TS衛生兵さんの成り上がり 作:まさきたま(サンキューカッス)
「ルイさん、こいつら結構良い銃を持ってたぜ!」
賊の奇襲を退けた、その翌朝。
ルイたちは安全を確かめた後、賊の遺体の検分に向かった。
「見たことがない銃がある。これはなんだ?」
「これは……へぇ、珍しい。エイリス銃の後期型ですね」
「後期型ってことは、性能は良いのか?」
「……悪くはない、ですかね?」
賊の遺体はまだ柔らかく、皮膚を青白くして息絶えていた。
逃げ出そうとしたのか、百メートル近く這った遺体もあった。
「おお、手榴弾! 新品だ!」
「危ないので触らないでください。正規品とは限りません、暴発する可能性が」
「げっ」
昨日トウリが『残弾を気にしなくていい』といったのは、これが理由だ。
敵の武装を鹵獲すれば、弾薬の補充が出来るのだ。
「お、この小銃は懐かしいな。中期型のサバト小銃じゃのう……」
「えっ、サバト小銃があるのですか!?」
ジェンが何気なく、大きめの古びた銃を拾い上げると、トウリがキラリと目を輝かせた。
……彼女のそんな顔を見るのは、初めてだった。
「おお……確かにサバト銃です。それも、サバト革命時に使われた中期型……」
「ワシは一度、西部戦線で鹵獲したんだっけ。結局使わずじまいだったが」
「……」
小柄なトウリには、大型のサバト銃は相性が悪いだろう。
そう思ったが、トウリは物欲しそうにサバト銃を見つめている。
「あー、お前が使うか?」
「よろしければ、是非!」
ルイがそう提案すると、トウリは食い気味に頷いた。
誰がどの銃を使おうがかまわない。
どうせ従軍経験者である彼女には、好きな銃を選ばせるつもりだった。
「なんだ、サバト銃が良いんか嬢ちゃん。オースティン銃に比べ、反動が大きく狙いも逸れやすいんじゃぞ」
「分かっていませんね、ジェンさん。反動が大きいだけで、精度そのものはオースティン銃とそんなに変わらないんですよ」
「……はあ」
「それより、射程が長いのが素晴らしい。特に中期型は、大きいですが射程も最長なのです」
サバト銃について語るトウリは、やや早口だった。よほど、愛着があるらしい。
……意外な一面を見た、とルイは少し驚いた。
「また、この銃を持てるなんて……。不思議な縁を感じますね」
「トウリ嬢ちゃん、どうしてサバト銃が好きなんだ? まさか元サバト兵……?」
「えー、それは、アレです。昔は規則で、衛生兵は銃を持てませんでしたから。サバト銃を鹵獲した時しか、使えなかったんですよ」
「ああ、なるほど」
そう答えるトウリの目は、やや泳いでいた。
嘘をついている気がしたが、深く突っ込まないでおいた。
「それで、弾薬の量は? 昨日使った分は取り返せたのか」
「むしろ、余裕が出ましたね。……作戦期間を七日間に延長できそうです」
「ふーむ」
銃や弾薬の在庫は、すなわち『戦闘可能時間』である。
もちろん、食料や飲料水などの兼ね合いもあるが……。
「ちょっと多めに食料を持っていけないか、掛け合ってくる」
「お願いします」
賊の銃や弾を鹵獲できたことで、作戦期間にちょっと余裕が生まれた。
「賊の持ってた金品も、いただいてしまいましょう。食料代になるかと」
「……そうだな」
なんだかんだあったが、賊の襲撃はルイたちにとってプラスに働いた。
武器弾薬に加え、金品も奪うことが出来た。
そして何より、
「賊ってのもたいしたことないな!」
「意外に勝てるじゃねぇか、俺たち!」
一人の被害も出さず、賊の襲撃に快勝したこと。
それはドクポリ解放戦線のメンバーにとって、これ以上ない自信となった。
「では、今度こそ出発しましょう」
かくしてルイたちドクポリ解放戦線は、二度目の侵攻を開始した。
今度はしっかり準備を整え、入念に計画を練っての侵攻だ。
最初の行軍の時とは、気合も士気も段違いに高かった。
「トウリとジェンさんに、それぞれ部隊長を頼む」
「了解じゃ」
「分かりました」
ルイは部隊を二つに分け、トウリとジェンに任せることとした。
トウリはまだ新入りだが、貴重な従軍経験者。ルイは彼女を、よく信用していた。
問題は他のメンバーが、新入りであるトウリの指揮を受け入れてくれるかだったが……。
「トウリさんなら信用できる」
「命を預けるぜ隊長」
その人事を発表すると、思ったより好意的に受け入れられた。
少なくとも、反発している人間は見当たらなかった。
「驚いたな。いつの間にみんなと、親しくなったんだ?」
「自分もこの一週間、のんびりしていたわけではないのですよルイ兄さん」
聞くところによると。
実はトウリは、ルイが物資を集めていた日中、ずっと兵士たちと訓練をしていたのだそうだ。
戦場での走り方や、体の隠し方、手榴弾への対処や銃の狙い方。
ジェンさんと共に教官役として、メンバー全員に『生き残るための技術』を伝え続けていたのだという。
「トウリさんが衛生兵だったなんて信じられん。歩兵やってたという方が納得できるわい」
「まぁ……確かに歩兵をやっていた時期もありました。メインは衛生兵というだけで」
「そうじゃろ、そうじゃろ」
トウリは筋トレの際も、涼しい顔で一番きついメニューをこなしてしまったそうだ。
体力面は、若い男性の多い解放戦線のメンバーでもトップなのだという。
「凄い体力ですよ、彼女」
「自分なんてまだまだです」
その話を聞いて、ルイはまた驚いた。
トウリの小柄な体躯のどこに、そんな膂力があったのか。
というか、
「トウリは医療技術もすごいんだろ」
「うん。惚れ惚れするほど、処置が上手いわ」
「あはは……」
医療知識が深く、歩兵技術も高く、参謀としての技能まである。
ただの従軍経験者にしては、技能がマルチすぎる。
「何者なんだ、トウリは」
「ふ、普通の衛生兵ですよ?」
「それにしては、何か……」
トウリは謙遜するが、何か隠していそうな雰囲気もある。
もしかして、かなり名のある軍人じゃないのかとルイは疑い始めた。
「そんなことより、索敵と偵察です。ほら、警戒しながら進みますよルイ兄さん」
「あ、ああ」
だが、トウリは過去を語ろうとしない。
隠したいのであれば、詮索する必要はない。
ルイは少しばかり怪訝に思いつつも、それ以上問い詰めなかった。
かくして、ルイたちドクポリ解放戦線による本格的な進撃が始まった。
要塞化した農村ドクポリの、奪還作戦。
周囲に遮蔽物はないため、奇襲は困難。
そのためルイはトウリの提案で、塹壕戦を選択した。
「……うーん」
「どうした、トウリ」
その道中、敵の襲撃はなかった。
前の敗戦が響いているのか、賊は慎重になっているようだ。
要塞化した拠点で、ルイたちの進軍を待ち構える構えを見せていた。
「いえ。もしかしたらですけど……」
「何だ、言ってみろ」
「敵の動きが、妙に秩序だってるんですよ」
実はトウリは勝利のあと、賊による報復があると予想していた。
感情的に動く彼らが、メンツをつぶされて黙っているわけがない。
進軍中に奇襲を仕掛けてくるだろうと、思っていたのである。
「昨日の奇襲も、足並みをそろえて攻めてきましたね」
「……そうだな」
「負けを悟ったら一斉に退き、今は塹壕に籠って我々を待ち構えているのでしょう?」
「ああ、そうらしいな」
「まるで指揮官のいる軍人みたいな動きです」
しかし賊は予想に反し、冷静な対応をしていた。
ルイ達の進軍を受け、防御を固め待っているのである。
「つまり、どういう意味だ」
「あんまり考えたくない話ですが」
その対応のシビアさに、トウリは少しだけ顔をしかめて。
「敵がどこかの『正規軍』である可能性があります」
「何だと?」
ため息交じりに、そう語った。
「は? どっかの国の軍が、俺たちの村を襲ったっていうのかよ!」
「はい。もしそうなら、国際問題になりますね」
ドクポリを占拠しているのが、賊ではなく正規軍の可能性がある。
その可能性を聞いて、ルイは憤慨した。
「どこの連中だ、くそったれ!」
「分かりません。……その可能性もある、というだけです」
「それで。敵が正規軍だったら、俺たちは勝てるのか」
「勝てません。その場合は撤退をお願いします」
世界大戦の怨恨は、まだ各地に残っている。
アルノマによる無条件講和に、納得していない勢力はまだ多い。
そんなどこぞの国の一部が、賊の振りをした略奪に及んだ可能性がある。
「……じゃあ、どうするんだ」
「証拠があれば、オースティンも軍を動かします。防衛のためですから、もう躊躇しないでしょう」
だが、頭に血が上っているルイをまっすぐ見て。
トウリは、釘を刺すように忠告した。
「敵が正規軍なら即時撤退しかありません、ルイ兄さん。オースティン軍に任せるんです」
「あ、ああ」
……だが、不思議なことに。
ルイにはトウリが、どこか『確信』があって話しているような、そんな印象を受けた。