【成り代わり】鉄血のナントカ【異世界転生?】   作:くずみ@ぼっち字書き。

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【成り代わり】鉄血のナントカ 19【異世界転生?】

 

 

 

 マクマード・バリストンが、ジャスレイ・ドノミコルスに殺された。

 なるほど、それは名瀬も泡を食う事態に違いない。

「ニュースとかはどうだ、何か報道されてるか?」

 問うと、そちらをチェックしていたらしいチャドが首を振った。

「まだだ。公式発表は、事態が落ち着いてからになるんじゃないか」

「テイワズのトップが、腹心に殺されたってなると、結構なスキャンダルだからね」

 ビスケットも頷く。

「……やっぱり、ヤクザもんだったなぁ」 

 テイワズと云う組織は。

 原作と同じテイワズルートを取らなくて良かった、と心から思う。

 ギャラルホルンは、きっちり出来上がった“軍隊”だが、テイワズはそれこそヤクザ組織だ。軍隊は階級があり、出世も人事局――ギャラルホルンにそんなものがあったかは記憶にないが――の査定に拠る。だが、ヤクザはどちらかと云わなくても縁故や上役の引きに拠るところが大きいし、良くも悪くも親族経営の企業に近いものがある。つまり、昇進にあたって不公平感が残りやすいのだ。

 原作でも、ジャスレイ・ドノミコルスは、マクマード・バリストンが名瀬や、新入りもいいところの鉄華団に目をかけるのが気に入らなかった。今のルートでは鉄華団はそこに含まれはしなかったが、元々名瀬の妻であるアミダ・アルカとの因縁もあったようだし、ハーフメタル採掘場の経営を任された名瀬を、恨むか妬むかしていたのだろう。

 マクマードを殺す計画を立てていたのは、原作でもそうだったのだが、ここでは、それを実行に移してしまったわけだ。

「まぁ、テイワズ自体は、これで屋台骨が揺らぐようなこともあるまいが――後継者選びとなると、こりゃ荒れるな」

 クーデターを企てたジャスレイが、そのままトップの座に就けるとは思われない――ああ云う組織でトップを殺すのは、“親殺し”をするようなものだ。その“親”が、目に余る振るまいをしていたと云うようなことがない限り、殺した人間は、同輩からの激しい批難に晒される。

 もちろん、名瀬のことをこころよく思わなかった人間は他にもあるだろうが、かれらがジャスレイの“親殺し”を肯定するかと云えば、話はまた別だ。心からマクマードを慕っていたものほど、ジャスレイの所業に目を背けるだろうし、それを嫌って名瀬に近づきもするだろう。ジャスレイのやったことは、完全に短絡的だったのだ。

「……これで、テイワズが二分されて内部抗争、とか云うと、シャレにならねぇな……」

 当人たちは“内部”のつもりでも、一般人にとってはそうではない。とばっちりを食らうことにもなるだろうし、テイワズ本体の具合によっては、商取引などにも影響が出ないとも限らないのだ。

 そうならないためには、まず名瀬がきちんと内部で筋を通し――つまり、ジャスレイの非を鳴らし、自らの正当性を宣言して、他の幹部を味方につけると云うことだ――、“仇討ち”としてジャスレイを斃さなくてはならない。

 まぁ、MAの件とは違い、名瀬もそのあたりのことは重々承知のはずだから、こちらに声をかけてきたのは、どちらかと云えばギャラルホルンへの根回しとか、仇討ちへの加勢とか、そう云うものの依頼なのだろうが。

「……とりあえず、ファリド准将に連絡を取る」

「え、そっちかよ?」

 ユージンが驚くが、セブンスターズ入り云々がある以上、あちらへの報告を怠ることはできないだろう。それに、これは名瀬の件の根回しにもなるのだし。

 マクギリスに連絡を入れると、やや渋い顔をされた。

〈できれば、あまり他処のごたごたに首を突っこまないで欲しいのだがね〉

「だが、マクマード・バリストンが殺されたのは、ほぼ確実に、例のMAの件に関係しているんだ。それを見ぬふりをして、セブンスターズに入るってのは、筋が違うんじゃないかと思うぜ」

〈君は、あの名瀬と云う男に、テイワズを取らせたいだけではないのか〉

「そこは否定しねぇな」

 云い方は悪いが、今後のことも考えると、名瀬にテイワズを握らせた方が与し易いのだ。ジャスレイなぞにいいようにされては、今後テイワズの存在そのものが、圏外圏にマイナスに働きかねないと思う。あのジャスレイ・ドノミコルスが、ヒューマンデブリの解放や、地球と圏外圏の不平等解消に、積極的であるとは思われない。

「俺としては、アーブラウや火星代表政府がどうこうは考えねぇが、蒔苗の爺さんが引いてくれたヒューマンデブリ解放への道を、投げ出したくない」

 鉄華団がこれまでやってきたような、その場その場でどうにかするようなやり方ではなく、高度に政治的な手段で、地球のすべての経済圏と、圏外圏に及ぶようなかたちで解決を図りたい。もちろんそれは、地球と圏外圏の不平等についても同じことだ。

「そのためにも、テイワズをある程度動かせるようにしておかねぇと、後々面倒なことになる可能性だってあるんだ」

〈つまり、ジャスレイ・ドノミコルスと云う男は飼いならせないが、名瀬・タービンならできる、と〉

「そこまでは云わねぇが、与し易い相手とそうでない相手ってのはあるだろ」

 名瀬が思うままになると云うわけでは決してないが、名瀬に対する対抗心ばかりのジャスレイよりは、話ができるだろうと云うことだ。

「それに、名瀬憎しでイオク・クジャンを焚きつけるような男と、セブンスターズに入ろうって人間が手を結ぶわけにはいかねぇだろ?」

〈……まったく、君はいつでも、悪魔のような弁舌だな〉

 微苦笑して、マクギリスは云った。が、今の流れのどこが“悪魔の弁舌”なのかがわからない。

〈まぁいい。許可しよう。その代わり、終結次第、君と三日月・オーガスはセブンスターズに入る。――もしかしたら、クジャン家に入ってからの方が、事後処理は楽かもしれないぞ〉

 前当主への犯罪教唆、と云うのが使えると思う、と云われるが、せっかく対外的にはイオクのやったことを有耶無耶にできているのに、自分で掘り返したくはないと云うのが正直なところだ。

「事後処理で面倒になりそうなんで、鉄華団としての義理を果たす、って方でいきますよ」

 元々、名瀬とは親しいと目されていたわけだから、他処の連中に突っこませる隙を与えるよりは、そちらの方で押し進めた方が後腐れがなさそうだ。

〈もちろん、三日月・オーガスも行くのだろうな?〉

「当然です」

 この先しばらくは凍結だろうが、鉄華団の最大火力を連れていかない道理はない。

〈わかった。では、健闘を祈る〉

「ああ、それじゃ」

 さて、許可は取った。次は名瀬に連絡だ。

 通信を入れると、最初の声が、

〈遅い!!〉

 だった。

「こっちも、火星を撤収するのでばたばたしてましてね」

 遊んでいたわけではないのだと反論すれば、名瀬は訝しげに片眉を上げた。

〈火星を撤収、だと?〉

「えぇ。あちこちから、あまりありがたくないお誘いを戴いてましてね」

 火星代表政府やら、アーブラウやらから。

「それで、無理矢理どうこうある前に撤収した、ってことですよ」

〈……そんなら、うちにくりゃあ良かったのに〉

「云ったでしょうが、ガキの集まりなんだ、内部抗争のあるようなとこは御免ですって」

〈……聞いたのか〉

 名瀬は、こちらのひと言で、マクマード・バリストンの件とわかったようだった。

「うちの情報参謀が拾ってきましてね」

 ダンテの情報収集能力は、本当に目を瞠るものがある。今回は多分、混乱するテイワズ内部の情報を傍受したのだろうが、そんなことをできる人間は、そうはいないのだ。

「まぁ、乗りかかった船だ、今回はあんたに加勢しますよ。ちゃんと許可も取った、ジャスレイをヤるまでつき合います」

〈……ギャラルホルン傘下に入るんだな〉

「鉄華団はね」

 それ以上は、まだ公式に云えることではない。

 だが、名瀬は、それで大体を察したようだった。

〈なるほど。それじゃあ、今後はそう簡単に誘えなくなるな〉

「まぁ、そう云うことになりますね。――あ、前回の報酬ですけど、まけますんで、代わりにあんたの掘り出したMSを貰っていいですか」

 ガンダムフラウロスは、阿頼耶識持ちでないと乗りこなせないのだ。阿頼耶識なしのものばかりのタービンズでは、邪魔になるばかりだろう。

 と云うのはもちろん建前で、単にあれにシノを乗せたい、と云うだけの話だったのだが。

 そう云うと、名瀬は呆れたように溜息をついた。

〈そりゃ、実質まけてねぇだろ。……まぁいい、今回も割安でな〉

「最後になるかもしれませんからね、サービスしますよ」

 セブンスターズに入ってしまえば、当分自由には動けないのだし。

「それで、ジャスレイ・ドノミコルスは、もちろん逃亡したんでしょうね?」

 問うと、名瀬は頷いた。

〈あぁ。テイワズを乗っ取ろうとしたんだが、同輩から賛同されずにな。……あたり前だ、“親父”を殺した奴に、誰が従うってんだ〉

 吐き捨てるような声。

「あんたの方は、テイワズの取りまとめは?」

〈まだだ。だが、既に同輩の半分からは、俺を支持するって言質を取ってる。仇討ちに成功すりゃ、九割賛成にもってけるさ〉

「……100%じゃないんですね」

〈100%はあり得ないって、お前もよくわかってるんだろ〉

「まぁ、そうですね」

 反対者がまったくないと云うことはあり得ない。もしそれがあり得るとしたら、スターリンのような独裁政権下であるか、あるいは正真正銘の悪魔か、どちらかだろう。

〈ま、反対する奴がいるうちは、俺もまともだって云うことさ。――お前んとこは、皆反対しなさそうだな〉

「……あんたも、俺を悪魔とか云うんですか」

 そう云うと、面白そうに目を見開かれた。

〈へぇ、他の奴にそんなこと云われたか。そりゃあ面白いな〉

「よして下さいよ、まったく、どいつもこいつも」

 “狐”ならまだしも、“悪魔”は心外なのだ。

「それはともかく、あんた、奴の動向は掴んでるんですか。やり合うにしても、居所がわからねぇと面倒ですぜ」

〈……一応はな。奴の船は“黄金のジャスレイ号”とやら云う、悪趣味なヤツだ。キンキラしてるから、すぐわかるぜ〉

「……そのキンキラ、対ビーム用の塗装とか云いませんかね」

 “赤い彗星”と云うか、四番目の名前の男、クワトロ・バジーナの乗機“百式”のように。

〈いや。多分、奴の趣味ってだけだな。そもそも、金色が対ビーム塗装とか云う話なんて、聞いたことがないぞ。第一、金だろうとそうじゃなかろうと、ナノラミネート塗装なら、ビーム兵器は効かねぇじゃねぇか〉

 なるほど、流石にあれは宇宙世紀だけか。と云うか、ナノラミネート塗装のことを考えると、そもそもビーム兵器は意味がないか――それだからの“打撃系ガンダム”ではあるのだろうが。

 まぁ、“黄金のジャスレイ号”とやらは、ツギハギの作りで、強襲装甲艦――つまり、体当たりのできる船――のくせにブリッジが格納できないとものの本に書いてあったから、場所さえ把握すれば、潰すのは簡単だと思うのだが。

〈とにかく、こっちに合流してくれ。MSは動かせるんだな?〉

「MSは、全部回収してますよ。MWは、八割方ですかね。“イサリビ”と“カガリビ”が来れば、すぐに出ます」

〈……お前ら、今一体どこにいるんだ〉

「あー……アーレスです」

 云うと、名瀬は心底呆れた、と云わんばかりに叫んだ。

〈完全ギャラルホルンじゃねぇか!〉

「はは、すいません」

〈全然すまなさそうじゃねぇんだよ!〉

 拗ねたように云われるが、まぁそこは勘弁してほしい。こっちも、立場の安定しないテイワズではなく、ギャラルホルンくらいのかっちりしたところでないと、巧く舵取りできるとは思われなかったので。

 とりあえずハンマーヘッドの座標を聞き、そちらに合流することで同意する。

〈頼んだぜ、兄弟〉

 と名瀬は云ったが、その言葉を聞くのもこれが最後だろう。

 ――鉄華団最後の大仕事、ってわけだ。

 少なくとも、セブンスターズ内部が落ち着きを取り戻すまでは。

 

 

 

 幹部会議を再度招集する。

 ビスケット、ユージン、チャド、ダンテ、トド、クランク、アイン――そして、先刻は姿のなかった“三日月”も。

 部屋の通信はすべてオフにし、“三日月”とダンテが、盗聴器や隠しカメラのチェックをしてから、おもむろに会議がはじまった。

「――知ってのとおり、テイワズのトップ、マクマード・バリストンが殺された。下手人は、MAの件で記憶に新しい、ジャスレイ・ドノミコルスだ。名瀬・タービンからの依頼もあり、俺たちは奴を潰すのに加勢することになる。……何か意見はあるか?」

 皆の顔を見回すが、異論らしい異論はない。皆、この間のハシュマル戦に関しては、思うところがあるようだ。

「俺たちはいいけどよ、ギャラルホルンの方はいいのか?」

 ユージンが問う。

「そこは、ファリド准将に連絡済だから問題ないだろ。大体、セブンスターズにとっては、奴がいなけりゃクジャン家のアレコレもなかったんだ、どこも奴に含むところはあるだろうぜ」

「あと、報酬は? まさかタダ働きとか云わねぇよな?」

「それはない。まぁ、多少割安にはするがな。その代わり、例の採掘場で掘り出されたガンダムフレームを貰う」

「またかよ!」

 ユージンは叫び、他の皆は苦笑した。

「どんだけMS好きなんだ、てめぇはよ! もう、ギャラルホルンを敵にする可能性はねぇんだから、そんなに集める必要はねぇだろ!」

「だって、あれはどうしてもシノを乗せたいんだよ」

 まぁ、レールガンは宇宙戦ではあまり使えないが、今後MA狩りを中心に活動することになるギャラルホルンのことを考えれば、有用なMSではあるのだ。何しろ、弾頭によってはMAな装甲をも貫けると云うのだから、その威力たるやである。レールガン=ダインスレイヴは、原作では鉄華団を追い詰める発端になった武器だが、ギャラルホルンの許可があれば運用は可能であるのだし。

「……またピンクに塗らせんのかよ……」

 ユージンは厭な顔をするが、まぁ、MSのカラーをごねるくらいで済むのなら安いものだ。

「いいだろ、この先は、ギャラルホルンの下で働くことになる可能性が高いんだ、ガンダムフレームがありゃ、即戦力として高く売れるぜ」

 そのためには、阿頼耶識システムのリミットを外したり、機体の改修をしたりと、いろいろやらなければならないことがでてくるが。

「鉄華団には、俺やミカと関わりなく、“使える火力”だと認識してもらわなきゃ困るんだ。今回、ミカはもちろん出撃させるが、出番を奪うつもりでやってもらう。――あと、とどめはタービンズに任せろよ」

「テイワズを名瀬にまとめさせるため、か」

クランクが云う。

「まぁな。ジャスレイなんぞにテイワズを握られちゃ、後々面倒なことになりそうなんでな」

「厄介事は、早目に潰しておきたい、と」

「そんなもんだろ?」

 敵対する可能性のある人間を、すべて排除することはできないし、やっても無駄――どうせ後から別のものがまた出てくるのだ――だとは思うが、少なくとも、大きくてかつ厄介な、確実に敵でしかない相手は、排除するに如くはない。つまりは、交渉でもどうにもならない相手と云う奴だ。

「話せば何とかなる相手なら、潰さなくとも構わねぇが――奴のやり口じゃ、どうにも難しそうだからな」

 まぁ、話して何とかなる相手は、ああ云う“親殺し”なんぞは企てないものだ。

「……ミカ、ダンテ、ジャスレイ・ドノミコルスの居場所は割り出せてんのか」

「うん。居場所どころか、どこらへんとつるんでるか、持ってる艦船の数とか、それの装備、積んであるMSの数までわかってるよ」

「情報参謀の実力を見ろ! ってな!」

 “三日月”の科白に、ダンテがドヤ顔をする。気持ちはわかるが、うざったい。

 と云う気持ちが表情に表れていたものか、

「あーっ、オルガ、何か俺のこと馬鹿にしたな!?」

「……いや、馬鹿にはしてないが」

 単に、うざったいなと思っただけで。

「まぁともかく、出撃だ。名瀬さんも、奴の居場所は把握してるだろうとはおもうが、トレースは続けてくれ」

「りょーかい!」

 すっかり“三日月”の口調が感染っている。石動よりは衝撃がないから、まぁいいが。

「他には? 懸念があるなら今のうちだぞ」

 と云うが、ビスケットに首を振られた。

「大丈夫、大体わかったから。――確かに、ああ云うところで盃交わした相手を殺すって、本当によっぽどだよね」

「あー、どうだろうなぁ、ヤクザ映画とかだと、結構内部抗争も下剋上みたいなのもあったと思うが……テイワズくらいのとこになると、ちょっとなぁ」

 企業系ヤクザと云うか、まぁ結構な大企業であるのだし。

 社会通念に合わせて活動しなくてはならないはずなのに、そのトップを腹心が殺したとなれば、テイワズそのものの評判にも響いてくるだろう。それは、グループ全体にとっても好ましくはないはずだ。

「まぁ、優良企業でござい、ってツラしてやがったもんなぁ」

 トドも頷く。

「デカくて利益還元もきちんとしてて、マクマード・バリストンだってそう恐ろしげでもなかったからな。ヤクザのイメージが薄れてきてたところにこれじゃ、すっかりイメージダウンだよなぁ」

「その後がジャスレイ・ドノミコルスじゃ、余計にな」

 毛皮のコートをまとったジャスレイの姿を思い浮かべて、頷く。金の喜平のネックレスをつけたゴツい男、非常にステロタイプな“ヤクザもの”だ。

「まぁ、名瀬さんが、そのイメージを払拭できるかって云うと、それはそれでアレだけどな……」

 普通の企業で、長髪に白いスーツはあり得ない。まぁあれは、輸送部門担当だと云うことで許されているところはあるのだろう。

 だが、これで名瀬がテイワズを取ることになれば、どうなることか。

「そこは、僕らの考えなくてもいいところだろ、オルガ」

「まぁな」

 テイワズのことはテイワズに、つまりは名瀬に任せるに限る。

 こちらはあくまでも、名瀬がその立場に立つまでをサポートするだけのことだ。

「ま、とりあえずは、今の鉄華団最後の仕事だ。気合入れていくぞ!」

「「「「「「「「おう!」」」」」」」」

 よし、いい返事だ。

「アーレスには、ビスケットとトドが残ってくれ。全員いなくなると、余計な勘繰りをする輩が出ねぇとも限らねぇからな。幹部二人を残しときゃ、よもやトンズラしたとは思われねぇだろ」

「こっちとの連絡係も必要だろうしね」

「任されたぜ」

「頼む」

 流石に新江・プロトに疑われるとは思わない――マクギリスに許可を取った話は、もう流れているはずだからだ――が、どこにも疑り深い輩はいる。

 まして、鉄華団はギャラルホルンにとって、“身内”と云うわけではない――今はまだ。接点の少ない士官や兵士たちにとっては、怪しげな子どもの集団でしかないのだ。

「……とっとと片づけて、戻ってこないとな」

 ビスケットたちの身が危うくなることはないだろうが、針のむしろになりかねないのはわかっているから。

「そうだね」

 “三日月”が頷いた。

 顔を見合わせ、何となく笑いあう。

「戻ったら、また忙しいぞ」

「……わかってる」

 うんざりした顔。

 これが日常だ。元のアレでも、この世界でも。

 戦闘なんて“非-日常”はとっとと終わらせて、下らなくて面倒な、この日常に戻ってこなくては。

「――よし、“イサリビ”と“カガリビ”に迎えにこさせろ。可能な限りのMSを積みこめ。準備でき次第、すぐに出発だ!」

 また強い声が返り、皆、準備のためにそれぞれ散っていく。

 ――これが、本当に最後の戦いだ。

 これを乗り切れば、一応の着地点が見えてくる。“オルガ・イツカ”の辿りつきたかっただろう、皆を連れていきたかっただろう、“ここではないどこか”とやら。

 もちろん、それで双六か何かのように上がってしまえるわけではない。“世界との戦い”が終わるだけで、MAとは戦わなくてはならないし、ギャラルホルン内部ともいろいろあるだろう。武器を使わないだけで、生きることはすべて戦いであるし、それはこれからも変わることはないだろう。

 だが少なくとも、原作のキャッチコピー“いのちのの糧は、戦場にある。”なんて言葉は、この後の鉄華団にはそぐわなくなるはずだ。

 そのためにも、この戦いにきちんと勝って、原作のラインにケリをつけてやらなくては。

「よし、行くぞ」

 自分自身に気合を入れて、袖を通すのも最後になるかも知れない、鉄華団のジャケットを掴み上げた。

 

 

 

 ハンマーヘッドは、知らされたとおりの座標に停泊していた。

 同じ場所に停泊し続けるのは、今の状況ではリスキーなところがあったが、それだけ鉄華団の力を頼りにしてくれているのだろう。まぁ、テイワズ内部は、内々に協力を約束しているとは云え、未だトップ争いのライバルではあるのだろうから、鉄華団の方が、身内よりもよほど信じられる、と云うところはあったのかも知れないが。

「おう、よく来てくれたな」

 “三日月”やクランク、アインなどとハンマーヘッド内部に入ると、名瀬とアミダ・アルカが出迎えてくれた。

「御自らお出迎えとは、いたみいります」

「皮肉か。俺は、セブンスターズとかそんなんじゃねぇからな」

 ひょいと肩をすくめて、名瀬は云う。

「所詮はテイワズの輸送部門の長、ってくらいのもんさ。構える必要はねぇよ」

 そうは云うが、タービンズは鉄華団よりも手広い商売をしているようだし、この後はテイワズそのものを統括するようになるのだ、雑な扱いをしていい相手ではない。

「まぁ、こんなところで立ち話も何だ。奥で話そう。……ジャスレイの動きは掴んでる」

 云いながら、先に立って歩き出す。

「こっちもだよ」

 “三日月”が云った。

「そうか。それなら話は早いな。……奴は、テイワズの1/3を味方につけて、俺に総力戦を挑んでくるつもりのようだ」

「あんたに加勢する奴は」

 確か、半分は味方のはずだと云っていたように思ったが。

 そう問うと、名瀬は肩をすくめた。

「味方になるってのは口約束だからな。実際戦闘となると、自分のところの消耗を恐れて、出してこない可能性の方が高い」

「じゃあ、本気で加勢するのは、俺たちだけってことになるのか」

「多分な。まぁ、俺が負けたら、後でジャスレイから潰される可能性だってあるからな。――だが、それはジャスレイだって同じことだ。つまり、どっちもテイワズ内部からの支援は望めないってことさ」

「それなら、俺たちがいる分、あんたの方が有利ってことか」

「そうだ」

 なるほど、ジャスレイはJPTトラストの社長だか社主だかだが、トラスト=企業合同、つまりは同業種の複数の会社が、互いに株を持ち合ったり、あるいは持株会社を作ったりして、事実上ひとつの企業として活動すること、あるいはそのような経営形態を指すそうだが、つまりは荒事ではない方面で活動していると云うことになるのだろう。ブリッジの格納できない、つぎはぎの装甲艦、などと云うものも、その立場であれば問題はなかったのに違いない。

 一方のタービンズは、テイワズの輸送部門担当であり、ブルワーズなどともやり合った過去があるらしいことは、原作の流れでもはっきりしている。

 実際、名瀬以外は女ばかりのタービンズには、少なくとも三人のMSパイロットがいるのはわかっている。アミダ・アルカ、アジー・グルミン、そしてラフタ・フランクランドだ。三人は、いずれも熟練のパイロットであり、原作でもかなりの間、鉄華団は、主にアジーとラフタの戦力に助けられていたのだ。

 つまりは、管理下に置く企業の規模はどうあれ、荒事に慣れているのは名瀬とタービンズであり、またそれに加勢する鉄華団でもある、と云うことだ。

「――まぁ、万が一を考えて、皆さん様子見なんでしょうね」

 普通に考えれば、大義名分と云い戦力と云い、名瀬の方に圧倒的に利があるのだが――まぁ、テイワズ内ではジャスレイの方が古株らしいから、その手前もあると云うことか。

「古い連中は、ジャスレイにいろいろ義理もあるようだからな。俺があいつをどうにかすりゃ、大っぴらに支持もしてくれるだろうが、そうでなきゃ難しいだろう。やるしかねぇってことさ」

「……ヤクザってのは、本当に面倒臭いもんだな」

「そんなの、どこも変わらんだろうが」

 名瀬は唇を歪めた。

「お前は、自分が創業社長みたいなもんだから実感できないだけだ。CGSにもあっただろうし、ギャラルホルンにだってあるさ」

 視界の片隅で、クランクが深く頷くのが見えた。

「まぁ、それは俺にもわかりますがね……」

 “昔”の組織にしても、立ち上げの時に世話になったところやら、他処との仲介を頼んだところやら、娘たちの嫁入り先やらまで、いろいろとしがらみができて、困ったことがあった。勝手にそちらの系図の中に、こちらの名前を書き入れられたりしたことも。

 ――それを思えば、セブンスターズなんかは、まだ話を聞いてくれた方か。

 いやいや、“昔”のあれこれと較べるからマシに思えるだけで、今回の“勧誘”は、ほぼ強制のようなものなのだし。

「まぁとにかく、俺に加勢してくれるのは、お前らくらいだってことさ」

 と云いながら、名瀬は、応接室のようなところに招じ入れてくれた。

「……いい趣味ですね」

 流石に、成金めいたロココ調などではない。強襲装甲艦の中の部屋らしい、シンプルな内装だ。もちろん、来客を迎えるに相応しい、ゆったりとしたソファや、無骨な壁を隠すカーテンなどはあるが、それだけと云えばそれだけなのだった。

 “三日月”は、あたりを見回していたが、ひょいと肩をすくめただけで、ぽすんとソファに坐りこんだ。

「で? どーすんのさ」

 大きな青い目が、じっと名瀬を見る。

 名瀬は小首を傾げた。

「もちろん、ジャスレイを殺る」

「どうやって」

「奴は、株式市場を動かして金儲けをしている、お前ら的に云えば“経済ヤクザ”ってヤツだ。もちろん、手前の船は持ってはいるが、タービンズにゃ敵わねぇよ」

「ふぅん……あっちの座標も、戦力も、装備やなんかも全部掴んでるんだけど、必要ないんだね」

 何でもないように、“三日月”が云う、それに慌てて名瀬が食いついた。

「おいおい、そうは云ってねぇだろう」

「だって、全部わかってるんでしょ」

「いやいや、わかってんだろ、細かいことはわからねぇんだよ」

「……ふぅん?」

 何やら、寸劇を見ている気分だった。しかも、これはアレだ、商売女とそれに取り入る客みたいな感じ。

 何度か似たようなやり取りがあって、遂に“三日月”は折れた――よえな振りをした。

「わかったよ。教える」

 その代わり、サービスしてね、って、完全にその手の女が云うことだ。

「任せろ」

 とか安請け合いするが、名瀬は本当にそれでいいのか。後で嫁たちに怒られたりしないのか。

「ジャスレイ・ドノミチコロスって、ホントに荒事慣れてないんだね。キンキラの船で隠れてるだけっぽいし。MSは五機用意したみたいだけど、パイロットがにわか仕立てでダメ。阿頼耶識あれば何とかなるだろうけど、当然そんなの雇ってるとも思えないし」

 ――今、ジャスレイの名前を変な風に云わなかったか?

 が、名瀬は構わず頷いた。

「まぁ、テイワズで作ってるMSもあるからな。うちの百錬とか百里もそうだし、辟邪とか獅電なんてのもある」

 獅電。それは、“オルガ・イツカ”が乗るはずだった――結局は乗れなかったMSだ。白い、火星の玉座。

「それを、頭数だけ揃えて良しとしてるんだろうさ。見栄っ張りだからな」

「まぁ、そうでなければ、金色の船などにはしないだろうな」

 クランクも頷いた。

「本当に、金の船なんて派手なもの、隠密行動に向かないどころの話ではないからな。わざわざそんなものに乗るなどと、よほどの自信家か、あるいは愚か者なのだろうよ」

「馬鹿なんだよ。でなきゃ、このタイミングで、マクマード・バリストンを殺したりしない」

 “三日月”が、一刀両断に切り捨てた。

 まぁ、確かにそうだろう。マクマード・バリストンがまだ壮年であったならいざ知らず、結構な老齢だ、いずれ後継者を定めて道を譲ることになるのは明白だったのだ。

 それを、自らの失態を詰られたことが直接の原因ではあろうが、この時期に殺すだなど――せめて、当人の判断力に翳りが見えてきたころを見計らえば、これほどまでに反発されなかったのだろうに。

 まぁしかし、それもこちらには好都合だ。

 名瀬は元々武闘派として知られているようだし、ここで自ら出てジャスレイを殺しても、誰も不審に思わないし、むしろ当然とすら見なされるだろう。原作を見た限りでは、テイワズの幹部の中では名瀬は若い方であったから、その後、古株を蔑ろにせず、かれらの言葉をそこそこ重く扱ってやれば、大きく反目されることもないだろう。あとは、女を扱いなれている名瀬が、歳上の“部下”たちを巧く使いこなせるかにかかっているが――これ以上は、こちらの関知するところではない。名瀬が巧くやるよう祈るのみ、だ。

「……で?」

「なに」

「ジャスレイの野郎は、一体どこに隠れてるって?」

 名瀬の問いに、“三日月”はまた肩をすくめ、ひとつの座標を口にした。

「そりゃあ……」

 歳星の近くじゃねぇか、と名瀬が呻く。

「ギャラルホルンとかじゃないんだし、そう遠くへはいけないでしょ」

「いや、しかし……盲点だったぜ、とっくに自分のとこへ戻ってると思ってた」

「用意もなしに、そう遠くへは逃げられないよ。それに、あんたとやり合うつもりなら、逃げてくメリットは少ないし」

 籠城は、したら負けだよ、と云う。

 確かに、確実に援軍が来る、と云う場合を除いて、籠城は悪手としか云いようがないが。

「あとは、あんたがヤる気かどうか、にかかっている」

 その言葉に、名瀬は獰猛な笑みを浮かべた。

「決まってるだろ、アイツは殺る。“親父”の仇は俺が討つ」

 それは、テイワズ一の武闘派に相応しい、荒々しい笑みだった。

「だね」

 “三日月”は頷いた。

 こう云う局面では、大体決定権は“三日月”にある。名瀬に味方すると決めるのはこちらだが、実際の戦法はあちら、と云うことだ。

 大体に、組織の進路を決めるのはこちらだが、その時その時の作戦を決めるのは、昔から“三日月”と相場が決まっている。こちらは基本的に戦闘には向かないし、向こうは昔から戦闘に特化していた。その代わり、向こうは政治には向かないし、こちらは“圧倒的政治力”などと表現されることもあったので、まぁつまり、“適材適所”である。

「お前も、加勢してくれるんだろ」

「オルガがそう云えばね」

 青い目が、こちらを見る。

 それに否と云う選択肢はなかった。

「もちろん、加勢するさ」

 テイワズの安定のために、圏外圏の未来のために、そして鉄華団の行く末のために。

 強く頷くと、名瀬はまたにやりと笑い、手を差し出してきた。

「頼んだぜ。――それじゃ、行くぞ、“黄金のジャスレイ号”へ!」

「おう」

 それに掌を打ち合わせる。

「……ド腐れ外道野郎は、ヤっちゃわなきゃね」

 にこりと笑って云われた“三日月”の言葉は、聞かなかったことにして。

 

 

 

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