【成り代わり】鉄血のナントカ【異世界転生?】 作:くずみ@ぼっち字書き。
――これだから信用ならんのだよ。
充てがわれた会議室で、ダンテと盗聴器、隠しカメラの類をチェックすれば、出るは出るわザックザク。
「はいよ7個目〜」
「お。まだあった、これで8個目か」
「これで9個目〜」
「……よし、10個目だ!」
気分はイースターエッグハント。
レンズに向かって二人並んでポーズをとってみれば、戸口で“オルガ”達が呆れている。
「おい、まだあるのか?」
「どうだろうな? フェイクも含めて今のとこ10個だ。あと1、2個あってもおかしかねぇな」
ダンテが答えてる間にも。
「お。すごいよコレ、机のココくり抜いてある。凝ってるね。でも細工が新しい。突貫なのが惜しいな」
「へぇ、しかもいい角度だな」
覗き込んで、ダンテも瞳をキラキラさせる。
ホント、いい腕。うちに欲しいくらい。
「さすがギャラルホルン」
「やるなギャラルホルン」
勿体ないけど、ナイフで引っ掛けて引きずり出す。
多分これが本命なんじゃないかな、マイク付きカメラ。デスクそのものを電源にするあたりがニクいね。
「コレ全部戦利品で良いんだよね?」
「回路いじれば再利用できるもんな」
「アーレス中に仕掛けてやろうかな?」
「面白そうだなそれ」
顔を合わせてニンマリすれば。
「……よせ」
「「アダダダダダダ‼」」
クランク仁王が左右それぞれの手で頭を鷲掴みにしてくるから、おれもダンテもウゴウゴ藻掻いた。
「全部撤去できたんなら会議始めるぞ!」
顔を顰めながら“オルガ”が席に付き、皆もゾロゾロと従った。
クランクから開放されたおれとダンテは、取り除いたそれら全部をサカサカ処理して、慌ただしく席に飛び込む――セーフ。
「アウトだ阿呆共」
ギロリ、と、ドスの効いた視線を投げてきた――それマフィアのドン級のドスだからね、“オルガ”――後、会議が始まった。
「知ってのとおり、テイワズのトップ、マクマード・バリストンが殺された。下手人は、MAの件で記憶に新しい、ジャスレイ・ドノミコルスだ。名瀬・タービンからの依頼もあり、俺たちは奴を潰すのに加勢することになる。……何か意見はあるか?」
ぐるりと見回す“オルガ”に対して。
「――俺たちはいいけどよ、ギャラルホルンの方はいいのか?」
ユージンが首を傾げる。
「そこは、ファリド准将に連絡済だから問題ないだろ。大体、セブンスターズにとっては、奴がいなけりゃクジャン家のアレコレもなかったんだ、どこも奴に含むところはあるだろうぜ」
「あと、報酬は? まさかタダ働きとか云わねぇよな?」
「それはない。まぁ、多少割安にはするがな。その代わり、例の採掘場で掘り出されたガンダムフレームを貰う」
嬉しそうだね、“オルガ”。フラウロスについては、もう交渉済だった模様。
「またかよ! どんだけMS好きなんだてめぇはよぅ! もう、ギャラルホルンを敵にする可能性はねぇんだから、そんなに集める必要はねぇだろ!」
そこはもうガンダム・フレームコレクターだから仕方がないんだ。諦めろよユージン。
「だって、あれはどうしてもシノを乗せたいんだよ」
“オルガ”が言い募るのに、ユージンはまだ渋い顔である。
「……またピンクに塗らせんのかよ……」
別にいいじゃないか、一機くらい。好きに塗らせてやれよ。バルバトス塗ったらぶっ飛ばすけど。
「鉄華団には、俺やミカと関わりなく、“使える火力”だと認識してもらわなきゃ困るんだ。今回、ミカはもちろん出撃させるが、出番を奪うつもりでやってもらう。――あと、とどめはタービンズに任せろよ」
――そこは“そこそこ使える火力”で頼む。
突出し過ぎると引き抜きやら、またちょっかいが増えそうだからさ。
“オルガ”が視線で牽制してくるけど、そうそう手柄は譲らんさ。
まあ、とどめは譲るけとね。
「テイワズを名瀬にまとめさせるため、か」
仁王が腕を組む。
「まぁな。ジャスレイなんぞにテイワズを握られちゃ、後々面倒なことになりそうなんでな」
「厄介事は、早目に潰しておきたい、と」
クランクは思案顔だった。
「そんなもんだろ? 話せば何とかなる相手なら、潰さなくとも構わねぇが――奴のやり口じゃ、どうにも難しそうだからな」
ド腐れ外道を潰すことにはなんら躊躇いのない“オルガ”である。まぁ、おれもないけど。
「……ミカ、ダンテ、ジャスレイ・ドノミコルスの居場所は割り出せてんのか」
当然だろ。その辺はダンテと調べ上げてあるさ。
「居場所どころか、どこらへんとつるんでるか、持ってる艦船の数とか、それの装備、積んであるMSの数までわかってるよ」
「情報参謀の実力を見ろ! ってな!」
そーそー。スンバラシイのようちの情報参謀。ちょっと感動モノ――なのに、なに、“オルガ”、その面倒くさそうな顔は?
「あーっ、オルガ、何か俺のこと馬鹿にしたな!?」
ダンテの叫びはもっともである。
我々を正当に評価したまえよ。じゃないと回収したカメラ、“オルガ”の私室に仕掛けて、寝起きの悪さを暴露しちゃうぞ――ホント緊急時じゃないと、起こすのに軽く1時間かかるんだよ!
「……いや、馬鹿にはしてないが。まぁともかく、出撃だ。名瀬さんも、奴の居場所は把握してるだろうとはおもうが、トレースは続けてくれ」
誤魔化したな。
「『りょーかい』!」
やや釈然としない顔でダンテが頷いた。
「他には? 懸念があるなら今のうちだぞ」
別に。やること決まってるからね。今の時点では何もない。
取り敢えず、作戦立てなきゃな。
「大丈夫、大体わかったから。――確かに、ああ云うところで盃交わした相手を殺すって、本当によっぽどだよね」
ビスケたんがため息をつく。
「あー、どうだろうなぁ、ヤクザ映画とかだと、結構内部抗争も下剋上みたいなのもあったと思うが……テイワズくらいのとこになると、ちょっとなぁ」
って“オルガ”、こっちじゃヤクザ映画とか観てないでしょ――それとも観たの? あるの? ヤクザ映画??
「まぁ、優良企業でござい、ってツラしてやがったもんなぁ」
しみじみとトドが言う。
「デカくて利益還元もきちんとしてて、マクマード・バリストンだってそう恐ろしげでもなかったからな。ヤクザのイメージが薄れてきてたところにこれじゃ、すっかりイメージダウンだよなぁ」
「その後がジャスレイ・ドノミコルスじゃ、余計にな。まぁ、名瀬さんが、そのイメージを払拭できるかって云うと、それはそれでアレだけどな……」
「そこは、僕らの考えなくてもいいところだろ、オルガ」
ビスケたんナイス軌道修正。
「ま、とりあえずは、今の鉄華団最後の仕事だ。気合入れていくぞ!」
「「「「「「「「おう!」」」」」」」」
“オルガ”が檄を飛ばし、皆が応じるいつもの光景。
「アーレスには、ビスケットとトドが残ってくれ。全員いなくなると、余計な勘繰りをする輩が出ねぇとも限らねぇからな。幹部二人を残しときゃ、よもやトンズラしたとは思われねぇだろ」
「こっちとの連絡係も必要だろうしね」
「任されたぜ」
ビスケたんとトドが力強く請けおった。
「……とっとと片づけて、戻ってこないとな」
「そうだね」
“オルガ”の呟きに頷けば、何やら微笑みがきたので笑み返してみる。
「戻ったら、また忙しいぞ」
まぁね、日常は大歓迎だけど、きっと面倒事は終わらない。
ドンパチが減ったって、今度は権謀術数の日々が待っているに違いない。
C'mon平穏な毎日――まだ当分先かなぁ。
「……わかってる」
ちょっとゲンナリ。
「――よし、“イサリビ”と“カガリビ”に迎えにこさせろ。可能な限りのMSを積みこめ。準備でき次第、すぐに出発だ!」
ん。準備はよろしくね。
おれ、ちょっと大家さん(仮)のとこ行ってくるわ。
「で、どこまで把握してたの?」
じっと視線を向け続ける先で、新江・プロトは薄く笑った。
会議室にバカみたいに仕掛けられてたアレらについて、『全く預かり知らぬこと』な筈がないでしょ。
だいたい、そんな無能ならマクギリスが火星を任せるはずないし。
「どこまで、とは?」
「あんた達が仕掛けた以外のモノがどれだけあったか、とか。どこらへんがやったのか、とか」
「君のことだ。推定してるんだろう?」
「どっかの誰かが、『質問に質問で返すな』って」
新江が肩を竦める。
「これは失礼。まあ、概ね想像通りだとだけ答えておくよ。私にも立場というものがあってね」
――なるほどね。
“オルガ”とはタイプの違う“狐”だ。抜け目のない八方美人――のように見せかけて、常に大樹の影。
絶対に泥舟には乗らない――泥舟と判断した時点でお乗り換えしちゃう――その乗り換え先を常にキープしてるわけだ。
そして、それを隠しもしてない。
さらに見つめ続ければ、新江の微笑が苦笑に変わっていく。
「そんなに見ないでくれ。流石に気まずくなる」
「チョコに言っといて。『知りたいことがあれば直接聞け』。アライグマには、『無駄だ何も教えてやらん!』。それ以外には伝言いらない。全部潰すから」
「いやいやいや!」
「なに?」
「“うちだけは”潰さないでもらいたいね!」
わりと真顔の新江・プロトである――そして、火星支部だけで良いのか。歪みなく利己的でいっそ小気味いいな。
「今のとこ大家さんだからね、考慮しとく」
「この先もお願いしたいね」
強かにねじ込んでくるのに、一歩近づいて真っ向から覗き込む。
新江の視線は一瞬、驚いたように大きく揺れて、それから、ギッと力をこめて睨み返してきた。
「何かね?」
「ふぅん。ただ茶色いと思ってたけど、よく見るとヘーゼルなのか」
小さいからあんまり良く分からなかった。
光に透かすと、茶に少しだけ緑がかった色合いが。秋のドングリの色合い。素朴だな。
「――は?」
「このままマクギリスに付いときなよ」
囁きかければ、少しだけ視線が揺れた。
「泥舟にはさせない――“オルガ”が、ね」
――だから、裏切るんじゃないよ、新江・プロト。身内のままでいるが良い。
ゆっくりと表情筋を動かして、唇の端っこを持ち上げる。
ニッコリ、のつもりだったのに、新江の顔が壮絶に引き攣った――なんでそんな『貞子に遭遇した!』みたいな顔してんの。コワイよ。
「ねえ、知っでると思うけど、おれたちはこの後、ジャスレイ・ドノミチコロスを狩りにいくんだ。それで、ビスケットとトドはここに残してく」
「保証しょう‼」
そうだね、くれぐれも丁重に扱ってよ。ふたりが嫌な思いをすることが無いように。
そうすりゃ“オルガ”からの印象は良くなるし、必然、マクギリスの評価だって悪くないだろ。
「よろしくね――あ、それと」
「まだあるのかね⁉」
「これ。当座の家賃の代わり。“オトモダチ”の新情報。上手く使ってね」
デスクの上に記憶媒体をひとつ置く。
着実に出世してく新江・プロトには、それなりに敵がいる。
その中の、特に鬱陶しそうな相手の弱味になりそうなネタを拾ってみた。
「……君は、私の個人情報も色々握ってるんだろうね」
そんな嫌な顔をしないでくれたまえ――確かに、ダンテと色々拾ってるけどね。
「お互い様でしょ――でも、おれ、“身内”は大事にするタイプ」
「奇遇だね、私もだ」
敵に回らなきゃ穏便にお付き合いするつもり。
胡散臭いほど爽やかに笑う新江が差し出した手を握り、改めてニッコリ笑いかけてみた。
うん。シュモクザメ。
名瀬・タービンの艦――ハンマーヘッドの形状は、まさにあんな感じ。
あのあと、即行でイサリビとカガリビが来て、アーレスを出発した。
知らされていた座標には、タービンズの艦だけが停留していた。
接舷して乗り込めば、名瀬と第一夫人だっていうアミダ姐さんが出迎えてくれた。
って言うか、タービンズの女は全部妻か恋人って、どういう事なの。
火星って一夫多妻制だっけ? なんにしても、名瀬・タービン、お前はもげればいいと思う。
鉄華団からは、“オルガ”とおれと、それからクランクが。
“オルガ”と名瀬が挨拶し合っている間に、アミダ姐さんに会釈してみた。
姐さんは艶やかに笑った。
何度見ても背が高くて美人で、フカフカを凌駕したお胸様である。
「あのいたずら小僧が良くやったもんだね!」
バシンと肩を叩きながら、ハシュマルを斃した事を褒めてくれる――けど、いたずら小僧っていつの話だよ。
――ブーツ投げたりしたこと、まだ忘れてないんだね。
肩を竦める。
背後にピッタリと仁王が張り付いてるから、迂闊なことは言えずに、「その節はどうも」とか、ありきたりなセリフをモゴモゴ唱えた。
「まぁ、こんなところで立ち話も何だ。奥で話そう。……ジャスレイの動きは掴んでる」
「こっちもだよ」
多分、あんたらより余程詳細にね。
「そうか。それなら話は早いな。……奴は、テイワズの1/3を味方につけて、俺に総力戦を挑んでくるつもりのようだ」
ゾロゾロと名瀬の後ろをついていく。
「あんたに加勢する奴は」
“オルガ”が聞くけど、それもこっちで掴んでるんだよね、一応。
「味方になるってのは口約束だからな。実際戦闘となると、自分のところの消耗を恐れて、出してこない可能性の方が高い」
「じゃあ、本気で加勢するのは、俺たちだけってことになるのか」
「多分な。まぁ、俺が負けたら、後でジャスレイから潰される可能性だってあるからな。――だが、それはジャスレイだって同じことだ。つまり、どっちもテイワズ内部からの支援は望めないってことさ」
「それなら、俺たちがいる分、あんたの方が有利ってことか」
「そうだ」
名瀬が頷いている。
「古い連中は、ジャスレイにいろいろ義理もあるようだからな。俺があいつをどうにかすりゃ、大っぴらに支持もしてくれるだろうが、そうでなきゃ難しいだろう。やるしかねぇってことさ」
「……ヤクザってのは、本当に面倒臭いもんだな」
“オルガ”がしみじみと言うもんだから、名瀬が変な顔をした。
「そんなの、どこも変わらんだろうが。お前は、自分が創業社長みたいなもんだから実感できないだけだ。CGSにもあっただろうし、ギャラルホルンにだってあるさ」
クランクがうんうんって頷いているけど、そんなに面倒くさいの? ギャラルホルン。行くのやだなぁ。
「まぁとにかく、俺に加勢してくれるのは、お前らくらいだってことさ」
招き入れられた先は、応接室みたいなところだった。
「……いい趣味ですね」
当たり障りない感じで“オルガ”が褒めてる。
とてもシンプルで機能的って意味では、そうかもね。置いてあるソファに座る。ぽすんと体を受け止めるクッションは悪くない。
「で? どーすんのさ」
ここでウダウダ言い合ってたって、ジャスレイは潰せないんだ。
「もちろん、ジャスレイを殺る」
名瀬は答えるけど、そうじゃない。
「どうやって」
手段とか作戦とかを聞いてんの、おれは。
「奴は、株式市場を動かして金儲けをしている、お前ら的に云えば“経済ヤクザ”ってヤツだ。もちろん、手前の船は持ってはいるが、タービンズにゃ敵わねぇよ」
「ふぅん」
つまり具体的には何も考えてないって事か――ちょっと甘いんじゃないの、タービンズ。
「あっちの座標も、戦力も、装備やなんかも全部掴んでるんだけど、必要ないんだね」
言ってやれば、名瀬の目の色が変わった。
「おいおい、そうは云ってねぇだろう」
ソファの隣にドサリと座り、なんだか猫撫で声で擦り寄ってくるけど、どうしよっかな。オッサンに媚びられても嬉しかないし。
「だって、全部わかってるんでしょ」
「いやいや、わかってんだろ、細かいことはわからねぇんだよ」
「……ふぅん?」
ふざけた口調だけど、目の奥にはジャスレイへの怒りが煮え滾ってる。
ある程度吹っ掛けても、これは呑むね。
この先、セブンスターズに入るとしても、どの程度の資金を動かせるかは不明だ。
鉄華団を維持するためには、どうしたって金が要る。
ん。それなりに搾り取らせてもらうからね。
餌に食い付いた名瀬を上手く釣り上げて。
「わかったよ。教える――けど、サービスしてね」
「任せろ」
みんな聞いたね、言質取ったよ。
ニコリと笑みかけてみれば、名瀬が『しまった!』って顔をしたけど、もう遅い。
「ジャスレイ・ドノミチコロスって、ホントに荒事慣れてないんだね」
調べてて、ちょっと呆れた。
「キンキラの船で隠れてるだけっぽいし。MSは五機用意したみたいだけど、パイロットがにわか仕立てでダメ。阿頼耶識あれば何とかなるだろうけど、当然そんなの雇ってるとも思えないし」
――って言うか、パイロット、元“CGS”の一軍上がりだった。
MWはともかく、MSを乗りこなせるのかすら微妙なんじゃないかな。
それとも4年の間に熟練してんのか――そんな評判は無かったけど。
「まぁ、テイワズで作ってるMSもあるからな。うちの百錬とか百里もそうだし、辟邪とか獅電なんてのもある」
――“獅電”か。
“オルガ”をチラリと見たら、フンと鼻を鳴らされた。
「それを、頭数だけ揃えて良しとしてるんだろうさ。見栄っ張りだからな」
「まぁ、そうでなければ、金色の船などにはしないだろうな」
“オルガ”が言えば、
「本当に、金の船なんて派手なもの、隠密行動に向かないどころの話ではないからな。わざわざそんなものに乗るなどと、よほどの自信家か、あるいは愚か者なのだろうよ」
それまで沈黙していたクランクまで同意する。
「馬鹿なんだよ。でなきゃ、このタイミングで、マクマード・バリストンを殺したりしない」
大方、イオクを唆した証拠を揃えられ、糾弾された挙げ句の暴挙だったんだろうけど。
『名瀬憎さ』でまともな思考も失ったらしい。ここでマクマードを消したって、テイワズは手に入らない――むしろ、永遠に手に入らないものにしたんだ、自分自身で。
「……で?」
「なに」
「ジャスレイの野郎は、一体どこに隠れてるって?」
向けられる名瀬の眼は、裏社会を生きる人間のそれだった。優男の顔を見せてたところで、この男の本質はやくざ者なんだろう。
座標を告げてやれば、名瀬はひどく意外そうな顔をした。
「そりゃあ……歳星の近くじゃねぇか」
――予測できたことだろ。
「ギャラルホルンとかならともかく、民間船がそう遠くへはいけないでしょ」
「いや、しかし……盲点だったぜ、とっくに自分のとこへ戻ってると思ってた」
「大体、あんたとやり合うつもりなら、逃げてくメリットは少ないよ」
そもそも逃げ切れるもんじゃないし、籠城なんてもってのほか。
いっそ道連れにする気でいるんじゃないかな、アチラさんは。
「あとは、あんたが殺る気かどうか、にかかっている」
視線を合わせれば、獰猛な笑みが返った。
「決まってるだろ、アイツは殺る。“親父”の仇は俺が討つ」
それは、テイワズを名瀬が獲るっていう宣言に他ならない。
「……だね」
テイワズを名瀬が獲れば、いずれ“オルガ”の利になるだろう。
「お前も、加勢してくれるんだろ」
名瀬の探るような視線――そこは、解ってるでしょ?
「“オルガ”がそう云えばね」
それを決めるのはおれじゃない。すべての舵は“オルガ”が取るんだ。
名瀬が肩をすくめてから“オルガ”を見る。
「もちろん、加勢するさ」
“オルガ”が不敵に笑いながら頷けば、名瀬もニヤリと笑った。
「頼んだぜ。――それじゃ、行くぞ、“黄金のジャスレイ号”へ!」
「おう」
ふたりで拳を打ちあってるのを見ながら。
「……ド腐れ外道野郎は、やっちゃわなきゃね」
ニコリと微笑んだ筈なのに、どうして二人ともスルーするのさ。
そして、なんでそんなに頑なに視線を反らすの。
――解せぬ。
イサリビに戻って、座標への移動時間にも、色々と忙しい悩ましい。
〈巣窟〉にも装置はあるから、ここでもあれこれ作業である――休日寄越せよ。
「なぁ、三日月、これ」
ダンテが横からモニターを除きこんでくる。
「ん。ジャスレイ・ドノミチコロスの隠し金」
「んなこた判ってる。どーすんだこれ? まさかと思うがネコババすんのか」
「しーまーせーんー」
そんなリスキーな真似はせぬわ。発覚したら信用まるまる失うじゃないか。
「名瀬に押さえさせる」
タービンズを肥えさせることに意味があるのだ。
「……後で毟り取るのか」
「取る」
無いところからは毟れないけど、ある物は毟れるだろ。
だいたい名瀬は、あのテイワズを獲るんだ。あれだけの大企業を手中に収めることを思えば、安いもんだろ。
「守銭奴か」
「この先入り用だろ」
いくらなんでも、鉄華団を維持する予算がギャラルホルンで組まれるとは思えんし。商売再開の目処は今のところ立ってないんだしさ。
「まあ……確かになぁ――お、三日月、これ」
「ん?」
ダンテが指差すデータに目を凝らせば。
「あれ、コレもドノミチコロスの持ち株か!」
「おう。他も探してみるわ」
「ん!」
ほんと、うちの情報参謀頼りになるわー。
「三日月、ダンテ、サンドイッチとか持ってきたけど」
ああ。アトラ、丁度小腹が空いてきたところ。気が利くな。
振り向けば、山盛りのサンドイッチとマグカップ2つをのせたトレイを手にした小柄な姿があった。
ニコニコと頬をリンゴみたいに染めてるアトラは大変に愛らしいと言うか、むしろ美味しそうの域。
「はい、ジャガイモのポタージュもね!」
以前のリクエストをちゃんと覚えててくれるのも嬉しいね。
マグカップを受け取って、まずは一口。
ん。美味いわー。
「どうかな、三日月?」
「美味いよ。ほら」
自分でも飲んでみればわかる、と、マグカップを差し出してみたら、なぜかワタワタしだした。
――どしたの?
見つめ続ければ、おずおずと手が伸びて、ほんのちょこっとだけマグカップに口をつけて、すぐに返してくる――それで飲めたの?
「熱かった?」
「ううん三日月が美味しかったんなら良かったまた後でね‼」
頬どころか顔全部をリンゴみたいな色に染めたアトラが、ノンブレスで告げてバタバタと慌ただしく帰っていく。
そんなに厨房忙しいのか。まぁ、みんな食べざかりだしね。
ポン、と、肩に手を置かれ、ダンテを見上げれば、呆れとも憐れみとも嫉みともつかない表情を浮かべていた。
「大丈夫だ三日月。俺はそれが素だと知ってるからな!」
「……そう?」
なにが大丈夫な素なのかよく分からんが、まあ良い。
「さて、宝探しに戻るよ」
「おう」
タイムリミットは遠くない。根こそぎ名瀬に抑えさせて、ガッポリ毟らなきゃいけないからね!