76話
ホウエン地方に付いてそうそう、オダマキ博士の元を尋ねる。
・・・が。
「サファイアは、つい先日ジム制覇の旅に出発してしまったよ。あ、チャンピオンおめでとう。サファイアも飛び跳ねてたよ。」
「あ、どうも・・・。」
おめでとうって言われるほど、チャンピオンなんて肩書はいいものではなかったよ。
むしろ叩き返せるなら利子つけて返す。
「長旅で疲れただろう?よかったらお茶でも飲んでいくかい?」
「いえ、挨拶に寄っただけなので。」
「そうかい?でも、残念だな。サファイアがいればきっと喜んだろうに。」
あれから大分経ったのにオダマキ博士もサファイアも私のことを覚えていたみたいで、すこし嬉しいかったり。
赤の他人に群がられると、あんなにも嫌なのにね。
「なら、追いかけてみようかな。急ぎの用もないし、今から行けば追いつくかも。ここから、1番近いジムって何処ですか?」
「ここからなら、トウカになるかな?サファイアに会えたら、よろしく頼むよ。あの子もきっと喜ぶ。」
挨拶を手短に済ませると、ミスタに乗ってトウカの方向に進む。
久しぶりにオダマキ博士と話したからか、昔のことを思い出した。
そういえば・・・。サファイアは元気らしいけどルビーはどうしてるだろう?
連絡先も知らないし、どこに住んでるかも知らないから、こっちから会うことはできないんだけど・・・。
サファイアの事を聞くとどうしても思い出す。
「怪我が治って元気にしてるといいな。」
そんなことをつぶやきながら、トウカシティに差し掛かったときだった。
『ウォォオオ!!』
と、下から雄叫びがきこえた。
「ん?どこかで、ポケモンバトルでもやってるのかな?・・・あれ、ミスタ?」
その声を聞いた途端、ミスタがフラフラとおぼつかない様子になる。
「ミスタ、どうしたの?・・・って、こんらん?」
ミスタの様子をうかがうと、どうやらこんらんの状態異常になっているようで、少しずつ高度が下がっていく。
「ちょっと待っててよ・・・。道具道具!!」
鞄からとりだした、なんでもなおしをミスタにかけると、フラフラした状態から安定した状態に戻る。
こんな高度でフラフラされると流石に少しヒヤッとしたね。
なんだか、初めてミスタに乗ったときの事を思い出したよ。
「それにしても、地上からはそれなりに離れてるのに技の効果を受けたってことは、それなりに強いポケモンだったんだろうねぇぇぇええええええミスタァァァァアア!!??」
瞬間、ミスタが声のした方に高速で突撃していく。
あぁ、ミスタの前で強いポケモンなんて言ったらそりゃこうなるよね・・・。
そして叫び声のした所に降り立つと、そこには1人の男性と1体のポケモンがいた。
「ケッキングのいばるで、混乱しているはずだが・・・、気のせいか。何かの気配を感じたが・・・。」
そう呟くと、こちらに振り返りながら問いかけてくる。
「で、君は?」
「あー・・・。通りすがりに、いばるを受けた一般トレーナーです。」
「そうか、それはすまないことをした。」
目の前の人は、私のことをちらっとだけ見るとすぐに興味がないうで視線をそらす。
この反応、私のことを知らないっぽいね。流石に2年も前に話題になった有名人は知らないよね。良かった良かった。
地元だと2年経ってもそれなりにワイワイ言われてたけども・・・。
「次からは、旅の途中でも気を抜かないことだ。いつ、野生のポケモンに襲われるか分からないからな。」
「大丈夫、大丈夫。ミスタ、頼りになるから。・・・あぁ、もう落ち着いてよ。強そうな相手を見つけるとすぐこうなるんだから。」
いばるの影響が残っているのか、興奮しているミスタを宥めていると目の前の人は微妙に蔑んだ目で私を見る。
「自分の手持ちすらまともにコントロール出来ないとは・・・。トレーナーのレベルがしれるな。」
瞬間、その言葉に激高したミスタがケッキングに飛びかかった。
「きあいパンチ。」
と思ったら殴り返されて、後ろの林に突っ込んでいった。上から下に行ったと思ったら、今度は右から左に行ったり来たり、忙しい・・・。じゃなくて!
「ミスタ、大丈夫!?・・・先に飛び出したのはこっちだけど、やりすぎじゃない?」
口も悪いし、なんとなくお近づきにはなりたくない人種かも。
「急いでるんだ。君に構っている時間は・・・なにっ!?」
と喋っている途中で、ミスタが飛んで行った方から放たれた閃光がケッキングを飲み込む。
そして、閃光が収まると林の中から葉っぱを引っ付けながらも元気な姿を出すミスタとは対象的に、メテオビームを受けたケッキングは地面に倒れ伏す。
「言わんこっちゃない・・・。」
そんな一撃、ミスタには開戦の合図になるに決まってるでしょ。
「それより、ミスタは大丈夫そうだね。そっちの子は・・・。戦闘不能かな?ま、一発は一発ってことで。それじゃ。」
こっちから仕掛けたけど、挑発してきたのは向こうだし。これでおあいこでしょ。
まったく、サファイアに会いに来たのに時間食っちゃったよ。これで入れ違いとかになってなきゃいいけど。
「待て。」
ケッキングをボールに戻しながら、背中を向けている私を呼び止める。
「なに?私に構っている時間はないんじゃなかったの?」
「負けたままで行かせたんじゃ、私の気持ちが収まらない。」
「いや、そんなの知らないし。」
「逃げるのか?ヤルキモノ!」
問答無用とばかりに次のポケモンを繰り出してくると、さっきとは逆にミスタに飛びかかってくる。
「かぷちー!」
それを、かぷちーの大顎が弾く。
さっき一発でかいの貰ったからね、ミスタには休んでもらわないと。
・・・それより。
「元々はあなたの技に巻き込まれただけなのに、逃げるもなにもないでしょ?」
「私もトレーナーだ。負けっぱなしでその背中を見送るなんてことはできん。」
この人、人の話聞かないんですけど・・・。
ーーーーー少し前ーーーーー
「早速、捕獲のコツを教えてくださいますか?」
「ダメだ。」
「ど、どうしてですか?」
約束したのに話が違う、とセンリに詰め寄るミツル。だが、そんな様子を意に介さずにセンリは淡々と続ける。
「ミツルくん、キミは私に捕獲のコツを教えて欲しいと頼みに来た時、自分の病気を隠していたね?」
「そ、それは・・・。」
「キミのご両親に確かめたら、キミの病気はとても重く、療養のため明日遠くの町に引っ越す予定だとか。・・・ポケモンを扱うことは、思った以上に危険なことだ。健康なトレーナーにだって何が起こるか分からない。1度もポケモンを手にした事の無い、それも明日には引っ越してしまうキミに対して責任は持てない。」
そう言って背中を向けるセンリに対して、物陰に隠れて様子を伺っていたルビーは下唇を噛む。
「くっ・・・。相変わらず相手のことを考えないものの言い方。」
小さな声で悪態をつくが、家出中のルビーが自分の父でもあるセンリの前に飛び出す訳にはいかない。そんなことをすれば、当然連れ戻される。
「妙だな・・・。別の気配を感じる。」
足を止めたセンリは、おもむろにケッキングを繰り出す。
「マズッ・・・!」
存在がバレたかもしれないと思ったルビーは更に林の奥の物陰に飛び込んだ。
その瞬間。
『ウォォオオ!!』
ケッキングの雄叫びが響き渡ると、その場に1人の女の人が降りてくる。
「マシロさん!?」
その人物は、ルビーもよく知る憧れの人物だった。
そして、そのトレーナーはあっさりとケッキングを沈めると、おもむろに繰り出されたヤルキモノの一撃も弾き返した。
「cute!!見てよミツルくん、生のかぷちーだよ!あの可愛さから信じられないような一撃を繰り出すんだ!」
「わ、分かったからあまり振り回さないで・・・。」
「でも、マシロさんがなんでホウエンにいるんだろう?」
「それよりも、センリさんってジムリーダーでしょ?あの人大丈夫なの?」
「あの人なら大丈夫だよ。それより、トレーナーになりたいのならこの戦いはよく見ておくほうがいいよ。」
いばるから身を守り様子を伺ってると、上から現れた乱入者によって出るに出れなくなり、隅っこであわあわしていたミツルくんを物陰に引っ張り込んだ結果。
2人のいざこざを目の前で見ることになった。
「きりさく!」
「ふいうち!」
ヤルキモノが腕を振り下ろす瞬間を狙いその胸を大顎で穿つと、ヤルキモノが大きく後退する。
「タイミングの難しい、ふいうちを使いこなす、か。トレーナーのレベルが低いと言ったのは訂正しよう。」
「しなくていいから、帰っていい?」
「勝負の最中に背中を見せるのか?きあいだめから、みだれひっかき!」
「つるぎのまい!」
飛びかかってくるヤルキモノが繰り出す両手の爪を、かぷちーの大顎がいなしていく。爪と大顎がぶつかるたびにバチバチという音と、火花が散っていく。
「beautiful!!見てよ、ミツルくん!生のかぷちーのつるぎのまい!!さっきのふいうちの美しい技のキレ、踊るようなつるぎのまい。どれもすごく美しい。でも、打ち合うたびになんか妙な音が・・・。ミツルくん?」
「ハァ・・・ハァ・・・。」
その動きにテンションが上がるルビーに対して、ミツルは胸を押さえてその場に倒れ込む。
「ミツルくん!?・・・仕方ない、マシロさんの勇姿を見ておきたいけどミツルくんをこのままには出来ないな・・・。よいしょ、っと。今のうちにここを離れよう。」
ルビーは倒れたミツルを担ぎあげると、ひっそりとその場を後にした。
ーーーーーーーーーー
そして、いつの間にか居なくなった傍観者に気づないまま、戦闘は激しさを増していく。
「上手く捌いているが、いつまで持つかな?」
「くっ・・・!」
この人、強い。
ただのみだれひっかきじゃない。
きあいだめで集中力を上げて繰り出される両手の爪は、かぷちーのつるぎのまいを捉え、少しづつ追い詰めていく。
「そこだっ!!」
そして、打ち合ったヤルキモノの爪が、かぷちーの大顎を大きく弾き上げた。
「ここまでだな。きあいパンチ!」
その隙を逃さず、ヤルキモノが渾身の一撃を繰り出そうと大きく腕を振りかぶった瞬間。
「何っ!?」
「アイアンヘッド!」
逆に隙を作ることになったヤルキモノを、かぷちーの大顎が突き飛ばすと、男の後ろの林にまで吹っ飛んでいく。
「ヤルキモノ!」
目の前の男は慌ててヤルキモノの姿を追いかけていくと、そのそばでしゃがみこんで様子を伺っている。
それを見て私は手早くかぷちーをボールに戻すと、ミスタに小さな声で話かける。
「今のうちに行くよ。グリーンみたいな口の悪さにレッドみたいなバトルマニアを足したような人の相手なんかしてられないよ、絶対ろくなことがない。サファイアも追いかけないといけないし。」
少しだけ不満そうなミスタだったが、サファイアの事を口にすると納得してくれたのか私を乗せると静かにその場を後にした。
時間がないとか言ってたのに何あの人・・・。バトル
何にせよ、ミスタと気が合いそう。
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ヤルキモノを追って林に入ると、木に叩きつけられて倒れ込むヤルキモノ。ひと目見てこれ以上の戦闘は無理だと理解し、ヤルキモノをボールに戻そうとした際に気づく。
「これは・・・まひ、か?それに、爪に焦げたような後・・・。なるほどな、戦闘中のあの音はそういうことか。」
ヤルキモノをボールに戻す。
「あのつるぎのまいの途中に、ほのおのキバとかみなりのキバを混ぜていたのか。そして、攻撃を捌く度に少しずつダメージを蓄積させていた、と。見た目よりも随分と強かだな。・・・む?」
そう言いながら振り返ると、そこには誰の姿も無かった。
「勝負の最中に逃げるとは・・・。いや、違うか。勝負を決めるにはあの一撃で十分と理解していたのか。ルビーも、真面目にトレーニングに打ち込めば今頃は・・・。いや、男の進む道は自分で決めるべきだ。」
呟いたところで、最早後の祭り。今頃はどこかコンテストが開催されている町にでも向かっていることだろう。
「だが、家出となると話は別だ。早く追いかけないとな。」
そう言うと、センリは静かに歩きだした。