鏡面のシャングリラ~クソゲーストリーマー、神ゲーに挑まんとす~ 作:岩木伊吹
「……ってことがあったんだよ厚木ちゃん!」
「そう、良かったわね陽務さん」
昨日は中々ハードな夜だった。初日からクライマックスすぎて配信終了後もしばらく呆けていたが、寝て起きたらすぐ学校である。エゴサをする時間もなく、感想は帰ってから呟くという旨だけを呟いてから食パンをかじり校舎に向かう。配信者的には厳しい日程であるが、これも社会の試練だと思い返して見た目だけは真面目に授業を受ける。
そんなこんなでやってきた昼休み、私はサンドイッチを片手に隣の厚木さんと話している。年中冬の制服を着ている名に体質を乗っ取られた彼女だが、ネットには強いらしくたまに私の配信の反応について一歩離れたところからアドバイスしてくれる。自分の界隈から離れたところの評価なんて中々見れないし、見たとしても強い言葉のことが多いから掘削が控えめになりがちなので正直助かっている。
「いやーそれにしてもちゃんと神ゲーしてたねシャンフロ。七つの最強種とやらはクソゲーの気配感じてワクワクしたけどそれ以外のクオリティがすさまじかったね~今VRアスレチックやったら最高記録でそうかも。にしても最後に来てくれた騎士さんには悪いことしたなぁ。ちゃんと帰れたかな?」
「帰れたんじゃない?調べてないからわからないけど」
これくらい一方的に喋ってもスマホを片手にほどほどに聞いてくれるから厚木さんといるのは楽だ。全部聞き返されるとペースが乱れるのでほんの少し困る。そしてそれはお互いわかっているのでこれくらいの比率で喋り続ける。配信のコメント反応もこれくらいだしね。なんなら昨日は存在しないコメントに反応してたし「あの、陽務さん、厚木さん」……んにゃ?
そこにいたのは斎賀玲さんだ。お弁当の包みを持って所在なさげにこちらを見ている。
「お、斎賀さんじゃん、座りなよ。今日得間ちゃんは?」
「あ、えっと……今日食堂らしくて。昨日Rainしてくれたみたいなんだけどわたしが見忘れてて、それで……」
「斎賀さんが見忘れるなんて珍しいねー。昨日配信でもしてたの?」
「いえ、あの、えっと、その……」
そういえば斎賀さんにシャンフロの感想を言えていない。せっかく資料を送ってくれたのだ。シャンフロに誘ってくれたのはあの人だが、奴よりも先に忙しい時間を縫って教えてくれた彼女に感謝をしなければ。
「そうそう斎賀さん、一昨日教えてもらったシャンフロなんだけどめっちゃ面白かったよ!でも7つの奴のリュカオーンってのにエンカしていきなり頭と胴に刻印を付けられたのは流石にクソゲーって感じかも?」
「あっそれは良かったで……頭と胴って言いました?」
「え?うん。上半身の装備付けられなくなっちゃった」
何事も無さげに返すと斎賀さんは何か言いたげな、そして悩みの種が増えたようなよくわからない顔をして頬を赤らめながら困惑した目でこちらを見ていた。どんな感情?
「あー……と、その、リュカオーンの刻印そのものを付けられるプレイヤー自体は多い……です。うちのギルドでも付けられた経験のあるプレイヤーはいました。ただ二ヶ所って話は聞いたことが無いんですよね」
「あ、そうなんだ?」
指に付いたパンくずを舐めながら斎賀さんの話を聞く。やっぱりシャンフロの話をしている彼女はいつもより落ち着いて話が出来ているように思える。
「ミッ……あ、はい。そうなんです。なのでサン……陽務さんがどんなフラグを踏んだかはわかりませんが、リュカオーンに気に入られるような行動であったのは間違いないかと思います」
「気に入られる行動、ねぇ……?」
「正直な所、刻印についてはうちのギルドのコネを使って解除することも考えたのですが、多分……陽務さんは余りそういうツテを使うのが好きではないと思いますし、なんなら陽務さんが初めて踏んだユニークの可能性もあるので、ゆっくり判断した方が良い、かと……」
なるほどなぁ。いつ見かけてもシャンフロ配信をしている斎賀さんが言うなら間違いは無いんだろう。当然秘匿されている可能性もあるだろうが、私が配信で映した以上似たような事をするプレイヤーも増えると思われる。
「だとしたらあの騎士の人には悪いことしちゃったかなぁ。クエストも出なかったし、パーティー申請に手間取ったせいで回復とか出来なかったし、先にキルされたせいで大分負担だったろうしで私だけ得しちゃったかも」
「ア、イエ、多分……ウレシカッタのでは、無いですか、ネ……?」
「?」
どういうことだろうか。まさかあの高レベルプレイヤーと思われる騎士の人が私のファンということも無いだろうし……
「いや、流石に無理があるでしょ斎賀さん……」
謎の緊張を破ったのはスマホを弄っていた厚木ちゃんだった。無理?どういうことか聞くために顔を向けるとスマホの画面を見せてくれた。何々?
「『サイガー0サンラクの配信にいて草』『なんでサイガー0がセカンディルにいるんですか(困惑)』『サイガー0、黒狼メンツより先に野良の配信者と一緒に配信外でリュカとエンカして倒されてるのおもろすぎる』……有名人だったのあの騎士さん?」
「まぁ有名人ではあるわね……サイガー0。有名クラン『黒狼《ヴォルフシュバルツ》』のサブリーダーで、配信を通じた広報を担当している。端的な報告書のような配信であるが、その分非常に分かりやすくまとめてあるのが特徴。装備が強すぎるせいで配信中(というより戦闘中)にヘルムを外すことは無いが、姉に負けずとも劣らない銀髪碧眼の美人アバターを使っている、らしいけど?」
厚木ちゃんが詳しく話をする度に斎賀さんの顔色が不明な感情に包まれていく。もしかして……
「
「はいぃ……」
スタミナ空っぽの状態で追加の回避をNPCにさせた時に絞り出されたような声が、
楽羽ちゃんの距離詰めRTA、はーじまーるよー。まずは玲さんの情緒を破壊します。この時恥じらったり控えめにすると友人ではなく限界オタクが産まれるので注意しましょう(三敗)
次回は破壊から。
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