【成り代わり】鉄血のナントカ【異世界転生?】   作:くずみ@ぼっち字書き。

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【成り代わり】鉄血のナントカ 20【異世界転生?】

 

 

 ジャスレイ・ドノミコルスの船は、簡単に見つかった。

 まぁ専ら“三日月”とダンテの情報収集のお蔭だが、それにしても、もう少し偽装とか、ダミーを配置するとか、何とかありそうな気がするのだが――まぁ、ミノフスキー粒子がある世界軸ではないから、目視にしか対応しないダミーは意味がないのかも知れないが。

 エイハブウェーブの存在は、そう云う意味では良いのか悪いのか――デブリ帯には、回収し切れないエイハブリアクターが入ったままのデブリが放置されているそうだから、そう云うところへ逃げこめばよかったのだろうに。だが、巨大な宇宙船であるところの歳星の近くには、もちろんデブリ帯などはないのだけれど。

 とりあえず、相変わらずやることはない。有能なパイロットたちと作戦司令官がいるのはいいことだ――こんな状態でギャラルホルンに入ったら、この先どうなるか知れたものじゃない。マクギリスに頼んで、部署は是非とも内勤にしてもらおう。統率だけで済むのなら、別に前線でも構わないが。

「“黄金のジャスレイ号”発見。――こいつ、本当に隠れる気あるのかよ?」

 元から座標を知っていたダンテが、レーダー画面を見ながら、呆れたように云う。

「さぁな。自信があるんだろ」

 それとも、完全に捨て鉢になっているか。

 捨て鉢になっている可能性は十二分にある。一瞬の怒りからマクマード・バリストンを殺してテイワズそのものを敵に回し、かつてともに語らった味方たちも、多くがその下を去ったはずだ。

 一方の名瀬は、加勢するのは鉄華団のみだが、ともかくも味方がいる。しかもそれは、例の採掘場の図りごとをフイにしたものたちだ。

 そのことが、ジャスレイの気分を下げて、捨て鉢にさせている可能性は、多分にあった。

「……まぁ、自分とこの親分を殺ったんだ。テイワズそのものから追われる可能性は高いし、実際今は、ほとんどそんな状況だろ。投げやりになってるのかも知れねぇな」

「……“オルガ”」

 “三日月”が声をかけてくる。

「何だ」

「ド腐れ外道野郎が雇ったMSのパイロット、元一軍の連中みたいだよ。阿頼耶識はないから、大した腕じゃないと思うけど……俺たちに恨みがあるかも知れないから、用心した方がいいかも」

「そうだな」

 ――……一軍か。

 ハエダ・グンネルやササイ・ヤンカスを殺った後に、旧CGSから――鉄華団から出ていった連中だ。退職金はくれてやったが、あれからもう四年近く経つ。金が底をついたところで、ジャスレイに声をかけられたか。

 まぁ、威張り散らすばかりの一軍で、多少なりとも統率を取ったり、隊をまとめようとしたりしたのはあの二人だけだったのだ。そうであれば、残りの一軍など、有象無象もいいところだ。MSやMWの操縦にしても、旧参番組、つまりは今の鉄華団の方が巧いに違いない。

 いずれにしても、

「ハエダやササイを殺った時にも、怖気づいて、金を貰って早々に逃げ出すような連中だ。忠誠心なんてものはあるはずもないし、度胸だってどうか怪しいもんだな」

「……逃げると思うか?」

 ユージンが問う。

 それに、肩をすくめるしかない。

「さぁな。ただ、ハエダやササイと違って、ジャスレイは逃げる奴を後ろから撃つくらいのことはするだろう。死にもの狂いでこられたら、なかなか難しいかも知れねぇな」

 所謂“死兵”と云うものだ。秀吉だか誰だかが“死兵当たるべからず”と云ったそうだが、確かに死にもの狂いの敵は、その実力以上に戦うことがあって危険だ、と云うことなのだと思う。

 そう云えば、鉄華団のモデルらしい新撰組にも、“死番”なるものがあったが、あちらは当番制で、突入を任された人間のことを指していた。突入時は、確かに一番やられ易い――立て籠もり犯の確保に飛びこむところを考えてみれば良い――から、死を覚悟すると云う意味での“死番”であって、追い詰められた“死兵”とは異なるが。

「まぁ、わざと逃げ口を開けておくなり何なり、“死兵”にしない工夫は必要だろうな」

「それで、後ろから一網打尽?」

 “三日月”が小首を傾げる。

「まさか。面倒だから、そのまま逃がすさ」

 まぁ、広い宇宙だ、そこからどうやって人間の居住域に戻るのか、そのあたりは当人任せだが。

「うまくすりゃ、歳星にでも辿りつくだろ」

 ジャスレイに味方した連中が、その後どうなるのかも、こちらの知ったことではない。

「ま、あいつらのことなんざどうでもいい。俺たちは、俺たちの仕事をこなすだけだ」

 このあたりが、過去、嫁たちから“冷たい”だの“ドライ”だの云われるもとになったのだろうが。

 しかし、武力組織のトップなどと云うものは、人情に振り回されるわけにはいかないから、どうしてもドライになりがちなのだ。例えば鉄華団のことにしても、うっかりクリュセ市内で銃を暴発させれば一般市民に死者が出るし、原作でそうだったように、MSの配置次第では、農業プラントが全滅したりもする。冷酷なくらいに冷静でなくては、自他の犠牲を天秤にかけることなどできはしない。

 それに、武力を持つものが情に流されては、まわりとの軋轢の元にもなる。罪も過失もない一般人を、鉄華団がうっかり殺したらどうなるか――それを防ぐために、賞罰は明確にして、禁止事項を絶対に破らせない体制を作らなくてはならないのだ。

 かつて読んだものの本で、それこそ新撰組の罰則が厳し過ぎると書いていた弁護士があったが――もしも鉄華団が、誤って市民を死傷させても厳しい罰を与えなかったなら、世間は鉄華団のルール遵守の姿勢に疑問を抱き、結果として社会から排斥する――つまりは原作に近い流れになってしまうことだろう。

 力を持つと云うことは、他よりも自らを律してゆかねばならぬと云うことだ。そう云う意味では、イオク・クジャンは、あまりにも己に対して甘過ぎたのだ――意識も、その振るまいも。

 同じことは、ジャスレイ・ドノミコルスにも云えるだろう。本当にテイワズの上に立ちたいのなら、あの男は、自らを律し、名瀬に罠を仕掛けるのではなく、またマクマード・バリストンを殺すのでもなく、他が躓くのを待ちながら、じっとおとなしくしているべきだったのだ。衝動に身を任せるタイプの人間は、既に出来上がった組織のトップには相応しくない。組織を次へ継承していくためには、忍耐強さと潮目を見極める眼力が必要だ。だが、ジャスレイにはどちらも備わってはいなかった。

 名瀬がテイワズを継ぐ器かどうかは、正直に云えばよくわからない。ただ、ジャスレイよりはマシだろうと思うからこそかれを推すのだ。

 この先、テイワズがどうなるかは、名瀬がトップとしてどう育っていけるかにかかっている――

「……とにかく、俺たちは、圏外圏の安定と、これからの鉄華団のために、戦うだけだ」

 既に、鉄華団の有用さは、十二分にギャラルホルンに知らしめているが、それをもうひと押しするだけのこと。

 “三日月”も、こくりと頷いた。

「これからしばらく、仕事できるかわかんないからね。稼げるうちに稼いどこう」

「おいおい、もう俺たち、随分稼いでるだろうが」

 ユージンが、呆れたような声を出す。

 が、“三日月”は首を振った。

「全然足りないよ。クジャン家の財産なんて、どれだけあるかわかんないんだし」

 そう云われると、確かに弱い。

 そもそも、クジャン家に養子に入ると云っても、イオク・クジャンが子を作り、それが家を継げる年齢になるまでの、本当に中継ぎ的な養子なのだ。そんな立場で、他の六家の許可があるとは云え、どこまで鉄華団に金を注ぎこめるかは怪しいところがある。

 そうであれば、今回の仕事である程度の金を稼いでおいて、後はギャラルホルン、と云うか地球外縁軌道統制統合艦隊の仕事を請け負うなどして、ちまちまと稼いでもらうしかないだろう。

 そのためにも、今回の仕事を巧くこなし、なるべく高く使ってもらえるようにしなくては。

「――確かに、地球外縁軌道統制統合艦隊の仕事をするにも、買い叩かれるようじゃ話にならねぇ。ふっかけても、向こうが仕方ないとおもうくらいの実力を見せつけてやらねぇとな」

「おお、三日月だけに見せ場は作らせねぇぜ!」

 ユージンが云うのに、苦笑する。

「是非ともそうしてくれ。……だが、猫が鼠をいたぶるような真似はするんじゃねぇぞ」

 こちらは充分以上に強いんだからな、と云うと、笑いが返った。

「俺たち“宇宙ネズミ”なのにかよ」

「“宇宙ネコ”に改名するかぁ?」

「止せよ、変なイキモノみたいだろ」

 妙なツボに入ったようだ。

 それを放って、モニターを見る。

「そろそろか?」

 “黄金のジャスレイ号”が潜んでいる宙域は。

「そう」

 “三日月”からの、短い応え。

 なるほど、もう少しで目視でも確認できるほど、彼我の距離は近いようだ。

「よし。ミカ、昭弘、シノ、アストン、行けるな?」

〈〈〈〈おう!〉〉〉〉

 云うと、四人はブリッジを走り出ていく。

 さて、狩りのはじまりだ。

 今回の狩りは、ハシュマル戦に較べれば、ひどく気楽だ。そもそも、こちらはタービンズのサポートであって、とどめを刺すのはあちらの仕事であるのだし。

「“ハンマーヘッド”は」

「あちらも、出撃準備完了とのこと!」

 あらかじめ定めてあった暗号通信を受けて、ダンテが云う。

「よし、それじゃあ出撃だ!」

〈“三日月・オーガス”、バルバトス、行くよ〉

〈昭弘・アルトランド、ガンダムグシオンリベイク、出る!〉

〈ノルバ・シノ、流星号、行くぜ!〉

〈アストン・アルトランド、オルトロス、行く〉

 四つのエンジンが光跡を牽いて行くのを見る。

 ――そう云や、バルバトスは、名前変わらないままだな……

 ルプスとやら、ルプスレクスとやら、名前がどんどん変わっていったはずなのだが――グシオンはグシオンリベイクになった、が、後ろに“フルシティ”とはついていないから、まだ改造の余地はある。……あったから何だ、と云う話でもないが。

 見ていると、“ハンマーヘッド”からもMSが出ているようだ。百錬と百里。アミダ・アルカ、アジー・グルミン、ラフタ・フランクランドの三人だろう。

 それから“カガリビ”から、ランドマン・ロディ改とグレイズも。総勢十五機ほどの一群は、速やかにターゲット、つまりは“黄金のジャスレイ号”を大きく包囲した。

「あー、他にも船がいるな。あと二隻」

 ダンテが云う。

「同じタイプか?」

 つまり、強襲装甲艦かと訊ねると、ダンテの返答は曖昧なものになった。

「多分? ただ、抜いた情報じゃ、あんまり乗りこなしてたもんじゃなさそうだな。単に海賊対策でアレなんじゃないか?」

 なるほど。

 まぁ、自身がつぎはぎの金ピカ船に乗るくらいだ、見た目重視で、練度なんかは問題視していないのだろう。

「……元一軍の連中を雇うくらいだもんな」

 経済効率第一で、腕の良いパイロットに相応の金を払う、なんて考えはないのだろう。買い叩いたら最終的には高くつくのだと、江戸の昔から諺も教えてくれていると云うのに。

「ま、俺たちのターゲットはジャスレイ・ドノミコルスだけだからな。油断は良くないが、あんまり過剰に叩いてはやるなよ、特にミカ」

〈……うぇへぇ〉

 やる気のない返答だ。

「今回は、うちがメインじゃねぇんだ。とにかく姐さんたちのフォロー中心でな!」

 てんでに返答。

 まぁ仕方がないか、手柄を譲れと云っているわけだし、士気もそれほど上がるまい。

 と、MSらしき光点が、“黄金のジャスレイ号”から現れた。全部で五つ、なるほど、これが元一軍の連中と云うことか。

 他の二隻からもMSを出してくるかと思ったが、後続はない。どうやら、本当に五人しかパイロットを雇っていないようだ。

「いくら姐さんたちが三人だからって、これはないな……」

 二期ですら、タービンズの三人は、鉄華団の主力と対等以上の腕前の持ち主だった。つまり、“三日月”はともかく、シノや昭弘となら、かの女たちの方が強いくらいだったのだ。

 そしてそれは、今ここでもそう変わるまい。

 そんなタービンズに対して、元一軍五人しか用意しないとは――ジャスレイ・ドノミコルスと云う男は、よほど見通しが甘いのか、あるいは男尊女卑が過ぎて、女たちの力量を正確に測れないのか、どちらかであるに違いない。

 どちらにしても、それがあの男の敗因になる。戦いでは、より正確な情報を掴んだものが有利である、と云うことに変わりはないからだ。古今東西、戦上手なもの――そして、それは政治も同じだが――は、情報を重視していた。有名な武将や高名な政治家で、独自の諜報機関を持っていたものは、枚挙に遑がない。徳川家康然り、平清盛然り。あの聖徳太子にしても、子飼いの“草”を持っていたと云う話が残っているくらいだ。

 まぁ、同情はしない。あの男のやったことを考えれば、きちんと死ぬ場が与えられるのは、僥倖とすら云えるはずだ。

〈……行くよ〉

 “三日月”が云い、鉄華団のMSが動いた。五機のMSを囲いこみ、“黄金のジャスレイ号”から引き離す。

 と、タービンズのMSが動き――すかさず、鉄華団組の半分が、二隻の船に向かっていく。

 が、その動きが変わった。旋回し、船から距離を置いたようだ。

「“ミカ”、どうした?」

 問いかけると、すぐに返答があった。

〈“オルガ”。ちょっと情報に漏れがあった。ドノミチコロス、レールガン装備したっぽい〉

「なんだと……ダインスレイヴか⁉」

〈多分、その類〉

 それは、原作で鉄華団を破滅させる原因となり、またその後、ラスタル・エリオンがテイワズと妥協せざるを得ない状況を作った、あの武器のことか。

 ナノラミネートアーマーをも貫くと云うその武器が、ジャスレイたちの艦船に搭載されていると云うのか。

 もしも、それを名瀬や、タービンズのMSに向けて撃たれていたら――

 危機一髪、回避できたわけだ。つくづく、ダンテたちの情報収集能力や、“三日月”たちの判断力に感謝する。

 大きく息を吸い、気持ちを落ち着ける。

「――“三日月・オーガス”」

 改めて、その名を呼ぶ。

「やれ。すべての脅威を潰せ。敵を。悪い夢を。――俺たちが連れて行くんだ。皆を、ここじゃない『明日』へ」

 原作で“オルガ・イツカ”が果たせなかった夢を。

 “どこか”ではなく、“明日”――続く未来へと。この二人で。

〈はいよ。りょーかい〉

 冷たく、熱い声。だが、口調は軽い。いつものことだと云うように――そう、だがいつものことだ。いつの“昔”でもそうだった、行手を阻むものたちを打ち砕く、最大にして最強の“剣”。

〈叶えるよ。“オルガ・イツカ”〉

「おう。やって来い――あ、とどめは譲れよ!」

 念押しすると、いつもの声が戻ってきた。

〈うぇへぇ〜〉

 そうして、“三日月”たちは動き出した。

 恐らく、破壊力の大きなレールガンを、とりあえず撃たせてから、艦船ごと沈めていくつもりなのだろう。レールガンは、威力は大きいが先込め式で、しかも“レール”を作るために、消費エネルギーは他のどの兵器よりも大きいと聞く。一発撃たせてしまえば、船全体のエネルギー的にも、空隙が生まれる可能性が高い。その隙を狙っていく作戦であるに違いない。

「……オルガ」

 呼びかけてくる、ユージンの声が硬い。

「大丈夫だ」

 それにそう答えて、自席にどっかりと坐りこむ。

「ミカなら、あいつらなら、やれる。俺たちは掩護と、万が一の時の死傷者回収に備える」

 できれば、誰も死なずに済むといいのだが――しかし、これまでがあまりにも幸運過ぎた。

 鉄華団は確かに強くなった、が、それでも戦場の死を克服できるほどではないのだ。

「――無事に帰ってこいよ……」

 小さく祈ることしかできはしないのだ。

 そうこうしているうちに、MSは再び散開し、シノの流星号とアストンのオルトロスが、随伴の二隻に向かって突っこんでいく。

 さらに、バルバトスが“黄金のジャスレイ号”へ。

 三機とも、艦船に取りついて、メイスなどの打撃武器で、船体そのものを攻撃しているようだ。

 流石にこれには苛立ちを覚えたのだろう、三隻はゆっくりと舳先の向きを変え、三機のMSを狙い撃とうとした。

 と。

「おい! タービンズのが!」

 ダンテが叫ぶ。

 見れば、モニターの中、光点がひとつ、“三日月”たちのところへ――つまりは三隻の照準の中へ、飛びこむところだった。

 アミダ・アルカではあるまい。多分、アジー・グルミンも違う。

 となると、ラフタ・フランクランドか。

〈昭宏‼〉

〈すまん、抜かれた! 止める‼〉

〈早くしろ‼〉

 “三日月”と昭弘の叫びかわす声。

 そこにさらに、

〈バカ野郎! ダンジ、戻れ‼〉

 シノの叫びが重なった。

「ダンジ――あの馬鹿!」

 ユージンがコンソールを叩く。が、それがダンジに伝わるはずもない。

〈三日月、来るぞ‼〉

 アストンの声。

〈散開‼ 回避しろ‼〉

 誰かの声が叫び、次の瞬間、画面上から光点が幾つか消滅した。

「くっそ!!」

 “イサリビ”の船体が大きく揺れる。

 そのあとを、巨大な質量が貫いていった。

〈――ダンジ⁉ おい、ダンジ‼!〉

 シノが叫んでいる。一話で、ダンジのピアスを握りしめ、叫んでいたあの時のように。

〈クソッ! お前云ってたじゃねえか! 『死ぬときはでっけぇおっぱいに埋もれて死にてぇ』って!」

〈昭宏さん‼〉

 アストンも叫んでいる。

 ――まさか。

 ダンジと昭弘、そしてラフタまで、一度に失ったと云うのか――?

 ブリッジはしんと静まり返った。

 だが。

〈……その夢……まだ捨ててねぇっす…〉

 その時聞こえてきたのは、そのダンジの声だった。

〈〈〈ダンジぃイイイイイ!!!〉〉〉

 叫びが、喜びと呆れに彩られているのかわかる。もしも生身で近くにいたら、ダンジは皆に小突き回されていたに違いない。

「……クッソ、冷や冷やさせやがって……」

 ユージンが吐き捨てるように云うが、その表情は明るく見えた。

「ったく、悪運強ぇなぁ」

 ダンテも笑う。

「確認取れた、昭弘も、ラフタも無事だ。グシオンリベイクはダメージありだが、深刻なものじゃない」

「ダンジのランドマン・ロディ改は」

「そっちは、流石に大破だ。……それで生きてるんだ、つくづく悪運の強い野郎だぜ」

 ダンテの声は明るかった。

 遂に死者が、と思っていただけに、ほっとした気持ちが強かったのだろう。

 だが、ここで気を緩めるわけにはいかなかった。

「“カガリビ”は、ダンジ機を回収! ドクターに、医療用ポッドの準備を頼んでくれ。“イサリビ”は奴らを追撃する! 味方には当てるなよ!」

「「「「「おう!!」」」」」

 応えの向こうでは、“三日月”の声が響いている。

〈行くよ!〉

〈〈おう‼〉〉

〈皆も続いて――デルマ、昌宏、アストンに加勢。ビトーとペドロはシノに。昭宏、来て‼〉

〈〈〈〈はいよ!〉〉〉

〈おう!〉

 どうやら、グシオンリベイクは、追撃ができる程度の損傷のようだ。

 元ブルワーズ組と“三日月”、シノ、昭弘が、それぞれの艦船に取りついていく。

 レールガンは連射はできない――先刻のアレで、最強の武器を使ってしまった連中は、慌てて通常兵器を動かそうとするが、エネルギー系統もダウン気味なのだろう、動きがやや鈍い。

 その間に、“カガリビ”から連絡が入った。

 ダンジのランドマン・ロディ改を回収、パイロットを収容。足を骨折だが、内臓には損傷なし。

 安堵の息をついたところで、“三日月”からの通信だ。

〈――“オルガ”。奴らがレールガンぶっ放した映像データ、そっちに送った〉

 その言葉に、思わずにやりとしてしまう。

 上出来だ。

「おう。せいぜい上手く使ってやるさ」

〈ダンジ、回収した? どう?〉

「前とは反対の脚が折れたが、それだけだ。命に別条はないな」

〈そう〉

 それだけ云って、“三日月”は戦場に意識を戻したようだった。

「――オルガ」

 ダンテから声がかかる。低い、潜めたような声。

「何だ」

「通信が入ってる。……ジャスレイ・ドノミコルスからだ」

 ――ほぅ。

 隠し玉のダインスレイヴを早々に使わされて、生命乞いでもしてきたのだろうか?

「……繋いでくれ」

「いいのか?」

 チャドがこちらを見る。

 それに、こくりと頷いてやる。

 モニターの中では、“三日月”たちが次のフェーズに移っている。

 ダインスレイヴを使ってしまった以上、百戦錬磨のタービンズと、鉄華団には負ける要素はなくなった。

 助けてやると云う選択肢はない――それには、ハシュマル戦のあたりのあれこれが、あまりにもあんまりだった――が、恨み言くらいは聞いてやるかと云う気分だったのだ。

「……繋ぐぞ」

 チャドが云った、次の瞬間。

〈鉄華団のガキィィィ!!〉

 モニターいっぱいに、ジャスレイ・ドノミコルスの顔が映し出された。

「あんたが、ジャスレイ・ドノミコルスか」

 どうも、原作でもあまり見ていない――悪だくみの相談のシーンくらい――なので、まともに顔を見たのは初めてかも知れない。

 ――なるほど、“ケツ顎おじさん”。

 見事な割れ顎だ。何と云うか、名前もそうだがラテン系である。そのくせ、豹柄のファーとか――ラテンと云えばラテンなのか。

〈てめぇか! てめぇが仕組んだのかァァ!!〉

「仕組んだ?」

 マクマード・バリストンを殺したのは、自分自身ではないか。その報いを受けている最中だと云うのに、こちらに罪をなすりつけてくるとは、片腹痛い。

「馬鹿云うな、てめぇの自業自得だろ。自分の“親父”を殺すような奴に、誰がつき従うと思ってんだ」

〈――あれは……事故だ!〉

「事故ォ?」

 苦しい云い訳だ。

 いや、仮に本当に事故だったとして、何故その場に留まって、己の潔白を証だてるために、テイワズの統括をしなかったのか。そこに何やら疚しいことがあったのか、あるいは、どう見てもジャスレイの仕業と判断されるようなことがあったのか、どちらかだろう。

 もちろん、誰かの企みの結果と云う可能性もなくはない――ダンテが聞いたところでも、テイワズ内では情報が錯綜していて、はっきりとしたことを聞けたわけではなかったようだったから。

 だが、そうだとしたら、むしろ名瀬以外のテイワズ幹部を疑うべきだろう。ジャスレイのやり口に危機感を抱いた幹部たちが、未だ態度をはっきりさせないマクマード・バリストンに焦れて、ジャスレイの仕業に見せかけて謀殺した、と云う可能性も確かにある。若い名瀬は、後継者として名が上がっていても、まだテイワズを統括するには甘いから、若頭的な連中が、半ば傀儡として担ぎ上げるには良いのだろうし。

 どちらにせよ、

「……てめぇは、俺たちが仕組んだって云うが、そんな暇なんぞなかったさ。名瀬さんにも、そんな才覚があるとは思えねぇしな」

 ジャスレイの失脚を企て、それをなし得る実行力があったなら、原作であんな死に方はしなかったはずだ。

 名瀬・タービンと云う男は、女にはやさしいが、男を取りまとめるにはやや甘過ぎるところがある。女たちを守るために、皆を自分の妻にする、なんてことでは、男たちは御し切れない。“武闘派”などと云われながら、その実冷徹になり切れない、そこが名瀬の良さであり、また弱さでもあるのだ。

 そんな名瀬に、ジャスレイを陥れる計略など立てられはしないし、できなくはない。こちらは、ハシュマル戦からのセブンスターズ入りで、そんな暇もなかったのだし。

「あとな、忘れてもらっちゃあ困るが、俺たちがてめぇの敵になったのは、てめぇの自業自得だ。採掘場の件と、イオク・クジャンを焚きつけてくれた件に関しては、俺たちは、てめぇに鉄槌を下す権利がある」

〈何を抜かすかァ!〉

 ギャラルホルンに、てめぇらが何の関係が、とがなり立てるジャスレイに、思い切り冷たい笑いを向けてやる。

「関係あるさ。俺は直に、クジャン家に入る。クジャン家のためにも、ここで悪い縁は切っておかねぇとならねぇからな」

 それを聞いたジャスレイの顔は見ものだった。

 深緑の眼を見開き、叫びかけた唇をわなわなと震わせて、ジャスレイ・ドノミコルスは絶句した。

「さぁ、ジャスレイ・ドノミコルス、念仏は唱え終わったか?」

 隣りのモニターの中では、幾つもの光点が付き、また離れながら、“黄金のジャスレイ号”に向かって進んでいる。

 そして、

〈……アンタは気に入らない男だったけど、ここまで愚かだとは思ってなかったよ。残念だ〉

 アミダ・アルカの声が云った。凍てつくような怒りの声だった。

〈さあ、ジャスレイ。オネンネの時間だよ。――永遠に眠ってな‼〉

〈うわ、うわァァァァァァ!!!〉

 アミダ・アルカとジャスレイ・ドノミコルスの声が、“イサリビ”のブリッジで交錯し。

 次の瞬間、正面のモニターが、ぶつりと消えた。恐らくは、“黄金のジャスレイ号”のブリッジが、百錬によって潰されたのだ。

 そしてさらに、遙か彼方に、光が生まれた。

 一瞬遅れて、モニターの中の船影が消える。“黄金のジャスレイ号”だけでなく、他の二隻もだ――そして、元一軍のMSたちも。

 皆、声もなく、その一部始終を見つめていた。

 と、

〈“オルガ”、終わった〉

 “三日月”からの通信が入った。いつもどおりの声色だった。

「……よし、良くやった」

 ほっとした気持ちで、それを労う。

 正直、すべてがすっきりと片づいたとは云えなかった。それでも。

「――マクマード・バリストンの仇は、タービンズがとった! 鉄華団が見届けた‼」

 その宣言とともに沸き立つブリッジに、ようやく、本当の意味で終わったのだと、胸をなで下ろすような気持ちかこみ上げてきたのだった。

 

 

 

 戦闘は終了した。

 名瀬は、テイワズの幹部会――のようなもの――に、ジャスレイを討って、マクマード・バリストンの敵を取ったと報告したようだった。

 何やら手打ちの盃だか何だかがどうこう云ってきたけれど、セブンスターズとのこともある、そう長居はできなかった。

「もう、早々会えなくなるってのに、つれねぇ野郎だな」

 などと名瀬は云うが、こちらにはこちらの事情がある。アーレスに置いてきたビスケットとトドも心配だ、早く戻ってやりたい。

 それに、テイワズの重鎮たちは、皆なかなかの曲者揃いのようだったので、かれらが名瀬を担ぐと決めたなら、まぁそう心配しなくとも良さそうだったので。

「俺なんぞに絡むより、あんたは嫁さんたちを可愛がってやんな」

 そう云ってやると、

「ガキが、大きな口叩くんじゃねぇよ!」

 と怒鳴られた。が、顔を赤くしてでは、あまり迫力はない。

「とりあえず、俺がセブンスターズ入りする前に、精算はしておきたい。例のMSは貰うとして、報酬は、そうだな、五千で」

 本来なら億に乗せるべきところ――“イサリビ”と“カガリビ”の二隻に加え、バルバトスとグシオンリベイク、オルトロスとグレイズ三機、ランドマン・ロディ改六機を出している上、そのうち一機は大破しているわけだから――だが、入手困難なガンダムフレームを貰う上、“サービスする”と約束したからには、これくらいは云わなくてはなるまい。

 が、名瀬は面白そうな顔になった。

「へぇ……本気で“サービスする”つもりだったんだな」

「あたり前でしょう。するつもりもないのに、口約束なんかしませんよ」

「義理堅いな。ま、そう云うところを気に入ってるんだが」

「そりゃどうも」

 金の振込先を告げ、フラウロスの引取について相談しようとしたところで、

「まぁ待て」

 と名瀬に止められた。

「何ですよ、もっとまけろとでも?」

「そうじゃねぇよ、疑り深いな」

 苦笑が返る。

「あの小っちぇえの、あいつに云われたんだよ、ジャスレイの隠し財産を見つけたってな。要は、その分弾めってことだろ。だからまぁ、それをそっくりお前らにやる」

「……本気ですか」

 思わず問い返す。

 いくら隠し財産と云っても、表の資産と同じか、それに近いくらいはあるだろう。つまりは結構な大金だ。

 それを、云ってしまえば仕事でつき合ってやっただけの鉄華団に、ぽいと寄越してしまっていいのだろうか。

 名瀬は、また苦笑した。

「ジャスレイは、テイワズの商取引を中心にした企業を任されてたんだ。“親父”の持ってた資産よりは全然ないし、隠し資産もご同様だ。――だがまぁ、お前らには大金だろうし、まぁ、MA騒ぎの迷惑料みたいなもんさ。いいから受け取っておけ」

「……後悔しませんね?」

「むしろ、この先もお前らと繋がりを持っとくための投資だと思ってくれ。セブンスターズに直接の知り合いができるんだ、安いもんさ」

 片目を瞑って云う、その態度にほっとする。

「それじゃあ、ありがたく戴きます」

「おう。その代わりと云っちゃあ何だが、これからも宜しく頼むぜ」

「わかりました」

 笑いながら手を振って別れ、次はマクギリスに報告だ。

「ファリド准将、片がついた。こちらの損害は少々、ランドマン・ロディ改一機が大破、パイロットは重傷だが生命に別状なし。……イオク・クジャンを焚きつけた野郎は、名瀬・タービンとその配下によって死亡。これで、クジャン家もキレイになったぜ」

〈それは重畳〉

 マクギリスは、満足げに微笑んだ。

「で? 俺たちはこの後、アーレスに戻るが、その後はどうすれば良い? グラズヘイムのどれかに行くのか、それともヴィーンゴールヴか」

 まぁ、クジャン家入りの手続きがあれこれあるだろうことを思えば、ヴィーンゴールヴである可能性は高いのだろうが。

 案の定、

〈ヴィーンゴールヴだ〉

 マクギリスは云った。

〈セブンスターズの当主たちと、きちんとした顔合わせをしなくてはならないからな。……それはともかく、君は本当に、三日月・オーガスを、ラスタル・エリオンのところへやるつもりなのか〉

 不満げな声。

「そのつもりですが?」

〈あの男に、君の持つ最大火力をくれてやるのは、いかにも業腹ではないか〉

「くれてやるんじゃありません、貸してやるだけですよ」

 それに、

「ミカは、他の奴に御せるモンじゃない。いずれ音を上げて戻してきますよ。そうでないなら、いずれはあいつがアリアンロッド艦隊を率いることになる。そうなれば、アリアンロッド艦隊もあんたのものも同じになるんだ」

〈……取りこまれたりはしないか〉

 マクギリスは不安なようだが、心配はしていなかった。

「あいつに首輪をつけられるのは、俺だけしかいません。行けば、アリアンロッド艦隊はしっちゃかめっちゃかになるでしょうよ」

 まぁ、向こうにはヴィダール――ガラン・モッサがいるから、決定的な破局にまではいかないかも知れないが、それならそれで、アリアンロッド艦隊を取りこむチャンスになる。

 まぁ、“昔”、やはり“三日月”をと望む奴がいて、暫く貸し出してやったのだが、十日ほどで帰ってきたのだ。聞けば、借りた当人はともかく、まわりが早々に音を上げて、片腕の男に“返してらっしゃい!”と、猫の仔でもやりとりするように云われたのだとか。それでもあの時の相手は、“三日月”にとってもそこそこ親しい相手だったのだから、これがラスタル・エリオン相手なら、その行状は推して知るべし、である。

〈アリアンロッド艦隊をしっちゃかめっちゃかにするのが狙いだと?〉

「プラス、ラスタル・エリオンの動向を探るスパイでもありますかね」

〈本人は厭がっていたようだが〉

「そこはやらせます。……まぁ、あんたが心配することじゃないんですよ」

 重ねて云ってやるが、マクギリスの表情は変わらなかった。

 まぁ、本当に見ていればわかることなので、これ以上云い募るのは止めにする。

「……まぁとにかく、ヴィーンゴールヴに行って、ミカも一緒にクジャン家に入って、それからミカはエリオン家に入るわけですね。鉄華団は、グラズヘイム1ですか?」

〈そうだな。カルタが、君が落ち着くまでは預かると云っていた。まぁ、仕事があれば駆り出されるだろうが――君たちは、その方が良いのだろう?〉

 目の端でちらりと笑われる。まぁ、まったくそのとおりで、ぐだぐださせていると、碌なことにならない気がするのだ。

「できれば、訓練なんかにも加えて戴けるとありがたいですね」

〈カルタには、そう伝えておこう。――ところで、オルガ・イツカ〉

 改まって呼びかけられ、首を傾げる。今さら、そんな風に呼ばれるなど、何か深い意味でもあるのか。

「何でしょう」

〈セブンスターズから、ひとつ提案が出ているのだが〉

 何やら云い難そうな風で、マクギリスがこちらを伺ってくる。

「提案」

 クジャン家に入ること、一緒にクジャン家に入った“三日月”が、その後エリオン家に入ること、鉄華団がグラズヘイム1に行き、当座は地球外縁軌道統制統合艦隊の管轄下に置かれること。

 この上、どんな提案があるのだと?

〈これは、そもそもイシュー家の当主――カルタの父君だな――からの提案ではあるのだが、バクラザン家、ファルク家も賛同したことなのだが〉

「はい」

 マクギリスにしては珍しく、随分と逡巡する様子だった。

 が、かれはゆっくりと口を開くと、

〈オルガ・イツカ、君は、クジャン家の当主代行を務めながら、カルタ・イシューの婿になる気はないか?〉

 特大の爆弾を投下してよこしたのだ。

「は、はぁァァァ?」

 カルタ・イシューって、あのカルタ・イシューか。今さっき名前の出た、地球外縁軌道統制統合艦隊の司令官で、セブンスターズの一、イシュー家の一人娘。

〈不満か〉

 マクギリスが眉を寄せるが、そう云う問題ではない。

「えっ、いや、だって――そう云う柄じゃないですよ俺」

 “昔々”はともかく――そこらへんはいろいろある――、元のアレでも一般市民だったのだし、こちらではスラムからのし上がってきたみたいなものだったわけなのだし。

「いくらクジャン家に入るって云っても、全然つり合わないでしょうが!」

〈ご当主は、別に君の出自は気にしないと云っておられる。それよりも、君の政治手腕に興味がおありのようでね。カルタの補佐をしてもらいたいものだと云われていたよ〉

 外堀が、またしても着々と埋められつつある。

〈カルタも、満更でもないようだ。もちろん私としても、君がカルタの伴侶になるのは喜ばしい。ガエリオもそうだろう。……どうだね?〉

 ――“どうだね”って。

 もう退路を塞いだような状態で、そうくるか。

「……えー……返答には、ちょっとお時間戴いていいですかね……」

 断れないのはもうわかっているが、せめてもの抵抗として。

 こちらの気分がわかったのか、マクギリスはにっこりと笑った。

〈色良い返事を待っているよ〉

 最後にそう、盛大に釘を差して。

 

 

 

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