当主代理なのかガエリオ・ボードウィンが坐っている。
左側には項垂れたイオク・クジャンと、御大ラスタル・エリオンが。
――どうしてこうなった。
呟く隣りで“三日月”が、
「ねぇ、おれ、帰っちゃダメ?」
などと云ってくる。
――駄目に決まってんだろ!
何と云っても、“ヴィダール”とジュリエッタ・ジュリス、ふたりに左右から捕まえられて連行されてきたのだ、“三日月”は。つまりは、強制参加と云うやつだ。この状況で、逃げ出せるわけがない。
そもそもこの会議が火星で行われるのは、こちらが“宇宙に上がりたくない”とごねたからだ。そうでなければ、ラスタル・エリオンの旗艦――スキップジャック級とか云う、バカでかいあれ――に乗せられた挙句、グラズヘイムはおろかヴィーンゴールヴまで連れて行かれそうだったからだ。地球からの帰還組を労いもせずに地球行きなど、正直御免だったので、そこはごねてみた。それが聞き入れられたので、こうしてここで、セブンスターズ会議などが開催されているわけなのだが。
〈……流石に、イオク・クジャンをこのままと云うわけにはいかんな。アリアンロッド艦隊から外して、会計局にでも異動させるべきだ〉
モニターの中の、厳しい顔つきの方が云う。
〈し、しかし、それではクジャン家の当主としての立場と云うものが……〉
ぶよっとした方――多分日和見――が、慌てたように云う。
まぁ、確かにここでイオク・クジャンを更迭してしまうと、セブンスターズ内のラスタル・エリオンの力が減り、過度にマクギリスに力が傾く。この男は、それを心配しているのだろう。
「イオクは当主のまま、養子を取らせて、そちらを当主代行にすれば良いのではありませんか」
マクギリスが、穏やかそうな顔で云う。
「今回の件に関しては、さしものセブンスターズも、イオクを庇うことは難しいでしょう。何しろ、己の不手際でMAを甦らせたわけですから。――ですが、何もしなくては、下のものたちの不満は膨れ上がるばかりだ。……ご存知か、最近、若手士官の間では、革命軍なる組織が作られているとか。セブンスターズを解体し、出自や出身地での差別のない、新しいギャラルホルンを作るべきだと息巻いているらしい」
おっと、ここで“革命軍”が出てくるのか。
まぁ正直、今の状況で革命軍がことを起こすのは難しい――何しろ、セブンスターズがまだ機能しているのだから――が、老人たちに、新しい波の到来を告げるには、いいネタだとは思う。
思うが、ここに自分たちがいる意味はわからない――いや、わかりかけてはいるが、わかりたくないと云うか。
「革命軍を名乗る輩に対してアピールするためにも、このままイオクをアリアンロッド艦隊に置いておくよりも、外から新しい血を入れて、セブンスターズも変化するのだと知らしめた方が良い。このままでは、若手士官たちが暴走し、ギャラルホルンの改革を求めてクーデターを仕掛ける、と云うことにもなりかねない」
(……“オルガ”、おれ、やな予感がするんだけど)
(奇遇だな、俺もだ)
囁きかわす、その向こうでは、議論が続いている。
「そうね、このままイオクを処分なしにするのは、戴けないと私も思う」
カルタ・イシューが、マクギリスを掩護する。
「ましてイオクは、これまで何度も失態を演じて、ギャラルホルンに深刻な損害を与えているわ。このままお咎めなし、となれば、セブンスターズの権威も揺らぎかねない。私はマクギリスに賛成するわ」
「俺も、マクギリスに賛成だ」
ガエリオ・ボードウィンが手を上げた。
「イオク・クジャンの人柄の良さを否定する気はないが、それとこれとは別問題だ。独断専行した挙句に部下を幾たりも死なせ、下手をすれば火星の都市まで巻きこむ大惨事を引き起こすところだった――士官たちの間でも、イオクのやり方については異論のあるところだ。このままなぁなぁで済ませては、いずれ燻る火種が大炎上、ともなりかねないぞ」
〈だが、仮にもクジャン家の当主を、更迭するわけにはゆくまい〉
ぶよっとしたのが、慌てたように云う。
それに、マクギリスがふと笑った。
「ですから、ここで提案がある。ここにいるオルガ・イツカと三日月・オーガスを、クジャン家の養子にして、オルガ・イツカを当主代行とするのはいかがか」
――キター!!
わかってた、そうくるとは何となくわかってた。
だが、正直ありがたくはない――それを受け入れたなら、せっかく軌道にのりつつある鉄華団は、どう云うことになるのだろう。
〈オルガ・イツカと三日月・オーガス?〉
厳しい顔の方が、問いかけてくる。
〈そこの二人のことか? そもそもかれらは何ものなのだね?〉
「“夜明けの地平線団”討伐の折、協力してくれた民間企業のものですよ」
マクギリスは、すらすらと答えた。
「銀髪の方がオルガ・イツカで、黒髪の方が三日月・オーガスです。三日月は、今回のMAの騒動で、あれにとどめを刺した優秀なパイロットです」
〈……なるほど、七星勲章を授ければ、セブンスターズの一員としては申し分ないと云うことだな〉
「ええ。そして、オルガ・イツカの方は、パイロットの能力はともかく、政治力は申し分ない。クジャン家の立て直しには、もってこいの人物ですよ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ」
どんどん話が進んでいってしまいそうで、慌てて声を上げる。
「俺たちは、火星で民家警備会社をやってるんだ。セブンスターズがどうのって話だが、もしそれを受け入れたら、鉄華団の連中はどうなる?」
そう問うと、マクギリスたちは顔を見合わせた。
「――ギャラルホルンに組みこまれることになるのではないかな」
「いや、それは無理でしょう!」
思わず云う。
「皆が俺くらいの歳ならともかく、うちはまだローティーンのヤツも多いんだ。ちゃんとした軍隊なんぞにゃ馴染まねぇ、何か方策はねぇんですか」
「セブンスターズの一員になって、私兵として鉄華団を抱えるしかないな」
ガエリオも、腕を組んで云うだけだ。
「って云うか、何で俺たちがクジャン家の養子に入ること前提なんです。今までどおり、外部の協力者って枠じゃ拙いんですか」
そう云うと、マクギリスからは半ば呆れたようなまなざしが返った。
「正気で云うのか、オルガ・イツカ。君たちは、君と三日月・オーガスが何をやったかわかっているのか。君たちは、ガンダムフレームを操って、MAを斃したのだぞ」
「えぇ、ですけどね……」
「わかるか、火星の一民間企業がだ。今や、君たちは英雄譚の主人公だ。火星代表政府やアーブラウは、君たちを自分の下に置きたがる――蒔苗氏も、そうだっただろう?」
云われて、蒔苗の爺の、遺言めいた言葉を思い出す。
――圏外圏のこと、そしてヒューマンデブリに関することを、お前さんたちに頼みたい。
クーデリアとともに云われた、あの言葉。
あれは、こちらを囲いこむ意図があったのか――そして、火星代表政府やアーブラウも、同じようなことを目論んでいるのだと?
単に、鉄華団を潰されない強い組織にしたかっただけなのに――どうしてこうなった。
(……もしかして、やり過ぎたのか)
(そうかも)
失敗したな、と“三日月”が呟いた。まったくだ。
強くなれば潰されないし、少なくとも武力の需要があるうちは、そこそこやっていけると思っていた。同業者からは煙たがられるだろうが、そんなものは実力で黙らせれば良いと考えていたのだ。
そうして、確かに鉄華団は強くなり、ラスタル・エリオンですらも手を出せない組織になった。
それ自体は良かったのだが、まさかそれが、囲いこみの対象になることに繋がろうとは。
(――詰んだな……)
(詰んだね……)
自由を求めて戦っていたのに、いつの間にやら袋小路だ。詰んだ。しかも、詰んだ先に残された手段が、まさかのセブンスターズ入りとは。
「何を迷うことがある」
と云ったのは、ラスタル・エリオンだった。
「火星からセブンスターズの一員になると云うのは、大変な名誉だぞ。それに、クジャン家の力をもってすれば、鉄華団などと云う組織など、どうとでもできる。受けぬと云う選択肢はあるまい」
「……あぁん?」
カチンときた。
この男、仲間を何だと思っているのだ。
「あんた、そんな風だからドルトで失敗したんだよ! ひとを何だと思ってんだ!」
「ひと」
きょとんとしている、それがますます腹立たしい。
「コロニーの人間も、圏外圏の人間も、あんたの好きに動かせる駒じゃねぇんだ! おもちゃの兵隊で遊んでる子どもじゃねぇ、自分が何をしてんのかくらい、はっきり自覚して動きやがれ!」
政治向きのことで、どうしても犠牲が出る場合はある。一人と百人、千人を天秤にかけなきゃならない時だってある。その一人が、どうしても千人より重いと思う時だって――それは、情に流されてのことではなく、だ。
例えば、今ここで、マクギリスと鉄華団の誰か――シノやユージン――を天秤にかけねばならなくなったなら、多分自分はマクギリスを取る。シノやユージンは、窮極失われても、世界の動きに支障はないが、マクギリスはそう云う立場ではないからだ。マクギリスを失えば、ギャラルホルンはラスタル・エリオンの手の中に落ち、クーデリアが一人前の政治家になるまでの間、マッチポンプ式の正義ショーがまたくり返されることになるだろう。シノたちを失っても、世界が大きく傷つくことはないが、マクギリスを失えば、そう云っていられない事態になるだのは明白だった。
それは、情のあるなしとはまた別次元の話であって、どちらの喪失により胸が痛むのかとは、また異なる話である。上に立つなら、一度はそう云う選択を迫られたことがあるだろうし、情に流されて選択肢を間違えば、その組織は最悪滅ぶことになるのだ。
だが、ラスタルにとっては、そんな選択は、そもそも存在しなかったのだろう。しなかったと云うか、情のある相手を切り捨てることがなかったと云うか。
多分、ラスタルは、心を預けるような相手を持たずに生きてきたのだろうと思う。ガラン・モッサの件にしてもそうだ。原作のあの展開の後、本当に身を切られる痛みがあったのだろうかと思わずにはいられない。
「おもちゃの兵隊遊び? 私がか?」
ラスタルは心外そうに云うが、この男のやっていることは、まさしく人形遊びの延長みたいなものだ。
「違うのか? ドルトの労働者たちの件なんか、もろにそうじゃねぇか。白の駒と青の駒で、陣取りごっこみたいにやりやがって……それで倒された駒は、みんな人間だったんだぞ!」
「それは当然のことだろう?」
しれっと云う、この男は、本当に何もわかっていない。
「……いい。あんたには、何を云っても無駄だ」
とりあえず、文句を云うために使うカロリーがもったいない。
冷ややかに云ったはずなのに――そして、“三日月”など、唸り声をあげそうな表情なのに――、ラスタル・エリオンは、面白そうな笑い声をこぼした。
「気骨があるな。特に、そちらの三日月・オーガス。この場で臆する風もないとは、気に入った」
その言葉に、遂に“三日月”が、カッと口を開けた。威嚇する獣のようだが、身体が小さいので、本人が思うほどの効果はなく、仔犬が威嚇しているようで、可愛らしく見えたかも知れない。
「どうだ、私のところに養子に入らんか? 私直々に、対艦隊戦の手ほどきをしてやろう」
「やだね」
“三日月”は突き放すが、ラスタルはにやにやと笑うばかりだ。どうにも戴けない。
「――で? 俺たちがクジャン家に養子に入るって、そんなことが本当にとおるのか」
あんたたちのお嫌いな、火星出身の宇宙ネズミだぞ、革命軍とか云う連中だって、流石に受け入れ難いんじゃないのか。
と思うが、厳しい顔の方は、さらりと云った。
〈それしきは何とでも、やりようはある〉
ああ、天璋院篤姫が、将軍の正室におさまった時にやったようなアレ、と云うことか。少しましな家に養子にはいり、さらにそこからもう少し格上の家に養子に入り、最後にクジャン家に入ると云う寸法だ。
まぁ、幸いと云っていいのかどうか、この世界は、地球と圏外圏の差別はあるが、所謂人種差別――肌の色云々と云うヤツだ――はないようだったから、ネグロイドに近いだろう“オルガ・イツカ”もセブンスターズに潜りこむことは可能だろう――まして、養子入りの先は、古代エジプト人風なヴィジュアルのイオク・クジャンのところだ。
だが、幾つの家を経たところで、こちらの元々の出自は噂になるだろうし、そうなった時に、セブンスターズ総体の判断をも疑問視されれば、少々面白くないことになるのではないか。
と云うような危惧を口にしたところ、マクギリスはふっと笑った。
「何を云い出すかと思えば。問題ない、君たちは、既に資格を得ているのだから」
「は?」
「セブンスターズに入るには、七星勲章を得ること、つまりMAを斃すこと、が必須条件なんだよ」
ガエリオも云う。
いや、しかし、
「……ミカはともかく、俺はそれから外れてるでしょうが」
こっちは、最初の指揮を執っただけで、ハシュマルを斃したのは“三日月”やマクギリスなど、後から来てくれた連中なのだが。
「問題ない」
マクギリスは云った。
「君が、“夜明けの地平線団”討伐でも見事に指揮を執ったことは、地球外縁軌道統制統合艦隊のものたちにも知れている。今回の件で、それはアリアンロッド艦隊にも広がっただろう。君に、セブンスターズ入りする資格がないと思うものは、少なくとも統制局と監査局にはいないと云うことだ。そして、セブンスターズも、君たちを迎えることに反対するものはない。あとは、君たちが頷けば終わる話だよ」
「……鉄華団のことは」
「グラズヘイムには余裕がある、そこに移転するのはどうだ?」
ガエリオも云う。マクギリスを後押しするような云い方だ。奥でカルタも頷いている。
――囲いこまれてる……
詰んだ、ともう一度呟く。
だがしかし、
「……俺たちのことはともかく、鉄華団に関しては、ここで俺の独断では決められねぇ。少し、時間を貰えませんか」
幹部で検討したいので、と云うと、モニター内の厳しい顔の方が重々しく頷いた。
〈そうだな、子どももいるとなれば、考えなくてはなるまいな〉
「猶予はどれくらいにします」
〈一週間もあれば良いのではないか〉
ぶよっとした方が、口を挟んで、一同はそれに頷いた。
〈良いのではないか〉
「妥当だな」
「それだけあれば、結論は出せるだろう」
皆が口々に賛同する。
そして。
〈決まりだな。――では、一週間の猶予を与える。その間に総意を取りまとめ、返答するように〉
「――色良い返答を期待しているよ」
マクギリスが云い、このとんでもないセブンスターズ会議は幕を閉じた。
「……詰んだ……」
軍用のゴツい車の後部座席で、ぐったりしながら呟くと、
「……生きろ」
運転席の石動に、そう返された。
しかしその口調、“三日月”のじゃないか。それほど接触はないはずなのに、本当に感染力が強い。
「大丈夫、“オルガ”?」
当の“三日月”は、しれっとそう云ってくる。
「……とりあえず、戻ったら、ビスケットたちに相談しないとな……」
「ユージンたちも帰ってきてたから、いいんじゃない?」
「……帰ってきてたのか」
後処理と、その後のセブンスターズ会議でばたばたしていて、本隊が帰還していたことに気づかなかった。
まぁ、
「……揃ってるんなら、会議を開くかな」
流石に全部の団員の意見を聞くのは難しいが、少なくとも幹部連とは協議しなくてはなるまい。
「君たちの人生を左右することになるのだ、よく話し合った方が良い」
石動は云って、車を停めた。
見ると、いつの間にか鉄華団本部についていた。
「まぁ、私の個人的な意見を云わせてもらえば、准将のためにも、君たちとともに働きたいと思っているよ」
片頬でかすかに微笑み、
「ではまた。色良い返事を期待しているよ」
そう云って、石動は速やかに帰っていった。
それを見送っていると、
「あっ、団長、三日月さんも!」
ダンジが向こうから叫んできた。
「おう、ダンジ」
「ただいま」
「お帰りなさい! 副団長たち、帰ってますよ!」
「……ユージンたちは、中か?」
「えぇ、ビスケットさんたちに、帰還の報告をしてるはずですよ」
「わかった」
そのまま手を上げて、建物に入る。
“三日月”は、火星ヤシか何かをもぐもぐと咀嚼しながら、ぽてぽて後をついてくる。
そう云えば、ハシュマルとやり合うのに、多分バルバトスのリミッターを外したのだろうが、その影響はどうなのだろうか? 見たところ、半身に不具合がありそうだとか、片目が見えていないだとか云うことは、なさそうに思えるのだが。
「……ミカ」
「なに」
「その――どうなんだ、いろいろ」
身体が動き難いとか、不具合があるとかはないのか。
問うと、“三日月”はこてんと首を傾げ、
「とりあえずは大丈夫、なようにした」
「そうなのか」
「うん、頑張った」
「……そうか」
本人がそう云うなら、とりあえずは大丈夫なのだろう。まぁ、何かあれば隠し通すと云うタイプでもない、そのあたりは平気なはずだ。
事務室に入ると、
「お帰りなさい」
声をかけてくれたのは、メリビット・ステープルトンだった。“三日月”の目が、わずかに見開かれる。
初対面だったか――そう云えば、蒔苗の爺の滞在中は、けっこう引きずり回されていたし、そもそも会計担当とは接点がないか。会計担当にいろいろさせていた原作の方が、特殊なのだ。
「……“オルガ”」
「何だ」
「メリビットさん」
「ナンパしてきた」
「ふぅん」
いや、おやっさんの嫁候補だぞ、と思ったが、本人を前にして、それは云えない。
と、話題の主が、“三日月”に手を差し出した。
「はじめまして、メリビット・ステープルトンです。三日月・オーガス、さんですね」
「そ。宜しく」
「宜しくお願いします。三日月さんのお話はかねがね」
「ふぅん……どんな話?」
「凄いパイロットだとか、女好きだとか。あと、団長さん、よく何かしようとして三日月さんの名前を呼ばれるので、仲がよろしいんだなと」
「……ふぅん」
と云いながら、ちらりとこちらを見る。
いや別に、寂しいとかじゃなく、癖だ癖!
ともかく、早急に会議を開かなくてはならない。
にやにやしながらこちらを見ているビスケットに、声をかける。
「ビスケット、幹部を集めてくれ。緊急会議だ」
「え、いきなりどうしたの。事後処理会議で、何かやらかした?」
「そうだった方がマシだったぜ……」
「え……どうしたのさ」
「面倒だから、揃ったら話す」
と云うわけで、久々の全幹部揃えた会議である。面子はビスケット、ユージン、チャド、ダンテ、トド、クランク、アイン。特にクランクとアインには、元ギャラルホルンとしても意見が欲しい。
「まさかと思うが、報奨金はなし、とかそう云うことじゃねぇだろうな?」
最初に口を開いたのは、ユージンだ。まぁそうだな、深刻な顔して幹部会議、とか云えば、まずそこを心配するよな。
「いや、それは大丈夫だ。――そうじゃなくて、あー……」
云い淀んでいると、
「俺たち、セブンスターズに入れって云われたんだけど」
すぱっと云ったのは“三日月”だった。
「は?」「あぁ?」「何だって?」
うん、まぁそうだよな、何の話だってなるよな。
「お前たちがセブンスターズ入り、と云うことは、どこかの養子に入れと云われたと云うことか」
流石にセブンスターズの事情を知らなくもないクランクが、やや呆然と云う。
「あぁ、うん……イオク・クジャンを処罰するから、当主代行を務めるために、そこに入れと。ミカは、ラスタル・エリオンが欲しがってる」
「はぁあ!? 三日月もかよ!!」
ユージンは叫び、
「まぁ、MAを斃したパイロットだ、それは欲しいだろうな」
アインが、冷静に頷いた。
「何だよ、いい話じゃねぇか。何を悩むことがあるんだ、入りゃいいだろ、セブンスターズ」
トドは云うが、
「その場合、鉄華団をどうするかなんだよ……」
「「「「「「「あー……」」」」」」」
「俺とミカが抜けたとして、鉄華団がこのままやってけるのか、あるいはギャラルホルンに組みこまれるか、それとも第三の道を探すか、ってことになるだろ」
セブンスターズ入りはもう回避不能なので、それを前提で話すと、そこが問題になる。
正直に云うと――自惚れもあるが――、自分たちが抜けた後の鉄華団が、火星でこのまま警備会社としてやっていくのは、かなり難しいだろうと思う。
何しろ、トドやクランク、アインを除いた幹部たちが、やっと二十歳を超えたくらいで、荒事をこなしてきた海千山千のおっさんども――他の警備会社の連中――と渡り合うには、少々厳しいだろうと思われるのだ。
そして“大人”はと云えば、トドは世事に長けてはいるが企業のトップとしては軽く、クランクやアインは、印象の重さは充分だが、元軍人と云うこともあって、商売に向いているとは云い難い。
その上、グシオンリベイクは健在とは云え、最大火力のバルバトスが抜ける――乗り手がないでは仕方ないし、多分ラスタル・エリオンは、バルバトスこみで“三日月”をと云うだろう――と考えると、たとえこの後名瀬からガンダムフラウロスを譲り受けたとしても、鉄華団の火力は今より落ちることになる。
その状態では、子どもばかりの鉄華団は、ライバル会社にうまく使われてしまったり、あるいは仕事を受注しても、買い叩かれるようなことになりはすまいか。
「……ちなみに訊くけど、“第三の道”って何?」
ビスケットが云ってくる。
「……クジャン家に入った俺が、私兵として抱える」
「ガエリオ・ボードウィンは、“グラズヘイムに余裕がある”って云ってた」
“三日月”が補足する。
皆は、考えこむ顔をした。
「オルガの私兵かぁ……」
「まぁ、確かに俺らだけだと厳しそうだけど」
「鉄華団は、お前のモンじゃねぇだろ!」
ユージンが叫ぶ。
まったくそのとおりなのだが、今はそれを云々するところじゃない。
「そう云う問題ではないぞ、ユージン・セブンスターク」
こちらの気持ちをクランクが代弁して、腕を組む。
「ファリド准将やボードウィン准将が乗り気となれば、鉄華団をグラズヘイムに、と云うことは可能だろう。地球外縁軌道統制統合艦隊とは、それなりに連携もしたからな。――ひとつ訊ねるが、お前たちのセブンスターズ入りは、回避できるものではないのだな?」
「その辺だけでなく、火星に来てない二家も、決まったみたいなノリだったからな……」
せめてあそこが反対ならば、もう少しやりようもあったのだろうに。
「まぁ、それは考えないことだな。セブンスターズが決めたことを、覆すのはとても困難だ」
「それは、何となくわかる」
セブンスターズは、選良の中の選良だ、三百年からの長い年月を、ギャラルホルンを導く立場として生きてきたのだ。イオク・クジャンが、あの酷い迂闊さがあってなお慕うものを多く抱えていたように、所謂“帝王教育”的なものをされたかれらは、概ね人の上に立つに相応しい人格を陶冶してきたのだろう。
そのかれらが決定すると云うのは、充分な検討の上であろうから、一般に覆すのが難しいと云うのは、理解できるところではあった。あったのだが。
「だが、ファリド准将のやり方は、騙し討ちに近いものがあったと思うぞ……」
事後処理会議だなどと嘯いて、その実はこちらを取りこむための調整会議だったのではないか。
しかも、ボードウィン家が、当主であるガルス・ボードウィンではなく、マクギリスの親友であるガエリオだったのも、恣意的なものを感じる。マクギリス、ガエリオ、カルタの三人がセブンスターズ入りを主張すると、当事者兼“被告人”のイオク・クジャンを除いたセブンスターズは六家、その半分が推したことになる。
それだけでも拙かったのに、その上ラスタル・エリオンがのってきたのも計算外だった。せめてあそこが反対してくれれば、残り二家もほいほいのったりはしなかったのだろうに。
「正直に云うけど、オルガがいなくなったら、鉄華団がこのままやっていけるとは思えないな」
ビスケットが、考えこむ顔で云った。
「僕たちはまだ若いし、正直、現場でも舐められることが多い――クランクさんやアインさんがいれば、ちょっと違うけどね。それでも今、何とか仕事を請け負ってこなしていられるのは、こう云うと何だけど、強面のオルガがいるからだよ」
「あー、そう凄んでるわけでもないけど、他処の連中は引いてるもんなー」
「うん、現場にオルガが来た後は、結構仕事がやり易いって、警護の連中も云ってた」
ダンテとチャドが、顔を見合わせて頷きあっている。
「それは、良かったって云うべきか、悩むところだな……」
「まぁ、“オルガ”だもんね」
と云う“三日月”の首根っこを、ガッと押さえる。
「まぁそうだな、おめぇが抜けると、同業者の嫌がらせやら妨害やらは酷くなるだろうな。おめぇは、ギャラルホルンとも、何だかんだでタービンズとも繋がってる。ギャラルホルンとテイワズの、両方を敵に回すのはゴメンだ、ってのは、よく小耳に挟むからよ」
トドも云う。
「……って云うか、俺はどんだけヤクザもんだと思われてんだよ……」
子どもたちの防波堤的な役割なのはいいが、どう考えても、ヤクザのように怖がられているだろう。
「“オルガ”、ドスがきいてるから」
“三日月”が、また余計なことを云うので、首根っこをさらに強く押さえこむ。うぐうぐ云っているが、知ったことか。
「……どうする副団長、やれると思うか」
と訊くと、ユージンはがりがりと頭を掻きむしった。
「あー、正直自信ねぇ!」
「ユージンも、ちょっと舐められるところあるもんねぇ」
「うるせぇ!」
と怒鳴るが、まぁわかる。そもそも原作で“オルガ・イツカ”に参番組の隊長を取って代わられたのは、ユージンのやや軟弱に見える外見と、不平を云う割に弱腰なところのせいだと思われるからだ。
「まぁ、確かに俺は、てめぇほどドスはきかねぇよ。民間警備会社なんて、まぁゴロツキの集まりみたいなもんだからな。俺らみたいな若いのばっかじゃ、この先難しいってのはわかる」
「……一応、名瀬さんの下に入る、って選択肢もあるぜ」
と云うが、
「あぁ? ダメダメ、あいつ、てめぇが欲しいんだろ。てめぇと三日月のいない鉄華団なんて、メリットねぇよ」
「……そんなこともねぇだろ」
「いーや、あるね!」
「まぁ、そこはどっちでもいいんだけど」
と、ビスケットが割って入る。
「もう、選択肢なんてないじゃない。オルガと三日月はセブンスターズに入る、僕らはその私兵として、グラズヘイムに行く」
「……それでいいのか」
皆の顔を見回すが、微苦笑が返るばかりだった。
「しょうがないだろー」
「他にどうすんだよ、なぁ?」
「他の連中に喰いものにされるよりは全然」
「グラズヘイムが本拠地なんて、カッコイイぜ! だろ?」
「まぁ、“寄らば大樹の陰”と云うからな」
「地球外縁軌道統制統合艦隊となら、心配はないな」
「まぁ、後はおめぇの心ひとつってことだぜ、オルガよぅ!」
トドにばしんと背中を叩かれて、肚が決まった。
「――よし、ファリド准将、ボードウィン准将の話を受けよう。鉄華団は、グラズヘイムに移転する」
そう宣言すると、“三日月”がむくりと顔を上げた。
「そう決めたなら、急いだ方がいいよ。火星代表政府が、足止めを食らわしてくるかも」
ざわ、と、毛が逆立つような心地になる。皆も、同じような顔をしていた。
「……どう云うことだ」
「ファリド准将が云ってたでしょ、火星代表政府やアーブラウが、俺たちを自分の下に置きたがるって。それをやるなら、今一番有利なのは、鉄華団本部のある火星代表政府だ。シャトルのポートを封鎖されたら、手も足も出ない」
ビスケットの顔を見る。ビスケットはユージンを、ユージンはダンテ、ダンテはチャドを。
そうして、皆で顔を見合わせて。
「……即日退去だ」
云うと、皆はすぐに頷いた。
「デクスターさんとメリビットさんには、事務室の撤収を頼もう。ユージンとビスケット、クランクさんとアインは、団員の意志の確認と撤収の指示、ダンテは、おやっさんやヤマギに話をしてくれ。今請け負ってる仕事はどれだけある?」
「奇跡的に、今は何もないよ。蒔苗氏を送り迎えするから、長期の仕事は断ってたしね」
単発の仕事は終わってて、最近の大きな仕事は、名瀬さんの件だったんだよ、と答えが返る。なるほど、それは奇跡的だ。
「よし。なら、あとは桜農場だが――あそこは桜ちゃんに頑張ってもらうしかねぇな」
経営権を完全に譲渡して、希望者があれば、人員も残して。
あそこはビスケットの実家でもあるが、極力繋がりを断つべきだろう。
「よし、2100には完全撤収だ。残る奴以外は、各自MWやMSで出るぞ! 荷物には構うな、急げ!」
「「「「「「「おう!!」」」」」」」
声が返り、皆がそれぞれに散っていこうとする。
その中で、ビスケットの腕を捉えて、問いかける。
「どうする、ビスケット、お前は残るか?」
ビスケットは困ったような顔をして、それからぎゅっと眉を寄せた。
「今さら何云うのさ。僕は、鉄華団と一緒に行くよ。ばあちゃんやクッキー、クラッカには、悪いけどね」
くしゃりと笑う。だが、その選択の後ろには、きっと小さくはない葛藤もあるのだろうと思う。
「気にしないでよ、オルガ。僕は、家族より、世界を動かすことを取ったんだよ」
「……桜農場には、できるだけのことはする」
だがそれも、裏からこっそり、と云うことになりそうだったが。表立ってどうこうして、火星代表政府やアーブラウに目をつけられるようなことにはなりたくなかった。
「ばあちゃんも喜ぶよ」
そう云って、ユージンを促し、ビスケットは部屋を出ていった。
こちらも事務室に入って、デクスターとメリビット女史に声をかける。
「鉄華団は、グラズヘイムに移転する。火星代表政府に足止めを食らう前に撤収するんで、2100には退去できるようにして下さい。――二人とも、ご家族は?」
いきなりのことに、二人は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。
「――私は独り身です」
メリビット女史が云う。
「わ、私は家族が……」
「それなら、連れて行くか、あんたが残るか、今すぐ決めてくれ。残すことになれば、政府の管理下に置かれて、あまり楽しくないことになると思う」
「グラズヘイムって――ギャラルホルンに入るんですか」
「いや――俺とミカが、セブンスターズに入るんだ」
そう答えると、デクスターの目が輝いた。
「それなら、連れて行きます! こちらへよこした方が?」
「あぁ、それがいいだろうな。待ち合わせなんてすれば、そこを押さえられる可能性もある」
「……すぐに呼びます!」
そう云って、デクスターは部屋を走り出ていった。
「……随分、慌ただしいんですね」
メリビット女史は、かるく溜息をついて云った。
「すまねぇな、今日の今日のことで、どうにもな」
「まぁ、退屈はしなくていいですけど。……最悪、持ち出すのはデータだけで?」
「あぁ。内部のデータを消去さえしてくれれば、モノは置いていって構わねぇよ」
「了解」
メリビット女史はかるく片目をつぶり、データの吸い上げを開始した。
それから数時間の後、残留組を桜農場へ送り出し、鉄華団は慣れ親しんだ本部を後にした。
案の定、シャトルのポートもマスドライバーも押さえられていたので、アーレスの新江・プロトに連絡を取り、ギャラルホルンのルートで宇宙へ上げてもらう。
旧CGSからのメンバーは全員がグラズヘイムへ行くが、新入りのうち家族のあるものは、桜農場に残ることになり、結果、鉄華団は三分の二の人員に減ることになった。
とは云え、鉄華団結成時から考えれば、一・五倍なのだから、いかに最近の人員増強が急激だったかがわかろうと云うものだ。
原作に名前が出ていた新人では、ザック・ロウが火星に残り、ハッシュ・ミディとデイン・ウハイはグラズヘイムへ行く。残ることを選択したくせに、ザックはひどく残念がっていたが、家族があるのに、それを捨てていくことはできなかったのだろう。代わりに、桜農場で引き続き働いてくれるそうだから、良かったと云うべきなのかも知れなかった。
アーレスの火星支部に到着すると、新江・プロト――そう云えば、直接会うのは初めてのような気がする――が出迎えてくれた。
「ファリド准将から、話は聞いている。地球外縁軌道統制統合艦隊の迎えが来るまでは、こちらに滞在してくれとのことだ」
そう云うと、新江三佐は、含むような笑みを浮かべた。
「いろいろと大変らしいな? まぁ、アーレスにいるうちは、今までどおりにしてもらって構わないよ」
「助かります」
今から、セブンスターズの人間みたいな扱いをされたら、逆にどうしようかと思った。
クランクとアインがいるからでもないだろうが、火星支部の面々が、意外に友好的にふるまってくれるのでありがたい。支部長が代わった後、内部の改革があったのか――あるいは、早くもこちらのセブンスターズ入りの話を聞いて、あまり無礼を働くとあとが怖いと考えたか。
ともかくも、アーレスの一角を与えられ、そこでようやく一息つく。
そう云えば、あまりに慌てて出立したので、“イサリビ”と“カガリビ”の面々には、何も云う暇もなかったな、と思って、通信を入れると、
〈だ、団長! 良かったぁ〜!〉
“イサリビ”詰のイーサンに、心底安堵した顔で云われ、面食らう。
「悪いな、いろいろあって、火星代表政府に足止め食わされる前にと、慌てて出たんだ。……何かあったのか?」
〈それが……実は、タービンズの名瀬さんから連絡があって〉
「なに」
名瀬から? だが、採掘場の件は、もう片がついたはずだ。この上、一体何を?
ちらりと横を見るが、ビスケットもユージンもチャドも、首を振るばかりだ。
〈それが、本部に連絡がつかないって問い合わせで――こちらに特に話はきてないって云うと、連絡が欲しいってだけ云って、慌ただしく切られちゃいました〉
「そうか……」
名瀬が慌てるようなことが起きたと云うのか――それは何だ?
と、
「大変だ!!」
ダンテが慌てた様子で駆けこんできた。
確か、ダンテは割り当てられた部屋で、例の怪しげなマシンの様子を確認していたのではなかったか。
「どうした、ダンテ」
チャドが問いかけると、
「聞いて驚くな」
ダンテは言葉を切って、大きく息を吸いこみ。
特大の爆弾を、その場に落とした。
「マクマード・バリストンが殺された! 例の、ジャスレイ・ドノミコルスの仕業だってよ!!」