TS衛生兵さんの成り上がり   作:まさきたま(サンキューカッス)

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3章 冬季行軍
40話


 

 自分が衛生兵として従軍することになってからの半年は、間違いなくオースティンの歴史の大きな転機と言えました。

 

 10年以上にわたり均衡を保ってきた西部戦線が破られ、ガーバック小隊長やゲールさん達が死に物狂いで守ってきた西部戦線を失い、無条件降伏さえ拒否された激動の6か月間でした。

 

 一時は終戦すら見えた情勢でしたが、結果として戦争は終わりませんでした。

 

 降伏を拒否され、「このまま殺されるくらいなら」と最後の一人になるまで戦う決意を固めたオースティン国民。

 

 殆ど決していた勝勢を覆され、不満が爆発寸前の国民に対し「負けました」と言うわけにはいかないサバト連邦。

 

 お互いに決して負けることが出来なくなってしまったこの東西戦争は、このままズルズルと「国としての機能を維持できないレベルでの、人の命のすり潰しあい」に発展していくことになります。

 

 それは後に「総力戦」と呼ばれ、今後の戦争において最も避けるべき形態の一つとして語り継がれていくことになるのでした。

 

 

 

 

 

 

 そして、この日の出来事をオースティン国民が忘れることは無いでしょう。

 

 首都ウィンの国営放送で、無条件降伏が拒否されたという情報が流れて、街はパニックに陥りかけていました。

 

 しかし何故か敵軍は撤退していき、間もなく南部オースティン軍が劇的に勝利したという戦報が、首都ウィンまで届いたのです。

 

 絶望から一転して見えた希望はひとしおで、自分はロドリー君と肩を抱き合って喜びあいました。

 

「飲めや歌えや」

 

 そんな状況で、民衆たちが落ち着くはずもなく。

 

 結局、その日は住民たちが昼からお祭り騒ぎを始めてしまい、それに巻き込まれる形で自分達も首都の民と喜びを分かち合ったのでした。

 

 

 

 

 しかし、そんな浮かれた空気もつかの間です。

 

 翌日の朝、我々オースティン軍は再び装備の点検を始めていました。

 

 戦争はまだ続いています。サバトにより、続けられてしまったのです。

 

 

「お前らは、実によく戦ってくれた」

 

 

 我々は寝床として、首都内の士官学校の設備を貸し出されていました。

 

 この日は校内の講堂に雑魚寝する形で、戦友と並んで一夜を過ごしました。

 

 

「我々がマシュデールで奮戦していなければ、きっと首都は火の海だっただろう。我々は、英雄なのだ」

 

 

 再び戦地に赴く覚悟を決めた兵士たちは、レンヴェル少佐により今後の具体的な方針の説明を受けることになりました。

 

 

「しかし、我々の戦いはまだ終わっていない。いや、戦争はこれからが本番なのだ。憎きサバトの連中を、この国から追い出して、我らがオースティン同胞の安全を保証できるその日まで、我々の闘争は終わらない」

「「はい、少佐殿」」

「国家は、全力で我々を支援してくれるそうだ。手始めに減ってしまった人員を確保すべく、首都で募兵が開始されている」

「……」

「我々の新たな仲間が、間もなく配属されてくるのだ。各員気を引き締めて、その指導に当たってほしい」

 

 レンヴェル少佐が説明した具体的な方針とは、つまり。

 

「我々は1週間後、この首都ウィンを出立する。憎きサバトの悪鬼どもへ、いよいよ反撃を行うのだ」

 

 撤退していくサバト兵を、我々がオースティン南部方面軍と呼応して追撃するという方針でした。

 

 

 

 少佐の話によると、南部から我々へ出撃の要請があったそうです。

 

 首都方面と南部方面から、包囲網を作って敵を殲滅していく作戦だそうです。

 

 しかし我々の戦力は壊滅しています。現在の首都の戦力のみで出撃するのは、流石に困難でした。

 

 なので、この1週間で比較的若く体力のありそうな人々を徴兵し、我々の部隊に組み込む予定だそうです。

 

「配属されてくる新米は、素人だらけになると予想される。まともに使える人材は、ほとんどいないだろう」

「「はい、少佐殿」」

「実戦を経験したお前たちが、それをまともな戦力として育て上げろ。後輩育成も、貴様らの重要な職務だ」

 

 思えば半年前。

 

 自分はガーバック小隊長殿にボコボコに指導を受け、アレンさんやグレー先輩からいろんな話を聞き、少しづつ成長していきました。

 

 その若手を教え導くという役割が、早くも回ってきたという事でしょう。

 

「編成が固まり次第、お前たちに任を下す。今日、ここに生き残ったお前たちこそ、我が新生レンヴェル軍の主力となるのだ」

「「はい、少佐殿!」」

「恐らく、編成が完了するのは3日後になるだろう。なので今日、明日はゆっくり休養を取るといい。家族に会いに行くもよし、戦友と街に繰り出すもよし。人生最後の休日になるかもしれんから、心残りの無いよう全力で楽しめ」

 

 そういうとレンヴェル少佐は、ドンと大きな金貨袋を地面において、

 

「政府からの特別褒賞だ。喜べ、ブン取ってきたぞ、大金を!」

「「おお!」」

「せっかくの、貴重な首都での休暇。俺の部下たちに『金がなくて十分に楽しめなかった』なんて無様な思いをさせる訳にはいかん。さあ順番に並べ、お前たちは今日豪遊できるだけの働きをしてくれたのだ、遠慮はいらん! たっぷり持っていけぇ!!」

 

 物凄い笑顔で、その両手に金貨を掴み取ったのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……褒賞は半年分の給与、か。一度に貰えると凄い額だな」

「自分達は若手で少なめとはいえ、結構な額になりますね」

 

 と、言うわけで我々一般兵士は、2日間の休養を言い渡されました。

 

 たった2日で使い切るのは難しそうな額の金貨を、袋に入れて手渡されて。

 

「アレン先輩は、休暇何かすンですか?」

「親に顔を見せに行こうと思ってる。奇跡的に生きて帰れたんだ、親孝行しないと」

「ああ。アレンさんは、首都出身だったんですね」

 

 首都出身の兵士たちは、皆家族に会いに行くつもりのようです。

 

 今度こそ生きて帰って来られる保証はないですし、それはそうでしょう。

 

 家族が生きているなら、少しでも幸せな時間を過ごしていただきたいものです。

 

「ロドリー君はどうするつもりです?」

「そうだな。俺ァ、まずヴェルディ伍長の見舞いに行こうとは思ってるが」

「おお、自分も行きたいです」

 

 ロドリー君は、今から首都の中央病院に向かうようでした。

 

 我々の負傷した戦友は、その病院に収容されて治療を受けているそうです。

 

 ヴェルディ伍長には普段からお世話になっていますので、見舞いには行っておくべきでしょう。

 

「なら、俺もご一緒しようかね」

「アレンさんも来られますか」

「戦友だって、大事な家族だからな。無事な顔を見た方が、寝覚めも良い」

 

 と、いう訳で。

 

 人生最後かもしれない休日は、お見舞いから始まったのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ただ、もしヴェルディさんが重傷で、面会謝絶とかならどうしようかなと思っていたのですが。

 

「おお、皆さんご無事でしたか。大事な時に負傷撤退してしまい、申し訳ありません」

 

 病院に行って面会の許可を求めると、ヴェルディ伍長にはあっさり会うことが出来ました。

 

 彼はもうほぼ治癒しており、明日には退院できる状態だそうです。

 

「お元気そうで何よりです、ヴェルディ伍長」

「トウリちゃん、ありがとうございました。貴殿の迅速な判断のおかげで、一命をとりとめることが出来ました」

「……正直、自分の前に運ばれてきた時は見捨てようか迷うくらいに重傷でした。助かってよかったです」

「う、結構瀬戸際だったんですね、私」

 

 今でも、前線医療本部で血反吐吐きながら運ばれてきたヴェルディさんの姿はよく覚えています。

 

 全身が浮腫んでショック状態でしたが、緊急手術すればギリギリ5体満足で救命出来そうだったので、半ば賭けるように後方に送った気がします。

 

「本当に悪運が強いな伍長。九死に一生を得たの、これで何度目です?」

「伍長はちょっと不注意なんスよ。敵の視線を感じたらすぐ屈まないとダメっス」

「ははは、返す言葉もない」

 

 道端で購入しておいたケーキを手渡すと、伍長は苦笑して受け取ってくれました。

 

 何にせよ、無事でよかったです。

 

「私はやはり、前線には向いていない人間みたいですね」

「いきなりどうした、伍長?」

「ロドリー1等歩兵の言ったとおりです。自分にはどうも、注意力が足りないらしい」

「……あ、その」

 

 ロドリー君は軽口を取り上げられて、ばつが悪そうに眼をそらしました。

 

 そんな彼を見て、ヴェルディさんは笑ったまま気にしていないと手を振りました。

 

「叔父上からのお達しで、私は昇進することになりました。マシュデール撤退戦での功績を評してと言われましたが、ご存じの通り私は何もしていません。ただ、撃たれて撤退しただけの役立たずでした」

「……」

「叔父上も、私の無能が分かったのでしょう。だから多少強引に昇進させて、私を前線から引きはがしたのです」

 

 ヴェルディさんはそこまで言うと、面目なさそうに眉をㇵの字にし、やがて頭を下げました。

 

「これから私が、直接皆さんの力になれる機会は無いようです。……申し訳ありません」

 

 それは、薄々自分も感じていたことではありました。

 

 運が悪かったといえばそれまでですが、ヴェルディ伍長は咄嗟の事態で動けず負傷することが多く、あまり優秀な歩兵とは言えませんでした。

 

 ロドリー君とかは危機を感じると凄まじい反応を見せるのですが、ヴェルディ伍長は頭が真っ白になって固まってしまうタイプの様です。

 

 彼がこれ以上最前線にいたら、いつ死んでも不思議ではありません。

 

 そもそもヴェルディ伍長は、参謀将校になる過程として歩兵を経験しただけで、本来は後方でふんぞり返っている側の人なのです。

 

「昇進おめでとうございます、伍長。アンタが何も謝ることはありませんぜ」

「……ですが」

「伍長が偉くなったなら、俺もたくさん自慢出来ますから。あのお偉いヴェルディ様の尻を蹴飛ばして、指導してやったのは俺だってね」

「それは。……間違いありませんね」

 

 しかし、それはヴェルディ伍長にとって非常に心苦しい話だったみたいです。

 

 早々に負傷撤退しておいて、自分だけ昇進するなんてという負い目を感じているのでしょう。

 

「あと、貴方達も少し階級が上がると思います。野戦任官というやつですね」

「おお、そうなのですか」

「本来、その階級であるべき兵士が殆ど死傷してしまいましたから。欠員を補充するために、アレンさんは小隊を1つ任されると思いますよ」

「へぇ、そりゃ凄い。ついに、アレン小隊が結成されちまうってわけですかい」

 

 そして、昇進するのはヴェルディ伍長だけでなく自分達もだそうです。

 

 まぁ、シルフ攻勢で主要な軍人のあらかたが殺されてしまいましたからね。

 

 自分やロドリー君のような新米でも、貴重な実戦経験者という事になるのでしょう。

 

「それでは、これにて。私は、貴方達の今後の活躍を願っています」

「ああ、またなヴェルディ伍長様。もしスゲェ権力を握ったら、こっそり旨い酒をアレン小隊に回してくれよ」

「それは……出来かねます、ね」

 

 そういって我々は、伍長と最後の握手を交わしました。

 

「今までありがとうございました、ヴェルディ伍長」

 

 そして、すこし寂しそうな顔をしているヴェルディ伍長を背に。

 

 自分達は、ゆっくりと病院を後にしたのでした。

 

 

「ありゃ? おーい先輩!」

 

 

 ……病院を、後にしようとしたのですが。

 

「ほら、こっちこっち! おーい、聞こえてねぇのか? トウリ1等衛生兵殿ぉ!」

 

 どこからともなく、自分の名前を呼ぶ奇怪な声が聞こえます。

 

 これはいったい、どうした事でしょうか。

 

「おい、呼ばれてるぞトウリ」

「……。そうですね」

 

 軽くため息をついて声の方向に向き直ると、そこには、

 

「おお、やっぱり先輩じゃねぇか。会えてうれしいぜ、俺の見舞いに来てくれたのか?」

「……ええ、まぁ、そんなところです」

 

 髪の長い女性に抱きかかえられた、両足の無い垂れ目のオッサンが自分に向けて手を振っていたのでした。

 

 

 

 

「ああ、紹介するぜ。俺の家内のクーシャだ」

「貴女がトウリさんですか。ウチのアホ旦那が世話になったみたいで、ホンマありがとうございます!」

 

 声をかけられてしまったので近づいていくと、ゴムージが満面の笑顔で自分を出迎えてくれました。

 

 その近くには線の細いハキハキした女性と、ボーっと彼女のスカートの裾を掴んで自分を眺めている幼児が居ました。

 

「ママー、誰?」

「パパのお友達や」

「いやー、マシュデールの時は本当に助かったぜ。先輩は命の恩人だ、こうして家内と会えたのもアンタのお蔭さ!」

 

 ゴムージの奥さんは、思ったより美人でした。吊り目で気立てがよさそうな、少し方言っぽい女性です。

 

 コイツが結婚していたという話、本当だったんですね。こんな男が、どうやってここまで可愛い人を捕まえたのでしょう。

 

「ゴムージ、特に恩に感じる必要などはありませんよ。先輩が後輩を守るのは、軍人として当たり前のことです」

「ほらみろ、謙虚なもんだ。兵士ってのはこうじゃなきゃいけねぇ、権力を盾にイバり腐る連中とは大違いだ」

「……はあ」

「先輩ほど出来た人間を俺ぁ見たことがねぇ。息子がもう少し大きけりゃ、土下座して嫁に来てもらうところだぜ」

 

 ゴムージは軽やかな口調で、快活に美辞麗句を並べてきました。

 

 ……マシュデールでは、自分に対して散々クソガキだのなんだの言って命令無視した癖に。

 

 まったく、調子の良い男です。

 

「先輩、俺ぁこの足だ。退役って形で、戦わなくていいことになった」

「まぁ、そうでしょうね」

「だもんで、俺は家内を連れて安全な場所に避難するつもりだ。幸いにも退役金として結構な額が貰えてな、その金を元手にどっかで商売でも始める予定」

 

 どうやら彼は、軍を辞めた様子でした。

 

 彼のまったく信用ならない性格からしても、兵士を続けるのは無理だったでしょう。それで正解だと思われます。

 

 にしても、敵前逃亡した身で退役金まで貰えるとは、本当に運の良い男です。

 

 ガーバック小隊長が気の迷いでゴムージを逃亡兵ではなく、遭難兵扱いで小隊に復帰させたから退職金を貰えたのでしょう。

 

「てな訳で、俺はもうすぐウィンを離れるんだが……。ま、ここで会えたのも良い縁だ」

「はあ」

「おいクーシャ、例のチケット有ったろ。先輩に、渡してやっちゃくれないか」

 

 そんなゴムージが自分を呼び止めた理由は、何やらプレゼントをもらえるようです。

 

 ……一体、何をくれるつもりでしょう。

 

「あー、アレね。まあ確かに、命の恩人ならしょうがないわ」

「チケット、ですか?」

「ああ、家内が見に行く予定だった劇場のチケットさ」

 

 そういって手渡されたのは、何やら豪勢な装飾のチケットでした。

 

 劇場……、成程。首都には、そんな娯楽もあるのですね。

 

「聞いてくれよ先輩、この女は俺がマシュデールで死にかけてる時、暢気に劇場のチケットを予約してやがったんだぜ」

「だってせっかくの首都やし、楽しまな損やろ」

「普通、旦那を心配して食べ物すら喉を通りませんとか、そういう感じになるもんじゃねぇの? なんで当たり前のように観光してやがるんだ」

「だって臨時収入あったし」

「俺が徴発された保証金だろうがそれはぁ!!」

「ちゃうわ、粗大ごみの回収金や」

 

 ゴムージの奥さんはあっけらかんと、そう言って笑っていました。

 

 旦那が死にかけている事を、意にも介さぬその胆力。

 

 なるほど、実はお似合い夫婦なのかもしれません。

 

「明日の公演のチケットだが、俺達はもう今日中に出発する予定だ。家内は残って劇が見たいと寝言をほざくが、もう俺は一秒でも危険な場所にいるつもりはねぇ」

「まぁ、いつサバト軍が引き返してくるか分かりません。なるべく早く、奥地に避難すべきでしょう」

「だからこのチケットは、とっとと路銀がてら売りさばくつもりだったが……。先輩は、まだ首都に残るんだろ?」

「ええ」

「だったらやるよ、コレ。かなりの人気劇団らしいぜ。知り合いに売ろうが、自分で見に行こうが好きに使ってくれ」

 

 ゴムージはそう言うと、苦笑しながら2枚のチケットを手渡してきました。

 

「大人1枚、子供1枚。中途半端なチケットですまんな先輩」

「いえ、ありがとうゴムージ。ちょうど、明日まで休暇をもらって予定も無かったところです」

「おお、そりゃ丁度良かった。15歳までなら子供で通るから、誰かもう一人誘って楽しんできな」

 

 それは、ゴムージなりの誠意だったのでしょう。

 

 彼の性格からして、金銭になるモノを無償で手放すなど考えにくいです。

 

「俺ぁ内心、ヘマをして足を失ったあん時、先輩に見捨てられるに違いねぇって覚悟してたんだ」

「……」

「本当に感謝してる、こんなしょぼいモンで恩を返せたってつもりはねぇ。また何か困ったことがあったら、いつでも力になるぜ先輩。こう見えて俺は、一度受けた恩を絶対忘れねぇんだ」

 

 そう言うと、ゴムージという男は奥さんに背負われたまま、

 

「アンタの無事を、心の奥底から祈ってるぜ、先輩」

 

 そう言って自分と、握手を交わしました。

 

 

 

 

 

 

 

「ゴムージと話は終わったのか」

「ええ。まぁ、相変わらず煩い男でした」

 

 こうして2枚の劇場のチケットを手に、自分はロドリー君の下へ戻ってきました。

 

 ゴムージは戦火の届かぬ、サバト方向と対極の都市まで逃げるつもりのようです。

 

 きっともう自分は、生きて彼に会うことはないでしょう。

 

「彼から貢物を頂きました」

「へぇ、良かったじゃねェか。って、何だそのチケット」

「人気劇団の、公演チケットだそうです。ただこの状況で劇場って、運営してるんでしょうか」

「さーな。……やってなさそうだが、昨日のお祭り騒ぎを見てると再開してる可能性はあるかもな」

 

 最後まで色々と胡散臭い男でしたが、あんな男にも家族が居ました。

 

 奥さんや子供さんは、足を失ったゴムージですら嬉しそうに抱きかかえていました。

 

 自分の判断は、彼女たちの笑顔を守ることが出来ました。

 

 あの日、自分が多少無茶をしてでも彼を助けた事に、ちゃんと意味はあったのです。

 

「ねぇ、ロドリー君。このチケット、2枚組なんです」

「あ?」

 

 それが分かって、ほんの少しだけ、

 

「良ければ明日、自分とデートしませんか」

「え」

 

 少しだけ、嬉しい気持ちになったのでした。


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