「おい、もう一度言ってみろ」
俺は怒りを何とか抑えながら、ギルド内でその男に問い返した。
「何度だって言ってやるよ。なあ、最弱職さんよ?」
目の前には、他の仲間と笑い合う戦士風の男。
今日も今日とて仕事を探しに冒険者ギルドに来てみれば、掲示板を捜索中に絡まれたわけだが――
「カズマ、相手にしてはいけません」
「そうだぞ、カズマ。酔っ払いなど捨て置けばいい」
「そうよ、あの男、カズマにカズマに妬いてんのよ。私ならまったく気にしないわ」
そう、目の前の男は典型的な三下だ。
本来なら一考にすら値しない。
だが――
「上級職におんぶに抱っこで楽しやがって。おい、俺と代わってくれよ、兄ちゃんよ?」
「大喜びで代わってやるよおおおおおおおおおっ!」
俺は、大声で絶叫していた。
*** このすばワタルっ! ***☆彡
「俺はテイラーだ。<<クルセイダー>>で、一応、このパーティのリーダーをしている」
「あたしはリーン。<<ウィザード>>よ。まあよろしくね、駆け出し君」
「俺はキース。<<アーチャー>>だ。まあよろしく頼むぜ?」
3人の冒険者が挨拶してくれる。
結局あの冒険者とチェンジして、今日一日冒険を共にすることになった。
ああ……やっと、やっとあのお荷物3人組から解放される!
『カズマ、ちょっとひどいと思う』
うるさい、ワタル。あの3人のひどさはお前も知ってるだろうが。
たまには俺だってまともな冒険がしたいんだよ!
「俺はカズマ。クラスは冒険者だ。えっと、俺ができることを言った方がいいか?」
「いやいい。今日はゴブリン退治のクエストがあったからそれをやる。カズマは荷物持ちをしてくれ。もともと荷物持ちのクエストを探していたんだろ?」
「大丈夫よ、ちゃんと報酬は4等分するから」
「まあゴブリン討伐ぐらい、俺ら3人でもお釣りがくるよ」
なにこいつら、いい奴!
まあワタルがいることや龍神丸が呼べることは黙っておくとして、俺も久々に普通の冒険に参加できるってわけだ。
うん、オラちょっとワクワクしてきたぞ!
「向こうもゴブリン退治を請け負うみたいだな」
ふと受付を見れば、あの兄ちゃんがアクアたち3人と一緒にクエスト受注をしていた。
ふはははは!
俺の苦労を思い知るがいい!
『……やっぱりひどいと思う』
うるさいぞ、ワタル!
*** このすばワタルっ! ***☆彡
さて今回のゴブリン退治は、森ではなく山だ。
隣町へと続く山道になぜかゴブリンが住み着いたらしい。
と言っても日本にあるような森の生い茂る山道ではなく、はげ山の間道みたいな山だ。
なぜこんな何もないような山道にゴブリンが住み着いたのか、激しく疑問だ。
いつもだとクエストに不安を覚えながら、えっちらおっちらくるだけに、こんな安心感に包まれているのはいつぶりだろう。
このパーティの信頼度はうなぎのぼりだ!
「ゴブリンが目撃されたのはもう少し先らしい。どこかに洞窟でもあって、そこを拠点にしているのかもな」
「そうだね。一見何もないけど、岩陰とかに忍んでいるかもしれない」
「どこか高台があれば見通せるんだが……そこがゴブリンに占拠されていると厄介だな」
これだ、これだよ!
敵陣のど真ん中に突っ込むだの、なんとなく爆裂魔法を唱えるだの、早く帰ってお酒飲みたいとか言わない!
こういうのが冒険者の会話って奴だよ!
『…………』
もはやワタルは何にも言わない。それでいい。
慎重に辺りを探索しながら山道を登る。と――
「む? 敵感知にひっかかった。何かが山道をこちらに向かってくるな」
「……カズマ。お前、敵感知スキルなんて持ってるのか?」
「ああ。ただ向かってくるのは一体だな。俺は潜伏スキルもあるから、みんなが俺に捕まればやり過ごせるぞ。どうする?」
「……そうだな。一体ならゴブリンじゃあるまい。ちょうどいいからそこの茂みに隠れてやり過ごすか」
ということで、茂みに隠れて潜伏発動!
しばらくすると、そこにネコ科の動物が現れた。
黒い毛皮を持つサーベルタイガーみたいな日本の牙を持った大型の獣だ。
熊並みにでかい。
三人が緊張に包まれ、リーンは声が出そうになるのを口を押さえて震えている。
相当にヤバい奴らしい。
獣は神経質に匂いを嗅ぎまわっていたが、そのうちに俺たちが来た街に戻る道に進んでいった。
「「「 ぶはーっ!! 」」」
三人が一斉に安堵のため息を漏らす。
「初心者殺し! 初心者殺しだよっ! 怖かったぁ!」
「し、心臓が止まるかと思った! まさかあいつがいるとは!」
「……ゴブリンはあいつに追い立てられてここに来たんだな。しかし、帰り道にあいつがいるとは……」
そんなに怖い奴なのか? と聞くと、どうやら相当にヤバいモンスターらしい。
ゴブリンとか弱いモンスターを囮に、冒険者をおびき寄せて全滅させる恐ろしいモンスターとのこと。
なにそれ怖い! F.O.E(世界樹の迷宮で徘徊する中ボス)じゃねえか!
「とりあえず、ゴブリンたちを倒そう。ゴブリンたちの血の匂いにあいつが戻ってきて、俺たちも帰れるかもしれない」
「そうだね……カズマ、荷物をあたしも持つよ。身軽な方がいいだろうし、アンタの敵感知と潜伏スキル、頼りにしているからね」
リーンの申し出に、テイラーもキースも荷物をそれぞれ持ち出した。
*** このすばワタルっ! ***☆彡
さて、クエストのゴブリン退治だが、何とか達成した。
もちろん何事もなく……ではなかった。なんとゴブリンは三十体ほどもいたのだ。
偵察もせずに行った結果、三十体そのまま真正面から戦うことになり危ういところだったのだが、俺の持つ初級魔法が火を噴いたのだった。
ウインドブレスで矢を逸らし、クリエイトウォーターからのフリーズで地面を凍らせて足止めをした。
おかげでキースとリーンが遠距離でゴブリンを倒し、近距離では俺とテイラーで無双した。
三十体もいたゴブリンたちは、俺たちに碌な手傷を負わせずに全滅したのだった。
「ふはははは! なんという楽! なんという無敵っぷり! というか、なんで初級魔法が一番活躍しているんだよ!」
「ホントだよ! あたし、魔法学園で初級魔法なんてスキルポイントの無駄って教わったのに!」
「うひゃひゃひゃひゃ! こんな楽なゴブリン退治、生まれて初めてだぜ!」
うむ、みんなハイテンションで何よりだ。
『ほえー……カズマって好機を作り出すのうまいんだねえ』
おお、救世主であるワタルからお褒めの言葉をいただきましたよ!
いやあ、三人とも掌くるっくるで荷物まで持ち出したよ。
そうして街まで凱旋していた俺たちは奴がいたことをコロっと忘れていたのだった。
そう、初心者殺しである。
「やべえ! 逃げ切れん!」
街まであと少しの草原であの初心者殺しが追いかけてきて、必死に逃げている俺たち。
このままでは逃げ切れない。
「くっそ! おい、リーン! カズマと街まで逃げろ! 俺とキースであいつの足止めをする!」
「……ちっ、そうだな! カズマは本来お客さんだ! 俺たちが時間を稼ぐ間に街に戻って増援を呼んでくれ!」
ちくしょう、ばかやろう! そんな格好いいこと言ってんじゃねえよ!
「わかった! 行くよ、カズマ!」
リーンが俺の手をつかむ。だが、俺はそれを振り払った。
「……ワタル! 出番だ!」
『任せてよ!』
「「「 カズマ!? 」」」
「みんな、ここで見たことは内緒だぜ!」
俺は背にある王者の剣を引き抜いた!
*** このすばワタルっ! ***☆彡
カズマが王者の剣を引き抜くと、閃光と共に僕と入れ替わる。
「え、誰!?」
リーンさんが僕の姿に驚くが、そんなことにかまってはいられない。
「いくぞぉ! りゅうじんまる~~~~~~っ!」
剣を天に掲げると、剣から光が飛び出し、空中で龍神丸が顕現する!
【オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!】
「「「 なんか出た!? 」」」
勾玉が光り、龍神丸に吸い込まれる。
中にいた龍の頭の角を持ち、龍神丸の肩に爪が飛び出た。
これが龍神丸。
僕の相棒だ!
「下がって! こいつは僕が倒します!」
「「 お、おう! 」」
龍神丸の背から登龍剣を引き抜き、モンスターに立ち向かう。
初心者殺しは、最初驚きながらも果敢に龍神丸に向かってきた。
僕はその爪を剣で弾きながら、キックを叩きこむ。
今だ!
「りゅうらいけん~!」
肩から伸びた電光が、初心者殺しに襲い掛かる。
間一髪で雷光を避けた初心者殺しが、すぐさまこちらに襲い掛かった。
両の前足が龍神丸の肩に襲い掛かるが、間一髪で龍神丸がそれを受け止める。
力比べだが、こちらはまだ手がある!
「えんりゅうけ~ん!」
腹から出た炎の弾が、目の前にいた初心者殺しを包み込む。
たまらず離れようとした初心者殺しのお尻に、登竜剣を突き刺した。
「ギャンっ!」
刺された初心者殺しは、ほうほうの体で逃げ出していく。
あれだけやれば、初心者殺しはもうこの辺には近寄らないだろう。
僕はそのまま逃げていく初心者殺しを見送った。
そして――
「「「 うおおおおおおっ! 勝ったーっ! 」」」
喜ぶ三人を見て、僕は剣をしまった。
*** このすばワタルっ! ***☆彡
「なんだよ、なんだよ! 誰だよあの子は!」
「すごかったね! すごかったよ! ピカーって、バーンって!」
「うはははははははは! カズマ、おいカズマ! どうなってんだよ、ええ!?」
「わかった、わかったって! 説明するから!」
龍神丸から降りたワタルが、すぐさま王者の剣をしまうと、俺に戻ったわけだが。
当然ながら質問攻めにあうわけで。
『ごめんね。面倒押し付けて』
いいってことよ。
とりあえずワタルのことは幽霊っぽく話しておいて、こいつが成仏するために俺についてきている設定にした。
「はえー……いやすげえよ。あの初心者殺しが手も足も出なかったんだもんな」
「そうだね。でも、小器用でなんでもできるカズマに、大物食いのワタルかあ……」
「すげえな。一人で何役もできるなんて、お荷物どころかエースじゃねえか」
三人が揃って尊敬のまなざしを俺に向けてくる。
いや、ワタルに関しちゃ、俺も恩恵に預かってる訳でして。
「いや、ほんとうにすげえよ、カズマ。本気でパーティ組まないか?」
テイラーの言葉に思わず頷きたくなる。なるが……
「お誘いはありがたいんだけどな……」
「……ああ、まあ、そうだな、うん」
テイラーはしまった、とした顔をした後、語尾を濁した。
とりあえず、そのまま冒険者ギルドへと凱旋したのだが――
「ぐすっ……ひぐっ……ああ、カズマぁっ、カズマさぁん……」
――バタンっ
思わずドアを閉めた俺を、一体誰が責められようか?
とりあえずここまで。
次は書き溜め後に。
駄文にお付き合いくださり感謝!