ミカンと友達になった次の日。
ジムに挑戦するかはともかく、ミカンに会いに行こうかな。
そう思って準備をしていたところ、かばんから何かしらの振動が。
「ポケギア?いや、ポケギアはここにあるし・・・。なんだろう?」
机の上のポケギアに目を向けつつ、がさごそとかばんを漁ってみると、かばんの中でプルプルと震えている1本のスプーン。
これって、この前ブルーに貰ったやつじゃん。なんでこれが震えてるんだろう?
そのまま震えるスプーンを手に取る。すると、スプーンはくいっと曲がり、一方の方向を指す。
「なにこれ・・・?きらら、どう思う?」
『んー?これ、ただのすぷーんじゃなくて、ぽけもんがつくったすぷーんだよ?』
きららにスプーンを見せると、どうやら普通のスプーンではないらしい。
ってことは、何かしらの意味があるのかなぁ・・・。
「スプーンの指す方に行ってみようか。もしかしたら、ブルーのお願いに何か関係あるかもしれないし。」
私はポケギアを取り出し、ミカンに繋げる。
「もしもし、ミカン?」
『はい。マシロちゃん、どうかしましたか?もしかして、挑戦ですか?』
「ちょっと野暮用で、今日はお邪魔できなくなっちゃった。ごめんね。」
『そうですか・・・。用事なら仕方ないですね。』
声だけでかなりしょんぼりしてるのが分かる。なんか、悪いことしちゃったかな?
「用事が終わったら遊びに行くから。」
『わかりました!その時はおもてなししますね!』
「いや、普通でいいよ。普通で。」
遊びに行くと言った途端元気になる。その様子に少し笑いながら返事をする。まぁ、いつになるかはわからないけど、できるだけ早めに遊びに行くようにしよう。
「それじゃ、用事が終わったら連絡するね。」
『はい!お待ちしてますね!』
「それと、マシロでいいよ。ちゃんづけはなんかくすぐったいや。」
『わかりました!マシロ!』
「うん。それじゃあね。」
さてと。電話を切ってスプーンを掴む。
「これの指す方に行ってみますか。なにがあるのやら。」
ーーーーーーーー
ミスタに乗って、スプーンの指す方に飛んでいく。土地勘がないので、どの辺りか分からないけど、そこそこの距離を飛んでる気がする。
そう思ったとき、スプーンが指す方向を変えた。
「この下ってこと?ミスタ、降りて。」
そのままミスタに地上に降りてもらうと、そこには五歳ぐらいの男の子と女の子がいた。周囲は争ったように荒れ果てていて、男の子は気を失っているのか、女の子のそばで倒れていて、女の子はそこで泣きじゃくっている。
「ちょっと、大丈夫?何があったの?」
「えぐっ・・・。野生の・・・ポケモンが・・・。ひっく・・・。」
「野生のポケモンに襲われたんだね。怪我はない?」
「あたしは大丈夫。・・・でも、ひぐっ・・・。」
泣きながら少年の方を見る。
私は急いで少年を抱き起こすと、彼の額が切れて血が出ているのを見つける。
「額が切れてるね。目じゃなかっただけ、不幸中の幸い、かな?」
かばんから救急道具を取り出して、消毒とガーゼを貼る。本当は力でサッと治してあげたいけど、また倒れたら困るしね。
「こっちの子は大丈夫。見た目よりも傷は浅いよ。」
「ぐず・・・。ほんとに?」
「ほんとほんと。それより、大人の人は近くにいないの?」
「あっちにいる。」
「それじゃ、そっちに行こうか。この子をここで寝かせとくわけにもいかないしね。」
男の子をおぶり、女の子の手を引いて歩き出す。早いとこ、お医者さんにも見せないとね。私のは所詮応急処置だし。
その後は早かった。話を聞いた女の子の父親がてきぱきと手配をして、男の子は病院へ。その際、男の子の母親が付き添っていった。
そして、残された私達。
「いやはや、キミのお陰で助かったよ。応急処置も完璧だったみたいだし。」
「いえ、私は通りかかっただけなんで。それにしても、野生のポケモンに襲われることってよくあるの?」
「いや、そもそもボーマンダなんてこの辺りにいないはずなんだが・・・?」
ボーマンダ?聞いたことないポケモンだけど・・・。
これも、仮面の男に関係してるのかな?
「ま、そこを気にするのは警察の仕事で、私達ではないか。」
「私は気になるんだけどなぁ・・・。」
「何か言ったかい?」
「いえ、こっちの話です。それより、さっきの男の子のは?」
「近くの病院へ運ばれたよ。気になるのなら、後でお見舞いに行ってあげてほしい。彼の母親も、君にお礼を言いたいはずだ。」
そう言って、タウンマップに印をつけてくれた。
「こんな状態だけど、明日には私達はホウエン地方に帰らないといけないんだ。よければ、娘のかわりに気にかけてやってほしい。」
娘の、といった瞬間。
今は父親の手を握っていた、女の子の肩がビクッと跳ねた。
ん?なにかあったのかな?
しかし、それに気づかなかったみたいで、父親は話続ける。
「おっと、自己紹介がまだだったね。私はオダマキ。この子は娘のサファイアだ。キミが助けた男の子はルビーと言う。」
「私はマシロです。」
「ありがとう、マシロ君。キミのお陰でルビー君は大事にならなくてすんだ。」
「いえいえ、大したことはしてないですよ」
頭を下げるオダマキという人に、頭を上げてもらう。
実際、ことは全部終わってたしね。
「それでは、私は一応サファイアを病院へ連れていくよ。」
頭を上げると、女の子の手を引いて歩き出す。女の子が少しだけ振り返ったので、小さく手を降る。
女の子も少しだけ手を振ると、そのまま前を向いて歩いていった。
「さてと。それじゃあルビーだっけ?彼の様子を見に行ってみようかな。」
ーーーーーー
次の日。
あの後。病院へ行ってみたものの、ルビーは寝たままで会えなかったので、ルビーのお母さんと挨拶だけして帰った。怪我は大したことないらしい。
ブルーのお願いもあるし、わざわざ気にかける必要はないんだけど、サファイアって言ったかな?あの子の反応が少し気になるんだよね。
という事で、出直してきました。ノックして部屋に入る。
「失礼しまーす。」
「あら、今日も来てくれたのね。ありがとう。」
男の子の座っているベッドの横で、椅子に座っていたルビーのお母さんが振り替える。
それにつられて男の子もこっちを向く。
「お母さん、この人は?」
「この人があなたを手当てしてくれたのよ?」
「そうなんだ。ありがとう、お姉さん。」
「いいよ、気にしないで。それより、怪我は痛くない?」
「うん。痛くないよ、大丈夫。」
「それはよかった。」
その時、部屋にノックの音が響く。
「失礼するよ。」
「あら、オダマキさん。今日ホウエンに戻る日じゃなかったかしら?」
「はい。戻る前に挨拶を、と思いまして。本当はサファイアも連れてきたかったんですが、昨日のことがショックで塞ぎこんでしまって・・・。」
「そうですか・・・。わざわざありがとうございます。ルビー、少し外でお話してくるから、この人と待っててくれる?」
「わかった。」
え?さっき初対面なのに、二人きりにするの?
そう思ったときには既に部屋の外に出ていってしまった。信頼、されてるってことかなぁ・・・。
「あの子、来てくれなかったな・・・。」
ルビーの呟く声が聞こえた。
そういえば、昨日サファイアの様子が少し変だった様な・・・。ボーマンダ以外に何かあったのかな?
「ボーマンダの事がよっぽどショックだったのかな?」
「ううん、違うんだ。あの子が怖かったのは、ボーマンダじゃなくて、僕なんだ。」
「どういうこと?」
ルビーはポツポツと昨日の出来事を話し出した。
ーーーーーー
「なるほどねぇ、ボーマンダよりも、それを追い払おうとした君の姿が、あの子にとっては怖かったんだね。」
「そうみたい・・・。」
だからあの子の様子もおかしかったんだ。そりゃ、お見舞いとか、来れるわけ無いか・・・。
「もう、あの子とは会えないのかな・・・。」
彼の目から一筋の涙がこぼれる。
思わず私は、ルビーの頭を抱き寄せた。
「頑張ったね。えらいえらい。」
「え?」
「ルビー。君は、ちゃんとあの子を守れたんだよ?それはきっと、誉められるべき事。私は守れなかったからね。」
6年前のあのとき、ブルーが連れていかれたときを思い出す。あの時は生きた心地がしなかったなぁ。
あれ、実際死にかけてたっけ?
「でも、あの子は・・・。」
「うん。そうだね。あの子は君が怖かったんだよね?でもそれは、守ったこととはまた別。頑張ったね。」
「う・・・うわぁぁぁん!!!」
もう一度頑張ったねと言うと、せきを切った様に泣き出すルビー。よしよしと、頭を撫でる。
「女の子の為に頑張ったのに拒絶されたら辛いよね。」
「僕は・・・僕は!」
「うん。大丈夫、分かってるよ。」
「守りたかっただけなのに!」
「うん。」
「なんで・・・こうなっ・・・たん・だろ・・。」
泣きつかれたのか、胸のなかでそのまま寝ちゃったや。
私も経験あるけど、小さいときに拒絶されるのってかなりメンタルにくるからね。仕方ないかな。
とりあえず、ルビーはベッドに寝かせておいて、と。
「そろそろ入ったらどうですか?」
「ごめんなさい、水を差さないほうがいいと思って。」
「そうですね。ありがとうございます。」
声をかけるとルビーの母親が部屋に入る。
空気を読める人でよかったよ。泣いてる所で部屋に入られると私が、と言うかルビーが困るかな?思春期の男の子は泣いてる所を見られるのは嫌・・・なはず。
「あれ、さっきの人は?」
「時間がないからってもう出発しちゃった。ホウエンに帰るんですって。」
「そうですか。忙しい人なんですね。」
「あれで一応、博士って呼ばれる人だから。」
そうなんだ。それなら仕方ないよね。オーキド博士もそうだけど、忙しい時はかなり忙しそうだったし。
「それじゃ、私は帰ります。」
「ありがとう。手当てだけじゃなくて、ここまでルビーに良くしてくれて。」
「んー・・・。なんとなく私と似ててほっとけないんですよ。また明日来ますね。」
「本当にありがとうございます。」
そのまま病室を後にする。
そう言えば、ルビーのお父さんの姿を見てないけど、ルビーのお父さんも忙しい人なのかな?もしかして博士だったりして?
ーーーーーー
そして次の日。
またまた病室に向かって歩いていく。
ブルーのお願いもあるんだけど、少しぐらい後回しにしてもいいよね?気になるものはしょうがない。
部屋に着くと、ノックをして部屋に入る。
「失礼しまーす。」
「どうぞー。」
部屋に入ると、ルビーが一人で私を出迎えた。とりあえず、ベッドの横の椅子に座る。
「あれ、1人?」
「うん。退院の手続きだって。」
「そっか、よかったね。」
そう言うと、なぜか俯くルビー。
「でも、もうあの子はいないんだよね?」
「あー・・・。昨日、ホウエンに帰るって言ってたっけ。」
「そっか・・・。」
なるほど。怖がらせたままで、もう女の子に会えないから落ち込んでるのか。
「ねぇルビー。君は、その子に会ってどうしたい?」
「そんなの・・・、わかんないよ。」
「そうだよね。怖がらせたまま会っても、どうしたらいいかわかんないよね。」
「・・・うん。」
「じゃあ、今度会ったときはカッコいいって言わせちゃおう!」
「え?」
驚いた顔でこっちを見る。
ようやく顔をあげてくれた。俯いたままだと、考えもネガティブになっちゃうからね。
「戦う姿が怖かったのなら、次はカッコよくなった所を見せてあげようよ。」
「でも、あの子はホウエンに帰ったんでしょ?今更カッコよくなんて・・・。」
「じゃあ、君はそのままの君でもう一度あの子に会うの?それとも、もう会いたくないの?」
「そんなことない!もう一度、会いたいよ!」
ルビーが叫ぶ。そうだよね、私もそうだったもん。だからきっと、ルビーの事、放っておけなかったんだなぁ。
「じゃあ、今のままじゃ会えないよね?」
「うん・・・!今度は、怖い。なんかじゃなくて、カッコいいって言われる僕になって、もう一度あの子に会うよ!」
「そっか。」
私はルビーの頭をポンと叩き立ち上がる。
「頑張れ少年。その決意を忘れなかったら、きっとカッコいいって言われる素敵な男の子になれるよ。」
「お姉さん?」
「退院するなら、邪魔になりそうだし。私は帰ろうかな。ルビーも、もう大丈夫そうだしね。」
「ありがとうございます。通りかかっただけなのに・・・。」
「気にしないで。好きでやったことだし。それじゃ、元気でね。」
手を振りながら病室を後にする。
あの様子なら大丈夫かな?子供は素直だから、思ったことをそのまま言っちゃうし、言われた方もそのまま受け取っちゃうからね。こういう時は大人がケアしてあげないとね。
まぁ、私は11なんだけど。
「さてと、ホウエン地方は遠いけど・・・。仕方ないかな。」
ーーーールビー視点ーーーー
「行っちゃった。」
通りかかっただけなのに、この3日の間だっけで、とても大事な事を教えてもらった気がする。
「カッコいい、か。それなら、コンテストに出てみようかな。それで、コンテストで結果を出すまでは戦う姿は他人には見せないようにしよう。また、あの子みたいに怖がらせるかもしれない。」
でも、お父さんポケモンバトル大好きだからなぁ。許してくれるかな?
そう思ったとき、お母さんが病室に帰ってきた。
「終わったわよ、ルビー。あら、なにかスッキリした顔して、何があったの?」
「ちょっとね。それより、寝たきりで疲れたよ。早く帰ろう。」
「ふふっ、元気になってよかった。」
「お姉さんのお陰かな?そういや、名前聞いてないや。お母さん、あの人の名前知ってる?」
「あら?そう言えば聞いてないわね。あ、連絡先も知らないわ・・・。」
「えぇ!?しっかりしてよ・・・。」
どうやら、お姉さんと会うことは難しそうだ。でも、いつかコンテストで有名になったら。
カッコよくなったねって、ほめてくれるかな?