「先日はありがとうございました。」
「もういいって。怪我も大したことなかったんだし。」
「でも、マシロが助けてくれなかったらあのまま生き埋めになっていたかもしれませんし。」
「でも、毎日お礼を言われると流石に疲れるよ。」
「そうですか?・・・そうですね、すいません。」
そう言って苦笑いをするミカン。
そんな顔されると、罪悪感が胸をチクチクと・・・。
そんなつもりで言ったんじゃなかったんだけどな・・・。
「ふふ、冗談です。でも、ずっとお礼を言われるのも疲れますよね。もう言わないようにします。」
「・・・そうしてくれると助かるよ。」
と思ったけど、ミカンなりの冗談だったみたい。
ホッと胸をなでおろす。
あの事件から数日、私はミカンとエンジュに残って復興の手伝いをしていた。
カントーで復興の手伝いをしていた身としては、この町も放っておけないし。
・・・なんか、最近同じようなことばかりしてるからかな?
お陰で手際はかなりよくなった気がするや。
「それじゃ、スズの塔の復旧を進めましょうか。」
「今更だけど、なんでこの塔の復旧を急いでるの?」
「それは、ホウオウの怒りを鎮めるため、らしいです。」
「スズの塔って、ホウオウと関係があるの?」
「ええ。スズの塔は、ホウオウが降り立つ場所。そして、もう1つの塔と共に残る言い伝え・・・。」
「あー・・・。ミカンがそういう話を知ってたのなら、前回ジョウトに来たときに聞いておけば良かったよ・・・。」
そうしてたら、ホウオウにもっと早くたどり着けてただろうし。
まぁ、前来たときは変わったことを聞いただけだから、話題にも出なかったけど。
そういや相変わらず、あかりちゃんも元気そうだった
。
そうそう、ミカンの変わったことの心当たりも最近ロケット団の様な人達がジョウトで目撃されてるって話だった。
話を聞くより先に実際に会ったから、あまり意味はなかったけど。
百聞は一見にしかず、ってね。
・・・なんか意味が違う気がする。
「まぁいいや。それより、その言い伝えって?」
「150年前に起きた事件の言い伝え、です。」
ミカンが話し始めようとしたとき、後ろから声をかけられた。
「その話、ボク達も聞いてもいいですか?・・・え、マシロさん?」
上から聞こえた聞きなれた声に思わず振り替える。
そこには、バタフリーに抱えられた釣り人の姿と見慣れた麦わら帽子を被った黄色い髪の女の子の姿があった。
「イエロー・・・?」
「やっぱりマシロさんだ!着物を着てる白い髪が見えたから、そうだと思いました!」
2人は私達の前に降りてくると、イエローは満面の笑みを浮かべる。
「なんでイエローがジョウトに?観光?」
「いえ。こっちのおじさんがジョウト地方に住んでいるので、スオウ島から飛び立ったポケモンの調査をお願いしたんですけど・・・。」
「最近怪しげな連中がジョウトをうろついてるし、調査も捗らないしでよ、イエローに応援を頼んだって訳だ。」
「本当は、ボクなんかよりレッドさんにお願いしようと思ったんですけど、シロガネ山に行ってしまったので・・・。」
「そっか、やっぱりシロガネ山に行ったかぁ・・・。」
私は右手だけだったけど、レッドは全身こおりづけだったもんね。そりゃ、体に何かしらの不調が出るよ。
「それで、エンジュの塔の言い伝えについて聞こうと思ってきたんですけど・・・。ちょうど、そちらの方とお話されてたので一緒に聞きたいと思って・・・。」
そう言ってミカンの方を向く。ミカンは話についていけず困った顔をしていた。
「あ、ゴメン。紹介が先だったね。こっちの麦わら帽子の子はイエロー。」
「はじめまして、ボクはイエローと言います。良ければ復興の手伝いをさせてください。」
「ありがとう。わたしはミカン、アサギジムのジムリーダーよ。」
そう言って握手を交わすふたり。
「オレはヒデノリ。で・・・、エンジュのジムリーダーじゃなくて、アサギのジムリーダー?エンジュのジムリーダーなら、ついでに事件のあった日の事を聞こうと思ったんだがなぁ。」
「それなら、わたしが話せるわ。なにせ、その1番酷い時にスズの塔に閉じ込められたんだもの。」
「えぇっ!?大丈夫だったんですか?」
「ええ。マシロが助けてくれましたから。・・・なんでそんな拗ねたような顔をしてるんですか?」
そう言ってミカンが私の方を向くと、驚いたような呆れている様な顔でそんな事を言う。
どうやら、顔に出てたらしい。
「いや、なんか私の時は敬語だけど、それ以外だとフランクだなーって。」
「それは、多分アカリちゃんを治してくれたからですかね?自然と敬語になっちゃうんですよ。」
「私もフランクなミカンがいい。」
「ふふ、マシロもそんな顔するのね。分かったわ。わたしもできるだけ敬語にならないように気を付けるね。」
「うんうん。そっちの方が私は好きだなー。」
「マシロって、知り合いと言うか友達に対する距離感が凄く近いよね?」
「そうかな?」
「そうよ。」
「・・・そろそろ話を戻していいか?」
ミカンと話していると、困った顔をした釣り人が話に入ってくる。
「ごめんなさい、事件の事と言っても分かっているのはロケット団が起こしたと言う事ぐらいです。なにせ、そのロケット団もすぐに逃げてしまったので。」
「そうか。人災って噂は本当だったのか。」
「それで、言い伝えの方はどんな話なんですか?」
「それは・・・。」
イエローに促されて話始めようとした時だった。
「焼けた塔から火が出たぞー!」
と言う叫び声が聞こえた。
声のした方を見ると、崩れた建物から煙が上がっている。
そして、その建物に向かってたくさんの人がバケツリレーで水を運んでいるが、バケツリレーなんかじゃ間に合わないって!
「イエロー!いくよ!」
「はい!」
私はミスタに乗って、イエローはピーすけに抱えられて塔の上に飛ぶ。
「ミスタ!」
「オムすけ!」
「「ハイドロポンプ!!」」
そして、上から一気に水をかけて消化していく。
「イエローもすごいですね。」
「釣りの腕はオレが仕込んだんだぜ?」
「あはは・・・。そうなんですね・・・。」
下ではミカンと何か話してるみたいだけど・・・っと。そろそろ大丈夫そうかな。
「ありがと、ミスタ。」
「オムすけも、帰っておいで。」
ミスタを撫でながら、オムすけが釣糸を辿って戻るのを見守る。
そして、オムすけがピョンとイエローの頭の上にのった瞬間、何かがイエローの釣りざおを引っ張った。
「えっ?うわぁぁぁ・・・。」
「ちょっ!イエロー!?」
塔の中に引っ張られていくイエローの腕を掴むが、勢いは衰えず私はミスタごと塔の中に引き込まれる。
そして、煙の吹き出す塔の中に引き込まれたと思ったら全身を妙な感覚が襲い、どこかに着地した。
「いたたた。・・・ここどこ?」
周囲を見渡すと、なんだか景色がうねうねと混じりあっているよく分からない空間にいた。
「マシロさん、大丈夫ですか?」
「あ、うん。大丈夫。でも、ここは?」
「わかりません・・・。岩にぶつかったと思ったら岩の中に吸い込まれて、気づいたらこの変な空間の中にいました。」
「そうなんだ・・・。私は煙でよく見えなくてよくわからなかったけど、ここは岩の中ってこと?」
「多分・・・。」
イエローは、自信無さげに頷く。
その時イエローの後ろでパリン、と何かが砕けるような音が聞こえた。
「え?」
私はイエローの後ろに目を向けると、そこには大型の四足歩行のポケモンが3体立っていた。
さっきまではなにもいなかったと思うんだけど・・・。
「"礼を言う。お前のお陰で呪縛から逃れ、現実世界への扉が開かれた"?」
イエローがらしくない言葉遣いで喋る。
「・・・それ、そこのポケモン達が?」
「はい。」
んー・・・。呪縛ってことはここに閉じ込められてたってことかな?でも、誰に?
「あっ!」
イエローの声に顔をあげると、さっきのポケモン達が上に開いた穴から外に飛び出していた。
私達もあそこから来たのかな?
「出口はあそこかな。と言うか、今のポケモン早いねぇ・・・、っと。ぼさっとしてないで私達も出ようか。」
「あ、はい。そうですね。」
そう言うと私達は、このよく分からない空間を抜け出した。
外では、ミカンと釣り人が驚いた表情で待っていてくれた。
「あ、マシロ!無事ですか?」
「うん。大丈夫。ありがと。」
「イエローも無事のようだな。」
「はい。」
そして、釣り人が岩を叩きながら呟く。
「・・・それにしても、今のポケモンは?岩の中から出てきたと思ったらスゴいスピードで駆け抜けて行ったが・・・。」
「もしかしたら、言い伝えに関係しているかもしれません。」
言い伝えというとさっきの話のことかな?
「さっきの話のことですか?」
イエローの言葉に、ミカンは静かに頷く。
「エンジュには昔、東と西2つの塔が建っていたの。そして150年前、突然起こった大火事でで焼けてしまったのがこの焼けた塔。その火事で炎に巻き込まれて死んでしまった3体のポケモンがいたらしいの。その時、虹色のポケモンが空より現れ3体のポケモンを蘇らせた。」
「ってことは、オレ達の前を駆け抜けていったのがその3体ってことか!?」
「だからさっき、怒ったホウオウ様が帰ってくるって・・・。」
ん?ホウオウが帰ってくる?仮面の男は今、ジョウトでロケット団の新首領をやってるのに帰ってくるってどういうことだろう?
今はもう仮面の男とホウオウは一緒にいないってこと?
もしそうなら、ホウオウを追っても仮面の男にはたどり着かない・・・か。なら、ゴールドと一緒に動くのが良さそうだね。
「ありがと、ミカン。ホントはもっと早く聞くべきだったみたいだけどね。」
「役に立てたようで何よりです。・・・もう行んですか?」
「まだ何も言ってないんだけど、なんでわかるの?」
「そんな顔してる。」
ミカンはフフっと笑いながら答える。
・・・ポーカーフェイスの練習しとこ。
「イエローが復興を手伝ってくれるみたいだから、私は抜けても大丈夫だと思うし。」
「復興の事は任せて。マシロはマシロのやるべきことをやって。」
「分かった、後は任せたよ。イエローもまたね。急な話だけど、もう行くよ。」
「ブルーさんのお願いですか?」
「そんなとこ。」
「相変わらずですね。分かりました、また会いましょう。」
イエローもクスッと笑っている。
「まったく、2人して笑って・・・。」
文句を言いながらも、笑いながらミスタに乗る。
「それじゃ!」
手を振りながら飛び上がる。一旦、ゴールド達と合流しよう。
そう思った瞬間、私のポケギアが鳴った。