【成り代わり】鉄血のナントカ【異世界転生?】   作:くずみ@ぼっち字書き。

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一方その時"三日月"は 2

 

 

 

 戻ってきた一軍はボロボロだった。

 MWの数は、半分近くまで減っているーー大損害じゃん。

 いかに追撃を受けたからと言って、あの程度の敵にここまでやられる?

 どんだけ程度が低いの。分かってたけど。

「――てめぇら……」

 無能なハエが、軋る声を上げている。

 酷い顔ーー焦りと怯えが混じってるーーどのみちお前たちはもう終わりだけど。

 ああ、今この場で殺っちゃいたい。

「――ここじゃ何だ、来い」

 しゃくってる顎、割っていい?

「――はい」

 頷いた“オルガ”がついてくけど、ひとりでなんか行かせるもんか。

 一緒に足を踏み出せば、ユージンとシノ、それからビスケたんもーーまあ、お前らもそうだよね。

「ーーあとは頼む」

 明宏が、“オルガ”に頷いたーー不安そうにしながらも、年少組の眼差しは厳しい。

 みんな、お前らを許さないって、もう決めてんだよーーハエ共が。

 一軍控え室ーー参番組のそれより格段にきれいだーーの壁際に並べば、“オルガ”だけが一歩前へ。

「てめぇら……よくもやってくれたな」

 見捨てた側が、嵌めた側を罵る茶番。

「……一軍の皆さんが陽動して下さったお蔭で、損傷も最小限で済み……」

「ふざけんな!」

 “オルガ”の煽りに拳が飛んだ。

 案の定、殴られなれてないボスは、耐えきれずに床に転がる。

 眼の前が赤いよボス。

 ちょっと血管切れそうなんだけど。

「てめぇら、俺たちを囮に使いやがっただろう! ……何だ、その目は! ユージン、シノ、ビスケット、三日月! てめぇらも前に出ろ!」

 “ササイなナントカ”が怒鳴っている。

 “オルガ”がヨロヨロと立ち上がる。

「……待って下さいよ――俺だけで、いいでしょう……?」

 下手にでた“オルガ”に、ハエが下卑た嗤いを浮かべたーー優位に立ったとでも思っているんだろう。吐き気がする。

「望みどおりにしてやるよ! オラッ!」

 鳩尾に蹴り。“オルガ”がえづく。

 倒れ込むのを許さずに掴み上げて、殴る。

 その、かすかな違和感ーー振るわれる力を少しだけ流しているーー殴られたことなんて殆どない“オルガ”には、できないはずの動きーーオルガ?

 元のオルガの身体に染みついたムーブが、ボスを動かしたの?

 なんでもいい。少しでもダメージが減るんなら。

 飛び出しそうになるのを、ひたすらに我慢する。

 殴られてもいないのに、喉の奥に血の味が。

 ーーまだだ。

 ひどい顔で、でも、“オルガ”が制止してくる。

「……チッ、しぶとい奴だぜ」

 ササイが吐き捨てた。

 好きに殴って気が済んだのか、

「無駄な労力使っちまった――行くぞ、ササイ」

 クソがクソを促して立ち去ろうとしてる。

 ササイな方のクソは、まだ気が済んで無い様子だったけど、唾を吐き捨てて出ていった。

「“オルガ”」

 飛びついて抱き起こす。

 痛むんだろう。泣き顔に似た顔で、“オルガ”が小さく笑った。

「……こんな不様を晒したくはなかったんだけどな」

「何云ってるの」

 ホントに何言っちゃってんのーー無様なのはクソどもだった。

 誰が見てもそうだ。無抵抗の“オルガ”を痛めつけた。

「…ホント厭だったんだ、“オルガ”がこんな目にあうの…それくらいなら、おれが殴られた方がよっぽどよかった」

 慣れてるしーー暴力には。耐え方も、痛みの逃し方も知ってる。

 殴る側に回れるようになるまで、ずっとそうして生きてきたし。

「必要だったんだよ」

 そうかも知れない。“オルガ”が進もうとしている未来のためには。

「わかってる。わかってるけど――ねぇ、アイツら殺させてよ」

 おねだりーーだけど、これ、決定事項ね。

「ハエダとササイ、アイツらは“俺”が殺る。いいだろ、ボス」

「……“オルガ”だろ」

 小さくため息をついて、だけど、だめだとは言わなかった。

 それから、ボスは怒りと悔しさでどうにかなりそうなユージン達を見て、唇を歪めて笑った。

 人間を“駒”として見るときの、ボスの顔。

 ここに居る面々はーー居ない者もーーその全てが、ボスの盤面に並べられてるんだろう、“オルガ”ーーボス自身も含めて。

 それを怖がる人も、嫌う人もいたけど、おれは好きーーだって、ボスは駒を“人間”として大事にするんだ。

「……話がある」

 歯車を回す声。

「奇遇だな、俺もだ」

 一同が同じ決意を持って頷く。

「――向こうで話そうぜ。お前らが俺と同じ気持ちなら、その後で年少組や昭弘たちにも話そう」

「ああ、多分そうなるだろうぜ」

「とりあえずは飯、だな」

 呑気を装った“オルガ”の言葉に、ビスケたんが「ああっ」と腹を抑えた。

「そう云えば、夢中で忘れてたけど、お腹減ったなぁ」

 途端にきゅうと鳴った腹に、皆が笑う。

「あ」

「お」

「……えへへ」

「聞こえたぞ、ビスケット」

「仕方ないだろ、考えてみたら、朝食もまだなんだもの」

「あー、まぁな」

「……俺も、腹減ったかも」

 言ってみるけど、ホントはそこまで減った感じがしない。バルバトスに繋げた阿頼耶識の衝撃がまだ残ってて、頭は痛いしムカムカするし。

 でも、食べなきゃ体が保たないのも分かってる。

「じゃあ、行くか」

 “オルガ”が食堂に向うのに、ノタノタとついていく。

 みんな、その胸の中に抱えた嵐を、うまく笑顔で隠していた。

 

 

 

 食事の後は、少しだけ休ませて貰うつもりだったけど、どうやら寝床につく前に気絶してたらしい。

 目覚めたら、昼を大きく回っていた。

 寝台に転がしてくれたらしきシノには、いきなり寝るからびっくりしたと文句を言われた。

 でも、十分な休息のおかげで、バルバトス・ショックーーそう名付けてみたーーは大分収まっていた。良かった。

 既に戦闘の後片付けは、あらかた終わっているそうだーーサボったことへのお咎めはなかった。

 ーーまあ、おれ一応活躍したしね。

 捕虜を見に行ったら、倉庫で半裸で泣いていた。

 やめてよ。暴行された乙女じゃあるまいし。

 もう喚く気力もなさそうだったーー食事とかはちゃんとさせたって聞いてるけど。

 日が傾いた頃に、集合。

「――まぁ、一服盛るしかねぇだろうな」

 “オルガ”が言えば、みんなが頷く。

 CGSの乗っ取りは、もう決定事項だし。

「全部殺っちまえばいいんじゃねぇの」

 シノが言う。

「いや、それは拙い」

「……どっちでもいいけど、ハエダとササイは“俺”に殺らせてよ」

 さっき、拒否はされなかったけど、念の為ね。

「あぁ、それは任せた」

 よし。言質はとった。

「“オルガ”を殴ったんだ、万死に値するよ」

 シノが、変な顔してこっちを見た。

「……三日月、お前、むっずかしい言葉つかいやがんなぁ」

「どっちにしても、あの拙い指揮の責任はとってもらわねぇとな。あいつらで落とし前つけたら、他は放免してやるさ」

「はぁぁ!?」

 ユージンがうるさい。

「放免って――まさか、そのまま抱えるつもりかよ!?」

「それを望む奴はな」

 ーーあんま居ないと思うよ。あいつら変なプライドだけあるし。

「一軍の連中に出す食事は、ビスケット、お前が持ってってくれ。お前が一番警戒されにくい」

 確かに適任ではあるーー表立った反抗をあまり見せるタイプじゃないから。

「わかった」

「それから、年少組には関わらせたくねぇ、どうしたって綺麗ごとじゃ済まねぇからな。――実際にやるのは、俺とミカ、シノとユージン、こんくらいでいいだろ」

「ぼ、僕は……?」

 メンバーから外されたことが不安定なのか、ビスケたんの声が震える。

「お前にゃ、騒ぎになった時の、年少組の取りまとめを頼む。パニックになられても困るが、もっと困るのは、先走って、辞めようって一軍の奴らに襲いかかられることだ。人死は最小限で済ませたいからな」

「ちょ、ちょっと待てよ! ハエダとササイを三日月に殺らせるっていったな? じゃあ、俺とシノはどうすんだよ!」

 ユージンは、ホントにうるさいーー今度、猿轡でも用意しとこうかな。

「そんなの、脅しに決まってんだろ。ミカじゃ、殺気はともかく、あいつらに威圧は難しい」

「お飾りか!」

「やる時にゃやってもらうさ――何かあるか」

 大雑把な取り決めだけど、それで皆が納得した様子だった。

「よし、じゃあやるぞ。皆、頼んだ」

 あまり集まっているところを見られるのは良くないから、散り散りになって、各自の持ち場に戻っていく。

 途中、まだ身体をかばいながら歩く“オルガ”のジャケットを、そっと引いた。

「何だ?」

「殴られたとこ、ちゃんと手当てした?」

 あんまりされてる風に見えない。

「あー……」

 歯切れの悪い答えーーやっぱりしてないね。

「ちゃんと手当てしないと、後で三倍辛いよ」

 処置を怠ると、熱だって出る。

 昔、とっ捕まった先の道場で、ちゃんと手当したら、びっくりするほど回復が早いって教えてもらった。

 放っておくと、何日も痛いのを我慢するはめになるからね。

「わかった。湿布でも貼っとくさ」

「そうして」

 “オルガ”が頷いてくれたので、満足して去ろうとして、

「おい“ミカ”!」

 反対に腕を掴まれた。

「なに?」

「お前、どうなんだ、その――阿頼耶識は」

 ちょっと聞きにくそうーー少しだけ“オルガ”の目が泳いでる。

 きっと今になって、バルバトスに乗せた影響が気になりだしたんだろう。

「あー……うん、まぁ、何とか?」

 そうとしか答えようがないーーあんな負荷がかかるもの、絶対的に大丈夫と断言するのは難しいし。

「何で疑問形なんだよ。あと、全然わかんねぇ、説明しろ」

 食い下がる“オルガ”にため息が溢れる。

 うん、予想はしてたけど、やっぱり全く使えてないんだね、阿頼耶識。

 もう、接続自体やめたほうがいいよ。どうせ、オリジナルみたいには使えやしないだろうから。

「ええと……阿頼耶識って、基本的にはなんか、“こう動け”って強制してくる感じ?ーーなんだよね。だから阿頼耶識持ちだと、新兵でもそこそこ動けるんだと思うんだけど」

 センサー直結で敵の動きが見て取れるし、そのうえで強烈なムーブの押し付けが来るから、直感的に動けるーーって錯覚しそうだけど、どっちかっていうと直感でムーブを取捨選択する感じ。

 選択できないと、最適ムーブのままに操られるーーそれが“そこそこ動ける”の正体だろう。

「――正直やりづらいから、逆にシステムにこっちのムーブを押し付けた」

「何だそりゃ」

「だから、システムに保存されてる動きのパターンを、こっちでさらに追加してくんだ。それでフィードバックさせると、負担が減って楽」

 それに気づくまでは、ほんとに潰されるかと思ったけど。

「なるほど」

「阿頼耶識に真っ向から逆らって動こうとしたり、脳で処理しきれないようなムーブの選択を繰り返すとダメージが蓄積してくーーだから、可能な限り処理できる範囲で動いてる」

 真っ直ぐに“オルガ”を見て。

「三日月みたいにはならないよ、おれ」

 ハッとしたように見開かれる目ーーなんだ、それなりに心配してくれてたんだ。

 いつもの表情筋なら、ニマニマしそうだけど、生憎、これは三日月の表情筋だからね。

「おれは大丈夫。だから、“オルガ”もオルガと同じにはならないでね」

 あんな最期は絶対に迎えないで。

「――ばぁか、俺を誰だと思ってんだ」

 ボスだと思ってるよーーどこまでも自信有り気に見えて、時々、やたらと繊細だから心配してんだよ。

「――まずは今夜の作戦からだ。頼んだぜ、“ミカ”」

「うん」

 “オルガ”が腕を掲げるーーえ、アレやるの?

 なんでそんなにノリノリなのさーーまあ、確かに格好良いかも知れんけど。

 本家の二人みたいに腕を打ち合せる。

 じゃあ、また後でね。

 

 

 

 “叛乱”は静かに始まり、速やかに集結した。

 一服盛って意識がないところで縛り上げ、目を覚ましたところでBAN×2!

 要約するとそんな感じ。

 ハエダとササイの恐怖と絶望に染まった表情は、見るに耐えないものだったけど、溜飲はちょっと下がった。

 なんで殺されるのかってことだけ、バカでも分かるように教えてやって、それから撃った。

 弾がもったいないから、それぞれ頭に一発ずつで仕留めたけど、もっと痛めつけてやればよかったかな、と思う。

 まあ、もう出来ないんだけどね。

 

 “オルガ”が私室に向かったから、あとから追いかけた。

 ハンモックに横になってる“オルガ”は、案の定、魘されていた。

 苦しげな息。身を庇うみたいに長身を折り曲げて震えてる。

「……ボス」

 滲んでる汗を拭えば、その目がゆっくりと開いておれを見た。

「……」

 かすかに動いた唇は、声もなく、“三日月”じゃなくて、“おれ”のもとの名前を呼んだ。

 “オルガ”の体から、力が抜けていくのが見て取れる。

「……どうした?」

 小さくて掠れた声。

「ボス、うなされてたよ」 

 額をそっと撫でる。

 自覚がないのか、キョトンとした顔は、少しだけ幼くも見えた。

「そうか?」

「うん。殴られるのって、ボスには辛すぎる――やっぱりアイツら、もっと傷めつけてやればよかった」

 それこそ、隙間なく切り刻むとか、全身の骨を砕いてやるとか。

「馬鹿、あれで充分だ」

 苦笑した“オルガ”が首を振る。

 それに、さらに首を振りかえすーー聞きがわけない子供みたいになってるのは、俺のほうかな?

「全然足りない。みんな、きっとそう思ってた」

「……でも、終わったことだ」

 “オルガ”の大きな手が、髪をワシャワシャとかきまわすーー少しずつ、腹の中のざわつきが治まってくる。

「明日も早いだろ。もう寝ろ」

「……ここで寝ていい?」

「え」

 ボスは渋るけど、反論を待たずにモソモソとハンモックに這い上がる。

 腹のあたりで小さく丸まれば、長いため息が髪をくすぐった。

「……仕方ねぇなぁ」

 ポンポンと、宥めるように“オルガ”の手が動いてーーそれから、この体に縋るように、ギュッと掻き抱いてきてーーすぐに寝息が聞こえてきた。

 じっと窺ってみるけど、もう、魘される気配はない。

 ホッとする。

 夜明けまでそんなに間がないけど、ここでなら、ちゃんと眠れそうな気がするんだ。

 

 

 

 それからの“オルガ”は何かと忙しく働いていて、早くも会社の経営者の顔になっていたーーうん。その渋面、確実に未成年には見えないよ。まあ、中身の年齢を考えればそりゃそうか。

 赤字もいいトコの経営状態をどうするかで、うんうん唸って頭を抱えている。

 だけど、今のおれが手伝えることはあまり無かった。

 ーーだっておれ“三日月”だし。

 いきなりバリバリやり始めたら、まわりが混乱しちゃうでしょーーいや、オシゴトが面倒だから逃げてるとかじゃなくてね!

 ともあれ、おれは自分のやるべきことに集中しよう。

 つまり、今後の戦いをどう凌いでいくのかとか、そっちの方面だ。

 これがかなり悩ましい。

 どんな手を使っても、おれは三日月の戦績を超えていかなきゃならない。

 ボスがそれを望んでいて、しかも、疑いさえしていないーーまあ、その信頼は嬉しいし、誇らしいけどさ。

 だけど、単体で比較したとき、おれより三日月の方が、格段に強い。

 それは阿頼耶識に接続してきた経験値であったり、戦いのセンスであったり、そういうところで、おれはオリジナルに敵わないんだろう。

 それでも、おれには三日月には無い知識だったり、人生の長さの分、別の経験値がある。

 それによって阿頼耶識の解析だとか、システムの応用だとか、サポートの強化による恩恵を得ることができるわけだ。

 もしも三日月が諸々を使えてたら、あんなにボロボロにならずに済んだはずだ。

 だからこそ、おれは、リミッターを外せないーーその危険性を無視できない。

 ただの一度でも外してしまえば、高確率で潰されることが分かっているからだ。

 そして思考はふりだしに戻る。

 ーー……ふおおぅ。

 もう嫌だ。考えるの苦手。助けてボス!

 なんて、忙しいボスに縋ってもきっと絞められるだけだから、とりあえず気分転換。

 阿頼耶識に慣れるのも込みで、バルバトスに乗ってみる。

 まずは、ラジオ体操第一〜♪

 それからそこいらを駆けずり回ったり、華麗なるバク転やら側転やらを披露したり。ブリッジしたり。

 あ、なんか楽しい。

 そして新たなムーブを発見!

 ーーそうだよね! 人型だもの。絶対にあると思ってたよ格闘技!!

 ふはは。馴染んだムーブに興奮が抑えられんよ。

 ついでに得意技のムーブも追加しておこう。

 ネタ系ムーブも仕込んでやるわ。

 と、ひとしきり遊んーー動きを試していたら、〈いつまで暴れてんだ!〉と、おやっさんとヤマギから通信で怒られた。

 ーー……おっかない。

 バルバトスから引きずり出され、格納庫の床に正座。

 バルバトスのリアクターから動力が供給されないとか、気持ち悪いから変な動きをするなとか、最近人が変わったようで気味が悪いとか。

 神妙な顔でーーそもそも表情筋動かないしーー聞き流してたら、ギャラルホルンのMSが飛んできたとの一報が。

「ーーッ!」

 バルバトスに飛び乗ろうとするけど、

「待て三日月!」

 おやっさんに引き止められる。

 邪魔するなーーボスになにかあったらどうするの。

「行かなきゃ」

 睨みつければ一瞬怯んだものの、それでもおやっさんは首を横に振った。

「オルガがお前を出すなと言ってるんだーー大人しく待っていろ」

 厳しい顔。おやっさんも心配なんだろう。

「“オルガ”は?」

「いま、あっちのパイロットと話してるよ。クランクとか言ったかな」

 ヤマギも不安を隠せてないけど、その名前を聞いて、おれは少し安心した。

 相手が奴なら問題なさそう。間違っても不意討ちとか、そういう真似をするタイプじゃないから。

 しばらくして、MSが去ったとの知らせと同時に、”オルガ”が呼んでいると告げられた。

 急いで向かえば、悪い顔で笑う“オルガ”と、頭を抱えたユージンと、そろそろ“オルガ”のやり方に慣れてきたのか、微苦笑だけで済ませてるビスケたんが居た。

「掛かったぞ。二機戻ってくる」

 不敵な声。

「……もしかしなくても、その二機のパイロット生け捕りにして、グレイズもほぼ無傷で奪えとか言うんだよね?」

「できるだろ」

 なんでも無いことのように“オルガ”が言う。

「いくらなんでも、MS二機の相手は無いだろうよ……」

 ユージンがブツブツ唸ってる。

「決闘形式だ。一対一でやれるーーぶちかましてこい」

 真剣な声ーーいつもの、鋼みたいな光が目の奥に潜んでる。

「……頑張る」

「やれって言ってんだろ」

 はいよーーまあね、なんとかしちゃってみるけどさ。

 バルバトスにも慣れてきたし、オーリスのときより動ける自信はある。

 前回のあれで、クランク・ゼントにムーブを見切られてなきゃ良いけどーーまあ、ムーブは無限にあるし、どうとでもできるか。

「それから、うちはこれから鉄華団を名乗る」

 誇らしげな“オルガ”の宣言。

「……鉄華団」

「ああ。決して散らない鉄の華、だ」

「うんーーいい名前だね」

 オリジナルのオルガ・イツカがつけた名前ーーこれから“オルガ”が背負っていく名前。

 そして、おれが守らなきゃいけない名前だ。

 なんか、いろいろこみ上げてくるね。

「だろ。ーーあ、そうだ、決闘では“鉄華団遊撃隊長”って名乗ってやれよ」

 “オルガ”がにやにやしてる。

 それに軽く肩をすくめて、

「はいよ。りょーかい」

 覚えてたらね。

 

 

 

 夕刻まではまだ間があるといった頃に、二機のグレイズはやってきた。

 そのうちの一機は、仰々しい赤い布を纏っているーーあれがクランク・ゼントの搭乗機か。

〈立会人を用意した! そちらの代表は!〉

「“ミカ”、行け」

「はいよ」

 “オルガ”の声に従って、バルバトスへと向かう。

途中、こちらを見下ろしてくるユージンを一瞬だけ見るーーなにか言いたげ。でも、なにも言ってこないからそのまま流す。

 “オルガ”がクランクたちの相手をしているうちに、コックピットに入り込んで阿頼耶識を接続した。

 瞬間に広がる感覚ーー外にいる二体の敵を感じ取れる。

〈――“ミカァ”!〉

「はいよ」

バルバトスを起動して、格納庫を出る。

〈いけるな?〉

「やれって云われたらやるよ」

どのみち、やらないという選択肢は無いんだけどさ。

〈よし。じゃあいけ。くれぐれも殺すなよ〉

「……頑張る」

〈やれって云ってんだろ!〉

 “オルガ”が怒鳴る向こうで、ビスケたんらしき笑い声も聞こえた。

 なに、そっちは案外余裕あるじゃないのさ。

 息を吸って、吐く。

 見据える先で、クランク機は、赤い布を脱ぎ去った。

 静かに相対する。

 あちらの得物は長剣だーー刃が厚い。

 斬りつけるというよりは、叩き斬るタイプ。当たればバルバトスと言えど、軽くないダメージを被るだろう。

〈ギャラルホルン実動部隊、クランク・ゼント!〉

 まずは名乗りからか。

「あー……。鉄華団遊撃隊長、“三日月・オーガス”」

 さっき決めたばかりの肩書きを告げる。

 バルバトスの踵をわずかに下げれば、クランク機は重心を落とした。

 駆け引きはもう始まっでいる。

 オーリスのときの動きを踏まえた構えだった。

 長剣の線上にコックピットがあるーーこちらが突っ込むところを仕留める腹積もりか。

 グレイズの可動範囲を予測して、サブシステムにその軌道を計算させる。

 うん、結構際どいねーーあ、来る。

〈いざ、参る!〉

 叫びと共にグレイズが疾走る。

「行くよ」

 ーーバルバトス。

 飛び出すーー敢えて長剣の軌道の下に。

 振り下ろされる瞬間、軸をずらして回避ムーブーーしきれないところは、メイスで剣の腹を薙いで流す。

 と、僅かに空いた隙間からコックピットを確認。でも。まともに打てば潰してしまう。

 メイスを下から上に。跳ね上げるように。

 ーー抜けろ!

 轟音ーー大きく火花が散った。

 グレイズが揺らいでーーその動きが停まる。

 間をおかず、

〈クランク二尉!?〉

 もう一機が、赤い布を投げ捨てて突っ込んできた。

 ーーうわ、猛牛かよ。

 防御とか回避とか、少しも考えてない動きーー遣りづらいな!

「心配しなくても、殺してないよ。今度はちゃんと、コツわかってたし」

〈貴様、よくもクランク二尉を……!〉

 ーーって、コイツ聞いちゃいねぇわ。

 仇を討つとばかりに、上官の長剣を拾って特攻して来る。

 大振りーー周りが見えてない動き。これ危険。

 下手に暴れさせて、基地に被害とか冗談じゃないーー“オルガ”が居るのに。

「“オルガ”ぁ、殺っちゃっていい?」

手加減なしで殺っちゃおうかな。

〈あー……うん、まぁ、殺すなよ〉

 ーーぬ。やっぱり駄目か。

 でも、殴るのは許可が出たから。

「だいじょーぶ」

 防戦から攻勢に転じる。

 頭に血が上ってる分、威力はあるけど隙も大きいんだよチェリー君。

 メイスの軌道を修整ーーほら、武器の軌跡の隙間から。

「はい、おしまい」

 ドンーーと、真っ向からコックピットを突くーー潰さんけど。むち打ちくらいは覚悟してよね。

 そのまま押し込む。大きく大地を削りながらーーグレイズの停止を確認。

 素早くバルバトスの手のひらに下りて、コックピットの中の様子を見る。

 どこかにぶつけたのか、額が少し切れてるーーけど、見た感じではその程度だ。

「イケメン……バルス!」

 あ。なんか呪いの言葉が。

 だってこないだのオーリスはすごい顔で泡吹いてたのに、この男は、血濡れで眉間にシワ寄せて目を閉じてても、なぜか見映えが良いんだよ。

 ついでにクランク・ゼントも覗いて見る。

 ーーうん。おっさん渋いな。

 何かを諦めたような、でも諦めきれてないような、苦しそうな表情が、傷のある顔に残っていた。

 古武士みたいな印象ーーあんまり器用じゃなさそう。まあ、器用だったら、こんな真っ向から決闘申し込んでくるとか無いか。

 なにはともあれ生存確認は済んだから、バルバトスの上から大きく手を振って知らせる。

 あれーー“オルガ”の隣にお嬢さんも居るーーよし、多めに手を振っておこう。

〈とりあえず、パイロットは運び出せ。一応、怪我の様子は確認して、軽く拘束はしておけよ!〉

 “オルガ”の指示。

「ーー誰か手伝って」

 力にはそれなりに自信があるけど、流石にコレは重たいーーとくにクランク二尉。でかいし。

〈おう、今そっちに行く。しっかしこないだのといい、良く仕留めやがったなあ!〉

 これはシノか。

「まぁね」

〈なんだよすかしてやがんな〉

「いいから手伝ってーー起きたら面倒くさい」

 せっかく気絶させたのに、また殴るとか手間じゃないか。

〈しゃーねぇ。お前ちっちゃいから運べないもんな?〉

「……」

 ーーふふ…ふふふふふ。ふふ。

 おれが、ちっちゃいですって?

〈おい、三日月?〉

「シノ知ってる? 下半身なくても阿頼耶識にさえ繋げばパイロットはできるんだって」

 半分に切れば、お前、おれよりちっちゃくなるよね。

〈こっわ! 三日月、お前こっわ!!〉

「はやく手伝って」

〈あ、はい〉

 いまさら素直に言う事聞いても、許さないからね、シノ。

 

 

 

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