「……てください! カズマっ!」
「はっ!?」
俺にすがって泣くめぐみんを見て、不意に目が覚めた。
右手にはダクネスが俺の手を取って祈るように目を閉じている。
そして俺はアクアに膝枕されているようだ。
「もう! やっと起きた? ったくあの子は――」
アクアが何か言っているが、俺はそれどころじゃなかった。
というのも――
『!? !!? !?』
目の前に、半透明のふわふわ浮いている少年が、パニックになって泣き叫びながら目の前をうろうろしているのである。
「ええっと……とりあえず、だ。みんな、すまん」
「「 カズマぁ! 」」
めぐみんとダクネスが縋り付いてくるが、ワタルが気になってそれどころじゃなかった。
「で、空気読めないこと言うんだが……ここにいる奴のこと、みんな見えるか?」
「「「 へっ? 」」」
俺が指さした虚空に向かって、三人がそちらを見る。
そこには、ワタルがいまだにあわあわしている姿が見えているのだが――
「カズマ……やっぱり殺された後遺症が!」
「あああああああアクア! リザレクションにはこういう後遺症が残るのか!?」
「なによ! 私のリザレクションは完璧よっ! カズマさん、何とち狂ってるの? そういうボケはつまんないのよ?」
「いや、ボケじゃなく、な?」
どうやら見えてないらしい。
というか、アクアが見えないってことは幽霊じゃない、のか?
『 !? !! ――ぁ。あああ! あ、声出た』
ワタルの幽霊が、声を出した。
今まで声、出せなかったのか。
『ちょっと、お兄さん! これどうなってるの!? 僕、どーなっちゃたのぉ!?』
「いや、俺にもよく……」
とりあえず頭を起こして、アクアを見る。
「? なに? あぁ、今更照れたとか? もう何か言いなさいよう」
「――チェンジ、って言いたいところだが、今はそれどころじゃない。アクア。ここにいる子供、本当に見えないんだな?」
「へ? 子供? 何のことよ?」
どうやら本当に見えてないらしい。
「めぐみん、ダクネスも見えないんだな? いや、頭がどうとかじゃなく」
額に手を当てたり、脈を取ろうとかしなくていいから!
「よくわかりませんが、ここには私たち以外いませんよ?」
「ああ。冬将軍はお前を首ちょんぱした後、消えていったしな」
「首ちょんぱ……」
思わず自分の首に手を当てるが、ちゃんとついているし傷跡もないようだ。
雪精もいなくなった雪原には、俺の血であろう赤がべったりとついている。
ああ、今更ながら体がガタガタ震えてきやがった。
――うん。とりあえず今日はもう街に帰ろう。
*** このすばワタルっ! ***☆彡
ギルドで雪精の清算と分配を済ませた後、俺は一人部屋で寝ころんでいた。
金が入ったおかげでまともな部屋に泊まれているわけだが……四千万の借金? こ、こんなはした金じゃ借金返済の足しにもならないからな、うん。
それこそ冬将軍の賞金でもなきゃ……って、冬将軍の件は正直、今はもうどうでもいい。
どうともできないという……あんなの絶対に無理だからな。
問題は、俺の目の前でふわふわ浮いた状態で膝を抱えているワタルだ。
「いろいろ試したが、やっぱり誰にも見えていないみたいだな」
『どーしてこうなったんでしょう……』
ワタルは心底落ち込んでいるようだ。
いろんな人に話しかけても反応もなく、触ろうとしても触れない。
まさしく幽霊みたいな状態なのだ。
「俺だけが見えてるってことは、やっぱりエリス様の門が関係していると思うんだがなあ」
『やっぱりそうですよね? でもなんであの時、引っ張られたんだろう?』
「うーん……何もかもイレギュラーだったみたいだしなあ。そもそも天界規定とかいまいちわからんし」
エリス様はいろいろ言ってたようだけど、正直死後の世界のあれこれなんかはわからん。
アクアに聞いたんだが――
『ああ、あのくっそくだらない、カビの生えたような意味のない規定よ。気にすることじゃないわ。そもそも私だって全部覚えてないし』
『オイコラ。それでいいのか駄女神』
ほんっとーに、役に立たん!
「ともかく、人に見えず触れず声が届かず、だな。ほかに異常はないのか?」
『ええと……はい。勇者の装束はそのままだし、万能ハイカラ靴もローラースケートになります。ホラ』
カンカンと、かかとを合わせるとローラースケートが生えた。
なにそれ欲しい!
『ただ、どうも龍王の剣がないみたいで……王者の剣は、ドアクダーとの戦いで折れたまま創界山に預けてきましたし』
「……というか、それ、ゲームの設定じゃなくてガチだったのか。しかもマジの勇者……」
エリス様の所じゃゲームだと思ってたけど、どうもワタルの話は全部本当にあったことらしい。
というか、本物の勇者が九歳って……
『龍王の剣じゃ龍神丸は呼べないし、召喚できる王者の剣になった勇者の剣はないし……そもそも触れないんじゃ意味ないし』
龍神丸?
「龍神丸ってのはなんだ?」
『龍神丸は、僕の友達で魔神(マシン)です。えっと……カズマさん的に言えばロボットですかね?』
「なんだって!」
思わずベッドから飛び起きた。
「ロボット!? ロボに乗った勇者なのか!? つまり勇者王!?」
『あ、いえ、便宜上ロボットって言っただけで……でもマシンだからあってる? ええと、龍神丸は金龍が変化したもので、僕が作った粘土の龍神丸に宿っているんです』
「なにそれ、俺も欲しい!」
俺もロボットに乗ればまともな勇者として活躍できるかもしれない!
「なんとかそれ作れない!?」
『いえ、ですから作るとかじゃなくて……そもそも僕、小学四年生ですからロボットなんか作れませんよ』
「むぅ……そうだよな。戦闘チートが生産チート兼ねているわけじゃないもんな」
『チート?』
9歳に言っても無理だよなあ……ちくせう
「はー……そうすると現状、ワタルは浮いているだけってことになっちゃうのか。それは悲しいよな」
『そう……なっちゃいますよねえ。というか僕、おなかも空かないし、本当に死んじゃったんでしょうか?』
グスっとまた涙目になっているワタル。
ああ、泣くな泣くな……はぁ。
どうしたもんかなぁ……エリス様に聞こうにも死ななきゃ会えないっぽいし、また死んで生き返れる保証もないしなあ。
「……いや、あるの、か?」
『え?』
アクアに生き返らせてもらったわけだけど、どうもアクアは天界規定とかを無視して生き返らせることができるみたいだし、もしかして俺ってば残機無限ってこと?
「いや嫌だよ! 冗談じゃねえよ! 死んで生き返るからって痛みはそのままじゃねえか! 何それゾンビアタック美味しいの!? 冗談じゃねーわ!」
『お、お兄さん!? ちょっと、どうしたの!?』
「そんなこと試したくもねーわ! 確証もなしにできるか、ぅんなこと! また首ちょんぱなんて、されたくもない!」
確かにワタルのことはどうにかしてやりたいが、代わりに俺が死ぬとか自己犠牲精神はねーぞ!?
……いや、子供のためにって後ろめたさはあるけど、ほら、俺もまだ若いし?
「あああああああ、もう! どうしたらいいんだよぉぉぉぉぉぉっ!」
『お、お兄さん! カズマさん!? なんかわかんないけど落ち着いて!?』
俺が頭を抱えてゴロゴロとベッドを右往左往していると――
コンコン――コンコン――ゴンゴンッ!
最初は控えめに、最後は叩くようなドアの音が聞こえたのだった。