TS衛生兵さんの成り上がり   作:まさきたま(サンキューカッス)

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41話

「良ければ明日、自分とデートしませんか」

 

 自分はゴムージから貰った2枚の劇場のチケットを手に、ロドリー君を散策に誘いました。

 

「……」

「どうでしょう」

 

 自分がロドリー君を誘ったのは、何かしらの感情があったからではありません。

 

 単に、他に誘う人の選択肢があまり無かったからです。

 

 アレンさんが実家に帰るなら、自分の知り合いは殆ど軍に残っていません。

 

 マシュデールで一緒に働いた医療本部の人達とは、連絡の取りようがありませんし。

 

 首都にも知り合いがいない以上、今の自分の知己はガーバック小隊の面々だけになります。

 

「んー、まァ良いぞ。劇場かぁ、そこに行くんだな?」

「ええ、営業してたらですけど」

「おいおいお前ら。こんな非常時にデートとはお熱いねぇ」

 

 ロドリー君も特に予定はなかったようで、二つ返事で了解を頂けました。

 

 彼にも、特に照れた様子はありません。アレンさんの冷やかしにも、面倒くさそうな顔を返すのみでした。

 

「デートっつてもなぁ、アレンさん。相手がトウリだしなぁ」

「おや、ご不満ですか」

「いや、その。んー、まぁ確かにデートかァ」

 

 この時、どちらかと言うとロドリー君は自分に対して色々配慮して言葉を選んでいた気がします。

 

 彼は年上好きらしいので(アレンさんからの情報)、そういった意味で自分は対象外なのでしょう。

 

 だからこそ気兼ねなく誘えるのです。変に期待されないのは楽でいいです。

 

「おいおい、女の子に誘われてその反応は失礼だろロドリー」

「いえ、ただトウリは、アレなんスよ。俺ン妹に、もうビックリするほど似た奴がいて」

「妹さんですか」

「そう。ソイツ見た目はトウリにあんま似てないンですが、雰囲気とか口調とか生き写しレベルでそっくりなんで。だから、こう、こいつと話してると妹を相手にしてる感じになってきてなァ」

 

 なるほど。道理で妙にロドリー君と話しやすいと思いました。

 

 彼は、少し寡黙で口下手な自分みたいな人を相手するのに慣れていたんですね。

 

「ロドリー君は、その妹さんに何て呼ばれていたのですか?」

「ロド兄さん、だった。まぁ可愛いヤツなんだが、同時に執念深かったり小うるさかったり」

「なるほど。ねぇロド兄さん、貴方の妹はこんな感じですか」

「やめろ。マジでやめろ、本当に似てるから」

 

 これは面白いことを聞きました。ロドリー君をからかう良いネタに出来そうです。

 

「因みにいくつなんだ、その妹さん」

「今年で12歳くらいだった、と思います」

「なら、3年だな」

 

 そんなしょうもないことを考えていたら、アレンさんはふと真面目な顔になって、

 

「3年って、何がでしょうか」

「もう、国は男女問わず徴兵・動員していく構えらしい。流石に歩兵は男で固めるらしいが、武器弾薬工場には女がドンドン強制就労させられるし、衛生兵や看護兵、輜重兵などには女性兵士の採用が増えるだろう」

「……」

「15歳から徴兵だ。妹を守るためにゃあと3年以内に、戦争を終わらせないとな。ロドリー」

「……そうッスね」

 

 そう、呟くように言いました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、今日は明日のデートに備えて買い物でも行きますか」

「備えて、って何を備えるんだ」

「そりゃあ決まってます。今後の長期任務に備え、持っていける実用品の購入です。ぜひ、予備の衣類や雨具などは手に入れておきたいですね」

 

 アレンさんと別れた後。 

 

 自分はロドリー君と、町の買い出しに出かけることにしました。

 

「それが、デートの何の備えになるんだよ」

「明日に買って回ると、デート中の荷物が凄い事になるでしょう? 今日のうちに必需品を買っておいて、明日は身軽に散策したいじゃないですか」

「あー、そういうことね」

 

 せっかくの首都です。

 

 持ち運びできる荷物には限りがありますが、それでも今のうちに入手できるものはしておきたいです。

 

「買い物はデートじゃねぇの?」

「まぁその辺は言葉遊びなので、深く考えないでいいですよ。戦友に「最後の休日、何をしてたか」と聞かれた際、デートと答えられたら便利でしょう?」

「あー……」

 

 因みにデートという言葉を使った事に、深い意味はありません。

 

 まぁ、その方がお互い戦友に自慢できるから、という理由くらいです。

 

 これでむやみやたらと、新しい部隊でも子ども扱いされずに済むでしょう。

 

「因みにロドリー君。女性とデートのご経験は?」

「……まぁ、お前に見栄張る必要もねェか。ねェよ」

「そうですか。しっかり経験を積んでくださいね」

「うーむ。妹を遊びに連れてったことは何度かあるし、ソレと同じ雰囲気になりそうな気がしなくもないが」

 

 まぁ、自分もそうなると思います。

 

 間違えても色っぽい雰囲気にはならんでしょう。

 

「ま、何でもいいです。どうせなら楽しい思い出を作りましょう」

「そォだな」

 

 それはそれで構いません。

 

 ……次の任務も、生きて帰ってこられる保証はないのです。

 

 ならせめて死にゆく前に、1秒でも多く幸せな時間を作っておきたい。

 

 きっとそれが、自分にとってデートの最大の目的でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、これ。ガーバック小隊長が好きだった銘柄の酒じゃねェか?」

「本当ですね」

 

 昨日はまばらにしか店が開いていなかったのですが、今日はちょくちょく営業を再開している店がありました。

 

 何処から聞きつけたのか、大金持った軍人さんが街で豪遊するらしいという噂が出回っているようです。

 

 それで、小金を稼ぐべく商人たちは店を開き始めたのだとか。

 

「飲めるんですか、ロドリー君?」

「わからん。けど、何かお守りになりそうじゃね? いざという時は中身を捨てて小便入れれるし」

「ですね」

 

 ロドリー君はガーバック小隊長にあやかるべく、その濃いお酒を購入するようでした。

 

 マシュデールへ撤退する時、瓶を持ってなかった歩兵は不衛生な鉄帽に尿を貯めて飲んでました。

 

 そういう意味でも、瓶は持っておくべきでしょう。中身は水にしておくべきと思いますが。

 

「店主。これ、いくらだ?」

「ゴメンネー、ちっと高いよソレ。戦時だから値段は定価の倍貰うヨ」

「うお、高ェ」

「……商魂たくましいですね」

 

 店で提示された値段は、普通ではまず払えない額でした。

 

 元々ガーバック小隊長が好んでいた柄が高価だったのを差し引いても、凄い額です。

 

 どうせ大金持ってるなら毟ってやれと思われたのか、このようにボッタクリな値段設定をしている店はたくさん見受けられました。

 

 その一方で、

 

「おーい、そこの軍人さん達! どうせ酒買うならウチで買いなよ、うちは全品半額セールだ!」

「お?」

「これから命がけで戦ってくれる軍人さんに、アコギな事が出来るもんか! さぁ、おいでおいで」

「コラァ! 営業妨害だヨ、商人会合で摘発するヨ!」

「うるっせぇ、ウチがどんな値段で売ろうと勝手だ! お前こそ、少年兵相手に何をバカやってやがる!」

 

 自分達へ感謝のつもりなのか、普段以上に割引してくれる店も存在しました。

 

 この辺は、個人の考え方の違いというやつなのでしょう。

 

「同じ酒だ、コレだろう? うん、オマケして割る用の水も付けてあげよう。結構濃いから、酒に慣れてないうちは直に飲むなよ?」

「お、おー。ありがてェ、感謝っス」

 

 こちらの店主はなんと、無料で水入りの小瓶も渡してくれました。

 

 こういう時に、人間性というのは出るのですね。

 

 自分にとって損しかないだろうに、大事な商品を安売りしてくれるのには感謝しかありません。

 

「さっきから良い加減にしろヨ! 客を奪うのはマナー違反だロ!」

「軍人さん相手にぼったくる方がマナー違反だ!」

「お前さん店を引き払うから、在庫処分してるだけだロ! 自分だけいい顔しやがっテ!」

 

 自分達は店主に一礼して、店を後にしました。

 

 見れば少しずつ、街に活気が戻ってきています。

 

 この様子だと、明日の劇場公演も期待できますね。

 

 せっかくチケットを貰ったわけですし、中止しないでやって欲しいものです。

 

 

 

 

 

 その後、自分達はひたすら買い物を続けました。

 

「……これで、粗方欲しいもんは買ったかな。乾パン買えたのはありがてぇ」

「瓶詰めされてるので、保存も利きますね。これでもし前みたいな状況になっても、カロリーは確保できます」

「おチビ、お前は妙にいっぱい衣類買ったけどそんなに使うのか?」

「ええ、任務中にどうしようもない時があるんです。下着が血で汚れて破棄せざるを得ない時とか」

「あ、すまん」

 

 1日かけて物資を入手し続けたら、いつの間にやら夕方に差し掛かっていました。

 

 チラホラと商店街に、店じまいが始まっています。そろそろ、お開きですかね。

 

「……お、玩具屋も開いていたのか。最後に寄ってみようぜ」

「はい、分かりました」

 

 ロドリー君は最後に、玩具屋を覗こうと言い出しました。

 

 どうやら、

 

「せっかくだし、首都の良いモンを兄弟に送ってやろう」

 

 ロドリー君は家族に対する、贈り物を買うつもりのようです。

 

 今日明日で使い切れなかった資金と一緒に、家族へ送るのだとか。

 

 自分も、孤児院が焼かれていなければ何かしらを買って送っていたかもしれません。

 

 

 

 

 

 

 店に入ると、所狭しと子供が喜びそうな玩具が並んでいました。

 

 その店は総合雑貨店のようで、玩具だけではなく楽器や絵具など、割と幅広いジャンルのモノが並べられていました。

 

「……これとかどうかな。ウチの弟は、好きそうだ」

「玩具とはいえ、鉄砲を贈るのはどうなんです? 縁起が悪くないですか」

「まぁ、そうかァ」

 

 そのうちの玩具の小銃を手に取って、ロドリー君は悩んだ顔をします。

 

 確かに男の子は喜びそうですが、自分としては子供に銃なんてものを喜んでほしくないです。

 

「妹さん向けに、人形とかどうですか」

「人形なァ、俺は正直人形は何が良いとか分らんのよな」

「自分が選んであげましょう」

「ああ、じゃあ頼む」

 

 ロドリー君には妹さんもいる筈なので、自分は人形を勧めました。

 

 この世界には娯楽が少ないので、小さな女の子は人形1体で無限に遊び続けます。

 

 首都の出来の良い人形を贈ってもらえたら、きっと凄く喜んでくれるでしょう。

 

「……12歳くらいなら、この辺でしょうか」

 

 自分は孤児院での記憶を思い出しながら、よく取り合いになっていた人形を探しました。

 

 やはり、動物系の人形は孤児院でも人気でした。いつも人形入れから無くなっていた。クマのぬいぐるみ等は何処でしょうか。

 

 あれはフカフカして触り心地も良かったので、贈るならその辺の───

 

 

「……」

「どうした、おチビ」

 

 

 自分はふと、目についた人形の一つを手に取りました。

 

 それは、少し奇妙な顔つきで笑う狐の人形でした。

 

「それが良いのか? 何か、顔が気持ち悪いが」

「ええ。この人形は多分、人気商品ではないでしょう」

「おいおい。じゃあ、何でそんなもんを手に取った」

「人気が無くて、孤児院でいつも余ってたので。この狐さんは自分が、芸の練習に愛用していた人形なんです」

 

 

 その狐人形は、自分が良く知っていたものでした。

 

 あの平和な孤児院で、自分は人形で遊ぶ時にはいつだってこの狐を選んでいました。

 

 人気のある人形を独占していると白い目で見られるので、この人形以外を選べなかったのです。

 

 慣れてくるとなかなか愛嬌を感じ、出兵前には自分の一番のお気に入り人形としてずっとそばに置いていたのです。

 

 まさか、こんな場所でこの狐人形に再会できるとは思いませんでした。

 

「ふーん、そっか。……おい店主、その狐はいくらだ?」

「え、ロドリー君?」

「これで足りるか」

「毎度」

 

 そんな自分の感傷を察したのか、ロドリー君はすかさずその人形を購入してしまいました。

 

 自分が何か、口を挟む暇すらありませんでした。

 

「ほらおチビ、持っていけ」

「え、あ、その」

「そんな思い入れがあるなら、良いお守りになるだろ。心の安定剤だ、大事にしろ」

 

 そして購入した狐人形を、そのまま自分の買い物袋に放りいれました。

 

 ……自分も買おうとは思っていましたが、まさかプレゼントしてもらえるとは。

 

「ありがとうございます。ロドリー君」

「気にすんな。グレー先輩なら、間違いなくこうしたからな」

「……確かに」

 

 最近のロドリー君は、事あるごとにグレー先輩の後を追って行動している気がします。

 

 ロドリー君にとっての「格好良い理想の男像」は、きっとグレー先輩がイメージされているのでしょう。

 

 彼は自分に「グレー先輩に似てきた」と言われる度、口ではつれないのですが結構嬉しそうな表情をしています。

 

「大切にしますね」

「あァ」

 

 自分はロドリー君からもらった人形を手に取ると。

 

 彼の目を見てまっすぐ、お礼を言ったのでした。

 

 

 

 

 

 この時ロドリー君に買ってもらった、狐のお人形。

 

 この人形は、今でも自分の大切な宝物として、ずっと手元においています。

 

 たった2日だけでは有りますが、ロドリー君と平和で楽しく過ごせたこの休暇は、自分にとって一生の宝物になりました。

 

 数少ない戦争中の楽しかった思い出として、今日この日まで1度も忘れたことはありません。

 

 

「ロドリー君、贈り物は決まりましたか?」

「そうだな、妹にもその狐人形を送ってやるか」

 

 思えばそれは、とてもとても短い期間でしたが、

 

「では、今日はもう帰りましょうか。夜も遅くなってきました」

「……」

 

 自分やロドリー君が、年相応に楽しく遊ぶ事の出来たかけがえのない休暇だったのです。

 

 もし戦争なんてモノがなくて、平和な世界で友人としてロドリー君と出会っていたとしたら。

 

 こんな平穏な子供時代を、当たり前のように過ごせていたのでしょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー、トウリ? すまんが俺、ちょっと用事が」

「あ、そっか。ロドリー君は今から……」

「いや、その。グレー先輩なら、間違いなくこうするから」

 

 因みに買い物が終わったあと、ロドリー君と途中で別れました。

 

「……男の子ですね」

「いやだって、せっかくのアレで」

 

 どうやら彼はこの後、一人でいかがわしいお店に行ったようです。

 

 まぁ、貴重な休暇ですからね。仕方ないでしょう。

 

 

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