【成り代わり】鉄血のナントカ【異世界転生?】   作:くずみ@ぼっち字書き。

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【成り代わり】鉄血のナントカ 3【異世界転生?】

 

 

 

「とりあえず、“方舟”からうちの船で行く、ってのは変わりないんだが」

 事務所のソファにちょこんと坐ったクーデリアに、簡略な図を示しながら云う。

 クーデリアを送り届ける任務を受けて初めて、“鉄血”世界の航宙技術やら何やらを学ぶことになった。

 アニメで見た“イサリビ”――今はまだ“ウィル・オー・ザ・ウィスプ”――は、とても地上から宇宙に出られるような形状ではなかったので、恐らく地上から大気圏外までは、別の手段で上がるのだろうとは思っていた。

 宇宙世紀なら、ミノフスキークラフトとやら、特殊な航法で飛ぶ方法があったから、ホワイトベースなどと云う、航空力学を無視したような形態の船――だけではなく、MSの類もだ――も飛行することができたが、この世界では、確かそう云うものはなかったはずだ。

 ――マスドライバーみたいなものがあるとはな。

 まぁ、そこは“やはり”と云うべきなのかも知れなかったが。

 マスドライバーと云うと、どうもVガンダムしか思い出さないが、別にあれのオリジナルと云うわけではなく、SFの設定としてはポピュラーな方に入るものらしい。

 まぁ、軌道エレベーターではMSやMWを宇宙に上げるのは難しいような気はしていた。が、その単語でぴんとこないあたり、やはり読んできたSF作品に偏りがあるようだ。

 ――ゼラズニイとか、オースン・スコット・カードとかじゃ、あんまりこう云うのは出てこねぇもんなぁ。

 割合ファンタジーに寄ったSF好きでは、こう云う時にあまり役に立たない。『新しい太陽の書』にしても、所謂SF用語は皆無と云っても良いくらいだし。

 どちらにしても、ここにいるからには、これはSFではないのだ。できることを、できるようにやるしかない。

 とりあえず、今の問題は、

「――案内役をどうするか、だよな……」

 原作だと、例のチョビ髭、トド・ミルコネンがオルクス商会とやらを勧めてきて、そこがギャラルホルンに通報してからのあれこれがあったのだが、今回は、まだ大リスもクランクも殺していないし、あれを回避することもできそうな気がするのだが。

 第一、裏切るとわかっている相手に仕事を持ちかけるなど、それこそ労力と弾薬の無駄だ。

 だがしかし、オルクス商会以外となると、どこを選んだものか。

 ――マクギリスと繋ぎをつけたら、地球までの道も開ける、ってんなら簡単なんだが。

 生憎と、そんな想像を信じこめるほど能天気ではない。

「――って、あ〜、もう、一旦投げる!」

 いろいろ画策できる時と、できない時とがあるのは世の常だ。打つ手が思いつかないなら、一旦棚上げするのも悪くない。そのうち状況の方が動いてくれるはずだからだ。

「だ、大丈夫ですか?」

 クーデリアが恐る恐る問いかけてくるのに、とりあえず力をこめた笑顔を向けて誤魔化した。まぁ、本当に最悪、原作どおりにオルクス商会の世話になってもいい。悪くとも地球には降りられるだろうから。

 とりあえず、打てる手と云ったら、“ウィル・オー・ザ・ウィスプ”の登録をCGSから鉄華団に変えることと、それを民間宇宙港である“方舟”までうごかすこと、それから地球行きのメンバーとMSを乗せるシャトルかマスドライバーの手配をすることくらいか。

 もちろん、全員が地球に行けるわけではないから、メンバーを選定する必要がある。

 まぁ、そのあたりはほぼ原作を踏襲するとして、ああそうだ、その前に、例の大リスを、ギャラルホルンのMW隊に投げ渡してこなくては。

「ビスケット、頼んでたのはどこにある?」

 隣りの机で名簿を繰っていたビスケットが、やや困惑した顔をした。

「ロッカーにあるけど……ねぇ、あれ、何に使うの?」

「ん〜?」

 にやにやとする。

「すぐにわかる。とりあえず持ってきてくれ」

「……わかったよ」

 ビスケットが出ていくのと入れ替わりに、クランク・ゼントがやって来た。後ろには、当然のようにアイン・ダルトンが控えている。

「今、宜しいか」

「おう。どうした?」

 首を傾げると、クランクは少しばかり口ごもった。

「……われわれの処遇について訊ねたい。お前たちは、われわれをどうするつもりだ」

 確かに、今のような宙ぶらりんでは、落ち着かない気分なのはわかる。

「とりあえずは、捕虜ってことだな」

「拘束されない捕虜など、聞いたこともない」

「そんなことはねぇだろ、捕虜収容所とかなら。……って、ここじゃ、そんなもんねぇか」

 そう云うのは、それこそ世界大戦なんかの後によく作られたくらいで、確かに普通は鉄格子の中に押しこめておくものか。

 だがまぁ、

「うーん、俺たちは元々警備会社だからな、誰かを拘置するための場所とかねぇんだよ。ま、あんたらのMSは修理中だし、この辺は、何かのアシなしじゃ動けねぇ僻地だからな。拘束しなくても同じだろ」

 もちろん、武器を奪って子どもたちを殺戮すれば、ここから逃れることもできるだろうが――アインはともかく、子どもに甘いクランクには、そんなことなどできるまい。

 そして、アインはクランクには絶対服従のようだから、クランクさえ抑えておけば、そう云う心配は無用だと云うことだ。

「……クーデリア・藍那・バーンスタインは、地球に行くつもりだそうだな。われわれがいるからと云って、ギャラルホルンの管理する航路を使えるとでも?」

「いいや」

 マクギリスと繋ぎをつけられれば、あるいはと云う気持ちはある。しかし、それはあくまでもマクギリス・ファリド――あるいはモンターク商会代表がいればの話であって、この二人がいるからどう、と云うことでないのは明白だ。

 強いて云えば、

「あんたらの受けた命令が、ギャラルホルンの内部監査に引っかかってくれないか、ってことくらいかな」

 そう云ってやると、クランクの顔が引きつった。

「な……どう云うことだ、そんな……」

「火星支部長は、裏でノブリス・ゴルドンと繋がってるって話、小耳に挟んだぜ?」

 無論、そんな噂話など、流れているはずもない。コーラル・コンラッドは小物かも知れないが、ノブリス・ゴルドンは超のつく大物だ。火星のメディアを支配して、別の手では武器も売りさばいている。そんな男の黒い噂など、流布する前に、話し手ごと葬り去られているに決まっている。

 だが、正々堂々がモットーらしき、この古武士のような男は信じたようだった。まぁもちろん、この男が、実際にその事実を見知っているからこそではあるだろうが。

 黙りこんだクランクに、アインは狼狽えた様子を見せた。こちらは、火星支部長の実態を知らないのだろうか。

「あんたらが最初、ギャラルホルンだと名乗らずにきたのは、上からの“正式な”命令じゃなかったからだろ? ギャラルホルンは名誉を重んじるって聞いてる、それで裏仕事をこなさなくちゃならねぇってのは、さぞかし苦々しい気分だったんだろうな」

 アインは唇を噛みしめ、クランクは拳を握りしめた。不本意だったのだと、全身で語るようだった。

「……それで、われわれに同情して、コーラル支部長の更迭を目論むと云うのか」

 やがて、まっすぐに顔を上げて、クランクが云った。

「いやいや、俺もそこまで偽善的なこたぁ云わねぇよ」

 同情する部分は確かにあるが、それでどうこうと云うほど、こちらも余裕があるわけじゃない。

「ただ、そうだな、ノブリス・ゴルドンがギャラルホルンと組んでると、マッチポンプ式の戦争と平和が出てきそうでな。俺は、そう云うのは好きじゃねぇし、そんなことに金を使わせんなよとも思う」

「……お前は、本当に若いのか?」

「う〜ん、まぁ、そう思うよなぁ」

 二十歳にもならない若造の考え方ではない、だろう。しかも、こんな火星の辺境にいるような若造の考え方では。

 ――ま、本当はオーバー40もいいところだしな。

 アラフォーって云うのは、四十四まで使えるのだ。

 だがまぁ、

「一応、生まれてからは十七年、のはずだけどな」

 この身体に関して云えば。

「他人に踊らされるのは嫌いなんだ。誰かを踊らせたいとは思わねぇ、ただ、まぁお互い極力自由にやりたいのさ」

「お前の云う“自由”とは何だ」

「――自分の意志で未来を掴み取ること、かな」

 もしくは、誰かに行動を制限されないこと。

「もちろん、すべてを自由気儘にできるわけはないさ。だが、そう云う時でも、なるべく納得してそれに従いたい。自分の良心に鑑みて、良くないと思うことはやらないで済ませたい。――簡単な話だろ?」

 もっとも、実行することまで簡単だとは云わないが。

「ま、あんたらを見てりゃ、いい組織に属してたって、自由だとは限らないってのはわかるけどな」

「……お前は――ひどく老獪だな」

「そうか?」

 だがまぁ確かに、昔はよく“狐が化かす”などと云われたものだ。

 所謂謀略家だとは思わないが、相手の進む方向を、ほんの少し、自分の望む方へと曲げてやるような、そう云う小さな“企み”は時々やった。多分、相手は、誘導されることに対して、半分ほどの嫌悪をこめて、こちらを“九尾の狐”などと云ったのだろう。

 ――九尾の狐とか、ソシャゲとかなら、結構強いキャラだよな。

 モンスターを戦わせる系のゲームなら。

「まぁ、うん、見た目よりは経験豊富かな」

 実際は、オーバー40だから、間違いない。

 だがまぁ、昔に関して云えば、戦略でも政略でも、飛び抜けて優秀なブレーンがついてくれていたから、特に戦略方面は、素人よりましな程度でしかない。

 それ以外なら、相手の懐に入りこむ術、くらいしか自信はないのだ。

「でもまぁ、他は若造には違いないんだ。特にギャラルホルンのことなんかさっぱりだ、その辺こみで、いろいろ教えてもらうぜ」

「だっ……誰が貴様などに!」

「止せ、アイン」

 叫ぶ若者を、クランクは片手で制止した。

「ですが、クランクニ尉……」

「われわれは、単なる捕虜以上の待遇を受けている。それがただだとは思うまい?」

 アインが不満そうに口をつぐんだところで、クランクはまたこちらへ視線を戻してきた。

「捕虜と云えば――われわれと引き換えに解放されるはずだったオーリス・ステンジャはどうなった? 最初のグレイズに乗っていた男だ」

「あー、大リスな。もちろん解放する。MW隊の駐屯地っぽいのがあったから、そこまでやってな」

 これは本当のことだ。これから、いろいろやって――決して拷問とかではない――から、“三日月”に放り出させるつもりでいる。

 それはともかく、

「あんたらには、地球までついてきてもらうぜ。まぁ、“保険”みたいなもんだ」

 そう云うと、二人は揃って首を傾げた。

「保険」

「われわれが保険になると思うのか」

「まぁ、見てりゃわかるさ」

 納得した風ではなかったが、これ以上は説明のしようもない。

「で? 他には何か?」

 遠回しに退出を求めると、渋々ながらも部屋を出ていった。

 ややあって、ビスケットが小さな紙包を持って戻ってきた。茶色の袋に入ったそれを、微妙な表情で差し出してくる。

「はい、頼まれてたのだよ。だけどさ、オルガ――ホントにこれ、一体どうするつもり?」

 袋を開け、中を覗く。うん、注文どおりのものだ。

「まぁ、見てろって」

 片目をつぶってにやりと笑い、困惑しきりのビスケットを促すと、大リスを押しこめた倉庫へ歩き出した。

 

 

 

 ビスケットの実家である農園に行っていた“三日月”が戻ってきたのは、それから数日後の夕刻も近くなった頃だった。

 大リスは、ギャラルホルンの制服を身ぐるみ剥いで、全裸にした上で青の縞パンをはかせ、MW部隊が留まる駐屯地に放り出してきた――“三日月”が。ビスケットには、何で縞パン? と訊ねられたが、“三日月”は納得したように深く頷いていた。

 ガンダムと云えば縞パンだ。しかも青。アムロ・レイのはいていたアレだ。まぁこれは、宇宙世紀、もっと云うと1st推しの“ガノタ”にしか通じないネタだろうと思う。

 大リスに縞パンをはかせるのを、ビスケットは意味不明だと云わんばかりの顔で見つめてきた。まぁ、これは“三日月”としか共有できない気分なのはわかっていた。いいじゃないか、パンイチで送り返されたら、本人にはこの上ない屈辱だろうし、部下たちには笑いの種になるだろう。ああ云う男を上司に持つことを、喜ぶ人間がいるとは思われない。情け容赦なく笑うだろうと思う。

 そんなことをつらつらと考えていると、

「ボス〜」

 ノックとほぼ同時にドアが開き、青い大きな目がこちらを見た。

「“オルガ”だっていってんだろ!」

 書類に飽きて、だらだらと考えごとをしていた時だったので、慌てて姿勢を正して怒鳴りつける。

「あー、ごめん。――それはともかく、お客さん連れてきた」

「客ぅ?」

 今日行っていた農園は、ビスケットの祖母が経営している農園で、主にバイオ燃料用のとうもろこしを栽培しているらしい。鉄華団、と云うかCGS参番組は、毎年その収穫の手伝いをして、些少だが収入を得ていたようだ。まぁ、ビスケットの兄は、ドルトコロニーで会社員になっているのだかどうだかで、農園の仕事を継いでおらず、ビスケットはビスケットでCGSに入ってしまったから、つまり男手が圧倒的に足りないと云うことだったのだ。

 参番組の収入、と云っても、別に手当が出るわけでもなかっただろうが、一軍に怒鳴られたり殴られたりがない仕事は皆楽しみにしていたようで、今朝出て行く時には、うきうきとした顔をしていたものだ。

 そう云えば、クーデリアとあの侍女も、その一団に加わっていたのだった。

 後でアトラ・ミクスタも合流すると聞いていたから、あちらでどんな修羅場になるのかと、やや恐々としていたのだが。

 ――そうか、クーデリア絡みのお客って可能性もあるな。

 正直、今の鉄華団に用のある“客”なんて、借金取りくらいしか思いつかない。

 会計担当のデクスターは、と思ったが、考えてみれば、昭弘たち元ヒューマンデブリ組とともに、“ウィル・オー・ザ・ウィスプ”――もちろん改名して、今は“イサリビ”――の名義変更手続に出したのだった。

 自分でも云い包められる相手だといいなと思いながら、その“客”を迎えようとして。

「は……」

 思わず固まった。

 ドアの向こうから姿を現したのは、仕立ての良いスーツに身を包んだ男、二人。

 金髪と紫の髪、整った容姿の、この二人のことを知っている。

「チョコと隣りの人。来たから連れてきた」

 と云う“三日月”の説明は、簡にして明、だが。

「え……っ、マ……」

 ッキー、と続けそうになり、慌てて口を閉じる。

 ――いやいや、“チョコ”とかいきなり呼んだのかよ!

 確かに作中ではそうだったが、初対面で、しかも面と向かって云うものか。

 しかし、いつまでも慌てているわけにはいかない。

 何とか取り繕い、鉄華団の団長らしい顔を作って、立ち上がる。

「ようこそ鉄華団へ、マクギリス・ファリド特務三佐、ガエリオ・ボードウィン特務三佐」

 途端にマクギリスは片目を眇め、ガエリオはカッとなったように口を開いた。

「何ものだ貴様! 何故われわれのことを知っている!」

 ――って、それすぐバラしていいのか?

 なるほど、ガエリオは直情型だ。それはアインと気が合うはずだ。

 対するマクギリスは、流石にあからさまな様子は見せない。そのあたりが、監査官とその補佐と云う立場の違いに表れたものか。

「失礼した。俺はオルガ・イツカ、鉄華団の団長だ。それで、何となくはわかるが、わざわざご足労戴いたのは?」

「貴様のところのコイツが、われわれに来いと云ったんだ! 見せたいものがあるからと!」

「あー……」

 つまり、碌な説明もせずに引っ張ってきた、と。

 確かに、早くマクギリスと繋ぎはつけたかった、が、まさかこんなに早くとは思わなかった。今の状況で顔を合わせても、マクギリスを説得できる自信はない。説得力と云うか、手札がない。

 まぁしかし、少なくともこれで、コーラル・コンラッドのことを注進はできるから、とりあえずはそれで良しとするか。

「――えー、ギャラルホルン火星支部長のことで、ちょっと」

「コーラルの?」

 マクギリスが口を開く。なるほど、いい声だ。マクギリスの中の人のファンと云うわけではなかった――ガンダムならば、やはりアムロとシャアの中の人だろう――が、ファンがつくのもよくわかる。と云うか、この世界に来て、初めて声の良さに気がつく相手と遭遇した。おかしいな、ユージンの中の人の声も、割合好みだったような気がするのだが。

「支部長が、ノブリス・ゴルドンと裏で繋がってるってのは、当然気づいておられるはずだ。あなた方は、その証拠を掴みに来られた、そうでしょう?」

「……何を知っていると?」

 探りを入れてくる声。

「知っているのは俺じゃない。火星支部の人間ですよ。公にできない仕事を押しつけられた、気の毒な人たちだ」

「もしや、帰らないMW一個中隊を率いていた人間か!?」

 ガエリオが、喰らいつくように問いかけてきた。

「あー、それはもう送り返してきました。その部下二人ですね」

 そう云って、“三日月”に、あの二人をよんでくるように目配せをする。

「そのものたちは」

「氏名ですか。クランク・ゼントとアイン・ダルトン、どちらも火星支部実動部隊所属と云うことです」

「その二人を、貴様らは何故留め置いている!」

 ガエリオは本当にうるさい。

「ギャラルホルンが、名乗りも上げずに民間の警備会社に突然襲いかかってきたんだ。当然反撃するでしょう。それで一人を確保したのを、決闘で取り返そうとしたので――まぁ、そう云うことです」

「ギャラルホルン実動部隊の人間を、決闘で破っただと!?」

「……うちのエースは優秀なもので」

「――阿頼耶識システムか」

 マクギリスが、一筋落ちた金髪を指先で捻りながら云ってきた。その仕種、ガルマ・ザビか。

「よくご存知で」

「あれはそもそも、厄祭戦でMAを潰すために開発された技術だったはずだ。確か、空間認識能力を拡大させるのだったか……」

 残念、それはニュータイプだ。

「認識能力の拡張、ってのもあるでしょうが、どちらかって云うと、簡単に熟練パイロット並の兵卒を作り上げる能力、って方が近いんじゃないかな。システムの中に、そう云う動きが保存されてて、それで新兵でもそれなりに動けるようになるとか聞いたんで」

「……君は、阿頼耶識持ちではないのか」

 おお、マッキーが“君”とか云った。ガエリオより全然友好的に聞こえるな。やっぱ、興味のある話題を持ち出されると違ってくるか。

「持ってますが、残念ながら、全然使えないんですよ」

「そんなはずはないだろう」

「いやもう、本当に」

 これに関しては、仮説がある。

「多分、なんですけどね、思考に頼り過ぎるタイプは、あんまり使えないんじゃないかと」

 『鉄オル』に限っても、“オルガ・イツカ”とビスケットは、やや阿頼耶識によるMWの操縦が苦手そうだった。どちらもものを考えるタイプだ。それから、阿頼耶識ではないが、1stのシャア・アズナブル――かれもどちらかと云えば政治家タイプで、アムロ・レイのように直感で動くタイプのパイロットではなかった。結果、シャアは遂に、MS戦でアムロに勝つことができなかったわけだ。

「考えるってことは、情報の流れを一旦止めて、自分の中でこねくり回してから行動に移す、ってことでしょう。うちのエースなんかは、コンマ何秒の間に動きの選択をできるみたいですけど、俺みたいに考えちまうタイプだと、そこで阿頼耶識のシステムが要求してくる動きに移るのに、何拍かあいちまうんですよ。って云うか、考える方に夢中で、あんまり流れてくる情報も把握できてないって云うか。――多分、その辺に関しては、うちのエースに訊いてもらえば、もっとよくわかるんでしょうけどね」

「なるほど」

 マッキーは興味深げに頷くが、ガエリオは気持ち悪そうな顔をするだけだ。

 あぁ、そう云えば、ギャラルホルンと云うか、名家とか云われる連中は、人体に異物を入れるのをよしとしないのだったっけ。だがそうなると、連中は、骨が折れたり歯が抜けたりしたら、ボルトや差し歯を入れはしないんだろうか? あぁ、医療用ナノマシンを入れるから、そう云うのも修復されてしまうのか。

 だが、差し歯やボルトを入れるより、ナノマシンを入れる方が気持ち悪いと思うのは、それこそ“旧世紀”の人間だからか。1stにも、そんなものなかった気がするが。

「中々興味深いな。その、エースと云うのは?」

「そろそろ戻ってきますよ。――あぁ、ほら」

 と云うや、ガチャリとドアが開き、“三日月”とクランク・ゼントたちが姿を現した。

「呼んできた」

「おう。――クランク二尉、アイン三尉、監査官殿だ」

 そう云うと、二人はかっと目を見開き、背筋を伸ばして敬礼した。

「火星支部実動部隊、クランク・ゼントであります!」

「お、同じくアイン・ダルトンであります!」

 ――なるほど、軍人。

「ご苦労。監査官を務めるマクギリス・ファリドだ」

 返すマッキーの敬礼はごく軽く、感覚的に頷くような程度のものだ。

「ガエリオ・ボードウィンだ。補佐官を務めている」

 ガエリオも、気を取り直したものか、先ほどよりはきりっとしている。補佐官らしい雰囲気だ。

「概要は、こちらのかれから聞いたところだ。――火星支部長の人となりについて訊きたいが……」

 ちらりとこちらを見る。

「流石に、外部の人間の耳があるところではな。――どこか部屋を貸してくれるか」

「あんた方が、この人たちに暴行を加えないと約束するんならな」

「われわれを馬鹿にするのか!」

 ガエリオは、いつでもフルスロットルだが、もちろん馬鹿にしているわけじゃない。ただまぁ、一応釘は刺しておかないと、何かあったら困るのだ。

 と云うか、すぐにむきになるあたり、マッキーよりもこっちの方がガルマっぽいか。

「セブンスターズの方々に、そんなことはとても。ただまぁ、軍隊みたいなとこの体質を、どうも信じられないもので」

 武力を持つ以上、統制のための暴力は必要悪だが、ああ云うものは、往々にして一線を越えてしまうことが多いのだ。そう、旧日本軍がそうだったように。

「賢明だ、と云っておこうかな」

 マッキーは、ふっと笑った。

「中に入れなくても良いのなら、閉めた戸口の外で、見張りをしてもらっても構わない。そうすれば、出てきたかれらが怪我を負っていないかどうかはわかるだろう」

「服に隠れるところをやられて、本人たちが隠しだてしちまえば、わからないですがね。まぁ、そうさせてもらいますよ。――ミカ」

 上がった顔に、“えぇ〜”と書いてある。

「お前、気配には敏いじゃねぇか。中で不穏な気配があったら、扉叩き壊せよ」

 マッキーたちに対する脅しもこみでそう云うと、ひょいと肩がすくめられた。

「……どこ」

「三つ向こうの資料室はどうだ」

「りょーかい」

 そうして、四人に“来て”と云うと、先に立って部屋を出ていった。

 

 

 

 マッキーたちが話を聞いていたのは、ほんの二、三十分ほどのことだったようだ。

 やがて、感慨深げなマッキーと、やや頭を抱える風なガエリオ、少し肩の荷の下りたような顔をしたクランクとアインが戻ってきた。その後から“三日月”も。

「貴重な情報を得ることができた。ご協力に感謝する」

 マッキーは、澄ました顔で云う。

「お役に立てたようで、何よりだ」

「また、話を聞かせてもらおう。そうだな、今度は阿頼耶識システムの話でも」

「大歓迎だ。だが、俺たちも仕事がありましてね。――あぁ、そうだ」

 何の気ない感じで、云う。

「ギャラルホルンってのは、地球が本拠地なんでしょう。それじゃあ、モンターク商会ってところはご存知で?」

 マッキーの目が、すいと細められた。

「さて……そこが何か?」

「いや、俺たちは、これから地球に行かなくちゃならないんだが、案内役のいいところがないもんで。モンターク商会の噂話を聞いたので、評判でもご存知ならと思ったんですが」

「……いや」

「モンターク? 知らないな、初めて聞いたぞ」

 まぁ、ガエリオはそうだろうとも。

「――まぁ、何か耳にしたら伝えよう。ところで、この二人のことだが」

 マッキーは、クランクたちを指して云った。

「今、火星支部に帰せば、コーラル支部長から、証拠隠滅のために粛清される可能性がある。ごたごたが片づくまでは、こちらで匿ってはもらえないか」

「それは構いませんが」

 むしろ、願ったりかなったりだ。

「ただ、先刻も云ったとおり、俺たちは地球に行かなきゃならないんで、それにご同道戴くことにはなりますよ。うちの年少組を残していくのに、こんな大人を置いてくわけにはいかないんで」

「むしろ、君たちの用が終わったころに、こちらのごたごたに決着がつくくらいだろう」

 マッキーは、にこりと笑った。多分、こちらの云う“地球に行かなくちゃならない用事”の内容を、ほぼ察しているのだろうに――若いながら、なかなかの食わせものだ。

 ――ま、そう思ってるのは、お互い様だろうけどな。

 今やっているあれこれは、到底未成年の考えるようなことではない。“オルガ・イツカ”は元々歳相応に見られ難い外見ではあったけれど、こんな丁々発止のやり取りをするのでなければ、確かに若いと思えた部分もあったのだろうに――それでも、実年齢より上に見られたには違いなかろうが。

 ――まぁとにかく、いきなりご訪問だった割には、結果は上々、か。

 阿頼耶識システムについて関心があるとはっきりわかったし、いつかはわからないが、落ち着いたなら“三日月”に話を聞きに来るに違いない。その辺で距離をつめて、できればカルタ・イシューとガエリオ・ボードウィンを切り捨てる前に、どうにか手を組ませるようにできれば良いのだが。

 ――地球に下りてしまえば、小細工をする暇はなくなっちまう。

 どうにか、その前に。

 と。

「――ところで、君たちは地球に行くと云ったな。地球の、どこへ?」

 マッキーの青い目が、こちらを見ていた。探るようなまなざしだった。

「……アーブラウへ」

 とりあえず、嘘ではない。最終目的地は、アーブラウ議会のある北米大陸エドモントンだ。そこへ、クーデリア・藍那・バーンスタインを伴うことや、アーブラウ議会の大立者、蒔苗東護ノ介を太平洋に浮かぶ孤島、ミレニアム島――ここはオセアニア連邦領らしい――から連れ出すこと、などは、きれいに口を拭っておく。

 マッキーは、ふっと笑った。

「なるほど。そう云えば、このあたりはアーブラウ領だったか」

「ええまぁ」

 多分、クーデリアの存在をクランクたちから聞いたのだろうに、ちらりともそれをにおわせない。流石はこの若さで監査官になるような男だ。

 まぁ、どこかの話数で、クーデリアのことを、生かしておけば利用価値がある的な感じに云っていたから、ここは何も聞かなかった体で、見逃してくれようと云うのだろう。

 ――ま、蒔苗東護ノ介は、イズナリオ・ファリドが推してるアンリ・フリュウとか云う女の政敵だもんなぁ。

 そしてイズナリオは、マクギリスの敵のひとりでもある。

 敵の敵は味方、と云うわけでもあるまいが、大嫌いな義父を追い落とすための一石になるとでも思ったのだろうか。

 ――まぁ、そう思ってくれんのはありがたいけどな。

 とにかく、敵は少ない方がいい。鉄華団は、そうそうドンパチやれる体力はない。どんな組織でも、“戦争”に金がかかるのは変わらないのだ。

「そうか――では、私の方から、君たちの地球降下に許可を出すよう、働きかけておこう」

「え」

「なに、確実に戻ってきて、阿頼耶識システムの話を聞かせてもらわなくてはならないからな。幸いと云うべきか、地球降下に関しては、地球外縁軌道統制統合艦隊の管轄だ。そしてその司令官は、私やガエリオの古くからの友人でもある」

「マクギリス!」

 ――なるほど、今の段階では、その二人はまだ、あんたの友人って扱いでいるわけだな。

「ギャラルホルンの許可が戴けるのなら、それ以上のことはありませんが」

「あるいは、ヴィーンゴールヴに来てもらっても構わないが?」

 それは随分と大胆な発言だ。

 だって、ヴィーンゴールヴって云うのは、ギャラルホルンの総本部である空中要塞みたいなものだったはずだ。

 そんなところに、阿頼耶識持ちの鉄華団を? 冗談にもほどがある。

「ご冗談。ギャラルホルンの皆さんには、阿頼耶識のピアスなんて醜怪の極みでしょう。俺だって、特に小さい連中を、見せものみたいにするつもりはない」

「なるほど」

 ふっと笑う。

 泰然としたマッキーとは違い、ガエリオは、何だかもう吐きそうな顔をしている。

「とまれ、ご高配に感謝します。ありがとうございました」

「こちらこそ、助かった。……それでは、また」

 そうして握手をかわし――もちろん、ガエリオとはなしだ――、マクギリス・ファリドは去っていった。

「……ってわけで、何と地球行きが保証されちまった」

 トントン拍子過ぎて、怖いくらいだ。

 と云うと、クランクとアインは微妙な顔になった。まぁ、そうだろうとも。

「あ、そうだ、チョコからチョコもらった」

 云うなり“三日月”が、高そうなチョコレートの箱を出してくる。これはあれだ、ゴ✕ィバとかデ✕ルとか、いかにもお高いとこのチョコレートだな!

「お前、まさかたかったんじゃねぇだろうな?」

 思わず問うと、

「えー、別に。じーっと見たくらいでくれた」

「それを“たかった”って云うんだよ!」

 すぱんと頭を叩いてしまう。絶対それ、念をこめてじっと見たんだろ。

「えー、でも美味しいよ」

 と云いながら、“三日月”は、クランクとアインにチョコレートをひとつずつ配った。二人は微妙な顔で受け取っていた。

 そうして、

「はい、“オルガ”」

 と、箱ごとこちらに差し出してくる。

 ――くそ、片棒は担がないからな!

 と思いつつ、その中からひとつを取って、“三日月”に差し戻した。

「後は、皆に食わせてやれ」

「はいよ」

 軽く頷くと、“三日月”は箱を抱えて出ていった。いつもながらフリーダムだ。

「――お前の手腕には、呆れるばかりだな」

 クランク二尉が云う。

「どうやって、監査官を誑しこんだ。しかも、あの方はセブンスターズ、ファリド家の跡取だと云うのに」

「野郎にはもてる方なんで」

 同性としてなら、と云う註釈つきでだが。

 と云うか、男の時は男に、女の時は女に、人気があるのだ。元の人生では、海外でも女性にモテた――但しあの時は、ずっと“東洋人の男”として、だったが。朝食のカフェラテを注ぐために、ウェイトレス――イタリア語では何と云うのだったか――が二人、常時うろうろしていたのは、なかなかできない体験だった。“キ✕タク? キム✕ク扱い?”とか、ちょっとドキドキしたのは内緒の話だ。エレベーターで乗り合わせた老婦人も、輝くような笑顔だったし。あれは人生最大のモテ期だった。あれからこっち、モテたためしがない。

 “オルガ・イツカ”の顔は、まぁイケメンと云う部類に入るのだろうと思う。元の自分と“オルガ・イツカ”の見た目で似ているところは、面長なところと、腕に筋が入る――例の、“三日月”と腕を打ち合わせるあのシーンのように――ところくらいだ。それも、女としてはどうだと云うものでしかない。

「好感の持てる人格だと云うことだな」

 などとクランクは云ってくれるが、あちこちから“狐、狐”と云われる身では、お世辞としか思われない。

 だが、クランクと云う男ときたら、

「お前のような人間が、火星支部の長であってくれたら良かった」

 などと云い出すものだから、とんでもない。

「いやいや、それはないだろう」

 “三日月”の扱い見てりゃわかるだろ、と云うが、クランクは首を振った。

「ここのものたちは、皆、お前を信じて動いている。上のものを信じられると云うのは、戦場に出なくてはならない士卒にとってはありがたいことだ」

「二十歳にもならない若造だぜ?」

「こう云うものは、年齢の問題ではない」

 確かにそうではあるけれど。

「まぁしかし、監査官殿は、多分何か考えがあるんだと思うぜ」

 普通の“誑された”人間の態度では、あれはなかった。そのあたりは、流石セブンスターズと云うべきか。

 何か、こっちの駒としての使いでを考えていた顔つきだ、あれは――そう云えば、元の話だと、あの男は厄祭戦の英雄アグニカ・カイエルを、鉄華団に投影していたのだったか。

 ――だから、阿頼耶識に興味があるんだよな。

 アグニカ・カイエルたちが、多分阿頼耶識システムを使って、MAから世界を救ったから。天使の名を持つMAと、ソロモン王の使役したと云う、七十二柱の悪魔と同じ名前のガンダムフレーム。そのひとつが、ガンダムバルバトス、狩人公爵である第八位の悪魔。

 “革命の乙女”クーデリア・藍那・バーンスタインと、それを護るアグニカ・カイエルの再来――芝居のようなシチュエーションでも考えていたか。乙女と少年兵たち、確かにそれは、一般大衆の喜びそうなシチュエーションだ。

 ――まぁ、乗ってやってもいいけどな。

 但し、最終回のあのシーン、クーデリアと握手するのがマクギリス・ファリドだと云うシーンを作れるのならば。

 それができたなら、クーデリアを護るように鉄華団が立つと云う光景も、実現可能ではないかと思うのだ。

 せいぜい利用すれば良い。その分、こちらも利用し返してやる。その関係性があってこそ、鉄華団の運命も開けると云うものだ。

 ――しかしまぁ、“バルバトス”が従うってんなら、俺はソロモン王かよ。

 あるいは、魔王そのものか。

「――そろそろ飯食いに行きますか」

 賢王の方であってくれと願いつつ、クランクたちを促して、事務室の扉をそっと閉じた。

 

 

 

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