ゴンゴンッ!
再び強くドアが叩かれる。
というか、うるせーな。
「うっせえな! ってか、こんな時間に誰だよ!」
「ええっと……クリスなんだけど。カズマ君、ちょっといい?」
「おぉっ!?」
てっきりアクアかめぐみんかと思ったら、予想に反してクリスだったらしい。
ドアを開けると、そこには布に来るんだ何かを持った、何か申し訳なさそうな顔をしたクリスがいた。
「ご、ごめんね? こんな時間に突然……」
「あ、いや。俺の方こそ騒いでいたみたいでごめん。もしかして隣の部屋にでもいた?」
「え? ああ、ううん。あたしはこの宿に泊まってないから。確かに声は廊下まで聞こえていたけど……」
――周りの皆さん、ごめんなさい!
「そ、そうか。とりあえず立ち話もなんだし、入れよ」
「あ、うん。じゃあ、お邪魔します……」
いやにしおらしいクリスの態度に訝しみながらも、部屋に招き入れた。
……べ、別に女の子を部屋に招くのにドキドキしているわけじゃないし!?
ワタルだって見ているし!?
「で、で? 俺に何か用か?」
とりあえずクリスに備え付きの椅子を勧めて、俺はベッドに腰掛ける。
「あ、うん……その。ちょっと聞きたいことがあって、ね?」
「聞きたいこと?」
「う、うん。今日、さ。雪精の討伐、受けたでしょ?」
はて? クリスが雪精のことで聞きたいこと?
それぐらい、クリスならいろんなこと知ってそうだが………………はっ!?
「ま、まさか! 冬将軍に殺されたことをアクアから面白おかしく聞いたとか!? ダグネスに愚痴られたか? つか元々、冬将軍に首ちょんぱされたのはあいつのせいでもあるんだぞ!?」
「ち、ちがうよ!? 別にアクアせ……じゃない、あのプリーストの人に聞いたわけじゃなくて! ってか、君が死んだのダクネスのせいなの?」
「そーだよ! あいつが冬将軍を前にしてぼーっと突っ立っていたから、俺が頭を押さえて土下座させる羽目になって、冬将軍の前で剣を持っていたから首ちょんぱされたんだよ!」
「ま、まあ確かに……じゃなくて。ご、ごめんね? ダクネスにはあたしからもちゃんと言っとくから……」
「……いや、まあクリスが悪いわけじゃないからいいけどな?」
別にクリスのせいじゃないのに、親友思いというか苦労性というか……
「で、でね? その……その時、なんかおかしなことが起きなかった?」
「……おかしなこと?」
「うんと……例えば、少年が一緒にいた、とか?」
「!?」
なんでクリスが知ってんだ!?
「……どういうことだ?」
「えっと……カズマはあたしがエリス教徒って知ってる?」
「いや? ダクネスがエリス教徒らしい、ってことは前に聞いたけど」
「うん。あたしもね、エリス教徒なんだけどさ。そのエリス教の司祭様からね、依頼を受けてここにきたんだ」
「依頼……というと?」
「うん……その少年にね。これを渡してほしいって」
そう言ってクリスは持っていた布にくるまれた物を見せ、その布をはぎ取りだした。
そこには――
『ああ!? そ、それは王者の剣っ!』
ワタルの驚く声が聞こえた。
「王者の剣? これが?」
思わずつぶやいた俺の言葉に、クリスが眉を寄せる。
「……カズマ君。どうしてこれが『王者の剣』っていうのを知ってるの?」
「え? あ、あー……そうか。見えてないんだっけ」
自分の失態に思わず頭を掻く。
しゃあないな……まあクリスは信用できそうだし、いいかな?
「えっとな。その少年、ワタルが言ったんだよ。それは王者の剣だって」
「……その少年は、どこにいるのさ」
クリスがきょろきょろと辺りを見回す。
見えてませんヨネー
『ここです! ここにいますよ、お姉さん!』
空中で必死にアピールするワタル。
けど、クリスに触れようとしても通り抜けるだけだ。
「えっとな。今のワタルは、幽霊みたいな状態になってるんだ。だからクリスにも見えてないんだと思う」
「幽霊? ゴースト? それなら私に見えないはずは……んんっ! そ、そうなんだ? でも、ほんとなの?」
「ああ。今は必死にクリスに自分の存在を知ってもらおうと、体に触りまくってる」
「へっ!?」
ぱぱっと自分の体を触るクリス。
おしい。ワタルは今、肩に手を置いている。
「……嘘ついてないよね?」
「こんなことで嘘ついてどーする。俺に何の得もねーじゃん」
「そうだね……うん」
とりあえず納得したのか、落ち着くクリス。
ちなみに、ワタルは半べそでその足に縋り付いているがな。
「んで、俺にしか姿の見えないワタルなんだけど、俺が死んでた時にエリス様に会ってたところに落ちてきて、生き返った時になぜか一緒に来ちまったわけだ」
「うん。あたしが聞いてる話と一緒だね。そこからあたしの方の話になるんだけど……」
クリスがえへん、と咳払いをする。
「あたしにこの剣を渡してきた司祭様が言うにはね。エリス様から神託と共に託されたらしいんだよ。アクセルの町にいるカズマという冒険者の傍にいる少年にこの剣を渡せって」
クリスの話に、ワタルに視線を向ける。
『……見る限り王者の剣だと思うんですけど。ただ、触れないから本当に王者の剣かは……』
まあそうだよな。
とりあえず抜いてみて、ワタルに確かめてもらうか。
「クリス。ワタルに本物かどうか見てもらうから、剣渡してもらっていいか?」
「あ、うん」
クリスから剣が渡される。
柄を含めてもショートソードと同じか、それよりちょっと長い?
ロングソードってほどではないな……小学生であるワタルが使うとするなら、ロングソードは無理か。
「思ったよりも軽いな……さて、どんなものか」
とりあえず抜いてみるか、と柄を握って鞘から出した時だった。
突然の閃光が辺りを照らす。
「まぶしっ!」
クリスの声が聞こえた。
その閃光にとっさに目を閉じるが、それもすぐに収まる。
『いったい何が――』
「うぇおぁえぇええ?!」
と、そこには――
剣を持つワタルが、俺の目の前にいた。