ワイルド・スピード/X(クロス)ファイア   作:タチガワルイ

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遅くなりましたァァァァ!!!

車に無知なヤツが車について書こうとすると問題になるものがあります。まずは、知識。次に経験、そして三つ目は想像力。
どれもなかったので、ゲーセンに走り、ゲームを買い、カーセ○サーを覗いて情報収集してるうちに2日も延びてました。

というわけで頭文字Dvsワイルドスピード、過去最大ボリュームの激戦となりました!!
間違い、無知晒してたらどうぞ容赦なく感想でツッコミいれてください、お願いします!!!!


登場人物
ワイルドスピード
・ドミニク=トレット(ヴィン=ディーゼル)
・ジゼル=ヤシャール(ガル=ガドット)
・ショーン=ボズウェル(ルーカス=ブラック)

バックトゥーザフューチャー
・エメット=ブラウン(クリストファー=ロイド)

頭文字D
・藤原拓海(CV.三木眞一郎)
・高橋涼介(CV.子安武人)
・武内樹(CV.岩田光央)

登場車両
・クライスラーダッジ・チャレンジャーSRT8 2010年式
・トヨタ・GR86 NB8 RZ








チャプター13.

秋名山頂上のパーキングエリア前に、二台の車がエンジンを吹かしながら並んでいる。

今回はまさに『異種格闘』にふさわしい対戦カードだった。

 

一台目、クライスラーダッジ・チャレンジャーSRT8 2010年式。

見るものを威圧する艶のない漆黒に塗られた角張った巨体は、アメ車、マッスルカーの名に相応しい威容を放つ。

800馬力のモンスターエンジンがもたらす加速力は、ストレートではまさに神速だ。

だがそのままコーナーに突入すれば間違いなく車はお陀仏になるだろう。特に秋名山になのようなストレートからのヘアピンが連続するような場所では、その長所が活かせる場所は限られている。

 

対する二台目は、トヨタ・GR86 NB8 RZ。

白と黒のツートンカラーに塗り替えられた流線型で低く、小さな車体は藤原拓海がプライベートで使役する、『峠を攻める』ための車だ。235馬力と、隣のマッスルカーと比べればかなり非力なエンジンのため、最高速度はでない。しかし真価を発揮するのはコーナーだ。急カーブをより速く駆け抜ける、峠はそれで勝負が決まると言って良かった。

しかし、今回はそうはいかない。ストレートでぶっちぎられては、いくらコーナーで速くても相手は先に先にと行ってしまう。

 

"秋名/下り/夜"というコースに於いて最高の車86と、最強のドライバー藤原拓海。

相手はアウェー中のアウェー。

しかし、相手もまた"ダッジ"という車に於いて最強のドライバー、ドミニク=トレットだ。

 

「....普通に考えりゃ、拓海の圧勝、ですよね.....」

 

この騒動の張本人であるイツキは、そう隣の涼介へ伺いを立ててみるが、涼介は目をつむったまま答えない。

 

「.....あのー、」

 

「拓海が出るべきじゃなかった」

 

帰ってきたのはそんな一言だった。

噛み締めるような、圧し殺すような声だった。

 

「アイツはもう、プロなんだ。不祥事は許されない。俺が出ると言ったのに.....」

 

「けど、この峠でアイツより速いヤツはいませんよ」

 

「だからだっ」

 

涼介は静かにイツキを一喝した。

 

「だから万が一あいつが負けた時、それは彼の弱味になる。俺が出れば、勝てばそれで良し、俺が負けても、車探しは....こっちの知り合いを何人かあてがえばそれで済む」

 

これはエキシビションマッチ、余興なんだ。

なのに拓海が出てしまえば。

 

「....これでは頂上決戦じゃないか」

 

涼介の苦々しい呟きをよそに、女が二台の前に立つ。

エンジンを唸らせるダッジと86をみやって、右手を高く挙げた。

 

「3!」

 

群衆が3!と復唱する。

 

「2!」

 

2!の復唱が車内にもくぐもって響く。

呼応するように、二台の車の咆哮も太く、高く嘶く。

 

「1!」

 

最後のカウント。

この場にいる全員の緊張が最高潮に達する。

そして宣告は為された。

 

「──GO!!」

 

女の右手が振り下ろされると同時に、二台の車が飛び出した。

 

先行するのは当然と言えば当然の、ダッジ。

馬力にものを言わせてあっという間に150km/hを叩きだし、拓海の86を引き離しにかかる。最初のカーブまでは比較的緩い曲線を描く直線が続く。

僅かでもステアリング操作を誤れば即座にガードレールに激突するが、そんなヘマをするドミニクではない。

彼は、ハンドルを捌きながら、出走前のショーンとのブリーフィングを思い出していた。

 

 

「相手は、プロだ。それも、WRCに出るような本物のラーリストってやつ」

 

「速いのか」

 

「当然だろ」

 

ショーンはタブレットで電子版の新聞を見せる。

そこにはトロフィーを掲げる藤原拓海の写真が印刷されていた。

 

「アイツはイギリスで凄腕ラーリストとして有名なヤツだ。あだ名は...これ」

 

見出しの文字をドミニクが追う。

口からその名が漏れた。

 

フライング・ジャン(空飛ぶ日本人)....」

 

「それで、彼の出身地は...ここだ」

 

ドミニクはタブレットから顔を上げる。風のざわめき、遠くで響くフクロウの嘶き。

 

「....ここが、彼のホームか」

 

「そういうこと。彼は...このコースを知り尽くしている。対して俺達は」

 

タブレットは新聞から衛生写真に画像が切り替わっていた。

 

「情報は、これだけ」

 

「勝てるのかね?」

 

エメットが目を剥いてドミニクに詰め寄る。

ドミニクは無言で地図に目を落としたままだった。そこに、横合いからもう一枚のタブレットが差し出された。

 

「相手の車のスペックよ。馬力は約235、最高速度はカタログスペックでは230km/hらしいわ。ただブレーキはproject μ のFORGET STEEL cariper 4Pistons×2Pads FS4M。

ホイールはLAYS VOLK。サスペンションはexmotion...覗いただけだからそこまでしか分からなかったけど、足回りはかなり手が入ってる。エンジンも変わってるでしょうから、かなり速いし、曲がるわよ」

 

差し出したのはジゼルだった。タブレットには数名の写真が。ホイールやその奥のブレーキドラム、サスペンションなどが撮られていた。

ドミニクは思わずジゼルに尋ねた。

 

「....調べたのか?この短時間で?」

 

「調べるのが私の仕事、でしょ?エンジンは分からなかったけど、おそらく.....」

 

「ボルトオンターボ。峠を攻めるならそれしかない」

 

ドミニクの出した結論にジゼルは無言で頷く。

対する気が気でないのはエメットだ。

 

「君のダッジは高馬力、高トルクで直線加速に特化しておる。早い話が、ドラッグマシーンだ。曲がれるのかね?」

 

「曲がるさ、俺のダッジなら....だが」

 

認めざるを得ないだろう。ドミニクはため息を共に吐き出した。

 

「.....あの86のほうが、速く曲がるだろうな」

 

 

緩いカーブをグリップを効かせながら滑り込み、ダッジは最初のヘアピンに差し掛かる。車一台分の隙間を開けて、後方から86が追ってくる。

ドミニクは素早くすべての操作を終わらせてダッジの後輪を滑らせ、ヘアピンを外側のガードレールギリギリをドリフトしていく。

ダッジでは、それが限界だ。

その限界が、レースでは露骨に現れてくる。

ドミニクにとっては一瞬だった。

眼前を、朱いラインが横一文字に疾る。

ヘアピンをぬける。

ダッジの前に、一台の車がいた。

白と黒のツートンカラー。峠を最速で駆け抜けるために創られた86だ。

ドミニクは歯噛みする。

一回のヘアピンでこれだ。先行する86をにらみながら、アクセルを踏み込む。

86はダッジの進路を塞ぐように僅かな蛇行を描く。

既に双方の時速は160km/hを越えていた。

得意のストレートを塞がれたダッジと、弱点であるストレートで負けないように走る86。

両者の位置関係は逆転しないまま、第二のヘアピン、S字のヘアピンを駆け抜ける。

 

舞台は長いストレートへと移った。

 

ダッジは、進路を塞ぎ続ける86に着実にプレッシャーを与え続ける。

ダッジが右に車体をずらせば、86は慌てて右へ、左へ切れば左へ。

拓海はダッジの進路を塞ぎながら額から垂れる汗を拭うことすら出来ないままハンドルを操る。

煽られている。そう自覚していた。

この86の最高速度は260km/hを越える。

峠でも170km/hは安定して出せるが、相手のダッジはそれ以上だ。抜く気になれば即抜ける。相手は待ってるのだ、こちらが"疲れる"

のを。

 

「イヤな相手だ....」

 

拓海は出走前の涼介とのやり取りを思い出しながら、そう呟いた。

 

 

「──俺が走ります」

 

「ダメだ」

 

拓海の一言を、涼介は冷ややかに断ち切った。

 

「お前はプロだぞ。お前が出れば、これは『余興』じゃなく『決戦』になるんだぜ。希代の天才ラーリストと、アメリカのストリートレーサー。異種格闘って面じゃこの上ないワイルドカードだ。どう転んでも、ろくなことにならねぇよ」

 

「.....それってつまり」

 

涼介の言い分に拓海はいつもの冷ややかなトーンで言い返した。

 

「俺が負けるって、思ってますか?」

 

「違う。俺が負けても地方の走り屋の余興で話が終わる、そう言ってんだ」

 

拓海に非公認のレースをやらせること事態が既に不味い。なのに....涼介は拓海の瞳を見た。

ああ、ダメだと思う。

 

「秋名のダウンヒルは見せ物小屋じゃありませんよ。....俺なら勝てる。そうすれば、アメリカのヤンキーもこの山には来なくなります。それで万事解決だ...違いますか?」

 

──もう既に、"灯"が入っちまってる。

こうなったらコイツは何言っても聞かない。

 

「....負ければ不祥事だ。お前の経歴が汚れるだけじゃない。下手すれば、スキャンダルだ。レース生命が終わる。分かってるのか」

 

「分かってます。それと同じくらい....『プロジェクトD』がアメリカのチンピラに負けた、そんなニュースは晩酌汚しに他ならなりません。.....あの伝説は、俺の原点です。それが誰かも分からない車に、よりにもよって秋名が引っ掻き回されるのは我慢ならない。

それに──」

 

拓海は不意に上を見上げた。風のざわめき、遠くで響くフクロウの嘶き。

懐かしい、秋名山の音だ。

 

「───この山で勝つなら、俺がいいんです」

 

涼介は低く唸ったが、諦めたように嘆息した。

 

「.......必ずぶっちぎれ。それ以外の結末は許されないぜ」

 

「当然です」

 

 

はっ、と拓海の意識が返ってくる。考え事に沈みすぎるとは。思考の隙間は0.1秒にも満たなかっただろう。

だが、その隙が致命的だった。拓海はルームミラーを覗く。いない。ヘッドライトが、ない。

咆哮が左からつんざいた。

ぎょっとする。まさか。

そのまさかだった。

ダッジだ。その向こうで、ドライバーが──ドミニクがいた。

86と、ダッジ。

二台の車が、ストレートで並んで疾駆する。

しかし競り合いはほんの一瞬だった。

黒い巨体が前へ出る。

86もアクセルベタ踏み、最高のギアまで入っている。にも拘らずダッジはその先を悠々と行く。それが800馬力の持ち味であり、代名詞であった。

緩いS字のカーブを190km/h超に加速したダッジが斜めに滑る。

折り返しを抜けると、その差が再び開き始めた。

小さくなっていく86のヘッドライトにドミニクはほくそ笑む。

次はヘアピンだが、ここまで距離が離れれば早々に抜かれることはない。

ダッジの巨体では60km/h近くまで速度を落とさねば曲がりきれない。

強くブレーキを踏み、シフトも落として着実に攻めていく。

外側のガードレールギリギリまで膨らむ豪快なドリフトで沸く観客を置き去りに、ダッジが走り去る。その後を拓海の86がインコーナーギリギリを最速で駆け抜けていく。

 

立場が完全に逆転したまま、中盤戦を突入する。

 

拓海は歯噛みしていた。

これほど馬力に差があるバトルをするのはいつぶりだろうか。

思い起こされるのは、初めて『走り屋』とバトルしたあの夜。啓介のRX-7をハチロクで抜き去った。

連鎖的に、彼は思い出す。

ストレートで差をつけられるが、コーナーではこちらに分がある。奇しくも、条件すら同じだ。

であれば───仕掛けられるのは、最早アレだけだ。

 

溝落とし。

5連ヘアピンの側溝にタイヤを嵌めてインコーナーを駆け抜ける。

だが、それを仕掛ける為には──この差を縮めなくてはならない。

ついてきてくれよ、86。

祈るように拓海はアクセルをさらに強く踏み込んだ。

 

ドミニクはルームミラーをにらみながら、目を眇める。ある一定の距離から離されなくなった。

先ほどから続く緩急のカーブを、ドミニクはブレーキングを駆使して流していた。

初見での判断力が高いとはいえ、既に峠は中盤、さらに下りで、夜だ。如何なドミニクと言えど、初めて走るコースで調子にのってスピードを出し過ぎればどうなるかは知っている。それ故に、ストレートは最高速で、コーナーは減速ドリフトで車を制御できるように走らせていたが、どうやらそれが仇になったらしい。

86が、追い付いてきたのだ。ほぼ全く減速しないフルスロットルのドリフトで。

 

これでは並ぶのも時間の問題だ。しかも間の悪いことに、次のカーブはヘアピン、その後の少しの直線はあるものの、5連のヘアピンが続く。ダッジにとっては減速レーンに等しい。

負けるわけにはいかない。ドミニクは確実を捨てることにした。

一気に強くアクセルを踏み抜く。

ダッジがぐん、と加速し、ヘアピンへ迫る。

ヘッドライトはまだ遠い、しかし油断も出来ない。

カーブという名の壁が迫る。

ダッジはかなり早い段階で後輪を滑らせ、斜めに車体をズラした。

 

慣性ドリフト。ほとんど反対側へハンドルを切らずに、荷重移動とアクセル加減だけで車体を制御しながら、100km/hオーバーで180°ターンする急カーブに挑む。

ダッジが膨らむ。当然だ。重く、速い車は曲がるだけで遠心力に振られる。

 

だからドミニクは今まで減速させていた。それをやめた以上、ダッジは更に外へと膨らむしかない。ダッジの後部が、ガードレールを──僅かに擦った。

その衝撃が合図だった。ドミニクは恐ろしい速度でハンドルを切り、アクセルを全開にする。下手をすればスピン、そのまま転落もあり得たのに、奇跡は起こされた。

ダッジは凄まじい素早さで体制を建て直し、死のヘアピンを駆け抜けた。

ドミニクは静かに嘆息して、ルームミラーを見る。

ヘッドライトはない。まだ86は曲がっていないらしい。

そう判断して、頬が緩む。

その刹那だった。

甲高い音が、『隣』から聞こえた。

目を見開く。その音は、ダッジからではない。

だとすれば───

 

「.....さて、ここからだ」

 

拓海はスイッチを捻り、ヘッドライトを点けた(・・・)

拓海の86はどこにいたのか。

ダッジと、並んでいたのだ。

ヘッドライトが見えなかったのは、追い付いていないからではなかった。

拓海がヘッドライトを"消していた"からだ。

この山道で、ヘッドライトを消して、相手の車を抜く。その異常さにドミニクは毒づかずにはいられなかった。

 

「....イカれてやがるぜ!」

 

 

中継でスマホを向ける観衆の映像をながら、イツキが呻く。

 

「ブラインドアタックだ....ダッジ相手に決めやがった、タクミのヤツ....!」

 

 

ヘッドライトを消すのは、拓海にとっては反撃の合図、最大の集中力を発揮するための儀式だった。

ここから先は、車と車の勝負ではない。

ドミニクと拓海、二人の『ドライバー』の勝負だ。

差し迫る五連ヘアピン、その一段目。

 

ドミニクは恥じた。勝った気でいた自分を。

生唾を飲み込み、短く息を吐く。勝負の時間だ。

先ほどの慣性ドリフトでドミニクはヘアピンに滑り込む。

減速しないドリフト。これで86と互角に渡り合えるはずだった。

しかし86は、拓海は更にその先を行く。

86がインコーナーに差し掛かると、文字通り『全く減速しないまま』、その急カーブを走り去った。ドリフトするダッジの目の前をだ。

溝落とし。側溝にタイヤを引っかけて勢いを殺さずに曲がりきる。

どうしても巨体と馬力から外に膨らまざるを得ないダッジには絶対に真似が出来ない挙動だった。

そんな技は知らない。

ドミニクは初めて焦りを覚えた。

これがもし、続く残り4つのヘアピンで繰り出されたなら。

ダッジがカーブから立ち直るが、そのときには86は既に次のカーブに入っていた。車の挙動で分かる。アイツはまた溝落としで距離を稼いでいる。

このままドリフト勝負をしていたのでは。

 

───負ける。

 

ドミニクは地図を思い出した。これはダウンヒル、5連続ヘアピンは、地図上ではグネグネとしたカーブだが、実際には伸ばした蛇腹のように、上下に延びている。

つまり。

カーブの真下も、カーブなのだ。

賭けるとすればそこしかない。

ドミニクは素早く助手席の座席をひっぺがす。

そこには二本のタンクが隠されていた。

ラベルにはこうある。

 

『NOS』──即ち、ニトロ。

 

頼む保ってくれよ、ダッジ。

ドミニクは祈るようにアクセルを踏み込む。

一瞬で180km/hまで加速したまま、後輪を滑らせてドリフトの体勢にはいる。

ダッジでは曲がりきれない。遠心力に押されて、ガードレールの彼方へと吹っ飛ばされる。

誰もがそう思ったし、その予想は正しい。

だがドミニクだけは全く違う予想をしていた。

 

「──これが俺の、"走り方"だ」

 

車体が完全に横を向き、山に対して外へと姿勢が整う。以前に横へ滑っているが、ドミニクはそのタイミングでダッシュボードのスイッチを弾いた。

瞬間。

ダッジが、"撃ち出される"。

ニトロジエットによる超加速。この車はドミニクのガレージから取り寄せた私物だ。

さらに、ニトロタンクはドラッグレースのラストスパートで最終加速する際につかうもの。

それを峠で使えばまず間違いなくコースアウトする。

だからドミニクはこのタイミングでニトロを使った。

 

ヘアピンから飛び出し、真下の五連目──即ち、ヘアピンの終わりまで飛び降りてショートカットするために。

 

 

五連ヘアピンも、拓海は既に3連目に突入していた。

溝落としの効果は絶大で、ダッジは一瞬で見えなくなった。おそらくまだ二連目へアプローチを仕掛けたところだろう。

このままコーナーで引き離し、逃げ切る。五連が終わったあと、長い直線は1区間のみで、大きく折れ曲がった道が続く。

つまりここを逃げ切れれば。

 

───勝てる。

 

三度の溝落としをこなし、四連目へ差し掛かる。

その瞬間だった。

本能が、けたたましく警報を出す。全てがスローモーションに見えた。

初めに落ちてきたのは石ころ。

ついで大きな木の枝。

そして───一台の、車。

 

ダッジが、堕ちてきた!?

すぐさまハンドルを切って回避と減速を試みる。86が真横に滑り、グリップを効かせて急ブレーキをかけたそのすぐ数メートル先で、黒々強い巨体が墜落してきた。

直後、ひしゃげたガードレールが一際大きな金切り声で地面に激突する。

初めは、拓海は曲がりきれずに崖から堕ちたのだと思った。だが、それは誤りだったと一瞬の後に気づく。

ダッジは四輪全てを地面に着けたまま、後輪を思い切りぶん回し、着地点、つまりヘアピンの終わりからスタートしたのだ。

一方拓海の86は完全に停車していた。

致命的な差が、生まれる。レースは終わってなどなかったのだ。

 

「.....イカれてやがる!」

 

拓海も、そう毒づかずにはいられない。

86を急発進させて、車バンジーを決めたダッジを追い始めた。

 

 

レースは、終盤戦に入る。

 

 

「あぁ、ぐっ!」

 

先行するダッジ。見た目こそ無傷のように見えて、しかし異音がしているのは誰の耳にも明らかであった。

直線距離にして20mの高さを、ニトロジェットでガードレールを突き破って飛び降りたのだ。足回りのコンディションは有り体にいって『大破寸前』であった。

しかしドミニクのダッジは極めて頑丈に出来ている。残りの1km程度なら、全力で振り回してもちゃんと走ると彼は知っている。

 

車のダメージを代償に、苦手なヘアピンをほぼ全てキャンセルした上に、先行していた86の足を完全に止めるというアドバンテージを手にしたダッジは死に物狂いで逃げる。

キツめのカーブを減速しないドリフトで駆け抜け、短いストレートでもフルスロットル。

ドミニクが出来る最高の走りだった。

だが、速度が乗らない。最早ダッジの『ストレート最強』という強みが消えかかっている。

86はその隙をついて、秋名コース最後のヘアピンで、ダッジに追い付いてしまう。

長いストレート、最後のストレートだった。

本来ここで使うはずだった、頼みの綱のニトロジェットはもうない。

速度が乗らないダッジと、馬力の小さい86のストレートの最高速は全くの互角だった。

互いに並んだまま、大きく曲がるカーブへ差し掛かる。

カーブは残り5つ。熾烈なインコースの獲り合が始まった。

第一コーナーは、86がインを抜けて先行する。

第二コーナー、86の後を追ってダッジがインコーナーをすり抜けた。

第三コーナー、差が極限まで縮まっての平行ドリフト。

第四コーナー、ついにダッジが86を後ろから押し退け、僅かに鼻先を前に出す。

最期の第五コーナー、ダッジは鼻先を出したままインへ潜り込もうとするが、86はダッジを押し退けて。

それが決定打となり、フィニッシュラインを僅かヘッドライトほどの差で、86が駆け抜けた。

 

拓海の86がゴール下で大きく後輪を滑らせ、停車する。

少し遅れてダッジも86の隣で停車した。

 

誰もが、口を開かずに沈黙していた。

やがて、86とダッジ、両方からドライバーが降りてくる。

その姿を見て───決壊した。

 

割れんばかりの大歓声と、『タクミ』コールが山にこだまする。

勝者───藤原拓海。

しかしそれは、予測不能な大接戦であった。

 

「...おめでとう、タクミ。流石....本物だ」

 

観客に詰め寄られてあたふたする拓海に歩み寄ったドミニクは、拓海へキーを一本差し出した。

それを見た拓海が、困ったようにドミニクを見上げる。

 

「.....後ちょっとで勝つとこだったのにな」

 

「1インチ差か1マイル差かは関係ない。.....敗けは敗けだ」

 

俺はお前に負けたんだ。

そう言って差し出されたキーに、拓海は....緩く首を振った。

 

「要らないよ。.....あんな車、俺には速すぎて使えない」

 

「速い?重いの間違いだろう」

 

ドミニクがそうおどけると、拓海はおかしそうに小さく笑う。

ドミニクはキーをポケットに仕舞うと、拓海の手を取り、振り上げた。

 

「世界最強のダウンヒラー、タクミ=フジワラだッ!!今夜の戦いを、俺は一生忘れねぇ!」

観衆が大きな熱気に包まれ、再び『タクミ』コールが鳴り響く。

86、拓海に群衆が取り囲む間をすりぬけ、ドミニクは仲間たちの元へと戻った。

 

「......負けてしまったな」

 

エメットがテンガロンハットを深くかぶり、そうごちた。

 

「お疲れ、ドム。....あなたらしいイカれた走りだった」

 

「ありがとう、ジゼル」

 

タオルを手渡しながら労うジゼルに礼をいうが、かなり辛い状況にはかわりない。

ダッジをタイムマシンにすることも考えたが、足回りを壊している。果たして修理が間に合うか。

 

「車はどうする」

 

ショーンが一番辛いところを聞いてきた。

ドミニクは苦笑する。

 

「....なんとか探すか、いざとなれば...」

 

先ほど突き返されたキーを目線の高さで掲げる。

ショーンはお手上げ、と肩を竦めた。

しかし、そこにやってくる男がいた。

 

先ほどまで群衆にもみくちゃにされていた拓海と、涼介、そしてイツキだ。

 

「初めて見たよ、あんなヒリつくバトルは」

 

涼介がそう口にする。

 

「....光栄だな。俺も山をニトロで飛び降りたのは初めてだ。二度とやりたくない」

 

だろうな、と涼介は軽く笑う。

ドミニクは、訝しむように首をかしげた。

 

「.......それで、どうした?キーと車の内見か?」

 

「いいや」

 

涼介は首を振ると、拓海を横目で見た。

察した拓海は、いつになく真剣な眼差しでドミニクを見た。

 

「.......カスタムした車を探してるんだろ?一台、紹介できる。見てみないか?」

 

ドミニクはさらに怪訝そうに眉を潜めた。

 

「願ってもないが.....なんでだ?」

 

拓海はしばし考えて、やがて言った。

 

「アンタは...レースのために車を欲しがってるんじゃない。なら、なんのために車を探すのかって。それが知りたいから...。だと、思う。俺も分からないけど....何かしてやりたいんだ」

 

ドミニクはエメットを見た。

エメットは、大きく頷く。

なんにせよ、藁があるならつかまねば。

それが善意で浮かぶものならなおさら。

 

「是非、頼む」




秋名ダウンヒルを丸々一本書く、というアホみたいなことをやりました。
実はといいますと、元々はワイスピ×頭文字Dが企画としては最初にありまして、それを成立させるためにBTTFを持ってきてただけだったんです。
それがあれこれ話を膨らませる内に、ワイスピ×BTTFの方がしっくり来て、ここまで来るのにまぁだいぶん時間がかかりました。
ですが、ここからはいよいよ『ワイスピ』っぽくなっていきますし、この彼らの出会いが今後何らかの影響を及ぼす、かもしれない!ので最期までお付き合いいただければ幸いです。

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