恋の雪   作:敷き布団

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最終譚(エピローグ)

季節は瞬く間に移り変わり、気がつけば私はもう高校すら卒業してしまって、新しい舞台に踏み出してから、さらにもう何度目かわからない冬を迎えていました。

あのクリスマスの夜以降も、私の生活は何一つ変わることはなく、強いて変わったことをあげるとすれば、セツナさんとやりとりをすることもなくなって、アイドルとして、Pastel✽Palettesの1人としての活動に集中していたことぐらいでしょうか。

 

余談ではありますが、あのクリスマスライブは大成功のうちに幕を下ろしました。トナカイに扮したツグミさんは、流石Afterglowのキーボードとも言うべきか、類稀なる力を発揮して、その正体がバレることもなくぶっつけ本番を乗り切り、観客のアンコールに見事応えていました。私が後日お礼のために羽沢珈琲店へ向かい、何度もお礼を言っていたときのツグミさんの言葉が印象に残っています。

 

『イヴちゃんがすっごく頑張って、悩んでたのが分かったから。応援したくなったんだよっ』

 

そんな言葉に励まされた私は、ますますこのお店のことが好きになりました。ちなみにですが、ツグミさんの居ない、聖夜の羽沢珈琲店はマスターと紗夜さんが切り盛りしてくださったそうです。あとで2人にもしっかりお礼をしておきました。

それから、どうやらツグミさんをクリスマスライブで私の代わりに、出る要員としてお願いをしていたのはチサトさんだったみたいです。ツグミさんに教えてもらって、チサトさんにもお礼を言いに行ったのですが、『何のことだか分からないわ』とはぐらかされてしまいました。だから私は一杯ハグをしておきました!

 

そんなわけで、怒涛のクリスマスイヴが過ぎ去って行き、気がつけば季節を幾つも踏み越えて、また冬に片足を突っ込んでいました。冬とは言ってもまだ初冬で、まだ雪も今シーズンは降っていませんでした。

そんな寒くなり始めたこの時期に、私は何故かツグミさんに呼ばれて、いつかの空港に来ていたのです。

 

「あっ、イヴちゃんいたいた! おーいっ!」

 

「あっ、ツグミさん!! お久しぶりです!!」

 

私は待ち合わせ場所の大きな案内ボードの前でツグミさんと落ち合いました。

 

「ごめんなさい、遅れてしまって」

 

「ううん、いいんだよっ。まだまだ時間はあるし」

 

ツグミさんの案内で、空港の中を色々まわりました。あの夜は正直空港の中にあるお店だとか、そんなものに気を回す余裕なんてものはなく、セツナさんをお見送りした後はすぐに帰って、ライブ会場の様子を見に行きましたから。

 

「結構いろんなお店があるんですね」

 

レストラン街などの食べ物屋さんや外貨両替のお店なんかはもちろん、百円均一や珍しいものではインテリアのお店なんてものまであります。

 

「一つのショッピングモールみたいだよね」

 

「見ているだけでも楽しいですっ」

 

そうしてウィンドウショッピングを楽しんだ私は、何故かツグミさんの手を引かれて、空港内を歩きました。

 

「ツグミさん、どこに向かっているんですか?」

 

「イヴちゃんを連れて行きたいところがあってね」

 

広々とした空港内。清潔感のある建物の中は多くの人が行き交っていて、スーツケースを転がしてこれから遠出をしそうなビジネスマンや、家族旅行に出かけそうな一家の姿、様々な人がここにはいたのでした。

 

「連れて行きたいところ、ですか?」

 

「うん……、ここだよっ」

 

私が連れてこられたのは空港のかなり真ん中にある広場のようなところでした。目の前には大きなガラス張りの自動ドアがあって、ここから空港は三方へと大きな通路が続いていました。

 

「一体何かあったんですか?」

 

私がツグミさんに問いかけていると、場内のアナウンスが流れてきました。どうやら飛行機の発着について色々と言っているようですが、それらも私たちと関係があるようにはとても思えませんでした。

 

「……うん、きっと待ってればわかるよっ」

 

「そうですか?」

 

ツグミさんに言われた通り待つこと、5分弱、目の前のガラス張りの奥から多くの人がこちらに歩いてきました。

 

「あれって……」

 

「丁度飛行機が着いたとかかな?」

 

私は無意識にその流れてきた人の顔を一つ一つ、見ていました。どういうわけか分からないですが、なんとなく、心臓が、あの雪の夜のようにドキドキしたのです。

 

「あっ、あそこだよっ」

 

「えっ?」

 

ツグミさんの指差す先、人混みの中から、掻き分けてこちらに向かってくる人。

それは、私が会いたくて、会いたくて、けれど、遠くへといってしまって、遠くにいてもお慕いしている、大切な人でした。

 

「……うそ」

 

「こんにちは。イヴちゃん」

 

その瞬間わかりました。どれだけ遠く離れていても、考えないようにしていても、いつのまにか考えて、向こうでも無事かなだとか、頑張ってるかな、だとか考えていて、それはきっとこの人が大切なんだからって。諦めたくなくて、必死に追いかけて、待ち続けて。

 

「……セツナさん?」

 

「……ただいま。イヴちゃん」

 

「セツナさん、セツナさんなんですかっ?!」

 

私はあの夜を、一年以上、もっと前のあの夜を思い出すように、抱きしめました。あの頃と何も変わらず温かくて、クセになりそうなほどに愛おしくて。

 

「……ずっと、ずっと、待ってたんですからねっ」

 

「うん。……お待たせ」

 

「……セツナさんっ」

 

人目を憚ることもなく、私はまた、あの時のように口づけを交わすのです。

これが、私の、初恋の雪が叶った瞬間でした。

もう何度も夏を越しましたから、あの時の雪はすっかり溶けてしまって。溶け残りすらないでしょう。

 

 

けれど、また、新しく今年も雪が降りました。

 

そして、私は雪が降るたびに思い出すのです。

 

何年経っても、何十年経っても、思い出すでしょう。

 

 

あの日降った、恋の雪を。

 

聖夜が魅せた、恋の雪を。

 

 

 









これにて『恋の雪』完結となります。
短い間ではありましたが、最後までお読みいただきありがとうございました。

それでは皆様、メリークリスマス!
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