主要(かつ私の好き)なハリウッド映画をクロスオーバーさせつつスパイ版アベンジャーズみたいなのを目指します。
なるたけ毎日投稿し、3部構成での完結を目論んでいます。
また、一応の配慮として前書き(ここ)で、イメージ補完のために登場人物と、その配役、および登場車両の名前を挙列しておこうと思います。
知ってる方はイメージしやすいですし、知らない方は読む前にググっていただけると、雰囲気つかみやすいかもしれません。
今話の登場人物/車輌
・ドミニク=トレット(ヴィン=ディーゼル)─ワイルドスピード
・エメット=ブラウン(クリストファー=ロイド)
─バックトゥーザフューチャー
70年式ダッジチャージャー『タントラム』
DMC-12デロリアン(タイムマシン仕様)
チャプター1.
The power of love is a curious thing
愛の力って不思議なもんだ
Make a one man weep, make another man sing──
ある男を泣かせ、またある男を歌わせる
2021年、春。
荒野の真ん中を貫く一本のハイウェイ。砂煙を上げながら獅子の唸りが如くエンジンをかき鳴らし、一台の黒い車が疾駆する。
70年式ダッジチャージャー″タントラム″。オーナーによってレースにも耐えられるスペックへカスタマイズされたアメリカマッスルカーの代名詞がもたらす"疾さ"は、獅子というよりも、狼のそれである。
しかし今や狼は鳴りを潜め、オーディオから些か古いアップテンポな曲を垂れ流している。
助手席には紙袋に入ったビンに缶にペットボトル。
速度メーターは既に100km/hを超えているが──まだまだ大人しい。
You don't need money, don' take fame
お金も名声も必要ない
Don't need no credit card to ride this train──
この列車に乗るのにクレジットカードも必要ない
クラッチを蹴りつけ、シフトレバーを5へ押し込んで入れ換えにアクセルを吹かす。
ダッジチャージャーは気高い嘶きとともに、その脚をますます速める。
乗り手は、禿頭の大男。
優しげな双眸とは裏腹に、隆々に鍛え抜かれた豪腕でもって、狼男をねじ伏せる暴漢じみた覇気を持つ男は、スッ、と目を細めるとさらにアクセルへ負荷をかけた。
That's the power, that's the power of love
それが愛の力 愛の力ってやつなんだ
You feel the power of love
君は愛の力を感じる
You feel the power of ──
その力、愛を感じ──
オーディオが乱暴に切られる。ここから先の領域に、不要な雑音はいらないとばかりに。
時速は既に150km/hを超えている、しかしまだ足りない。まだ遅い。
その男───ドミニク=トレットという男は、どこまでも貪欲に『速さ』を追い求める、そんな男であった。
160、165、177、180──もうすぐ190km/hへ差し掛かろうと言うとき。
ドミニクは何よりもまず、反射的にブレーキを踏みつけハンドルを切っていた。
爆発。目の前が直後爆ぜた。
滑る後輪をハンドルを戻して御しきり、すかさずシフトを5へと押し戻す。
僅かに減速したダッジのすぐ横で二度目が爆ぜ、三度目が炸裂した瞬間、ナニかが隣で走っているのに気がついた。
それはシルバーの平たい車だった。しかしドミニクは眉を上げた。今の今まで、車は自分一台しかいなかったはずだ。
なぜ今『最初からそこにいた』かのように車が走っているのだ?
「なんなんだ....」
その呟きには様々な意味がこもっていた。第一に、謎の車が190km/hは越そうかという加速度のダッジを、尚追い抜いているこの状況そのものもに。
そしてどこから、いつ現れたのかという困惑。
そしてなにより自分の前を走る、その車の姿の珍妙さにだ。
自分の記憶が正しければあれは間違いなくDMC-12、デロリアンだ。
しかし目の前の車は自分の知るデロリアンからは程遠い見た目をしていた。
車体後部、エンジンボンネットがあるはずの部分は謎の金属モールドに覆われ、車体後部には二本の排気口が大きくせり出している。
さらには車体の横には金属板を走らせ、配線をそのままくっつけている杜撰振り。
どうみてもレースカスタムとしては無駄の多いアクセサリーの数々に、生粋のレース屋として車を弄ってきたドミニクには困惑以外の感情が沸いてこない。
新手のUFOマニアか?とその改造を評したドミニクだが、デロリアンのブレーキランプが瞬いたことでその思考を中断する。
二度、三度瞬いて、今度は点きっぱなしになる。しかしおかしい。
このデロリアン、一向に減速している様子がない。
不意に視線を下に向けると、何かがデロリアンから垂れ流されているのか、一本黒い線が路面に走っている。
ブレーキオイルが漏れている。
静観している場合ではないと、即座にアクセルを踏み込んで203km/hで暴走するデロリアンに並ぶ。
銀と黒、二台の車が砂埃すらも置き去りにする速度でアスファルトを駆け抜け、一本の黄色い標識の脇をすり抜けた。
標識には、掠れた文字でこうあった。
『減速せよ この先渓谷あり』
ドミニクは窓を開けて叫ぶ。
「おい!アンタ!止まれないのか!?」
運転席ではテンガロンハットを被った白髪の老人が何事か喚きながらブレーキで足踏みしていた。全く声が聞こえないが、聞くに耐えない罵声なのは間違いない。
カウボーイかぶれの老人が魔改造車を暴走とはますますもって笑えない。
ドミニクはため息をつくと、ハンドルを軽く横へ切る。
デロリアンにぶつけたのだ。その衝撃でようやく並走車の存在に気づいたのか、老人はギョロ目を大きく見開いてこちらに顔を向けてきた。
「窓を開けろ!」
ドミニクは人差し指を下に向けて叫ぶ。
意味がわからない、と老人は手振りで示した。
「窓を、開けろ!」
今度はパワーウィンドウを指差して、はっきりと叫ぶ。
きょとんと首をかしげた老人だったが、やがて得心がいったのか、ああ!と大きく口をあけると、こちら側の窓を開けてくれた。
「止まれないのか!」
ドミニクが叫ぶと、彼よりよほど通りの良い声が返ってきた。
「その通りだ!ブレーキが故障して減速できん!この先はイーストウッド渓谷だったな!?」
「ああそうだ!その暴れ馬をとっとと宥めろ、カウボーイだろ!」
「それが出来んから苦労しとる!そして私の計算が正しければこのままいくと二人揃って真っ逆さまだ!なんとかならんか!?」
そのテンガロンハットは飾りか老いぼれめ、と内心毒づく。
ブレーキオイルが抜けていては、まずペダルは使えない。
次にあるのはサイドブレーキ、そしてエンジンブレーキ。最終手段として段飛ばしクラッチでオーバーレフを起こしてスピンさせる方法もあるが、外は荒野から崖際の峠道に差し掛かって車幅が狭くなりつつある。ここは強引にも確実に押し止めてやるべきだ。
「サイドブレーキが使えるか試せ!アクセルから脚を離して、ハンドルをまっすぐ向けたまま、サイドを一瞬引け!」
「わ、わかった!やってみよう!」
ややもたついて老人はデロリアンのサイドブレーキレバーを思い切り引く。
ギキィ!と不愉快なブレーキ音と共にデロリアンが僅かに後方へ流れる。
前へ押し出されたダッジがすぐさま減速し並んだ。
既に車線は片側一車線の崖際の峠道だ。一瞬でもハンドル操作を誤れば即座に振り落とされる。
ストレートも終わり近く、猛スピードで並走するデロリアンとダッジの200メートル先で道が左へ折れて姿を消している。あそこで止まれなければ即ち死だ。
「俺が合図したら、ハンドルを左に切って、同時にサイドブレーキを引け!車が横を向いたらハンドルをまっすぐに戻せ、いいな!?」
「ハンドルを左に切り、それからサイドを上げ、横を向いたらハンドルを戻す、そうだな!?」
「あぁその通りだ、物覚えが早くて助かるぜ!」
「私はこう見えてまだ50代だ!それを年寄り扱いとは!」
「開拓魂を忘れられないくせによく言う...いくぞ、3、2、1──」
崖まで残り70メートル未満。
「0、今だ!」
老人があわててハンドルを左に切り、サイドを引き上げる。
デロリアンはRR(リアエンジンリアドライブ)車だ。つまりエンジンも、駆動輪も後輪にある。
そこでサイドを引いてタイヤをロックして左に向ければ、車体はいとも簡単に振られ、車体が滑る。
その挙動にあわせて、ドミニクはクラッチを蹴りつけてシフトを4、3、2へ切り替えながら、クラッチと入れ換えにブレーキを踏みつけ、自らのダッジも左へと流し、サイドを引く。
デロリアンとダッジ、両者が同時に左へ向かってスピン、道に対して真横に滑る形へと変わる。
黒々しいタイヤ痕を引きずって、崖までの60m、落ちるか止まるかのチキンレースが始まった。
「こ、ここ、これで良いのかね!?本当に!?」
老人はおそらく生まれてこのかた一度も無茶な運転をしたことがないのだろう。狼狽えきった声で喚いている。
ドミニクはそれには応じずにステアリングとブレーキ加減を捌いてなんとかこれ以上デロリアンが回らないようにしながらブレーキをめい一杯踏みつける。
まだ車は止まらない。
デロリアンとダッジの間で火花が散り、金属板が削り千切れて後方へと投げ飛ばされ、崖下へと落ちていく。
横っ腹を向けた二台の車が崖に向かって一直線に。
10mを切り、6を切り、5を割っていよいよアスファルトから砂利へ路面が変じたとき。
もうもうと砂煙を噴き上げて、デロリアンとダッジは瀬戸際ギリギリにて停車した。
崖までは、僅かに50cm。ダッジのタイヤに押し出された拳大の石ころが、遥か眼下の川へと落ちていく。着水音すらなく、静かに水面へ消えていった。
危なかった。
久々に感じた命の危機に嘆息したドミニクは呼吸を落ち着けながら、車を降りる。
振り返ると、同じくガルウィングを引き上げて、運転席の老人が降りてきたところだった。
「いや、すまなかった若者よ!メンテナンスが悪かったようだな、まさかブレーキオイルとは!私としたことがとんだケアレスミスだ!」
「ずいぶん元気そうだな爺さん。西部趣味かSF趣味かハッキリしないからこういうことになる」
「SFは好きだが趣味ではないぞ!これはれっきとした科学的考証に基づいた機材配置だ!それより、命を救ってくれてありがとう、ミスター....あー、名前はなんだね?」
「.....あぁ、俺はドミニク。ドミニク=トレットだ。アンタは?」
ドミニクは苦笑いを浮かべて手を差し出す。
勢いよく、力強くその手を握り返した老人は、テンガロンハットを押し上げて、こう名乗った。
「トレットか。ありがとう、ドミニク=トレット。私はエメット=ブラウン、こう見えて物理博士だ。まぁ気軽に『ドク』とでも呼んでくれたまえ」
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