ひっそりと逃げ出した私は、足早にトウカシティの郊外までやってきた。
ミスタはボールに戻ってお休み中なので、今は徒歩で移動。
ミスタも、少し煽られたからって突っかからなくていいのに。そういえば、前もシジマさんに煽られた時も怒ってたっけ?
・・・もしかしてミスタ、私が馬鹿にされたから怒ってる?
もしそうなら、トレーナーとしてミスタに認められたみたいで嬉しくなる。
最初はただついてきてもらってただけで、トレーナーとしてはへっぽこできららとミスタにおんぶに抱っこされてたもんね。
私もきららやミスタに恥じないトレーナーになれてるかな?
「でも、やってきてそうそうバトルマニアと遭遇するなんて運がないや・・・。それに、つるぎのまいに色々な技を混ぜるやつ、とっておきだったんだけどなぁ。」
ハァ、とため息をつく。
エリカのモンジャラにしてやられてから、ひっそりと練習してたのにこんなところでお披露目する羽目になるとは・・・。
あれ?でも、かぷちーのつるぎのまいを正面から押しきることなんて事、エリカでもできなかったはず。
・・・もしかしたらあの人エリカよりも強い?
ホウエン、レベルが高いなぁ・・・。
「ま、あの人のことは置いておこう。多分もう会うこともないだろうし。それにしても、ジムリーダーが不在だったお陰でサファイアの足取りがつかめないや。」
さっきジムに寄ってみたけど、ジムリーダーは居なかった。何故か急に音信不通になったらしい。おまけにサファイアもジムには来てなかったみたい。
ここに来てないなら、カナズミシティに向かってるのかも。
「不在、か。ここでもジムリーダーが暗躍してたら嫌だなぁ・・・。」
不在と聞いて、元ロケット団幹部の姿を思い出す。ついでに仮面の男も。
いやいや、どこもかしこもジムリーダーが黒幕なんて流石にないよね。
そんなことを考えながら歩いていると、ものすごい勢いで水が飛び出す噴水。そして、その周りに集まる人たちと騒ぎ声。
「あのポケモンを追いかけるったい!」
そんな最中、男の人を背負った子がトウカの森に駆けていくのを見送っていく。
「おぉ、あの子凄いね。私はクリスを受け止めただけで潰されたのに、人を背負ってあの速さで走れるんだ。」
そして、その後ろを2人の男女が追いかけていく。
「ちょっ、ちょっと待ってよ!」
「あわわわわ。」
2人は慌てふためきながら、さっきの子を追いかけていった。
「せわしないねぇ。噴水もえらく派手だし、そういう風土なの?」
こっちの人はこういうのが趣味なのかな?わ、足元もびしょびしょだよ。
さっきの人といい噴水といい、ホウエンの人とは気が合わないかもしれない。
「いやいや、そんなことないよ。この噴水は、さっき女の子が壊したんだ。」
そう思っていると、噴水に集まるギャラリーの1人が説明してくれた。
「壊した?そんなに噴水が嫌いだったの?」
「いやいやいや、中にポケモンが閉じ込められたみたいでね。それを助けるために壊したみたいだよ?」
「あ、嫌いだから壊したわけじゃなかったんだ。」
良かった。
流石にさっきのバトルマニアみたいな血の気の多い人ばかりってわけじゃなさそうで少し安心した。
「あははは。流石にそんな人はいないよ。」
「そっか。なんか、安心したよ。さっきから、血の気が多い人と会ってばかりで。」
「それは災難だったね。・・・でも、助けたポケモンのトレーナーがデボンの社長だなんて。あのサファイアって子、お礼とかたくさん貰えるんだろうなぁ。」
「え、サファイア?」
「うん、助けた時に自己紹介してたよ。」
おぉ、ポケモンを助ける為に噴水まで壊すなんて、なかなかやるじゃん。
いい子に育ったねぇ・・・。
「まぁ、その後。社長さんを襲ったポケモンを追いかけて、その社長さんを背負って森の方に走って行ったけど。」
あ、さっきは気づかなかったけど、あの子がサファイアだったか。
・・・・・・・・・人を背負って走れるほどパワフルに育ってくれて、お姉さん嬉しいよ。
「じゃなくて、追いかけないと!!」
「ん、君も追いかけるのかい?テレビの人といい、さっきの子、大人気だね。あ、トウカの森に入るなら気をつけなよ。迷いの樹海なんて呼ばれる森だからね。」
そう言って走り出そうとした私の背中に、注意するようにと声をかける。
「ありがと。でも、多分大丈夫。グロウ!きらら!」
そのまま振り返ることなく、グロウを出すとその背中に飛び乗る。
ミスタは1戦交えた後だからね。今はグロウにお願いしよう。それに、あの速さで走れる人に私の足で追いつける気がしない。
「それじゃ、グロウ。頼んだよ!きららは、森に入ったら、サファイアの場所探せる?」
『まかせろー!』
「まかせたー!」
そう言うと、グロウは一直線にサファイアの走り去った後を追いかけていった。
ーーーーーーーー
「ダイ。これはきっと計画的な事件よ。」
「マリさん、どういうことですか?」
カメラを抱えたまま走るダイと呼ばれた青年は、隣を走るマリと呼んだ女性に疑問を投げかける。
「噴水の吸水口は切られてたし、そこにポワルンが吸い込まれていくし、その中から出てきたポケモンが社長から何かを奪っていったのよ?どう考えても偶然じゃないでしょ。」
「その姉ちゃんの言う通りったい。あの3匹、おなじしるしを入れとったと。」
「しるし?・・・いや、それよりあなた、さっきの一瞬でそれを!?」
「すごい動体視力・・・。」
3人が話しながら社長を襲ったポケモン、ハスブレロを追いかけていくと、森の中に逃げ込んでいく。
そして、それを追う3人も続いて森の中に入ると辺りは鬱蒼とした木々に囲まれる。
「ねえ、サファイアちゃん?流石にこの森の中でハスブレロを見つけるのは無理なんじゃ・・・。」
「しっ!」
森に溶け込みハスブレロを見失ったマリがサファイアにそう言うが、サファイアは口に指をあてて静かにするようにとのジェスチャーをする。そして。
「ちゃも、そこったい!」
1点を指差すと、そこに向かってアチャモがひのこを放ち、その辺りの草木を焼き尽くす。
そこから現れたのは青いバンダナをした、2人の男と1人の女の男女3人組。そして、その中の男が口を開く。
「よくわかりましたね。しぜんのちからという、自然の中に空間を作る技なのですが。」
「あたしはとーちゃんとフィールドワークをしながら、自然の中で育ったけんね、むしろこっちのがやりやすいっちゃ!コソコソと『荷物は奪った』って会話もよーくきこえとーよ!」
「しかし、驚きましたね。今といい噴水の件といい・・・。」
「ごたくば聞きたくなか!!ポケモンば使って人のもん盗るち、どぎゃんつもりね!」
青いバンダナの男の話を遮り、声を上げた時男の周りにハスブレロがいないことに気づく。
「さっきのハスブレロは・・・。」
「きゃあ!!」
「うぉお!!」
瞬間、サファイアの後ろにいた2人がハスブレロによって川の中に引きづり込まれる。
「くっ!止めるったい、ちゃも!どらら!」
サファイアの声に合わせて飛びかかる2体。その攻撃を両手で難なく受け止めるハスブレロ。
「こっちば、2体がかりなのに!?」
2体がかりでも容易く受け止められたことに驚いていると、青いバンダナをしている女が口を開く。
「おやおや、あなたのアチャモとココドラ。思った以上に疲れ傷ついているようですね。お忘れですか?先程噴水広場で戦ったこと。」
「・・・さめはだっちゃね。」
「詳しいですね、その通りです。そして、念のため。最終進化でお相手しましょう。」
そう言って女が取り出したのは水の石。それをかざすと、ハスブレロの体が輝きをはなち一回り大きくなっていく。
「さぁ、止めです。ルンパッパ!」
進化し、ハスブレロから姿を変えたルンパッパがちゃもとどらら、更にマリとダイの2人も一緒に川に沈めていく。
「ちゃも、どらら!テレビ屋さん!このままじゃ・・・。」
サファイアに焦りが積もっていく。その時だった。
「グロウ、コメットパンチ!」
森の中から飛び出してきた影がルンパッパを殴り飛ばした。
「誰っちゃ!!」
その人物は、メタグロスに乗り着物と髪をなびかせ、バンダナを巻いた3人の前に立ちはだかると、サファイアに向けて口を開いた。
「久しぶりだね、サファイア。」
「マシロさん!?」
ーーーーーーーーーー
『こっちー!』
きららに先導されて森の中を突き進むと、先の方からなにやら声がする。
段々と声の方に近づいていくと、ルンパッパに沈められていく人とポケモン。そして、そのそばで男を背負ったまま焦った様子のサファイア。
状況はよくわからないけど、あのルンパッパをなんとかしたほうが良さそうだね。
「グロウ、コメットパンチ!」
森を突き進んだ勢いのままルンパッパを殴り飛ばすと、青いバンダナの3人組が目に入る。
あの3人がルンパッパのトレーナーかな?
そのまま3人の前に立ちふさがりながら、後ろのサファイアに声をかける。
「久しぶりだね、サファイア。」
「マシロさん!?」
肩越しに振り返りながらサファイアの名前を呼ぶと、驚いたような返事を返す。
『ひーろーはおくれてやってくるもの!』
「いや、ヒーローじゃないし。また、船で変な言葉覚えてきたね、・・・っと。サファイア、挨拶は後にしようか。ほら、下の2人。登って。」
「ハァ、ハァ・・・。ありがとう。」
「ブハッ!!・・・助かりました。」
手を貸して2人を引き上げると、アチャモとココドラもグロウの上に飛び乗ってくる。
すると、3人組の女の人が口を開く。
「何者ですか?」
「それはこっちの台詞かな?あなた達こそ、こんなことしてどういうつもり?」
「答える気はない、ということですか。ルンパッパ、ハイドロポンプ!」
「グロウ、ひかりのかべ!」
ルンパッパがハイドロポンプを放つが、それをひかりのかべで受け止める。
「これ、どういう状況?」
「貴方、この状況で凄い落ち着いてるわね。」
眼の前でせめぎ合うハイドロポンプとひかりのかべを見ながら、隣の女の人が呆れるような声でつぶやいた後、質問に答えてくれた。
「あの3人のポケモンが、サファイアちゃんが背負ってる人の物を盗んでいったのよ。それを追いかけてここまできたらこの惨状。」
「え?それでその人背負ってきたの?」
「そうったい!この人の荷物、取り返さんといけんば!」
グロウに登りながら肯定するサファイア。
いや、人背負って普通に登ってこれるのすごいね。
「残念ですが、もうその荷物はここにはありませんよ。すでに他のメンバーがアジトに持ち帰ってます。」
「なら、アジトの場所を吐かせんといけんね!」
「ストップ、サファイア。」
「あぅ。」
意気込むサファイアの額を指で弾く。
「盗られた物がないなら、もうあの人達には用はないでしょ?それよりその背中の人、早く病院に連れて行ったほうがいいんじゃない?目の前の事に気を取られて、優先順位を間違っちゃダメだよ?」
「うぅ・・・。その通りっちゃね。」
「我らの顔を見たものを見逃すとでも?キバニア!サメハダー!」
さっさと病院に向かおうと思ったら、追加のハイドロポンプが2体分。
「これ程の攻撃を受けてもびくともしないなんて・・・。」
「すごかー。」
カメラを持った人とサファイアの驚く声が聞こえる。まぁ、ルギアのエアロブラストに比べたらなんてことないよ。
「でも、これじゃ身動きが取れないんじゃ・・・?」
「大丈夫。きらら、控えめでお願いね?」
『おっけー。』
「控えめ?」
隣の女の人の不思議そうな声が聞こえた瞬間、きららの放ったメテオビームがハイドロポンプをかき消し、目の前のポケモンを薙ぎ払う。
「どわっ!!」
「きゃあっ!」
「はえー。」
「今のうちに。グロウ、逃げるよ!」
『ひーろーはさっそうとさるものだよ!』
三者三様の悲鳴のようなものを聞きながら踵を返し、森の出口に向かって動き出す。
しかし、船に乗る度きららが変な言葉を覚えてくるなぁ・・・。
「マリさん、この人さっき控えめって言ってましたよね?」
「わたしもそう聞こえたわ・・・。最後の技、あれで本当に控えめなのかしら?」
「あの3人を簡単にあしらったし・・・。この人、何者なんでしょうか?」
「分からないけど、サファイアちゃんの知り合いなら安心できるわ。・・・でもこの子の顔、なんだか見覚えがあるような気がするのよね。」
「そりゃそうっちゃ。なんせ、マシロさんはジョウト、カントー地方のポケモンリーグチャンピオンったい!!」
「「え゛!?」」