TS衛生兵さんの成り上がり   作:まさきたま(サンキューカッス)

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31話

 この世界の捕虜の扱いは、どんなもんなんでしょうか。

 

 捕虜に暴行してはいけないとか、そういう人道的な配慮はされるのでしょうか。

 

 

 ……少なくとも自分は、そういった条約の類を聞いたことはありません。

 

 敵につかまったが最後、生殺与奪は敵の思うがまま。

 

 自分はまだ幼いですが女性兵士なので、そういう扱いで生かされる可能性もあるやもしれません。

 

 

 ですがやはり、迫りくる敵兵は自分にとってただただ恐怖でした。

 

 今すぐ治療をさせてもらえないと、自分は失血死します。

 

 ですが、言葉の通じない相手にそれをどう説明しましょう。

 

 魔導士が魔法を行使するのは、基本的に敵対行動です。

 

 自分の処置をしようと魔法を発動した瞬間、銃で脳みそを吹っ飛ばされても文句は言えません。

 

 

 敵の衛生兵に処置を願うのが理想なんでしょうが……、そもそも敵が自分を治療するでしょうか。捕虜の治療をする暇があれば、自軍兵士の治療を優先する気がします。

 

 

「■■■■っ!!」

「■■」

「■■■■■■っ!」

 

 

 彼らはがなり声で、自分を指差して叫びました。

 

 聞いたことのない異国の言語。何を話しているのでしょうか、まったく見当もつきません。

 

 しかしそれが、友好的な態度ではないことは明らかです。

 

 じんわりと腹部が痛み、息が苦しくなってきます。

 

 やがて彼らは、そんな横たわる自分に真っすぐ走ってきて、そして。

 

 

「■■■■■■ォー!!!」

 

 

 

 自分を無視して、レンヴェル少佐を追っかけて走っていきました。

 

 

 

 

 

 ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ……っ、【癒】」

 

 周囲に誰もいなくなったのを確認してから、自分は急いで応急処置を行いました。

 

 そして自分は街道を這って、誰かの住居内に侵入しました。

 

「……、……!」 

 

 幸いにも弾丸は貫通していたようで、腹の処置は傷を塞ぐだけですみました。

 

 しかし、結構ヤバい所を撃たれていたのか、回復魔法を使った後でも歩くのも辛かったです。

 

 出血量も多く、かなりフラフラになっておりました。

 

 ですが逆に、そのお陰で致命傷と思われ捨て置かれたのでしょう。

 

 実際、自分が衛生兵でなければ普通に致命傷ですし。

 

 ついでとばかり、頭を撃ち抜かれずに済んで助かりました。

 

「……っぐ、はぁ、はぁ」

 

 とはいえ、ちゃんとした治療は出来ていません。

 

 この感じ、間違いなく腹膜炎を起こしていますね。

 

 本音を言えば腹を開けて洗浄や縫合したいところですが……、そんな事をすれば多分自分の意識が持ちません。

 

 多少雑ですが、【癒】でゴリ押しして治しましょう。

 

 

 こうして、自分は残り魔力を使いきるまで回復魔法を行使したあと、リュックに入れていた秘薬と生食を飲み干しました。

 

 秘薬を持ち出していたのは、大正解でした。多少キマれば、痛みもマシになりますし魔力も回復しますしで一石二鳥です。

 

 そのまま自分は数十分ほど、誰もいない民家で休憩させていただきました。

 

 そして家主さんには悪いですが、勝手にベッドシーツを切って包帯替わりに使わせて頂きました。

 

 まだ少し腹に響きますが、これなら何とか走れそうです。

 

 

 窓の外を窺うと、そこかしこで火の手が上がっていました。

 

 自分はここから、敵兵に見つからず後方まで脱出せねばなりません。

 

 小柄である体躯を利用し、こそこそ隠れて移動すれば何とかなるのではないでしょうか。

 

 

 今、この市街は全域でゲリラ戦が行われています。その混乱に乗じて、上手く撤退するのです。

 

 

「■■■■■■■■っ!!」

 

 

 周囲を探るべく耳を澄ませていたら、突然にすぐ近くで敵の怒声が聞こえ、ビクリと肩が震えました。

 

 どうやら、今この家屋のすぐ外に敵兵がいる様です。

 

「■■■■っ」

「や、やめてくれ。た、助けてくれぇ……」

 

 壁越しに様子をうかがうと、命乞いをする味方兵士の声が聞こえてきました。

 

 どうやら交戦中みたいです。そして、負けているのは味方の様子。

 

 命乞いをしている彼には悪いですが、乱入しても自分に出来ることは何もありません。ここは、彼らが立ち去るまで身を潜めていましょう。

 

 

「■■■■」

「なにとぞ、なにとぞ、へへへ。ほら、靴も舐めます、えへへ」

 

 

 幸運なのかどうなのか知りませんが、彼はすぐさま射殺されず捕虜にしてもらえそうな雰囲気でした。

 

 プライドを捨てても生き延びようとするその姿勢には、少し敬意を覚えます。

 

 どうか、助かってくれればよいのですが。

 

 

 

「と見せかけて! 隙あり脱出ぅー!!」

「■■■■!!」

「ばーかばーか、誰が捕まるか! 拷問とか大嫌いなんだよ俺はぁああ!!」

 

 

 

 そんなことをぼんやり考えていた、直後。

 

 垂れ目の情けない顔の男が、自分が隠れていた家屋の窓へ突っ込んできました。

 

 

「あんぎゃあああ!! 痛ぁああ!!」

 

 

 そして窓枠に足を引っかけ、無様に床で顔面を強打しました。

 

 鼻血がダクダクと流れ、床を汚しています。

 

 ……。

 

「■■!」

「ひやああああ!! 違うんですごめんなさい、これは逃げようとしたわけじゃないんです!」

 

 逃亡に失敗したその味方兵は、即座に小銃を突き付けられて両手を上げました。

 

 そして媚びるような表情で、敵兵達に向かってヘコヘコ土下座を始めます。

 

 ……欠片も、プライドが残っていませんね。

 

「……お?」

「……」

 

 

 幸いにもこの時、自分は敵兵の目からは死角になって気づかれていませんでした。

 

 しかしプライドの無い彼は、壁越しに息をひそめて隠れている自分に気が付きました。

 

 じぃぃぃ、と彼は自分に視線を集中します。

 

 そんなに見ないでください、自分まで気づかれてしまうでしょう。

 

 どうか、ここは知らないふりをしていただけると……。

 

 

「旦那、旦那、そこの壁の裏!! 人が隠れていますぜ、ソコに!!」

 

 

 その兵士は自分の存在に気付くや否や、大袈裟に自分を指さして騒ぎ始めました。

 

 ……。

 

「ほら、アレですよ! 俺は、何かこの家屋が怪しいと思ったんすよ! ホラ、敵がいた! 隠れてた! 誉めてください旦那ぁ!」

「……」

「■■■■? ……」

「……」

 

 まもなく、敵兵さんは自分の方を覗き込みました。

 

 そして、バッチリ目が合ってしまいます。

 

「■■■」

「……はい」

 

 異国の言葉が分からないので何を言われているのか知りませんけど、銃を突き付けられたので自分はおとなしく手を挙げて立ち上がりました。

 

 この男……。味方を気遣うとかそういうのは一切ないようです。

 

 

 

 

 

 まもなく自分達は家屋内で両手を上げ、背を向けたままの状態で壁沿いに立たされました。

 

「■■」

「へ、へい。わかってますって」

 

 もう一人のオースティン兵は何やら敵の言葉をある程度理解しているっぽいです。

 

 彼はおとなしく、手に持っていた物を全て地面に置いて装備を外し始めました。

 

 いよいよ自分たちは、捕虜にされるようです。

 

「■■っ!」

「……え、えっと?」

「わああ、何をボーっとしてる、旦那を刺激すんなよガキんちょ! 武装解除しろって言ってんの、服も含めて全部脱げ!」

「は、はい!」

 

 装備を外し始めている男兵士に怒鳴られ、自分は慌てて服を脱ぎ始めました。

 

 捕虜は武装解除、そりゃあそうです。ただ、何を言われたか分かるなら自分にも教えてください。

 

 ……にしても、武装解除ですか。

 

「はい、脱ぎましたぁ!! これでどうか、命だけはお助けを!」

「……」

 

 そうなると全裸ですよね、やっぱり。

 

 自分も殺されたくはないので、おとなしく彼同様に服を全て脱いで背中越しに手を上げました。

 

 ……ああ、死ぬほど嫌な予感がします。

 

「■■■■■」

「……」

 

 女性兵士の捕虜、って実際はどんな感じに扱われるんでしょうか。

 

 本当にそういう感じになるのなら、ある意味生き残れるのでありがたいのですが。

 

「■■■……」

 

 ガクガク震えながら立っていると、敵の男性兵士は、当然のように自分の体を触ってきました。

 

 というか胸ですね。かなり強い手つきで、揉みしだいています。

 

「■■■■?」

 

 ……やはり、そうなるのですか。解放してもらえるまで、しばらく嫌な思いをすることになりそうです。

 

 もしかしたら終戦後も、そういう奴隷として扱われる可能性も───

 

「おい、旦那がお前の性別聞いてるぞガキんちょ。男か女かどっちだって」

「……女性ですけど」

「えっと、……。■■ってさ!」

「■■■■!」

 

 敵兵士は意外そうな、そして納得した顔で自分を見つめました。

 

 彼は自分の性別を確認するために、胸を触ったようです。

 

 しかもさっきまで、胸を触った後も微妙な表情で自分の顔を見ていましたね。

 

「■■■■!」

「はいはい、えーっと」

 

 というか下も脱いでいるでしょうに、そっちで確認してくださいよ。

 

 ……ああ、そういえば下腹部に包帯を巻いているんでした。それで陰部が隠れて、わからなかったんですね。

 

「ガキんちょ、包帯取って前向いて、脚広げろってさ」

「……」

 

 そして今から、そっちで確認するんですね。

 

「……」

「■■■」

「…………」

 

 結局自分は、敵の指示通りに動きました。

 

 それはとても、屈辱的な気分でした。

 

 何とか平静を取り繕いましたが、正直色んな感情がごちゃまぜになって泣きそうです。

 

「ほらほら旦那、今はここには誰もいませんよ。人の目なんてないんです」

「■■?」

「いいじゃないですか、こんなところで命がけに戦わなくても。ちょっと楽しんで行きゃどうです? ほらほら、よくみれば可愛いでしょうコイツ」

 

 すると、同じく全裸の男はニヤニヤしながら揉み手で敵兵に媚び始めました。

 

 ……さっきから、この男は何なのでしょうか。

 

 味方の兵士の筈なのに、先ほどから自分に矛先をそらすことしか考えていないように見えます。

 

 その気持ちを理解できなくはないですが……。

 

「■■■■■■」

「ええ、多分処女っすよ。なぁ!」

「……」

 

 怒ってもいいですよね、自分。

 

「■■■」

 

 敵の兵士はニヤっと笑うと、自分の体を床に押し倒しました。

 

 ……本当にその気になってしまったみたいですね。

 

「■■■■■■っ!」

「■■■■」

 

 そのまま敵兵が数名ほど、自分の周囲に集ってきます。

 

 こうなってしまえば、仕方ありません。

 

 命だけでも助けてもらえるよう、従順に振る舞うとしましょう。

 

「……えへへ、そうですそうです。戦場でもネ、こういう娯楽は必要ですよネ、げへへ」

「■■……」

 

 そして、自分をこんな窮地へと追い込んだ男はといえば、

 

 

「……チャーンス!! 今だぁぁぁ!!!」

「■■!?」

 

 

 自分が襲われかかっている合間に、隙を見て脱兎のごとく逃げ出していきました。

 

「きゃっほぉぉう!!」

 

 兵士たちの不意を突き、自分一人だけ玄関方面に駆け出していきます。

 

 全裸で。

 

 

「……えー」

「……■ー」

 

 

 これには自分のみならず、敵兵も呆れた声を出しました。

 

 多分、この時の敵兵さんと自分の気持ちは全く一緒だったでしょう。

 

「……」

「……」

 

 人間は、呆れるという感情が上限突破すると絶句するんですね。

 

 自分より年下であろう女の子の貞操を餌に、よくぞそこまで出来るもんです。

 

 

「……」

 

 テンションが下がったのか、敵兵は銃を突き付けたまま、無言で自分から離れていきました。

 

 若干、憐れむような表情がその顔に浮かんでいます。

 

 ……。よし。

 

 

「……えぇ、ぇん」

「!」

 

 

 ここは一丁、泣いてみましょう。

 

 幸か不幸か、敵兵士たちは彼に呆れて自分に乱暴しなかったあたり、最低限くらい情がありそうです。

 

 そして自分は、かなり未発育。見た目は純粋無垢な子供です。

 

 その幼い外見を利用し、プライドを捨てて情に訴えかけ、命乞いをしましょう。

 

 

「……、……?」

「えーん、えん」

 

 ポロポロと、自分はその場でしゃくり上げながら涙を溢し始めました。

 

 因みにこれは泣き真似とかじゃありません。

 

 というか、実際泣きたいから泣いています。さっきから堪えていただけで、ずっと泣きたかったですし。

 

「■■、■■」

 

 こちらの狙い通り、敵はかなりバツの悪そうな顔をしました。

 

 そうです、その罪悪感を大事にしてください。

 

 そして出来れば、今後自分を丁重に捕虜として扱って貰いたいです。

 

 

 

 やがて敵兵達は、その辺に落ちてた布切れを自分に1枚渡してくれました。

 

 先程、自分が包帯を作ろうとして切り刻んだシーツの残りですね。

 

 自分はありがたくソレを受け取って、しゃくり上げながら部屋の隅でシーツにくるまりました。

 

 ふぅ、モラルのある敵で助かったです。

 

 サバト兵は非戦闘員だろうと気にせず惨殺すると噂で聞いていましたが……。

 

 多少は、誇張が入っていたのでしょう。

 

「……■■■」

 

 とはいえ、まだ油断はできません。 

 

 捕虜として拘束する手間を考え、ここから自分を殺して前進するとかもあり得ます。

 

 気を抜かず、自分の命を最優先に動きましょう。

 

 ポロポロ泣きながらも、内心でそんな事を冷静に考えていた折でした。

 

 

 

 

 

 

 ころん、ころん、と。

 

 

 突然に窓から、丸い何かが投げ込まれてきたのは。

 

 

 

 

 え、手榴弾?

 

 

「た、た、【盾】! 」

 

 

 手榴弾の恐怖は身に染みています。

 

 何度も何度も、この恐ろしい兵器には煮え湯を飲まされてきたのです。

 

「■■■!?」

「…■■!!」

 

 自分は反射的に【盾】を出した後、頭を反対側にして床に伏せました。

 

 その直後に、敵兵達の動揺した気配を感じて、

 

 

 

 ────凄まじい炸裂音と共に、部屋が爆風に包まれました。

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっほ! えっほ!」

 

 幸いにも、自分はその爆風の中を生き延びることができました。

 

 咄嗟に盾を出せたお陰で爆風を逸らせ、軽い火傷で済んだのです。

 

 しかし、直撃を食らった敵兵達は駄目でしょう。

 

 爆心でしたし、見るも無惨な事になっていると思われます。

 

「……けほ、けほ」

 

 にしても一体、どこの兵士でしょうか。

 

 いきなり、敵兵が何人も残っている家屋に手榴弾を投げ込むなんて。

 

 乱暴にも程があります……。

 

 

 

「ふぅー! へへへ、ざまぁ見やがれこの雑魚ども! 俺の荷物返してもらうぜ、あーっはっは!」

 

 

 ……。

 

「それと、誰か知らないけど俺のために犠牲になってくれたガキんちょにも敬礼! いやあ、最高の囮だったぜ」

「……」

「クソガキの癖に一丁前に恥ずかしがってたお陰で、アホ共を焚き付けるのも楽だった。そのままあの世で乱交でもしてろ、あーっはっは……」

「…………」

「……あっ」

 

 …………そのまま高笑いして部屋に入ってきた彼は、大層冷たい目をしていただろう自分と目が合いました。

 

 

「……ふぅ、嬢ちゃん。無事だったか、俺の計算通りだぜ」

「……」

「色々と酷いことを言ったが、どうか許してくれ、あの場を乗りきって二人とも助かるにはああ言うしか無かったんだ」

「…………」

「ま、そう気にするな。子供を守るのは大人の務めってな。命を救われたからと言って、あまり恩に感じる必要はないぜ」

「…………」

 

 命の恩、ですか。

 

 ……そもそも、お前が自分を巻き込まなければ命の危機には陥らなかったのですが。

 

「ま、まぁ取り敢えず服を着ようぜ相棒。こんな姿で二人だと変な誤解をされちまう」

「……」

「さあ、軍服を……げ、げげ! 俺の装備が焦げてる! 服も!」

「……」

 

 

 ……。




ぶり様から、当小説内のオースティン・サバト軍服の素敵なイラストを頂きました。
ありがとうございました。

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