「「 創界山? 」」
カズマとエリスが、互いに顔を見合わせながら呟く。
どちらも全く知らない単語だった。
「えっと? 創界山じゃないんですか? じゃあ神部界の別の場所ですか?」
「ええっと、待ってくださいね、戦部……ワタルさん?」
「あ、はい。ワタルでいいですよ」
ワタルはそう言って立ち上がった。
白い服に青い胴丸のような服を着ているその姿は、冒険者としても少し異質だった。
「あの……ここは死後の世界。死んだ方の魂が迷わぬように次の世界へと導く場所なんですよ」
「ああ、そうですか。死後のせか……いぃっ!? ぼ、僕! 死んじゃったの!?」
ワタルは、愕然として頭を抱える。
擬音にすると『ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!』と言ったところだろうか?
「そ、そんなぁ! ドアクダーも倒して、みんなとお別れして! やっと、やっと父さんや母さんやユミちゃんと会えると思ってたのに、そんなぁ!?」
ワタルが、泣き叫びながらエリスへと迫る。
エリスとしてもこういう反応が今までなかったわけではないのだが、状況が状況だけにたたらを踏んだ。
「あ、えっと、ちょ、ちょーっとまってください、ね? か、確認、確認を取りますから!」
「お願いしますぅぅぅぅぅぅ」
子供に盛大に鼻水を垂れ下げながら悲壮感たっぷりに泣かれては、さすがに女神であるエリスも敵わない。
すぐさま念話で誰かと話し始める。
と、そこで空気になっていた男がワタルの肩をつついた。
「なあなあ」
「ううぅ……ずずっ、え? はい?」
「俺の名前はサトウカズマってんだけど、お前も日本人?」
「あ、はい。小学4年生になります」
「よねっ……ってことは九歳か十歳かよ! いくらなんでも若すぎるわ! どんだけ鬼畜なんだ、神様の倫理観!」
思わず叫ぶカズマだが、無理もあるまい。
自分のような高校ニートならばともかく、相手はまだ常識すら知らないことが多い小学生。
いくら事故や病気で死んだにしても、転生させて異世界で魔王相手に殺し合わせるとか鬼畜と言われても仕方がない。
とはいえ、それを言うと神部界も「そっちもどうなの」というレベルの話になるが。
「つらかったな。なんで死んだか知らんけど、元の世界で転生した方が絶対いいって。こっちの世界、割とマジでクソだから。ジャイアントトードに丸飲みにされたり、デュラハンに呪いかけられたりするんだ。悪いことは言わないからやめといたほうがいい」
「えっと……こっちの世界もそんなに困っていることが多いんですか? だったら僕、戦いますよ!」
「いやいや、確かに冒険したい年頃だってのはわかるんだけどな。こっちはガチのマジで殺し合いなんだ。剣で斬り合ったり、魔法で丸焦げにされたりする世界なんだよ」
「大丈夫です! 剣は得意ですから!」
「……ん?」
ふと、カズマの脳裏に違和感が残る。
「剣が得意って、剣道でもやってんの?」
「いえ。でも僕の先生は剣豪ですし、その先生から教えを受けて数々の魔界の者を打倒してきました。悪の帝王、ドアクダーも龍王の剣で真っ二つにしましたし」
「あーなるほど。ゲームの話か。うんうん、わかるんだけど、そーじゃないんだよなあ」
カズマの知る日本の常識から言えば、まさしくカズマの認識が正しいのかもしれない。
重ねて言うが、小学4年生に悪の帝王をぶった切らせる神部界も「どうなってんの、神様の世界」と言えなくもない。
常識は同じ価値観でしか共有できない、とはこういうことを言うのだろう。
「俺もな。最初はゲームの世界みたいな勇者になれるとかちょっとは思ったよ? けど、選んだ特典がよりにもよってあんな駄目神とかもうオワコン……って、そういやお前、転生特典なにもらったの?」
「転生特典?」
「あーまだ選んでないのか。なのにこっちに送られているってことは、やっぱり神様のミスかね。まあアクアみたいにずぼらな……」
とカズマ言いかけた時、また天井方向から声が響いてくる。
『ちょっとー? カズマー? カズマさーん? 聞こえてないのー? 『リザレクション』で帰ってこれるって言ってるでしょー? ねー? さっきから何度も声かけているんですけどー?』
「……うえぁ?」
カズマが思わずといった声でつぶやく。
それは先ほどから念話で誰かと話しているエリスにも聞こえていた。
「え? い、今の声はアクア先輩!? あ、いえ、ちょ、待ってください。こっちで今変な情報が……ああ、ですからそうではなくてですね、なんか私の先輩が……」
『おっかしいわねー? もう一度言うわよー? あんたの目の前に女神がいると思うんだけど、その子に門を開いてもらえば帰れるからー……っていうか、早くしてほしいんですけどー?』
空から聞こえてくるアクアの声に、思わず顔を見合わせるカズマとワタル。
「よっしゃ! 待ってろアクア、今帰っからな! てことでエリス様、お願いしやっす!」
「いや、ちょっと待ってください! 生き返るのは一度だけって天界規定があってですね! というかそちらのワタルさんのこともいろいろわからないことだらけなんですよ! それなのに門なんか出せるわけないじゃないですか!」
「え、マジっすか? アクアー? 俺一度生き返ってるから天界規定で駄目だってエリスって女神さまが言ってるけどー?」
『はぁー!? 何馬鹿なこと言ってるのよ! しかもエリス!? あのちょっと国教になったからってお金の単位にまでなった上げ底エリス!? ちょっとカズマ、エリスがまだごたごた言うならあんたの胸パット、取り上げ……』
「わー! わー! わー! わあああああああああああああああああああああああああああかりましたぁあ!」
と、エリスはすぐさま自身の横に現世へとつながる門を出現させる。
「エリス様、パッt……」
「さあ! これで現世と繋がりました! 今回は特例です! ワタルさんのことも調べなければなりませんし、カズマさんはどうぞ生き返ってください! さあ早く!」
「…………」
ポリポリと頭をかきつつ、ワタルを見るカズマ。
なんとなく、自分だけが生き返るのに後味の悪さを感じているらしい。
「えっと……よくわかりませんけど、待ってる人いるなら行った方がいいですよ。僕はまあ何とかなると思いますし、気にせず行ってください」
「……なんか小学4年生の言葉とは思えないんだけど、すまねえな。エリス様が調べてくれるっていうし、そうするよ。だけどマジであっちはクソな世界だからできるだけ来ない方がいいぞ」
「はい。ご忠告ありがとうございます」
「おう、じゃあな」
そう言ってカズマは門くぐって彼は生き返る――
はずだった。
「え?」
「え?」
「え?」
門をくぐったカズマ、それを見ていたエリス、そして――
なぜかカズマに引っ張られるように門に吸い込まれたワタルが。
同時に声を上げた。