鏡面のシャングリラ~クソゲーストリーマー、神ゲーに挑まんとす~   作:岩木伊吹

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書き溜めが消滅していたので初投稿です


追う鎧、追われる兎、跳ねる猫

 時は巻き戻り、配信開始よりほんの少し前。

 

「『……目が覚めましたか?』いや、こうじゃないですね。『おはようございます、サンラクさん。ようこそ、シャングリラ・フロンティアに。』……いえ、リスポンしてくることも考えるならもっと穏やかに煽らない感じの方が……」

 

 

 最初の街(ファスティア)の片隅で、ぶつぶつと独り言を呟きながら外部ブラウザを開き、せわしなく動く軽鎧の騎士が一人いた。

 

 

 騎士の名はサイガー0。今をときめく人気シャンフロ配信者の一人であり、最前線の攻略クラン『黒狼』のエースプレイヤーである。

 

「今回の目標はサンラクさんの知り合いであることを視聴者の方に知ってもらうこと、ですかね。私が配信してないので偶然を装うことも可能だろうし、何よりサンラクさんから見つけたと誤解されることもないので荒れることも……ない、ですよね……?」

 

 彼女は気付いていない。既に周囲に『あれサイガー0じゃね?』『ファスティアで何してるんだろ』『配信の下見とか?』と気付かれ始めてSNSで拡散され始めていることに。

 

「目指すは定番のコンビ!……は難しいかもしれないので定期的に遊んでも違和感がないくらいの関係になれたら、いいなぁ」

 

 彼女は気付いていない。彼女が昨日楽羽に渡した「ネタバレ無し!シャンフロ配信の基本」にはファスティア(チュートリアル)のことは書かれておらず、この街に寄ることがゲーム的に重要である、といったことも当然書かれていない。つまりサンラクが死亡せず、ここ(ファスティア)に来ない可能性が存在しうるということに。

 

「いつサンラクさんがくるかわからないから配信は流しながらになっちゃうなぁ。集中して観れないのは辛いですけど、この機会を逃したらもう黒狼としての私として応対するしかないですから」

 

 彼女は気付いていない。彼女がこの後配信を観始め、夢中になってその場から微動だにせずに日が暮れてしまうことに。そしてその様子が撮影されGIF画像になりバズることにも。

 

「がんばれ私!どんなゲームも掴みが肝心!」

 

彼女は、気付いていない。

 

 

ฅ^•ω•^ฅ

 

 

 

 時は現在に渡り、跳梁跋扈の森。

 

「包丁落とせえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!」

 

『草』『草』『蛮族?』『顔が迫真すぎる』『草』『作品変わった?』『兎狩りのソロ』『草』『草』『草』『作画担当変わってるんよ』『盗賊でももう少し外面気にするだろ』

 

 そこには兎を追う不審者の姿があった。まぁ私なのだが。

 

 前回の初戦闘から時間が経ち、とりあえずゴブリン以外にも角が生えた兎(アルミラージ)や、ゴブリンと双璧を成すオトナファンタジーの定番モンスター豚頭(オーク)、そして二足歩行の首刈り兎(ヴォーパルバニー)なんてのも倒した。特に最後のヴォーパルバニーは恐らく調子に乗った初心者を狩るタイプのレアモンスターなのだが、まぁ経験値が美味い。昔の人がかの山で兎を追ってたのもきっと経験値稼ぎだったのだろう。

 

 とはいえ、経験値以上に私が欲しいものがある。ヴォーパルバニーが持っているあの包丁である。

 

 ここまで戦ってきたゴブリン、オークはそれぞれ武器を持っており、最初に手に入れたゴブリンの手斧の他に、ゴブリンの棍棒、オークの戦斧、オークの長棍といったそのキャラクターが持つ武器を落としている。

 

 またアルミラージも武器は持っていなかったが投擲武器としてもわずかなダメージが出るアルミラージの角を落としていることから、ヴォーパルバニーだけが例外として持っている武器を落とさないということは殆ど考えられないだろう。ヴォーパルバニーが持つ包丁もドロップすると断言してもいい筈だ。取り回しも良さそうな大きさ、形状であるし最序盤のメイン武器として欲しいと思って積極的に探していた。

 

 その上でだいたい70匹ほど狩ったと思う。

 

 結果?さっきの発言でわかるでしょう?ゼロですよゼロ。

 

『はい76体目』『包丁こんな出なかったっけ』『草』『悲しい』『クソゲー?』『76』『包丁出たら教えて』『作業配信だっけこれ』『初見プレイ一日目の姿か?これが……』『運命力ぅ……ですかねぇ……』『草』『76!?』

 

 そうこうしているうちに跳梁跋扈の森の奥深くに入ってしまい、今では最初の街とされるファスティアではなく、二番目の街であるセカンディルに近い場所まで来てしまった。

 

「いやぁここまでくると逆に出ないでほしい気がしてきますね。まぁ欲しいので出るまではこの辺で狩りを続けますが」

 

 

 その後草むらに隠れては兎を目掛けて飛び出して首を狩るということを繰り返して30分後。

 

 

「やっと……出た……」

 

 

致命の包丁(ヴォーパルチョッパー)

 ヴォーパルバニーが持つ「致命」シリーズの中でも最もポピュラーな武器。餌食となった者達の血を吸ったかのように赤黒い刃を携えている。クリティカル攻撃に成功時、ダメージに補正が入る。

 

 

「ポピュラーならもっと早く出て欲しかったなぁ……」

 

『88888888』『優秀ではあるから(震え)』『記録は138匹でした』『首狩り兎の首を狩る山賊』『おめ』『勝ったな、風呂入ってくる』『おめでとうございます!』『哀愁』『おめ』『おめ』『おめ』『再走まだ?』『おめ』

 

「さて、流石に一区切りついたと思うのでVRゲームの規定通り15分ほど休憩取ろうと思います。一旦セーブするためには、ここからだとセカンディルが近いらしいのでそちらにむかおうと思いま『エリアボス:貪食の大蛇 と遭遇しました』……はぇ?」

 

 気を完全に抜いて歩いていたが、気が付くと景色は森から外れ、そこにあったのは見事な渓谷とそれを繋ぐ吊り橋。そして吊り橋を塞ぐように立ち塞がる大蛇。彼、あるいは彼女は、舌をチロチロ出しながら次の街へ向かうプレイヤー(わたし)をじぃっと見つめていた。

 

「あーっと……ちょっと見逃してそこを通してくださったりは……」

 

「キシャアァァァア!!!!!」

 

「しませんよねぇ!?戦闘開始します!」

 

 全く心もアイテムも用意をしていない状態で、私のシャンフロプレイ初めてのボスとの闘いが始まった。





鏡面に映された彼女が目を焼かれた太陽は、楽しみにして駆ける彼の横顔ではなく、楽しんで翔けている彼女の翼であった。


因みに2年ROMってたしその後の垢分けも完璧だった。インターネット技能+30、その他の言語(インターネットミーム)+10


「ネタバレ無し!シャンフロ配信の基本」
斎賀玲が作成した冊子。定期的に更新されており、誰にでも見せられる内容となっているし知り合いに渡したこともあるが、本当に渡したい相手はシャンフロを絶対にやらないクソゲーマニアだったので封印していた。

あなたのシャンフロはどこまで?

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